建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~

ヒロノF

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第17章 風の国ストムバアル『暴食』の大罪騒乱編

第469話 vs赤アリ その1

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 殲滅したカゼハナの巣穴と監視目的で駐屯していた場所の距離は、それほど離れていなかったため一分足らずで赤アリと会敵。
 空中から見定めるフレアハルトとフレイムハルト。赤アリとの距離は七十メートルほど。

「目線が分かりにくいが、確実にこっちを見ておるな」
「ええ、自身の放つ高熱領域に侵入してきたので気になっているのでしょう」

 人型の生物と違い、白目が無く目線が無いためどこを向いているのか分からない。しかしフレアハルトたちは、アリが首ごと二人を見定めているため見られているとの印象を持った。

「これだけ距離が離れていても中々強力な熱波が伝わって来るな。アリは動く様子が無いが……」
「もしかしたら動けないのでは?」
「動けない?」
「例えば、あの副脚を溶岩から出すと、今まで充填した魔力が霧散してしまうとか。可能性の一つですが」
「なるほど、それは的を射ているかもしれんな。じゃあ襲っても来ぬようだし、この距離ではまだ攻撃もしてこない。ならば試しにこちらから先に仕掛けるのも良いな。剣でも投げ付けてみるか?」

 『じゃーん!』という具合に持ってきた剣複数本を広げて見せる。

「ど、どこから持ってきたのですか?」
「本当に剣がドロドロに溶けるか興味が湧いてな、十本ほど借りて来た。というわけで、本気で投げてみる。我らの渾身の力で勢い良く投げれば溶ける前に刺さるくらいはするかもしれぬぞ?」
「借りて来たと言うか、それはもう実質貰って来たに等しいのでは? 投げたら溶けるわけですし」
「まあ、あちらも了承済みだ。では投げるぞ? フンッ!!」

 宣言通りフレアハルトが兵士から借りて来た剣を、地上でたたずんでいた赤アリに向かって渾身の力を込めて投げ付けた!
 超スピードで赤アリに向かう騎士団御用達の剣。
 レッドドラゴンの竜人形態で投げられた剣の速度は六百キロを超え、赤アリに到達する直前、剣が激しい光を放ち大量の火花が散る! 投げ付けた剣が凄い勢いで溶けているのだ!
 そして赤アリにぶち当たり、溶けた銀色の液体が赤アリの側面を流れ、後方へと伝わり勢いよく飛び散って行った。

「お? 刺さったか? スピードがあれば溶ける前に刺さるのだな」
「……いえ、刺さってないようですよ? 激しい光を上げて飛び散って行くのが見えました。主な部分は赤アリに当たった瞬間に溶け落ちたようです」

 刺さったかのように見えていたが、実のところ赤アリに届く前にドロドロに溶解し、到達した頃には刺さらないほど柔らかくなっていた。

「溶けた? 鉄で出来た剣がか? あり得ん……あれはもう我らの使う【フレアブレス】の熱を超えてるぞ? なぜ常時あの高熱を放って平気でいられるのだ……」
「平気でいられる理由は分かりません。ただ、あの赤アリ、剣が当たった瞬間うずくまったので相当痛かったようですよ。流石にドラゴンの力で投げられれば刺さらずとも、溶けた金属がぶち当たるみたいですね」
「ダメージは与えられたということか? じゃあお主も五本持て。続けざまに全部投げ付けるぞ。それとこれも試しておくか。ちょっと剣を持っててくれ」

 九本の剣をフレイムハルトに一旦預け、フレアハルトが自身の腕からウロコを剥がす。
 拳で打ち付け槍の形に形成した。火の国で砂賊相手に使ったものと同じ、自身のウロコを形成して槍にする方法だ。 (第400話参照)

「それも投げるのですか?」
「火に強い我らのウロコなら燃えないかもしれんと思ってな。では行くぞ!」

 二人で残り九本の剣、そして一本の竜燐の槍を構える。

「おりゃおりゃおりゃおりゃ!」
「それ!それ!それ!それ!それ!」

 二人の手により九本の剣が連続して飛んで行き、全てが赤アリに当たる直前に激しい光と火花を散らして溶ける。しかし投げた時の勢いは残っているため、金属質の液体が次々とぶち当たる。
 そして最後に投げる槍を残し、うずくまった赤アリの胴体に狙いを定める。

「最後に我特製の竜燐の槍だ、喰らえ」

 勢いよく身体を反らせ腕を引き、剣の時より更に力を込めて投擲とうてき
 竜燐の槍は赤アリの放つ熱のバリアを押しのけ、胴体へと一直線に向かっていく!
 が、赤アリは咄嗟に身体を動かし、槍は左腕に刺さった。

「胴体には当たらんかったか……だがやはり我らのウロコで作った武器は燃えぬようだぞ? ……しかし、これだけの本数投げたのに全く避けようとせんな。やはり動けぬというのは正解らしい。もっと持ってくれば良かった。今からウロコで槍を量産するか? 遠距離から攻撃するだけで勝てるかもしれんぞ? 【インフェルノ・ブレス】の出番は無さそうだ」
「しかし、何か様子がおかしいですよ?」

「ギシャアアアアアアァァァァァァ!!!」

 虫が放つ聞き慣れない音を内包した咆哮。同時に強力な熱波が放たれた!

「ヤバイ、怒ったようだ。どんな攻撃をされるか分からん、一旦上空へ逃げるぞ」

 退避のために上空まで急上昇。
 その直後に『ドォォォン! ゴゴゴゴゴ……!』という爆発音、直後に激しい上昇気流が巻き起こる。

「ぐっ……」
「くっ……凄い乱気流ですね……」

 ……
 …………
 ………………
 数十秒ののち、強い風が収まる。

「収まったようですね……」
「!!? おい! 下を見ろ!」

 地上を見て二人が唖然とする。

「……あ、兄上、これはどういうことですか……?」
「………………」

 地上は赤アリを中心に、溶岩の海が拡大していた。
 赤アリが地上を広範囲に溶かし、ドロドロの溶岩地帯へと変えてしまったのだ!

「赤アリはどこへ行った? まさか自爆したのか?」

 二人は退避に専念していたため地上を見ていなかった。
 その時地上では、大規模な爆発が起こり、アリの周囲に存在していた岩山や砂山などが吹き飛んで全てが溶岩の海に変貌。
 カゼハナで最も隆盛を誇っていたジャイアントアントの巣穴のあった場所は跡形も無く焼失……前述通り既にドロドロの溶岩地帯と化している。
 先ほどフレアハルトや風の国騎士団が駐屯していた場所も既に溶岩地帯に変貌している。もしもここに風の国の者が一人でも残っていればその者は確実に消滅していたであろう。
 距離にして半径一キロほどが溶岩の海に変わった。

「いえ、残念ながら……あそこにいます」
「い、今のは自爆ではないのか……? 何なのだアイツは……もはや虫の域を超えているぞ……こ、これは早く倒さんとどんどん溶岩の海を増やされてしまうな……今の爆発、司令本部は大丈夫だろうか?」
「あ、でも見てください兄上! 赤アリの体色から輝きが薄らいでますよ!」

 先ほど煌々こうこうと光る体色をしていた赤アリの身体は、今は薄っすら光を放つ程度にまで輝きが減退していた。

「今の爆発で魔力を消費したからでしょうか?」
「ちょっと待て! 何かやってるぞ?」
「左腕を……引き千切った!?」

 赤アリは、フレアハルトが放った槍の刺さった左腕を投げ捨てる。

「片腕で我らと戦うつもりか?」
「いえ……再生していきますね……」
「周囲の魔素から腕を再生しているのか? アレは我ら以上の魔力食いだぞ。たかがアリごときがまさか精霊のような体質まで獲得しているのか? アレは本当に虫に分類される生物なのか?」
「もはやドラゴン以上の生物と言えるかもしれませんね……」

 如何に魔力を糧とするレッドドラゴン族であろうとも、周囲の魔素から自身の身体を再生させるまでには至らない。
 この赤アリはそれを可能としており、一部精霊と類似する体質を獲得していた。

「だとすると再生される前に殺し切らなければならんということだな」
「しかし今の魔力消費によって身体の光が収まったということは、自爆までまた三十分以上の余裕が出来たということではありますが……」

 ……
 …………
 ………………

 ここで二人同時に事実に気付く。

「…………一つ思い違いをしている可能性に気付きました」
「……奇遇だな、我もだ。言ってみろ」
「あのアリ、もしかしたら許容量いっぱいまで魔力を溜めても自爆しないのではないでしょうか?」
「我も今の魔力放出を見て同じことを思った」
「『自爆しない』ということは、『死ぬことがない』、つまり……充填さえできる環境ならさっきのより遥かに強力な爆発を“何度でも”起こせるということになりませんか?」
「そうなるな。しかも、ある程度魔力充填が進むと、ヤツの周囲の温度が高温になり過ぎて、火に強い我らのような特定の生物以外は近寄ることすらできなくなる。攻撃のために魔力を充填しながら、自身を守る壁まで作ってしまえるのだからな」
「攻撃と防御を同時に可能とは……ますます放っておけない理由が出来ましたね。アレを野放しにすれば、魔界全土がアリに乗っ取られるどころか、焦土に変えられてしまうかもしれません」
「ああ、今ならヤツの周囲の温度も下がっただろうし、また魔力を溜められる前にさっさと倒すぞ!」

 上空での会話が終わり、地上へ振り返るとそこに赤アリはいなかった!

「いない! どこへ行った!?」
「わ、分かりません!」

 『魔力の充填のため“絶対に”動かないであろう』との先入観を抱いていた二人は、数秒目を離した隙に突然消えた赤アリに度肝を抜かれる。
 急いで魔力感知を開始し、場所を特定。

「兄上! 上です!」

 フレアハルトの頭上より魔力を感知。どういうわけか一瞬でフレアハルトの頭上まで移動してきていたのだ!
 既に自身の頭上で両手を組んで攻撃体勢に入っている赤アリ。
 赤アリの攻撃直前、一瞬早くフレアハルトが気付き、赤アリを見据えるも、時既に遅し。赤アリのダブルスレッジハンマー (※)がフレアハルトの脳天へと振り下ろされる。
   (※ダブルスレッジハンマー:自身の頭上で両手を組んで相手の頭部へ打ち付ける技の名称)
 『バキキッ』という音ともに、超スピードで溶岩の海へ真っ逆さまに落下していくフレアハルト!
 巨大な水しぶき……否、巨大な溶岩しぶきとも形容できる火柱を上げ、溶岩の海へ叩き落された。

「兄上!」

 赤アリは、女帝蟻のために風の国一団を全滅させることを最優先に考えていたが、魔力充填し目的を達するためには先にこの二人の敵を始末する必要があると考え、優先順位を魔力充填から二人の処理へと変更していた。

「くっ、一瞬でどうやってここへ!?」
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