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第17章 風の国ストムバアル『暴食』の大罪騒乱編
第492話 それぞれの顛末
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「さて、では女帝蟻がどうなったのかお聞かせ願えますか」
「私からお話します」
と、レヴィ。
「女帝蟻と思われる個体は、私、アスモデウス、カイベル、そしてアルトラの三人で倒しました。先ほどのアリの死骸が女帝蟻のものです」
「女帝蟻はヒトの姿をしていると聞いています。あれはどう見てもアリのような形でしたが?」
「推測でしかありませんが、死んで擬態能力が解け、本来のアリの姿に戻ったのではないかと思います」
「なるほど。それで――」
さっそくキタ……
「――『暴食』の大罪はどうなったのでしょうか?」
「…………見つかりませんでした」
「は?」
レヴィの言葉にしばらく思考停止してしまうアスタロト。
「ですから、あれは魔王ではありませんでした」
「……ただの突然変異種だったみたいだね……」
「『暴食』が見つからなかった!? 突然変異種!? そんなバカな!!」
アスモの追撃に、更に驚くアスタロト。
「で、ですがアリですよ!? アリが亜人のような姿で、人語まで話すのですか!? ベルゼビュート様!?」
「え!? ああ……そ、そうらしいね!」
突然こちらに話を振られてビックリした……
「でも倒しても『暴食』が見つからなかったのは事実だから……」
という体。
私からも『暴食』が“見つからなかった”ことを刷り込む。
ああ……また重大な嘘を抱えないといけないわけか……心中は憂鬱だ……
「そ、そんなバカな……だ、だが確かにベルゼビュート様からは魔王の放つ魔力の片鱗も見えない……しかも女王様二人にも分からないとなると……本当に一体どこへ行ってしまったのか……」
アスタロトが意気消沈している。これが『暴食』が見つからなかったことにあるのか、私が継承してないことにあるのかは分からないが……
「しかし、女王様二人のお手を煩わせるような強大な敵だったのですね」
ギクッ
「あ、あまりにもコロニーが大きくなり過ぎたから、強く進化した個体だったんじゃない?」
「そういえば、先日起こった樹の国のデスキラービー騒動でもそういった報告がされてましたね……確かにハチとアリは遺伝的に近い生態をしていますが……まさかただの特殊進化個体だったとは……」
「そ、そういうわけだから、引き続き王様代理の継続お願いね」
と言った私の言葉に否定の言葉が返って来た。
「それがそうも行きません」
「どういうこと?」
「今回、私の提案した独断の作戦により他国の兵士にも少なくない被害が出ていますので、私は国王代理を辞することになるでしょう。それどころか作戦立案時にこの命も差し出すと条件付けていますので罪にも問われ、最悪極刑の可能性があります」 (第454話参照)
「な、何でそんなことに?」
「属国アーヴェルムのヴァントウにジャイアントアントが発見されたと聞いた時に作戦をカイベルさんの仰ったものに沿って変更しました。結果的には功を奏しましたが……それでも他国兵士への被害は甚大だと報告を受けていますから」
きょ、極刑……?
何でそんな約束を……
カイベルの提案が元になってるってことか……この提案でアスタロトに責任を強いてしまったということか……
そう考えていたところ、病室の入り口側から声が聞こえた。
「その必要はありません」
入って来たのは雷の国のエリザレアさんとラッセルさん、樹の国のマルクさんだった。
「……エリザレア、ラッセル……討伐ご苦労様……」
「「はい!」」
アスモから二人を労う言葉。
「マルク殿もお疲れ様でした。それで……必要が無いとはどういうことですか?」
アスタロトのその問いに、マルクが話し始めた。
「我々は『もし作戦が外れ、大いなる被害を出してしまった場合』という条件の下、責任を取ってもらう約束をしました。ですので、損害はあったものの、作戦自体は外れてはいませんので責任を取る必要はありません」
「しかし……戦死者も多かったと報告されています」
「少なくない犠牲でした……しかし、ここでジャイアントアントを止められていなければ、いずれは世界中でもっと沢山の死者が出たことでしょう。強大な敵を風の国国内だけで止められたことを考えれば、むしろアスタロト殿の作戦変更は英断だったとも考えられます」
エリザレアとアスモがそれに続く。
「それに急に国王代理を替えられると私たちの国も困ってしまいますから。そうですよねアスモデウス様」
「……うん……長い間務めてくれてるから、別のヒトになるとその後の勝手が違う……できればそのままで……」
更にレヴィが続く。
「水の国としても三十年近く懇意にしているあなたに辞められるのは面倒ですから、そのまま続けていただけるとありがたいですね」
「そうですか……当事者国にそう言っていただけるのなら、続投も考えておきます」
どうやら国王代理は続投してもらえそうだ。
「ところでベルゼビュート様、何かしらに変質はありませんか?」
「変質? どこに? いや多分無いけど……何でそんなこと聞くの?」
「もしかしたら、女王やりたくなさに継承したことを黙っているのかと思いまして。もしくは知らず知らずに継承していることもあるかもと思いまして」
疑われてるのか!?
まあ、そりゃそうか。
『やりたくなさに』という言葉が合ってるだけに文句も言えない……
迂闊に『変質は無い』と答えてしまったけど、『何か変わった』って答えるのと『変質は無い』って答えるのはどちらが私にとって正解だったのかしら?
「そうですか……変質が無いなら継承はしてないようですね……魔力総量も上がってはいないようですし……」
どうやら『変質は無い』が正解だったらしい。
「どういう変質が起こるの?」
「まず、性格に違和感が出るらしいとのことです。今回の件は『暴食』の大罪ですので、お腹が減りやすくなるとか、食べ物のことで不都合があると怒りっぽくなるとか。大罪との相性にも依るのでそういった特徴が出ない方も歴代魔王の中にはいたようですが……」
ゲッ……たかが食べ物で怒りっぽくなるの……?
凄くあさましく思えるわ……
ルシファーを見ると、大罪との相性が良いと性格にも変化が起こりやすいらしいし、今後何も変わらなければ良いのだけど……
「前代ベルゼビュートの時にはどうだったの?」
「あ~……え~と……そういえば『あまりお腹空いた』みたいな話は聞いた覚えがないですね。大食いだったように思いますけど」
と言うことは、私はあまり変わらない可能性が高そうだ。
このまま大罪の話題になり続けるのも嘘を吐いてる手前居心地が悪いので、話の方向転換を図ることにする。気になったことを聞いてみよう。
「ところでさ、ボレアース城はどうなった?」
女帝蟻との戦いで、城の謁見の間で戦っていたはずなのに、いつの間にか崖下に寝てたからその後が気になっていた。
私の予想ではかなり修繕しないといけないのではないかと思っているが……
「余程激しい戦いがあったのか、ほぼ全壊の状態でした」
「ええっ!? そんなに!?」
「城に着いた時には城の形を成していなかったので唖然としましたよ。と言うよりも土台となっていたキノコ岩が、大きく損壊していたので、今残っている城の一部もいつ崩れるか分からず放置しておくのは危険な状態です。そのため今後城内で亡くなっていた者を収容し次第、土台ごと壊してしまう計画に移行するでしょう」
「そ、そう……」
「城内にはまだアリが残っていましたので探し出して駆除しました」
予想を遥かに超えて大ごとだった……
「し、城はどうなるの……? 再建するの?」
「現在はごたついていてまだまだそんなことは考えられません。ただ……『暴食』が戻って来ない以上、新たな王も立てられませんし、一時的に仮庁舎を作る程度に留まるのではないかと。城が再建されるのは大罪が見つかってからでしょうね」
何てこった……
私が国の象徴的な建造物を一つ壊しちゃったことになるのか……
「いかがいたしましたか? ベルゼビュート様が責任を感じるようなことではないと思うのですが……?」
「城が壊れたのって、私と女帝蟻が城内で戦った結果だから……」
「「「えっ!?」」」
その場に居たカイベル以外の全員が驚いた。
「し、しかしベルゼビュート様は城とは全然関係無い平原に居たではないですか! 城には女帝蟻も居りませんでしたし」
「ちょっとの時間気絶しちゃったから予想でしかないけど、城で対峙してる最中に、まず城の床と土台のキノコ岩をぶち抜かれて崖下に落とされて、次は崖下からぶっ飛ばされた時にボレアースを囲んでる山壁をぶち抜いて吹っ飛ばされて、最終的にさっきの平原に落ちたの」
「「「…………!!?…………」」」
再びカイベルを除いた全員が驚愕した顔をしている。
「じょ、女帝蟻と戦いながらそんなに移動してたんですか!?」
「に、二十キロくらい移動したんじゃ……?」
「ボレアースがある場所って、世界で二番目に高い山の中腹ですよ!? そんなところから落ちてよく無事でいられましたね!」
全員の心配の声をよそに話を続ける。
「そんななんで、私にも責任の一端があるかと……」
意気消沈したのが分かったのか、アスタロトがすかさずフォローしてくれた。
「し、仕方なかったのですよ! 城の中で対峙してしまったからには壊れるべくして壊れたと考えないと! むしろ女帝蟻を留めて、街への被害が無く、魔王に匹敵する相手からベルゼビュート様も無事に生きて戻って来られたのですから、儲けものくらいに思っておきませんと!」
他人んちの城をぶっ壊してしまった手前、到底素直に受け止められはしないが……
「分かった……そう思っておくよ……」
ただ、修繕費を請求されたら、一体どれほどの額になるのか戦慄を覚えるが……
気を取り直して、まだ聞きたいことを聞いておく。
「ボレアース市街へのジャイアントアントの襲撃はどうだった? 大丈夫だったの?」
「はい、まだ街中にて騎士団員が対処中です。この病院のあるエリア周辺はもう危険は無いでしょう。街への物損被害や建物損壊などはありましたが、ジャイアントアントが街に到達する前に避難指示していたため、住民には怪我人こそあれど死者は出ていません」
「そう、それは良かったわ。この病院の職員は避難しなかったの?」
「はい、負傷者や負傷兵を見込んで避難せず残ってくれた方が多かったようです」
「ジャイアントアントはどう対処したの?」
「カゼハナに行っていた全精鋭部隊を喚び寄せ、ローラー作戦で駆除に当たっています。間もなく根絶できるかと。イルリースとエアリアが空間魔法にて召喚を頑張ってくれたので援軍を迅速に喚び寄せることができました。イルリースは少々無理をしたため現在はこの病院に入院中です」
「入院!? 大丈夫なの!?」
「ベルゼビュート様のお怪我に比べれば大したものではないので心配無用です」
「そう、それなら良かった……」
そういえば、アイツはどうなったんだろう、あの増殖するアリ。
「デュプリケートはどうなった?」
「私の能力で死の宣告を与えたので、今後未来にアレが脅威になることはありません」
「ああ、あの毒の能力か」
……
…………
………………
アスタロトが少し驚いたような表情で沈黙した。
何かおかしいこと言ったか?
「私は……今生のベルゼビュート様に私の能力について話をしましたか?」
しまった! 失言した!
「あ、ああ、ちょ、ちょっと小耳に挟んだもので……」
「ティナリスからですか?」
ティナリスはアスタロトがこの毒の能力を嫌っていることを知っていたはず。
故にベラベラとしゃべることはしないはずだ。
「いやいや、ティナリスからそんな話聞いたことないよ」
「ではなぜご存じだったのでしょうか? まさか……本当は『暴食』を継承したのを隠していて、実は記憶が蘇っているとか?」
この一言に、私、レヴィ、アスモに緊張感が走る。
アスタロトのこの予想は概ね合っている。実は大罪を継承した時に、ベルゼビュートだった頃の記憶がかなり掘り起こされた。
そのため、アスタロトが毒の能力を持つのも知っていたのだ。
しかし、全記憶が戻って来るわけではないらしい。恐らく、大罪が再び私に戻って来るまでに何百種類もの生物を経由したため、その間に欠落していったのではないかと思う。
「き、記憶が蘇る? そんな特徴があるの……?」
継承したことを印象付けないためすっとぼける演技をする。
「私は存じません。何せ魔王が一度死んで、前世で得た大罪の魔力を持ちながら戻って来たケースはありませんので」
「記憶が蘇るとかどうとか、継承してないから分からないよ……」
「ではなぜ私の能力が毒だと?」
詰問されるような言い方だ……
うぅ……不用意な一言で一気に窮地に……
………………そうだ!
「つ、通信の魔道具から聞こえてきたのよ! 私が魔道具の親元だったからたまたま近くにあった魔道具がその言葉を拾ったみたい!」
「通信の魔道具? そんな報告は聞いていませんが、どこにあるんですか?」
「親元はウィンダルシアに預けたから、彼から聞いてみればまだ持ってると思う!」
「ふむ……声を拾っていたのならデュプリケートの顛末もご存じなのでは?」
うっ……
「そ、その時にはもうウィンダルシアに預けてたから詳細を! 詳細を教えてほしいの!」
「詳細をお望みでしたか。デュプリケートは私の能力によって最早土の中からは出られないと思います。彼の生態情報で作った彼にのみ特効する毒を大気中にばら撒きましたので毒を吸い込めば一呼吸で即死します」
「そっか、それなら安心した。あれがもし世に放たれたら尋常じゃない混乱が起きそうだから」
ふぅ……な、何とか継承の件は有耶無耶になりそうだ……
「私からお話します」
と、レヴィ。
「女帝蟻と思われる個体は、私、アスモデウス、カイベル、そしてアルトラの三人で倒しました。先ほどのアリの死骸が女帝蟻のものです」
「女帝蟻はヒトの姿をしていると聞いています。あれはどう見てもアリのような形でしたが?」
「推測でしかありませんが、死んで擬態能力が解け、本来のアリの姿に戻ったのではないかと思います」
「なるほど。それで――」
さっそくキタ……
「――『暴食』の大罪はどうなったのでしょうか?」
「…………見つかりませんでした」
「は?」
レヴィの言葉にしばらく思考停止してしまうアスタロト。
「ですから、あれは魔王ではありませんでした」
「……ただの突然変異種だったみたいだね……」
「『暴食』が見つからなかった!? 突然変異種!? そんなバカな!!」
アスモの追撃に、更に驚くアスタロト。
「で、ですがアリですよ!? アリが亜人のような姿で、人語まで話すのですか!? ベルゼビュート様!?」
「え!? ああ……そ、そうらしいね!」
突然こちらに話を振られてビックリした……
「でも倒しても『暴食』が見つからなかったのは事実だから……」
という体。
私からも『暴食』が“見つからなかった”ことを刷り込む。
ああ……また重大な嘘を抱えないといけないわけか……心中は憂鬱だ……
「そ、そんなバカな……だ、だが確かにベルゼビュート様からは魔王の放つ魔力の片鱗も見えない……しかも女王様二人にも分からないとなると……本当に一体どこへ行ってしまったのか……」
アスタロトが意気消沈している。これが『暴食』が見つからなかったことにあるのか、私が継承してないことにあるのかは分からないが……
「しかし、女王様二人のお手を煩わせるような強大な敵だったのですね」
ギクッ
「あ、あまりにもコロニーが大きくなり過ぎたから、強く進化した個体だったんじゃない?」
「そういえば、先日起こった樹の国のデスキラービー騒動でもそういった報告がされてましたね……確かにハチとアリは遺伝的に近い生態をしていますが……まさかただの特殊進化個体だったとは……」
「そ、そういうわけだから、引き続き王様代理の継続お願いね」
と言った私の言葉に否定の言葉が返って来た。
「それがそうも行きません」
「どういうこと?」
「今回、私の提案した独断の作戦により他国の兵士にも少なくない被害が出ていますので、私は国王代理を辞することになるでしょう。それどころか作戦立案時にこの命も差し出すと条件付けていますので罪にも問われ、最悪極刑の可能性があります」 (第454話参照)
「な、何でそんなことに?」
「属国アーヴェルムのヴァントウにジャイアントアントが発見されたと聞いた時に作戦をカイベルさんの仰ったものに沿って変更しました。結果的には功を奏しましたが……それでも他国兵士への被害は甚大だと報告を受けていますから」
きょ、極刑……?
何でそんな約束を……
カイベルの提案が元になってるってことか……この提案でアスタロトに責任を強いてしまったということか……
そう考えていたところ、病室の入り口側から声が聞こえた。
「その必要はありません」
入って来たのは雷の国のエリザレアさんとラッセルさん、樹の国のマルクさんだった。
「……エリザレア、ラッセル……討伐ご苦労様……」
「「はい!」」
アスモから二人を労う言葉。
「マルク殿もお疲れ様でした。それで……必要が無いとはどういうことですか?」
アスタロトのその問いに、マルクが話し始めた。
「我々は『もし作戦が外れ、大いなる被害を出してしまった場合』という条件の下、責任を取ってもらう約束をしました。ですので、損害はあったものの、作戦自体は外れてはいませんので責任を取る必要はありません」
「しかし……戦死者も多かったと報告されています」
「少なくない犠牲でした……しかし、ここでジャイアントアントを止められていなければ、いずれは世界中でもっと沢山の死者が出たことでしょう。強大な敵を風の国国内だけで止められたことを考えれば、むしろアスタロト殿の作戦変更は英断だったとも考えられます」
エリザレアとアスモがそれに続く。
「それに急に国王代理を替えられると私たちの国も困ってしまいますから。そうですよねアスモデウス様」
「……うん……長い間務めてくれてるから、別のヒトになるとその後の勝手が違う……できればそのままで……」
更にレヴィが続く。
「水の国としても三十年近く懇意にしているあなたに辞められるのは面倒ですから、そのまま続けていただけるとありがたいですね」
「そうですか……当事者国にそう言っていただけるのなら、続投も考えておきます」
どうやら国王代理は続投してもらえそうだ。
「ところでベルゼビュート様、何かしらに変質はありませんか?」
「変質? どこに? いや多分無いけど……何でそんなこと聞くの?」
「もしかしたら、女王やりたくなさに継承したことを黙っているのかと思いまして。もしくは知らず知らずに継承していることもあるかもと思いまして」
疑われてるのか!?
まあ、そりゃそうか。
『やりたくなさに』という言葉が合ってるだけに文句も言えない……
迂闊に『変質は無い』と答えてしまったけど、『何か変わった』って答えるのと『変質は無い』って答えるのはどちらが私にとって正解だったのかしら?
「そうですか……変質が無いなら継承はしてないようですね……魔力総量も上がってはいないようですし……」
どうやら『変質は無い』が正解だったらしい。
「どういう変質が起こるの?」
「まず、性格に違和感が出るらしいとのことです。今回の件は『暴食』の大罪ですので、お腹が減りやすくなるとか、食べ物のことで不都合があると怒りっぽくなるとか。大罪との相性にも依るのでそういった特徴が出ない方も歴代魔王の中にはいたようですが……」
ゲッ……たかが食べ物で怒りっぽくなるの……?
凄くあさましく思えるわ……
ルシファーを見ると、大罪との相性が良いと性格にも変化が起こりやすいらしいし、今後何も変わらなければ良いのだけど……
「前代ベルゼビュートの時にはどうだったの?」
「あ~……え~と……そういえば『あまりお腹空いた』みたいな話は聞いた覚えがないですね。大食いだったように思いますけど」
と言うことは、私はあまり変わらない可能性が高そうだ。
このまま大罪の話題になり続けるのも嘘を吐いてる手前居心地が悪いので、話の方向転換を図ることにする。気になったことを聞いてみよう。
「ところでさ、ボレアース城はどうなった?」
女帝蟻との戦いで、城の謁見の間で戦っていたはずなのに、いつの間にか崖下に寝てたからその後が気になっていた。
私の予想ではかなり修繕しないといけないのではないかと思っているが……
「余程激しい戦いがあったのか、ほぼ全壊の状態でした」
「ええっ!? そんなに!?」
「城に着いた時には城の形を成していなかったので唖然としましたよ。と言うよりも土台となっていたキノコ岩が、大きく損壊していたので、今残っている城の一部もいつ崩れるか分からず放置しておくのは危険な状態です。そのため今後城内で亡くなっていた者を収容し次第、土台ごと壊してしまう計画に移行するでしょう」
「そ、そう……」
「城内にはまだアリが残っていましたので探し出して駆除しました」
予想を遥かに超えて大ごとだった……
「し、城はどうなるの……? 再建するの?」
「現在はごたついていてまだまだそんなことは考えられません。ただ……『暴食』が戻って来ない以上、新たな王も立てられませんし、一時的に仮庁舎を作る程度に留まるのではないかと。城が再建されるのは大罪が見つかってからでしょうね」
何てこった……
私が国の象徴的な建造物を一つ壊しちゃったことになるのか……
「いかがいたしましたか? ベルゼビュート様が責任を感じるようなことではないと思うのですが……?」
「城が壊れたのって、私と女帝蟻が城内で戦った結果だから……」
「「「えっ!?」」」
その場に居たカイベル以外の全員が驚いた。
「し、しかしベルゼビュート様は城とは全然関係無い平原に居たではないですか! 城には女帝蟻も居りませんでしたし」
「ちょっとの時間気絶しちゃったから予想でしかないけど、城で対峙してる最中に、まず城の床と土台のキノコ岩をぶち抜かれて崖下に落とされて、次は崖下からぶっ飛ばされた時にボレアースを囲んでる山壁をぶち抜いて吹っ飛ばされて、最終的にさっきの平原に落ちたの」
「「「…………!!?…………」」」
再びカイベルを除いた全員が驚愕した顔をしている。
「じょ、女帝蟻と戦いながらそんなに移動してたんですか!?」
「に、二十キロくらい移動したんじゃ……?」
「ボレアースがある場所って、世界で二番目に高い山の中腹ですよ!? そんなところから落ちてよく無事でいられましたね!」
全員の心配の声をよそに話を続ける。
「そんななんで、私にも責任の一端があるかと……」
意気消沈したのが分かったのか、アスタロトがすかさずフォローしてくれた。
「し、仕方なかったのですよ! 城の中で対峙してしまったからには壊れるべくして壊れたと考えないと! むしろ女帝蟻を留めて、街への被害が無く、魔王に匹敵する相手からベルゼビュート様も無事に生きて戻って来られたのですから、儲けものくらいに思っておきませんと!」
他人んちの城をぶっ壊してしまった手前、到底素直に受け止められはしないが……
「分かった……そう思っておくよ……」
ただ、修繕費を請求されたら、一体どれほどの額になるのか戦慄を覚えるが……
気を取り直して、まだ聞きたいことを聞いておく。
「ボレアース市街へのジャイアントアントの襲撃はどうだった? 大丈夫だったの?」
「はい、まだ街中にて騎士団員が対処中です。この病院のあるエリア周辺はもう危険は無いでしょう。街への物損被害や建物損壊などはありましたが、ジャイアントアントが街に到達する前に避難指示していたため、住民には怪我人こそあれど死者は出ていません」
「そう、それは良かったわ。この病院の職員は避難しなかったの?」
「はい、負傷者や負傷兵を見込んで避難せず残ってくれた方が多かったようです」
「ジャイアントアントはどう対処したの?」
「カゼハナに行っていた全精鋭部隊を喚び寄せ、ローラー作戦で駆除に当たっています。間もなく根絶できるかと。イルリースとエアリアが空間魔法にて召喚を頑張ってくれたので援軍を迅速に喚び寄せることができました。イルリースは少々無理をしたため現在はこの病院に入院中です」
「入院!? 大丈夫なの!?」
「ベルゼビュート様のお怪我に比べれば大したものではないので心配無用です」
「そう、それなら良かった……」
そういえば、アイツはどうなったんだろう、あの増殖するアリ。
「デュプリケートはどうなった?」
「私の能力で死の宣告を与えたので、今後未来にアレが脅威になることはありません」
「ああ、あの毒の能力か」
……
…………
………………
アスタロトが少し驚いたような表情で沈黙した。
何かおかしいこと言ったか?
「私は……今生のベルゼビュート様に私の能力について話をしましたか?」
しまった! 失言した!
「あ、ああ、ちょ、ちょっと小耳に挟んだもので……」
「ティナリスからですか?」
ティナリスはアスタロトがこの毒の能力を嫌っていることを知っていたはず。
故にベラベラとしゃべることはしないはずだ。
「いやいや、ティナリスからそんな話聞いたことないよ」
「ではなぜご存じだったのでしょうか? まさか……本当は『暴食』を継承したのを隠していて、実は記憶が蘇っているとか?」
この一言に、私、レヴィ、アスモに緊張感が走る。
アスタロトのこの予想は概ね合っている。実は大罪を継承した時に、ベルゼビュートだった頃の記憶がかなり掘り起こされた。
そのため、アスタロトが毒の能力を持つのも知っていたのだ。
しかし、全記憶が戻って来るわけではないらしい。恐らく、大罪が再び私に戻って来るまでに何百種類もの生物を経由したため、その間に欠落していったのではないかと思う。
「き、記憶が蘇る? そんな特徴があるの……?」
継承したことを印象付けないためすっとぼける演技をする。
「私は存じません。何せ魔王が一度死んで、前世で得た大罪の魔力を持ちながら戻って来たケースはありませんので」
「記憶が蘇るとかどうとか、継承してないから分からないよ……」
「ではなぜ私の能力が毒だと?」
詰問されるような言い方だ……
うぅ……不用意な一言で一気に窮地に……
………………そうだ!
「つ、通信の魔道具から聞こえてきたのよ! 私が魔道具の親元だったからたまたま近くにあった魔道具がその言葉を拾ったみたい!」
「通信の魔道具? そんな報告は聞いていませんが、どこにあるんですか?」
「親元はウィンダルシアに預けたから、彼から聞いてみればまだ持ってると思う!」
「ふむ……声を拾っていたのならデュプリケートの顛末もご存じなのでは?」
うっ……
「そ、その時にはもうウィンダルシアに預けてたから詳細を! 詳細を教えてほしいの!」
「詳細をお望みでしたか。デュプリケートは私の能力によって最早土の中からは出られないと思います。彼の生態情報で作った彼にのみ特効する毒を大気中にばら撒きましたので毒を吸い込めば一呼吸で即死します」
「そっか、それなら安心した。あれがもし世に放たれたら尋常じゃない混乱が起きそうだから」
ふぅ……な、何とか継承の件は有耶無耶になりそうだ……
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