建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~

ヒロノF

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第17章 風の国ストムバアル『暴食』の大罪騒乱編

第467話 カゼハナの巣穴・第二ラウンド

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 ところ変わって、属国ヴィントル・カゼハナの巣穴攻略司令本部に戻る――

 伝令の騎士が報告を持って来た。

「アスタロト様! ただいま連絡があり、ヴァントウに出現したジャイアントアントの巣穴は殲滅されたとのことです!」
「そうですか! それは良かった! ただ、まだ付近には女王が潜んでいる可能性があります。アーヴェルム国に連絡をし、土中を徹底的に調査するよう命じてください!」
「了解!」
「それで、どの程度の被害状況ですか?」
「それが……かなりの大打撃だそうで、二ヵ国の半数はもう動けない状態とのこと。死者もかなりの数出たそうです……」
「な、なんと……それほどの激戦だったということですか……数も多かったのでしょうか?」
「いえ……たった一匹のアリに半数が戦闘不能にされたとか」
「たった一匹!? まさか!?」
「真偽のほどは定かではありませんが、そう報告を受けています。ですので『残念ながらボレアースへの援軍には向かえない』と、マルク殿からの言伝ことづてです」
「そうですか……分かりました。連合軍の方々にはねぎらいの連絡を入れておいてください」
「了解しました!」

「さて、私と精鋭は二時間後ボレアースの援軍に出発します。少し身体を休めておいてください」

 激戦を予想されていた二ヶ所の巣穴が殲滅されたことにより、少しの心の余裕が生まれる。みな身体を休めようとしたその矢先、上空で感知を担っていた風の精霊テンペティスより凶報となる報せが届く。

「感知部隊テンペティスより報告! 先刻殲滅したカゼハナの巣穴に異変! 何か黒煙の中で動くものが感じられます! もうすぐ地上に出てくる模様!」

 黒煙立ち上る巣穴の中から一匹のアリに似たナニカがゆっくりと姿を現す。

「何か出て来たぞ。何だアレは……? 赤黒い体色……?」
「あれもアリか?」

 フレアハルトがすかさずアスタロトに訊ねる。

「あれが兵隊アリか?」
「いえ……兵隊アリはあんな姿をしていません。あんなのは見たことがない……」
「と言うより……顔までの上半分は亜人のような姿をしていますが……」
「まさか……あれがベルゼビュート様が言っていた兵隊アリの上位種?」

 その姿はヴァントウの巣穴の銀色のアリ同様、異様な姿をしていた。
 頭部はアリに酷似したもの、上半身はヒトに違い見た目をしている。ここまではヴァントウのものと似ていたが、下半身が違っていた。
 下半身には脚が十二本。主脚四本と副脚八本があり、副脚は腰辺りに付いている。そして身体の色は赤黒い。

「あの下半身……アリと言うよりはクモ、もしくはもっと多脚のムカデとかを想起させますね……」

 その直後、赤黒いアリが副脚八本を地面に突き立てた。
 と同時に赤黒かった体色が更に赤色に変色していく。

「何だ? 地面に脚を刺して何かしようとしているぞ?」

 少し経つと、更に色が変色。赤い体色に光を帯びる。そして赤味はオレンジ色へ、そして徐々に黄色の輝きへと移行しようとしている。

「あの八本の副脚……地面から魔力を吸い上げているのか……?」

 その魔力の集積に危機感を感じたフレイムハルトがフレアハルトに声をかける。

「兄上! あれは!」
「ああ、まずいな……アスタロト殿、このカゼハナの周囲に亜人たちはどれくらい住んでいる?」
「今は避難指示を出したため、巣穴の半径五十キロ圏内には我々騎士団員しかいません」
「そうか、それを聞いて安心した。であれば、空間魔術師に頼んで今すぐにこの場の全員を遠くへ避難させてくれ」
「どういうことですか? 一体何が起こると……?」

 フレイムハルトが話し始める。

「あの魔力の高まりは我々の使う最強のブレスを使う時の魔力の高まり……火の魔力の高まりによく似ています」
「つまり……あのアリはあなた方と同質の最強のブレスを吐こうとしている前兆だと? そのブレスはどれくらいの威力があるのですか?」
「そうですね……あの山の高さはどの程度ですか?」

 フレイムハルトが現在の場所から見える一番高い山を指さす。

「標高ですか? 多分二千メートルほどではないかと思いますが……それが何か?」
「私や兄上なら、あの山ほどの高さなら上三分の一くらいを消し飛ばせます」
「山を三分の一も!? ということは……あれを吐かれれば我々は生きてはいられないということですか?」
「最強のブレスは火に強いレッドドラゴンでも何の防御策も無く直撃すれば生きていられん。普通の亜人なら骨すら残らず消滅するだろうな。しかし、あのアリの口の構造で我々と同じブレスを吐けるとは思えんが……」
「ではどうなると予想していますか?」
「う~ん……」

 その時魔力感知を続けていたテンペティスから再び報告が入る。

「アスタロト様! 今度は身体から炎のようなものが出始めました! 口からも火を噴き始めています! それと、アリが居る地面が徐々に溶け溶岩のようになっています!」
「地面が溶けている……? それほどの熱量だということか……? この状況、お二人はどう見ますか?」
「放っておいたらまずいことくらいはひしひしと感じるな」
「フレイムハルト殿の意見はどうですか?」
「目いっぱい魔力を取り込んでから、自爆とか……ですかね?」

 ……
 …………
 ………………

「「まさか!?」」

「あり得なくはない! 現時点ですら我らの最強のブレスと同等の魔力の高まりを感じる!」
「これがもしアリ自身の魔力許容量を超えたら……恐らくここら一帯どころか数十キロ圏内にいる生物は放射熱で焼死すると予想されます! 現時点の充填量ですら半径二キロや三キロが一瞬で消滅し、五キロほどにいる生物が焼死、または深刻な熱傷、十キロから二十キロほどに熱暴風が吹き荒れる威力です! このままフル充填させたらどれほどの規模になるか分かりません!」
「だとしたら……逃げてしまうのも一つの手だな」

「「「え?」」」

 フレアハルトの提案に、この場の全員の思考が一瞬停止する。

「空間魔法で遠くへ逃げてしまえば、ここから五十キロ圏内には誰も住んでおらんのだから穴が開く程度で問題無いであろう?」
「で、できません」
「なぜだ? この近くにはもう亜人が住んでおらんのだろう?」
「あの生物があそこから動かないという保証は無いでしょう!? 移動された先で自爆されたらどんな被害が起こるか分かりません。それに……その規模の破壊があった場合、どのような環境に変貌するかも分かりません! それと……今現在この場に大量の人員を空間転移できる空間魔術師がいません。ここに居るのは……エアリア、ちょっとこちらへ」
「はい!」

 エアリアと呼ばれた鳥人族が返事をする。

「現在私に帯同させている空間魔術師見習いのエアリアです。今この場に居るのは小規模人数を移動させられる彼女だけです。カゼハナの殲滅を前提に作戦を考えていましたので、大人数を空間転移できる空間魔術師はボレーアスとヴァントウへ回してしまいました。イルリースと先ほどヴァントウへ雷と樹の国の兵士たちを送って行ったアリアエールが居てくれればもっと大規模に空間転移させられたとは思いますが……」

 それを聞いたフレアハルトは顔をしかめる。

「それは厳しい状況だな……今、巣穴から司令本部の範囲にいる人数はどれくらいだ?」
「風の国の精鋭百七十余名、準精鋭五百余名、司令本部に居た百余名と救出されたカゼハナで戦っていた周辺の国から集められた兵士たち五千人余り。そして事後監視のために残ったレッドドラゴンを含む我々五十余名、総勢六千二百余名です。しかもそのうち二千人弱は大怪我を負った兵士たちです」
「つまり何とかせねば六千二百人が消滅するわけだ。それほど大人数だとアルトラでも転移は無理そうだな……」

「生き残るにはあの赤アリがフル充填する前に倒さなければならないようですね」
「しかし、あれを見る限り、半端な熱量では倒せそうもないぞ?」
「フル充填までどの程度と考えていますか?」

 アスタロトから聞かれた答えに――

「赤アリの魔力許容量がどの程度か分からんし、アレがここに現れた目的が分からんから何とも言えぬ……」
「目的とは?」
「アレがどの範囲までを壊そうとしているかという目的だ。仮に自爆するというなら、何か壊したいものがあってここに現れたのだと思ってな。あの地面を溶かす熱量から推測するに、壊すためだけに女帝が産み出したような、そういう感覚しか受けぬ。火に特化している我らすらあそこまで破壊に特化してはいない」

 ――と、答えるフレアハルトだったが、今度は逆にフレイムハルトからアスタロトへと聞き返す。
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