呉れ呉れ

灰寂

文字の大きさ
上 下
11 / 14

11

しおりを挟む
「じゃあ、俺もうちょっとサボってくるから。お大事に~」


部屋に着くと、クーガはそう言ってどこかへ行ってしまった。
自らサボると明言するなんて呆れを通り越してもはや清々しい。
サボったことなんて二、三回ほどしかないなと思いながら後ろ姿を見送った。
言われた通り休もうと部屋に入る。

ベッドに腰をかけると、急に緊張が解けたように脱力感と気だるさが僕を襲った。
それにひどい眠気も。薬が効いてきたのかな、と思いながらベッドに倒れこんだ。
せめてドアくらい閉めないと・・・。
鉛のようなまぶたに抗ったが、負けてしまった。



タンタンタン。軽めの足音が廊下に響く。途中でリズミカルな音が停止した。そっとドアを開く手。


「え・・・妖精・・・?」


目線の先にはレイがいた。
寝ているレイに男は戸惑っているようだ。
普通はドアを開けて無防備に寝るなんてことはしないので、当然の反応である。
男は中へ入るか迷っていた。しかし躊躇いを振り切って、部屋の中へ入りドアを閉めた。
鍵はかけなかった。無断入室であるが、とにかく彼が起きるまでは部屋に居座ろうと決めたのだ。
だが、じっとしているとお日様が魔法をかけにやってくる。
男は眠気に誘われてうとうとと船をこぎ始めた。ついにはドアに寄りかかって完全に眠ってしまった。



ふっと意識が浮上する。のろのろと自分の額に手を当てて、熱を測る動作をする。
手があったかいのか頭があったかいのかわからなかった。そのまま首に手を当てると、首はひどく熱かった。
一応もらった薬を飲むか、とテーブルに目を向ける。
目の端に映った違和感にすべてが停止する。んーと?


 とりあえずベッドから起き上がり、ドアの前で眠りこけている男のところまで近づいた。
どうして僕の部屋に知らない人がいるんだ?このままにしておくか、揺すって起こすかを考えながら眺めた。
見られていることに本能が気づいたのか、男は唸りながら身じろぎをした。
起こすのも面倒臭いなと思い直して、僕は薬を飲むことにした。
熱がある気がするってだけで薬に頼るのはどうかと思うけど。


コップに水を入れて薬を飲もうとしてやめた。何か食べないといけないんだった。
でも部屋に大したものはなかったような。
ガサゴソと食べ物を探していると、後ろから眠そうな声が聞こえた。


「・・・起きたのぉ?」


バッと振り返ると、ドアの前で伸びをしている男がいた。


「起きたの?ってこっちの台詞なんだけど・・・。」


つい皮肉っぽくなってしまったのは仕方がないと思う。
男はふぁ~っと欠伸をしながら、んーっと伸びをして立ち上がった。


「そっかぁ、俺も寝てたのかぁ・・・。」


まだ眠そうである。
男は立ち上がってそのまま水の入ったコップを一気飲みした。どうやら目が覚めたようで謝られた。


「あ、ごめん。勝手に飲んじゃった。」


謝るとこはそこなのだろうか。
僕が無言でいると、彼はコップに水を入れてテーブルの上に戻した。
わざわざ戻さなくていいんだが。
それさえ言うのも億劫で置かれたコップを取り、水を飲みほした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

10のベッドシーン【R18】

日下奈緒
恋愛
男女の数だけベッドシーンがある。 この短編集は、ベッドシーンだけ切り取ったラブストーリーです。

魔法少女マヂカ

武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
マヂカは先の大戦で死力を尽くして戦ったが、破れて七十数年の休眠に入った。 やっと蘇って都立日暮里高校の二年B組に潜り込むマヂカ。今度は普通の人生を願ってやまない。 本人たちは普通と思っている、ちょっと変わった人々に関わっては事件に巻き込まれ、やがてマヂカは抜き差しならない戦いに巻き込まれていく。 マヂカの戦いは人類の未来をも変える……かもしれない。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

TSしちゃった!

恋愛
朝起きたら突然銀髪美少女になってしまった高校生、宇佐美一輝。 性転換に悩みながら苦しみどういう選択をしていくのか。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

処理中です...