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第17章 風の国ストムバアル『暴食』の大罪騒乱編

第475話 世界中に出現したジャイアントアント その3(水の国、火の国の状況)

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 ■水の国アクアリヴィア・リップル海岸――

 水の国の空間魔術師サリーの転移魔法によって、潜水アリの上陸が確認されたリップル海岸を訪れるレヴィアタン。

「うわ……結構な数じゃない?」
「四十から五十と報告にありましたね」
「もうちょっと居そうだけど?」

 既に海岸から上がって町の方へ行ってしまった潜水アリもいた。

「ま、まだ海岸を上がって来るアリがいますね……お、お一人で大丈夫なのですか?」
「ん~……問題無いんじゃない? じゃあとりあえず私の目に入ったやつから処理しちゃおうか。水場に出現したのは間違いだったね。私は水の魔王だから水場で最も力が上がるしね」

 海岸で列を成して上陸してくる潜水アリに向かって、水のレーザーを横に一閃。
 次の瞬間、まだ海岸に上がり立てだった潜水アリ二十匹ほどの身体の上半分が上空へ吹き飛び、レーザーが当たった後方の波間に巨大な水しぶきが上がる。
 レヴィアタンが放射した超高水圧の水によって分断されたのだ。

「おお……素晴らしいです……流石レヴィアタン様!」

 帯同していたサリーが感嘆の声を上げる。

「さ、二十匹くらいは駆除できたでしょ。次は町の方へ行ったやつを処理しちゃおう」

 町へ着くなり、既に侵入していた潜水アリを次々と水球の檻に閉じ込めていく。
 アリは、どうにか水球から脱出しようと中でもがくものの、レヴィアタンが対流までコントロールしているのか、その場でグルグル回るのみ。

「何で閉じ込めるんですか?」
「だって、さっきの水のレーザーなんか使ったら、町のヒトも建物も分断しちゃうかもしれないでしょ?」
「た、確かに……それで、閉じ込めた後どうするのですか?」
「圧し潰す」
「ど、どうやって?」
「水球内の水圧を上げていく。じゃあ試しに水深五百メートルってところでどうかな?」

 水球の中の潜水アリに変化は無し。

「五百程度じゃ全然ものともしないってわけか。じゃあ一気に十倍の五千メートル行っちゃおうか」

 水球内の水圧が突然十倍になったことで、潜水アリの外骨格が軋み内側へ内側へと折り畳まれていく。数秒ののち水球内をアリ自身の体液で白く汚し (※)、圧死。
   (※アリの体液:チャットGTPによると透明、もしくは白いそうです)

「な~んだ、海から這い出て来たからもっと耐えるかと思ったけど、この程度が限界なのね」

 潜水アリとして進化してはいても、元々のベースのジャイアントアントは海底の水圧に耐えられるような身体構造をしておらず、それに加えてあまりにも巨大な体躯たいくをしているため外骨格内に隙間が多く、一気に水深五千メートルもの水圧に変化させたため耐えることができなかった。

「さて、残りの町に行ったヤツらも倒しちゃいましょうか」

 レヴィアタン一人の力で、リップル海岸・およびその近隣の町の潜水アリは全て駆除された。
 そして残った水球だが……中には当然死骸が残されている。

「この死骸はどうするんですか?」
「海へ捨てて魚の餌にでもしちゃいましょう」

 そう言うと死骸の入った水球に近付き――

「よっ! ほっ! それっ!」

 ――という軽快な声を出しながら、水球を次々海のある方の空へ蹴り上げていく。
 こうして潜水アリの水球は、全て海の彼方へと蹴り飛ばされた。あとは海の生物が掃除してくれるだろう。

「よし! 終わり! じゃあ帰ろうか。お城まで空間転移お願いね」
「かしこまりました」

 この後、リップル海岸と近隣の町の潜水アリは魔王レヴィアタン一人で制圧。トリトナ港の方は騎士団により沈静化された。



   ◇



 ■火の国ルシファーランド・属国フラメラ国内東にある港町――

 政府軍がジャイアントアントの討伐に乗り出すまでの時間稼ぎをする反政府組織『宵の明星』のメンバー。
 港町の住民は、『宵の明星』メンバーの手によって救い出される者が少なくなかった。

「この区域はしばらくは大丈夫そうだな」
「おい! 政府軍が派遣されて来た! 俺たちはすぐ退散するぞ!」

 政府軍に面が割れているメンバーはここに留まるわけにはいかなかった。
 特にフードを被った砂の精霊・サンドレッドはその特異な生態から、火の国政府には要注意人物とされていたのである。

「では、引き続き潜伏の方をよろしくお願いしますね。私たちは不測の事態が起こった時に動けるように、少しの間ここから見えるあの高台に潜伏します」

 サンドレッドが、現地潜伏メンバーにそう言い残して港町を去る。

   ◇

 町を去った後、町並みを見下ろせる高台に潜伏。
 港町はまだ沈静化していないため、もしもの時に駆け付けられる状態を保っていた。
 メンバーの一人が双眼鏡で高台から様子を窺っていると――

「ん? 空間転移魔法か?」

 港町入り口に転移魔法による空間の裂け目が現れた。
 その中から出て来た人物に驚く。

「…………おい! あいつルシファーじゃないのか!?」
「ルシファー!? 魔王のか!? ちょっと貸せ!」

 別のメンバーが双眼鏡をひったくる。

「本当だ……何でこんな辺鄙へんぴな町にまで直接出張って来たんだ……?」
「属国フラメラは反政府活動が盛んですから、潜水アリの駆除と、そのついでに取り締まりにでも来たというとこでしょうか」
「しかし、あのルシファーが地方属国の駆除要請に、わざわざ自分で来るとは思えないが……『傲慢』の大罪だぞ? あいつがこういう面倒ごとを自身で動くことなんてほとんど無い。自分に利益がある時くらいだ」

「あ! アリが飛び出してルシファーを襲いましたよ!」

 双眼鏡で見ていたところ、飛び出してきた潜水アリを一瞬で焼き殺した。

「本当に駆除に来ただけなのか?」

 反政府組織レジスタンスメンバーがそう思った矢先――

「でもちょっと様子がおかしいですよ? 港町に入って行った政府軍が全員町から出てきました」
「全員? アリはもう駆除し終わったのか?」

 双眼鏡で町の中を見渡すと、

「いや、まだまだ暴れてるアリはいるぞ?」
「どういうことだ? 町を見捨てるということか?」
「だとしても、あれって多分ジャイアントアントの亜種ですよね? あれだけ巨大な生物を放っておいたら周囲にも影響があるのだから、国が放置するはずが無いと思うんですけど……」

 この場に居る全員が、軍を引き上げたことを疑問に思い、その考察をしている最中さなか、突如港町全体が炎に包まれた!

「「「えっ!?」」」
「「「なにっ!?」」」
「何だ? どういうことなんだ!? なぜ町が炎に!?」

   ◇

 港町が炎に巻かれた時から少し時間をさかのぼり、ルシファーサイド――

「なぜわざわざ御自らアリごときの駆除に乗り出すのですか?」

 普段自身で動くことはないルシファーが突然潜水アリが発生した港町へ赴くと伝えられたアルドリックは、普段絶対に起こさない行動を疑問に思い訊ねる。 (アルドリックについては第414話参照)

「なぜそれをわざわざ貴様に言わねばならんのだ? 俺は俺の考えで動く。おい、巨大なアリが出現したという港町まで早く送れ、そこから別のところへ広がったら面倒だ」

 空間魔術師にそう言い捨てる。

「か、かしこまりました」

 そして首都アグニシュの王宮から属国フラメラの港町へと空間転移魔法で移動。

「既に戦火が……現地の駆除隊は到着しているのか!?」

 ルシファーに帯同していたアルドリックが駆除隊の派遣の有無を確認。
 その直後、港町の入り口付近から潜水アリの一体がルシファー目がけて突進してきた。

「ふんっ、目障りだな」

 ルシファーはそれを意にも介さず、飛び出してきた潜水アリの頭に触れる。その瞬間体内から炎を噴き出し灰だけを残して焼失した。

「この港町全体にこのようなのが大勢居るのか?」
「お、恐らくは……」
「面倒だ、政府軍を全軍撤収させろ。俺が始末を付ける」
「りょ、了解しました」

   ◇

 政府軍が引き上げていくのを見た港町の住人たちは――

「ど、どういうことなの!? 巨大アリはどうするの!?」
「おい! 俺たちを見捨てるのか!?」

 その声を聞いた政府軍は、

「申し訳ありません、上からの命令ですので。しかし悪いようにはしないと思います。ここら辺はもうしばらく安全だと思いますので、作戦が決まり次第ここへ帰ってきますので」

 と誠意をもって返す。

「本当か!? 本当だろうな!?」
「はい、必ず」

 そう言い残して政府軍は港町を出る。
 この時点で、多くの兵士たちは効率的にジャイアントアントを処理する何らかの作戦を伝えられ、ここへ戻るのだと信じていた。

   ◇

 そして、全軍の撤収が終わった後――

「全員撤収し終わったな」
「はい」
「では――」

 直後に港町全体が巨大な炎に包まれた!
 町全体から多数の悲鳴が上がる。

「なっ!? 何をやってるんだレオナリオン!!」

 アルドリックが、思わずルシファーの元の名を叫ぶ!

「貴様! なぜ港町ごと焼く必要があるのだ!?」
「多数の潜水アリがまだ残っている、そしてこの港町は反政府組織レジスタンスが拠点の一つとしている可能性が濃厚だ」
「だとしても! ここには無関係の人々も大勢住んでいるんだぞ!?」
「害虫を駆除できて、反政府組織まで葬り去れるのだ、一石二鳥ではないか。それよりも……以前俺に口答えするなと言ったはずだったな? さもなくば消し去ると」
「ぐっ……」

 その後、アルドリックは口をつぐむ。
 そして心の中でこう呟いた。『レオナリオン……お前はもう本当にダメということなんだな……』と。
 アルドリックはここで何らかの意志を固めることになる。
 この惨状を目にしていた政府軍兵士たちの間にも、ルシファーに対する不信感が広がった。

   ◇

 そして場面は再び港町を見下ろす『宵の明星』たちの居る高台に移る――

「な、何が起こったんだよ……」
「何で突然炎が……?」

 その直後、高台に一人の影。

「くっ……」

 高台に着くなり倒れ込んでしまった。
 その者は港町から逃げてきた反政府組織レジスタンスメンバーの一人だった。
 全身灰とすすだらけで、ところどころ火傷も負っていたが、命からがら高台に辿り着いた。

「どうしたんだ!?」
「ル、ルシファーが巨大アリ討伐に来た兵を引き上げせ、全員退避の後突然町全体を炎で囲みました……」
「港町そのものを燃やすなんて……」
「あそこには拠点の一つが……それに組織のメンバーも……」

 突然町全体に火を放つという暴挙を目にし、言葉を失うメンバー。

「こんな方法を使って反政府組織レジスタンスを潰しに来るなんて……」

 結果として、火の国に侵攻してきた潜水アリは全滅されたものの、港町一つが焼失するという大惨事が引き起こされた。
 この港町の大火は、多くの者に不信感を生み、後世で火の国ルシファーランドの歴史的な転換点の一つになったであろうとの研究がなされることになる。
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