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シーンと静まり返った部屋には、僕とテオフィル様だけ。
部屋を移動する時に付いてきたアードラーさんもこの部屋の中には入れなかった。
この部屋はどうやらテオフィル様のお仕事部屋。
今僕とテオフィル様が向かい合って座っている大きめのソファの他に、山積みになった書類や本、使い込んだように見える羽ペン。

そして何と、あの僕の部屋の出窓くらい大きな額に入った僕の絵が飾られてて・・・・・・、ん?もう一回言うね?


あの、
出窓くらい、
大きな額に入った、
僕の絵。


いやぁ~~・・・ビックリ。ビックリしたけど、有言実行の男、テオフィル様。
本当にいつのまにか僕、絵にされてる。
これはお茶会の時の僕だ。少し着飾っていて、白い椅子に座ってるから。

しかも多分、テオフィル様は絵を飾っていることが当たり前になりすぎてて、僕にこの絵を見られたことに気づいていない。
・・・不謹慎だけど、そんなテオフィル様がちょっと可愛いと思ってしまった。




「・・・・・・と言うことは、わ、私が今までき、君の、ことを色々・・・言っ、ていたのが全て筒抜けだったと・・・・・・?」

「・・・は、はい。そうです・・・、ごめんなさい。特殊すぎて・・・言い出せなくて。」

「・・・いや、いい。先ほどのエイヴァ様とのやりとりを見なければ、私も半信半疑だっただろう。それにしても・・・・・・ぜ、ぜんぶ、か?」

「はい、全部です。」

「ほ、本当・・・だな?」

「はい、本当です。」



テオフィル様はついに手で顔を完全に覆ってしまった。
人間の耳なら赤みをさしていたかもしれないのに、テオフィルの耳は熊の耳だから、それが分からない。
照れているのか、困っているのか定かではないけど、耳は赤くなってるだろうな、と直感的に思った。

しばらく顔を覆っていたテオフィル様の手が少しだけ下がり、目元が見える。相変わらず口元は隠しているけど。
・・・・・・え~~~!?もう!何ですかその可愛い格好は~~!?

テオフィル様は獣人だけど、耳でも尻尾でも感情は読み取りにくい。表情からだって、同じ。いつもは本当に一定の表情で、心の中では大騒ぎって感じだった。

・・・でも、さすがに今日はあまり表情を取り繕えないらしい。
大きな手の隙間から見えた頬は赤くなっていて、目は少し動揺しているように揺れている。
・・・ダメだ、僕。どうしよう。
今すぐにでも、テオフィル様をぎゅっとしたい。抱きしめたい。
でも、ダメ。ダメダメ、ダメ・・・・・・、ん?


あ、あれ?何でダメなんだっけ?
僕はテオフィル様のことが恐れ多くも好きになってしまって、テオフィル様も僕のこと、す、す、好きでいてくださっていて。


・・・じゃあ、抱きしめても良くない?
いいよね?無礼者!って、怒られちゃうかな?でもいっか。怒られるくらいなら。



だって、好きなんだもん。




「テ、テオフィル様、も、もし怒っても、殴らないでくださいね!」

「・・・ん?」


僕はテオフィル様とテーブルを挟んで、向かい合わせに座ってたから、ぐるりと回り込んでテオフィル様の座るソファ側に急いで移動する。
テオフィル様は相変わらず顔を半分隠していて、僕の突然の行動についてきてなかったみたいだけど、そんなのお構いなし。


大きな体を小さく丸めて座るテオフィル様を横からぎゅーーーーーーっと、抱きしめた。
その瞬間、いつもアードラーさんの悪意のない【背後ドッキリ】をされた時の僕みたいに、テオフィル様の体が跳ねた。よっぽど、ビックリしたんだと思う。耳までぴくぴくしてた。

テオフィル様の体はやっぱり筋肉質で、髪はサラサラで、甘くて、どこか柑橘のような爽やかでいい香りがする。
獣人の人は人間より体温が高いらしい。


でもきっと、今のテオフィル様の体温はいつも以上に高いんだと思う。僕だってそうだし、そうあって欲しい、とも思う。




「・・・・・・は?」
「このまま聞いてください、テオフィル様。」

「な、にを、」

「ぼ、僕は、家族がいません。そもそも平民で貧乏だし、自慢できる特技もありません。・・・あ、守護霊と少し話ができるように最近なりました!で、でもだからと言って、テオフィル様の番だって言われても、心のどこかでは、こんな綺麗でかっこいいヒトが、僕なんかを好きになるはずがないって本当に思ってました。」

「・・・・・・・・・」

「でも、エイヴァのおかげでテオフィル様の心の声が聞こえるようになって、僕のことを本当に、す、す、好き、だっ、て、言ってくださってるのが分かって・・・・・・僕、な、慣れてないから、恥ずかしかった、けど、う、嬉しくて・・・、」

「・・・・・・泣かないでくれ。」

「泣、いてま、せん゛っ!ぼ、僕は、いつのまにかテオフィル様の・・・こと、す、きになってしまってて・・・、で、でも、ぼ、僕が、好きになっても、いいのかなっ、てぇ・・・っ、」

「・・・ルカ、私のルカ。泣かないで。お願いだから、泣かないで・・・」

「ええ・・・?この、タ、イミングで名前呼ぶのぉ・・・?涙、と、まんなくなっ・・・っ、ご、めんなさい・・・っ、好きになっちゃ、った・・・、テオ、フィル様、ご、めん、なさっ、ひゃううっ?!」


今日の僕は、泣く日らしい。
自分の気持ちを言葉にしたら、不安とか好きって気持ちとかが次から次に溢れてきて、涙がどんどん出てきてしまった。

でもその涙が、一瞬で引っ込んだ。
なぜかって?


「ててててて、テオフィル様!?うひゃっ、あはははっ、なめ、舐めないで!くすぐったっ、あは、ひゃ、あははっ、」


テオフィル様が僕の涙、舐め始めるんだもん。くすぐったいし、何よりびっくりするし、そりゃ涙も引っ込むよね。

一通り舐められたあと、テオフィル様は僕をひょいっと軽々抱え、膝の上に乗せた。
すぐ至近距離にテオフィル様の優しい顔があって、僕は一気に顔が赤くなる。
抱きしめ始めたのは僕だけど、これは、この甘い雰囲気は、僕には出せない、真似できない。


「みっともない姿を見せてすまなかった、ルカ。私の気持ちを全て知っても尚、ルカは近くに居てくれていたというのに。」

「へっ?!い、いえ、それは、そのっ、」

「己の羞恥心と戦っている場合ではなかった。これからはルカに包み隠さず伝えればいいだけの話だ。」

「・・・え゛っ!?」

「私だけの、愛しいルカ。決して二度と、自分の気持ちを謝らないで。私は心から嬉しいのだから。・・・もう一度、私にルカの気持ちを教えてくれないか?」

「なっ、え、もうい、ええっ?!」

「・・・・・・ダメか?」

「いえ!!!ダメじゃないです!ぼ、僕は、テ、オフィル様が、だ、大好きです!」

「・・・・・・もう一回。」

「・・・えええ?!だ、だから、大好きな、んです!テオフィル様が!」

「・・・嬉しい・・・・・・っ、ルカ・・・・・・」

「えええええ~~~っ、もう、テオフィル様可愛すぎるんですけど・・・っ、」


きゅうっと苦しそうに眉間に皺を寄せて、必死に泣くのを我慢して笑うテオフィル様が僕の首にしがみつくみたいに抱きついてきて、僕はそんなテオフィル様のこと可愛くて、大好きで・・・・・・やっぱり、可愛くて、堪らなかった。




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