上 下
465 / 533
第17章 風の国ストムバアル『暴食』の大罪騒乱編

第455話 カゼハナの巣穴撤退作戦

しおりを挟む
「さて風の国の隊長各位、それでは撤退作戦を伝えます」

 風の国からアスタロトと共に転移して来た隊長は六名。
 各部隊の隊長を務めるのは、
  第一救助部隊:怪鳥種ルフ族のロックス
  第二救助部隊:怪鳥種ガルダ族のセシーリア
  第三救助部隊:怪鳥種シムルグ族のフェザリート
  第四救助部隊:怪鳥種エイビス族のジュラトルト
  回復部隊  :光の精霊種ヒーラウィスプ族のリュミエール
  感知部隊  :風の精霊種ストムシルフィー族のテンペティス
  総指揮官  :魔人種アスタロト族のアスタロト (通称)
  客将    :竜種レッドドラゴン族のフレアハルト

「巣穴の東西南北四方向からカゼハナの巣穴付近で戦っている兵士たちの救援に向かい、その付近の兵士たちの撤退をサポートしてください」

「「「 了解!! 」」」

「我ら風の国の強みは有翼種が多いことです。地上部隊がアリたちを牽制しつつ、上空から有翼部隊が怪我人を救出します。上級の土魔法が使える者は岩壁を作ってアリたちの動きを制限し、カゼハナ部隊への追撃を阻んでください」
「氷魔術師も氷壁を作って邪魔をしますか?」
「いえ、今回は最終的に炎で焼き尽くす焦土作戦です。氷壁を作ってしまうとそれだけで気温が下がり、炎の効きが悪くなる可能性があります。氷は使わず風魔法や土魔法のみでサポートしてください」

「この混戦の中、どうやって生存者を取りこぼし無く救助するのですか?」
「テンペティス、風の精霊の中でも特に強い力のあるあなたなら全体を把握できますか?」

 感知部隊隊長のテンペティスに訊ねる。

「魔力感知と風の流れを合わせればこの戦場くらいの範囲なら可能です。風の精霊同士で手を繋げば感知範囲を広げることができますし」
「ではあなた方感知部隊は、巣穴上空で感知に努め、取りこぼしを見つけた場合はそれを周囲に知らせて救助へ向かわせてください」
「巣穴上空では危ないのでは? 飛行タイプのアリも見つかっていると聞きましたが……」
「キャストム殿、羽アリはどこに?」

 指令本部を任されているキャストムに訊ねると、

「もういないのではないかと考えています。身体に対して羽はそれほど頑丈ではなかったため、羽を狙って地面に落としてしまえば普通のジャイアントアントよりも弱いものでした。もうほとんどは倒したと思いますが、何匹かはどこかへ飛び去ってしまいましたが……」
「飛び去った……ですか。それへの対処も必要ですね。今後報告に上がってくるとは思いますが……まあ、この上空はほぼ安全と考えられます。精霊なら石つぶてなどで攻撃されても魔力の通らない物理的な攻撃ではダメージを受けませんし、上空に陣取っても恐らく問題無いでしょう。一応複数人でテンペティスを守りながら感知をお願いします」
「了解」
「それと潜水アリというのはどこに?」

 潜水アリにも懸念を示し、再びキャストムに訊ねるも……

「それについても何匹かはどこかへ消えました」
「こちらもですか……犠牲者が出る前に見つけられれば良いですが……何はともあれ今は撤退作戦に集中しましょう」

 第一救助部隊のロックスがこの場を取り仕切る。

「聞いた通り、巣穴を中心として東西南北の四方向から救助に向かう。では担当を決める。俺たち第一部隊は西を担当する。南は第二部隊のセシーリア、東は第三部隊のフェザリート、そして北は第四部隊のジュラトルトに頼みたい。回復部隊はそれぞれ四部隊に分散して入ってくれ。何か異論がある者はいるか?」

 この場にいる隊長格全員が首を横に振って異論が無いことを示す。

「アスタロト殿、我らはどうするのだ?」

 フレアハルトが自分たちの役割についてアスタロトに訊ねる。

「レッドドラゴンの方々も四つに分けて各四班に加わってください。その上でまずは有翼部隊が怪我人を救出、その後兵士たちがいなくなったポイントへ炎の壁を作ってアリたちの動きを制限、撃破をお願いします。これを繰り返すことでアリに追撃されることなく救助が可能なはずです」
「承知した」
「それと、噂に聞いた話ではドラゴンと人型の間の竜人ような姿にもなれるとか」
「ああ、ドラゴンはあまりその姿にはなりたがらないだろうな。あの姿は未熟とも取られる半端者の姿なのでな」
「それは失礼しました。完全にドラゴンになるより小回りが利いて良いと思ったのですが……」
「我もそう思っていた。だから今回はその姿で作戦を遂行しようと思う。あの姿は未熟などではなく、ちゃんとした戦略にも使える優秀な姿だと最近気付いた」
「そうですか! では上空より炎の壁でアリの行く手を遮ってください。ただ……炎が多くなると上昇気流が強くなり、有翼部隊の着陸が難しくなると思います。そうなった場合可能であれば救出の方もお願いします。そして全員を救出後、一斉砲火で巣穴を焼き尽くしてください」
「それをすると遺体も焼き尽くしてしまうことになるが? 恐らく骨も残らんぞ?」
「………………出来ることなら散って言った兵士たちを遺族の下へ送り届けてやりたいところですが……やむを得ないでしょう……ここで作戦を遂行できなければ、死者は更に増え、その延長線上は魔界の亜人史の破滅です。今は生存者の命とこの魔界の未来が優先されます!」
「分かった。ではフレイムハルト、我は第一部隊に入るからお主は第二部隊に入れ」
「はい、兄上」
「レッドドラゴンのみなの者! 第一部隊と第二部隊は我らを含めて二人ずつ、第三部隊と第四部隊は三人ずつに分ける。それぞれ上手く分散するように入ってくれ! くれぐれも言っておくが死ぬのは許さんぞ!」

「「「 了解!! 」」」

「ではアスタロト殿、班分けも済んだ。すぐにでも救助に向かおうではないか」
「よろしくお願いします」
「全員竜人形態になれ!」

 フレアハルトの掛け声と共に、レッドドラゴン全員が完全なドラゴン化せず、人型を保ったまま竜の特徴を備えた姿へと変身する。
 顔は竜に、身体はウロコに覆われ、尻尾と翼も出現するものの、巨大化しない軽量な姿に。

「それが竜人の姿ですか?」
「ああ、ブレスや魔法の威力はドラゴン化した時より格段に劣るが小回りが利く。アリの追撃を妨害するのが目的ならこの姿の方が都合が良い。ではみなの者、各部隊に入って任務を遂行しろ!」

 準備を終えた風の国とレッドドラゴンの連合軍は、救助に向けて飛び立った。

   ◇

 前線、巣穴南側のカゼハナ部隊――

「く……くそ……もうダメだ……」
「魔法を放て! 盾役はもう少し我慢しろ!」

 ジャイアントアントとの対峙は遠距離からの魔法攻撃が常套手段。
 炎で攻撃できれば最適だが、カゼハナを有する風の国とそこに隣接する樹の国の魔術師には強力な火魔法使いが少ない。風魔法で切断、氷、土魔法などでの氷塊や岩石での物量作戦、水+氷などでの氷結作戦が主となりどうしても殺傷力には劣る。
 盾役は近付かれてしまった時のため、魔法で攻撃する役を守るための最終手段となる。なぜならジャイアントアントの腕力を持ってすれば亜人程度の力では吹いて飛ぶと形容できるほど脆弱だからである。
 ジャイアントアント一匹を近接戦闘で殺すには、屈強な亜人の戦士十人以上が必要となる。それも攻撃する側であればという話で、ひとたび守備に回ってしまえばあっという間十数人、数十人が一薙ぎで蹴散らされてしまう。

「ぐわぁぁぁ!!」
「ぎゃあぁぁ!!」

 盾役の健闘虚しく次々と蹴散らされてゆく前線部隊。

「くそ! ここまでなのか……もう前線は幾ばくも持たんぞ! 救援はいつやってくるのだ!?」
「先ほど本国からの救援が到着したとの伝令が! もうしばしの辛抱です!」
「ぬうう……もう少しだ! もう少しだけ耐えろ! そうすれは本国の精鋭が来てくれるはずだ!!」
「隊長! 指令本部の方から大勢の騎士たちがこちらへ来ます!」
「おお……やっと本国の救援か……」

 南の第二部隊担当の場所へ、隊長セシーリアが上空より飛来する。

「お待たせしました、風の国ストムバアル第二救助部隊隊長を任されているセシーリアです」
「よ、よく来てくださいました。既に少しの余裕も無く、前線が破られるのも時間の問題でした……」
「よく持ち堪えてくれました。後は我々が引き継ぎますのであなた方は撤退してください」
「撤退? 我々が前線で押し留めていたのに撤退などすればアリどもを拡散させてしまいますが……?」
「我々で殲滅する手筈が整っています。わたくしどもが撤退をサポートします」

 その言葉と共に援軍部隊がアリとの交戦に加わる。
 同時にセシーリアが風魔法で声を拡大させ、戦場に残っている兵士たちに撤退の命令を下す。

『我々は本国から援軍に来ました! わたくしの名は第二救助部隊隊長セシーリア! 今よりカゼハナで戦っている全ての兵士たちに撤退の命令を下します! ここより本国の騎士たちが戦場を受け継ぎます! 撤退時我々がサポートしますので可能であれば速やかな撤退を!』

「さあ、隊長殿もわたくしどもがアリを抑えている間に撤退してください!」
「いえ、私は部隊長として最後の兵士が撤退するまでここで待ちます」
「そうですか。ではわたくしは他の者たちの救助に向かいます!」

 有翼部隊が続々と戦場上空へ飛来し、二人あるいは三人一組でカゼハナ部隊を救出していく。

「地上部隊は有翼部隊が救助しやすいようにアリの牽制、または引き付けを!」

 引き付けたアリのところへ、フレイムハルトが上空からアリに向かって炎の弾丸を吐きつける!

「キュキュキューーーッ!」

 アリの身体に炎が纏わりつき、叫び声とも取れる音を発しあっという間に火だるまに!
 更にフレイムハルトが直線状に炎を吐きかけ、救助隊とアリの間に炎の壁を形成する。

「さあ、早く退却を!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

私は、忠告を致しましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。  ロマーヌ様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ?

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

処理中です...