建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~

ヒロノF

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第18章 発展のアルトラルサンズとその影編

第523話 空間魔法を封じるアイテムとその対策

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「空間転移魔法を封じられるって……一体どんなアイテムなんですか?」
「通称『破魔銀石』、正式名称は『インバリスト銀石』と名付けられた鉱石です。これは『無効化インバリド』と『貯蔵ストック』を合わせた造語で、冥陰暦九千九百四十年に初めて採掘された比較的新しい鉱石です」

 え~と……今は確か九千九百九十三年だったよね……え~と……五十三年前か。

「この鉱石は魔力を溜め込む特徴があります」
「『ミスリル銀』の効果と大して変わらないじゃないですか」
「いえ、完全に似て非なる物です。あちらは魔素を鉱石の外側に吸着するのである程度溜まってくると魔素を目で見ることができます。そのためどれくらいの量溜まってるかも目測できますし、危険かどうかの目安も付けやすいです。リスク効果も魔力過多によるめまいや気分の悪さなど体調不良を感じる程度に留まります」
「でも大量に蓄積すると死をもたらすこともあるんですよね?」
「まあ、そうなんですが、『インバリスト銀』は比較にならないくらい危ないんですよ。こちらは鉱石の内側に魔素を溜め込むため、どれくらい貯蔵されてるのか見た目では分からず、特殊な魔力検知機器を使わないとどれくらい貯蔵されてるか分かりません。そのためうっかり強い刺激を与えようものなら、貯蔵している魔素量次第では暴発して大惨事を引き起こす可能性もあります。採掘されたこの五十年の間に何人も事故で亡くなっています」

 な、何て危ない鉱石……刺激で暴発って……ニトログリセリンみたいなもんか。

「そ、そんな危ない鉱石、どうやって安全に保管するんですか?」
「インバリスト銀と同等の大きさのミスリル銀を四つ以上用意してインバリスト銀の周囲に置き、強い刺激を与えて暴発させます」
「わざと刺激するんですか?」
「はい。すると暴発した魔力をすぐさま周囲に置いたミスリル銀が吸着してくれて結果的に暴発を防げます。その上で分解効果のあるリダクティウム鉱石を使って魔素へ分解させて放散させれば晴れて安全なインバリスト銀に早変わりです」
「へ、へぇ~……」

 この方法が確立されるまでどれくらいの研究者が傷を負ったのだろう……

「私の所持している銀石もミスリル銀とリダクティウム鉱石の箱で二重に包んで保管してます。ちなみに三つだと暴発魔力を吸着し切れずに小規模ながら被害が確認されています。大体一つで三十パーセントを吸着するという感じですかね」
「へ、へぇ~……それで、何で『“破魔”銀石』なんて名前ですか?」
「それがこの石の特徴です。採掘された当初『無効化インバリド』の部分にしか気付かなかったため、この石は周囲の魔力を消し去ると考えられ、魔力を無効化する『インバリド銀石』と名付けられました。――」

 あ、だから魔法を“こわす”石で、『破魔銀石』なのか。

「――しばらく経ってから魔力暴発が起こり『貯蔵ストック』機能があることに気付いたため、正式名称が変更され、通称名だけはそのまま残ったというわけです」
「へぇ~、面白い残存理由ですね。でもその石を使って何をしてくると考えてるんですか?」

 『貯蔵ストック』機能で【ゲート】を出した瞬間に吸収するとか?
 それとも『無効化インバリド』機能で消し去るのか?

「この銀石、削って粉状にすると『貯蔵ストック』機能が無くなって『無効化インバリド』効果部分だけ残るという特徴があり、生物がこの粉を浴びると少しの時間、魔力が放出できなくなります」

 発動されてからの魔法効果を打ち消すわけじゃなくて、発動させる術者の魔力自体を封じてしまう粉ってわけか!

「もっとも魔王ほどの大物が持つ強大な魔力を無効化できるかどうかは実証されていないので分かりませんが」

 まだ歴史が浅い鉱石だから魔王に使用を試みたことが無いってことか。
 クーデターでも起こらなければ、魔王を相手にすることも無いだろうしな……氷の国のクーデターではどうだったんだろう? 使われたりしなかったんだろうか?

「な、なるほど。つまり、それを私に浴びせかければ魔法自体が使えなくなり、頭目の強制転移が不可能になると、そういうことですね?」
「そういうことです。一般人はこの銀石の存在すら知らない者がほとんどですが、守護志士が絡んでるとなれば携帯している可能性はゼロとは言えません。ただ前述のようにレア鉱石なので持っている確率は半々くらいかなと。しかしレア度で考えるなら『インバリスト銀<<<<<<<<< (超えられない壁) <<<<<<<<ゼロ距離ドア』という価値基準なので、相手が銀石を所持してて、是が非でもドアを奪いたいと考えてるなら十中八九使ってくると考えられます。何せ闇オークションで数百億見込みですし」
「なるほど、じゃあ私はその粉に注意すれば良いってわけですね?」
「はい。少量ならかかっても大丈夫ですが、絶対に全身では被らないようにしてください」

「例えばですけど、身体の何割くらいが被ると魔法が使えなくなるんですか?」
「まだ研究が始まって浅いのに加えて、稀少素材で研究結果も少ないので一概には言えませんが……身体の半分もかかれば魔力が放出できなくなると考えられます。また、魔力出力を司ってるのは頭と考えられています。頭に被った場合は例え身体の一割程度だったとしても、相当制限されるのではないかと」
「魔力が使えなくなるのはどれくらいの時間なんですか?」
「本人の素養と銀石の粉をどれくらい被ったかにも依りますが……現状の我々の研究では、平均で半日ほど、短い者ても三時間、長かった者は一日程度魔力が放出できなくなるとの結果が出ています。なお前述のように魔王には試してないので分かりません。私の予測では恐らく三時間以下になるかと」

 三時間も……三時間あったら逃げるには十分な時間だ。
 最悪一日使えないのでは、もし被ってしまったら作戦はその時点で終わりだな……

「また、きちんと洗い落とさないといつまで経っても魔力回路が回復しません。――」

 なるほど、一回こっきりってわけではなく、粉を落とさないといつまでも魔力を遮断し続けられるわけか。

「――これも検証しましたが洗い落とさないと二ヶ月くらい魔法が使えませんでした」

 それって……二ヶ月間風呂に入らなかったってことか? 研究者は大変だ……

「ちなみに、この銀石を利用して変身する魔力を抑え込んだのがブルーソーンに使われた『状態固定の腕輪』と『魔力封印の腕輪』です」 (第326話参照)
「おお! あれに利用されてるんですか!」

 話が一段落したのを見計らってか、エールデさんが口を挟む。

「フリアマギア、銀石の粉を使うならどう使うと思う?」
「そうですねぇ……例えばカーデュアルさんから『Aのドアにて頭目を発見!』と報せが入ったとします。しかし行ってみるとそこに頭目は居らず、偽の情報に騙されてのこのこやってきたアルトラ殿に強盗団員が銀石の粉を浴びせかけるとか、でしょうか? もちろん頭目はAとは別のドアを狙います。そして銀の粉を被ったアルトラ殿は頭目を強制的にどこかへ飛ばすことができなくなると」

 フリアマギアさんの想像の中では、私は騙されてのこのこやってきたわけね……
 カイベルが『撹乱しにくる』って言ってたのはこのことか。わざわざ『撹乱』って言ったのを考えると銀石の粉を持ってる確率はかなり高いな。

「しかし、それでは後々我々に追及されることになるぞ? 『カーデュアルが偽の情報でおびき出したから頭目を取り逃がしてしまった』と」
悪巨人マリスティターン強盗団の中には巨人種も何人かいますし、強奪作戦決行は恐らく夜と予想されますので『遠目だったので頭目と見間違えた』とでも言えば、カーデュアルの背任行為を知らない者からすれば一応言い逃れできる言い訳にはなるかと」
「え? 巨人も来てるんですか!? 町中で見たことありませんけど……?」
「作戦決行時に集まるのかもしれませんね」

 じゃあ町の周りに待機してるかもしれないってことか。

「確かにな……我々はカーデュアルの裏切りを知っているから怪しいと思うが……では最初からカーデュアルから伝わって来る目撃情報を無視することにすれば良いと言うわけだな」
「そうですね。アルトラ殿が現場に現れなければ銀石の粉も浴びせようがありませんから、我々の言動だけを信じてもらえれば……」
「いえ、どうせなんで引っかかってあげましょう」

 私の一言を聞いて、二人ともハテナ顔。

「「どういうことですか?」」

「私が二人になれば良いんです。実はネッココの魔道具と一緒に発掘された変異系の魔道具があるんですよ」

 と言いながら【亜空間収納ポケット】を出現させて手を突っ込み、創成魔法で腕輪を創る。

「おぉ! それは!?」

 フリアマギアさんが期待感タップリの眼差しで腕輪を見つめる。

「これ、装備したヒトを変身させる魔道具で、この中に変身したいものの体組織を入れると短時間だけその生物になれるんですよ。制限時間は中に入れた体組織が消滅するまで。仮に『変身リング』と名付けましたけど」

 もちろん今創ったものなので、発掘の下りは嘘だ。
 が、効果は説明した通りのことが起こるように創った。
 既にネッココの魔道具は見られてるし、似たような効果の魔道具ならフリアマギアさんもそれほど怪しまないだろう。

「変異系の魔道具ですか!? しかも他人に変身できるなんて! うちの研究室でもまだ研究段階ですよ! か、貸してもらえますか!?」
「どうぞ」

 キラッキラした目で腕輪をじっくり見つめる。

「た、試してみても?」
「良いですよ。確認しておかないとぶっつけ本番ではまずいですし」
「じゃ、じゃあエールデさん、髪の毛を!」

 ちょっと興奮気味にエールデさんに髪の毛を要求。

「俺に変身するのか!? 俺以外じゃダメなのか!?」
「私とアルトラ殿では背丈が大して変わりませんし、クリストくんとパトリックくんではガリガリで面白味がありません。どうせなら二メートル超えのエールデさんに変身してみたいじゃないですか!」

 背丈……フリアマギアさんは『大して変わらない』と言っているが、実際には十センチくらいは差がある。
 フリアマギアさんお付きのクリストさんとパトリックさんは研究職のお付きだけあってかなり痩せてる。

「俺とフリアマギアとでは体格が随分違うが……」

 渋々ながら自身の髪の毛を抜いてフリアマギアさんに渡す。
 エールデさんはデミタイタン族というだけあり、通常状態でも大分大柄だ。

「本当に変身できるのですか? 急激に背が伸びるのでしょう? 骨とか肉とか裂けたりしませんか?」
「だ、大丈夫だと思います。成長させる効果ってわけじゃないので」

 体格の割には繊細な性格らしい。

 フリアマギアさんは髪の毛を受け取るとすぐに腕輪の中に髪の毛を入れて蓋を閉じ、スイッチを入れた。
 すると――

「お? おぉぉおぉ?」

 グングングンっとどんどん背が伸びていく。

「天井がこんなに近くにある!」

 と言いながら片手で天井を触る。

「アルトラ殿、随分小さくなりましたね! エールデさん、顔近い!」
「お前が俺に近付いたんだ!」
「鏡とかあります?」

 要望通り姿見を持ってくると、屈んで覗き込む。

「おぉ! しっかりエールデさんですね! お?」

 そして突然自分の股間をまさぐる“エールデ≠フリアマギアさん”。

「下もちゃんと付いてる!」
「俺の見た目でそんなところを触るな!」
「エヘヘ……すみません、研究者の性分なもので」
「服脱いで確認しようとかするなよ?」
「…………そんなの、分別ついてますって♪」

 楽しそうだな……
 一方のエールデさんは、自分を模した身体で何をされるのかと気が気じゃないように見える。
 会話に変な間があったし、釘刺さなければ服脱いでた可能性も……

「アルトラ殿、そのヒト固有の特殊能力とかはどうなってるんですか? 使えるんですかね?」
「え~と……」

 今創ったばかりだからそんなの分からないんだよなぁ……一応能力を再現できるようなイメージは組み込んだけど。

「そ、そこまで詳しく検証してないので分かりません。多分そう都合良くは出来てないんじゃないかと」

 仮に特殊能力を使えたとしても、そう言っておいたほうが無難だろう。『使える』って言っておいて、実際は使えなかったら作戦に支障をきたすし。

「た、試してみたらどうですか?」
「そうですね。エールデさん、巨人化ってどうやるんですか?」
「どうやる? そんなの説明しようが無いが……俺は背伸びするイメージで魔力を全身に行き渡らせている」
「背伸びするイメージですね?」

 身体中に魔力を巡らすコントロールをイメージしているようだが……

「ちょ、室内で巨人化なんてしないでくださいよ! そんなことしたら天井抜けますから!」
「ご安心ください。全然大きくなれる気がしないので」

 ホッ……建物壊されずには済んだが……
 特殊能力の再現は不可能か。
 やっぱりそう都合良くはいかないみたいだ。

「残念……私にも巨人化の能力が使えるかと思いましたが……じゃあ腕力の方はどうですかね?」

 応接室にあるソファを持ち上げてみようとするも……

「あれ? 持ち上がりません……エールデさんこんなに力無いんですか?」
「そんなわけないだろ。俺にとってソファなんて大した重さは無い」

 そう言いながら二人掛けのソファを片手で軽々持ち上げた。

「どうやら身体能力は元の身体に準じるようですね。私が変身しても貧弱なエールデさんが増えるだけのようです……変わったことと言えば背が伸びてリーチが多少長くなったことくらいですね……二の腕触ってみても、見た目には筋骨隆々なのにプニプニの感触ですし。触ってみると『あ、私の腕だ……』って感じですね」

 自分で創った魔道具だが、まさに『見掛け倒し』だな……

「何だか……俺が悪口言われてるような気になってくるんだが……?」
「これは敵の目を誤魔化すくらいの使い道しか無さそうですねぇ……」

 固有の能力を再現するのは、私の扱えない“生命”の部分に抵触するから不可能ってことかな。変身相手の身体能力や固有能力は生体情報扱いらしい。

「自身の持つ能力はどうなんですかね? エールデさんって風魔法使えましたっけ?」

 と言いながら手の平の上でつむじ風を起こす。

「使えないが」
「じゃあ自身の能力はそのままのようですね。……あまり便利な魔道具ではないですねぇ……」

 期待外れってことか。
 最初の期待が大きかっただけに、実際使ってみたら“ただ姿を変えるだけ”だったことに多少ガッカリしているように見える。
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