506 / 546
第17章 風の国ストムバアル『暴食』の大罪騒乱編
第497話 全部が不可解…… その1
しおりを挟む
フレアハルト帰還の翌日。
フレアハルトたちの住む借家にて――
「おう! フレハル! 今日は仕事出られるのか?」
フレアハルトたちの借家を訪れて、そう聞くのはアルトレリアの建築を請け負う親方のトーリョ。
「今日はまだ用事があるから明日からにしてもらいたい」
「お前さんが居ると居ないとじゃ仕事の速さが全然違うからな、早く帰って来てくれよ」
「すまぬな」
「仕方ねぇな」
トーリョは帰って行った。
「フレハル様、どこか行くんですか?」
「アルトラに帰って来た時の状況を聞かれておるから、その説明に行く」
「で、では、わたくしたちは何でも屋の仕事を再開しておきます」
「じゃ、じゃあ、私も帰って来て早々、海の方への運搬頼まれてるから行って来ますね」
何だかよそよそしいなと考えるフレアハルトだったが、詳しい説明を二人にも聞いてもらうべく引き留める。
「いや、お主らも来てくれ、詳しく話しておきたい」
「でも、帰って来れた理由なら昨日聞いてるじゃないですか~」
「昨日とは違う話だ。ここで言うより集まってもらって話した方が手間が少ない、頼む。それに……何だかアルトラとの関係が変ではなかったか? よそよそしいと言うか」
「「うっ……」」
フレアハルトが居ない時にアルトラに対して冷たい態度を取ったことがわだかまりとして二人の心に残っていた。
「それについての解消もしておけ。どうせ大した理由では無いのだろう?」
「「大したことはあります!!」」
「お、おう……そうか。ではまだ顔を合わせたくないのか? もしそうなら無理強いはしないが」
「……いえ……確かに修復は早い方が良いですね。わたくしも同行します」
「じゃ、じゃあ私も行きますよぉ……」
◇
フレアハルトが我が家を訪れた。
アリサとレイアも同行して来て真っ先に謝られた。
「せ、先日はアルトラ様を無視するような態度を見せてしまい、申し訳ありませんでした!」
「わ、私も『話しかけないで』なんて言ってごめんなさい!」
「い、いや、状況考えたら当然の身の振り方だと思うから……原因作ったのも私だしね……まあこの話はこれで終わりにしましょう。フレアハルトも無事に帰って来たし」
「「はい!」」
「何があったのか知らんが、わだかまりは解消できたようだな」
フレアハルトにどうやって生き延びたのか説明を求める。
「それで……どういうことなのか全部説明してもらえるのよね? 人伝でだって連絡してくれれば良かったのに、それすらできなかったのはどうして?」
「まだ理由を聞いてませんが、どうしてわたくしたちまで同行されたのですか?」
「昨日私たちには赤龍峰で説明してくれたじゃないですか~。あれで終わりじゃないんですか?」
それぞれが疑問を口にするとフレアハルトが話し始めた。
「ああ、どうやって生き延びたかだが、赤アリの爆発攻撃によってカゼハナから数十キロ飛ばされて辛うじて生きていられた我は現地の住民に救われた」
「現地の住民?」
「ああ、光の精霊でな、その村で医者をしておる者だ。その者が居らねば我は生きてここにはおらんだろう。そこで傷が癒えるまで世話になった。回復したのが一週間前で、そこから一週間かけて歩いて戻って来たのだ」
「なるほど、だから二週間も行方不明だったのね」
黙って頷いたが、この話おかしい……風の国に居たなら、カイベルが捕捉できなかったはずがない。
何か裏があるな。
「昨日私たちに話してくれたのと同じ話じゃないですか~」
「わたくしたちに言わなければならないこととは何なのですか?」
「ああ、聞いてほしいのはここから先だ。ここまでが我が表向きに考えた“嘘の”生存話だ」
「嘘!?」
「赤龍峰の方たちには嘘を教えたということですか!?」
「ああ、すまぬな、真実の方は……説明したとて多分にわかに信じる者はおらん。が、ここに居る者は全員関係しているから、お主ら二人にも同行してもらった」
「関係している?」
「わたくしたちまでですか?」
ここに居るのは私とカイベルを含めて五人。全員に関係していることなのか?
フレアハルト以外の四人は恐らく赤アリとは一切関わってないのにどんな関係が?
「ああ、だが町の者に聞かれた時には“嘘の方”を伝えておくから、“真実の方”はここだけの秘密にしてくれ。我にも分からんことだらけだから話題にされるのも面倒だ。カイベルも頼むぞ」
「了解しました」
「分かったよ」
「「分かりました」」
そして、一度深呼吸して話し始めた。
「生き延びた方法は我にもよく分からん。だがどうやら我は冥球とは違う……恐らく異世界に行っていたらしい」
「は?」
カイベルの捕捉不可能条件4つ目、まさかの『異世界』説!? (第494話参照)
「何でそこが異世界って分かったの?」
「なぜって……魔界とは景色そのものが違っておったからな。こんな魔界の暗々とした空ではなく、目も眩むような明るさだった。金色に輝いておって、金色の雨が降るようなそんな不思議なところだ。空には更に煌々と輝く光が見えてな、あれが本物の太陽というやつかと直感した」
何だか私たち地球人が想像する死後の世界みたいだな……
ホントはどこかで仮死状態にでもなってたんじゃ?
「そこでとある人物に出会った」
そこからはその“謎の人物”との会話の再現で説明してくれた。
(※今回から三話に渡り少々特殊な書き方をしています。▼から次の▽まではフレアハルトの過去回想と独白、▽から次の▼までは現在での会話劇でアルトラの一人称となります)
▼
時は赤アリとの戦闘まで遡る――
赤アリの爆発が目前に迫る中、
「さて……我はここからどうするか……万事休すか……我一人ではもう打つ手が無い。このまま飛び続けてもすぐに追いつかれるだろう……さらばだフレイムハルト、アリサ、レイア、父上、アルトレリアの皆、そしてアルトラ……」
まあ、何だ……一応今生の別れを口にしたのだがな……
言い終わると同時に爆発に巻き込まれ焼失……するかに思われたのだが、偶然にも我の目の前に空間の揺らぎが見えたから、空間転移ゲートかと思って慌てて飛び込んだのだ。
だが、もう尻に火が点いておってな――
「あちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃ!!」
などと言いながら空間転移した先で転げ回ることになった。
多少火傷してしまったが、致命傷には至らずに済んだのが幸いだったな。
▽
空間の揺らぎって【ゲート】を使う時に起こる現象だけど……“空間の裂け目まで発展してない状態の”疑似ゲートって感じだったのかな?
「わたくしたちが燃やされるなんて、そんなことがあるのですね……」
「そうだな、我々を燃やせる生物は少ないながら存在するらしい。我も初めて遭遇した」
「でも、何だか直前まで命の危機だったのに、一気にマヌケな展開ね~……」
「そこがフレハル様の良いところですよ~」
「……まあ続きを聞け」
▼
空間の揺らぎに飲み込まれた先に一人の女が居ってな。
この女が本当に謎の女だった。
「あれ~、フレアハルトさんじゃない? 何で火だるまになってんの?」
突然名前を呼ばれてビックリした。
なぜなら、名前を呼んだこの女が誰なのか全く見当も付かん。会った記憶すら無い。
見た目は人間や亡者のような容姿だった。体色はアルトラや人魚たちに近く、髪の色はカイベルのように黒かった。ウロコとか獣毛とか、そういったのは見たところ生えてるようには見えんかったから、恐らく魚人や獣人ではない。
「今日はアリサさんとレイアさんは一緒じゃないのね。お付きだって聞いてたから常に一緒だと思ってたよ」
どうやらアリサやレイアとも顔見知りらしいが……
誰だか全く分からんから言葉が出ずに困っておったところ、
「あ! その顔! 私のこと忘れてる? 私、私、ミスティアだよ!」
自分に指をさしながら「『ミスティア』だよ」、とか言ってるがその名前にも心当たりは無い。
▽
「向こうははっきり顔と名前覚えてるのに、あなたは覚えてないの? ちょっと失礼じゃない?」
「いや、そもそも推定:異世界だぞ? そんなところに知り合いが居ることがおかしいと思わぬか?」
「そういえば、確かにそうね……」
「その方は、わたくしたちのことまでご存じだったのですか?」
「ミスティア……う~ん、人間のような容姿で黒髪なんて亡者やカイベルさん以外に見たことないけど……昔会ったことがあるヒトの誰かですかね?」
「三人とも分からないの?」
全員が忘れてることなんてある?
フレアハルトは分からなくても、常に側近として気配りしているこの二人まで分からないというのは……どういうことだ?
「それに、お主のことも知っておったようだぞ?」
『アルトラは元気? カイベルさんやリディアやネッココは? ケルベロスは?』
「と、言っておったからな」
「はぁ~!? 私の名前まで!?」
誰だ『ミスティア』って……全く思い出せない……
わ、私も失礼なヤツだったか!!
しかも私の名前だけでなく、カイベルたち三人 (+一匹)まで!?
ケルベロスのことまで知ってるってことは私はそのミスティアを我が家に招待したことがあるってことなのかしら……?
全く記憶に無いってことは、記憶消されたりしてる?
「誰だか思い出せたか?」
「い、いや……そんな名前の女のヒトに出会った記憶は無い……そもそも私は異世界へも行けないし……」
仮に異世界に行ける術があったとしても、この身体に備わった『冥獄の枷』の効果で私は魔界からは出られないから行けるはずがない。 (『冥獄の枷』については第105話参照)
かと言って前世でも会った覚えが無い……いや、『アルトラ』呼びだったってことは、やっぱりこの魔界で会ってるのか?
小声でカイベルに訊ねてみる。
「……カイベルなら分かる……?」
流石にカイベルなら覚えてるだろう……と期待したのだが……
「……いえ……『ミスティア』という名前の方は魔界にもいらっしゃるようですが……アルトラ様が出会ったことがある方は一人もおりません……」
「……ホントに……!? あなたが分からないってどういうこと……!?」
「……現時点では何とも……」
カイベルにすら分からないということは、私が記憶操作されてるわけでは無いらしいな……
また、不測の事態が起こってるのか?
やっぱりこことは違う『異世界のこと』だから?
女帝蟻に続いてのトラブルはゴメンなんだけどな……
「密談は終わったか?」
「ああ、はいはい! 続きをどうぞ」
▼
名前を聞いても誰だか分からんから、困っておったところ、どこからか低い声が聞こえて奇妙なことを言い出したのだ。
『お前が出会った時間軸のフレアハルトではないのではないのか?』
「あ、そうか。このヒトは私のことを知らないフレアハルトなのか」
「誰だ!? 他にもヒトが居るのか!? どこに居るのだ!?」
と周りを見回してみたが誰もおらず、次の言葉でどこから聞こえているかが分かった。
「ああ、これ私の身体の中から聞こえてる声だから、気にしないで…………う~ん、まあ紹介しちゃおうか、二回目だし」
すると、その女の腹辺りから、白とも銀色ともつかぬ何かがニュっと出てきてヒトの形を模してな、こう紹介された。
「この人 (?)は『テアラース』、まあ見た通り人間じゃないけどよろしくね」
とな。
▽
今『人間』って言った?
ってことは『ミスティア』って人が居る異世界は地球? いや、地球ならカイベルが観測できるはずだし、そもそも地球では魔法は使えない。
もしかして別次元にある“地球”の“人間”なのか?
それに『時間軸』って……時間魔法で過去や未来へは行けないってカイベル言ってたのに……この『ミスティア』にはそれが可能ってことなのか。
まだ今の時間軸で会ったことがないってことは、今後その子が私の前に現れる可能性があるわけか。
これら全部が、この魔界とは別次元だから時間魔法のルールが違ってるとかなのかしら?
『テアラース』ってヒト (?)のことも気になるわ。聞いてる限りは、人間に寄生する生命体かしら? 体色は白とか銀色とか言ってるし、しゃべってるから知的生命体みたいだけど……まさか宇宙人?
フレアハルトたちの住む借家にて――
「おう! フレハル! 今日は仕事出られるのか?」
フレアハルトたちの借家を訪れて、そう聞くのはアルトレリアの建築を請け負う親方のトーリョ。
「今日はまだ用事があるから明日からにしてもらいたい」
「お前さんが居ると居ないとじゃ仕事の速さが全然違うからな、早く帰って来てくれよ」
「すまぬな」
「仕方ねぇな」
トーリョは帰って行った。
「フレハル様、どこか行くんですか?」
「アルトラに帰って来た時の状況を聞かれておるから、その説明に行く」
「で、では、わたくしたちは何でも屋の仕事を再開しておきます」
「じゃ、じゃあ、私も帰って来て早々、海の方への運搬頼まれてるから行って来ますね」
何だかよそよそしいなと考えるフレアハルトだったが、詳しい説明を二人にも聞いてもらうべく引き留める。
「いや、お主らも来てくれ、詳しく話しておきたい」
「でも、帰って来れた理由なら昨日聞いてるじゃないですか~」
「昨日とは違う話だ。ここで言うより集まってもらって話した方が手間が少ない、頼む。それに……何だかアルトラとの関係が変ではなかったか? よそよそしいと言うか」
「「うっ……」」
フレアハルトが居ない時にアルトラに対して冷たい態度を取ったことがわだかまりとして二人の心に残っていた。
「それについての解消もしておけ。どうせ大した理由では無いのだろう?」
「「大したことはあります!!」」
「お、おう……そうか。ではまだ顔を合わせたくないのか? もしそうなら無理強いはしないが」
「……いえ……確かに修復は早い方が良いですね。わたくしも同行します」
「じゃ、じゃあ私も行きますよぉ……」
◇
フレアハルトが我が家を訪れた。
アリサとレイアも同行して来て真っ先に謝られた。
「せ、先日はアルトラ様を無視するような態度を見せてしまい、申し訳ありませんでした!」
「わ、私も『話しかけないで』なんて言ってごめんなさい!」
「い、いや、状況考えたら当然の身の振り方だと思うから……原因作ったのも私だしね……まあこの話はこれで終わりにしましょう。フレアハルトも無事に帰って来たし」
「「はい!」」
「何があったのか知らんが、わだかまりは解消できたようだな」
フレアハルトにどうやって生き延びたのか説明を求める。
「それで……どういうことなのか全部説明してもらえるのよね? 人伝でだって連絡してくれれば良かったのに、それすらできなかったのはどうして?」
「まだ理由を聞いてませんが、どうしてわたくしたちまで同行されたのですか?」
「昨日私たちには赤龍峰で説明してくれたじゃないですか~。あれで終わりじゃないんですか?」
それぞれが疑問を口にするとフレアハルトが話し始めた。
「ああ、どうやって生き延びたかだが、赤アリの爆発攻撃によってカゼハナから数十キロ飛ばされて辛うじて生きていられた我は現地の住民に救われた」
「現地の住民?」
「ああ、光の精霊でな、その村で医者をしておる者だ。その者が居らねば我は生きてここにはおらんだろう。そこで傷が癒えるまで世話になった。回復したのが一週間前で、そこから一週間かけて歩いて戻って来たのだ」
「なるほど、だから二週間も行方不明だったのね」
黙って頷いたが、この話おかしい……風の国に居たなら、カイベルが捕捉できなかったはずがない。
何か裏があるな。
「昨日私たちに話してくれたのと同じ話じゃないですか~」
「わたくしたちに言わなければならないこととは何なのですか?」
「ああ、聞いてほしいのはここから先だ。ここまでが我が表向きに考えた“嘘の”生存話だ」
「嘘!?」
「赤龍峰の方たちには嘘を教えたということですか!?」
「ああ、すまぬな、真実の方は……説明したとて多分にわかに信じる者はおらん。が、ここに居る者は全員関係しているから、お主ら二人にも同行してもらった」
「関係している?」
「わたくしたちまでですか?」
ここに居るのは私とカイベルを含めて五人。全員に関係していることなのか?
フレアハルト以外の四人は恐らく赤アリとは一切関わってないのにどんな関係が?
「ああ、だが町の者に聞かれた時には“嘘の方”を伝えておくから、“真実の方”はここだけの秘密にしてくれ。我にも分からんことだらけだから話題にされるのも面倒だ。カイベルも頼むぞ」
「了解しました」
「分かったよ」
「「分かりました」」
そして、一度深呼吸して話し始めた。
「生き延びた方法は我にもよく分からん。だがどうやら我は冥球とは違う……恐らく異世界に行っていたらしい」
「は?」
カイベルの捕捉不可能条件4つ目、まさかの『異世界』説!? (第494話参照)
「何でそこが異世界って分かったの?」
「なぜって……魔界とは景色そのものが違っておったからな。こんな魔界の暗々とした空ではなく、目も眩むような明るさだった。金色に輝いておって、金色の雨が降るようなそんな不思議なところだ。空には更に煌々と輝く光が見えてな、あれが本物の太陽というやつかと直感した」
何だか私たち地球人が想像する死後の世界みたいだな……
ホントはどこかで仮死状態にでもなってたんじゃ?
「そこでとある人物に出会った」
そこからはその“謎の人物”との会話の再現で説明してくれた。
(※今回から三話に渡り少々特殊な書き方をしています。▼から次の▽まではフレアハルトの過去回想と独白、▽から次の▼までは現在での会話劇でアルトラの一人称となります)
▼
時は赤アリとの戦闘まで遡る――
赤アリの爆発が目前に迫る中、
「さて……我はここからどうするか……万事休すか……我一人ではもう打つ手が無い。このまま飛び続けてもすぐに追いつかれるだろう……さらばだフレイムハルト、アリサ、レイア、父上、アルトレリアの皆、そしてアルトラ……」
まあ、何だ……一応今生の別れを口にしたのだがな……
言い終わると同時に爆発に巻き込まれ焼失……するかに思われたのだが、偶然にも我の目の前に空間の揺らぎが見えたから、空間転移ゲートかと思って慌てて飛び込んだのだ。
だが、もう尻に火が点いておってな――
「あちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃ!!」
などと言いながら空間転移した先で転げ回ることになった。
多少火傷してしまったが、致命傷には至らずに済んだのが幸いだったな。
▽
空間の揺らぎって【ゲート】を使う時に起こる現象だけど……“空間の裂け目まで発展してない状態の”疑似ゲートって感じだったのかな?
「わたくしたちが燃やされるなんて、そんなことがあるのですね……」
「そうだな、我々を燃やせる生物は少ないながら存在するらしい。我も初めて遭遇した」
「でも、何だか直前まで命の危機だったのに、一気にマヌケな展開ね~……」
「そこがフレハル様の良いところですよ~」
「……まあ続きを聞け」
▼
空間の揺らぎに飲み込まれた先に一人の女が居ってな。
この女が本当に謎の女だった。
「あれ~、フレアハルトさんじゃない? 何で火だるまになってんの?」
突然名前を呼ばれてビックリした。
なぜなら、名前を呼んだこの女が誰なのか全く見当も付かん。会った記憶すら無い。
見た目は人間や亡者のような容姿だった。体色はアルトラや人魚たちに近く、髪の色はカイベルのように黒かった。ウロコとか獣毛とか、そういったのは見たところ生えてるようには見えんかったから、恐らく魚人や獣人ではない。
「今日はアリサさんとレイアさんは一緒じゃないのね。お付きだって聞いてたから常に一緒だと思ってたよ」
どうやらアリサやレイアとも顔見知りらしいが……
誰だか全く分からんから言葉が出ずに困っておったところ、
「あ! その顔! 私のこと忘れてる? 私、私、ミスティアだよ!」
自分に指をさしながら「『ミスティア』だよ」、とか言ってるがその名前にも心当たりは無い。
▽
「向こうははっきり顔と名前覚えてるのに、あなたは覚えてないの? ちょっと失礼じゃない?」
「いや、そもそも推定:異世界だぞ? そんなところに知り合いが居ることがおかしいと思わぬか?」
「そういえば、確かにそうね……」
「その方は、わたくしたちのことまでご存じだったのですか?」
「ミスティア……う~ん、人間のような容姿で黒髪なんて亡者やカイベルさん以外に見たことないけど……昔会ったことがあるヒトの誰かですかね?」
「三人とも分からないの?」
全員が忘れてることなんてある?
フレアハルトは分からなくても、常に側近として気配りしているこの二人まで分からないというのは……どういうことだ?
「それに、お主のことも知っておったようだぞ?」
『アルトラは元気? カイベルさんやリディアやネッココは? ケルベロスは?』
「と、言っておったからな」
「はぁ~!? 私の名前まで!?」
誰だ『ミスティア』って……全く思い出せない……
わ、私も失礼なヤツだったか!!
しかも私の名前だけでなく、カイベルたち三人 (+一匹)まで!?
ケルベロスのことまで知ってるってことは私はそのミスティアを我が家に招待したことがあるってことなのかしら……?
全く記憶に無いってことは、記憶消されたりしてる?
「誰だか思い出せたか?」
「い、いや……そんな名前の女のヒトに出会った記憶は無い……そもそも私は異世界へも行けないし……」
仮に異世界に行ける術があったとしても、この身体に備わった『冥獄の枷』の効果で私は魔界からは出られないから行けるはずがない。 (『冥獄の枷』については第105話参照)
かと言って前世でも会った覚えが無い……いや、『アルトラ』呼びだったってことは、やっぱりこの魔界で会ってるのか?
小声でカイベルに訊ねてみる。
「……カイベルなら分かる……?」
流石にカイベルなら覚えてるだろう……と期待したのだが……
「……いえ……『ミスティア』という名前の方は魔界にもいらっしゃるようですが……アルトラ様が出会ったことがある方は一人もおりません……」
「……ホントに……!? あなたが分からないってどういうこと……!?」
「……現時点では何とも……」
カイベルにすら分からないということは、私が記憶操作されてるわけでは無いらしいな……
また、不測の事態が起こってるのか?
やっぱりこことは違う『異世界のこと』だから?
女帝蟻に続いてのトラブルはゴメンなんだけどな……
「密談は終わったか?」
「ああ、はいはい! 続きをどうぞ」
▼
名前を聞いても誰だか分からんから、困っておったところ、どこからか低い声が聞こえて奇妙なことを言い出したのだ。
『お前が出会った時間軸のフレアハルトではないのではないのか?』
「あ、そうか。このヒトは私のことを知らないフレアハルトなのか」
「誰だ!? 他にもヒトが居るのか!? どこに居るのだ!?」
と周りを見回してみたが誰もおらず、次の言葉でどこから聞こえているかが分かった。
「ああ、これ私の身体の中から聞こえてる声だから、気にしないで…………う~ん、まあ紹介しちゃおうか、二回目だし」
すると、その女の腹辺りから、白とも銀色ともつかぬ何かがニュっと出てきてヒトの形を模してな、こう紹介された。
「この人 (?)は『テアラース』、まあ見た通り人間じゃないけどよろしくね」
とな。
▽
今『人間』って言った?
ってことは『ミスティア』って人が居る異世界は地球? いや、地球ならカイベルが観測できるはずだし、そもそも地球では魔法は使えない。
もしかして別次元にある“地球”の“人間”なのか?
それに『時間軸』って……時間魔法で過去や未来へは行けないってカイベル言ってたのに……この『ミスティア』にはそれが可能ってことなのか。
まだ今の時間軸で会ったことがないってことは、今後その子が私の前に現れる可能性があるわけか。
これら全部が、この魔界とは別次元だから時間魔法のルールが違ってるとかなのかしら?
『テアラース』ってヒト (?)のことも気になるわ。聞いてる限りは、人間に寄生する生命体かしら? 体色は白とか銀色とか言ってるし、しゃべってるから知的生命体みたいだけど……まさか宇宙人?
0
お気に入りに追加
65
あなたにおすすめの小説

愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【完結】逃がすわけがないよね?
春風由実
恋愛
寝室の窓から逃げようとして捕まったシャーロット。
それは二人の結婚式の夜のことだった。
何故新妻であるシャーロットは窓から逃げようとしたのか。
理由を聞いたルーカスは決断する。
「もうあの家、いらないよね?」
※完結まで作成済み。短いです。
※ちょこっとホラー?いいえ恋愛話です。
※カクヨムにも掲載。

悪役令嬢らしいのですが、務まらないので途中退場を望みます
水姫
ファンタジー
ある日突然、「悪役令嬢!」って言われたらどうしますか?
私は、逃げます!
えっ?途中退場はなし?
無理です!私には務まりません!
悪役令嬢と言われた少女は虚弱過ぎて途中退場をお望みのようです。
一話一話は短めにして、毎日投稿を目指します。お付き合い頂けると嬉しいです。

契約結婚のはずが、気づけば王族すら跪いていました
言諮 アイ
ファンタジー
――名ばかりの妻のはずだった。
貧乏貴族の娘であるリリアは、家の借金を返すため、冷酷と名高い辺境伯アレクシスと契約結婚を結ぶことに。
「ただの形式だけの結婚だ。お互い干渉せず、適当にやってくれ」
それが彼の第一声だった。愛の欠片もない契約。そう、リリアはただの「飾り」のはずだった。
だが、彼女には誰もが知らぬ “ある力” があった。
それは、神代より伝わる失われた魔法【王威の審判】。
それは“本来、王にのみ宿る力”であり、王族すら彼女の前に跪く絶対的な力――。
気づけばリリアは貴族社会を塗り替え、辺境伯すら翻弄し、王すら頭を垂れる存在へ。
「これは……一体どういうことだ?」
「さあ? ただの契約結婚のはずでしたけど?」
いつしか契約は意味を失い、冷酷な辺境伯は彼女を「真の妻」として求め始める。
――これは、一人の少女が世界を変え、気づけばすべてを手に入れていた物語。

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました
饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。
わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。
しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。
末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。
そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。
それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は――
n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。
全15話。
※カクヨムでも公開しています
拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~
藤原ライラ
ファンタジー
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――
子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。
彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。
「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」
四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。
そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。
文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!?
じれじれ両片思いです。
※他サイトでも掲載しています。
イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)

家族と婚約者に冷遇された令嬢は……でした
桜月雪兎
ファンタジー
アバント伯爵家の次女エリアンティーヌは伯爵の亡き第一夫人マリリンの一人娘。
彼女は第二夫人や義姉から嫌われており、父親からも疎まれており、実母についていた侍女や従者に義弟のフォルクス以外には冷たくされ、冷遇されている。
そんな中で婚約者である第一王子のバラモースに婚約破棄をされ、後釜に義姉が入ることになり、冤罪をかけられそうになる。
そこでエリアンティーヌの素性や両国の盟約の事が表に出たがエリアンティーヌは自身を蔑ろにしてきたフォルクス以外のアバント伯爵家に何の感情もなく、実母の実家に向かうことを決意する。
すると、予想外な事態に発展していった。
*作者都合のご都合主義な所がありますが、暖かく見ていただければと思います。

もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる