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第17章 風の国ストムバアル『暴食』の大罪騒乱編
第497話 全部が不可解…… その1
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フレアハルト帰還の翌日。
フレアハルトたちの住む借家にて――
「おう! フレハル! 今日は仕事出られるのか?」
フレアハルトたちの借家を訪れて、そう聞くのはアルトレリアの建築を請け負う親方のトーリョ。
「今日はまだ用事があるから明日からにしてもらいたい」
「お前さんが居ると居ないとじゃ仕事の速さが全然違うからな、早く帰って来てくれよ」
「すまぬな」
「仕方ねぇな」
トーリョは帰って行った。
「フレハル様、どこか行くんですか?」
「アルトラに帰って来た時の状況を聞かれておるから、その説明に行く」
「で、では、わたくしたちは何でも屋の仕事を再開しておきます」
「じゃ、じゃあ、私も帰って来て早々、海の方への運搬頼まれてるから行って来ますね」
何だかよそよそしいなと考えるフレアハルトだったが、詳しい説明を二人にも聞いてもらうべく引き留める。
「いや、お主らも来てくれ、詳しく話しておきたい」
「でも、帰って来れた理由なら昨日聞いてるじゃないですか~」
「昨日とは違う話だ。ここで言うより集まってもらって話した方が手間が少ない、頼む。それに……何だかアルトラとの関係が変ではなかったか? よそよそしいと言うか」
「「うっ……」」
フレアハルトが居ない時にアルトラに対して冷たい態度を取ったことがわだかまりとして二人の心に残っていた。
「それについての解消もしておけ。どうせ大した理由では無いのだろう?」
「「大したことはあります!!」」
「お、おう……そうか。ではまだ顔を合わせたくないのか? もしそうなら無理強いはしないが」
「……いえ……確かに修復は早い方が良いですね。わたくしも同行します」
「じゃ、じゃあ私も行きますよぉ……」
◇
フレアハルトが我が家を訪れた。
アリサとレイアも同行して来て真っ先に謝られた。
「せ、先日はアルトラ様を無視するような態度を見せてしまい、申し訳ありませんでした!」
「わ、私も『話しかけないで』なんて言ってごめんなさい!」
「い、いや、状況考えたら当然の身の振り方だと思うから……原因作ったのも私だしね……まあこの話はこれで終わりにしましょう。フレアハルトも無事に帰って来たし」
「「はい!」」
「何があったのか知らんが、わだかまりは解消できたようだな」
フレアハルトにどうやって生き延びたのか説明を求める。
「それで……どういうことなのか全部説明してもらえるのよね? 人伝でだって連絡してくれれば良かったのに、それすらできなかったのはどうして?」
「まだ理由を聞いてませんが、どうしてわたくしたちまで同行されたのですか?」
「昨日私たちには赤龍峰で説明してくれたじゃないですか~。あれで終わりじゃないんですか?」
それぞれが疑問を口にするとフレアハルトが話し始めた。
「ああ、どうやって生き延びたかだが、赤アリの爆発攻撃によってカゼハナから数十キロ飛ばされて辛うじて生きていられた我は現地の住民に救われた」
「現地の住民?」
「ああ、光の精霊でな、その村で医者をしておる者だ。その者が居らねば我は生きてここにはおらんだろう。そこで傷が癒えるまで世話になった。回復したのが一週間前で、そこから一週間かけて歩いて戻って来たのだ」
「なるほど、だから二週間も行方不明だったのね」
黙って頷いたが、この話おかしい……風の国に居たなら、カイベルが捕捉できなかったはずがない。
何か裏があるな。
「昨日私たちに話してくれたのと同じ話じゃないですか~」
「わたくしたちに言わなければならないこととは何なのですか?」
「ああ、聞いてほしいのはここから先だ。ここまでが我が表向きに考えた“嘘の”生存話だ」
「嘘!?」
「赤龍峰の方たちには嘘を教えたということですか!?」
「ああ、すまぬな、真実の方は……説明したとて多分にわかに信じる者はおらん。が、ここに居る者は全員関係しているから、お主ら二人にも同行してもらった」
「関係している?」
「わたくしたちまでですか?」
ここに居るのは私とカイベルを含めて五人。全員に関係していることなのか?
フレアハルト以外の四人は恐らく赤アリとは一切関わってないのにどんな関係が?
「ああ、だが町の者に聞かれた時には“嘘の方”を伝えておくから、“真実の方”はここだけの秘密にしてくれ。我にも分からんことだらけだから話題にされるのも面倒だ。カイベルも頼むぞ」
「了解しました」
「分かったよ」
「「分かりました」」
そして、一度深呼吸して話し始めた。
「生き延びた方法は我にもよく分からん。だがどうやら我は冥球とは違う……恐らく異世界に行っていたらしい」
「は?」
カイベルの捕捉不可能条件4つ目、まさかの『異世界』説!? (第494話参照)
「何でそこが異世界って分かったの?」
「なぜって……魔界とは景色そのものが違っておったからな。こんな魔界の暗々とした空ではなく、目も眩むような明るさだった。金色に輝いておって、金色の雨が降るようなそんな不思議なところだ。空には更に煌々と輝く光が見えてな、あれが本物の太陽というやつかと直感した」
何だか私たち地球人が想像する死後の世界みたいだな……
ホントはどこかで仮死状態にでもなってたんじゃ?
「そこでとある人物に出会った」
そこからはその“謎の人物”との会話の再現で説明してくれた。
(※今回から三話に渡り少々特殊な書き方をしています。▼から次の▽まではフレアハルトの過去回想と独白、▽から次の▼までは現在での会話劇でアルトラの一人称となります)
▼
時は赤アリとの戦闘まで遡る――
赤アリの爆発が目前に迫る中、
「さて……我はここからどうするか……万事休すか……我一人ではもう打つ手が無い。このまま飛び続けてもすぐに追いつかれるだろう……さらばだフレイムハルト、アリサ、レイア、父上、アルトレリアの皆、そしてアルトラ……」
まあ、何だ……一応今生の別れを口にしたのだがな……
言い終わると同時に爆発に巻き込まれ焼失……するかに思われたのだが、偶然にも我の目の前に空間の揺らぎが見えたから、空間転移ゲートかと思って慌てて飛び込んだのだ。
だが、もう尻に火が点いておってな――
「あちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃ!!」
などと言いながら空間転移した先で転げ回ることになった。
多少火傷してしまったが、致命傷には至らずに済んだのが幸いだったな。
▽
空間の揺らぎって【ゲート】を使う時に起こる現象だけど……“空間の裂け目まで発展してない状態の”疑似ゲートって感じだったのかな?
「わたくしたちが燃やされるなんて、そんなことがあるのですね……」
「そうだな、我々を燃やせる生物は少ないながら存在するらしい。我も初めて遭遇した」
「でも、何だか直前まで命の危機だったのに、一気にマヌケな展開ね~……」
「そこがフレハル様の良いところですよ~」
「……まあ続きを聞け」
▼
空間の揺らぎに飲み込まれた先に一人の女が居ってな。
この女が本当に謎の女だった。
「あれ~、フレアハルトさんじゃない? 何で火だるまになってんの?」
突然名前を呼ばれてビックリした。
なぜなら、名前を呼んだこの女が誰なのか全く見当も付かん。会った記憶すら無い。
見た目は人間や亡者のような容姿だった。体色はアルトラや人魚たちに近く、髪の色はカイベルのように黒かった。ウロコとか獣毛とか、そういったのは見たところ生えてるようには見えんかったから、恐らく魚人や獣人ではない。
「今日はアリサさんとレイアさんは一緒じゃないのね。お付きだって聞いてたから常に一緒だと思ってたよ」
どうやらアリサやレイアとも顔見知りらしいが……
誰だか全く分からんから言葉が出ずに困っておったところ、
「あ! その顔! 私のこと忘れてる? 私、私、ミスティアだよ!」
自分に指をさしながら「『ミスティア』だよ」、とか言ってるがその名前にも心当たりは無い。
▽
「向こうははっきり顔と名前覚えてるのに、あなたは覚えてないの? ちょっと失礼じゃない?」
「いや、そもそも推定:異世界だぞ? そんなところに知り合いが居ることがおかしいと思わぬか?」
「そういえば、確かにそうね……」
「その方は、わたくしたちのことまでご存じだったのですか?」
「ミスティア……う~ん、人間のような容姿で黒髪なんて亡者やカイベルさん以外に見たことないけど……昔会ったことがあるヒトの誰かですかね?」
「三人とも分からないの?」
全員が忘れてることなんてある?
フレアハルトは分からなくても、常に側近として気配りしているこの二人まで分からないというのは……どういうことだ?
「それに、お主のことも知っておったようだぞ?」
『アルトラは元気? カイベルさんやリディアやネッココは? ケルベロスは?』
「と、言っておったからな」
「はぁ~!? 私の名前まで!?」
誰だ『ミスティア』って……全く思い出せない……
わ、私も失礼なヤツだったか!!
しかも私の名前だけでなく、カイベルたち三人 (+一匹)まで!?
ケルベロスのことまで知ってるってことは私はそのミスティアを我が家に招待したことがあるってことなのかしら……?
全く記憶に無いってことは、記憶消されたりしてる?
「誰だか思い出せたか?」
「い、いや……そんな名前の女のヒトに出会った記憶は無い……そもそも私は異世界へも行けないし……」
仮に異世界に行ける術があったとしても、この身体に備わった『冥獄の枷』の効果で私は魔界からは出られないから行けるはずがない。 (『冥獄の枷』については第105話参照)
かと言って前世でも会った覚えが無い……いや、『アルトラ』呼びだったってことは、やっぱりこの魔界で会ってるのか?
小声でカイベルに訊ねてみる。
「……カイベルなら分かる……?」
流石にカイベルなら覚えてるだろう……と期待したのだが……
「……いえ……『ミスティア』という名前の方は魔界にもいらっしゃるようですが……アルトラ様が出会ったことがある方は一人もおりません……」
「……ホントに……!? あなたが分からないってどういうこと……!?」
「……現時点では何とも……」
カイベルにすら分からないということは、私が記憶操作されてるわけでは無いらしいな……
また、不測の事態が起こってるのか?
やっぱりこことは違う『異世界のこと』だから?
女帝蟻に続いてのトラブルはゴメンなんだけどな……
「密談は終わったか?」
「ああ、はいはい! 続きをどうぞ」
▼
名前を聞いても誰だか分からんから、困っておったところ、どこからか低い声が聞こえて奇妙なことを言い出したのだ。
『お前が出会った時間軸のフレアハルトではないのではないのか?』
「あ、そうか。このヒトは私のことを知らないフレアハルトなのか」
「誰だ!? 他にもヒトが居るのか!? どこに居るのだ!?」
と周りを見回してみたが誰もおらず、次の言葉でどこから聞こえているかが分かった。
「ああ、これ私の身体の中から聞こえてる声だから、気にしないで…………う~ん、まあ紹介しちゃおうか、二回目だし」
すると、その女の腹辺りから、白とも銀色ともつかぬ何かがニュっと出てきてヒトの形を模してな、こう紹介された。
「この人 (?)は『テアラース』、まあ見た通り人間じゃないけどよろしくね」
とな。
▽
今『人間』って言った?
ってことは『ミスティア』って人が居る異世界は地球? いや、地球ならカイベルが観測できるはずだし、そもそも地球では魔法は使えない。
もしかして別次元にある“地球”の“人間”なのか?
それに『時間軸』って……時間魔法で過去や未来へは行けないってカイベル言ってたのに……この『ミスティア』にはそれが可能ってことなのか。
まだ今の時間軸で会ったことがないってことは、今後その子が私の前に現れる可能性があるわけか。
これら全部が、この魔界とは別次元だから時間魔法のルールが違ってるとかなのかしら?
『テアラース』ってヒト (?)のことも気になるわ。聞いてる限りは、人間に寄生する生命体かしら? 体色は白とか銀色とか言ってるし、しゃべってるから知的生命体みたいだけど……まさか宇宙人?
フレアハルトたちの住む借家にて――
「おう! フレハル! 今日は仕事出られるのか?」
フレアハルトたちの借家を訪れて、そう聞くのはアルトレリアの建築を請け負う親方のトーリョ。
「今日はまだ用事があるから明日からにしてもらいたい」
「お前さんが居ると居ないとじゃ仕事の速さが全然違うからな、早く帰って来てくれよ」
「すまぬな」
「仕方ねぇな」
トーリョは帰って行った。
「フレハル様、どこか行くんですか?」
「アルトラに帰って来た時の状況を聞かれておるから、その説明に行く」
「で、では、わたくしたちは何でも屋の仕事を再開しておきます」
「じゃ、じゃあ、私も帰って来て早々、海の方への運搬頼まれてるから行って来ますね」
何だかよそよそしいなと考えるフレアハルトだったが、詳しい説明を二人にも聞いてもらうべく引き留める。
「いや、お主らも来てくれ、詳しく話しておきたい」
「でも、帰って来れた理由なら昨日聞いてるじゃないですか~」
「昨日とは違う話だ。ここで言うより集まってもらって話した方が手間が少ない、頼む。それに……何だかアルトラとの関係が変ではなかったか? よそよそしいと言うか」
「「うっ……」」
フレアハルトが居ない時にアルトラに対して冷たい態度を取ったことがわだかまりとして二人の心に残っていた。
「それについての解消もしておけ。どうせ大した理由では無いのだろう?」
「「大したことはあります!!」」
「お、おう……そうか。ではまだ顔を合わせたくないのか? もしそうなら無理強いはしないが」
「……いえ……確かに修復は早い方が良いですね。わたくしも同行します」
「じゃ、じゃあ私も行きますよぉ……」
◇
フレアハルトが我が家を訪れた。
アリサとレイアも同行して来て真っ先に謝られた。
「せ、先日はアルトラ様を無視するような態度を見せてしまい、申し訳ありませんでした!」
「わ、私も『話しかけないで』なんて言ってごめんなさい!」
「い、いや、状況考えたら当然の身の振り方だと思うから……原因作ったのも私だしね……まあこの話はこれで終わりにしましょう。フレアハルトも無事に帰って来たし」
「「はい!」」
「何があったのか知らんが、わだかまりは解消できたようだな」
フレアハルトにどうやって生き延びたのか説明を求める。
「それで……どういうことなのか全部説明してもらえるのよね? 人伝でだって連絡してくれれば良かったのに、それすらできなかったのはどうして?」
「まだ理由を聞いてませんが、どうしてわたくしたちまで同行されたのですか?」
「昨日私たちには赤龍峰で説明してくれたじゃないですか~。あれで終わりじゃないんですか?」
それぞれが疑問を口にするとフレアハルトが話し始めた。
「ああ、どうやって生き延びたかだが、赤アリの爆発攻撃によってカゼハナから数十キロ飛ばされて辛うじて生きていられた我は現地の住民に救われた」
「現地の住民?」
「ああ、光の精霊でな、その村で医者をしておる者だ。その者が居らねば我は生きてここにはおらんだろう。そこで傷が癒えるまで世話になった。回復したのが一週間前で、そこから一週間かけて歩いて戻って来たのだ」
「なるほど、だから二週間も行方不明だったのね」
黙って頷いたが、この話おかしい……風の国に居たなら、カイベルが捕捉できなかったはずがない。
何か裏があるな。
「昨日私たちに話してくれたのと同じ話じゃないですか~」
「わたくしたちに言わなければならないこととは何なのですか?」
「ああ、聞いてほしいのはここから先だ。ここまでが我が表向きに考えた“嘘の”生存話だ」
「嘘!?」
「赤龍峰の方たちには嘘を教えたということですか!?」
「ああ、すまぬな、真実の方は……説明したとて多分にわかに信じる者はおらん。が、ここに居る者は全員関係しているから、お主ら二人にも同行してもらった」
「関係している?」
「わたくしたちまでですか?」
ここに居るのは私とカイベルを含めて五人。全員に関係していることなのか?
フレアハルト以外の四人は恐らく赤アリとは一切関わってないのにどんな関係が?
「ああ、だが町の者に聞かれた時には“嘘の方”を伝えておくから、“真実の方”はここだけの秘密にしてくれ。我にも分からんことだらけだから話題にされるのも面倒だ。カイベルも頼むぞ」
「了解しました」
「分かったよ」
「「分かりました」」
そして、一度深呼吸して話し始めた。
「生き延びた方法は我にもよく分からん。だがどうやら我は冥球とは違う……恐らく異世界に行っていたらしい」
「は?」
カイベルの捕捉不可能条件4つ目、まさかの『異世界』説!? (第494話参照)
「何でそこが異世界って分かったの?」
「なぜって……魔界とは景色そのものが違っておったからな。こんな魔界の暗々とした空ではなく、目も眩むような明るさだった。金色に輝いておって、金色の雨が降るようなそんな不思議なところだ。空には更に煌々と輝く光が見えてな、あれが本物の太陽というやつかと直感した」
何だか私たち地球人が想像する死後の世界みたいだな……
ホントはどこかで仮死状態にでもなってたんじゃ?
「そこでとある人物に出会った」
そこからはその“謎の人物”との会話の再現で説明してくれた。
(※今回から三話に渡り少々特殊な書き方をしています。▼から次の▽まではフレアハルトの過去回想と独白、▽から次の▼までは現在での会話劇でアルトラの一人称となります)
▼
時は赤アリとの戦闘まで遡る――
赤アリの爆発が目前に迫る中、
「さて……我はここからどうするか……万事休すか……我一人ではもう打つ手が無い。このまま飛び続けてもすぐに追いつかれるだろう……さらばだフレイムハルト、アリサ、レイア、父上、アルトレリアの皆、そしてアルトラ……」
まあ、何だ……一応今生の別れを口にしたのだがな……
言い終わると同時に爆発に巻き込まれ焼失……するかに思われたのだが、偶然にも我の目の前に空間の揺らぎが見えたから、空間転移ゲートかと思って慌てて飛び込んだのだ。
だが、もう尻に火が点いておってな――
「あちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃ!!」
などと言いながら空間転移した先で転げ回ることになった。
多少火傷してしまったが、致命傷には至らずに済んだのが幸いだったな。
▽
空間の揺らぎって【ゲート】を使う時に起こる現象だけど……“空間の裂け目まで発展してない状態の”疑似ゲートって感じだったのかな?
「わたくしたちが燃やされるなんて、そんなことがあるのですね……」
「そうだな、我々を燃やせる生物は少ないながら存在するらしい。我も初めて遭遇した」
「でも、何だか直前まで命の危機だったのに、一気にマヌケな展開ね~……」
「そこがフレハル様の良いところですよ~」
「……まあ続きを聞け」
▼
空間の揺らぎに飲み込まれた先に一人の女が居ってな。
この女が本当に謎の女だった。
「あれ~、フレアハルトさんじゃない? 何で火だるまになってんの?」
突然名前を呼ばれてビックリした。
なぜなら、名前を呼んだこの女が誰なのか全く見当も付かん。会った記憶すら無い。
見た目は人間や亡者のような容姿だった。体色はアルトラや人魚たちに近く、髪の色はカイベルのように黒かった。ウロコとか獣毛とか、そういったのは見たところ生えてるようには見えんかったから、恐らく魚人や獣人ではない。
「今日はアリサさんとレイアさんは一緒じゃないのね。お付きだって聞いてたから常に一緒だと思ってたよ」
どうやらアリサやレイアとも顔見知りらしいが……
誰だか全く分からんから言葉が出ずに困っておったところ、
「あ! その顔! 私のこと忘れてる? 私、私、ミスティアだよ!」
自分に指をさしながら「『ミスティア』だよ」、とか言ってるがその名前にも心当たりは無い。
▽
「向こうははっきり顔と名前覚えてるのに、あなたは覚えてないの? ちょっと失礼じゃない?」
「いや、そもそも推定:異世界だぞ? そんなところに知り合いが居ることがおかしいと思わぬか?」
「そういえば、確かにそうね……」
「その方は、わたくしたちのことまでご存じだったのですか?」
「ミスティア……う~ん、人間のような容姿で黒髪なんて亡者やカイベルさん以外に見たことないけど……昔会ったことがあるヒトの誰かですかね?」
「三人とも分からないの?」
全員が忘れてることなんてある?
フレアハルトは分からなくても、常に側近として気配りしているこの二人まで分からないというのは……どういうことだ?
「それに、お主のことも知っておったようだぞ?」
『アルトラは元気? カイベルさんやリディアやネッココは? ケルベロスは?』
「と、言っておったからな」
「はぁ~!? 私の名前まで!?」
誰だ『ミスティア』って……全く思い出せない……
わ、私も失礼なヤツだったか!!
しかも私の名前だけでなく、カイベルたち三人 (+一匹)まで!?
ケルベロスのことまで知ってるってことは私はそのミスティアを我が家に招待したことがあるってことなのかしら……?
全く記憶に無いってことは、記憶消されたりしてる?
「誰だか思い出せたか?」
「い、いや……そんな名前の女のヒトに出会った記憶は無い……そもそも私は異世界へも行けないし……」
仮に異世界に行ける術があったとしても、この身体に備わった『冥獄の枷』の効果で私は魔界からは出られないから行けるはずがない。 (『冥獄の枷』については第105話参照)
かと言って前世でも会った覚えが無い……いや、『アルトラ』呼びだったってことは、やっぱりこの魔界で会ってるのか?
小声でカイベルに訊ねてみる。
「……カイベルなら分かる……?」
流石にカイベルなら覚えてるだろう……と期待したのだが……
「……いえ……『ミスティア』という名前の方は魔界にもいらっしゃるようですが……アルトラ様が出会ったことがある方は一人もおりません……」
「……ホントに……!? あなたが分からないってどういうこと……!?」
「……現時点では何とも……」
カイベルにすら分からないということは、私が記憶操作されてるわけでは無いらしいな……
また、不測の事態が起こってるのか?
やっぱりこことは違う『異世界のこと』だから?
女帝蟻に続いてのトラブルはゴメンなんだけどな……
「密談は終わったか?」
「ああ、はいはい! 続きをどうぞ」
▼
名前を聞いても誰だか分からんから、困っておったところ、どこからか低い声が聞こえて奇妙なことを言い出したのだ。
『お前が出会った時間軸のフレアハルトではないのではないのか?』
「あ、そうか。このヒトは私のことを知らないフレアハルトなのか」
「誰だ!? 他にもヒトが居るのか!? どこに居るのだ!?」
と周りを見回してみたが誰もおらず、次の言葉でどこから聞こえているかが分かった。
「ああ、これ私の身体の中から聞こえてる声だから、気にしないで…………う~ん、まあ紹介しちゃおうか、二回目だし」
すると、その女の腹辺りから、白とも銀色ともつかぬ何かがニュっと出てきてヒトの形を模してな、こう紹介された。
「この人 (?)は『テアラース』、まあ見た通り人間じゃないけどよろしくね」
とな。
▽
今『人間』って言った?
ってことは『ミスティア』って人が居る異世界は地球? いや、地球ならカイベルが観測できるはずだし、そもそも地球では魔法は使えない。
もしかして別次元にある“地球”の“人間”なのか?
それに『時間軸』って……時間魔法で過去や未来へは行けないってカイベル言ってたのに……この『ミスティア』にはそれが可能ってことなのか。
まだ今の時間軸で会ったことがないってことは、今後その子が私の前に現れる可能性があるわけか。
これら全部が、この魔界とは別次元だから時間魔法のルールが違ってるとかなのかしら?
『テアラース』ってヒト (?)のことも気になるわ。聞いてる限りは、人間に寄生する生命体かしら? 体色は白とか銀色とか言ってるし、しゃべってるから知的生命体みたいだけど……まさか宇宙人?
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