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第18章

第515話 ダム稼働開始

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 そして一週間が経った――

 ローレンスさんの宣言通り、三日間の点検で不具合は無いとのことで、向きを変えられていた川を元に戻す作業を行い、ダム湖に川の水が流入するようになった。
 向きを変えられていた川を元に戻す時の水路は事前にきちんと整えられていたため、川の方向を変える作業は二日ほどで終了。
 最後の仕上げと言うことで、我が町のレッドドラゴンも総出で作業を行ったためごく短時間で済んだ。
 ダム建設中に臨時の川になっていた場所はそのまま川の形で残された。予期せぬ大雨などで川が氾濫した場合に、そちらへ水を逃がして氾濫を防げるようにとのことらしい。

 そして、完成の竣工式が行われた。
 竣工式については、潤いの木が植え替えられ、川が完成した時に行っているため割愛。 (第168話参照)
 ただ、前回のように屋外で町民全員を呼ぶ、というような派手なことは行われず、参加してくれた工事作業員だけでダム近くに建てられた仮宿舎の中でこじんまりと行われた。
 前回と大きく違うのは、町でお酒が生産されるようになったため鏡開きが行われ、建設に参加してくれたヒトたちに振る舞われたこと。
 フィンツさんら三人も局所的ながらダム建設に参加していたため、主にドワーフさんたちがガバガバ飲んでたなぁ……私も嗜む程度にいただいた。
 ローレンスさんはドワーフながら控え目な性格なため、酒も控えめなのかと勝手に思っていたが、ここぞとばかりに浴びるように飲んでいた。性格が控え目なのとお酒が控え目なのは比例しないらしい。

 大いに貢献してくれたレッドドラゴンたちにも振る舞われた。
 フレアハルトはあまり酒が好きではないらしくあまり飲んでおらず。レイアとアリサは大分ほろ酔い。普段とは逆に介抱に回っており、珍しい光景を目にした。アリサは船酔いはしないが酒酔いはするらしい。
 工事の中期の頃にフレアハルトに無理矢理 (?)参加させられて手伝ってくれたルルヤとリースだが (第364話参照)、彼女らは酒を飲んでも普段通りの関係性。ルルヤが飲みまくって潰れてしまったため、リースが介抱していた。
 安心したのは、全員ドラゴンの姿に戻って暴れまわるとか、そういうことが無かったこと。
 巨大生物は酔って千鳥足で歩き回るだけで被害が出そうだし……

 また、余談ではあるが、今回はアルトレリア新聞社の取材が来ていた。
 これにより竣工式の鏡開きのシーンが写真に撮られて新聞に掲載され、ダムの完成がアルトレリア中に知られることになる。

 そしてこの時より、ダムの完成に際して電気が純粋魔力に変換されるシステムが確立し、設備さえ整っていればアルトレリアの町中で電気が利用できるようになった。

   ◇

 時を同じくして――

 我が家も一週間かけて、玄関先、リビングダイニング、キッチン、お風呂場、トイレ、私・リディア・カイベルの私室と、我が家の全ての部屋に電灯が設置された。
 ダム稼働直後という、ちょうど良いタイミングで工事を終えてくれた。

「「おーーー!」」

 リディアとネッココから歓声が上がる。

「遂に明かりが点けられるんだナ!」
『私やりたい私やりたい!』
「私もやりたイ!」

 外が薄暗くなっている中、リビングの初通電を取り合う。

「リディアは自室があるからネッココに譲ってあげたら?」
「ムーッ! 仕方ないナ!」

 ネッココが電灯を点けるためにスイッチのところへ動く。
 ネッココの主な生活スペースであるリビングダイニングについては、彼女が小人クラスの大きさしかないのを考慮して、ネッココが届く場所へのスイッチの配備も抜かりない。
 身長が五十センチほどしかないため、床から大体三十センチほどのところにスイッチを配備してくれている。 (身長については第426話参照)

『じゃあ点けるわよ?』

 ネッココがスイッチを入れ、『パチッ』という音が響く。少しして部屋が明るくなった。

「「おお~~!!」」

 再びの歓声。
 ただスイッチを入れただけなのに、リディアとネッココ大興奮。
 が、すぐに真っ暗に!

「あれ? どうしタ?」
「どうしたの? まさかいきなりの停電?」

 と思ったら、すぐにまた明かりが点いた。
 と思ったら、激しく明滅を繰り返す。

「調子悪いのかしら……?」

 カイベルらしくない結果だな……と思っていたら、

「いえ……」

 とカイベルが答え、何かを指し示している。
 指さした先でパチッパチッと音がする。
 ネッココが面白がってスイッチのオンオフを切り替えてるだけだった……

「お、脅かさないでよ……電気設備敷設に失敗したかと思ったわ……」
スイッチコレ押すだけで、明るくなったり暗くなったり楽しいわ!』
「あんまり頻繁に切り替えると電気代高くなるからほどほどに……」

 ん? 電気代?

「そういえば電気代ってどうなってるの?」
「ローレンス様が、電気会社を作っておいてくれました」
「お~! 至れり尽くせり!」
「ローレンス様たちは近々お帰りになるそうですが、しばらくは部下のヘンリー様が残って、役所で選別した方々に電気関係のノウハウを叩き込んでくれるそうです」

 そっか……ダムが完成したってことはもう帰る話になるわけか……

「電気会社は現状は国の運営になります。先ほど電力担当の方が家に来られました」
「家に来た? 来て何をしてったの?」
「電力消費メーターを取り付けて行きました。それと電気消費の契約書を」

 契約書?
 あ……ああ、今後はそういう話になっていくのか。
 随分と文明的な話になってきたなぁ……
 『先進国と比べ、後進国の方が文明が発展する速度が格段に早い』なんて話を聞いたことがある。きっと文明が発達したところの技術をそのまま取り入れられるから早いんだろうな。
 先進国は試行錯誤して正解に行き着くけど、後進国は最初から正解を教えてもらえるわけだからね。うちの場合も雷の国エレアースモという先進国から技術を教えてもらえたから早いのだろう。

「で、料金は引き落とし?」
「はい。私が契約書類に記入しておきました」
「ご苦労様」

 電線とか無いから電気を消費した分の金額はどう払うのかと思っていたけど……きっちり料金請求するそういう機械があるわけね。

「というわけで、あまりパチパチしないようにね、二人とも!」
『何で点けたり消したりはダメなの!?』
「点けた瞬間に電気が沢山流れるから、点けたり消したりを繰り返すとその分電気料金が高くなるのよ」
『そうなの!?』
「へぇ~、そうなのカ~」

 頻繁な点滅を繰り返すことで電気料金が高くなるのは常識的な話、そう思っていたがカイベルの言葉でその常識をひっくり返された。

「いえ、電気料金自体は大した差はありません」
「えっ!? 『あまり頻繁にオンオフを繰り返すと電気代が高くなるからやめろ』って言われたことがあるんだけど!?」
「対した差はありません」
「そ、そうなんだ……知らなかった……」
「じゃあ、別に何回点けたり消したりしても良いってことなのカ?」
「いえ、頻繁なオンオフを繰り返すことにより蛍光灯の寿命が短くなるため、頻繁な切り替えをしない方が良いのは間違い無いと思います。平均寿命一万時間と言われており、一回の点滅で三十分寿命が短くなると言われています」
「じゃ、じゃあたった二回で一時間……」

 ネッココは何回やってたのかしら……?
 激しく明滅してたから十回? 二十回?

「頻繁なオンオフで電気代は変わらないとしても、買い替え時が早く訪れてしまうので、節約を考えるならしない方が良いでしょうね」

 リディアが何だかそわそわしている。

「それで、やっぱり何回も点けたり消したりはダメなのカ?」
「やめた方が長く使えるってさ」
「そっカ……リディアもネッココみたいなことやってみたかったんだけどナァ……」

 初通電はネッココに譲った上に、こういった (子供にとっては)面白いこともやれないとなると、何だかちょっと可哀想ではあるな……

「じゃあ今日だけは何回やっても良いことにするわ。二人とも今日一生分やってしまって!」
『もっとやって良いの!?』
「やっタァ!」

 ちょっとの時間でも集中的にやれば飽きてやらなくなるだろ。
 何せ、電灯が点くか消えるかのことだし、視覚効果は別段面白いというわけでもない。

 ――そう思っていたのだが……

 いつまで経ってもパチパチが鳴り止まない……
 一旦止まったかと思うと、スイッチの横を通り過ぎる時にパチパチ、クリューが食事してる際に悪戯のようにパチパチ、夜中になってもことあるごとにパチパチ。
 夜十二時を過ぎて日を跨いでもスイッチの近くに行く度に繰り返すため、流石に、

「二人ともいい加減にしなさい! 早く寝ろ!」

 の一言でやっと終わりを告げた。
 散々パチパチを繰り返したため、この日以降はオンオフを繰り返すということも無くなった。その点は思惑通り。
 だが……光魔法の時は強制的に光を消してしまえばあとは就寝するだけという状態だったが、自由に明かりの切り替えができるようになったことによって、夜更かしが可能になってしまった。

   ◇

 数日後――

 ダム建設作業員で来てくれたローレンスさん、ジョンさん、ハーバートさんが雷の国へ帰るということで見送りに行った。

「ダムの建設の指導、ありがとうございました! お蔭で我が町も一段と文明が進歩しました」
「いえ、ここで過ごした日々は我々にとっても有意義でした。また何かお手伝いすることがあればお声がけください」
「じゃあな、たまには酒を飲みに来ると良い」

 ヘパイトスさんの兄弟子であるフィンツさんの言葉。ルドルフさん、フロセルさんも三人を見送る。

「はい。じゃあヘンリー、後のことをお願いしますね」
「了解」

 カイベルからの前情報通り、ガーゴイル族のヘンリーさんだけ残るらしい。

「はい、ではまたお会いしましょう」

 と一言言い残し、三人は雷の国からの迎えで空間転移魔法で帰って行った。
 今回も通例通り宝石を三人にお守りとして贈った。贈ったのは雷によって発見されたと言われているタンザナイト。通例のことなので詳細は割愛。
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