建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~

ヒロノF

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第18章 発展のアルトラルサンズとその影編

第504話 ウィンダルシアの思惑

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 雨も止んだため第二地区も一通りパトロールし、役所へ戻って来た。どうやら通り雨だったようだ。

「パトロールはこれで終わりですか?」
「以前ならね。でも今は第一壁の外に各国から隊商が沢山集まるようになったから、そっちもパトロールしないと」
「国家元首なのにそんなことまでなさっているのですか!? そんなことは警察の仕事だと思いますが?」
「うん、まあ大体は警察組織がやってくれるんだけど、それに加えて私がパトロールすればその分警戒回数が増えるしね。まだまだ小さい国だから私も出張らないといけないわけよ」 (第295話にて自警団から警察に格上げされています)
「しかし国家元首が率先してトラブル解決までするというのは……」

 役所前で少し立ち止まって話していると、イザベリーズが慌てて役所から出て来た。

「アルトラ様! ちょうど良いところに帰って来てくれました!」
「どうかした?」
「他国から訪れた隊商同士で言い争いがあって、今喧嘩になってるみたいです!」
「喧嘩!?」

 最近訪れる人数も多くなってきたためか、国を開いてから初めてのケースかもしれない。

「警察が鎮圧に行ってますが、アルトラ様も行っていただけるとありがたいのですが……」
「了解、ちょっと行ってくる」
「警察が出ているのなら任せておけば良いのでは? 国家元首がやることではないと思いますが……」
「うちの警察、人数も少ないし、まだまだ成熟してないからそんなに強くないのよ。アルトレリア内の亜人だけならまだ良いんだけど、他国はどんな屈強な亜人や魔人がいるか分からないし。あなたも鎮圧の手伝いしてくれると嬉しいんだけど」
「……分かりました」

   ◇

「オラァッ!」
「グフッ!!」
「くたばれや!」
「痛ってぇなぁ!! クソがッ!」

 いざ現場に行ってみると、一部殴り合いにまで発展している……

「やめなさい!」
「うるせぇな! アイツラを止めろよ!」
「やめろ!」

 うちの警察も頑張ってるけど、ちょっと厳しいかな……もうちょっと訓練が必要かも。

 拡声器を持って大声で叫ぶ。

「喧嘩をやめなさい!!」

 その声に反応したのか、一瞬だけこちらを見たものの、それでも止まらない。
 このままだと深刻な流血沙汰まで発展しそうだ。

「仕方ないな……ウィンダルシア、真の姿を見せてあげて。あなたなら多分一瞬で収められると思う」
「……分かりました」

 エイビス族のウィンダルシアは、十メートルはあろうかという恐竜の頭と特徴を持つ巨鳥の姿に変身した。

「喧嘩を止めろ!」

 ひと羽ばたきし、現場は風が巻き起こり、砂埃が舞う。
 巨鳥という視覚効果はかなりの効果があり、巨鳥ウィンダルシアが登場した瞬間に喧嘩が止まり、みな恐怖で引きつった表情に変貌する。

「おぉ……」
「な、何だあの巨大な……鳥は!? いや、恐竜か?」
「どこから来たんだ! み、みんな逃げろ!」
「つ、積荷はどうするんだ!?」
「そんなもんは置いて逃げろ! 命が大事だ!」

 喧嘩が止まったのは良いが、突然現れた巨鳥に恐れをなして一目散に逃げて行く。

「ちょ、全員捕まえて!」

 現場の警察官たちに命令する。

   ◇

 少しすると、それぞれの警官が喧嘩していた二つの隊商のメンバーを捕まえて戻って来た。

「くそっ! 離せ!」
「俺たちは悪くない! アイツらが!」

 全員後ろ手に捕まれ、私の前に並べられる。

「さて、喧嘩の原因は何かしら?」

「何だこの小娘は……」
「さっきから何なんだ! お前には関係無いだろ!」
「小娘が何の権限があって口を挟むんだ!」
「このド田舎のくせに、警察まで出張りやがって!」

 この期に及んでもまだ悪態を付く二つの隊商を見てウィンダルシアが――

「この……無礼者どもがぁぁ!!」

 ――と、一喝した。
 怒号と共に突風が吹き荒れる。

「「「ひぃぃぃっ!!」」」

 この大きさの巨体に一喝され、恐怖心の籠った悲鳴を上げる両隊商の面々。

「このお方をどなたと心得ているのだ! 貴様らが口答えしたのは、アルトラルサンズの国主・アルトラ様だ! 控えろ!」

 何だか『このお方をどなたと心得る! 水戸光〇公にあらせられるぞ!』の口上のようだ。

「「えっ!?」」

「あ、あなたがアルトラ殿……?」
「し、失礼しました!」

 だが、ウィンダルシアのその一言により、場が静かになった。

「場を収めてくれてありがとう助さん……じゃなかったウィンダルシア。もう元に戻って良いよ」

 しまった……よそ事考えてたら言動が思考に引っ張られてしまった……

「助さん?」
「いや、間違えただけ、忘れて……」

 エイビス形態から人型へと変身する。

「それで、一体どんな理由で喧嘩を?」

「こ、こいつらの隊商が私どもの荷馬車を押しのけて停泊しようとしたんですよ!」
「何だと貴様! 我々が先に目を付けたんだ! 押しのけようとしたのはそっちだろ!」
「後から来たのは貴様らだっただろ!」

 つまり、ほぼ同時に同じ場所を陣取ろうとしたわけか。

「ストップストップ! 停めるところは他にもありますよね? 別にここじゃなくたって……」
「この辺りの地面はコンディションが良いのですよ」

 う~ん……確かに……さっきの通り雨の影響かな? 周りはちょっとぬかるんでいる……
 『コンディションが良い』と言っていた地面は少し高くなっており水はけが良いようだ。逆にそれ以外は低地にあって水が溜まりやすくなってるみたいだ。
 多くの隊商が訪れるため、その『コンディションが良い地面』の場所取りは密かな争奪戦になっているらしい。
 商人が言うように、車輪も泥跳ねで大分汚れている。

「じゃあ、この場に限って言えば、地面が乾いてさえいれば解決するということですか?」
「そりゃもう」
「乾いてるなら率先してどいてやりますよ」
「なるほど、分かりました」

 【亜空間収納ポケット】から『地面乾燥くん』を取り出して転がす。

「な、何ですかそれは?」
「地面を乾燥させる魔道具です。ちょっと待っててね」

 田んぼ以外に使うところは無いかと思っていたが、ボレアースの谷底の水分取ったり、通り雨の水分取ったりと、結構出番があるな『地面乾燥くん』。

 それほどの水分量ではなかったため、十分足らずで地面から水分が消えた。

「さ、これで良いかしら?」
「は、はぁ……はい、すぐどきます」
「じゃあ、これで解決ってことで。次暴れたら逮捕しますからそのつもりで」

「「わ、分かりました……」」

 『逮捕しますから』とは言ったものの、この町にはまだ拘留設備は無い。
 悲しいことに、今後こういうことも増えていくだろうから作っておかなくちゃならないのかな……

「さて、ここは収まったみたいだから、あなたたちも通常業務に戻って良いよ」

 喧嘩を止めに入ってくれた警察官たちに解散を促す。

「「「了解!」」」

「さて、これでパトロールも終わりだし、家に帰ろうかな」

 本日最後のパトロールをしながら我が家へ徒歩で帰る。その道すがら、ウィンダルシアがこんなことを言い始めた。

「アルトラ殿、あなたはこの国の国家元首なのですよね?」
「え? なに突然改めて確認するように? 一応そういうことになってるけど……」
「一般庶民との距離が近過ぎではないですか?」
「そうかな?」
「仮にも一国の王なのですから、もっと毅然とした威厳のある振る舞いをした方が良いと思いますが? 気軽に喫茶店で昼食を食べる国家元首など聞いたことありません。普通なら店を貸し切って、店の周りを護衛で囲むところですよ?」
「う~ん……ウィンダルシアの言いたいことは分からなくはないけど……私は突然一国を任されただけの一般人だからね。この国に多少ヒトが増えてきたとは言え、国民の数だけで言えば町長程度の数しかいないわけだし。大国を担ってるアスタロトと比べるのはやっぱり違うと思うのよ」
「確かに人数は違いますが、一応大国にすら国と認められているわけですし……」

 ウィンダルシアは自分の発言に気付いてないかもしれないが、現状は『一応』って付けられる辺り、ギリギリ国と認められてる程度ってことだ。

「でもね、部族程度の人数しかいない町の王様と数百万数千万人が暮らす大国の王様と比べる? 今しがた出来たばかりの国の王様と数千年の歴史のある大国の王様と比べる? どう考えても同じように考えるのは無理があるでしょ?」
「そ、それはそうかもしれませんが……」
「私はたまたま大国にとって便利に利用できる能力と特殊な立場を得ただけで、別に特別偉いわけじゃないからね」

 まあ……『暴食』の大罪風の国の王の証を得たことを考えると、彼らが考える『偉い方の王様』に当たるのかもしれないが……
 でもこれは絶対秘密だから、魔王の力を使わないと繰り抜けられないような大惨事でも起こらなければ、未来永劫明かすことも無いだろうからね。

「しかし! 魔界全土がこの中立地帯に注目している状態です。それであのような軟化した態度で接していれば、いずれ付け込まれる可能性がありますよ!」
「うん、まあ付け込まれないように気を付けるよ。こう見えて修羅場をいくつかくぐってきてるからね」

 この軽い言い草に、ウィンダルシアの顔がムムムと言っている。

「ところでさ、アスタロトって、普段そんなに毅然として威厳がある態度を取っているの?」
「それはもう公私を分けてご立派な振る舞いをしておられます」
「そ、そうなんだ……」

 私の前でそんなきちっとした振る舞いしてたかな……?
 だとしたら私と接してる時は『公私』の『私』の方が出てるのか?

「アスタロトが前代ベルゼビュートの私に対して平身低頭になってるから、あなたは私のことを偉いと思い込んでるようだけど、それは勘違いだから」
「しかし実際にアスタロト様が貴女を尊重しているのは事実ですし……」
「だとしても前代は前代で私は私だから。現在は風の国の女王でもないし、既に別の国の所属なのだから、あなたが私を上司であるかのように振る舞う必要は無いのよ」
「そうだとしても貴女を守るのが、我が国の魔王代理から私に課された任務ですので」

 融通が利かないな……

「はぁ……分かった。じゃあ私が何で『護衛は不要』と言ってるのか教えてあげる。我が家の庭に行きましょうか」

   ◇

 我が家へ帰って来た。

「カイベル、ちょっとお手伝いをお願い」

 カイベルを庭へ呼ぶ。

「あなたは私が『鋼鉄の乙女アイアン・メイデン』って二つ名付けられてるのを知ってるよね?」
「存じています、ティナリス団長が吹聴していたので」
「その理由も知ってる?」
「身体が鋼鉄のように硬いからということでしたよね? ただ……それは貴女に触れた時に確認しましたが全く硬くはありませんでしたので、ティナリス団長の勘違いだと判断しました」

 う~ん……真面目! と言うか石頭!

「そこまで分かってるなら結構。じゃあ、実際に自分で確認してもらいましょうか。カイベル、例のパフォーマンスをウィンダルシアにも見せたい。剣で斬りかかってきて」
「分かりました」

 と言いつつ、カイベルは物質魔法で剣を作り出した。
 私は腕を水平にして待つ。

「斬りかかる? まさかその剣で腕を斬るのですか? おやめください! また腕を失ってしまいますよ!」

 ウィンダルシアの心配を無視して斬撃パフォーマンス。

   ◇

 斬撃パフォーマンスを見たその後は、ドリアード姉妹に見せた時と同じ反応。 (第305話参照)
 ウィンダルシアは、折れて飛んで行った刃を見て唖然としていた。

「な、なぜ剣の方が折れるのですか……? 貴女はウロコも装甲も無い、ただの亜人の、生身の腕なのに……」
「さあね、そういう体質だからとしか言えないかな。だから滅多なことで命の危機に陥ることは無いのよ。疑うならあなたも斬り付けて良いよ?」
「いえいえいえいえ!! そんなことは流石にできません! しかし、解せないのは、なぜそれほどの防御能力がありながら、女帝蟻との戦いでは四肢が切断されるほどの大怪我を負ったのですか?」
「ん? う~ん……」

 Lv11でしかダメージを受けないこの特性のことはあまり知られたくないことだし……そもそもゲームの無いこの世界で『Lv11の攻撃が――』なんて話をしたところで理解されない。
 フレアハルトの前では何回か『Lv11、Lv11』って言ってしまった気がするけど、私の身体の特性については話してはいない。
 何て答えたら良いんだろう?

 言い淀んでいると、独自に解答を導き出してくれた。

「もしや……魔王ほどの魔力の持ち主相手では、その頑丈さでもダメージを負ってしまうということでしょうか?」
「ま、まあ多分そういうことかな」

 当たらずとも遠からずだし、こう思わせておけば良いか。

「そういうわけで、この町に魔王に匹敵する魔力の持ち主は居ないから、今後は毎日毎日護衛をしに我が家を訪れなくても大丈夫だから」
「分……かりました……」

 やれやれ……ようやく理解してくれたか。彼は真面目過ぎる故か、自分が直接見たものでないと信じにくいのかもしれない。
 とは言え、今後我が家のドアの前で黙って立ってることも無くなりそうだ。

「しかし、私はどうすれば……? 任務放棄して風の国に帰るわけには行きませんし……」
「だったらこの町で警察官の武力向上をお願いしたいわ。どれくらいの能力かはさっき見たでしょう? まだまだ国を守るには力不足は否めないから彼らの指導教官をお願い」
「確かに……あの程度のトラブルの鎮圧に手間取っているようでは、いざ有事が起こった際には不安が残りますね」

 この国の警察は、まだまだ出来たばかりの組織だから精彩を欠く。体力、武力もまだまだだ。
 そこに騎士団員でも精鋭に所属するウィンダルシアが鍛えてくれるなら願ってもない。

「それと同時に町の警備もやってもらえると助かる。水の国の元騎士トーマスと共に武術指南にも就いて、有事の際を見越してこの町の戦力を増強してもらえるとありがたいわ」
「分かりました。その任務承りましょう」

 突然、『私の護衛をする』なんてやって来てどうなるかと思ったが、貴重な戦力を得た。
 もし本当に有事が起こっても真面目な彼ならこの町を守ってくれそうだ。
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