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第17章 風の国ストムバアル『暴食』の大罪騒乱編
第449話 ジャイアントアント出現予想ポイント
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カゼハナに分担された隊長各位は、せわしなく城を出て行った。
通例通りのジャイアントアント駆除と同じ流れであれば、『団長・隊長会議 → 会議で決まったことを上意下達 → 空間魔法で現場へ』という流れらしい。
風の国の空間魔術師は自国のことだから自身で移動できるが、樹の国、雷の国の空間魔術師には土地勘が無いため、風の国のイルリースさんの空間転移魔法でカゼハナへ集団で移動する算段。
アランドラ隊長の話によると、城下町に部下たちを置いて来ているとのことなので、急いで会議結果を部下に伝え、ここへ戻って来るのだろう。
私もレッドドラゴンたちのところへ戻って伝える。
「――ということで、みんなには分散して各部隊の命令の通りに動いてください。フレアハルトもフレイムハルトさんもカゼハナをよろしくお願いね」
「任せておけ」
「分かりました」
「アリサとレイアは私に付いて」
「「はい」」
「あと、三人は……」
レッドドラゴン五人を部隊に入れると言っても、基本的にフレアハルトとこの二人くらいしか知らないから、誰を選べば良いか分からない。アリサとレイアに聞いた方が早い。
「この中であなたたち二人に匹敵するヒトっている」
「はい、この中で選ぶなら彼と彼と彼女ですね」
一人は大柄な男性、一人はフレアハルトと同じくらいの背の高さの男性、最後の一人はアリサより少し大きい長身の女性だ。
精鋭の中から更に三人を選出したのだから、戦闘力は高いに違いない。
「あら? あなたたち、何か見たことあると思ったら『聖炎耐火の儀』の時に私に炎を吐きかけた五人のうちの三人じゃない?」
あの時はドラゴンに変身前に顔をチラッと見ただけだが、多分この三人は居たと思う。 (第103話参照)
「よ、よく覚えておいでで……」
「あの時は申し訳ありません……」
「あの時は見事な耐えっぷりでした……」
三人とも私に気付かれ、少し委縮したように思う。
「いや、別に怒ってないから大丈夫。それに……」
フレイムハルトさんをチラッと見る。
あの時、私に一番ダメージを与えたのはフレイムハルトさんだからそっちも許さないことになっちゃうしね。
しかし、アリサがこの場でこの三人を選んだってことは、あの時は是が非でも私を認めようとしなかったんだな、族長さん……
実力者四人と王族一人で炎吐きつけるって、完全に殺そうとしてるやん……
「どうしましたか?」
「ううん、何でもない。むしろ今回召集に応じてもらえたのがありがたいわ。これで遺恨も水に流しましょう。今後は普通に接して」
「「「はい!」」」
彼らの名前は大柄なのはマグマーレ、フレアハルトと同じくらいのがプロクシアス、長身の女性がフィアルマらしい。
「じゃあ、他のみんなもカゼハナの方をよろしくね」
フレアハルト率いるレッドドラゴン部隊は、この場に五人だけを残しティナリスの居る部隊へ移動して行った。
「さて、それじゃ私に当てがわれた部隊と合流しましょう」
その直後に別の方向から声をかけられた。
「アルトラ様!」
「はい?」
振り向くとそこにはイルリースさん。
「ボレアースを護衛するとの話をお聞きしましたが、具体的にはどこを護衛するつもりなのですか? キノコ岩の外ですか? それとも首都外まで離れるのでしょうか? でしたら土地勘も無いと思いますので、カゼハナ討伐組の皆さんが集まる前に私がそこまで空間転移魔法でお送りしますが?」
ちょうど良い時に声をかけてくれた!
女帝蟻が出現する場所を絞れるかもしれないし、色々聞いておこう。
「キノコ岩の外とか首都外っていうとどれくらい離れるんですか?」
「私も土地についてちゃんと勉強したことがないので詳細なところまでは分かりませんが……この風の国の首都は三方を岩の壁に囲まれた場所にあり、首都が建っているのはほとんどがキノコ岩の上です。そしてこの城はキノコ岩の台地の一番奥に位置します。大小キノコのような台地が立ち並ぶため、ここの外となると二十数キロも遠くなると思います」
「二十数キロもキノコ岩の台地が続くんですか?」
「はい、首都外となると更に何十キロも離れることになります」
首都を盗りに来るのにそんな離れたところに出現して、発見されるリスクを冒してわざわざここまで地上を歩いてくるとは思えない。
「この辺りで木々が生い茂ってて姿を隠し易いところってどこになりますか?」
さっき城の外を見下ろしたところ、キノコ岩の上に木々は少なかった。
しかし、少し遠くを見ると緑の部分 (木々が生えた部分)があったため、強風域でなければ木々が生い茂っているところもあるはず。
「でしたら、キノコ岩の根本が鬱蒼と生い茂っていると思います」
「根本って言うと……」
「この城やこの街の崖下です。この国はその強い風の吹く性質上、キノコ岩の上は木々や草花は特定の種類以外は根を張りません。それに対しキノコ岩の根本は上よりは風が幾分か弱いので、そちらの方は草木も根を下ろすことができるため生い茂っているとのではないでしょうか。この国の首都周辺には強風によりデスキラービーも住み着かないので、登山電車が通る場所と生活水として利用される川周辺以外は多分あまり管理もしてないかと」
ボレアースは岩の壁を登る登山電車があり、首都外から繋がっているらしい。この電車は岩壁に沿って作られた線路を登ってキノコ岩の上に建てられた駅へ到着する。
登山電車については主に外から来る羽の無い亜人が利用することが多いそうだが、移動するのに便利なので有翼人も利用することがあるとか。
回復能力を持つ者が多く住む街であり、それに付随したのか医者も多い街としても有名らしく、重病人が訪れることも少なくないそうだ。
「管理してないってことは……」
うわぁ……ってことはこの下、ジャングルってことじゃん。
姿隠す場所はいっぱいありそうだ。
「キノコ岩の上から落ちた場合どうしてるんですか?」
「有翼人以外の亜人がですか? そんなことになれば多分生きてないと思いますが……」
ごもっとも……
街を見下ろせるような高いところにあるのに、そんなところから落ちればほぼ生きてないか。
「運が良ければ強風が吹いて落下速度も低下するかもしれません。落下された方のために、階段が作られたキノコ岩などもありますから。もっとも……普段は変わり者の観光客か冒険者くらいしか使わないようですが……」
「普通好き好んで鬱蒼と茂ったジャングルに行きませんしね……」
「それに手入れしてないってことは、それだけ野生の動物や魔物が身を隠す場所が多いということですから」
「あ、そうか。ジャイアントアントのことばかり考えてたけど、この崖下には野生の生物もいる可能性があるのか」
「可能性と言うか普通に生活してますよ、野生生物」
しかし、これで出現ポイントはある程度絞れそうだ。
すぐにでも下調べしておこう。場合によっては戦い易くするために、草木は伐採したり燃やして開けた戦場を確保しておいた方が良いかもしれない。鬱蒼と茂ったままでは相手に有利過ぎる。
カイベル曰く、明日の出現率は十二パーセント、明後日は五十五パーセントって言われたし、仮に明日出現するとしても急げば掃除する時間くらいはありそうだ。
アスタロトがカゼハナに発つ前にすぐにでも谷底を改造する許可を貰っておかないと。
◇
「谷底の植物の伐採の許可? それは今でなければならないのですか?」
戦闘準備を整えている中、無理言ってアスタロトと面会させてもらった。
「ジャイアントアントはこのキノコ岩の崖下に出現すると推測した」
「この街の直下ですか!?」
「他にボレアースに近くて隠密行動しながら出現できそうなところが見当たらない。この直下が一番怪しいと思う。それで、草木が生い茂ったままだと私たちに不利な条件が多過ぎる。女帝が出現する前に谷底をある程度綺麗にしておきたい。その際は火で焼き尽くすこともあるかもしれない」
「は、はぁ……分かりました。私の権限で谷底はどうにでもして良いこととしたと伝えておきます。ただ……延焼などした場合は対処する方法がありますか?」
「そうなりそうな場合は、私は水魔法も使えるからすぐに消火するから問題にはならないと思う」
「分かりました。では許可を出しておきます。大きく地形を変えるようなことがなければ好き勝手に伐採していただいて構いません」
話してて思ったが……う~ん……第三のはぐれジャイアントアントの情報もいまだに入って来ないから、女帝蟻がボレアースを襲撃してくることを信じる気も、さっきより更に薄れてきてるみたいに感じる……
意識は完全にカゼハナの方に向いてしまっていて、ボレアースに対しての緊張感がまるで無い。
何だか、私だけで独り相撲しているようだ……とは言え、会議で決まったことなので既にどうこうできる段階にはない。
「それでは私はカゼハナへ出動しますので」
「がんばって!」
「お互いに!」
いそいそと部屋を出て行った。
『お互いに!』と返してくる辺りは、半信半疑ながら女帝のことも頭の片隅にはあるのかもしれない。
とは言え、ギリギリだったがこれで谷底を自由にして良い許可が取れた。
その足で谷底の調査へ向かう。
◇
谷底は真っ暗闇かと思ったが、降りてみればかなり薄暗いものの、光の精霊によって首都上空に設置された光の球のお蔭でそれなりに地形や輪郭が見える。
しかし、キノコ岩の上と下では全く別世界のようだ。上は荒涼とした台地だったが、下は――
「何と言う生い茂げり具合……」
ユグドの大森林までとは行かないが、ジャングル化していることは違いない。
着地してみると――
「うわ……ちょっと湿ってるわ。この土壌がこれだけの草を生育させてるわけか」
谷底という場所でなければ、草の絨毯と言っても良い生い茂げり具合。例えるならじめっとした草原のようだ。
大きいものだと私の背丈より随分高いものもある。目測で百六十センチってところか。低いものでも私がすっぽり隠れるくらいの長さ (百四十二センチほど)。
少し遠くを見ると草だけでなく木も沢山生えている。
しかし――
「この木、めちゃくちゃ歪んでるわね……」
不自然に一方向に流れるように歪んだ木が何本も。まるで風で飛ばされる瞬間を写したかのような歪み方をしている。
きっと強い風の向きに沿って歪んでいったんだろう。
しばらく谷底を見て回ったところ、どうやら水で沈んだらしき形跡が岩壁に付いている。大雨が降った時などは谷底は水でいっぱいになるのかもしれない。場所によっては水分が多く、ぬかるんでるところもある。
近くにキノコ岩を縫うように流れる大きめの川がある。これがさっきイルリースさんが言ってた生活用水として使われている川だろう。こういった川が不定間隔で何本か走っている。
「あ、馬がいる!」
川で水を飲む馬の集団。
風の魔力を脚に纏ってるから、多分野生のペガサスかな?
こんな谷底に居るもんなんだ。
イタチみたいな小動物も……何かこっちへ向かって走って来た。
私の横をすり抜けると同時に
ガキキッ!
という金属音。
「今斬られた!? あっ! よく見ると手に風が集まって鎌のような形をしてる! あれカマイタチだ! 初めて見た!」
カマイタチは怪訝な顔をして去って行った。きっと今斬ったはずが、何ともなってないから疑問に思い、危険を感じて退散したのだろう。
それにしても、イタチが普通にヒトに襲い掛かって来るんだな……地元のヒトなら多分知ってることなんだろうけど注意しておかないと、ジャイアントアント戦前に無用な怪我をさせられそうだ。
当然ながら他にも動物はいる。ウサギのような小動物、イノシシみたいなやつ、風を纏った狼、小型のレッサードラゴン、大きい蛇型の魔獣バジリスクやニワトリに蛇の尻尾がくっ付いたような姿のコカトリス、グリフォンのような幻想生物まで。
哺乳類はもとより、鳥類爬虫類両生類も大小様々。
大きめのものは、私に対して敵意を向けてくるものもいる。伝説で聞く毒を持ってるやつが結構居る。
意外だったのは鳥類が割と少ないこと。
風の国の騎士たちの中にも、鳥類の上位存在が多いように思ったから、谷底にも鳥類は多いのかと思ったが、どうやらここを住処にする鳥類はそれほど多くないらしい。
特に怪鳥種と呼ばれる大きめの鳥類は全く見かけない。多分大きめの鳥類は山の上の方を住処にするんだろう。
さて、動物たちもジャイアントアント迎撃には邪魔になりそうだが、一番ネックになりそうなのはやはり生い茂った草木。
ジャイアントアントは体高二メートルもあるから身体全部は隠れないかもしれないが、発見しづらくなることに変わりはない。
……
…………
………………
いや……これってむしろ身体の小さい私たちに有利なのか……? しゃがむだけで相手から全く見えなくなるし。こっちからも全く見えんけど……
いやいや、ゲリラ戦に慣れてる者ばかりではないはずだし、そもそもアリたちが出現する巣穴を短い時間で見つけられなければ、気付いた時には周囲がアリで溢れているって事態になりかねない。
しゃがんでいる時に広範囲に影響があって、即死級に威力の高い攻撃をされれば、相手の姿を見ずに全滅ってこともあり得る。
やっぱり草木の伐採はしておいた方が良いだろう。
と言うか……この崖下に出現するんじゃないかと目星を付けたが、これは果たして正解なのだろうか?
この崖下も結構広い範囲に及ぶ。
ボレアース城がキノコ岩の最も奥に位置し、ここからキノコ岩が終わる地点まで直線距離で二十数キロあると言っていた。キノコ岩の三方は高い壁……と言うか山に囲まれた土地だから、そちらを登ってくるとは思えない。
と言うことは、きっとこのキノコ岩の根本に出現すると見て間違い無い……アリだから地中を通って来るはず!
ここ以外から来るのなら、むしろ対処する時間が多めに取れることになるから、ここ以外にマークすべきところは無い。
とりあえずまずは伐採からだ!
もう時間も無いからすぐに城へ戻って、兵士を招集しよう。
通例通りのジャイアントアント駆除と同じ流れであれば、『団長・隊長会議 → 会議で決まったことを上意下達 → 空間魔法で現場へ』という流れらしい。
風の国の空間魔術師は自国のことだから自身で移動できるが、樹の国、雷の国の空間魔術師には土地勘が無いため、風の国のイルリースさんの空間転移魔法でカゼハナへ集団で移動する算段。
アランドラ隊長の話によると、城下町に部下たちを置いて来ているとのことなので、急いで会議結果を部下に伝え、ここへ戻って来るのだろう。
私もレッドドラゴンたちのところへ戻って伝える。
「――ということで、みんなには分散して各部隊の命令の通りに動いてください。フレアハルトもフレイムハルトさんもカゼハナをよろしくお願いね」
「任せておけ」
「分かりました」
「アリサとレイアは私に付いて」
「「はい」」
「あと、三人は……」
レッドドラゴン五人を部隊に入れると言っても、基本的にフレアハルトとこの二人くらいしか知らないから、誰を選べば良いか分からない。アリサとレイアに聞いた方が早い。
「この中であなたたち二人に匹敵するヒトっている」
「はい、この中で選ぶなら彼と彼と彼女ですね」
一人は大柄な男性、一人はフレアハルトと同じくらいの背の高さの男性、最後の一人はアリサより少し大きい長身の女性だ。
精鋭の中から更に三人を選出したのだから、戦闘力は高いに違いない。
「あら? あなたたち、何か見たことあると思ったら『聖炎耐火の儀』の時に私に炎を吐きかけた五人のうちの三人じゃない?」
あの時はドラゴンに変身前に顔をチラッと見ただけだが、多分この三人は居たと思う。 (第103話参照)
「よ、よく覚えておいでで……」
「あの時は申し訳ありません……」
「あの時は見事な耐えっぷりでした……」
三人とも私に気付かれ、少し委縮したように思う。
「いや、別に怒ってないから大丈夫。それに……」
フレイムハルトさんをチラッと見る。
あの時、私に一番ダメージを与えたのはフレイムハルトさんだからそっちも許さないことになっちゃうしね。
しかし、アリサがこの場でこの三人を選んだってことは、あの時は是が非でも私を認めようとしなかったんだな、族長さん……
実力者四人と王族一人で炎吐きつけるって、完全に殺そうとしてるやん……
「どうしましたか?」
「ううん、何でもない。むしろ今回召集に応じてもらえたのがありがたいわ。これで遺恨も水に流しましょう。今後は普通に接して」
「「「はい!」」」
彼らの名前は大柄なのはマグマーレ、フレアハルトと同じくらいのがプロクシアス、長身の女性がフィアルマらしい。
「じゃあ、他のみんなもカゼハナの方をよろしくね」
フレアハルト率いるレッドドラゴン部隊は、この場に五人だけを残しティナリスの居る部隊へ移動して行った。
「さて、それじゃ私に当てがわれた部隊と合流しましょう」
その直後に別の方向から声をかけられた。
「アルトラ様!」
「はい?」
振り向くとそこにはイルリースさん。
「ボレアースを護衛するとの話をお聞きしましたが、具体的にはどこを護衛するつもりなのですか? キノコ岩の外ですか? それとも首都外まで離れるのでしょうか? でしたら土地勘も無いと思いますので、カゼハナ討伐組の皆さんが集まる前に私がそこまで空間転移魔法でお送りしますが?」
ちょうど良い時に声をかけてくれた!
女帝蟻が出現する場所を絞れるかもしれないし、色々聞いておこう。
「キノコ岩の外とか首都外っていうとどれくらい離れるんですか?」
「私も土地についてちゃんと勉強したことがないので詳細なところまでは分かりませんが……この風の国の首都は三方を岩の壁に囲まれた場所にあり、首都が建っているのはほとんどがキノコ岩の上です。そしてこの城はキノコ岩の台地の一番奥に位置します。大小キノコのような台地が立ち並ぶため、ここの外となると二十数キロも遠くなると思います」
「二十数キロもキノコ岩の台地が続くんですか?」
「はい、首都外となると更に何十キロも離れることになります」
首都を盗りに来るのにそんな離れたところに出現して、発見されるリスクを冒してわざわざここまで地上を歩いてくるとは思えない。
「この辺りで木々が生い茂ってて姿を隠し易いところってどこになりますか?」
さっき城の外を見下ろしたところ、キノコ岩の上に木々は少なかった。
しかし、少し遠くを見ると緑の部分 (木々が生えた部分)があったため、強風域でなければ木々が生い茂っているところもあるはず。
「でしたら、キノコ岩の根本が鬱蒼と生い茂っていると思います」
「根本って言うと……」
「この城やこの街の崖下です。この国はその強い風の吹く性質上、キノコ岩の上は木々や草花は特定の種類以外は根を張りません。それに対しキノコ岩の根本は上よりは風が幾分か弱いので、そちらの方は草木も根を下ろすことができるため生い茂っているとのではないでしょうか。この国の首都周辺には強風によりデスキラービーも住み着かないので、登山電車が通る場所と生活水として利用される川周辺以外は多分あまり管理もしてないかと」
ボレアースは岩の壁を登る登山電車があり、首都外から繋がっているらしい。この電車は岩壁に沿って作られた線路を登ってキノコ岩の上に建てられた駅へ到着する。
登山電車については主に外から来る羽の無い亜人が利用することが多いそうだが、移動するのに便利なので有翼人も利用することがあるとか。
回復能力を持つ者が多く住む街であり、それに付随したのか医者も多い街としても有名らしく、重病人が訪れることも少なくないそうだ。
「管理してないってことは……」
うわぁ……ってことはこの下、ジャングルってことじゃん。
姿隠す場所はいっぱいありそうだ。
「キノコ岩の上から落ちた場合どうしてるんですか?」
「有翼人以外の亜人がですか? そんなことになれば多分生きてないと思いますが……」
ごもっとも……
街を見下ろせるような高いところにあるのに、そんなところから落ちればほぼ生きてないか。
「運が良ければ強風が吹いて落下速度も低下するかもしれません。落下された方のために、階段が作られたキノコ岩などもありますから。もっとも……普段は変わり者の観光客か冒険者くらいしか使わないようですが……」
「普通好き好んで鬱蒼と茂ったジャングルに行きませんしね……」
「それに手入れしてないってことは、それだけ野生の動物や魔物が身を隠す場所が多いということですから」
「あ、そうか。ジャイアントアントのことばかり考えてたけど、この崖下には野生の生物もいる可能性があるのか」
「可能性と言うか普通に生活してますよ、野生生物」
しかし、これで出現ポイントはある程度絞れそうだ。
すぐにでも下調べしておこう。場合によっては戦い易くするために、草木は伐採したり燃やして開けた戦場を確保しておいた方が良いかもしれない。鬱蒼と茂ったままでは相手に有利過ぎる。
カイベル曰く、明日の出現率は十二パーセント、明後日は五十五パーセントって言われたし、仮に明日出現するとしても急げば掃除する時間くらいはありそうだ。
アスタロトがカゼハナに発つ前にすぐにでも谷底を改造する許可を貰っておかないと。
◇
「谷底の植物の伐採の許可? それは今でなければならないのですか?」
戦闘準備を整えている中、無理言ってアスタロトと面会させてもらった。
「ジャイアントアントはこのキノコ岩の崖下に出現すると推測した」
「この街の直下ですか!?」
「他にボレアースに近くて隠密行動しながら出現できそうなところが見当たらない。この直下が一番怪しいと思う。それで、草木が生い茂ったままだと私たちに不利な条件が多過ぎる。女帝が出現する前に谷底をある程度綺麗にしておきたい。その際は火で焼き尽くすこともあるかもしれない」
「は、はぁ……分かりました。私の権限で谷底はどうにでもして良いこととしたと伝えておきます。ただ……延焼などした場合は対処する方法がありますか?」
「そうなりそうな場合は、私は水魔法も使えるからすぐに消火するから問題にはならないと思う」
「分かりました。では許可を出しておきます。大きく地形を変えるようなことがなければ好き勝手に伐採していただいて構いません」
話してて思ったが……う~ん……第三のはぐれジャイアントアントの情報もいまだに入って来ないから、女帝蟻がボレアースを襲撃してくることを信じる気も、さっきより更に薄れてきてるみたいに感じる……
意識は完全にカゼハナの方に向いてしまっていて、ボレアースに対しての緊張感がまるで無い。
何だか、私だけで独り相撲しているようだ……とは言え、会議で決まったことなので既にどうこうできる段階にはない。
「それでは私はカゼハナへ出動しますので」
「がんばって!」
「お互いに!」
いそいそと部屋を出て行った。
『お互いに!』と返してくる辺りは、半信半疑ながら女帝のことも頭の片隅にはあるのかもしれない。
とは言え、ギリギリだったがこれで谷底を自由にして良い許可が取れた。
その足で谷底の調査へ向かう。
◇
谷底は真っ暗闇かと思ったが、降りてみればかなり薄暗いものの、光の精霊によって首都上空に設置された光の球のお蔭でそれなりに地形や輪郭が見える。
しかし、キノコ岩の上と下では全く別世界のようだ。上は荒涼とした台地だったが、下は――
「何と言う生い茂げり具合……」
ユグドの大森林までとは行かないが、ジャングル化していることは違いない。
着地してみると――
「うわ……ちょっと湿ってるわ。この土壌がこれだけの草を生育させてるわけか」
谷底という場所でなければ、草の絨毯と言っても良い生い茂げり具合。例えるならじめっとした草原のようだ。
大きいものだと私の背丈より随分高いものもある。目測で百六十センチってところか。低いものでも私がすっぽり隠れるくらいの長さ (百四十二センチほど)。
少し遠くを見ると草だけでなく木も沢山生えている。
しかし――
「この木、めちゃくちゃ歪んでるわね……」
不自然に一方向に流れるように歪んだ木が何本も。まるで風で飛ばされる瞬間を写したかのような歪み方をしている。
きっと強い風の向きに沿って歪んでいったんだろう。
しばらく谷底を見て回ったところ、どうやら水で沈んだらしき形跡が岩壁に付いている。大雨が降った時などは谷底は水でいっぱいになるのかもしれない。場所によっては水分が多く、ぬかるんでるところもある。
近くにキノコ岩を縫うように流れる大きめの川がある。これがさっきイルリースさんが言ってた生活用水として使われている川だろう。こういった川が不定間隔で何本か走っている。
「あ、馬がいる!」
川で水を飲む馬の集団。
風の魔力を脚に纏ってるから、多分野生のペガサスかな?
こんな谷底に居るもんなんだ。
イタチみたいな小動物も……何かこっちへ向かって走って来た。
私の横をすり抜けると同時に
ガキキッ!
という金属音。
「今斬られた!? あっ! よく見ると手に風が集まって鎌のような形をしてる! あれカマイタチだ! 初めて見た!」
カマイタチは怪訝な顔をして去って行った。きっと今斬ったはずが、何ともなってないから疑問に思い、危険を感じて退散したのだろう。
それにしても、イタチが普通にヒトに襲い掛かって来るんだな……地元のヒトなら多分知ってることなんだろうけど注意しておかないと、ジャイアントアント戦前に無用な怪我をさせられそうだ。
当然ながら他にも動物はいる。ウサギのような小動物、イノシシみたいなやつ、風を纏った狼、小型のレッサードラゴン、大きい蛇型の魔獣バジリスクやニワトリに蛇の尻尾がくっ付いたような姿のコカトリス、グリフォンのような幻想生物まで。
哺乳類はもとより、鳥類爬虫類両生類も大小様々。
大きめのものは、私に対して敵意を向けてくるものもいる。伝説で聞く毒を持ってるやつが結構居る。
意外だったのは鳥類が割と少ないこと。
風の国の騎士たちの中にも、鳥類の上位存在が多いように思ったから、谷底にも鳥類は多いのかと思ったが、どうやらここを住処にする鳥類はそれほど多くないらしい。
特に怪鳥種と呼ばれる大きめの鳥類は全く見かけない。多分大きめの鳥類は山の上の方を住処にするんだろう。
さて、動物たちもジャイアントアント迎撃には邪魔になりそうだが、一番ネックになりそうなのはやはり生い茂った草木。
ジャイアントアントは体高二メートルもあるから身体全部は隠れないかもしれないが、発見しづらくなることに変わりはない。
……
…………
………………
いや……これってむしろ身体の小さい私たちに有利なのか……? しゃがむだけで相手から全く見えなくなるし。こっちからも全く見えんけど……
いやいや、ゲリラ戦に慣れてる者ばかりではないはずだし、そもそもアリたちが出現する巣穴を短い時間で見つけられなければ、気付いた時には周囲がアリで溢れているって事態になりかねない。
しゃがんでいる時に広範囲に影響があって、即死級に威力の高い攻撃をされれば、相手の姿を見ずに全滅ってこともあり得る。
やっぱり草木の伐採はしておいた方が良いだろう。
と言うか……この崖下に出現するんじゃないかと目星を付けたが、これは果たして正解なのだろうか?
この崖下も結構広い範囲に及ぶ。
ボレアース城がキノコ岩の最も奥に位置し、ここからキノコ岩が終わる地点まで直線距離で二十数キロあると言っていた。キノコ岩の三方は高い壁……と言うか山に囲まれた土地だから、そちらを登ってくるとは思えない。
と言うことは、きっとこのキノコ岩の根本に出現すると見て間違い無い……アリだから地中を通って来るはず!
ここ以外から来るのなら、むしろ対処する時間が多めに取れることになるから、ここ以外にマークすべきところは無い。
とりあえずまずは伐採からだ!
もう時間も無いからすぐに城へ戻って、兵士を招集しよう。
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メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
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