上 下
2 / 40

第1話

しおりを挟む
「今でも鮮明に思い出せる……あの時の記憶」

 七年。
 十歳だったあの頃から成長し、僕は現在十七歳になった。
 竜から逃げ出し、近くの街に行ったはいいが、親無し家なしの子供が普通に過ごしていけるわけもなく、ずっとスラムで生活してきた。

 ボロ小屋で寝起きし、ゴミ箱を漁って生活する日々。
 当然水道なんて使えるわけもなく、雨水を貯めてそれを使っていた。
 下水道の掃除やゴミ拾いなど、誰もやりたがらないような仕事はスラムの人間に回され、僕はそれを受けて少しづつ金を貯めながら七年間過ごしてきた。
 スラムで暮らす人々の中には、スリなど犯罪行為をして、金を稼いでいる人もいたが、僕は正規の方法で金を稼いだ。
『自分がされて嫌なことは人にはするな』僕は両親にそう教わったから。

 強くなると誓ってから、毎日欠かさず鍛錬を繰り返し、独学ではあるものの武器の使い方や戦い方なども勉強した。
 生憎僕は魔力が少なく、魔法を使うことが出来なかったため、使える武器のレパートリーを増やすことでそれを補うことしか出来なかった。
 泥水を啜ってでも、絶対に強くなる。
 僕がここまで来れたのはひとえに“復讐”の為だ。

 予定していた金額を貯め終えた僕は、全てが始まった場所、竜によって滅ぼされた、元村に戻ってきていた。
 あの時は生きるのに必死で、みんなを弔ってやることが出来なかった。
 せめて墓くらい建ててやりたいと思い、僕はそのための金を稼ぎ、こうして村に戻って来たのだ。

「変わってないな……」

 焼けて固くなった地面も、燃えていた木々も、あの頃からほとんど変わらない状態だった。
 変わったところと言ったら火が消えているのと、死体は骨しか残っていないところだ。
 肉は野生の動物に食われたか、それとも土に還ったか。
 7年も経ってしまったから骨すら残っていない可能性も考えていたから、骨が残っていただけよかったのかもしれない。

 僕は持ってきたスコップで比較的柔らかい場所に大きめの穴を掘ると、そこらじゅうに散らばっている骨を集め始めた。
 両手いっぱいになったら穴へ戻り、入れる。
 これを繰り返し、次々と骨を穴の中へ集めていった。

 そして、最後の二人分。
 あえて最後にした二人。

「父さん、母さん。遅くなってごめんね」

 僕は骨になっても抱き合ったままの二人に手を合わせ、そう謝罪してからゆっくりと丁寧に拾い集めた。
 そのまま両親の骨を持って穴に戻る。

 僕は崩さないように優しく骨を穴に入れ、上から土を被せ始める。
 そうして土を被せ終わった後に、貯めた金で買った花を供え、もう一度手を合わせ目をつぶった。

「……長かった。突然村が滅んで、どうすることも出来なかった。僕が不甲斐ないばかりにみんなをこんなにも長い間待たせてしまった」

 僕はそう言いながら昔のことを思い出す。
 数少ない子供だったからか、自分にとても良くしてくれた村の人達。
 いつも周りのことを考え、助けてくれた村長。
 強く、大きな背中が憧れでいつか追いつきたいと思っていた父さん。
 いつでも僕のことを考えてくれて、大切に育ててくれた母さん。
 みんなのことを思い出すと、涙が止まらなくなった。

「みんなには返しきれない程の恩があるのに、返す機会さえも無くなってしまった」

 僕は良くしてもらうばかりで、少しでも何か返せていただろうか……?
 僕は幸せな日常が当たり前で、いつまでも続くと思っていた。

「何一つ、恩を返すことが出来なかったけど、せめて……安らかに眠って欲しい。今の僕にはこれしか出来ない」

 またみんなに会いたい。
 村長や他の皆と楽しく話がしたい。
 父さんと母さんに抱きしめてもらいたい。
 ……だけどそれはもう叶わない。

「僕は、この村の人達のことを忘れない。忘れられない限り、みんなは僕の心の中で生き続けると思ってるから。」

 だから——

「だから、さよならだ」

 僕がそう言うと同時に、暖かな風が頬を撫でた。

『——ごめんね。1人にさせて。寂しい思いをさせて。守ってあげられなくて』

 ……かあ、さん?

『それでも生きていてくれて……本当に良かった。時には辛い時があったと思う。その時に支えてあげられなくてごめんね。成長していくあなたを近くで見られなかったのは残念だけど、それでも遠くから見てるわ。私も、お父さんもね』

 謝らないでくれ……
 僕は何も出来ていないんだ。
 僕だって母さんや父さんと一緒に過ごしていたかった!
 だけど、もうそれは無理で……どうすることも出来なくて。

『私やお父さんだけじゃない。村のみんながあなたのことを見守っているわ。あなたはもう散々悲しい目にあってきた。だからこれからは幸せになって欲しいの。復讐をすることで、あなたが幸せになれるとは思えない。もっと先のことも考えて欲しい。それが私たちの最後のお願い』

 幸せ?
 僕は幸せになってもいいのかな?
 僕以外のみんなが死んでしまった。
 これから先にやりたいことがあった人もいたと思う。
 その人たちを差し置いて、僕だけが幸せになってもいいのかな……?

『あなたが幸せになる事が、私たちの幸せなのよ』

 そっか……
 復讐の先のことね。
 少し考えてみるよ。

『……最後にルイス。私たちはあなたのことを誰よりも愛しているわ』

 ——ッ!

「僕も! みんなの事が大好きだよ!」

『——ありがとう』

 最後に母さんが笑ったような気がした。
 そして、それを最後にもう声が聞こえることは無かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

私はいけにえ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」  ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。  私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。 ****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

処理中です...