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第17章 風の国ストムバアル『暴食』の大罪騒乱編
第484話 女帝蟻の脅威
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あれ? ここ城の中じゃないな……どこだ?
目が覚めてすぐの視界には上空へ続くキノコ岩と光源だけが浮かんだ黒い闇夜が広がっている。
数秒か、数十秒か、ほんの少しの間だけ気絶していたらしく、次に気付いた時には城ではない土の地面に仰向けで寝そべっていた。
「どういうこと? 私は確かボレアース城内で戦っていたはず……」
徐に起き上がり、腕やその他の部位を見ると煤で真っ黒になっていた。
周囲を見回すと近くには巨大な岩石やその破片、何らかの建物の一部である瓦礫の山が多数落ちている。
幸いにも岩石の下敷きになってなくて助かった。潰される心配は無いが、下敷きになっていたら這い出るのが大変だった。
ここで額に手を当てて思い起こしてみる。
覚えてる限りでは……女帝蟻がブチギレて、女帝の脇腹から生えた三本目、四本目の腕で拘束されたまま、炎を纏った拳で滅多打ちにされたのは覚えてる。
凄い数の爆発音がしてたのも覚えてる。多分何度も顔面に爆発を浴びせられたんだろう。
崖下に寝ていたってことは……ボレアース城の地下を貫き、土台であるキノコ岩も貫いて落ちて来たってことになるのか? 周囲に落ちてるでかい瓦礫は城の一部かな? もしかしたら城は跡形も無いかも……
手腕を見る限り、顔も煤けてるかもしれない。
一応顔を両手で拭い、近くに落ちていた『真剣斬丸』を拾い上げる。
その直後――
「キサマ……」
その言葉に悪寒が走り、振り向くと女帝が仁王立ちしていた。
「城が崩壊するほどの爆炎を喰らわせたのに頭が吹き飛ぶどころか、無傷か? どうなっておる……不死身なのか?」
『真剣斬丸』で付けた傷は、左腕の方はもうほぼ塞がっており、【樹液】で溶けた視力も元通りになっているらしい。
ただ、切断寸前だった右腕は炎の魔力を纏って連打したためか、焦げて燻っていた。
が、次の瞬間自身の右腕を切断。そして炎を上げる火の精霊のような姿に変身するとみるみるうちに再生し、全て元通りに。
再生後、炎の姿から再びエルフの姿に戻った。
「そ、その姿は……?」
私が容姿について聞くと、なぜか機嫌が良くなる。
「おお! わらわの見た目に言及したのはそなたが初めてだぞ! この姿が特に気に入っておっての、普段はこの姿を取ることにしておるのじゃ! 美しいじゃろこの姿は」
エルフの姿が特にお気に入りか……さっきの火の精霊のような姿も、女帝が変身する一つの形態ということか。なぜか機嫌が良くなったし詳しく聞いてみよう。
「さ、さっきの炎のような姿は……?」
「あれは身体を回復する時にだけ変身するようにしておる。あの姿になるとなぜか回復が早くなるのでな。あの姿も光って綺麗じゃが、朧気で今にも消えてしまいそうなところはあまり好きではなくての、怪我を治すために一時的に変身したのじゃ」
どうやらあの火の精霊のような姿に変身すると、再生力が著しく上がるようだ。
確か……精霊は大気中の魔素を吸収することで再生力を上げるという話だったはず。あの火の精霊のような姿に変化することによって魔素の吸収を促進させられるんだろう。
火の精霊の姿を取れるということは火の精霊も食ってるということになるな……
「しかし不死身の身体か……死なないのでは面倒だな……だが、そなたの態度は明らかにわらわに勝てるというような態度ではないな。焦りのようなものも見えておるし」
魔王相手だから、心情が態度にも出ていたか!? 余裕の無さを見抜かれてしまっている。
「と言うことはそなたにダメージを与えられる攻撃もあるということか? まあ良い。幸いわらわも簡単には死なぬ身体をしておる。ならば殺せる方法を探し出すだけじゃ」
あれだけ炎の拳の連打を喰らわせて、全くダメージを与えられなかった私に対し、驚愕せず不安も恐怖も微塵も見せず、ダメージを与える確信があるわけでもないのにニヤリと笑って見せた。
この瞬間感じていた悪寒が倍増、そしてこう思ってしまった。
『私では“絶対に”勝てない……』
と……
もし、彼女が自身の風魔法の特質性に気付いてしまったら、一瞬で殺され得るのは明白!
魔王と私でここまで差があるものなのか……
同じ魔王であるレヴィやアスモと対面してもここまで脅威と感じたことは無い。それは彼女らが臨戦態勢ではなかったからということだからかもしれない……
殺意を持った魔王というのはここまでどうしようもないと思わせられるのか……ルシファーと対峙した時にはごく短い時間で撤退したからそう思うこともなかったのだろう。
冷や汗が顔を伝って流れる。
内心恐怖を感じていると、女帝がまたも視界から消えた。
次の瞬間には髪の毛をワシ掴みされ、身体そのものをブンブン振り回されていた。
「うわわわっ!!」
「それ! 飛んで行け!」
勢い良く振り回された後にぶん投げられ、キノコ岩の岩壁にぶつかる。
更に追い打ちで、岩壁に埋まったままお腹に連打を喰らい、身体がどんどんキノコ岩に埋まっていく。
埋まってもなお連打は続き、最後にはキノコ岩が倒壊、私は更に水平に吹き飛ばされ、ボレアースの街のある山から叩き出されたらしい。
気付けば上空に投げ出されていた!
連打も終わったかと思いきや背中に羽を生やした状態で追いつかれ、しばらく空中遊泳した後、最後には地面へ叩き落される。
地面が丸く抉れるほど強烈に叩き付けられたが痛みは全く無い。
だが……
「う……」
い、痛くは無い、痛くは無いが、凄まじい早さで投げられたり一瞬にして場所を強制的に移動させられたりするから、自分がどこに居て、どんな姿勢で居るのか認識するまで頭が混乱する……
そしてまた髪の毛をワシ掴みにされて、引きずられる……
「ほほう、素晴らしいな、これだけわらわの攻撃を浴びてなお無傷とは。さて、どんな攻撃なら傷を付けられるのかのう?」
口調が元に戻っている。
怒りが収まったらしいが、むしろ現在の方が私に恐怖心を抱かせる。
く……くそ……う、動きが早過ぎてまだ頭が混乱している……な、何とかこっちからも攻撃を……
と思い右手に持っているはずの『真剣斬丸』で抵抗しようとしたが、手元に無い!
殴られまくった時にどこかへ落としたか!
「お? そなたが使ってた刀とやらが落ちておるぞ。わらわの身体に傷を付けたこれなら、流石のそなたにも傷が付くのではないか?」
連打を喰らっている間に偶然にも私と一緒に飛んで来たのか?
目に見える範囲にあったらしく、先に女帝に見つけられてしまった!
髪の毛をワシ掴みにされたまま引きずられ、女帝が刀を手にする。
「ではわらわの腕に傷を付けた、その悪い子の腕をいただこう」
と刀を振り下ろすも、『ガキキッ!』という金属音を出して刃が止まる。
「なにぃ? これでも傷が付かんのか? そういえばさっきは小刻みに振動しておったな。魔力を流すのか?」
『真剣斬丸』が振動する刃に変わる。
「ふむ、なるほど、これで切れ味を増すのか」
その振動する刃で斬り付けるも、『ギュイイィィィン!』という音と共に激しい火花を散らし、それでも私の身体に傷は付かない。
「なんと! これでもダメとは! 火花まで散っておるぞ!? そなた、本当に生物なのか!?」
やっと頭がはっきりしてきた。
「いい加減に離しなさい!! 【炸裂する爆炎】!」
髪を掴まれながらも魔力を溜め、自分を中心に広範囲に火魔法を炸裂させる。
女帝蟻は、危険を感じたのか私から手を離して距離を取った。
やっと髪の毛から手を離されたため、まず位置確認。
周囲を見回すとどうやら平原のようなところへ叩き落されたらしい。キノコ岩の崖下のように壊れるものが近くに無いから多少戦い易くなったかもしれない。
「自爆紛いのことをやっても無傷とは……そなたの肉体には本当に驚かされる。わらわですら微かだが火傷してしまったと言うのに……」
髪の毛は離してもらえたが、依然真剣斬丸は女帝の手にある。
あれを何とか取り返したいが……
「そなたに傷を付けられぬのならこんなものはいらんな」
しめた! 捨てるつもりか!
何とか拾って取り戻そう…………と思ったところ。
バキッ!と刃をへし折られ、炎でドロドロに溶かされた……
「これでわらわの身体に傷は付かん。一安心じゃ」
ぐっ……じゃ、じゃあもう一度作るまでだ。
『真剣斬丸』バージョン2を作った。
「おぉ!? 何じゃそなた! 簡単に作れるのか!?」
「ええ、奪われても壊されてももう一度作るから無駄よ」
さっきの『もう一度似たような増える能力を持つ者を産めば済むだけではないか!』というセリフへの意趣返し。
「じゃあ再開しようか」
今度はこちらから仕掛ける。
切れ味を増すために風魔法を『真剣斬丸Ver.2』に付与し魔法剣に仕立てる。
女帝に飛び掛かり、素早く袈裟斬りを繰り出す。
が、半歩下がって危なげ無く回避されてしまった。
すかさず返す刀で右薙ぎ。
しかし、これも半歩下がってあっさりと回避。
「………………」
そこからは素早く連続して刀を繰り出す。
袈裟斬り、右薙ぎ、一回転して横薙ぎ、左逆袈裟斬り、左薙ぎ、逆袈裟斬り、脛斬り…………と連続で繰り出すも、全て難無く回避されてしまった!
「フッ……如何に切れ味鋭い刀とて、当たらなければどうと言うことはないのう」
ま、全く当たらない!
相手の素早さが格段に上だから掠りすらしない!
切れ味に警戒しているのか防御しようともしない!
ならばと最後に刀を鞘に納める。
「お? もう終わりか?」
素早く距離を詰め、居合斬りを繰り出す。
「おお! これは中々早い一撃じゃ……」
が、『ガギギ、パァン!』と言う音で弾かれてしまった。
「そ、その腕は?」
「見たことないか? 亀の甲羅というヤツじゃ」
右腕に甲羅の盾が出現している。また身体を変化させて盾を作り出したんだ。
本来は背中にあるべきものなのに……本来の場所じゃないところにも作り出せるってことなのか?
「お、思った通りそのよく切れる刀でも甲羅は斬り難いようじゃな」
確かに……硬いうえに丸みを帯びた甲羅は、如何に振動で切れ味が増している刀と言えど斬るのはむずかしいようだ。
ここまでことごとく攻撃を無力化されてしまうとは……
かと言って、魔法合戦を挑もうにも、あちらは私の魔力の三倍……
「もう万策尽きたか? だが、まだそなたの魔法は炎を炸裂させたものしか見せられたおらんぞ? もっと手はあるのだろう? そなたはわらわの力を持ってしても簡単に死なぬ稀に見る存在だからな。もっと楽しませよ」
魔法合戦をお望みなのか?
目が覚めてすぐの視界には上空へ続くキノコ岩と光源だけが浮かんだ黒い闇夜が広がっている。
数秒か、数十秒か、ほんの少しの間だけ気絶していたらしく、次に気付いた時には城ではない土の地面に仰向けで寝そべっていた。
「どういうこと? 私は確かボレアース城内で戦っていたはず……」
徐に起き上がり、腕やその他の部位を見ると煤で真っ黒になっていた。
周囲を見回すと近くには巨大な岩石やその破片、何らかの建物の一部である瓦礫の山が多数落ちている。
幸いにも岩石の下敷きになってなくて助かった。潰される心配は無いが、下敷きになっていたら這い出るのが大変だった。
ここで額に手を当てて思い起こしてみる。
覚えてる限りでは……女帝蟻がブチギレて、女帝の脇腹から生えた三本目、四本目の腕で拘束されたまま、炎を纏った拳で滅多打ちにされたのは覚えてる。
凄い数の爆発音がしてたのも覚えてる。多分何度も顔面に爆発を浴びせられたんだろう。
崖下に寝ていたってことは……ボレアース城の地下を貫き、土台であるキノコ岩も貫いて落ちて来たってことになるのか? 周囲に落ちてるでかい瓦礫は城の一部かな? もしかしたら城は跡形も無いかも……
手腕を見る限り、顔も煤けてるかもしれない。
一応顔を両手で拭い、近くに落ちていた『真剣斬丸』を拾い上げる。
その直後――
「キサマ……」
その言葉に悪寒が走り、振り向くと女帝が仁王立ちしていた。
「城が崩壊するほどの爆炎を喰らわせたのに頭が吹き飛ぶどころか、無傷か? どうなっておる……不死身なのか?」
『真剣斬丸』で付けた傷は、左腕の方はもうほぼ塞がっており、【樹液】で溶けた視力も元通りになっているらしい。
ただ、切断寸前だった右腕は炎の魔力を纏って連打したためか、焦げて燻っていた。
が、次の瞬間自身の右腕を切断。そして炎を上げる火の精霊のような姿に変身するとみるみるうちに再生し、全て元通りに。
再生後、炎の姿から再びエルフの姿に戻った。
「そ、その姿は……?」
私が容姿について聞くと、なぜか機嫌が良くなる。
「おお! わらわの見た目に言及したのはそなたが初めてだぞ! この姿が特に気に入っておっての、普段はこの姿を取ることにしておるのじゃ! 美しいじゃろこの姿は」
エルフの姿が特にお気に入りか……さっきの火の精霊のような姿も、女帝が変身する一つの形態ということか。なぜか機嫌が良くなったし詳しく聞いてみよう。
「さ、さっきの炎のような姿は……?」
「あれは身体を回復する時にだけ変身するようにしておる。あの姿になるとなぜか回復が早くなるのでな。あの姿も光って綺麗じゃが、朧気で今にも消えてしまいそうなところはあまり好きではなくての、怪我を治すために一時的に変身したのじゃ」
どうやらあの火の精霊のような姿に変身すると、再生力が著しく上がるようだ。
確か……精霊は大気中の魔素を吸収することで再生力を上げるという話だったはず。あの火の精霊のような姿に変化することによって魔素の吸収を促進させられるんだろう。
火の精霊の姿を取れるということは火の精霊も食ってるということになるな……
「しかし不死身の身体か……死なないのでは面倒だな……だが、そなたの態度は明らかにわらわに勝てるというような態度ではないな。焦りのようなものも見えておるし」
魔王相手だから、心情が態度にも出ていたか!? 余裕の無さを見抜かれてしまっている。
「と言うことはそなたにダメージを与えられる攻撃もあるということか? まあ良い。幸いわらわも簡単には死なぬ身体をしておる。ならば殺せる方法を探し出すだけじゃ」
あれだけ炎の拳の連打を喰らわせて、全くダメージを与えられなかった私に対し、驚愕せず不安も恐怖も微塵も見せず、ダメージを与える確信があるわけでもないのにニヤリと笑って見せた。
この瞬間感じていた悪寒が倍増、そしてこう思ってしまった。
『私では“絶対に”勝てない……』
と……
もし、彼女が自身の風魔法の特質性に気付いてしまったら、一瞬で殺され得るのは明白!
魔王と私でここまで差があるものなのか……
同じ魔王であるレヴィやアスモと対面してもここまで脅威と感じたことは無い。それは彼女らが臨戦態勢ではなかったからということだからかもしれない……
殺意を持った魔王というのはここまでどうしようもないと思わせられるのか……ルシファーと対峙した時にはごく短い時間で撤退したからそう思うこともなかったのだろう。
冷や汗が顔を伝って流れる。
内心恐怖を感じていると、女帝がまたも視界から消えた。
次の瞬間には髪の毛をワシ掴みされ、身体そのものをブンブン振り回されていた。
「うわわわっ!!」
「それ! 飛んで行け!」
勢い良く振り回された後にぶん投げられ、キノコ岩の岩壁にぶつかる。
更に追い打ちで、岩壁に埋まったままお腹に連打を喰らい、身体がどんどんキノコ岩に埋まっていく。
埋まってもなお連打は続き、最後にはキノコ岩が倒壊、私は更に水平に吹き飛ばされ、ボレアースの街のある山から叩き出されたらしい。
気付けば上空に投げ出されていた!
連打も終わったかと思いきや背中に羽を生やした状態で追いつかれ、しばらく空中遊泳した後、最後には地面へ叩き落される。
地面が丸く抉れるほど強烈に叩き付けられたが痛みは全く無い。
だが……
「う……」
い、痛くは無い、痛くは無いが、凄まじい早さで投げられたり一瞬にして場所を強制的に移動させられたりするから、自分がどこに居て、どんな姿勢で居るのか認識するまで頭が混乱する……
そしてまた髪の毛をワシ掴みにされて、引きずられる……
「ほほう、素晴らしいな、これだけわらわの攻撃を浴びてなお無傷とは。さて、どんな攻撃なら傷を付けられるのかのう?」
口調が元に戻っている。
怒りが収まったらしいが、むしろ現在の方が私に恐怖心を抱かせる。
く……くそ……う、動きが早過ぎてまだ頭が混乱している……な、何とかこっちからも攻撃を……
と思い右手に持っているはずの『真剣斬丸』で抵抗しようとしたが、手元に無い!
殴られまくった時にどこかへ落としたか!
「お? そなたが使ってた刀とやらが落ちておるぞ。わらわの身体に傷を付けたこれなら、流石のそなたにも傷が付くのではないか?」
連打を喰らっている間に偶然にも私と一緒に飛んで来たのか?
目に見える範囲にあったらしく、先に女帝に見つけられてしまった!
髪の毛をワシ掴みにされたまま引きずられ、女帝が刀を手にする。
「ではわらわの腕に傷を付けた、その悪い子の腕をいただこう」
と刀を振り下ろすも、『ガキキッ!』という金属音を出して刃が止まる。
「なにぃ? これでも傷が付かんのか? そういえばさっきは小刻みに振動しておったな。魔力を流すのか?」
『真剣斬丸』が振動する刃に変わる。
「ふむ、なるほど、これで切れ味を増すのか」
その振動する刃で斬り付けるも、『ギュイイィィィン!』という音と共に激しい火花を散らし、それでも私の身体に傷は付かない。
「なんと! これでもダメとは! 火花まで散っておるぞ!? そなた、本当に生物なのか!?」
やっと頭がはっきりしてきた。
「いい加減に離しなさい!! 【炸裂する爆炎】!」
髪を掴まれながらも魔力を溜め、自分を中心に広範囲に火魔法を炸裂させる。
女帝蟻は、危険を感じたのか私から手を離して距離を取った。
やっと髪の毛から手を離されたため、まず位置確認。
周囲を見回すとどうやら平原のようなところへ叩き落されたらしい。キノコ岩の崖下のように壊れるものが近くに無いから多少戦い易くなったかもしれない。
「自爆紛いのことをやっても無傷とは……そなたの肉体には本当に驚かされる。わらわですら微かだが火傷してしまったと言うのに……」
髪の毛は離してもらえたが、依然真剣斬丸は女帝の手にある。
あれを何とか取り返したいが……
「そなたに傷を付けられぬのならこんなものはいらんな」
しめた! 捨てるつもりか!
何とか拾って取り戻そう…………と思ったところ。
バキッ!と刃をへし折られ、炎でドロドロに溶かされた……
「これでわらわの身体に傷は付かん。一安心じゃ」
ぐっ……じゃ、じゃあもう一度作るまでだ。
『真剣斬丸』バージョン2を作った。
「おぉ!? 何じゃそなた! 簡単に作れるのか!?」
「ええ、奪われても壊されてももう一度作るから無駄よ」
さっきの『もう一度似たような増える能力を持つ者を産めば済むだけではないか!』というセリフへの意趣返し。
「じゃあ再開しようか」
今度はこちらから仕掛ける。
切れ味を増すために風魔法を『真剣斬丸Ver.2』に付与し魔法剣に仕立てる。
女帝に飛び掛かり、素早く袈裟斬りを繰り出す。
が、半歩下がって危なげ無く回避されてしまった。
すかさず返す刀で右薙ぎ。
しかし、これも半歩下がってあっさりと回避。
「………………」
そこからは素早く連続して刀を繰り出す。
袈裟斬り、右薙ぎ、一回転して横薙ぎ、左逆袈裟斬り、左薙ぎ、逆袈裟斬り、脛斬り…………と連続で繰り出すも、全て難無く回避されてしまった!
「フッ……如何に切れ味鋭い刀とて、当たらなければどうと言うことはないのう」
ま、全く当たらない!
相手の素早さが格段に上だから掠りすらしない!
切れ味に警戒しているのか防御しようともしない!
ならばと最後に刀を鞘に納める。
「お? もう終わりか?」
素早く距離を詰め、居合斬りを繰り出す。
「おお! これは中々早い一撃じゃ……」
が、『ガギギ、パァン!』と言う音で弾かれてしまった。
「そ、その腕は?」
「見たことないか? 亀の甲羅というヤツじゃ」
右腕に甲羅の盾が出現している。また身体を変化させて盾を作り出したんだ。
本来は背中にあるべきものなのに……本来の場所じゃないところにも作り出せるってことなのか?
「お、思った通りそのよく切れる刀でも甲羅は斬り難いようじゃな」
確かに……硬いうえに丸みを帯びた甲羅は、如何に振動で切れ味が増している刀と言えど斬るのはむずかしいようだ。
ここまでことごとく攻撃を無力化されてしまうとは……
かと言って、魔法合戦を挑もうにも、あちらは私の魔力の三倍……
「もう万策尽きたか? だが、まだそなたの魔法は炎を炸裂させたものしか見せられたおらんぞ? もっと手はあるのだろう? そなたはわらわの力を持ってしても簡単に死なぬ稀に見る存在だからな。もっと楽しませよ」
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