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第17章 風の国ストムバアル『暴食』の大罪騒乱編

第462話 作戦決行、そして決着!

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「ウォライト殿、私をアリに向かって思いっきりぶん投げてください」

 竜人形態になっているウォライトに自身を投げて欲しいと頼むフリアマギア。

「良いのか? 怪我をするかもしれんぞ?」
「私も多少風魔法を操れますので大丈夫です」

 ウォライトの右手に座った状態でスタンバイ。

「ではお願いします」
「了解した! では行くぞ? ふんっ!!」

 掛け声と共に、フリアマギアをアリに向かって投げつける。
 早い速度でアリへと向かって飛んで行くフリアマギア。両手には黄色の水の入った容器。
 突然磁界の外側から自分に向かってくる敵を目にし、警戒するアリ。フリアマギアが自身のところへ着く前に紫色の磁界ドームを展開して、フリアマギアに磁力を付与した。

「やっぱり自分の領域テリトリーに外側から入ってくればそういう行動を起こしますよね! 想定通りの反応です!」

 更に自身の両手に持ったものをさりげなく相手に見えるように注目をさせる。
 そしてアリの直前まで飛んで行ったところで、風魔法を逆噴射のように使って急ブレーキ。
 これには二つの意図があった。一つは自身の持つ水を狙い通りのところにかけやすくすること。もう一つは敵の思考の裏をかくこと。
 アリは自身に向かってくる敵を迎え撃つつもりでいたため、フリアマギアの急な減速に一瞬だけたじろぐ。

「喰らえ」

 と言いつつも、右手に持った容器を潰し、当たらないギリギリのところへ噴射する。

 すると予想通りアリはこの水を警戒。水に当たらないよう一歩下がり、飛んできた水しぶきを魔力磁界で吸い取り、自身に当たらないようにする行動を取った。
 『よし、上手い具合に警戒心の種を植え付けることができた』とフリアマギアは思考する。

「くそっ! 外れた! もう一発!」

 魔力磁界に吸い取られたことにより、水にも磁力が付与されてるのを確認。そして吸い寄せる対象は磁力付与された者全員ではなく、アリが判断して吸い寄せてることを確認したフリアマギアは、悔しがる演技をしつつ左手に持ったもう一つの容器の水を、今度は当てるつもりでぶちまける。
 しかし今度は、避けようとする素振りを見せず、アリの出現させた魔力磁界に吸い取られていく。

「しまったぁぁ! 当たらなかったぁぁ! これが当たればダメージを与えられたはずなのにぃぃ!」

 と、アリが言葉を理解できてるかどうか分からないが、当たらなかったことを殊更悔しがっているように演技して見せる。
 自身に対して、今までに無い行動ばかりを見せるフリアマギアに戸惑い、攻撃することを一瞬忘れて動作が停止、その直後にクラウディオが上空から黄色の水でアリの足元を狙撃。
 アリが上を向いた隙を狙って、エリザレアの磁力制御によってフリアマギアが回収される。
 ここからは空中からクラウディオが攻撃するターン。

「今度は俺の攻撃を喰らえ!」

 沸騰した黄色の水を上空よりアリの周辺へ向かって連射する。
 着弾した地点から湯気が立ち上り、地面を溶かしたように見せる演出。
 最初は全く動かなかったアリだったが、着弾地点が徐々に自身に近付くにつれて、警戒感を持つように水の狙撃を気にする素振りを見せ始める。
 魔力磁界を出現させるも、クラウディオが放つ水には磁力付与がされていないため、吸い取ることはできず。
 しかし、そういう行動を見せたというところに『この水を警戒している』ことが周囲にありありと伝わる。
 その後も飛んできた水やしぶきにに当たらないよう、一歩、また一歩と後ずさる。
 そして警戒感を高めた後の最後の一撃。

「これならどうだ!」

 クラウディオが大声と共に大量の黄色の水を空に浮かべ、これ見よがしに注目させる。 
 アリの視線は黄色の水に釘付けになり、

「溶けてしまえ!」

 掛け声と共に巨大な水球がアリへと投げられる。
 徐々に自身に向かって落下してくる水球に、まずは後ろへ飛び退いてみたが最初より速度が上がってきているとは言え、このアリの敏捷性では水が着弾する範囲からはまだ逃れられない。
 それを悟るや、次は魔力磁界で周囲の兵士を吸い寄せ、盾にしようと試みる。

「そうはさせません!」

 エリザレアが磁力魔法を使い、吸い寄せを阻止しようとするが、エリザレアの磁力制御能力ではアリの能力に及ばず、徐々に徐々に引っ張られる。
 しかし、吸い寄せられる速度が遅すぎて盾にするのに間に合わないとアリは判断。
 アリ自身も『絶対に当たってはならない』、そう思考し、最終手段として空へ逃げるように大きく跳躍した。

 この一瞬を待っていた!

 アリから離れた空中で待機していたラッセルが薬品の入った“銃弾”を左の手のひらに乗せアリの頭部に狙いを付ける。
 一呼吸してコンディションを整え、左手に置いた“銃弾”を雷魔法を帯びた右手の指で弾くように射出。
 “銃弾”は直線の残光を残し、狙い通り銀色のアリの頭部へと向かって飛ぶ。
 アリは一瞬早く光に気付くが、時既に遅し。気付いた時には頭部へ命中し――

 ガゴゴオォォン!!

 という雷撃音とまばゆい閃光と共に銀色のアリが弾き飛ばされて地面へと斜めに急落下。

「どうだ!?」
「やったのか!?」

 弾き飛ばされたアリはドオオォォン!!という爆発音に似た音を立てながら遠くの地面へ落着。大量に土煙が上がる。

「よし! 命中した! あとは薬品がアリの外骨格を壊していれば……」

 ここまではフリアマギアの思惑通りに事が進む。
 外骨格を溶かしてさえいれば、ダメージを与えられるようになっているはず、そう考えた。

「キュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュ!!」

 今まで鳴き声など一切出さなかった銀色のアリから初めて鳴き声が発せられる。
 土煙が多少収まって現れたアリは顔の左半分の外骨格が破壊され、青い紐状のものや、オレンジ色の内臓のようなもの、ヒトに近い見た目になったためか脳に似た器官などが露出していた。
 フリアマギアの予想では、精々外骨格を脆くする程度を予想していたが、左半分が完全に破損しているという嬉しい誤算だった。
 しかし、予想通りだったのはここまで。

「キューーーーーッ!!!!」

 本気で怒ったアリは、叫び声のような声量で鳴き声を発した後、紫色の磁界ドームを出現させ先ほどの数倍の範囲を囲む。

「えっ!? 何この広範囲!? まさか怒りで効果範囲が広がった!?」

 それは、今まで磁界の外側で待機していたアリ追跡班数百人全員に磁力を付与するほどの広範囲であった。
 直後にこの戦場に居る兵士たち全員が、アリの作った魔力磁界へと吸い寄せられる。

「うわわわわ! 何だコレ!? 空に浮いた!?」
「アリの方向へ吸い寄せられてるぞ!」

 フワリと空中に浮かび、吸い寄せられることに狼狽するアリ追跡班の兵士たち。

「まずい! この人数が吸い寄せられたらアリの近くで戦ってた隊長たちは圧死するぞ!」

 どんどんと吸い寄せられていく兵士たち。
 しかし、吸い寄せられる彼らより先に超速度で魔力磁界の磁力を無視してアリに近付く者が居た。

 エリザレアである。

 彼女は雷の推進力を利用し、超速度でアリへと近付きながら抜刀、アリに張り付き――

「オラァァ!!」

 ――雷魔法を付与した刀を外骨格の壊れた左側の顔部分から右下半身へ抜ける勢いで内側へ突き立てた。
 再び眩い光を放ち、雷を帯びた刀が刺さったアリは激しく感電!

「ギュアァァァァァ!!」

 しかし、叫び声を上げ、体内が焼けて煙を上げているにもかかわらず、まだ磁力は収まる気配が無い。
 魔力磁界は依然兵士たちを吸い寄せ続けている。
 銀色のアリはひとしきり感電が収まると必死にエリザレアを振り落とそうとする。

「くそったれ! まだ死なないのコイツ! このままじゃみんなが圧死する!」

 手負いとは言え、当たれば即死に近いアリの攻撃。エリザレアはやむを得ず刀を手放して、一度アリから離れる。
 焦るエリザレアだったが、そこへ一瞬巨大な影が落ちる。
 竜人形態になっていたレッドドラゴン・プロクスが、磁界を抜けてアリに近付いて来ていた。

「プロクス殿!」
「どけ、エリザレア! 俺がトドメを刺してやる! これで終わりだ!」

 アリのすぐ上空まで近付き、壊れた左側の外骨格目がけて【フレアブレス】を放つ!
 外骨格の壊れた部分から炎が侵入し、体内を駆け巡る!

「ギュオオォォァァァアァァァ!!」

 体内から焼かれ、苦しみのたうち回るアリ。
 銀色の外骨格の持つ超熱耐久の効果により、炎は外へ漏れることなく内側へ籠る。
 辛うじて壊れた左顔面部分から炎が露出し、関節部分から微量の黒煙を上げている状態に。
 この場にいる連合軍の兵士全員が『これで本当に終わった』、『磁力もすぐに解除されるだろう』、そう思っていた。

 だが、アリは最後の力を振り絞って、磁力付与をしていたものを引き寄せた。
 連合軍兵士たちが吸い寄せられている魔力磁界を挟んで、左右に二つ。片方五十メートルはあろうかというほど巨大な岩石を、“磁力の力で”地面から掘り起こしたのだ!
 それは自身が炎に燃え往く中で発動した境地、まさに火事場のバカ力であった。
 アリは立ったまま外骨格内部だけを焼き尽くされ、程なくして立ち往生。

 巨岩はアリ絶命後も、ズルズルと地面をえぐり取りながらゆっくりと確実に連合軍兵士たちが集まった魔力磁界へと迫る。このままでは二つの巨岩に挟まれ、磁力で動けない兵士たちの多くが潰死かいしするのは必定!

 そこで動いたのはウォライト。ドラゴン形態に変身し、巨岩へ向かって【セイントブレス】を放つ。
 巨岩は破壊され、それでみな一安心と思いきや、細かくなり重量が減った石片や岩石などの磁力はそのまま生きており、連合軍兵士たちへ向かって高速で引き寄せられる事態に

「うわぁぁぁぁ!!」

 しかしソリッドノームのベオバルツがこれに即座に対応。砂と鉄を混ぜた盾を空中に瞬時に作り出してクッションにし、飛んでくる岩石からみなを守る。

「ふぅ……まったくひと時も安心できんわい……」

 片側の巨岩は壊されるも、まだもう片方の巨岩が残っている。

「ウォライト殿、もう一発!」
「すまん、少し魔力を溜める時間が必要だ……」
「じゃあアランドラ殿! 竜種ですよね!?」
「お、俺は竜人種だ! 広範囲ブレスの類いは持ってない!」
「そんな! じゃあ誰かアレを壊せるヒトはいないんですか!?」

 頼みのレッドドラゴンは、先ほどの銀色のアリの一撃でプロクスを除いて動ける者はおらず、破壊力に優れた者はこの場にいない状態に。

「そうだ! 磁力を解除してしまえば!」
「どうやって!?」
「これ以上の磁力の塊を別のところに作るとか」
「あのアリ以上の磁力使いがこの場にいるか!?」
「じゃあどうすれば!?」

 次の瞬間、ゴゴォォォンンという雷轟と共にもう一つの巨岩が砕け散った!
 バラバラになった岩石はそのまま磁力に引き寄せられるかと思われたが……
 なぜかその場に浮いたまま止まっていた。どうやら元・巨岩の周辺にだけ新たな磁力の力場が発生しているようだった。

 巨岩を破壊した中心に居たのは……アリ追跡班に振り分けられていた雷の精霊・アレキだった。

「ありゃ? エリザレア殿にラッセル殿、お早いお帰りで。もうアリの追跡終わったんですか? 我々の隊もアリの追跡が終わって戻ってみれば大量の兵士がいるところへ巨岩が迫っててピンチっぽかったので壊してしまいましたが問題無かったですかね? しかし……何やら激戦だったようで、随分と出遅れてしまったようだ」

 現場の惨状を見て、激しい戦いがあったのだと悟るアレキ。

「あ、ああ……いや、これ以上無いベストなタイミングだったよ……助かった……あのまま巨岩が迫って来ていたら我々も潰されていたところでした……」

 雷の国団長のエリザレアが答える。

「すまないけど、あちらの磁力も解除してもらえる? 雷の精霊のあなたなら可能だと思うんだけど……」

 今もなお兵士たちが吸い寄せられているアリの作った魔力磁界を指さす。

「了解」

 魔力磁界を解除し、連合軍兵士たちの吸い寄せが終了。

「た、助かったぁ……」
「もう引き寄せられることもないんだな」
「つ、疲れた……生還できた……」

 連合軍兵士から口々に安堵の声が漏れ出る。

「すまないが誰か肩を貸してもらえるか? もう自分だけでは動けそうもない……」

 連合軍総隊長を担っていたマルクが別の兵士の肩を借りて立ち上がる。
 そして声を張り上げた。

「少なくない犠牲を出してしまったが、みんな良くやってくれた! 我々の勝利だ!」

「「「 うおおおおぉぉぉぉ!!! 」」」

 勝利の歓声に沸く。
 こうしてヴァントウの巣穴は樹の国・雷の国・レッドドラゴン連合軍により殲滅。
 巣穴から出現した銀色の異形者も、世界の脅威になる前に打ち倒された。

 樹の国五百二十一名、雷の国六百三十名、そしてレッドドラゴン八名、総勢千百五十九名のうち、死亡者三百三名、重軽傷者七百四十五名の被害を出した。
 死亡者のほとんどは、魔力磁界による圧死と、銀色のアリのたった二回の攻撃による潰死かいしであった。
 プロクスを除いた、レッドドラゴン七名は重傷を負うも、その強靭な生命力により一人も欠けることなく全員生還。

 こうして『ヴァントウ巣穴殲滅作戦』は幕を閉じた。
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