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第17章 風の国ストムバアル『暴食』の大罪騒乱編
第454話 打ち首宣告
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「さて、退却作戦を決行しようと思っていましたが、状況が変わりました」
「アスタロト殿、状況が変わったとは? 詳しく説明していただきたい」
騎士の慌ただしい報告を横で聞いていたマルクが質問する。
「何から話して良いか、少々混乱していますが……ジャイアントアントの出現時間から出現場所、発生する個体の特徴までをピタリと当てた方がいましたので、ベルゼ……アルトラ殿の意見を重要視せざるを得なくなりました。その出現場所というのが我が属国『アーヴェルムのヴァントウ』という町です」
「ピタリと当てた? 知っている町の名前を適当に言ったのがたまたま当たったということはありませんか?」
「農業生産で成り立っている町で、そこまで有名というわけでもありませんし、外国に住む方が属国内の町の一つに過ぎないヴァントウの町の名前を挙げて、ピンポントで『何時頃にアリが出現する』と言い当てられるとは思えません」
「予言ですか?」
「いえ、地図で町の名前を指して言っていたので地図を見るまでは町の名前すらご存じではなかったのだと思います」
と、アスタロトは思っているが、もちろんカイベルが“知らなかった体”の演出をしたに過ぎない。
「ご本人は分析と予測、直感に基づいたものだと言っていました。第一、第二のはぐれアリの出現を見た上での分析であると。ですので、ここカゼハナの退却のサポートは我が軍だけで行ない、雷の国、樹の国の方々にはヴァントウへ赴いていただきたく思います」
「ヴァントウはここより深刻なのだろうか?」
「それは分かりません……が、伝令に依れば働きアリだけでなく兵隊アリが出現しているという情報ですので、可及的速やかに処理する必要があるのは確かでしょう。申し訳ありませんが我が軍はカゼハナと首都ボレアースに兵を割く必要が出てしまったため、ヴァントウの方をよろしくお願いします」
「ボレアースにも兵を? それは先ほどの会議でアルトラ殿が言っていたことに関係あるのだろうか?」
「大いに関係あります! と言うより……このジャイアントアント駆除作戦の核心部分です。これからボレアースにこのジャイアントアント駆除の本元である女帝蟻が出現する可能性が濃厚です」
「「「女帝蟻が!?」」」
「女帝蟻はカゼハナにいるのではないのですか!?」
「カゼハナの巣穴はアリの勢いが衰えないので、私の考えでも『ここに居るのではないか』、そう思っていました……しかし、どうやらアルトラ殿が言うことが正しかったようです。今の今まで半信半疑でしたのであなた方にすら伝えることはできずにいましたが……」
「伝えられずにいた? 事前に情報を得ていたのなら共有するのが当然ではないのですか?」
この場で黙って様子を窺っていた樹の国アランドラが疑問を呈する。
「ですが、ボレアースを発つ時点で、アルトラ殿がボレアースの守りを固めることを提唱していた時に、会議に出席された方々は一様に渋っておられました。あの時点でこの情報を開示したところで到底信じるに値しない情報だったのではないですか?」
「うぅ……確かに……」
「しかし、これについては私も皆さんと同じ意見でしたので、いたずらに場を混乱させるのも危険かと思い今まで黙っていました……今回の伝令が無ければ到底信じられなかったことでしょう」
そこへフリアマギアが横やりを入れる。
「私なら! 私ならアルトラ殿の言ったことならすんなり信じましたよ! その上で最適な作戦を提示してました!」
「そうですか……それはこちらの目が曇っていたようです。会議の時点で開示するべきだったかもしれませんね……すみません」
「フリアマギア、今それを言っても仕方がない。それで、今の報告を聞いて、女帝蟻が首都ボレアースに出現するという確信を得たわけですか?」
マルクが訊ねる。
「はい、私の中では確信を持っています。そういうことですので、ティナリス隊には急ぎボレアースに帰還してもらい、アルトラ殿の部隊をサポートしてもらいます」
「分かったよ」
「少しお待ちください!」
そこに雷の国団長エリザレアから待ったがかかった。
「私はアルトラ殿のことをよく知りませんが、それは本当に信頼して良い情報なのですか? 信憑性の薄い情報に雷の国の兵を動かすような無謀なことはさせられません。もしその情報が間違っていて、被害が拡大したらどうするおつもりですか? まだカゼハナの巣穴は沈静化どころかずっと湧き続けています。未だ隆盛を誇っている状態ですよ?」
厳しく追及するエリザレア。
「私の判断では信用して良いと考えています。もしこの作戦が外れ、大いなる被害を出してしまった場合は…………全てが片付いた後、雷の国・樹の国両国に重大な損害を与えた戦犯として私を斬首刑にしてもらって構いません。――」
「「「 !!? 」」」
突然の打ち首宣告に、この場に居た全員が絶句。
「――もし派兵された者が死んでしまった場合は私ではどうすることもできませんが、それ以外の損害なら私の全資産と私の動かせる権限で持って補償します」
「命を賭けるということですか?」
「はい、二言はありません」
「エリザレア殿、私もデスキラービー駆除作戦で彼女に関わったことがありますが、あの時も不思議と芯を得ている感覚がありました。アルトラ殿には何か特殊な勘のようなものがあるようですので、ここはアスタロト殿の判断を信じましょう」
マルクがエリザレアを諭す。
ただ、マルクはこのアルトラの“勘”をデスキラービーの女帝蜂捜索の時に経験しているが、アルトラの能力だと思っているその“特殊な勘”がカイベルの機能に依るものであることはマルクには知る由もない。 (第350話から第351話参照)
エリザレアが渋い態度を取っているためフレアハルトが割って入った。
「エリザレアとやら……いや失礼、エリザレア殿! 我らはアルトラとは一年ほどの付き合いになるが、真面目な場面で嘘を吐いたことは一度も無い。また大きく予想と外れることを言ったことも無い。どうか信用してはもらえないだろうか?」
「…………ふぅ……分かりました。一緒に過ごしているというフレアハルト殿の話もありますし、アスタロト殿がそこまで覚悟しているのならその作戦に乗りましょう」
渋々ながらエリザレアも作戦に同意。
「それに一国の国家元首に命を賭けた作戦と言われてしまえば、拒否するのも無理という話でしょう。しかし……この目論みが外れ、我が軍に大量の死者が出た場合は覚悟しておいてください」
「ご協力感謝致します。それともう一つ伝えておかなければなりません。あなた方の本国にジャイアントアントが発生する可能性が高いと思います」
「なんとっ! 風の国以外にもですか!?」
「そう聞いています。氷の国以外の七大国に出現し混乱に陥るだろうと」
「それもアルトラ殿の助言なのですか?」
「いえ、そうではありませんが……それは相手のこともありますので、この場では控えさせてください。先ほどの第三のはぐれジャイアントアントの発生場所や時間を的中された方の言葉です。当事者の我々ですらその時点では第三のはぐれの存在は全く関知していなかったので、その方が知るはずもありません。それを当てられたのを考えればかなり信頼して良い情報ではないかと思っています」
この時点の戦況の変化によってアスタロトのカイベルへの評価が一転していた。
「何で氷の国だけ出現しないんですか?」
「氷の国は気温が零度以下を下回ることが多いため侵攻し難いのだそうです」
「ああなるほど、虫だから冷気に弱いってことなんですね!」
「では本国にもジャイアントアント出現の可能性を示唆しておかなければ! 場合によっては本国へ帰還しますがよろしいですね?」
「我が国のためにはそれは許可できません……と言いたいところですが、本国が襲撃されているのに、こちらをお手伝いしている場合では無いでしょうね。本国のことが気になって戦にも身が入らなくなるのではかえって邪魔になってしまいますし、上の空で戦われれば死傷者も増えるでしょう。本国からの帰還命令があったその時には帰国を許可します」
「本当によろしいのですね? これによって友好関係が破断になるということは……」
「ありません。元々我が国の問題をお手伝いしてもらっている立場ですから、本国が危険とあっては仕方のないことです」
そのやり取りを聞いていたエリザレアが疑問を口にする。
「アスタロト殿、アリが発生する可能性が高いとお考えのようですが、それはいつ発生するとお思いなのですか?」
「女帝蟻がボレアースを侵攻する少し前のタイミングで、各国に散らばったアリたちによる一斉蜂起が行われるであろうと予想されました」
「女帝蟻が出現するのはいつになるのですか?」
「明日十二パーセント、二日後に五十五パーセント、三日後に九十九パーセントと聞いています」
「確率まで? それも例の第三のはぐれを言い当てた方の?」
「ええ、そうです」
「しかし、ヴァントウのものとは違って、そこまで広範囲だと分析しづらいのでは? 各国への潜伏など起こっていない可能性もありますし」
「確かにそうです。ただ単にその方の想像が過ぎているだけかもしれません。しかしヴァントウのものを言い当てた実績がありますので警戒しておくに越したことはないと考えています。アリが出現するにしてもしないにしても、本国へ注意喚起しておくのが得策かと」
「明日十二パーセントか……明日はまだかなり低いのですね。では、今日明日中にヴァントウのはぐれを叩いてしまえば、本国に帰って防衛も出来るというものです、急いでヴァントウのアリ共を制圧に向かいましょう!」
「それで、ヴァントウへ転移できる空間魔術師はおられるのですか?」
「大丈夫です。空間魔術師は有事の際に対応できるように属国を含めて風の国内全ての町へ行けるように日頃から準備してありますので」
今後の方針が決定され、アスタロトより作戦が伝えられる。
「では連合軍の隊長各位に伝えます! 風の国の兵士は私の指揮の下、カゼハナの前線で戦っている兵士たちの退却をサポート! レッドドラゴンの半数も退却のお手伝いをお願いします。退却が完了次第、レッドドラゴン部隊による巣穴の焦土作戦に移行してください! 巣穴ごと焼き尽くしてしまえばいくら大量に湧いてくるアリたちでもひとたまりもないでしょう」
「了解した」
「了解しました」
「雷の国・樹の国連合軍、そしてレッドドラゴン部隊のもう半数はヴァントウへ赴き、ヴァントウの巣穴の殲滅をお願いします」
「「「 了解! 」」」
「ただ、ヴァントウのものはカゼハナとは違ってほとんど情報がありません。注意して作戦を遂行してください」
「「承知しました」」
「そしてティナリス隊!」
「うん」
「先ほども言った通り、あなた方は急ぎアルトラ殿の担当するボレアースへ戻り、女帝を迎え撃ってください。もしかしたら一番キツい仕事を押し付けることをしているかもしれませんが、我が軍であなたが最強の存在ですので、私が行くよりあなたが適任と判断しました」
「了解。じゃあイルリース、ボレアースまで空間転移をお願い」
「はい」
指令本部から出て行くティナリスとイルリース。
「ティナリス」
「ん?」
「ご武運を……」
「任せておいて!」
「さて、ヴァントウへは別の空間魔術師に送らせますので、マルク殿、エリザレア殿、よろしくお願い致します」
ヴァントウの命運は、この時点より雷の国・樹の国連合軍へ託された。
「アスタロト殿、状況が変わったとは? 詳しく説明していただきたい」
騎士の慌ただしい報告を横で聞いていたマルクが質問する。
「何から話して良いか、少々混乱していますが……ジャイアントアントの出現時間から出現場所、発生する個体の特徴までをピタリと当てた方がいましたので、ベルゼ……アルトラ殿の意見を重要視せざるを得なくなりました。その出現場所というのが我が属国『アーヴェルムのヴァントウ』という町です」
「ピタリと当てた? 知っている町の名前を適当に言ったのがたまたま当たったということはありませんか?」
「農業生産で成り立っている町で、そこまで有名というわけでもありませんし、外国に住む方が属国内の町の一つに過ぎないヴァントウの町の名前を挙げて、ピンポントで『何時頃にアリが出現する』と言い当てられるとは思えません」
「予言ですか?」
「いえ、地図で町の名前を指して言っていたので地図を見るまでは町の名前すらご存じではなかったのだと思います」
と、アスタロトは思っているが、もちろんカイベルが“知らなかった体”の演出をしたに過ぎない。
「ご本人は分析と予測、直感に基づいたものだと言っていました。第一、第二のはぐれアリの出現を見た上での分析であると。ですので、ここカゼハナの退却のサポートは我が軍だけで行ない、雷の国、樹の国の方々にはヴァントウへ赴いていただきたく思います」
「ヴァントウはここより深刻なのだろうか?」
「それは分かりません……が、伝令に依れば働きアリだけでなく兵隊アリが出現しているという情報ですので、可及的速やかに処理する必要があるのは確かでしょう。申し訳ありませんが我が軍はカゼハナと首都ボレアースに兵を割く必要が出てしまったため、ヴァントウの方をよろしくお願いします」
「ボレアースにも兵を? それは先ほどの会議でアルトラ殿が言っていたことに関係あるのだろうか?」
「大いに関係あります! と言うより……このジャイアントアント駆除作戦の核心部分です。これからボレアースにこのジャイアントアント駆除の本元である女帝蟻が出現する可能性が濃厚です」
「「「女帝蟻が!?」」」
「女帝蟻はカゼハナにいるのではないのですか!?」
「カゼハナの巣穴はアリの勢いが衰えないので、私の考えでも『ここに居るのではないか』、そう思っていました……しかし、どうやらアルトラ殿が言うことが正しかったようです。今の今まで半信半疑でしたのであなた方にすら伝えることはできずにいましたが……」
「伝えられずにいた? 事前に情報を得ていたのなら共有するのが当然ではないのですか?」
この場で黙って様子を窺っていた樹の国アランドラが疑問を呈する。
「ですが、ボレアースを発つ時点で、アルトラ殿がボレアースの守りを固めることを提唱していた時に、会議に出席された方々は一様に渋っておられました。あの時点でこの情報を開示したところで到底信じるに値しない情報だったのではないですか?」
「うぅ……確かに……」
「しかし、これについては私も皆さんと同じ意見でしたので、いたずらに場を混乱させるのも危険かと思い今まで黙っていました……今回の伝令が無ければ到底信じられなかったことでしょう」
そこへフリアマギアが横やりを入れる。
「私なら! 私ならアルトラ殿の言ったことならすんなり信じましたよ! その上で最適な作戦を提示してました!」
「そうですか……それはこちらの目が曇っていたようです。会議の時点で開示するべきだったかもしれませんね……すみません」
「フリアマギア、今それを言っても仕方がない。それで、今の報告を聞いて、女帝蟻が首都ボレアースに出現するという確信を得たわけですか?」
マルクが訊ねる。
「はい、私の中では確信を持っています。そういうことですので、ティナリス隊には急ぎボレアースに帰還してもらい、アルトラ殿の部隊をサポートしてもらいます」
「分かったよ」
「少しお待ちください!」
そこに雷の国団長エリザレアから待ったがかかった。
「私はアルトラ殿のことをよく知りませんが、それは本当に信頼して良い情報なのですか? 信憑性の薄い情報に雷の国の兵を動かすような無謀なことはさせられません。もしその情報が間違っていて、被害が拡大したらどうするおつもりですか? まだカゼハナの巣穴は沈静化どころかずっと湧き続けています。未だ隆盛を誇っている状態ですよ?」
厳しく追及するエリザレア。
「私の判断では信用して良いと考えています。もしこの作戦が外れ、大いなる被害を出してしまった場合は…………全てが片付いた後、雷の国・樹の国両国に重大な損害を与えた戦犯として私を斬首刑にしてもらって構いません。――」
「「「 !!? 」」」
突然の打ち首宣告に、この場に居た全員が絶句。
「――もし派兵された者が死んでしまった場合は私ではどうすることもできませんが、それ以外の損害なら私の全資産と私の動かせる権限で持って補償します」
「命を賭けるということですか?」
「はい、二言はありません」
「エリザレア殿、私もデスキラービー駆除作戦で彼女に関わったことがありますが、あの時も不思議と芯を得ている感覚がありました。アルトラ殿には何か特殊な勘のようなものがあるようですので、ここはアスタロト殿の判断を信じましょう」
マルクがエリザレアを諭す。
ただ、マルクはこのアルトラの“勘”をデスキラービーの女帝蜂捜索の時に経験しているが、アルトラの能力だと思っているその“特殊な勘”がカイベルの機能に依るものであることはマルクには知る由もない。 (第350話から第351話参照)
エリザレアが渋い態度を取っているためフレアハルトが割って入った。
「エリザレアとやら……いや失礼、エリザレア殿! 我らはアルトラとは一年ほどの付き合いになるが、真面目な場面で嘘を吐いたことは一度も無い。また大きく予想と外れることを言ったことも無い。どうか信用してはもらえないだろうか?」
「…………ふぅ……分かりました。一緒に過ごしているというフレアハルト殿の話もありますし、アスタロト殿がそこまで覚悟しているのならその作戦に乗りましょう」
渋々ながらエリザレアも作戦に同意。
「それに一国の国家元首に命を賭けた作戦と言われてしまえば、拒否するのも無理という話でしょう。しかし……この目論みが外れ、我が軍に大量の死者が出た場合は覚悟しておいてください」
「ご協力感謝致します。それともう一つ伝えておかなければなりません。あなた方の本国にジャイアントアントが発生する可能性が高いと思います」
「なんとっ! 風の国以外にもですか!?」
「そう聞いています。氷の国以外の七大国に出現し混乱に陥るだろうと」
「それもアルトラ殿の助言なのですか?」
「いえ、そうではありませんが……それは相手のこともありますので、この場では控えさせてください。先ほどの第三のはぐれジャイアントアントの発生場所や時間を的中された方の言葉です。当事者の我々ですらその時点では第三のはぐれの存在は全く関知していなかったので、その方が知るはずもありません。それを当てられたのを考えればかなり信頼して良い情報ではないかと思っています」
この時点の戦況の変化によってアスタロトのカイベルへの評価が一転していた。
「何で氷の国だけ出現しないんですか?」
「氷の国は気温が零度以下を下回ることが多いため侵攻し難いのだそうです」
「ああなるほど、虫だから冷気に弱いってことなんですね!」
「では本国にもジャイアントアント出現の可能性を示唆しておかなければ! 場合によっては本国へ帰還しますがよろしいですね?」
「我が国のためにはそれは許可できません……と言いたいところですが、本国が襲撃されているのに、こちらをお手伝いしている場合では無いでしょうね。本国のことが気になって戦にも身が入らなくなるのではかえって邪魔になってしまいますし、上の空で戦われれば死傷者も増えるでしょう。本国からの帰還命令があったその時には帰国を許可します」
「本当によろしいのですね? これによって友好関係が破断になるということは……」
「ありません。元々我が国の問題をお手伝いしてもらっている立場ですから、本国が危険とあっては仕方のないことです」
そのやり取りを聞いていたエリザレアが疑問を口にする。
「アスタロト殿、アリが発生する可能性が高いとお考えのようですが、それはいつ発生するとお思いなのですか?」
「女帝蟻がボレアースを侵攻する少し前のタイミングで、各国に散らばったアリたちによる一斉蜂起が行われるであろうと予想されました」
「女帝蟻が出現するのはいつになるのですか?」
「明日十二パーセント、二日後に五十五パーセント、三日後に九十九パーセントと聞いています」
「確率まで? それも例の第三のはぐれを言い当てた方の?」
「ええ、そうです」
「しかし、ヴァントウのものとは違って、そこまで広範囲だと分析しづらいのでは? 各国への潜伏など起こっていない可能性もありますし」
「確かにそうです。ただ単にその方の想像が過ぎているだけかもしれません。しかしヴァントウのものを言い当てた実績がありますので警戒しておくに越したことはないと考えています。アリが出現するにしてもしないにしても、本国へ注意喚起しておくのが得策かと」
「明日十二パーセントか……明日はまだかなり低いのですね。では、今日明日中にヴァントウのはぐれを叩いてしまえば、本国に帰って防衛も出来るというものです、急いでヴァントウのアリ共を制圧に向かいましょう!」
「それで、ヴァントウへ転移できる空間魔術師はおられるのですか?」
「大丈夫です。空間魔術師は有事の際に対応できるように属国を含めて風の国内全ての町へ行けるように日頃から準備してありますので」
今後の方針が決定され、アスタロトより作戦が伝えられる。
「では連合軍の隊長各位に伝えます! 風の国の兵士は私の指揮の下、カゼハナの前線で戦っている兵士たちの退却をサポート! レッドドラゴンの半数も退却のお手伝いをお願いします。退却が完了次第、レッドドラゴン部隊による巣穴の焦土作戦に移行してください! 巣穴ごと焼き尽くしてしまえばいくら大量に湧いてくるアリたちでもひとたまりもないでしょう」
「了解した」
「了解しました」
「雷の国・樹の国連合軍、そしてレッドドラゴン部隊のもう半数はヴァントウへ赴き、ヴァントウの巣穴の殲滅をお願いします」
「「「 了解! 」」」
「ただ、ヴァントウのものはカゼハナとは違ってほとんど情報がありません。注意して作戦を遂行してください」
「「承知しました」」
「そしてティナリス隊!」
「うん」
「先ほども言った通り、あなた方は急ぎアルトラ殿の担当するボレアースへ戻り、女帝を迎え撃ってください。もしかしたら一番キツい仕事を押し付けることをしているかもしれませんが、我が軍であなたが最強の存在ですので、私が行くよりあなたが適任と判断しました」
「了解。じゃあイルリース、ボレアースまで空間転移をお願い」
「はい」
指令本部から出て行くティナリスとイルリース。
「ティナリス」
「ん?」
「ご武運を……」
「任せておいて!」
「さて、ヴァントウへは別の空間魔術師に送らせますので、マルク殿、エリザレア殿、よろしくお願い致します」
ヴァントウの命運は、この時点より雷の国・樹の国連合軍へ託された。
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