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第17章 風の国ストムゼブブ『暴食』の大罪騒乱編
第481話 アスタロトの秘術
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次に仕掛けたのは大量に降り注ぐ水。
『今度は水のデュプリケートか?』と二人が思ったのも束の間。降り注ぐ水は氷に変化し、大量の氷柱へと姿を変え、ティナリスたちに向かって降り注ぐ!
ティナリスが巨鳥形態へと変身し、羽ばたきで氷柱と水、そして多数のデュプリケートを吹き飛ばす。
しかし、翼には多数の氷柱が刺さり、痛々しい状態に……そこから更に氷が翼全体に広がる。
その直後、人型形態に戻って氷柱を外そうとするものの、既に左腕が凍り付いていて動かせなくなってしまう。
◇
左半身を火傷し、それでも奮戦するロックス。
左腕が凍り付かされ、片手一本で槍を振り回し、なおも多数のデュプリケートを屠るティナリス。
傷だらけになり、重傷を負いながらも気力だけで戦い続けていた二人だったが……
遂に限界が訪れる。
「はぁ……はぁ……」
「フゥ……ハァ……」
もはや満身創痍の二人だった。
疲れ切っていた二人は、樹の能力を持つデュプリケートの根っこのようなものに絡めとられ捕まってしまう。
「く、くそっ!」
「も、もう振りほどく体力がありません……」
疲弊して体力が続かなくなった二人に、アスタロトを守る風のバリアを維持することができずバリアは消失。
嵐のような竜巻状のバリアが解かれ、アスタロトが姿を現す。
「ハハハハハ!! 二人ともようやく大人しくなってくれましたね。あとは串刺しにして終わりです!」
「アスタロトが風のバリアの中で何をしていたか知りませんが、アスタロトも潰してさしあげましょう」
その頃には、風で守られていたアスタロトの周りだけが特別綺麗な状態で、その外側には死屍累々のデュプリケートの死骸だらけ。
バリアがあった部分と他との境界がくっきり出来ていた。
しかしその時、じっと佇んでいたアスタロトが閉じていた目を開き、その口を開いた。
「二人とも時間稼ぎご苦労様でした。無事生成が完了しました」
自分の周囲を見回して――
「壮絶な戦いがあったのですね……ですがもう大丈夫です。お二人が頑張ってくれたお蔭でデュプリケートを倒せます」
依然、三人の周りには数百、数千のデュプリケート。全方位を囲まれ四面楚歌の状態には違いない。
この絶望的な状況では、とても『大丈夫』などという言葉を言い放てるはずがないのだが……アスタロトは落ち着き払っていた。
それと言うのも、自身の生成した能力に絶対の自信を持っていたためである。
「私たちを倒せる?」
「あなたはこの圧倒的物量の差を覆せると思っているのですか?」
「この場だけでもまだまだ数百体の『私』が残っている」
「あなた方は手負いを含めてたった三人、私は際限なく増殖できると言うのに」
「あなたご自慢の双璧はもう私に捕まってこのざまなのですよ?」
木の根っこのようなものに捕まった二人を一目見て答える。
「そうですね、すぐにでも助け出したいところですが、もう少しだけお待ちください」
挑発しても乗って来ないアスタロトに、なぜこの全方位敵だらけの状況で落ち着き払っていられるのか、その疑問の答えは『生成』という言葉にあると考え、デュプリケートは更に質問を続ける。
「今『生成が完了した』、そう言いましたね?」
「その生成とは何ですか?」
アスタロトがその質問に答える。
「そうですね、お楽しみもそろそろ種明かしして良いでしょう。私の持つ特殊能力は『毒の生成』です」
「ど、毒?」
「そう、作ったのはあなたを殺すための猛毒です」
……
…………
………………
その話を聞き全てのデュプリケートが沈黙した。
数舜の後、再びしゃべり出す。
「こ、この状況でこの大量の数に効く毒を放つのですか?」
「わ、我々の身体は亜人より遥かに強靭です」
「こ、この状況でそんな強力な毒を放ったらあなたの国の双璧も無事では済みませんよ?」
「あなたは風の国の双璧も殺すつもりですか?」
やれやれという態度で肩をすくめるアスタロト。
「ちゃんと話を聞いていましたか? “あなたを”殺す毒です。この毒はあなたの生態情報を私の体内で魔力解析し、あなた専用に作った猛毒です。あなたは先ほど『ここに居るデュプリケート全てが同一個体』だとおっしゃっていましたね? 全員が『同一個体』と言うことは異種族に影響無いように毒の効き目を調整する必要も無く、実に簡単な生成が行えました。ですので、あなた以外の生物には全く効果がありませんのでご安心を。毒はもう放っています。さあ、そろそろ効いてきたのではないですか?」
会話している間に見えない毒を既に撒き散らしていたアスタロト。
「なん……だと……!?」
「ひっ!?」
「うげっ……」
「ガホッ……!」
「ゲホッゲホッ!! ガホッ! ゲェーー……!」
突然多数のデュプリケートが口からドバドバドバと白い血を垂れ流し、続いて目、鼻、耳からも同様の液体が流れる。
顔から大量出血した後は、身体中がボコボコと歪に膨らみ、灰色をしていたデュプリケートの体色はところどころドス黒い色へと変貌。
更に少し経つと身体に出来た歪な膨らみは空気が抜けたように萎み、やがて乾いて崩れ、多数のデュプリケートの身体が塵となって風に消えた。
この毒は生成主であるアスタロトの居る場所から放射状に、離れたところに居るデュプリケートへと徐々に徐々に伝染していく。
「う……あ……な、何だこれは!?」
「これが毒!?」
「ここに居たらヤバイ!」
「く、くそっ! 撤退だ! 撤退! 一度撤退して十分に戦力を増やす!」
「全員ここから逃げろ!」
「今度は対処すらできないほどの大軍勢を用意してやる! 覚えておけ!」
アスタロトへ指をさして捨て台詞を吐き、生き残っていたデュプリケートが焦って蜘蛛の子を散らすようにそれぞれの方向へ逃げ出した。
この毒の感染過程で、ティナリスとロックスを捕らえていた木の根のようなものも、デュプリケートの細胞で出来ていたため乾いて崩れ去り、拘束を解かれて二人は地面へと落下。
「二人とも大丈夫ですか?」
「かなりの大怪我だとは思うが……命には関わらないだろう」
「アスタロト! 私たちのことより、ヤツら逃げてしまいますよ! 大丈夫なのですか!?」
「逃げるのは問題ありませんが説明がまだ途中です。一匹捕まえてください。意識を共有しているという話ですのでソイツ一匹に説明すればデュプリケート全員に知れ渡るでしょう」
ロックスは重傷を負いながらも、逃げようとするデュプリケートの一匹を風魔法で拘束する。
「な、何をする! 離せ!」
「うちの大将が言うことがあるって言うからまあ聞いてけよ」
「離せ! 死んでしまうだろうが!」
死が差し迫っている状況であるためか、デュプリケートの嫌味を含む紳士的な口調も無くなっていた。
「まだ説明していないことがあるのであなたに伝えておきます。この毒、非常に消えにくく作りました。半減期は五十年というところで、向こう百年は世界中の風に混じって飛ぶでしょう。そしてあなた専用に作った毒ですので、あなたはひと吸いしただけで即死します。もうこの世界のどこに居ても死を免れることはありません」
「そ、そんなぁ~……せっかくの不死に近い身体なのにガボガボガボ……」
捕まってる間に毒に冒されたのか、顔から血が流れ、身体が膨れていく。
もはや死ぬ寸前だが、アスタロトは話を続ける。
「まだ聞こえてますか? 少しだけ寿命が延びる方法をお教えしましょう。風に触れることのない土の中なら数年くらいは生き長らえることができるかもしれません。まあ、毒が雨水で土の中まで浸透してしまえば土中でも感染するかもしれませんが。一つ言えることは、もうあなたが地上に出られることは無いでしょう。では侘しい余生をお過ごしください」
話の後半が他のデュプリケートに伝わったかどうか分からないが、ロックスが捕まえたデュプリケートも最期は塵となって消えた。
「さて仕上げです。その傷だらけの身体に鞭打つようで申し訳ないのですが、お二人の風魔法でこの国全域にこの毒をばら撒いてください。これでデュプリケートは今後隠れること以外何もできなくなります。再度集団化して亜人が蹂躙されるような未来も来ないでしょう」
二人で風を吹かせ、アスタロトの生成した毒をばら撒いた。
「これで良し。二人ともお疲れ様でした」
「せっかく地上で生活できるような身体で生まれたのに、少しだけ可哀想な気もしますね……」
「それは仕方ないだろう。姿は亜人に近くなっても、俺たちから見れば害虫でしかないからな。元々はただのジャイアントアントから生まれたものだし土中生活に戻るだけだ。しかし久しぶりに見たが、やはり強烈な能力だな」
「そうですね……まあ役に立つ時もたまにはありますが、この能力の所為でろくでもない幼少期を過ごしましたから、私自身あまり好きな能力ではないのですが……」
表情に少し影を落としながら続ける。
「さて、私はベルゼビュート様の援軍に向かいます」
「俺も行く……と言いたいところだが、この満足に動かせぬ身体では囮役にすらならん。すまないがここで戦線離脱させてもらう」
「私も……この穴の開いた腕では行ったところで足手まといにしかならないでしょう」
「ええ、イルリースかエアリアをここへ向かわせますので、空間転移魔法で医療機関に連れて行ってもらってください」
「すまない……」
「すみません……」
「デュプリケートにやられた兵士たちの遺体は……」
と言いながらアスタロトが周囲を見回すものの……そこに死体はほとんど見られず……
「……くっ……どうやら取り込まれてしまって遺体どころか、鎧やネームタグすら残っていないようですね……ジャイアントアントの駆除でこれほどの被害が出るのは前代未聞だ……」
「死者の照合には時間がかかるかもしれませんね……」
「かなりの数の兵士がアルトラ殿と共に転移して行ったようだが?」
「……そうですか! 死者が少なく済んでいると良いのですが……」
……
…………
………………
「…………まだ落ち込んでる暇は無いので、もうボレアース城に向かいます。その進行ついでにイルリースたちに声をかけて行きますので、二人はここで休んでいてください」
「武運を祈る」
「武運をお祈りします」
アスタロトは二人を置いて、イルリース、エアリアの居る場所へと向かった。
『今度は水のデュプリケートか?』と二人が思ったのも束の間。降り注ぐ水は氷に変化し、大量の氷柱へと姿を変え、ティナリスたちに向かって降り注ぐ!
ティナリスが巨鳥形態へと変身し、羽ばたきで氷柱と水、そして多数のデュプリケートを吹き飛ばす。
しかし、翼には多数の氷柱が刺さり、痛々しい状態に……そこから更に氷が翼全体に広がる。
その直後、人型形態に戻って氷柱を外そうとするものの、既に左腕が凍り付いていて動かせなくなってしまう。
◇
左半身を火傷し、それでも奮戦するロックス。
左腕が凍り付かされ、片手一本で槍を振り回し、なおも多数のデュプリケートを屠るティナリス。
傷だらけになり、重傷を負いながらも気力だけで戦い続けていた二人だったが……
遂に限界が訪れる。
「はぁ……はぁ……」
「フゥ……ハァ……」
もはや満身創痍の二人だった。
疲れ切っていた二人は、樹の能力を持つデュプリケートの根っこのようなものに絡めとられ捕まってしまう。
「く、くそっ!」
「も、もう振りほどく体力がありません……」
疲弊して体力が続かなくなった二人に、アスタロトを守る風のバリアを維持することができずバリアは消失。
嵐のような竜巻状のバリアが解かれ、アスタロトが姿を現す。
「ハハハハハ!! 二人ともようやく大人しくなってくれましたね。あとは串刺しにして終わりです!」
「アスタロトが風のバリアの中で何をしていたか知りませんが、アスタロトも潰してさしあげましょう」
その頃には、風で守られていたアスタロトの周りだけが特別綺麗な状態で、その外側には死屍累々のデュプリケートの死骸だらけ。
バリアがあった部分と他との境界がくっきり出来ていた。
しかしその時、じっと佇んでいたアスタロトが閉じていた目を開き、その口を開いた。
「二人とも時間稼ぎご苦労様でした。無事生成が完了しました」
自分の周囲を見回して――
「壮絶な戦いがあったのですね……ですがもう大丈夫です。お二人が頑張ってくれたお蔭でデュプリケートを倒せます」
依然、三人の周りには数百、数千のデュプリケート。全方位を囲まれ四面楚歌の状態には違いない。
この絶望的な状況では、とても『大丈夫』などという言葉を言い放てるはずがないのだが……アスタロトは落ち着き払っていた。
それと言うのも、自身の生成した能力に絶対の自信を持っていたためである。
「私たちを倒せる?」
「あなたはこの圧倒的物量の差を覆せると思っているのですか?」
「この場だけでもまだまだ数百体の『私』が残っている」
「あなた方は手負いを含めてたった三人、私は際限なく増殖できると言うのに」
「あなたご自慢の双璧はもう私に捕まってこのざまなのですよ?」
木の根っこのようなものに捕まった二人を一目見て答える。
「そうですね、すぐにでも助け出したいところですが、もう少しだけお待ちください」
挑発しても乗って来ないアスタロトに、なぜこの全方位敵だらけの状況で落ち着き払っていられるのか、その疑問の答えは『生成』という言葉にあると考え、デュプリケートは更に質問を続ける。
「今『生成が完了した』、そう言いましたね?」
「その生成とは何ですか?」
アスタロトがその質問に答える。
「そうですね、お楽しみもそろそろ種明かしして良いでしょう。私の持つ特殊能力は『毒の生成』です」
「ど、毒?」
「そう、作ったのはあなたを殺すための猛毒です」
……
…………
………………
その話を聞き全てのデュプリケートが沈黙した。
数舜の後、再びしゃべり出す。
「こ、この状況でこの大量の数に効く毒を放つのですか?」
「わ、我々の身体は亜人より遥かに強靭です」
「こ、この状況でそんな強力な毒を放ったらあなたの国の双璧も無事では済みませんよ?」
「あなたは風の国の双璧も殺すつもりですか?」
やれやれという態度で肩をすくめるアスタロト。
「ちゃんと話を聞いていましたか? “あなたを”殺す毒です。この毒はあなたの生態情報を私の体内で魔力解析し、あなた専用に作った猛毒です。あなたは先ほど『ここに居るデュプリケート全てが同一個体』だとおっしゃっていましたね? 全員が『同一個体』と言うことは異種族に影響無いように毒の効き目を調整する必要も無く、実に簡単な生成が行えました。ですので、あなた以外の生物には全く効果がありませんのでご安心を。毒はもう放っています。さあ、そろそろ効いてきたのではないですか?」
会話している間に見えない毒を既に撒き散らしていたアスタロト。
「なん……だと……!?」
「ひっ!?」
「うげっ……」
「ガホッ……!」
「ゲホッゲホッ!! ガホッ! ゲェーー……!」
突然多数のデュプリケートが口からドバドバドバと白い血を垂れ流し、続いて目、鼻、耳からも同様の液体が流れる。
顔から大量出血した後は、身体中がボコボコと歪に膨らみ、灰色をしていたデュプリケートの体色はところどころドス黒い色へと変貌。
更に少し経つと身体に出来た歪な膨らみは空気が抜けたように萎み、やがて乾いて崩れ、多数のデュプリケートの身体が塵となって風に消えた。
この毒は生成主であるアスタロトの居る場所から放射状に、離れたところに居るデュプリケートへと徐々に徐々に伝染していく。
「う……あ……な、何だこれは!?」
「これが毒!?」
「ここに居たらヤバイ!」
「く、くそっ! 撤退だ! 撤退! 一度撤退して十分に戦力を増やす!」
「全員ここから逃げろ!」
「今度は対処すらできないほどの大軍勢を用意してやる! 覚えておけ!」
アスタロトへ指をさして捨て台詞を吐き、生き残っていたデュプリケートが焦って蜘蛛の子を散らすようにそれぞれの方向へ逃げ出した。
この毒の感染過程で、ティナリスとロックスを捕らえていた木の根のようなものも、デュプリケートの細胞で出来ていたため乾いて崩れ去り、拘束を解かれて二人は地面へと落下。
「二人とも大丈夫ですか?」
「かなりの大怪我だとは思うが……命には関わらないだろう」
「アスタロト! 私たちのことより、ヤツら逃げてしまいますよ! 大丈夫なのですか!?」
「逃げるのは問題ありませんが説明がまだ途中です。一匹捕まえてください。意識を共有しているという話ですのでソイツ一匹に説明すればデュプリケート全員に知れ渡るでしょう」
ロックスは重傷を負いながらも、逃げようとするデュプリケートの一匹を風魔法で拘束する。
「な、何をする! 離せ!」
「うちの大将が言うことがあるって言うからまあ聞いてけよ」
「離せ! 死んでしまうだろうが!」
死が差し迫っている状況であるためか、デュプリケートの嫌味を含む紳士的な口調も無くなっていた。
「まだ説明していないことがあるのであなたに伝えておきます。この毒、非常に消えにくく作りました。半減期は五十年というところで、向こう百年は世界中の風に混じって飛ぶでしょう。そしてあなた専用に作った毒ですので、あなたはひと吸いしただけで即死します。もうこの世界のどこに居ても死を免れることはありません」
「そ、そんなぁ~……せっかくの不死に近い身体なのにガボガボガボ……」
捕まってる間に毒に冒されたのか、顔から血が流れ、身体が膨れていく。
もはや死ぬ寸前だが、アスタロトは話を続ける。
「まだ聞こえてますか? 少しだけ寿命が延びる方法をお教えしましょう。風に触れることのない土の中なら数年くらいは生き長らえることができるかもしれません。まあ、毒が雨水で土の中まで浸透してしまえば土中でも感染するかもしれませんが。一つ言えることは、もうあなたが地上に出られることは無いでしょう。では侘しい余生をお過ごしください」
話の後半が他のデュプリケートに伝わったかどうか分からないが、ロックスが捕まえたデュプリケートも最期は塵となって消えた。
「さて仕上げです。その傷だらけの身体に鞭打つようで申し訳ないのですが、お二人の風魔法でこの国全域にこの毒をばら撒いてください。これでデュプリケートは今後隠れること以外何もできなくなります。再度集団化して亜人が蹂躙されるような未来も来ないでしょう」
二人で風を吹かせ、アスタロトの生成した毒をばら撒いた。
「これで良し。二人ともお疲れ様でした」
「せっかく地上で生活できるような身体で生まれたのに、少しだけ可哀想な気もしますね……」
「それは仕方ないだろう。姿は亜人に近くなっても、俺たちから見れば害虫でしかないからな。元々はただのジャイアントアントから生まれたものだし土中生活に戻るだけだ。しかし久しぶりに見たが、やはり強烈な能力だな」
「そうですね……まあ役に立つ時もたまにはありますが、この能力の所為でろくでもない幼少期を過ごしましたから、私自身あまり好きな能力ではないのですが……」
表情に少し影を落としながら続ける。
「さて、私はベルゼビュート様の援軍に向かいます」
「俺も行く……と言いたいところだが、この満足に動かせぬ身体では囮役にすらならん。すまないがここで戦線離脱させてもらう」
「私も……この穴の開いた腕では行ったところで足手まといにしかならないでしょう」
「ええ、イルリースかエアリアをここへ向かわせますので、空間転移魔法で医療機関に連れて行ってもらってください」
「すまない……」
「すみません……」
「デュプリケートにやられた兵士たちの遺体は……」
と言いながらアスタロトが周囲を見回すものの……そこに死体はほとんど見られず……
「……くっ……どうやら取り込まれてしまって遺体どころか、鎧やネームタグすら残っていないようですね……ジャイアントアントの駆除でこれほどの被害が出るのは前代未聞だ……」
「死者の照合には時間がかかるかもしれませんね……」
「かなりの数の兵士がアルトラ殿と共に転移して行ったようだが?」
「……そうですか! 死者が少なく済んでいると良いのですが……」
……
…………
………………
「…………まだ落ち込んでる暇は無いので、もうボレアース城に向かいます。その進行ついでにイルリースたちに声をかけて行きますので、二人はここで休んでいてください」
「武運を祈る」
「武運をお祈りします」
アスタロトは二人を置いて、イルリース、エアリアの居る場所へと向かった。
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