建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~

ヒロノF

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第17章 風の国ストムバアル『暴食』の大罪騒乱編

第456話 焦土作戦

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 他の部隊でもこのような救出劇は行われていた。

 巣穴西側、フレアハルトの所属する第一部隊――

 アリを引き付けて炎で焼き尽くすフレアハルト。

「さあ、早く逃げろ!」
「フレアハルト殿! 後ろ危ない! まだ生きてます!」

 少し目を離した隙に、今燃やしたアリが燃えながらフレアハルトの背後を取った。
 アリの何トンもの物体を持ち上げられるその前脚がフレアハルトを襲う!
 咄嗟に腕でガードするも「バキキッ!」という音と共に遠くまで吹き飛ばされてしまった!

「フレアハルト殿ーーーーッ!!」

 アリは全身を火に包まれながらなおも前進しようとするが、その後ヨロヨロと十数歩歩いた後力尽きてその場に倒れ、動かなくなった。

「ふぅ……亜人は一撃でバラバラになると言っておったが……中々重い一撃だな。少し痛みがある。だがドラゴンにとっては耐えられそうな攻撃だ」
「……あ、ご、ご無事でしたか……」
「問題無い。今襲ってきたヤツはどうした?」
「そこで燃え尽きています」
「そうか、お前たちは早く救助者を運び出せ! まだ来ておる!」

 前方にはまだアリと戦っている一団。

「みなの者アリから離れろ!」

 その声を合図にアリの近くから全員が離れた。

「フレア・クロー!」

 フレアハルトの放つ近接攻撃。火魔法を爪に乗せた横薙ぎの広範囲攻撃。
 五つの炎の斬撃でアリの身体がスライスされる。

「うっ……」

 しかしこの時技を繰り出したことで、フレアハルトは先ほどの一撃で右腕に少なくないダメージを負っていることに気付く。

「流石レッドドラゴン殿です!」
「……ああ、さっさと撤退せよ」

 『しまった……たかがアリごときが我にここまでダメージを与え得るとは……今後はもっと注意せねば』と頭で考えていた。
 右腕がズキズキと痛む中、前方を見るとヨロヨロと歩いてくる二人組。片方の兵士がぐったりした兵士を肩に担いでいる。

「た、助けてください! 回復をお願いします!」

 肩に担がれている方の兵士は呼吸が浅く、顔面蒼白。
 腹部をアリに薙ぎ払われたのか左わき腹が血に塗れている。もはや息も絶え絶えで放っておいたら死ぬだろうとフレアハルトは考えていた。

「大丈夫ですか!?」

 たまたま近くに居た回復部隊隊長であるリュミエールが、それを見かねて駆け付けてきた。

「酷いですね……このままだと失血死してしまいますし、徐々に回復は難しいでしょう。緊急で傷だけでも塞ぎます! フレアハルトさんは周囲の警戒をお願いします」
「あ、ああ……分かった」
「再生に伴って痛みがありますが我慢してください!」
「ぐぁぁ……」

 兵士の脇腹が淡い緑色の輝きに照らされ、傷口が塞がる。
 回復された兵士は顔を苦痛に歪め、脂汗をかきながらも、痛みが徐々に消えていっているのか少し安堵した表情に変わる。

「傷を塞ぐ応急処置だけです! 早く輸血しないとこのまま死ぬ可能性があります。即時撤退を!」
「は、はい! ありがとうございます!」

 回復を受けた兵士たちは、近くに居た有翼族の手助けで戦線を離脱する。
 兵士を見送った後、リュミエールは不自然に曲がったフレアハルトの腕に気付く。

「フレアハルトさん、その腕……」
「ああ、さっきアリに殴られた時に怪我をしたらしい。恐らく折れている。すまぬがこっちも回復してもらえるか。すぐに戦えるように即座に回復してくれ」
「はい、即座の回復ですと痛みがありますが構いませんか?」
「ああ、頼む」

 淡い緑色の輝きがフレアハルトの右腕を照らすと――

「痛ーーーッ!! 痛いではないか!」
「痛みがあると言ったじゃないですか!」
「こんなに痛いとは思わなかった!」

 不意の痛みに涙目になるフレアハルト。
 もともとこの男はその硬質で強靭な身体から、怪我を負うことがあまり無い。故に痛みには結構弱い。

「一般的に知られていることでは、傷を負った時と同等の痛みが発生するので腕が折れるほどの衝撃を受けたのなら、それと同じ痛みが発生するそうです。徐々に回復すればその痛みも分割されるのですが……」
「…………も、もう怪我は負わぬようにする。助かった、礼を言う」

 その後、完全回復したフレアハルトは、アリの大群をバッタバタと倒す目覚ましい活躍を見せる。

   ◇

 そして撤退戦は十時間にも及んだものの、風の国の精鋭とレッドドラゴンたちの尽力により多くの兵士が生還。
 撤退後の戦場は、炎の壁や岩石の壁でアリの行く手を阻んだことにより、地形がかなり変わってしまっていた。
 新しく出現したアリたちもその動きにくく変貌した地形のため、兵士たちの撤退を追撃することはできなかった。

「テンペティス! 生存者はまだ戦場に居ますか?」

 アスタロトが補佐役の風魔術師の拡声魔法で上空で生存者の魔力感知をしているテンペティスに問う。

「いません!」

 と同じく拡声魔法で返事を返す。この返事をもってここに焦土作戦の準備が整う。

「では、レッドドラゴンの方々! 焦土作戦を開始してください!」

 拡声魔法で伝えられるその声を合図に、カゼハナの兵士撤退と共に一旦巣穴から引き揚げていた全てのレッドドラゴンが竜人形態からドラゴン形態へと変身し巣穴へ向かって飛び立つ。
 フレアハルト、フレイムハルトを含めた五人が巣穴上空へ着く。その他の五人は巣穴外にいる周囲のアリを担当。

「全員、巣穴へ向かって【フレアブレス】を放て!」

 五人の吐くレーザーのように一直線の【フレアブレス】が大地に大きく開いた巣穴を炎に巻く!
 着弾した瞬間小規模な爆発が複数回起こり、焼き討ちされた部分は広範囲に及んだ。
 その高密度の炎により上空からの観測すらままならないほど巨大な火災旋風が巻き起こる。
 と同時に炎は巣穴の中を駆け巡り、地下から今まさに這い出ようとしていたジャイアントアントの一群を次々に焼き尽くしていく。

 炎に巻かれながらも巣穴から急いで出てこようとするアリたちもいるものの、巣穴から出た瞬間あるいは巣穴を出ることなく、中で折り重なるように力尽き、間を置かず消し炭になっていく。
 巣穴深部にあった卵も孵ることはなく、侵入してきた炎により一瞬で蒸発。

 巣穴を潰したことにより、もう新しくジャイアントアントが出現することはなくなった。
 上空から巣穴を攻撃した五人とは別に、巣穴から離れたところに陣取っていた五人が地上に残ったアリの掃討を開始。
 巣穴は既に巨大な炎に包まれ、その周囲の大地は炎に焼かれたアリたちの骸で山が築かれる。

 先刻撤退したカゼハナの兵士の一人が、かなり離れた地点から大炎上するその光景を見て呟いた。

「地獄のような光景だ……」

 離れた場所に居るにも関わらず、その場所は炎の赤色せきしょく煌々こうこうと照らされる。
 巣穴付近でも広範囲に炎がバラ撒かれ、彼から見える範囲全てが火の海で一面が深紅に彩られ、大量の黒煙が立ち上り真っ暗闇の空を更に黒く染める。まさに地獄のような様相を呈していた。
 時折、レッドドラゴンたちが作った炎の壁を抜けて特攻してくるアリがいるものの、抜けて来た時点で既に火だるまになって弱り切っているため、撤退した兵士の下へ届くことはなく力尽きる。
 強いと思われ、登場を警戒されていた兵隊アリは登場さえすることなく、為す術無く巣穴の中で火にくるまれて絶命。
 レッドドラゴンたちによる三十分にも満たない焼き討ちにより、周囲の温度は上昇し続け……

 そして動くものもいなくなった頃――

「【フレアブレス】止め!」

 ――フレアハルトの合図により、三十分ほど継続し続けていた火炎放射が止まる。

「ここまでやればもう生きてるアリはおるまい」

 そしてまたも撤退したカゼハナの兵士の一人が呟く。

「我々が二週間かけても殲滅できなかったものをたった三十分足らずで……」
「味方であれば心強いが敵に回したくはないな……」

 死者千八百二十名、行方不明者五百六十名、怪我人四千九百九十一名の被害で幕を閉じる。
 二週間の激戦が続いた巣穴は、レッドドラゴンわずか十名によりあっけなく殲滅されたのだった。

「さあ後は周囲に点在する巣穴の掃討をして、カゼハナのジャイアントアントは殲滅完了です! もう少しだけ頑張ってください!」

 アスタロトの拡張音声が響く。
 その後、点在する残りの巣穴も風の国軍とレッドドラゴンたちにより殲滅され、カゼハナを、引いては風の国全体を恐怖に陥れたジャイアントアントたちは無事駆除された。
 巣穴はそのまま三時間燃え続けた後、急激な豪雨により鎮火。

   ◇

 豪雨も二時間ほどで止み、焼き尽くされた巣穴は鎮火された後も真っ黒な黒煙を上げ続けている。
 風の国の精鋭も四十人余りを残し、司令本部へと撤収させた。
 事後監視のため、アスタロト、フレアハルト、フレイムハルト、レッドドラゴン八名、テンペティス、そしてカゼハナ部隊隊長を含む五十余名が、巣穴から少し離れた場所に急遽立てた小屋にて監視を続ける。

 巣穴はどう見ても生きている者がいるとは思えない惨状なのだが……ここに懸念を示す者が居た。
 フレアハルトである。

「………………?」
「兄上、いかがいたしましたか?」
「フレイムハルト、まだ何か悪い予感がせぬか?」
「兄上もですか? 私もまだ終わってないような気がしていて……」

 上空で魔力感知を継続して警戒態勢を取っていたテンペティスに動向を窺う。

「テンペティス殿、巣穴の中に生きている者はおるか?」

 黒煙により巣穴の真上には居られなくなったテンペティスは、巣穴からかなり離れた場所へと移動していた。

「え!? 巣穴の中!? あの黒煙の中ですか!?」
「ああ、何か嫌な予感が拭えぬ」
「鎮火していても未だ炎の魔力の残滓ざんしが強すぎてそれが感知の妨げになっています。現状では私の魔力感知では分かりません」
「そうであるか……」
「ただ……レッドドラゴンの方々のように熱に極端に強い生物でもなければあの中で生きていられるとは思えませんが……」
「懸念だけで済めば良いのだがな……」
「不安にならせるようなことを言ってすみません」
「いえ……」

 テンペティスは再び黒煙立ち上る巣穴のあった場所を見て、『確かに不気味な静けさだ』と心の中で不安に思っていた。
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