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第18章 発展のアルトラルサンズとその影編
第520話 アルトレリアの実状
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ある夜、アルトラ邸へ続く『ゼロ距離ドア』前――
そこではとある強盗団による悪巧みがなされていた。
「……これがお頭が言ってた例のドアか?」
「……へい……別のところに通じる不思議なドアだそうです」
「……こんな良いもんを、新興国ごときが独占してんのか?」
「……何でもこの土地で古代遺跡が発掘されたとかで、そこから出土した魔道具らしいですぜ」
「……なるほどな、持って帰って俺たちで有効利用してやろう。闇オークションで売っ払えば数百億にもなるってぇ話だ。団へ持って帰って売れば晴れて大金持ちってわけだ」
「……ですが、向こう側のドアも盗まねぇと意味がありません。入り口と出口二つで一対ですから」
「……確かにな。じゃあお前らは逆側のドアを剥がして来い、俺たちはこっちを剥がす。町の中心地だ、剥がす時に音を立てるなよ?」
強盗団は、入り口と出口二手に分かれて『ゼロ距離ドア』を剥がしにかかる。
◆
ところ変わって、時はアルトラ邸の電気工事開始時期まで遡る。
アルトラ邸――
図書館から借りて来た本を読んでいると、工事をしながらカイベルが突然脈絡無い話をし始めた。
「アルトラ様、不穏な動きをしている人物が町に何人かいるのですが……」
「え!? 突然何言ってんのカイベル!? 不穏な動き!?」
カイベルは電気工事作業をしながらも話を続ける。
「樹の国から来た森賊たちが少し前にアルトレリアに入ったようです、現在の時点で六人侵入しています」
「強盗団が町の中に侵入したの!? 不穏な動きってのはなに!?」
「どうやら『ゼロ距離ドア』を盗もうと画策しているようです」
「『ゼロ距離ドア』を盗む!?」
ああ……遂にこの手の輩に目を付けられちゃったか……国を開くってことはこういうマイナスな面も入って来るってわけね……
「いかがいたしますか? 動き出す前に拘束して強制送還しますか?」
「不穏な動きって言ってもねぇ……何もやってない現状で拘束したら不当逮捕にしかならないし、強制送還したら悪い噂話を吹聴されそうだしね……決行のタイミングで一網打尽にするしかないかなぁ……」
「後追いで樹の国の捜査官がこちらへ向かっているようですが」
「後追い? 強盗団を追って来てるってこと?」
「そのようです」
「それなら、とりあえずは静観で良いかな。近いうちに捜査官側から何らかの接触があるだろうし。強盗団の方にしてもあなたなら決行のタイミングを知ることはできるでしょ?」
「可能です」
「じゃあ、樹の国の捜査官が到着するか、強盗団が決行しようとするタイミングが訪れるまでしばらく静観しましょう」
「分かりました」
◆
と言う会話が成されてから十日あまり。強盗団による『ゼロ距離ドア』強奪決行日の三日前。
役所:応接室――
予想していた樹の国の捜査官からの接触があった。
「お初にお目にかかりますアルトラ殿、わたくし樹の国で守護志士に所属しておりますエールデ・アスランと申します」
名刺を渡された。
一応強盗団のことは知らない体で話をしよう。
「なぜ守護志士の捜査官の方がこの国へ?」
「我が国のとある森賊に潜入している部下から、アルトレリアでの盗みを計画しているとの情報が入りました。それとこの町に既に潜伏しているとの報告がありましたので」
「そうなんですか。ところで何でそんな行商人のような格好を?」
「カモフラージュです。万が一にも目標とする強盗団に気付かれてはなりませんから」
「はぁ、それで……何でフリアマギアさんまで同席してるんですか?」
なぜかエールデさんに同行してきたフリアマギアさん。
このヒトが来ると気が気じゃない。自然と警戒する癖が付いてしまった……
「なぜって、私がこの町中でその森賊の一人を見かけたんで、先日『ディメンショナルオーバー』の死骸を受け取って本国へ帰った時に一緒に報告したんですよ」
そういえばこのヒトも守護志士の一人だった。守護志士って樹の国の警察の上位組織なんだっけ……
「何でまた我が町に強盗団が? ここには盗んで価値のあるものなんて何があります? まだまだ発展途上の国ですよ?」
「いや、あるじゃないですか超重要な魔道具が~! この私を執心させるくらい興味深いものなんですよ、アレは!」
まあそうだよね……町中に普通に置いてあるし、それしかないわ。
カイベルに聞いた通りだわ。でもここは敢えて知らない体で。
「まさか『ゼロ距離ドア』を盗もうとしてると?」
「そのまさかです。そのドアは我々の国でも、古代遺跡から出土した古の魔道具という情報か入ってますので、ヤツらの狙いも恐らくそれではないかと」
と、エールデさん。
アレを狙うということは、恐らく行商人が訪れるようになったから、『そういう魔道具がある』という情報が強盗団にも伝わってしまったのだろう。
「完全に岩に埋めてあるのに剥がせますかね?」
「岩程度はものともしないと思いますよ。今それを狙ってる強盗団は剛力で有名な者たちですから」
「そんなたった一つ二つを盗むために、わざわざこんなところまで遠征して来るんですか?」
「貴女は普段使いしているからあのドアが珍しいものと思っていないのでしょう。我々から見れば珍しすぎる物品です。何せ移動距離をゼロにできるのですから。大金持ちや珍品コレクターからすれば喉から手が出る代物でしょう。これを利用すれば利権まで発生しますし、闇オークションで捌ければ数百億にもなるのではないかと見込んでいます」
「そんなにですか!?」
このドア、相当ヤバいものだったのね……
「り、利権って、例えばどんなことが?」
「特定の場所へ設置して、『お金を払えばそこへ一瞬で行けるようになる』、とかですかね。その場所に需要があり、遠ければ遠いほど効果的ですね。もしくは、部下などに持って移動してもらうだけでどこへでも行けるドアに早変わりしますね」
おぉ……その使い方は何だか本物の『どこにでもドア』っぽいな。
エールデさんに続いて、フリアマギアさんが話し始めた。
「それにこの町はその他にも珍しいものがちらほらありますからね~。私が見て回っただけでも、例えば水を噴き出す『潤いの木』、超特殊進化した『牛と鶏のような見た目のスライム』、『汚物と特定の木材のみを分解するバクテリア』、我々が最近開発に成功したばかりの『身体の大きさを変えられる巨人仕様の腕輪』などなど。他にもあるのではないですか? 例えばトロル族以外が入るのを規制している区域……私としては国指定の畑とか怪しいと思ってます……あそこは見られてまずいものがあるから入れないように規制しているのではと考えていますが、どうですか?」
相変わらず鋭い観察眼だな……
「それとネッココちゃんの『姿を変えるリング』と『植物語を翻訳するシール型魔道具』。更に、かつてはリディアちゃんが『身体の大きさを変えずにクラーケンに変態できる腕輪』を付けてたそうですね」
「何でそんなことまで知ってるんですか!?」
アレが壊れたのはフリアマギアさんがここへ来てそれほど経ってない頃だったはずなのに…… (第370話参照)
「ネッココちゃんが魔道具付けてるので、もしかしたらとリディアちゃんにも付けてたことがあるんじゃないかと思って彼女に訊ねました。あなたの周りは聞いてて楽しい話ばかりなので」
またニシシと無邪気に笑う……
「うぅ……」
「驚きだな……そんなに狙われそうなものが沢山あるのか……」
「ああ、私はここで例を挙げましたが、エールデさん他言無用でお願いしますよ。今挙げたのは知られたら狙われるようなものばかりですから。そういう輩ばかりこの町に増えたら流石に心が痛みます」
「分かっている。俺の口の堅さは知っているだろ? まあ知られるのも時間の問題だと思うが。さてアルトラ殿、フリアマギアの言うように、この地域は特殊なものが多過ぎます。国を開いたからには、そういった珍しいものを輩に狙われるのももはや必然と言えるでしょう」
ぐうの音も出ない……
「でも特級の謎がアルトラ殿自身ですよ。その人間族かヘルヘヴン族のような見た目でツノが生えてて、何物をも受け付けない肉体で、しかも分身なんかできる特殊過ぎる生態ですから。それに太陽……おっと、これは秘密でしたね」
「何だ?」
「いえ、他言すると私が本国で捕まってしまうので、ご容赦ください」
今、多分『太陽まで作れるのですから』と言おうとしたんだろう……彼女にはバレてしまっているし…… (第426話参照)
「いずれにせよ、この国には狙われてもおかしくないものが沢山あると考えておいた方が良いですよ?」
「……はい。そ、それでこの国には強盗団を捕まえるために来たんですか?」
「はい。本題が遅れてしまいましたが、この中で見覚えのある者はいますか? これらがアルトレリアへ向かったのではないかと見込んでいるのですが」
顔写真を何枚も出された。
ん? この赤いオーガ、何か見たことあるな。
「このヒト……確かオルガナとか言うレッドオーガですよね?」
「この男をご存じなんですか? この男は通称『青いトゲ強盗団』のナンバー2を張っていた男です」 (『ブルーソーン』については第322話から第326話参照)
「はい。ブルーソーンを倒したのは私ですから、その時に一緒に捕まえたはずなんですけど……」
「「ブルーソーンを倒した!?」」
「樹の国強盗団の三大勢力の一角ですよ!?」
「我々ですら中々決定打を与えられなかったブルードラゴンをたった一人で!? しょ、少々お待ちください!」
そう言って行商バッグのようなものから取り出した資料に目を通しだした。
「資料によると……ブルーソーンの捕縛協力者欄に『アルトラ・チノ』のサインがありますね……捕縛したのは貴女だったのですね……」
「は、はい……た、たまたま頭目の居た集団に狙われたので……頭目には途中で逃げられてしまいましたが、逃がしたらまずいと思って追いかけて倒しました」
「そ、それは……凄いですね……」
「興味本位でお聞きしますが、あの女、全身軽度の火傷状態で捕縛されたと聞きましたが……何をされたんですか?」
「ちょっと強い雷を落として気絶してもらっただけですよ」
「ドラゴンに雷を? ドラゴンのウロコは例外無く強い魔法耐性を持っているはずですが……」
「刀に魔法を帯びさせて内側から通電させました」
「なるほど、中々面白い話をありがとうございます。さて話が反れましたが、実はブルーソーンとその幹部が逮捕されたことにより、ここ最近急速に勢力図が変わって、現在はブルーソーンの残党が他の二大勢力に合流して、その二つが少し大きくなったとの情報が入っています」
「えっ!? そ、それは厄介事を増やしたということでしょうか?」
よく考えたら、一つ潰れれば別のところに合流しようとするのは自然なことか……
「いえいえ! 頭目を捕まえたってことだけでも価値があります。本来なら頭目も我々で捕まえなければならなかったところですし。それでこのオルガナ、現在アルトレリアを狙っているのは我々の組織で通称『悪巨人強盗団』と呼ばれている組織、その上位陣に名を連ねているようでして」
「捕まえて警察に引き渡したはずですけど……?」
「捕まえた? 引き渡された者の中には居なかったようですが……」
……
…………
………………
しまったな……思い返してみると、ライオン獣人 (名前:レオノルン)の方は倒した記憶があるけど……
そういえばオーガの方は倒した記憶が無い……ブルーソーンに強烈な蹴りを入れられてたからそれで終わったものと勘違いしてしまったのかもしれない。 (第323話参照)
あの後魔力マーキングしたヤツらの捕縛に行ったけど、きっと捕まえたと思い込んでたから、オルガナは捕まえに行かなかったんだな……
あの時に上手い具合に逃げられてしまったのかもしれない。
「すみません、今思い返してみましたがソイツと戦った記憶はあるんですが、捕まえた記憶がありません」
「なるほど、どさくさに紛れて逃げた可能性が高いですね。それで行く当ての無かったオルガナは『悪巨人強盗団』に合流したと、そんなところでしょう」
別の組織に行ってすぐに上位陣に名を連ねるとは……アイツそれなりに強かったのね。
「それで、この町で見覚えのある顔はありましたか……?」
「う~ん……ありません。ただでさえ最近新規の顔をよく見るので……この町にどれくらいの強盗団が侵入してるんですか?」
「現状は把握し切れてはいません。二十から三十人の間くらいではないかと考えています。頭目に動きがあったとの報告がありましたので、頭目が来ている可能性は高いと見ています」
そんなに侵入されてる可能性があるのか……
「珍しいモノが多い地とは言え、フリアマギアはこの町での生活がある程度長いので珍しいモノをピックアップできましたが、ヤツらは日が浅いので狙うのは『ゼロ距離ドア』一点に絞っている可能性が高いと見ています。ヤツらも樹の国から離れたこんな場所まで我々が追跡していることは考えていないでしょうから、動きがあるまでは警戒させないよう見張ります。目や耳が良い者も連れて来ていますので、決行日も探りやすいでしょう」
目標物に集めて一網打尽にするわけだね。
「エールデさんはここへはどうやって?」
「行商人を装って馬車数台で訪れました」
「ってことは捜査員は他にも居るんですか?」
「五十名ほど連れて来ています。現在はこの町の各地に散らばって行商人のフリをしながら潜入捜査中です。既にこの顔写真の男たちの十人ほどを見つけたとの報告が入っており、潜伏先も見つけています」
カイベルは六人って言ってたけど、その後に聞かなかったから大分増えてるってわけか。
そこではとある強盗団による悪巧みがなされていた。
「……これがお頭が言ってた例のドアか?」
「……へい……別のところに通じる不思議なドアだそうです」
「……こんな良いもんを、新興国ごときが独占してんのか?」
「……何でもこの土地で古代遺跡が発掘されたとかで、そこから出土した魔道具らしいですぜ」
「……なるほどな、持って帰って俺たちで有効利用してやろう。闇オークションで売っ払えば数百億にもなるってぇ話だ。団へ持って帰って売れば晴れて大金持ちってわけだ」
「……ですが、向こう側のドアも盗まねぇと意味がありません。入り口と出口二つで一対ですから」
「……確かにな。じゃあお前らは逆側のドアを剥がして来い、俺たちはこっちを剥がす。町の中心地だ、剥がす時に音を立てるなよ?」
強盗団は、入り口と出口二手に分かれて『ゼロ距離ドア』を剥がしにかかる。
◆
ところ変わって、時はアルトラ邸の電気工事開始時期まで遡る。
アルトラ邸――
図書館から借りて来た本を読んでいると、工事をしながらカイベルが突然脈絡無い話をし始めた。
「アルトラ様、不穏な動きをしている人物が町に何人かいるのですが……」
「え!? 突然何言ってんのカイベル!? 不穏な動き!?」
カイベルは電気工事作業をしながらも話を続ける。
「樹の国から来た森賊たちが少し前にアルトレリアに入ったようです、現在の時点で六人侵入しています」
「強盗団が町の中に侵入したの!? 不穏な動きってのはなに!?」
「どうやら『ゼロ距離ドア』を盗もうと画策しているようです」
「『ゼロ距離ドア』を盗む!?」
ああ……遂にこの手の輩に目を付けられちゃったか……国を開くってことはこういうマイナスな面も入って来るってわけね……
「いかがいたしますか? 動き出す前に拘束して強制送還しますか?」
「不穏な動きって言ってもねぇ……何もやってない現状で拘束したら不当逮捕にしかならないし、強制送還したら悪い噂話を吹聴されそうだしね……決行のタイミングで一網打尽にするしかないかなぁ……」
「後追いで樹の国の捜査官がこちらへ向かっているようですが」
「後追い? 強盗団を追って来てるってこと?」
「そのようです」
「それなら、とりあえずは静観で良いかな。近いうちに捜査官側から何らかの接触があるだろうし。強盗団の方にしてもあなたなら決行のタイミングを知ることはできるでしょ?」
「可能です」
「じゃあ、樹の国の捜査官が到着するか、強盗団が決行しようとするタイミングが訪れるまでしばらく静観しましょう」
「分かりました」
◆
と言う会話が成されてから十日あまり。強盗団による『ゼロ距離ドア』強奪決行日の三日前。
役所:応接室――
予想していた樹の国の捜査官からの接触があった。
「お初にお目にかかりますアルトラ殿、わたくし樹の国で守護志士に所属しておりますエールデ・アスランと申します」
名刺を渡された。
一応強盗団のことは知らない体で話をしよう。
「なぜ守護志士の捜査官の方がこの国へ?」
「我が国のとある森賊に潜入している部下から、アルトレリアでの盗みを計画しているとの情報が入りました。それとこの町に既に潜伏しているとの報告がありましたので」
「そうなんですか。ところで何でそんな行商人のような格好を?」
「カモフラージュです。万が一にも目標とする強盗団に気付かれてはなりませんから」
「はぁ、それで……何でフリアマギアさんまで同席してるんですか?」
なぜかエールデさんに同行してきたフリアマギアさん。
このヒトが来ると気が気じゃない。自然と警戒する癖が付いてしまった……
「なぜって、私がこの町中でその森賊の一人を見かけたんで、先日『ディメンショナルオーバー』の死骸を受け取って本国へ帰った時に一緒に報告したんですよ」
そういえばこのヒトも守護志士の一人だった。守護志士って樹の国の警察の上位組織なんだっけ……
「何でまた我が町に強盗団が? ここには盗んで価値のあるものなんて何があります? まだまだ発展途上の国ですよ?」
「いや、あるじゃないですか超重要な魔道具が~! この私を執心させるくらい興味深いものなんですよ、アレは!」
まあそうだよね……町中に普通に置いてあるし、それしかないわ。
カイベルに聞いた通りだわ。でもここは敢えて知らない体で。
「まさか『ゼロ距離ドア』を盗もうとしてると?」
「そのまさかです。そのドアは我々の国でも、古代遺跡から出土した古の魔道具という情報か入ってますので、ヤツらの狙いも恐らくそれではないかと」
と、エールデさん。
アレを狙うということは、恐らく行商人が訪れるようになったから、『そういう魔道具がある』という情報が強盗団にも伝わってしまったのだろう。
「完全に岩に埋めてあるのに剥がせますかね?」
「岩程度はものともしないと思いますよ。今それを狙ってる強盗団は剛力で有名な者たちですから」
「そんなたった一つ二つを盗むために、わざわざこんなところまで遠征して来るんですか?」
「貴女は普段使いしているからあのドアが珍しいものと思っていないのでしょう。我々から見れば珍しすぎる物品です。何せ移動距離をゼロにできるのですから。大金持ちや珍品コレクターからすれば喉から手が出る代物でしょう。これを利用すれば利権まで発生しますし、闇オークションで捌ければ数百億にもなるのではないかと見込んでいます」
「そんなにですか!?」
このドア、相当ヤバいものだったのね……
「り、利権って、例えばどんなことが?」
「特定の場所へ設置して、『お金を払えばそこへ一瞬で行けるようになる』、とかですかね。その場所に需要があり、遠ければ遠いほど効果的ですね。もしくは、部下などに持って移動してもらうだけでどこへでも行けるドアに早変わりしますね」
おぉ……その使い方は何だか本物の『どこにでもドア』っぽいな。
エールデさんに続いて、フリアマギアさんが話し始めた。
「それにこの町はその他にも珍しいものがちらほらありますからね~。私が見て回っただけでも、例えば水を噴き出す『潤いの木』、超特殊進化した『牛と鶏のような見た目のスライム』、『汚物と特定の木材のみを分解するバクテリア』、我々が最近開発に成功したばかりの『身体の大きさを変えられる巨人仕様の腕輪』などなど。他にもあるのではないですか? 例えばトロル族以外が入るのを規制している区域……私としては国指定の畑とか怪しいと思ってます……あそこは見られてまずいものがあるから入れないように規制しているのではと考えていますが、どうですか?」
相変わらず鋭い観察眼だな……
「それとネッココちゃんの『姿を変えるリング』と『植物語を翻訳するシール型魔道具』。更に、かつてはリディアちゃんが『身体の大きさを変えずにクラーケンに変態できる腕輪』を付けてたそうですね」
「何でそんなことまで知ってるんですか!?」
アレが壊れたのはフリアマギアさんがここへ来てそれほど経ってない頃だったはずなのに…… (第370話参照)
「ネッココちゃんが魔道具付けてるので、もしかしたらとリディアちゃんにも付けてたことがあるんじゃないかと思って彼女に訊ねました。あなたの周りは聞いてて楽しい話ばかりなので」
またニシシと無邪気に笑う……
「うぅ……」
「驚きだな……そんなに狙われそうなものが沢山あるのか……」
「ああ、私はここで例を挙げましたが、エールデさん他言無用でお願いしますよ。今挙げたのは知られたら狙われるようなものばかりですから。そういう輩ばかりこの町に増えたら流石に心が痛みます」
「分かっている。俺の口の堅さは知っているだろ? まあ知られるのも時間の問題だと思うが。さてアルトラ殿、フリアマギアの言うように、この地域は特殊なものが多過ぎます。国を開いたからには、そういった珍しいものを輩に狙われるのももはや必然と言えるでしょう」
ぐうの音も出ない……
「でも特級の謎がアルトラ殿自身ですよ。その人間族かヘルヘヴン族のような見た目でツノが生えてて、何物をも受け付けない肉体で、しかも分身なんかできる特殊過ぎる生態ですから。それに太陽……おっと、これは秘密でしたね」
「何だ?」
「いえ、他言すると私が本国で捕まってしまうので、ご容赦ください」
今、多分『太陽まで作れるのですから』と言おうとしたんだろう……彼女にはバレてしまっているし…… (第426話参照)
「いずれにせよ、この国には狙われてもおかしくないものが沢山あると考えておいた方が良いですよ?」
「……はい。そ、それでこの国には強盗団を捕まえるために来たんですか?」
「はい。本題が遅れてしまいましたが、この中で見覚えのある者はいますか? これらがアルトレリアへ向かったのではないかと見込んでいるのですが」
顔写真を何枚も出された。
ん? この赤いオーガ、何か見たことあるな。
「このヒト……確かオルガナとか言うレッドオーガですよね?」
「この男をご存じなんですか? この男は通称『青いトゲ強盗団』のナンバー2を張っていた男です」 (『ブルーソーン』については第322話から第326話参照)
「はい。ブルーソーンを倒したのは私ですから、その時に一緒に捕まえたはずなんですけど……」
「「ブルーソーンを倒した!?」」
「樹の国強盗団の三大勢力の一角ですよ!?」
「我々ですら中々決定打を与えられなかったブルードラゴンをたった一人で!? しょ、少々お待ちください!」
そう言って行商バッグのようなものから取り出した資料に目を通しだした。
「資料によると……ブルーソーンの捕縛協力者欄に『アルトラ・チノ』のサインがありますね……捕縛したのは貴女だったのですね……」
「は、はい……た、たまたま頭目の居た集団に狙われたので……頭目には途中で逃げられてしまいましたが、逃がしたらまずいと思って追いかけて倒しました」
「そ、それは……凄いですね……」
「興味本位でお聞きしますが、あの女、全身軽度の火傷状態で捕縛されたと聞きましたが……何をされたんですか?」
「ちょっと強い雷を落として気絶してもらっただけですよ」
「ドラゴンに雷を? ドラゴンのウロコは例外無く強い魔法耐性を持っているはずですが……」
「刀に魔法を帯びさせて内側から通電させました」
「なるほど、中々面白い話をありがとうございます。さて話が反れましたが、実はブルーソーンとその幹部が逮捕されたことにより、ここ最近急速に勢力図が変わって、現在はブルーソーンの残党が他の二大勢力に合流して、その二つが少し大きくなったとの情報が入っています」
「えっ!? そ、それは厄介事を増やしたということでしょうか?」
よく考えたら、一つ潰れれば別のところに合流しようとするのは自然なことか……
「いえいえ! 頭目を捕まえたってことだけでも価値があります。本来なら頭目も我々で捕まえなければならなかったところですし。それでこのオルガナ、現在アルトレリアを狙っているのは我々の組織で通称『悪巨人強盗団』と呼ばれている組織、その上位陣に名を連ねているようでして」
「捕まえて警察に引き渡したはずですけど……?」
「捕まえた? 引き渡された者の中には居なかったようですが……」
……
…………
………………
しまったな……思い返してみると、ライオン獣人 (名前:レオノルン)の方は倒した記憶があるけど……
そういえばオーガの方は倒した記憶が無い……ブルーソーンに強烈な蹴りを入れられてたからそれで終わったものと勘違いしてしまったのかもしれない。 (第323話参照)
あの後魔力マーキングしたヤツらの捕縛に行ったけど、きっと捕まえたと思い込んでたから、オルガナは捕まえに行かなかったんだな……
あの時に上手い具合に逃げられてしまったのかもしれない。
「すみません、今思い返してみましたがソイツと戦った記憶はあるんですが、捕まえた記憶がありません」
「なるほど、どさくさに紛れて逃げた可能性が高いですね。それで行く当ての無かったオルガナは『悪巨人強盗団』に合流したと、そんなところでしょう」
別の組織に行ってすぐに上位陣に名を連ねるとは……アイツそれなりに強かったのね。
「それで、この町で見覚えのある顔はありましたか……?」
「う~ん……ありません。ただでさえ最近新規の顔をよく見るので……この町にどれくらいの強盗団が侵入してるんですか?」
「現状は把握し切れてはいません。二十から三十人の間くらいではないかと考えています。頭目に動きがあったとの報告がありましたので、頭目が来ている可能性は高いと見ています」
そんなに侵入されてる可能性があるのか……
「珍しいモノが多い地とは言え、フリアマギアはこの町での生活がある程度長いので珍しいモノをピックアップできましたが、ヤツらは日が浅いので狙うのは『ゼロ距離ドア』一点に絞っている可能性が高いと見ています。ヤツらも樹の国から離れたこんな場所まで我々が追跡していることは考えていないでしょうから、動きがあるまでは警戒させないよう見張ります。目や耳が良い者も連れて来ていますので、決行日も探りやすいでしょう」
目標物に集めて一網打尽にするわけだね。
「エールデさんはここへはどうやって?」
「行商人を装って馬車数台で訪れました」
「ってことは捜査員は他にも居るんですか?」
「五十名ほど連れて来ています。現在はこの町の各地に散らばって行商人のフリをしながら潜入捜査中です。既にこの顔写真の男たちの十人ほどを見つけたとの報告が入っており、潜伏先も見つけています」
カイベルは六人って言ってたけど、その後に聞かなかったから大分増えてるってわけか。
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