建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~

ヒロノF

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第17章 風の国ストムバアル『暴食』の大罪騒乱編

第493話 アスタロトがアルトラに心酔する理由

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 そうだ、こんな機会だからこれも聞いておこう。

「と、ところでさ、何でそんなに私に心酔してるの? 初めて会った時から好感度MAXくらいの勢いだったけど……いくらベルゼビュートの生まれ変わりだって言ったって、今の私は他人も同然でしょ? それなのになぜ?」
「それは私があなたの側近に付くより前までさかのぼります。私たちアスタロト族はご存じの通り毒の生成の特殊能力を持っていました。特に私の能力は一族でも飛び抜けていましてね、ベルゼビュート様に召し抱えられるまでは一族ともども迫害された歴史のある忌まわしい能力なのです」
「忌まわしい能力?」

 そういえばそうだったな……前々世では一時期城内でも問題になってたっけ。

「ええ、相手の身体の一部を取り込んで、その相手に適する毒を生成するのですから忌まわしいと言われてもおかしくないでしょう。髪の毛一本でも落としてしまえば、その者に害を与えることが可能なのですから」

 確かに……

「幼少期は迫害を受けていたので今のように待遇の良い生活ではありませんでした。子供の頃は自制も利きませんからこの能力を『お腹を壊す』くらいの死なない程度に使うことはありましたね。いわれのない迫害を受けることもそれなりにありましたからその仕返しとしてね。ある程度毒性は変えられるので死なないように調整することもできましたし」
「でも、嫌な目に遭っても殺すことはしなかったんだね」
「ええ、魔界は過去争いの多かった歴史がありますが、私が幼少の頃にはこの国でももう『ヒト殺しが悪いことだ』という認識は定着しつつありましたから。そこを自制できなければ今の私は無いでしょう。その点は幸いでした」

 彼の能力なら世を恨んで大虐殺しようと思えば出来るしね……迫害に耐える精神力には敬意を表するわ。

「私は迫害されている一族出身ですが、そこから立身出世するため身分は隠して必死で勉学に励みました」
「種族って隠し切れるものなの?」

 人魚族とか人馬ケンタウロス族みたいに特徴が見たまま現れてればすぐに分かるけど、アスタロト族ってのは分からないものなのかしら?

「近隣の住民には肌の色とツノの特徴ですぐに気付かれてしまいますが、私の住んでいた地域は首都とは遠いところにありますので、『魔人種』であるということ以外は気付かれなかったようです」
「確かに……言われなければ分からないか」

 と言いながら、同じ魔人種であるエリザレアさんを見る。
 確かにツノがあることと、身体の色が多少違うことくらいしか分からないな。アスタロトを見たところで、「あ、コイツ、アスタロト族だ!」と特定はできそうもない。

「そして風の国の王城に召し抱えられ、首都開発部門への配属が決まったところで、同じ地域の出身者が居り、そこから私がアスタロト族の出身だと漏れてしまいました。思えばやっかみなどがあったのかもしれません。彼は……言い方は悪いですが私の下位部署所属でしたので」
「ああ……」

 なるほど、分かり易い嫉妬か……

「噂を流した彼はもう生きてはいないでしょうけど……」
「生きてない!? 殺したってこと!?」
「いえ、種族の寿命を考えれば生きている可能性は低いのではないかと。彼は亜人で私は魔人、魔人種は長命ですので」

 え……ってことは、前世の私っていくつで死んだんだ……?
 物凄いおばあちゃんだったんじゃ……?
 記憶が蘇ったのもまだまだ断片的だから、死ぬ直前の記憶までは思い出せないな……

「噂が立ってしばらくのち、ベルゼビュート様がこう仰られました。『彼がその毒でヒトに害を与えたところを見たのか? そうでないのなら無益な差別はやめよ!』と。その一言で徐々に風当たりも弱まってきました」

 へぇ~……全く記憶に無いが、それを前々世の私が言ったのか……?
 何だか自信に満ち溢れた言葉だわ……
 今の私では言えなさそう……

「その一言で種族全体の向上をさせるには全体が変わる必要があると思い、ベルゼビュート様にお仕えする時に一族全体を説得し、約定やくじょう魔法で『亜人や魔人、精霊などヒト種に対しては使わない』と誓約させました」
「誓約まで!? 内容は?」
「『毒を使われたことを私を含めた裁定者十人が知る。裁定者が欠けた場合には血族の誰かが自動的に裁定者に選ばれる』という誓約です。それによるペナルティはありません」
「誓約なのにペナルティが無いの?」
「はい。元々は『その能力によって損害を与えた場合には、味覚を剥奪し、更にそれが元で殺してしまった場合は自身も命をって償う』というペナルティを設けようとしましたが、種族全体の能力を殺すことになるのと、自身の身を守る術を取り上げることになってしまうからというベルゼビュート様の意向でペナルティは無しになりました。危険な能力はなにも毒だけではないですから」
「なるほど。でも能力を使われたことを裁定者が知ってどうするの?」
「本人の言い分を聞き、例えば私利私欲のために毒を使って私腹を肥やすなど正当性が無い場合、裁定者が判断したペナルティを与えます」

 なるほど、裁定者が十人もいるのなら断罪することになっても間違いは起こりにくいってわけか。

「この誓約がされてから前代ベルゼビュート様の尽力によりアスタロト族全体の信用性も増し、地位も向上し迫害も徐々に起こらなくなりました。私があなたに心酔している理由は一族の立場を確立してくれ、更には私などにこのように要職まで与えてくださったからというわけです」
「そ、そうなんだ」

 現在の私がやったことではないのに、ちょっと気恥ずかしいな。

「あとこれは余談になりますが、アスタロト族の能力は昔は暗殺にも使われていたそうですが、魔王には効かなかったという逸話が一族間に伝わってます」
「魔王には効かない? どういうこと?」
「さあ? そこまでは私にも分かりません。七つの大罪は元々は天使だったそうですし、その生態が毒を無効化するように出来ているのかもしれません」

 なるほど。私の毒無効化って、元々は天使の特性なんだろうか?

「何で今アスタロトを呼び名に使ってるの?」
「この名は貴女が地位向上させてくれた誇りある名ですので」
「そっか。ちなみに名前は何と言うの?」
「『ヴィンセント・アスタロト・ヴァーレ』と申します」
「じゃあヴィンセントって呼ぶ?」
「いえ、今までと同じにお呼びくだされば結構です」
「分かった、以降もそうさせてもらうわ」

 この話が終わった後、カイベルがみんなに呼びかける。

「さて、皆様もお疲れでしょうし、アルトラ様も療養しなければなりませんので、この辺りでお引き取りいただけると幸いです」
「元気そうでしたけど、そういえば重傷なんでしたね」
「我々もまだ興奮が勝っていて疲れを感じていなかったのかもしれませんね」
「では、お大事に」

 カイベル以外がゾロゾロと病室を出て行く。

「じゃあベルゼ、私たちは国に帰るからね」
「……ベルゼ、お大事に……」
「二人とも命の恩人だよ! 本っ当にありがとう!」
「まあ、今後外交で便宜を図ってもらうくらいしてもらおうかな」
「……その時はよろしく……」
「もちろん! 私にできる限りのことはさせてもらうよ!」

 二人の女王様も帰って行った。
 そして最後、アスタロトが出て行く直前、こちらを振り向き、

「…………言うに言い出せなかったことがあるのですが……」
「どうかした?」

 ……
 …………
 ………………
 数秒沈黙。

「……いえ、やはりやめておきます。ベルゼビュート様の傷が癒えた時に改めて……」
「…………悪いことなの?」
「…………それもまたの機会に……今はゆっくり療養なさってください」

 言いよどむことって……一体何の話だったんだろう……
 気になりはしたが、今の傷だらけの状況を考えると引き留めて問いただすような元気は無かった。

   ◇

 『暴食グラトニー』を継承したことについて――

 継承したことによる変化を誰にも伝えていないが、やはり変化はあった。
 まず、前述したようにベルゼビュートだった時の記憶が蘇った。通常、前代魔王の記憶が継承されることは無いらしいが、私の場合は先々代が私本人のため元の鞘に収まったということで、自身が魔王だった時の記憶が掘り起こされたらしい。

 二つ目に、魔王の力を得たことで、私の内包する魔力が飛躍的に上がった。元々魔人並みの魔力を持っていたため、大罪を継承した私の魔力はカイベル曰く恐らく当代の魔王の中で最強だとか。
 わざわざ『恐らく』って付け足してるところが気になるけど……私には開示できない情報を濁して『恐らく』という言葉で片付けたのだろう。

 三つ目に、魔力感知能力が鋭くなった。少なくともリディアやフレアハルトに匹敵するか、それを凌ぐくらいに敏感になったと思う。

 四つ目に、カイベル曰く風魔法のLvが10から11に上がったらしい。それに伴って私の得意属性が光から風に変わった。今後は強化された風魔法を基点に戦っていくことになりそうだ。

 そして一番大きい変化は、レヴィとアスモが使っていた魔王の本来の力を発揮する『魔王回帰レグレシオン暴食グラトニー』という能力が使えるようになった。
 “理解した”のはつい先ほど。やはり出戻りだから“理解”するのも早かったらしい。
 女帝が使っていた、狼の頭のような幻影が出る能力、あれは【悪食たちの晩餐会バッド・ディナー】と言うらしいことが分かった。その名の通り、あらゆるものを食べて魔力や生命力に変換する能力のようだ。どこまで硬いものが食べられるかは分からない。ただ、分厚い鉄でも何度も何度も噛みつけば分解してしまうことができるようだ。
 強力過ぎて使うところは限られるが、もし使う事態が起こった時には私の大きな力になってくれると思う。これは後で要検証かな。“理解”しているとは言え、ぶっつけ本番で使ったらきっと痛い目を見るだろう。
 この辺りは石橋を叩いて渡らない日本人思考だわ……

 そして変化しなかったこともある。
 『暴食グラトニー』を継承すると、空腹が増すとか、お腹が空いたらイライラするといった症状があるとのことだったが、現在はは出ていない。
 その点は幸いだった。
 空腹でいちいち狂暴化してたら、コミュニケーションも円滑に取れなくなってしまっていたところだ。
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