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第17章 風の国ストムバアル『暴食』の大罪騒乱編

第458話 ヴァントウの巣穴から散らばったアリの殲滅

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 巣穴を直接叩く『巣穴攻略班』と、巣穴から遠くへ拡散されてしまったアリを追跡して駆除する『アリ追跡班』に分かれて作戦が開始された。
 アリ追跡部隊・ラッセル隊のケース――

「居たぞ! アリが複数体で固まっている! 全員【サンダーアロー】の使用用意!」

 ラッセル隊の隊員複数が実態の無い雷でできた弓を構え、

「一斉に放て!」

 矢の形で放つ雷魔法。
 空からの攻撃など全く想定していなかったアリに雨のような数の雷の矢が突き刺さり、空中にいるラッセル部隊には気付くこともなく黒焦げになっていく。

「何と言うか……随分拍子抜けな感じがしますが……カゼハナの方はもっと切羽詰まっていましたよ?」
「警戒されてさえいなければこんなものだろう。雷の矢は直接身体内部を焼くから、如何に装甲が硬くても雷の矢が刺されば受けるダメージは甚大だからな。働きアリ程度なら問題無く駆除できる。それに我々は楽な方をあてがわれたのかもしれないが、ジャイアントアントは一匹居るだけでも一般人にとっては脅威だ。一匹残らず探し出して駆除するぞ」
「了解」

 その後、すぐに別のところで索敵していた隊員が叫ぶ。

「アリ発見! しかし一匹だけのようです!」
「一匹か? 集団で行動するジャイアントアントが一匹だけとは」
「動きが他のアリと違うようですね。何か引きずってます」
「!? どこにいる!?」

 ラッセルが突然焦ったように隊員に聞き返す。

「あそこに……」
「直接の雷魔法はダメだ、私がやる」

 するとラッセルは、銃の類を携帯していないにもかかわらず、銃弾を持ち出して左手の平に乗せ、一匹のジャイアントアントの頭部に狙いを定める。
 雷魔法を込めて右人差し指で弾くように射出。銃弾は光のごとき速さでジャイアントアントへと飛び、頭部を貫通、その直後の銃弾を追って来た衝撃波で頭部がバラバラに吹き飛んだ。

「い、一匹のアリにそんなに焦ってどうかしたのですか?」
「君はジャイアントアント駆除作戦は初めてか? 私は今まで何度かジャイアントアント駆除に駆り出されたが、他と違う行動をしているのは決まって巣穴に戻る時だった。獲物を狩って戻って来る時だ」
「つまり引きずられていたのは……」
「まだ息がある可能性もある、すぐ確かめるんだ! 死んでさえいなければ私がある程度回復できる!」

 ジャイアントアントに引きずられていたヒトの下へ降り立った隊員だったが、すぐに顔を横に振る。
 白天使ホワイト・ヘルヘヴンであるラッセルは、光魔法も得意としており回復もできる万能型の戦士であったが……隊員の様子を見ると回復の出番は無さそうである。

「ダメですね……損傷も酷く、既に呼吸が停止して時間も経っているようです……蘇生も不可能かと」
「そうか……」

 隊員から更なる発見報告。

「アリ数匹に追いかけられているヒトを発見! 恐らくヴァントウの町の住人かと思われます!」
「今度は助けるぞ」

 アリの集団は難無く倒され、逃げていた住民を無事保護。

「大丈夫ですか?」
「は、はい……お蔭で命拾いしました……」

 逃げていたのは比較的体格の良い男性の亜人。
 しかし農民という出で立ちで、戦闘訓練を受けているようには見えなかった。

「他に住民は?」
「俺が逃げていた先に他のヒトたちも! 妻と子供もいます! 何匹かは引き付けられたが、妻たちの方へも何匹か行ってしまって……は、早く助けてください!」
「分かりました、任せてください」
「まずいな、巣穴からこんなにも広範囲に散らばっているとは……全部探し出して駆除するのは骨が折れるぞ……」

 一匹一匹は働きアリであれば、彼らにとっては取るに足らない相手だが、索敵範囲がどれくらいの広さなのか見当も付かない。
 この時点でヴァントウで巣穴が出現してから既に半日以上経っており、本来であれば見つけ次第軍隊が出て巣穴近辺で押し留められるのが通例なのだが、今回は既にアーヴェルム軍の第一陣が全滅しており、かなり遠くまでアリが散らばっていると予想された。

   ◇

 アリ追跡部隊・エリザレア隊のケース――

「ちょ、隊長、追跡に気付かれてしまいましたよ!」
「仕方ない、少し離れていますがここから攻撃します! 全員【サンダーボルト】を放て!」

 巨大な雷が落下し、前方のジャイアントアントの集団が黒焦げになる。

「隊長! 右! 危ない!」

 ジャイアントアントの集団を倒したのも束の間、直後に別の隊員が発したその言葉で右から迫る大岩に気付いた。
 今倒したものとは別のジャイアントアントが投擲とうてきしてきたのだ。

「ああ……全く、これだからウジャウジャ群れるヤツらは面倒くさいな……」

 帯刀している剣を抜くとエリザレアの目つきが変わった。
 刀身に雷を付与する。切れ味と攻撃能力が上がった雷の魔法剣で、飛んできた大岩を細切れに切り裂いた。
 と同時に、雷エネルギーの推進力を利用し、岩を投擲とうてきしたジャイアントアントのところへ瞬間移動のごとき速度で接近。

「やっぱり私にはこの戦い方の方が合ってるなぁっ!」

 四匹居たジャイアントアントを瞬く間に細切れに切り裂く。

「ふぅ……」
「隊長……いつもながら戦場と普段で性格変わり過ぎですよ……」
「シトリー族って魅了が得意なんですよね? 凛々しすぎませんか? 魅了なんかされそうもないんですけど」
「何言ってるんだ、素晴らしい剣さばき・体さばきだっただろ。あれもある意味魅了だ」
「無駄口叩いてないで、遺体を回収しなさい」
「遺体……? 遺体がどこに? …………!?」

 よく見ればバラバラになったアリの近くに亜人の遺体が。
 脚から伝った血のわだちはしばらく先まで続いており、ヴァントウから離れたところから引きずって来たであろうことが分かる。

「どうやら巣穴に引きずって行く最中だったようですね。あなたは遺体を回収してヴァントウの広場にでも安置しておきなさい。全部終わったら弔ってあげましょう。恐らくまだ近くに逃げている住民がいるでしょうから、私たちは住民とアリを探します!」

 その時別の隊員が何かを発見。

「隊長、居ました恐らく逃げたヴァントウの町民とアリの団体。五体いますね。それにあの方角……」
「ヴァントウの隣町ですか……」

 外国人であるエリザレアたちには町の名前は分からないが、視線の先にはヴァントウとは別の町が広がっている。
 このままアリを先へ行かせれば、第二の惨事が引き起こされるのは必至!

「早く阻止しないと町に入られます!」
「問題ありません。この距離なら一瞬ですから。あなたたちは後から追いかけて来てください」

 先ほど同様、雷魔法の推進力で瞬時にアリに接近し、

「私の刀の錆になれやああぁぁぁ!!」

 という掛け声と共に五体のアリを切り裂く。
 アリの前方には住民たちの姿。追い掛け回されたのか身体中泥だらけになっている。
 救われたにも関わらず、エリザレアの狂人っぷりを見て萎縮気味の住民たち。
 怯えた目を見かねたエリザレアから住民たちに声をかける。

「大丈夫ですか?」

 エリザレアは、納刀して先ほどの気迫が無くなったため柔らかい表情に戻っている。
 それを見た住民は怯えながらも返事を返す。

「あ……あなたは? ア、アーヴェルムの兵隊さん……ですか?」
「いえ、残念ながらアーヴェルムの兵士はもう全滅してしまいました……我々は雷の国から来た救援部隊です」
「そ、そうでしたか……い、いずれにしても命を救われました……ありがとうございます……」
「我々はまだアリを殲滅する任務の途中であるため、逃走のお手伝いはできません。恐らくこの先の町も避難命令が出ていて住民はいないものと予想されます。申し訳ありませんが町を越えて、出来る限りここから離れてください」

 その時住民たちの中にいた子供がエリザレアに話しかける。

「ね、ねぇ……またおうちへ帰れるの?」
「ええ、帰れますよ! でも少しだけ待っててくださいね!」

 置き去りにした部下がやっと追いついて来た。

「隊長~、あっちにまだアリが」
「ふぅ……全くどれだけ広範囲に散らばってるのやら、さっさと潰しますよ!」

 このようなことが、ウォライト隊、クラウディオ隊、アレク隊でも行われ、粗方倒し終わった後に巣穴付近へ戻ってみれば――

   ◇

 ――既に巣穴攻略班はほぼ壊滅状態。隊長格ですら満身創痍の状態であった。
 だが、それは奇妙な光景。
 ヴァントウの巣穴は巨大な炎を上げて炎上し、巣穴内部のアリは既に焼死していると思われる。そしてその周辺にいるアリたちも撃破され、立っているアリは全くいないと言って良い。
 たった一目ひとめ状況を確認しただけなら、どう見ても連合軍の大勝利に見えるだろう。

 にもかかわらず、なぜか連合軍側も一般兵士たちは満足に動けるものがほとんどおらず、満足に立っている兵士は少ない。
 レッドドラゴンたちですら半数以上が倒されていた。

「うぅ……」
「い、痛ぇよ……」
「う、腕がああぁぁ! 俺の腕が無いいいぃぃ!!」
「ゴフッ! ……は、腹をしこたまえぐられちまったか……もう長くないかな……」

 連合軍の一般兵士は、瀕死の者が多く大量出血しているものも多数見られた。
 散らばったアリの追跡を終えて、巣穴攻略班に合流したアリ追跡班は、その光景を目の当たりにして驚愕する。

「な、何だこれは……? どうなっているんだ!?」
「連合軍、アリ共に相打ち……?」

 この光景の原因と考えられるのが、合流したアリ追跡班の眼前にたたずんでいる異様な姿のモンスターだった。

「何なんだコイツ……コイツもアリ……なのか?」
「アリなのにヒトのような上半身があるぞ!」
「それに何なのあの身体の色!」

 頭部はアリのものに酷似しているのだが、そこから下へと伸びている首、上半身はアリとは思えないヒトに近い身体をしており、腹部辺りまではヒトのそれであった。
 更にヒトのような二本の腕。手指は虫のカギ爪のような単一の手ではなく、ギザギザした五本の指を備えている。
 そして下半身に移れば異様度が増す。尻のある部分から後ろへアリの腹部が伸びており、下半身はケンタウロスの馬の部分をアリに置換したような姿をしていて四本の脚。ヒトとアリが合体したような何ともいびつな風貌であった。
 極めつけは身体の色が通常のジャイアントアントの黒とは違い、全身銀色で光沢を放ち、金属質と思われる外骨格を持っているように見える。

 アリ追跡班が近付こうとしていることに一足早く気付いたマルクが叫ぶ。

「み、みんなコイツに近付くな!」

 そう叫んだ瞬間、マルクの身体がアリの変異体と思われる銀色のモンスターに引き寄せられ、それを待ち構えていた変異体に拳で殴りつけられる。
 マルクは致命的なダメージを避けるため必死に変異体の拳を避けようと身体を動かすが……

「ぐうあぁぁおぉ……!!」

 避け切ることはできず、いくらかのダメージを喰らってしまう。

 この状況になってしまったのは、数時間前、巣穴攻略班とアリ追跡班に分かれた直後まで遡る――
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