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第18章 発展のアルトラルサンズとその影編
第525話 各所への応援要請
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各所へ応援要請する前に一旦帰宅。
「カイベル、今一体何人の強盗団が町に潜伏してるの?」
「現時点で、百三十六人です」
「百人越え!? いつの間にそんな規模に……」
エールデさんに聞いてた数の四倍以上じゃないか……
カイベルも最初は六人って言ってたのに……
「エールデ様が仰っていたように、道中でスカウトした者がほとんどのようです。仮にゼロ距離ドアが五百億で売れると仮定した場合、単純計算でも三億六千七百六十四万七千五十八エレノルにもなりますし、それを餌に甘言を弄して捨て石を沢山スカウトしたようです。場合によっては決行前にもっと増える可能性もあります」
「えぇ……嘘でしょ……?」
現時点ですら一人当たり三億六千万か……
ちょい役として加担しただけでも億稼げるならやりたいと思う者はそれないに居るかもな……
聞いた限りには割りのいい闇バイトだ。
もっとも……強盗団の幹部連中以外のほとんどは、捜査官が入ってることを伝えられておらず、捨て石にされての牢屋への直行便なんだろうが……
まあ敵が四倍居ようが、十倍居ようが、レッドドラゴン三人の前には敵じゃないでしょ。
◆
と言うことでフレアハルトにお願いに来た。
「…………というわけなんだけど、強盗団の逮捕に協力してもらえると助かる」
「仕方ないな……アルトレリア内で起こす狼藉を見過ごすわけにはいかないからな」
「じゃあ、作戦でこの腕輪を使うから着けてくれる?」
と、フレアハルトに腕輪を渡す。
その瞬間、フリアマギアさんがエールデさんに変身して最初にナニをやっていたか、それが脳裏をよぎった。
フレアハルトには大きな信頼感を置いているが、この男は大分恥の概念が薄い。自分の身体が変化したら同じことをやらないとも限らないと思ってしまった。
「あ、いや、ごめん、やっぱり返して。アリサかレイアのどっちかにやってもらいたいと思う」
異性は避けておくのが無難だろう。
彼女らでも十二分に殲滅力があるし。
「なぜ我ではダメなのだ?」
「あ、ああ……ちょっと……今回は女性の方が都合が良いから……」
「お主は度々男が女がと気にするな」
だって付いてるものが違うからね……
それに……フリアマギアさんのエールデさんに対するアレを思い出してしまったからにはフレアハルトにお願いする気にはなれないよ……
「そういうわけで多少危険な任務ではあるけど…………いや、あなたたちにはもしかしたら簡単な任務かもしれないね。まあ、二人のどちらかにお願いしたい。悪いけどフレアハルトは今回サポートをお願い」
「仕方ないな」
「それで、何なんですかその腕輪?」
「これは簡単に説明すると他人に変身できる腕輪。中に何を入れるかによって誰になれるかが変わる。今は私の髪の毛が入ってて、私に変身するようになってる」
「アルトラ様に変身するのですか? 何のために?」
会議での詳細な経緯を三人に説明。
それを聞いてアリサとレイアが同時に何かに気付いた。
「「あ! ああ~」」
「なるほどぉ~、だからフレハル様じゃダメなんですね」
「何に納得したか分からんのだが……?」
「フレハル様は知らなくて良いですよ」
「…………何なのだ……」
「それでアルトラ様に化けて相手を騙すんですか? じゃあ私よりアリサの方が適役ですね。お淑やかですし」
「アリサはともかく、アルトラがお淑やかぁ~? 全然違うだろ?」
殴ってやろうかしらフレアハルト……
あ、こういう思考回路のところが、ガサツに見えるのか。
「どちらかと言えば私よりアリサ寄りの性格ですよ。意見出す時だって『私が私が!』って前に出て行く性格じゃないですし。誰か意見を述べてる時は真面目な顔で黙って傾聴してますよ?」
レイア、めっちゃ褒めてくれるわ。私の生きざまをちゃんと見てくれてるようでちょっと嬉しい。
「何ぃ~? そうなのか? 全然気付かんかった」
「ちなみにフレハル様は、誰かしゃべってる時は大抵上の空でどこか別の方向見てます。で、後で私かアリサに『どういう話だったのだ? 要点を頼む』と聞いてきます」
「お、おぉ……た、確かに……そんな傾向があるような無いような……」
風の国で会議のメンバーから外そうとしたことは戒めにならなかったか……あの時はちょっと真面目に話を聞けるようになったかと思ったのだけど…… (第447話参照)
それにしてもレイアって、周囲の人物をよく見てるのね。
「まあ、説明した通りだから協力してもらえると助かるんだけど……」
私としては作戦にバッチリ組み込んでしまっているから、断られた場合は代替を探すのに困るし。
「分かりました。わたくしでお役に立てるなら」
「ありがとうアリサ!」
「それで、腕輪使ってみてよろしいでしょうか?」
「あ、そうだね! 慣らしておいた方が良いし」
腕輪を手渡し、使い方を教えた。
そして使用。アリサが私の姿に変身した。
「「おぉっ!?」」
「姿が……! こんなにもアルトラなのか!?」
「並ぶとどっちが本物か分からないですね!」
「身長はどこへ行ってしまったのだ……?」
「さ、さあ? そういう魔道具だから」
「何で分からんのだ、お主が作ったのだろう?」
「しー! 今はそうじゃないから!」
「ああ、今は“発掘された”ことになってるんだったな」
どこに耳があるか分からないから、私が作ったのを知っているトロル村のみんなやフレアハルトには、こういった魔道具はゼロ距離ドア同様に『古代遺跡で発掘された』ことにするよう言ってある。 (第379話参照)
「変異魔法は私にも仕組みが良く分からないから……」
「レイア、動きの確認のために少々組手をお願いします」
「OK!」
二人で組手を始めたが、すぐに『アリサ≠アルトラ』の動きが止まった。
「どうかした?」
「いつもの間合いで手が届きません」
「そりゃ身長が私と同じだからね」
アリサの身長は百六十センチ後半くらいだったはず。対して私は百四十二センチ。二十五センチほどの身長差がある。
確か……人間の長さを表すものとして、『両腕を目いっぱい横に広げたもの』と『身長』がほぼ同じくらい、『肩幅は身長の四分の一くらい』と聞いたことがある。つまり身長から肩幅を引けば腕の長さになる。
アリサの身長を百六十八センチと仮定すると腕の長さは六十三センチ程度。私は五十三センチ程度になるからその差十センチ。
そりゃ普段と同じ動きじゃ届かないわ。
「レイア相手でも、頭を掴まれると足も届かないですね……」
アリサ……きっと天然で言ったのだろうが、ちょっとディスられた気分だ……
「これは慣れるまで少しかかりますね。固有の能力の方はどうなのでしょうか?」
「見た目以外は変化しないことを確認してる」
「と言うことは、スゥーーー」
と深呼吸したと思ったら直後に、
ゴオオォォォ!!
と炎を吐き出した。
「うおっ!?」
「アルトラが火を吹いてるのを見るのは新鮮だな!」
「火を吹いたのは本物の私じゃないけど……」
まあ私も火ぐらい吹けるけどね。首が三つになるからやらんけど…… (第3話参照)
「自身の能力はちゃんと使えるようですね。とは言え、少し身体を慣らすのが必要なようです」
「分かった。じゃあ変身するためには私の身体の一部が必要だから、髪の毛を少し置いてくわ」
毛束を切り、アリサに渡す。
よし、次は警察関係だ。
◆
国内唯一の警察署に来た。
ちなみに、広さの関係上、第一壁の内側には作れなかったため第一壁の外側に建っている。
運動場ではウィンダルシアが警察官たちをしごいているのが見えた。彼には指導教官をお願いしている。
「ウィンダルシア!」
「アルトラ殿! いかがいたしましたか?」
「訓練の方はどう?」
「大分体力が付いてきましたが、まだまだですね。もう少し強化されると良いのですが……」
現状ダメとは言われても、町で起こる犯罪だし出動してもらわないわけにはいかない。
これまでの経緯をウィンダルシアにも説明。
「強盗団と来ましたか……ここは正式な国家への格上げがあったことですし、いつかはこういう事態があるだろうと想定していましたが……随分早かったですね」
私もそう思ってるよ……!
まさかこんなに早く悪人の団体さんに目を付けられるとは……
「強盗団の捕縛のために、三対あるドアのうち一対を任されてるので警察官を派遣してくれということですね?」
「まあ、平たく言えばそんな感じ」
「分かりました。こういうことは私の一存で動かすわけにはいかないので、署長にも話を通しておきましょう」
署長と言われたのは、門衛をしていたマーク。
トロルの中で恐らく一番武力がある思われる。カイベルにも相談して私が彼に白羽の矢を立てた。
二十代前半という、大分若すぎる署長ではあるものの、まあそういう役職染みたものもこの村には無かったし仕方ないだろう。
門衛は現在、別の者が就いている。
「エイス! ちょっとこっちへ」
「はい? どうかしましたかウィンダルシア教官?」
ウィンダルシアが耐久ランニングしていたエイスという訓練生を呼び止めた。
呼び止めたのは一人のトロル族の青年。どうやら訓練生の中のまとめ役みたいだ。
「私は所用で少し席を外す。帰って来るまでここを頼みたい」
「分かりました」
「ではアルトラ殿、署長のところへ行きましょう」
◆
署長室――
経緯を説明。
「――というわけでマーク、警察官の出動をお願い」
「ウィ、ウィンダルシア殿にお任せしますよ」
私の要請にそう返事をしてきたマークは、どこか弱気。
確かに樹の国精鋭部隊員である巨鳥エイビス族のウィンダルシアと、アルトレリアのいち門衛のマークでは武力差は比べるべくもない。委縮するのも分からなくはないが、それにしても卑屈。
一応この町の門を守って来たのだからピシッしてもらいたいところだが……
「マーク署長!」
ウィンダルシアが突然の大声。
「は、はい!」
「しっかりしてください! あなたがそんな弱気な態度では部下たちの示しになりません!」
「う……しかし、ウィンダルシア殿の方が武力も経験も上ですし……私がどうのこうの言うのも……」
「私は客員教官とは言え、今はあなたの部下なのですから呼び捨てでお願いします」
「し、しかし……年齢が数倍も上の方を呼び捨ては……」
「しかしもカカシも無いです! いくら年齢的に上でも、武力的に優れていようとも、あなたは私の上司ですので呼び捨てでお願いします」
出たな、ウィンダルシア節の説教タイム。私もこの間これをされたんだっけな……ここから私は彼を『さん』付けしなくなったんだ。 (第451話)
ただ、言ってることの筋は通ってると思う。
「上がきちんとしてないと、下にもそれが波及します。あなたが弱気のままでは、アルトレリア警察は強くはなっていきません」
そして自分より年齢も経験も下なのにもかかわらず、相手の面目を立てよう、育てようとするこの度量。
私個人の意見だが、素晴らしい考え方だと思う。
「あなたはアルトラ殿に認められて署長を任されたのですから、それ相応の振る舞いをしなければなりません! 署長を任されてまだまだ浅いと思いますが、徐々にでも威厳と風格を身に着けるよう努力をお願いします」
「………………」
相手に頭が上がらないってのは、私にもよく分かる……
どうやったって自分より優秀な人には敵わないし、臨時とは言えそれが自分の部下となると……
しかも、マークには組織の上に立った経験が浅い。門衛をしていてせいぜい後輩が出来た時くらいだろう。
しかし、彼は私がカイベルから聞いて、署長へ選任したのだ。間違ってるはずがない。
「じゃあ、私から一つアドバイスあげるわ。『リーダーはやることを丸投げしちゃえば良い』」
「は? どういうことですか?」
「リーダーに実力は必ずしも必要な要素ではないってこと。もちろん能力が高いに越したことは無いけど、自分に出来ないことなんて、どうやったって出来ないんだから、出来るヒトに投げてしまえば良いのよ。もちろんそのための交渉術は磨いておく必要があるし、それに対する対価を用意する必要があるけど」
これは私がアルトレリアを建国する過程で得た持論。
実際のところ、自分でやれないことは全部ヒト任せ。川作りしかり、銀行作りしかり、ダム建設しかり、全部誰かの手を借りてやった事業だ。
「で、責任だけは自分がおっ被ると。部下に責任を被せるのは一番やっちゃいけない。不都合が出たその時には、自身がそれを解決するように奔走するわけよ。その時も出来るヒトに任せるのが良い」
「な、何か……それだと自分では何もやってないように聞こえますけど……」
「実際何もやってないも同じかもね。ヒトに頼ってばかりだし。リーダーがやることと言えば『トラブルに適した人材と対価を用意すること』ってところかな。あとは自信ありげな顔でドンと構えておくこと。リーダーが常に不安を口にしてる組織なんて、部下も不安でしょうがないでしょうし」
「な、なるほど……」
「で、今のトラブルに適した人材がここに居るでしょ?」
「ここにって……ハッ!」
私の意図を察したのか、顔つきが変わった。
「で、では改めて命令を下します! ウィ、ウィンダルシア殿……」
「呼び捨てで!」
「ウィ、ディンダルシア! ご、強盗団に対する指揮をお願いします!」
「了解しました!」
◆
「これで出動の許可も下りましたね。あの激励でもう少し自信を持っていただけると良いのですが……」
「ウィンダルシア、あなたが私のところに来てくれてホントありがたいわ」
「いえ、私は『貴女の護衛するように』とのアスタロト様の命令を、変則的な捉え方ではありますが忠実にこなしているだけですので、お気になさらず」
こういうところ堅いんだよなぁ……
「…………まあ良いわ、それともう一つ仕事をお願いしたい」
「何でしょう?」
「ゼロ距離ドア近辺が騒動の中心になることが予想されるから、その付近のヒトたちの避難をお願い」
相手が特殊な能力を持っている可能性がある以上、建物とか建造物も壊されるかもしれない。避難させておかないと下手をしたら死人が出かねない。
「なるほど。避難場所はどこに?」
「最近新設された小学校を避難場所にして。あそこならゼロ距離ドアからは少し離れてるから安全だと思う。一般の家と比べると造りもしっかりしてるしね。何とか説得してそちらに避難させるようにお願い。それと私たちの部隊の潜伏場所として利用する旨を伝えて許可を取って」
潜伏させておき、最初はゼロ距離ドア付近に誰も居ないと油断させておいて、周囲に網を張って一網打尽にする作戦。
私の担当のゼロ距離ドアは町中のど真ん中だから建物を貸してもらえないとこの作戦が成り立たない。
「分かりました。ではそれを伝えるために運動場に戻りましょう」
◆
運動場に戻ってすぐに――
「全員集合!」
――ウィンダルシアの号令。
訓練を受けていた警察官たちが、疲れのある顔で集まって来た。
だが、日々の成果が出ているのか、まだまだ気力は十分という感じ。
「大分早いが今日の訓練はこれにて終了とする!」
「何かあったんですか?」
と、先ほどのエイスが訊ねた。
「ああ、この国の至宝であるゼロ距離ドアが強盗団に狙われている。それで――」
――と、ウィンダルシアが訓練生たちに簡潔に訓練終了の経緯と強盗団について説明した。
“至宝”って……私はそんなことをウィンダルシアに言ったことは無いのだが……私以外から客観的に見れば、そう見えるのか……何せ、闇オークションでの予想売却額も数百億だし……
「つまり我々も強盗団の逮捕に参戦せよと言うことですか?」
それを聞いて訓練生の一人が質問で返す。
「そうだ! この町を守るため諸君らにも作戦に参加してもらう! 今日より強盗団の逮捕まではコンディション調整程度の簡単な訓練に終始させる。ヤツらがいつ強奪決行に動くか分からん。みんな、有事に向けて疲れを残すことないようにしっかり休息を取ってくれ!」
「その作戦前に住民の避難をさせるわけですね?」
「そうだ! よろしく頼むぞ!」
「「「了解!!」」」
「これで良いでしょう。強盗団の動向については、誰かに見張らせていたりするのですか?」
「樹の国のエールデさんの部下が見張ってるらしいけど」
「彼ですか。彼の指揮なら任せておいて問題無いでしょう。真面目な男ですので」
隣の国だからなのか、度々連携して顔を合わせるのかもしれないな。長命な種族も多いし、見知った顔ばかりなのかもしれない。
「では、動きがあった場合の連絡をよろしくお願いします」
「うん、分かったよ。こちらこそよろしくお願いね」
応援と避難、強盗団捕縛のための潜伏場所の確保はこれで良し!
強盗団の中には魔力感知できるヤツも多分居るだろうけど、ほとんどがトロル族で構成されている警察官の中に飛び抜けて魔力の高い者は居ない。多分近隣住民のものとして誤魔化せると思う。
あとは……クリューにも要請しておくか?
………………いや、現時点でも多分過剰戦力だろう。ドラゴン三人にエイビスまでいるわけだし。ジャイアントアントの特殊個体クラスが複数居るとは思えないし、クリューには要請しなくても良いか。
一応準備は整った。あとはエールデさんたちからの連絡を待つだけだ。
「カイベル、今一体何人の強盗団が町に潜伏してるの?」
「現時点で、百三十六人です」
「百人越え!? いつの間にそんな規模に……」
エールデさんに聞いてた数の四倍以上じゃないか……
カイベルも最初は六人って言ってたのに……
「エールデ様が仰っていたように、道中でスカウトした者がほとんどのようです。仮にゼロ距離ドアが五百億で売れると仮定した場合、単純計算でも三億六千七百六十四万七千五十八エレノルにもなりますし、それを餌に甘言を弄して捨て石を沢山スカウトしたようです。場合によっては決行前にもっと増える可能性もあります」
「えぇ……嘘でしょ……?」
現時点ですら一人当たり三億六千万か……
ちょい役として加担しただけでも億稼げるならやりたいと思う者はそれないに居るかもな……
聞いた限りには割りのいい闇バイトだ。
もっとも……強盗団の幹部連中以外のほとんどは、捜査官が入ってることを伝えられておらず、捨て石にされての牢屋への直行便なんだろうが……
まあ敵が四倍居ようが、十倍居ようが、レッドドラゴン三人の前には敵じゃないでしょ。
◆
と言うことでフレアハルトにお願いに来た。
「…………というわけなんだけど、強盗団の逮捕に協力してもらえると助かる」
「仕方ないな……アルトレリア内で起こす狼藉を見過ごすわけにはいかないからな」
「じゃあ、作戦でこの腕輪を使うから着けてくれる?」
と、フレアハルトに腕輪を渡す。
その瞬間、フリアマギアさんがエールデさんに変身して最初にナニをやっていたか、それが脳裏をよぎった。
フレアハルトには大きな信頼感を置いているが、この男は大分恥の概念が薄い。自分の身体が変化したら同じことをやらないとも限らないと思ってしまった。
「あ、いや、ごめん、やっぱり返して。アリサかレイアのどっちかにやってもらいたいと思う」
異性は避けておくのが無難だろう。
彼女らでも十二分に殲滅力があるし。
「なぜ我ではダメなのだ?」
「あ、ああ……ちょっと……今回は女性の方が都合が良いから……」
「お主は度々男が女がと気にするな」
だって付いてるものが違うからね……
それに……フリアマギアさんのエールデさんに対するアレを思い出してしまったからにはフレアハルトにお願いする気にはなれないよ……
「そういうわけで多少危険な任務ではあるけど…………いや、あなたたちにはもしかしたら簡単な任務かもしれないね。まあ、二人のどちらかにお願いしたい。悪いけどフレアハルトは今回サポートをお願い」
「仕方ないな」
「それで、何なんですかその腕輪?」
「これは簡単に説明すると他人に変身できる腕輪。中に何を入れるかによって誰になれるかが変わる。今は私の髪の毛が入ってて、私に変身するようになってる」
「アルトラ様に変身するのですか? 何のために?」
会議での詳細な経緯を三人に説明。
それを聞いてアリサとレイアが同時に何かに気付いた。
「「あ! ああ~」」
「なるほどぉ~、だからフレハル様じゃダメなんですね」
「何に納得したか分からんのだが……?」
「フレハル様は知らなくて良いですよ」
「…………何なのだ……」
「それでアルトラ様に化けて相手を騙すんですか? じゃあ私よりアリサの方が適役ですね。お淑やかですし」
「アリサはともかく、アルトラがお淑やかぁ~? 全然違うだろ?」
殴ってやろうかしらフレアハルト……
あ、こういう思考回路のところが、ガサツに見えるのか。
「どちらかと言えば私よりアリサ寄りの性格ですよ。意見出す時だって『私が私が!』って前に出て行く性格じゃないですし。誰か意見を述べてる時は真面目な顔で黙って傾聴してますよ?」
レイア、めっちゃ褒めてくれるわ。私の生きざまをちゃんと見てくれてるようでちょっと嬉しい。
「何ぃ~? そうなのか? 全然気付かんかった」
「ちなみにフレハル様は、誰かしゃべってる時は大抵上の空でどこか別の方向見てます。で、後で私かアリサに『どういう話だったのだ? 要点を頼む』と聞いてきます」
「お、おぉ……た、確かに……そんな傾向があるような無いような……」
風の国で会議のメンバーから外そうとしたことは戒めにならなかったか……あの時はちょっと真面目に話を聞けるようになったかと思ったのだけど…… (第447話参照)
それにしてもレイアって、周囲の人物をよく見てるのね。
「まあ、説明した通りだから協力してもらえると助かるんだけど……」
私としては作戦にバッチリ組み込んでしまっているから、断られた場合は代替を探すのに困るし。
「分かりました。わたくしでお役に立てるなら」
「ありがとうアリサ!」
「それで、腕輪使ってみてよろしいでしょうか?」
「あ、そうだね! 慣らしておいた方が良いし」
腕輪を手渡し、使い方を教えた。
そして使用。アリサが私の姿に変身した。
「「おぉっ!?」」
「姿が……! こんなにもアルトラなのか!?」
「並ぶとどっちが本物か分からないですね!」
「身長はどこへ行ってしまったのだ……?」
「さ、さあ? そういう魔道具だから」
「何で分からんのだ、お主が作ったのだろう?」
「しー! 今はそうじゃないから!」
「ああ、今は“発掘された”ことになってるんだったな」
どこに耳があるか分からないから、私が作ったのを知っているトロル村のみんなやフレアハルトには、こういった魔道具はゼロ距離ドア同様に『古代遺跡で発掘された』ことにするよう言ってある。 (第379話参照)
「変異魔法は私にも仕組みが良く分からないから……」
「レイア、動きの確認のために少々組手をお願いします」
「OK!」
二人で組手を始めたが、すぐに『アリサ≠アルトラ』の動きが止まった。
「どうかした?」
「いつもの間合いで手が届きません」
「そりゃ身長が私と同じだからね」
アリサの身長は百六十センチ後半くらいだったはず。対して私は百四十二センチ。二十五センチほどの身長差がある。
確か……人間の長さを表すものとして、『両腕を目いっぱい横に広げたもの』と『身長』がほぼ同じくらい、『肩幅は身長の四分の一くらい』と聞いたことがある。つまり身長から肩幅を引けば腕の長さになる。
アリサの身長を百六十八センチと仮定すると腕の長さは六十三センチ程度。私は五十三センチ程度になるからその差十センチ。
そりゃ普段と同じ動きじゃ届かないわ。
「レイア相手でも、頭を掴まれると足も届かないですね……」
アリサ……きっと天然で言ったのだろうが、ちょっとディスられた気分だ……
「これは慣れるまで少しかかりますね。固有の能力の方はどうなのでしょうか?」
「見た目以外は変化しないことを確認してる」
「と言うことは、スゥーーー」
と深呼吸したと思ったら直後に、
ゴオオォォォ!!
と炎を吐き出した。
「うおっ!?」
「アルトラが火を吹いてるのを見るのは新鮮だな!」
「火を吹いたのは本物の私じゃないけど……」
まあ私も火ぐらい吹けるけどね。首が三つになるからやらんけど…… (第3話参照)
「自身の能力はちゃんと使えるようですね。とは言え、少し身体を慣らすのが必要なようです」
「分かった。じゃあ変身するためには私の身体の一部が必要だから、髪の毛を少し置いてくわ」
毛束を切り、アリサに渡す。
よし、次は警察関係だ。
◆
国内唯一の警察署に来た。
ちなみに、広さの関係上、第一壁の内側には作れなかったため第一壁の外側に建っている。
運動場ではウィンダルシアが警察官たちをしごいているのが見えた。彼には指導教官をお願いしている。
「ウィンダルシア!」
「アルトラ殿! いかがいたしましたか?」
「訓練の方はどう?」
「大分体力が付いてきましたが、まだまだですね。もう少し強化されると良いのですが……」
現状ダメとは言われても、町で起こる犯罪だし出動してもらわないわけにはいかない。
これまでの経緯をウィンダルシアにも説明。
「強盗団と来ましたか……ここは正式な国家への格上げがあったことですし、いつかはこういう事態があるだろうと想定していましたが……随分早かったですね」
私もそう思ってるよ……!
まさかこんなに早く悪人の団体さんに目を付けられるとは……
「強盗団の捕縛のために、三対あるドアのうち一対を任されてるので警察官を派遣してくれということですね?」
「まあ、平たく言えばそんな感じ」
「分かりました。こういうことは私の一存で動かすわけにはいかないので、署長にも話を通しておきましょう」
署長と言われたのは、門衛をしていたマーク。
トロルの中で恐らく一番武力がある思われる。カイベルにも相談して私が彼に白羽の矢を立てた。
二十代前半という、大分若すぎる署長ではあるものの、まあそういう役職染みたものもこの村には無かったし仕方ないだろう。
門衛は現在、別の者が就いている。
「エイス! ちょっとこっちへ」
「はい? どうかしましたかウィンダルシア教官?」
ウィンダルシアが耐久ランニングしていたエイスという訓練生を呼び止めた。
呼び止めたのは一人のトロル族の青年。どうやら訓練生の中のまとめ役みたいだ。
「私は所用で少し席を外す。帰って来るまでここを頼みたい」
「分かりました」
「ではアルトラ殿、署長のところへ行きましょう」
◆
署長室――
経緯を説明。
「――というわけでマーク、警察官の出動をお願い」
「ウィ、ウィンダルシア殿にお任せしますよ」
私の要請にそう返事をしてきたマークは、どこか弱気。
確かに樹の国精鋭部隊員である巨鳥エイビス族のウィンダルシアと、アルトレリアのいち門衛のマークでは武力差は比べるべくもない。委縮するのも分からなくはないが、それにしても卑屈。
一応この町の門を守って来たのだからピシッしてもらいたいところだが……
「マーク署長!」
ウィンダルシアが突然の大声。
「は、はい!」
「しっかりしてください! あなたがそんな弱気な態度では部下たちの示しになりません!」
「う……しかし、ウィンダルシア殿の方が武力も経験も上ですし……私がどうのこうの言うのも……」
「私は客員教官とは言え、今はあなたの部下なのですから呼び捨てでお願いします」
「し、しかし……年齢が数倍も上の方を呼び捨ては……」
「しかしもカカシも無いです! いくら年齢的に上でも、武力的に優れていようとも、あなたは私の上司ですので呼び捨てでお願いします」
出たな、ウィンダルシア節の説教タイム。私もこの間これをされたんだっけな……ここから私は彼を『さん』付けしなくなったんだ。 (第451話)
ただ、言ってることの筋は通ってると思う。
「上がきちんとしてないと、下にもそれが波及します。あなたが弱気のままでは、アルトレリア警察は強くはなっていきません」
そして自分より年齢も経験も下なのにもかかわらず、相手の面目を立てよう、育てようとするこの度量。
私個人の意見だが、素晴らしい考え方だと思う。
「あなたはアルトラ殿に認められて署長を任されたのですから、それ相応の振る舞いをしなければなりません! 署長を任されてまだまだ浅いと思いますが、徐々にでも威厳と風格を身に着けるよう努力をお願いします」
「………………」
相手に頭が上がらないってのは、私にもよく分かる……
どうやったって自分より優秀な人には敵わないし、臨時とは言えそれが自分の部下となると……
しかも、マークには組織の上に立った経験が浅い。門衛をしていてせいぜい後輩が出来た時くらいだろう。
しかし、彼は私がカイベルから聞いて、署長へ選任したのだ。間違ってるはずがない。
「じゃあ、私から一つアドバイスあげるわ。『リーダーはやることを丸投げしちゃえば良い』」
「は? どういうことですか?」
「リーダーに実力は必ずしも必要な要素ではないってこと。もちろん能力が高いに越したことは無いけど、自分に出来ないことなんて、どうやったって出来ないんだから、出来るヒトに投げてしまえば良いのよ。もちろんそのための交渉術は磨いておく必要があるし、それに対する対価を用意する必要があるけど」
これは私がアルトレリアを建国する過程で得た持論。
実際のところ、自分でやれないことは全部ヒト任せ。川作りしかり、銀行作りしかり、ダム建設しかり、全部誰かの手を借りてやった事業だ。
「で、責任だけは自分がおっ被ると。部下に責任を被せるのは一番やっちゃいけない。不都合が出たその時には、自身がそれを解決するように奔走するわけよ。その時も出来るヒトに任せるのが良い」
「な、何か……それだと自分では何もやってないように聞こえますけど……」
「実際何もやってないも同じかもね。ヒトに頼ってばかりだし。リーダーがやることと言えば『トラブルに適した人材と対価を用意すること』ってところかな。あとは自信ありげな顔でドンと構えておくこと。リーダーが常に不安を口にしてる組織なんて、部下も不安でしょうがないでしょうし」
「な、なるほど……」
「で、今のトラブルに適した人材がここに居るでしょ?」
「ここにって……ハッ!」
私の意図を察したのか、顔つきが変わった。
「で、では改めて命令を下します! ウィ、ウィンダルシア殿……」
「呼び捨てで!」
「ウィ、ディンダルシア! ご、強盗団に対する指揮をお願いします!」
「了解しました!」
◆
「これで出動の許可も下りましたね。あの激励でもう少し自信を持っていただけると良いのですが……」
「ウィンダルシア、あなたが私のところに来てくれてホントありがたいわ」
「いえ、私は『貴女の護衛するように』とのアスタロト様の命令を、変則的な捉え方ではありますが忠実にこなしているだけですので、お気になさらず」
こういうところ堅いんだよなぁ……
「…………まあ良いわ、それともう一つ仕事をお願いしたい」
「何でしょう?」
「ゼロ距離ドア近辺が騒動の中心になることが予想されるから、その付近のヒトたちの避難をお願い」
相手が特殊な能力を持っている可能性がある以上、建物とか建造物も壊されるかもしれない。避難させておかないと下手をしたら死人が出かねない。
「なるほど。避難場所はどこに?」
「最近新設された小学校を避難場所にして。あそこならゼロ距離ドアからは少し離れてるから安全だと思う。一般の家と比べると造りもしっかりしてるしね。何とか説得してそちらに避難させるようにお願い。それと私たちの部隊の潜伏場所として利用する旨を伝えて許可を取って」
潜伏させておき、最初はゼロ距離ドア付近に誰も居ないと油断させておいて、周囲に網を張って一網打尽にする作戦。
私の担当のゼロ距離ドアは町中のど真ん中だから建物を貸してもらえないとこの作戦が成り立たない。
「分かりました。ではそれを伝えるために運動場に戻りましょう」
◆
運動場に戻ってすぐに――
「全員集合!」
――ウィンダルシアの号令。
訓練を受けていた警察官たちが、疲れのある顔で集まって来た。
だが、日々の成果が出ているのか、まだまだ気力は十分という感じ。
「大分早いが今日の訓練はこれにて終了とする!」
「何かあったんですか?」
と、先ほどのエイスが訊ねた。
「ああ、この国の至宝であるゼロ距離ドアが強盗団に狙われている。それで――」
――と、ウィンダルシアが訓練生たちに簡潔に訓練終了の経緯と強盗団について説明した。
“至宝”って……私はそんなことをウィンダルシアに言ったことは無いのだが……私以外から客観的に見れば、そう見えるのか……何せ、闇オークションでの予想売却額も数百億だし……
「つまり我々も強盗団の逮捕に参戦せよと言うことですか?」
それを聞いて訓練生の一人が質問で返す。
「そうだ! この町を守るため諸君らにも作戦に参加してもらう! 今日より強盗団の逮捕まではコンディション調整程度の簡単な訓練に終始させる。ヤツらがいつ強奪決行に動くか分からん。みんな、有事に向けて疲れを残すことないようにしっかり休息を取ってくれ!」
「その作戦前に住民の避難をさせるわけですね?」
「そうだ! よろしく頼むぞ!」
「「「了解!!」」」
「これで良いでしょう。強盗団の動向については、誰かに見張らせていたりするのですか?」
「樹の国のエールデさんの部下が見張ってるらしいけど」
「彼ですか。彼の指揮なら任せておいて問題無いでしょう。真面目な男ですので」
隣の国だからなのか、度々連携して顔を合わせるのかもしれないな。長命な種族も多いし、見知った顔ばかりなのかもしれない。
「では、動きがあった場合の連絡をよろしくお願いします」
「うん、分かったよ。こちらこそよろしくお願いね」
応援と避難、強盗団捕縛のための潜伏場所の確保はこれで良し!
強盗団の中には魔力感知できるヤツも多分居るだろうけど、ほとんどがトロル族で構成されている警察官の中に飛び抜けて魔力の高い者は居ない。多分近隣住民のものとして誤魔化せると思う。
あとは……クリューにも要請しておくか?
………………いや、現時点でも多分過剰戦力だろう。ドラゴン三人にエイビスまでいるわけだし。ジャイアントアントの特殊個体クラスが複数居るとは思えないし、クリューには要請しなくても良いか。
一応準備は整った。あとはエールデさんたちからの連絡を待つだけだ。
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