【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

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「・・・・・・これ・・・だよな・・・?」

恐る恐る近づいた深緑色の尾に刺さっていたのは、一本の矢。
矢柄の部分に何か模様?文字?が掘られてる。
俺が狩猟で使う矢と同じくらいの長さだけど、こんなもんで竜が痛がる・・・?
いや、どんな動物でも体に刺さったら痛いか。
そもそもこの鎧みたいな竜の鱗に刺さるって一体どれだけ鋭利な作りなんだろう・・・

そーっと、そーっと、矢に手を伸ばした。
トントンと指先で突いても、何も起こらない。
「よしっ」と気合を入れて、矢を握った瞬間。


ピリッとした痛みと共に矢が爆発的な光を放ち、瞬く間に矢は塵となって消えていった。


え?消えた?


状況が飲み込めず、硬直する俺。
《 やっと取れた 》と安堵する竜。
そして・・・・・・


「説明してもらおう。」

「・・・えーっと・・・ですね・・・」


俺のすぐ後ろでぴたりと止んだブーツの音。
それに合わせて俺はスッと両手を上げる。
もちろん、無抵抗を伝えるため。

矢が消えたってことは、騎士に事情を説明するための証拠品、消滅。
俺、騎士に許可なく竜に接近。
無許可での竜への接近・接触はこの国では大罪にあたるんだと、爺ちゃんから聞いたことがある。

身の潔白を証明するため、仕方なく地を這うような低い声がした方を向く。これはあくまで緊急事態。
立っていたのは俺よりも頭一つ分は背の高い騎士。
ピンとハリのある生地の薄灰色の外套、肩や腕に部分的な甲冑。
着けていたゴーグルを額まで上げると、竜と同じ赤い瞳が俺のことを訝しげに見ていた。


「・・・こいつに言われた通り動いただけ・・・です。」

「竜に、言われた?」

「・・・?尾になんか刺さってるから取ってくれって言ってたじゃないですか。」

「・・・何が刺さっていたんだ?」

「えーっと、矢が刺さってて・・・このくらいの、小さいやつ・・・」

「その矢は今どこに?」

「・・・・・・消え・・・ました・・・ね・・・」

「なるほど。」


そうですよね。
そうなりますよね。
わかりますよ。
あんたからしたら俺とても怪しい奴ですよね。


仁王立ちで呆れたようにオレを見下ろす騎士と、額に汗を浮かべ両手を上げた俺。
でも矢が消えたんだから、他に説明のしようがない。

こ、こうなったら、どうにかこうにか話を逸らしてさっさとお帰りいただこう・・・!



「お、俺、竜初めて見たんですけど、こっんなに大きいんですね~~!」

「・・・・・・」

「竜が落ち着いてよかった~~、本当!」

「・・・・・・君は・・・」

「えっと、この辺り日が暮れ始めると結構寒いんで、早めにお帰りいただいた方が・・・って、ぎええええっ?!!」

「イーライ?!どうした?!」



大人しく伏せっていた竜が突然動き出し、俺は反射的に奇声をあげてしまった。
騎士も慌てた様子で、首から下げていた小さな笛を何度も吹いたけど、全くの無意味。
そんなことで大丈夫か?と要らぬ心配をしていた俺をよそに、俺の体を囲うように体の向きを変えた竜。

俺の目の前、竜の顔。
鼻息がかかる。
生暖かい、でかい、牙鋭い。

・・・って、なんかこいつ・・・めちゃくちゃ話しかけてくるんだけど・・・!


「・・・は、はあ?ジェイスって誰だよ?!」

《 ──── 》

「お前失礼なこと言う奴だな。」

《 ──── 》

「ここに?!と、泊まる?!家壊す気か?!」

《 ──── 》

「言われた通り助けてやっただろ?早くダートに帰・・・え?な、な、何ですか?」


売り言葉に買い言葉。
ある意味夢中になって竜と言い争っていたら、竜騎士に二の腕あたりを掴まれて、ハッと我にかえる。
掴んできた手の主の存在を思い出して変な汗が吹き出た。



「あー・・・えっと・・・すみません・・・でした・・・?」

「何故謝る?」

「・・・大事な?竜に、失礼な態度だったかなー・・・って。」

「なるほど。」

「この通り、田舎育ちなもので・・・、今のやりとりは見逃していただけると・・・助かるんですけど、」


ははは、と笑って誤魔化そうとしたけど、目の前の騎士、全く笑わない。
騎士は俺をしばらく見つめたあと、あの笛を吹く。
竜は仕方ねえなと言わんばかりの顔をして(実際言ってたけど)、大人しく伏せた。


「ジェイスは私だ。」

「・・・あ・・・そうでしたか・・・(何でこいつ笑ってんだ・・・?)」

「イーライが私の名を出したのだろう?何と言っていたんだ?」

「・・・?あ、ああ。え、っと・・・ジェイスより随分小さいけど、お前まだ子どもガキか、と・・・これでも成人・・・してる・・・んで・・・す・・・けど・・・」

「・・・・・・それは失礼した。代わりに謝罪する。」

「?!いえ!お、お気に、なさらず!」



微妙な表情で頭をさげた騎士。
俺そんなにガキくさい?それはそれでショック・・・・・・・いや、待て。そんなことはどうでもいい。

もう二度と会わない相手なわけだし、さっさと────・・・



「すまないが、頼みたいことがある。」

「・・・んえ?!」

「成人していると言ったな。ならば保護者に許可を取らずともいいだろう。」

「はっ、はいぃ???」

「イーライ、彼も乗っていいな?」

「はあああ?!けっ、結構で、」

《 おもしれーからいいぜ! 》

「!?てめぇ!いい加減なこと言、うわあああっ、」



凄い力で腹の辺りを抱えられ、そのまま竜の背に乗せられた。
何が何だかわからないけど、「このまま連れて行かれてなるものか!」と、俺は必死に抵抗して竜から降りようとしたわけだが。


「落ちたら死ぬぞ。」


耳元で響く、聞き慣れない声。
背中がぞくぞく震えて振り返ると、ゴーグル越しにあの赤い瞳が弧を描いていた。


「悪いようにはしない。」

「・・・・・・悪い奴が言うセリフですね。」

「君、名前は?」

「・・・・・・」

「私はジェイス。こいつはイーライだ。」

「・・・・・・・・・レヴィ。」

「良い名だ。よろしく、レヴィ。」

「・・・・・・・・・」


何一つ、よろしくないんだが。
口には出さなかったけど、顔には出ていたらしい。
「わかりやすくて助かるよ」と頭をポンポンされたあと、ジェイスという騎士が笛を吹く。

竜は速度をぐんと上げ、俺は声にならない悲鳴をあげる羽目になった。





















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