470 / 533
第17章 風の国ストムバアル『暴食』の大罪騒乱編
第460話 銀色のアリ攻略の糸口
しおりを挟む
その後も、まだ立っていられたマルク、アランドラ、ベオバルツ、リオライト、ライオネル、プロクスら隊長格が、銀色のアリに吸い寄せられては殴られるのを必死に回避、吸い寄せられては殴られるのを回避を繰り返し、わずかに隙が出来た時に反撃をする。
アランドラが竜人化し風で切れ味を増した槍で、リオライトとライオネルが雷で威力を増した爪で、プロクスが炎の槍で四様四方向から同時に攻撃するも、一切傷付かず……
「何なんだコイツは……何をしたら傷付けられるんだ……」
「身体を狙うな! もっと細い場所、腕や脚の関節を狙って徐々にダメージを与えるんだ!」
マルクの声で関節を狙って攻撃するものの――
ガキキッ!
という金属音を上げて刃を止められる。
「ダ、ダメだ……関節ですら硬すぎて全く刃が通らない……」
「この刃が通らない硬さ……アルトラ殿の身体特性を思い浮かべるな……」
しかし、魔法攻撃も、接近しての物理攻撃も一切アリの外骨格に傷を付けることができない。
いずれの攻撃も全く効き目が無いため、磁力効果が切れるまでは必死に避けるしかない状況なのである。
「それならこれはどうじゃ!」
土の精霊ベオバルツが金属製の檻を作って閉じ込める。
磁力で吸い寄せられても攻撃が届きさえなければ良いのだ。檻にさえ入れてしまえば直接殴られることもなくなる。そう考えた。
しかもこの状態になってしまえば、次の一手で勝利は確定――
「虫カゴの出来上がりじゃあ! ここに水を流し込む! デスキラービーの時にやったのと同じ方法 (【EX】第349.3話参照)で窒息死させてやるゾイ! いかに強靭な身体でも息ができねば生きていられまい! おい! まだ立てる水魔術師はおるか!? この中を水でいっぱいにしてくれ!」
「「「 はい! 」」」
――窒息させてしまえば終わり……そう思っていたのだが……
まだ動くことができる水魔術師が虫カゴに水を注ごうとした瞬間、銀色のアリは鉄格子に向かって両拳を連打。連打連打連打の嵐。
一撃ごとにへこみ、ひしゃげ、ねじれ、ボロボロに砕けていく。そしてあっという間に鉄格子をこじ開けて脱獄してしまった。
「な……なんじゃと……?」
そしてまた磁力による吸い付け攻撃が再開。
◇
その頃、銀色のアリによる磁界の効果範囲外に逃がされたフリアマギアは独り言を呟くように必死に敵の分析をする。
「な、何あの身体? 体色は銀色だから外骨格を構成しているのは銀? 錫? プラチナ? それとも別のナニカ? 【フレアブレス】の温度は鉄なら短時間の放射でドロドロに溶かせる温度だとフレアハルト殿に何となく聞いたことがある。ということは鉄の融点である千五百三十八度から沸点の二千八百六十二度の間がプロクス殿が使った【フレアブレス】の温度と考えられる。そして身体を守る魔法障壁の痕跡は見られないから、あれは外骨格が特殊なだけでほぼ生身の状態。でも……」
銀の融点は九百六十一.八度、
錫は二百三十一.九度、
プラチナは千七百六十八度。
いずれの鉱物も、鉄がドロドロに溶ける温度では、無傷とはいられない。
フリアマギアは頭の中でそう思考を巡らす。
「これらでは、どれもレッドドラゴンの炎で無傷でいられるとは思えない」
◇
フリアマギアが思考を巡らせていると、アリ追跡班のエリザレア隊、ラッセル隊、ウォライト隊が戻って来た。
そして目の前で巣穴攻略班の隊長格と戦っているアリを見て、アリ追跡班の兵士たちが次々に驚きを口にする。
「な、何なんだアイツは!?」
「上半身が亜人!? 見たこともないヤツと戦っている!!」
「あれもジャイアントアントなのか!?」
アリ追跡班が加勢するために近付こうとしていることに一足早く気付いたマルクが叫ぶ。
「み、みんなコイツに近付くな!」
そう叫んだ瞬間、マルクの身体が銀色のアリに引き寄せられ、それを待ち構えて拳で殴りつける。
マルクは致命的なダメージを避けるため必死にアリの拳を避けようと身体を動かすが……
「ぐうあぁぁおぉ……!!」
避け切ることはできず、いくらかのダメージを喰らってしまう。
相手は何トンもの大岩を放り投げる腕力である。そんな力で殴られれば亜人程度では簡単にちぎれ飛んでしまうことだろう。
マルクもその優れた身体能力と直感により致命傷だけは避けていたのだが……手痛いダメージを負ってしまった。
「マルク殿ーー!」
「フリアマギア殿! 説明してください! これはどういう状況なのですか!?」
遠く離れた磁界の外側に居たフリアマギアにラッセルが罵倒に近い声量で状況説明を問う。
「み、見ての通りです。今彼らには磁力のような性質が付与されており、あの銀色の化け物は磁力を自在に操って吸い寄せた後に攻撃を繰り出します」
「この大惨事もアレが原因ですか?」
目の前に繰り広げられている死屍累々の兵士たちの亡骸を見て更に問う。
「何をしたら数百人がこのような状況になるのですか!?」
「二撃……」
「え?」
「たった二撃……たった二回だけ拳を振り抜いただけでこの状態になりました……」
「たった二撃!?」
「バカな!?」
「数百人をたった二回の攻撃で!?」
その一言でアリ追跡班の面々は戦慄を覚える。
『近付けば殺される』
そういう予感がし、兵士たちの中には足がすくんでしまう者も。
「あなた方が集団で近付けば再び数百人がこうなります……ですから実力者数人で戦うこの状況が現在の最適解です。私は今ヤツを倒す方法を考えています」
「近付けば磁石にされるのか……ならば外側から私がブレスで攻撃するのはどうだ?」
樹の国ユグドドラゴン族のウォライトの【セイントブレス】。
これは強力な光を放出するブレスで、大森林の木々を薙ぎ払ってしまうほど強力なため、滅多に使わないのだが、この大惨事を見て提案した。
「ダメです。そんなもの使えば、磁力を使って攻略班のヒトたちを盾しようとするでしょう。より被害が出てしまう可能性があります。それにあの身体に通じるかどうかも……」
「そ、そうか……」
「しかし、あのままでは彼らもやられてしまいます! 加勢に行かないと!」
ラッセルが居ても立っても居られず、加勢を申し出る。
「それもダメです! 何の策も無く突っ込めば、我々巣穴攻略班の二の舞になります。少し待ってください、今考えてますから!」
「しかし!」
「考えがまとまらないので少し黙っててください!!」
「は、はい……」
フリアマギアの一喝にラッセルはそれ以上何も言うことができなくなった。
ブツブツと独り言のように呟くフリアマギア。
「動きが遅いってことは重いから? 仮に二千八百六十二度の炎に耐えられて、電気を通さず、銀色をしているもの………………まさかタングステンで出来た外骨格? あの身体全部が? そんな生物があり得るのか? ……いやもう既にあり得ない進化はデスキラービーの時に経験している。ましてや『暴食』を得た女王の魔力からなら、そういったトンデモ生物が生まれる可能性だって無いとは言い切れない。でも磁力で引き寄せるような攻撃をしてるし……あれは雷魔法の特性の方? ヤツの身体とは全く無関係なところで磁力が作用してる……とか?」
そして考えがまとまる。
「考えがあります! 今から私は樹の国へ帰って、とある作戦の準備を行います。エフレット! エフレットは居ますか!?」
「は、はははい! こ、ここ、ここに!」
アリ追跡班ウォライト隊に付いて駆除に同行していた、樹の国の空間魔術師の一人・エフレットを呼び寄せる。
彼女はフリアマギアが見出したエルフで、樹の国に二人いる空間魔術師の一人だが、まだ見習い階級。
主要空間魔術師のジョアンニャは王様のお世話でジャイアントアント駆除作戦に同行できないため、今回の援軍には彼女が同行していた。今までは目立たないように団長のマルクや別の空間魔術師の影に隠れていたが、ここに来て出番が回って来る。
初めて自分に回って“きてしまった”重要な仕事に声に震えが出る。
「ではエフレット、私と共にエルフヴィレッジへ空間転移してください。三十分ほど席を外します」
突然エルフの集落、樹の国のエルフヴィレッジへ行くと言い出すフリアマギア。
「そこに何があるのですか?」
と、ラッセル。
「私が昔使っていたラボがあります。そこにとある魔道具を封印してあるので、それを取りに戻ります」
「そこに行けば何とかなるんですか!?」
「予測の域を出ませんが……私の予想が外れていなければあの外骨格を砕く一助が出来ると思います。今はアレに傷を付けられない以上、小さな希望にすがるしかありません! みんなが倒されてしまいます! エフレットさあ早く!」
「は、はい!」
「エリザレア殿、ラッセル殿、ウォライト殿、今はマルク殿の判断で行動してください。くれぐれも先走って兵士たち全員で特攻などせぬように。今大群でアレを相手にすれば、確実に大損害が出ますから」
「「わ、わかりました」」
フリアマギアは、エフレットの出現させた空間転移門によってエルフヴィレッジへ移動した。
◇
樹の国エルフヴィレッジ、村の門前――
村を守るゴーレムが、フリアマギアの接近を検知して動き出す。
フリアマギアとエフレットの前に立ち塞がった。
「まだこんなものを入り口に置いて他人と関わらないようにしてるのか……デスキラービー騒動で懲りてないんだな……こんなの私にかかればちょちょいっと」
ゴーレムの紋章術式を、自身を受け入れるように書き換える。
他人の作った術式を書き換えるのは相当高度な能力を要求されるが、フリアマギアは苦も無くそれをこなす。
「そ、そんなことしちゃって良いんですか?」
エルフ族でありながら、生粋の都市エルフであるエフレットにはエルフヴィレッジの風習が分からない。
フリアマギアが勝手に術式を書き換えたため、心配になったエフレットが質問する。
「良いんですよ。私たちが入れるようにしただけですから。さあ早く入りましょう」
ゴーレムのいる門を通過したため、村の第二門を守っていた見張りが二人に気付いた。
「お前、フリアマギア! 何をしに来た! なぜゴーレムが反応しない? 何かしたのか!?」
「また国からの指示で来たのか!」
村へ入ることを好まないエルフ集落の住民は、国の機関に所属するフリアマギアを露骨に邪見にする。
「今は話してる時間はないの! 通してくれる?」
すぐに族長に話が行ったのか、間もなくして族長のシルヴァンが出て来た。
「何しに来た? バカ孫」
内心、『めんどくせーのが来た……』と思っていた。
フリアマギアは族長シルヴァンの孫ではあるが、族長が文化的な生活を毛嫌いしているためフリアマギアにも素っ気ない態度で接する。もう出て行って五十年以上が経過しているというところでもその態度が顕著である。
以前デスキラービー騒動でエルフヴィレッジを訪れた時には、樹の国の守護志士たちに紛れていたために族長と話す機会も接触する機会も無かったが、今回は二人で訪れたため対応せざるを得なかった。
「……じい様、私のラボは?」
「何しに来たと聞いている」
「話してる時間は無い。私のラボは!?」
「……何しに来たと聞いている」
「うるせーな! 今まさに世界の危機なんだよ! ラボにある魔道具が無いと困るから取りに来ただけだ!」
フリアマギアのその普段とは違う態度の変わりように、隣に帯同していたエフレットが驚き、委縮する。
「世界の危機? 大袈裟だな」
「デスキラービー騒動の時に、繁殖しまくった谷を隠して大袈裟にした張本人が何言ってんだよ! さっさと通してくれ! 今回は七つの大罪『暴食』を得たかもしれないジャイアントアントだ! 三大凶虫の当事者なんだからその危険さも分かるだろ」
「「「 なに!? 『暴食』を得たジャイアントアントだと!? 」」」
フリアマギアの一言に周囲に居たエルフたちがざわめく。
「そういうわけで、早く行かないとみんな殺されてしまう。さっさと道を空けてくれ!」
「ラボなら何度も壊そうとしたのだがな」
「うっそだろ!? あの中には私が作ったものが沢山あったのに!」
「どうしても封印が開けられんかったからそのままにしてある。仕方ないから入れてやる、さっさと取りに行って来い」
「ちっ! 驚かせるなよ! エフレット、悪いですが、少し待っててください」
「あ、はい……」
少し経った後、急いで戻って来るフリアマギア。
「お待たせしましたね。さあ、急いで戻りましょう!」
「フリアマギア」
「何だよじい様……さっさと出て行くから良いだろ?」
「せっかくしばらく振りに顔を会わせたのだ、一言だけ言っておくぞ」
「な、何よ?」
『急いでるってのにまた小言か?』とフリアマギアが考えると――
「命だけは落とすなよ。お前はバカ孫であっても私の孫には変わりないのだからな」
「……は、はは、何だそんなことか、今度はどんな小言を言われるのかと思ったよ……了解了解。死にもしないし、ちゃんと世界も救ってきますよ。じゃあエフレット、行きましょうか。転移をお願いしますね」
「はい」
アランドラが竜人化し風で切れ味を増した槍で、リオライトとライオネルが雷で威力を増した爪で、プロクスが炎の槍で四様四方向から同時に攻撃するも、一切傷付かず……
「何なんだコイツは……何をしたら傷付けられるんだ……」
「身体を狙うな! もっと細い場所、腕や脚の関節を狙って徐々にダメージを与えるんだ!」
マルクの声で関節を狙って攻撃するものの――
ガキキッ!
という金属音を上げて刃を止められる。
「ダ、ダメだ……関節ですら硬すぎて全く刃が通らない……」
「この刃が通らない硬さ……アルトラ殿の身体特性を思い浮かべるな……」
しかし、魔法攻撃も、接近しての物理攻撃も一切アリの外骨格に傷を付けることができない。
いずれの攻撃も全く効き目が無いため、磁力効果が切れるまでは必死に避けるしかない状況なのである。
「それならこれはどうじゃ!」
土の精霊ベオバルツが金属製の檻を作って閉じ込める。
磁力で吸い寄せられても攻撃が届きさえなければ良いのだ。檻にさえ入れてしまえば直接殴られることもなくなる。そう考えた。
しかもこの状態になってしまえば、次の一手で勝利は確定――
「虫カゴの出来上がりじゃあ! ここに水を流し込む! デスキラービーの時にやったのと同じ方法 (【EX】第349.3話参照)で窒息死させてやるゾイ! いかに強靭な身体でも息ができねば生きていられまい! おい! まだ立てる水魔術師はおるか!? この中を水でいっぱいにしてくれ!」
「「「 はい! 」」」
――窒息させてしまえば終わり……そう思っていたのだが……
まだ動くことができる水魔術師が虫カゴに水を注ごうとした瞬間、銀色のアリは鉄格子に向かって両拳を連打。連打連打連打の嵐。
一撃ごとにへこみ、ひしゃげ、ねじれ、ボロボロに砕けていく。そしてあっという間に鉄格子をこじ開けて脱獄してしまった。
「な……なんじゃと……?」
そしてまた磁力による吸い付け攻撃が再開。
◇
その頃、銀色のアリによる磁界の効果範囲外に逃がされたフリアマギアは独り言を呟くように必死に敵の分析をする。
「な、何あの身体? 体色は銀色だから外骨格を構成しているのは銀? 錫? プラチナ? それとも別のナニカ? 【フレアブレス】の温度は鉄なら短時間の放射でドロドロに溶かせる温度だとフレアハルト殿に何となく聞いたことがある。ということは鉄の融点である千五百三十八度から沸点の二千八百六十二度の間がプロクス殿が使った【フレアブレス】の温度と考えられる。そして身体を守る魔法障壁の痕跡は見られないから、あれは外骨格が特殊なだけでほぼ生身の状態。でも……」
銀の融点は九百六十一.八度、
錫は二百三十一.九度、
プラチナは千七百六十八度。
いずれの鉱物も、鉄がドロドロに溶ける温度では、無傷とはいられない。
フリアマギアは頭の中でそう思考を巡らす。
「これらでは、どれもレッドドラゴンの炎で無傷でいられるとは思えない」
◇
フリアマギアが思考を巡らせていると、アリ追跡班のエリザレア隊、ラッセル隊、ウォライト隊が戻って来た。
そして目の前で巣穴攻略班の隊長格と戦っているアリを見て、アリ追跡班の兵士たちが次々に驚きを口にする。
「な、何なんだアイツは!?」
「上半身が亜人!? 見たこともないヤツと戦っている!!」
「あれもジャイアントアントなのか!?」
アリ追跡班が加勢するために近付こうとしていることに一足早く気付いたマルクが叫ぶ。
「み、みんなコイツに近付くな!」
そう叫んだ瞬間、マルクの身体が銀色のアリに引き寄せられ、それを待ち構えて拳で殴りつける。
マルクは致命的なダメージを避けるため必死にアリの拳を避けようと身体を動かすが……
「ぐうあぁぁおぉ……!!」
避け切ることはできず、いくらかのダメージを喰らってしまう。
相手は何トンもの大岩を放り投げる腕力である。そんな力で殴られれば亜人程度では簡単にちぎれ飛んでしまうことだろう。
マルクもその優れた身体能力と直感により致命傷だけは避けていたのだが……手痛いダメージを負ってしまった。
「マルク殿ーー!」
「フリアマギア殿! 説明してください! これはどういう状況なのですか!?」
遠く離れた磁界の外側に居たフリアマギアにラッセルが罵倒に近い声量で状況説明を問う。
「み、見ての通りです。今彼らには磁力のような性質が付与されており、あの銀色の化け物は磁力を自在に操って吸い寄せた後に攻撃を繰り出します」
「この大惨事もアレが原因ですか?」
目の前に繰り広げられている死屍累々の兵士たちの亡骸を見て更に問う。
「何をしたら数百人がこのような状況になるのですか!?」
「二撃……」
「え?」
「たった二撃……たった二回だけ拳を振り抜いただけでこの状態になりました……」
「たった二撃!?」
「バカな!?」
「数百人をたった二回の攻撃で!?」
その一言でアリ追跡班の面々は戦慄を覚える。
『近付けば殺される』
そういう予感がし、兵士たちの中には足がすくんでしまう者も。
「あなた方が集団で近付けば再び数百人がこうなります……ですから実力者数人で戦うこの状況が現在の最適解です。私は今ヤツを倒す方法を考えています」
「近付けば磁石にされるのか……ならば外側から私がブレスで攻撃するのはどうだ?」
樹の国ユグドドラゴン族のウォライトの【セイントブレス】。
これは強力な光を放出するブレスで、大森林の木々を薙ぎ払ってしまうほど強力なため、滅多に使わないのだが、この大惨事を見て提案した。
「ダメです。そんなもの使えば、磁力を使って攻略班のヒトたちを盾しようとするでしょう。より被害が出てしまう可能性があります。それにあの身体に通じるかどうかも……」
「そ、そうか……」
「しかし、あのままでは彼らもやられてしまいます! 加勢に行かないと!」
ラッセルが居ても立っても居られず、加勢を申し出る。
「それもダメです! 何の策も無く突っ込めば、我々巣穴攻略班の二の舞になります。少し待ってください、今考えてますから!」
「しかし!」
「考えがまとまらないので少し黙っててください!!」
「は、はい……」
フリアマギアの一喝にラッセルはそれ以上何も言うことができなくなった。
ブツブツと独り言のように呟くフリアマギア。
「動きが遅いってことは重いから? 仮に二千八百六十二度の炎に耐えられて、電気を通さず、銀色をしているもの………………まさかタングステンで出来た外骨格? あの身体全部が? そんな生物があり得るのか? ……いやもう既にあり得ない進化はデスキラービーの時に経験している。ましてや『暴食』を得た女王の魔力からなら、そういったトンデモ生物が生まれる可能性だって無いとは言い切れない。でも磁力で引き寄せるような攻撃をしてるし……あれは雷魔法の特性の方? ヤツの身体とは全く無関係なところで磁力が作用してる……とか?」
そして考えがまとまる。
「考えがあります! 今から私は樹の国へ帰って、とある作戦の準備を行います。エフレット! エフレットは居ますか!?」
「は、はははい! こ、ここ、ここに!」
アリ追跡班ウォライト隊に付いて駆除に同行していた、樹の国の空間魔術師の一人・エフレットを呼び寄せる。
彼女はフリアマギアが見出したエルフで、樹の国に二人いる空間魔術師の一人だが、まだ見習い階級。
主要空間魔術師のジョアンニャは王様のお世話でジャイアントアント駆除作戦に同行できないため、今回の援軍には彼女が同行していた。今までは目立たないように団長のマルクや別の空間魔術師の影に隠れていたが、ここに来て出番が回って来る。
初めて自分に回って“きてしまった”重要な仕事に声に震えが出る。
「ではエフレット、私と共にエルフヴィレッジへ空間転移してください。三十分ほど席を外します」
突然エルフの集落、樹の国のエルフヴィレッジへ行くと言い出すフリアマギア。
「そこに何があるのですか?」
と、ラッセル。
「私が昔使っていたラボがあります。そこにとある魔道具を封印してあるので、それを取りに戻ります」
「そこに行けば何とかなるんですか!?」
「予測の域を出ませんが……私の予想が外れていなければあの外骨格を砕く一助が出来ると思います。今はアレに傷を付けられない以上、小さな希望にすがるしかありません! みんなが倒されてしまいます! エフレットさあ早く!」
「は、はい!」
「エリザレア殿、ラッセル殿、ウォライト殿、今はマルク殿の判断で行動してください。くれぐれも先走って兵士たち全員で特攻などせぬように。今大群でアレを相手にすれば、確実に大損害が出ますから」
「「わ、わかりました」」
フリアマギアは、エフレットの出現させた空間転移門によってエルフヴィレッジへ移動した。
◇
樹の国エルフヴィレッジ、村の門前――
村を守るゴーレムが、フリアマギアの接近を検知して動き出す。
フリアマギアとエフレットの前に立ち塞がった。
「まだこんなものを入り口に置いて他人と関わらないようにしてるのか……デスキラービー騒動で懲りてないんだな……こんなの私にかかればちょちょいっと」
ゴーレムの紋章術式を、自身を受け入れるように書き換える。
他人の作った術式を書き換えるのは相当高度な能力を要求されるが、フリアマギアは苦も無くそれをこなす。
「そ、そんなことしちゃって良いんですか?」
エルフ族でありながら、生粋の都市エルフであるエフレットにはエルフヴィレッジの風習が分からない。
フリアマギアが勝手に術式を書き換えたため、心配になったエフレットが質問する。
「良いんですよ。私たちが入れるようにしただけですから。さあ早く入りましょう」
ゴーレムのいる門を通過したため、村の第二門を守っていた見張りが二人に気付いた。
「お前、フリアマギア! 何をしに来た! なぜゴーレムが反応しない? 何かしたのか!?」
「また国からの指示で来たのか!」
村へ入ることを好まないエルフ集落の住民は、国の機関に所属するフリアマギアを露骨に邪見にする。
「今は話してる時間はないの! 通してくれる?」
すぐに族長に話が行ったのか、間もなくして族長のシルヴァンが出て来た。
「何しに来た? バカ孫」
内心、『めんどくせーのが来た……』と思っていた。
フリアマギアは族長シルヴァンの孫ではあるが、族長が文化的な生活を毛嫌いしているためフリアマギアにも素っ気ない態度で接する。もう出て行って五十年以上が経過しているというところでもその態度が顕著である。
以前デスキラービー騒動でエルフヴィレッジを訪れた時には、樹の国の守護志士たちに紛れていたために族長と話す機会も接触する機会も無かったが、今回は二人で訪れたため対応せざるを得なかった。
「……じい様、私のラボは?」
「何しに来たと聞いている」
「話してる時間は無い。私のラボは!?」
「……何しに来たと聞いている」
「うるせーな! 今まさに世界の危機なんだよ! ラボにある魔道具が無いと困るから取りに来ただけだ!」
フリアマギアのその普段とは違う態度の変わりように、隣に帯同していたエフレットが驚き、委縮する。
「世界の危機? 大袈裟だな」
「デスキラービー騒動の時に、繁殖しまくった谷を隠して大袈裟にした張本人が何言ってんだよ! さっさと通してくれ! 今回は七つの大罪『暴食』を得たかもしれないジャイアントアントだ! 三大凶虫の当事者なんだからその危険さも分かるだろ」
「「「 なに!? 『暴食』を得たジャイアントアントだと!? 」」」
フリアマギアの一言に周囲に居たエルフたちがざわめく。
「そういうわけで、早く行かないとみんな殺されてしまう。さっさと道を空けてくれ!」
「ラボなら何度も壊そうとしたのだがな」
「うっそだろ!? あの中には私が作ったものが沢山あったのに!」
「どうしても封印が開けられんかったからそのままにしてある。仕方ないから入れてやる、さっさと取りに行って来い」
「ちっ! 驚かせるなよ! エフレット、悪いですが、少し待っててください」
「あ、はい……」
少し経った後、急いで戻って来るフリアマギア。
「お待たせしましたね。さあ、急いで戻りましょう!」
「フリアマギア」
「何だよじい様……さっさと出て行くから良いだろ?」
「せっかくしばらく振りに顔を会わせたのだ、一言だけ言っておくぞ」
「な、何よ?」
『急いでるってのにまた小言か?』とフリアマギアが考えると――
「命だけは落とすなよ。お前はバカ孫であっても私の孫には変わりないのだからな」
「……は、はは、何だそんなことか、今度はどんな小言を言われるのかと思ったよ……了解了解。死にもしないし、ちゃんと世界も救ってきますよ。じゃあエフレット、行きましょうか。転移をお願いしますね」
「はい」
1
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
仰っている意味が分かりません
水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか?
常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。
※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
私は、忠告を致しましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。
ロマーヌ様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
傍観している方が面白いのになぁ。
志位斗 茂家波
ファンタジー
「エデワール・ミッシャ令嬢!貴方にはさまざな罪があり、この場での婚約破棄と国外追放を言い渡す!」
とある夜会の中で引き起こされた婚約破棄。
その彼らの様子はまるで……
「茶番というか、喜劇ですね兄さま」
「うん、周囲が皆呆れたような目で見ているからな」
思わず漏らしたその感想は、周囲も一致しているようであった。
これは、そんな馬鹿馬鹿しい婚約破棄現場での、傍観者的な立場で見ていた者たちの語りである。
「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹でもあります。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
放置された公爵令嬢が幸せになるまで
こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる