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第17章 風の国ストムバアル『暴食』の大罪騒乱編
第448話 いつの間にか『鉄の乙女』とかいうあだ名が付いてた……
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「では緊急会議を始めたいと思います。その前に面識の無い方もおられると思いますので、簡単にざっとご紹介させていただきます。私の左手側に居るのが我が風の国の兵士。代表はティナリス」
「皆様、援軍要請に応じてくださり、ありがとうございます。そして、よろしくお願いします」
ティナリス以下、風の国の兵士たちが頭を下げる。
デスキラービーで共闘したヒトも何人か居る。
「右手側に居られますのが我が西にある隣国・樹の国の守護志士の皆様です。代表はマルク殿」
「協力してジャイアントアントを殲滅しましょう」
樹の国の守護志士たちが頭を下げる。
「そして、私の正面に集まっていただいた方々が、東の隣国・雷の国の騎士たちです。代表はエリザレア殿」
「この中では若輩者ですが、存分にお役に立てるかと思います。よろしくお願いします」
雷の国の騎士たちが頭を下げる。
エリザレア……見たことがあると思ったら、七大国会談でアスモの隣に居た護衛の女性だ。 (第224話に少しだけ出てきます)
代表はラッセルさんかと思ったけど違うのね。
「最後に、中立地帯アルトラルサンズから来ていただきました、アルトラ様とそのお仲間の方たちです!」
アスタロトによる私の紹介に風の国の出席者が反応する。
「おお! あなたがアルトラ様! 今や我が国にもその名が轟いておりますぞ!」
「聞いてますよ! 鋼鉄の乙女と呼ばれたその雄姿を!」
聞き慣れない二つ名で呼ばれた。
は? 鋼鉄の乙女? 何その呼び名?
雷の国の時もそうだったが (第262話参照)、知らないところでいつの間にか変な二つ名が付いてる……元になってるのはきっとデスキラービー駆除の時に披露した斬撃パフォーマンスだろう。多分噂を流したのは参加した兵士だちの誰だろう。
「さて、簡単に紹介も終わりましたので会議に移りたいと思いますが、その前に、今回のジャイアントアント討伐作戦では女王が複数目撃されているため、それらとは別物と考え『暴食』を得たと思われる女王を今後は『女帝』あるいは『女帝蟻』と呼称することとします。部下にも共有しておいてください」
出席者全員が頷く。
「では、早速ジャイアントアントの対策会議に入ります。カゼハナの事態は急を要しています。迅速に決めねばなりませんので、こちらである程度の担当していただきたい場所を考えておきました」
担当場所が書かれた紙を配られた。
ほぼ殴り書きに近い。急いで作成したのが窺える。多分私がレッドドラゴンたちを呼びに行ってる間に、粗方考えておいたものだろう。
予想通り、首都であるボレアースの守りはカゼハナと比べて段違いに薄い。精鋭は全部隊カゼハナへ投入される予定のようだ。魔王相当の敵相手にするには紙のような耐久度と言っても過言ではない。
カイベルの意見は大部分無視された形に。
「アスタロト……いえ、アスタロト殿、この配られた紙では首都の守りが薄いように思いますが、大丈夫なんですか?」
呼び捨てが本人希望のしゃべり方だったとしても、流石にこういう場では敬語にしておいた方が良いよね。相手は風の国の魔王代理だし。
「現状、何も起こっていないボレアースに配備は難しく、精鋭を置くことは出来かねます……やはり司令官として個人の言うことだけを鵜呑みにはできませんので……」
うぅ……残念だが、これが普通のことか……アリが国を盗りにくるなんて夢物語の話だろうし。
私はカイベルの性質を良く知っているから百パーセント信じられるが、“私が信頼を置く”と話したために一応意見は聞いてくれたものの、アスタロトやティナリスから見れば“いちメイドの謳う妄言”に近いのかもしれない。
「一番の激戦地であるカゼハナは主に我々風の国が担当します。それにプラスして、雷の国、樹の国の精鋭をお借りしたく思います。その他精鋭から外れる者はカゼハナ周辺に点在しているジャイアントアントの巣の掃討をお願いします」
ほとんどの戦力をカゼハナの巣穴とその周辺にある巣穴の殲滅に集中させる算段のようだ。
三ヶ国の担当はある程度決められているようだが、配られた紙にはレッドドラゴンについての記述が無い。
「はい!」
「ベルゼ……アルトラ殿どうぞ」
「この担当の中にレッドドラゴンが入ってませんが……?」
「「「レッドドラゴン!?」」」
「樹の国以外からドラゴンが来ているのですか!?」
三ヶ国から驚きの声が上がる。
「はい、火を扱うスペシャリストの集団ということで、ジャイアントアント掃討には大きく貢献していただけるものと思っております」
やっぱりどこの国でもドラゴンは強力な戦力という認識らしい。
私が知ってる樹の国のドラゴンって言ったら……デスキラービーの時の第一部隊隊長のウォライトさんくらいかな。 (主に【EX】第349.3話参照)
私から見て左側に険しい顔して座ってる。
「フレアハルト殿とフレイムハルト殿は特別お強いとのことなのでカゼハナの主要な巣穴をお願いします。ここを殲滅すればかなりの戦力を削ぐことができるので、よろしくお願いします」
「了解した」
「分かりました」
「それ以外に十五人ほどをカゼハナ周辺に点在する巣穴の掃討に配したいと思います。雷の国と樹の国と合同で、カゼハナ周辺の巣穴の掃討にご参加いただくよう伝えておいてください」
「分かりました、そう伝えておきます」
と、一応了承の返事をしたものの、やはりボレアースへの配備が少な過ぎて懸念が大きすぎる。
『女帝がカゼハナに居る』という前提ならこの作戦で良いのだが……カイベルが言うからには、女帝は必ずボレアースに現れるはず。
さてどうやってボレアースの防衛網を強化する方向へ誘導しようか……
「ベルゼビュート様、アリサ殿とレイア殿にはベルゼビュート様の担当していただくボレアースをお願いします。残り五人のレッドドラゴンの方々はボレアースに配備したいと思います」
「分かりました」
さっき兵の配備は難しいと言われたが、レッドドラゴンはきちんと配備してくれるらしい。
レッドドラゴン族の中で突出して強いのがレッドドラゴン・ロードであるフレアハルトとフレイムハルトさんの二人。そして、アリサとレイアはそれに次ぐ能力を持っているため私と共にボレアースへ。
私の考えではこちらにフレアハルトたちを配置してもらいたかったが、アスタロトはカゼハナに女帝が居るとの判断のため、こういう構成になったのだろう。
ところが、この配備の説明を聞いた出席者から疑問の声が上がる。
「ボレアースにもレッドドラゴンを配備?」
「今激戦地はカゼハナですよ? なぜ全てのレッドドラゴンをカゼハナへ投入せず、三分の一近くをボレアースに配備するのですか?」
「現在ジャイアントアントが大発生しているカゼハナと首都のボレアースは千キロほど離れてるのに、今首都の防衛は全く関係無いではありませんか!」
ごもっとも……
現状だけを見れば、まだ何も起こってないボレアースに配備するのは全く意味が分からない。
アスタロトの顔を見たところ、既にカイベルの意見を耳に入れているため、周りの真っ当な意見にかなり困っているようだ。表情にも出ている。
「レッドドラゴンのボレアース配備はアスタロト殿の独断ですか?」
この中で一番発言力がありそうなマルクさんが問いただす。
「はい、私の独断です」
「どういった理由があるのですか?」
「まだ不確定な情報ですが、ボレアースにジャイアントアントが発生すると予想されます」
「不確定なのに予想されるのですか? それはあなたの意見ですか?」
「いえ……」
「では誰からの情報ですか?」
「私です」
「アルトラ殿ですか。…………なるほど、あなたの意見と言うことはまた何かお考えがあるわけですね? その根拠となるものはなんですか?」
一応、デスキラービーの女帝を見つけて駆除したという実績があるため、一考に値すると判断されたようだ。
まあ……あの時は勝手な行動だったために怒られてしまったが…… (第351話参照)
「私の専属メイドが分析した結果、ボレアースが狙われているという話になりました」
「一介のメイドの? そのメイドは戦場の経験や軍略の経験がおありなのですか?」
「いえ……ただ、よく当たる占い師より当たると思っています」
自分で言ってて分かる。この意見は大分苦しい……
私の予想通り、周囲からもこの予想に対する反論意見が上がる。
「よく当たると言っても……」
「戦略をメイドの意見で左右されたくはありませんね」
「専門家でもない個人の意見を聞くには危険過ぎます!」
私とあまり関りの無かった雷の国勢はもちろん否定的。ラッセルさんも黙っているものの難色を示している。
「いくらデスキラービー駆除で貢献してもらったアルトラ殿の意見と言ってもなぁ……」
「強力戦力のレッドドラゴンを、何も起こっていないボレアースに配備するのは宝の持ち腐れですな」
それどころかデスキラービー駆除で関わりのあった樹の国ですら懐疑的な見方だ。
「ベルゼビュート様、申し訳ありませんが擁護はし切れません……せめてヴァントウで湧くと聞かされた第三のはぐれジャイアントアントの情報が入って来ているのならまだ正当性があるのですが……」
カイベルの言っていた、風の国属国アーヴェルムのヴァントウという地域で湧いたと言う第三のはぐれジャイアントアントのことだが、その情報はいまだ入って来ていない。
まさかカイベルの言ったことが外れた? それとも中々連絡が出来ないほど急激な激戦に発展してしまったか?
何にしても納得させられる材料が無いから引き下がるしかない。
「いや、真っ当な意見だと思う。混乱させてごめんね」
「しかし、私も気になりますので、私の動かせる私兵を配備します」
以上の出席者の意見からアスタロトがその後少し粘ってくれたものの、レッドドラゴンの配備は七人から三人に減らされることに……
ところがこの直後に思わぬヒトが味方に。
「みなさん、ちょっとお待ちください」
声を上げたのは樹の国側として出席していたフリアマギアさん。
「アスタロト殿、アルトラ殿の言ってるメイドというのはカイベルさんのことですよね?」
「そうですが……」
「私はアルトラルサンズに派遣されて日は浅いですが、カイベル殿には私も一目置いています。彼女が全く無意味なことを言うとは思えません」
この言葉にまたしても周りが騒然とする。
「一介のメイドが言ったことに樹の国の参謀が注目してるのか?」
「どんな有能なメイドなのですか!?」
「フリアマギア殿もこんな荒唐無稽な配備に賛同するのですか!?」
否定的な言葉が挙がるものの、フリアマギアさんは話を続ける。
「彼女がボレアースに注目したのなら、レッドドラゴンの配備も減らすべきではないと考えます」
「しかしフリアマギア殿、ボレアースではまだ何も起こってないのですよ!?」
周りから直接否定的な意見がぶつけられるものの――
「カイベル殿にはカイベル殿なりのお考えがあるのでしょう。彼女は先を予測して回答することが多い方なので、ボレアースに何かが起こると考えているのでしょう。ですので、私の意見もボレアースにそれなりの戦力を配備するべきだと考えます!」
おっ? 少し風向きが変わった?
「先を予測して回答する? それは後々当たっていたりするのですか?」
「私の知り得る限りは彼女が予測したことは外れたことがありません………………いや、そういえば一度だけ外れたことがあります。彼女の言うことはよく当たっていたのでお遊びで天気を何日間当てられるか聞いたところ、二週間後の天気までを完璧に当ててましたが、三週間後の天気は当たることはありませんでした」
「あなたが派遣されてから、外したのがたった一度……?」
それを聞いてまたも騒然とする。
フリアマギアさんの話を聞いて思った。
『これって私だけじゃなく、カイベルも彼女のマーク対象なんじゃないか?』と……
私がのらりくらりフリアマギアさんの追及を躱すのと同じく、私が知らないところでカイベルにも彼女による詰問が及んでいたのかもしれない。
まあカイベルがボロを出すことはないだろうから、放っておいても良いか。
「フリアマギア殿の今の話を聞いてどう思われたでしょうか? 参考のため多数決を採りたいと思います。ボレアースにレッドドラゴンを配備するべきだと考えた方」
アスタロトを除いた、会議に出席する者たち十七人に対し、七人が挙手をする。
手を上げてくれたのは、フリアマギアさん、樹の国代表マルクさん、雷の国統括ラッセルさん、風の国代表ティナリス。
そして、私とフレアハルトとフレイムハルトさん。この二人はいまいち状況が分からないようで、私に追従したようだが。
「では配備するべきではないという方」
十人が挙手。
「では配備は必要最低限ということになりますな」
「しかし、マルク殿やラッセル殿も配備に賛成なのですか?」
出席者の質問にマルクさんとラッセルさんが答える。
「デスキラービー駆除の時にも経験しましたが、アルトラ殿の言動は少々気になりますので」
「私も同じ意見です。サンダラバードの空間魔法災害の時に気になる言動をしていたので」
(『第5章 雷の国エレアースモの異常事態編 』参照)
アスタロトが出席者を一通り見回した後――
「分かりました。結果を鑑みて七人配備というわけにはいきませんが、三人から五人に変更します」
「そんな、独断で増員させるのですか!?」
「はい。挙手の結果は『配備はしない』という意見が多かったのですが、樹の国の代表と参謀、雷の国の統括、風の国の代表が賛成となると無視できる意見ではありませんので」
「しかし現状はカゼハナを優先しなければならないのでは?」
「もしこれによって被害が拡大した場合には、全てが終わった後に私を罰してもらって構いません」
アスタロトの『罰してもらって構わない』、この一言で反論意見も収束。
「それでは担当していただく場所は以上です。よろしくお願いします」
緊急会議を締めくくられた。
会議の結果、三ヶ国のほぼ全戦力がカゼハナとその周辺の巣穴の制圧に分担されることになった。
レッドドラゴンの配備が七人から三人に減らされるところだったが、三人から五人に増員してもらえた。
ただ、ボレアース防衛が、レッドドラゴン五人に加えて、アスタロトの私兵二十人、風の国の準精鋭以下の騎士を五十人と精鋭には達していない一般騎士が四百人ほど配備されることになった。
ボレアース配備はほぼ私の独断に近いため、樹の国、雷の国の協力は得られず……
女帝の能力がどの程度か分からないが、魔王相当の敵を相手にしなければならないと考えると、この程度の人数じゃどう考えても戦力が足りているとは思えない……すぐさま全滅もあり得る……
一応カイベルから対策を聞いてはいるけど、どうしたもんか……
そして、カイベルから第三のはぐれジャイアンアント発生現場と聞かされているヴァントウについては、この会議では全く触れられず。このことは後々響いてくるのではないかと懸念している。
「皆様、援軍要請に応じてくださり、ありがとうございます。そして、よろしくお願いします」
ティナリス以下、風の国の兵士たちが頭を下げる。
デスキラービーで共闘したヒトも何人か居る。
「右手側に居られますのが我が西にある隣国・樹の国の守護志士の皆様です。代表はマルク殿」
「協力してジャイアントアントを殲滅しましょう」
樹の国の守護志士たちが頭を下げる。
「そして、私の正面に集まっていただいた方々が、東の隣国・雷の国の騎士たちです。代表はエリザレア殿」
「この中では若輩者ですが、存分にお役に立てるかと思います。よろしくお願いします」
雷の国の騎士たちが頭を下げる。
エリザレア……見たことがあると思ったら、七大国会談でアスモの隣に居た護衛の女性だ。 (第224話に少しだけ出てきます)
代表はラッセルさんかと思ったけど違うのね。
「最後に、中立地帯アルトラルサンズから来ていただきました、アルトラ様とそのお仲間の方たちです!」
アスタロトによる私の紹介に風の国の出席者が反応する。
「おお! あなたがアルトラ様! 今や我が国にもその名が轟いておりますぞ!」
「聞いてますよ! 鋼鉄の乙女と呼ばれたその雄姿を!」
聞き慣れない二つ名で呼ばれた。
は? 鋼鉄の乙女? 何その呼び名?
雷の国の時もそうだったが (第262話参照)、知らないところでいつの間にか変な二つ名が付いてる……元になってるのはきっとデスキラービー駆除の時に披露した斬撃パフォーマンスだろう。多分噂を流したのは参加した兵士だちの誰だろう。
「さて、簡単に紹介も終わりましたので会議に移りたいと思いますが、その前に、今回のジャイアントアント討伐作戦では女王が複数目撃されているため、それらとは別物と考え『暴食』を得たと思われる女王を今後は『女帝』あるいは『女帝蟻』と呼称することとします。部下にも共有しておいてください」
出席者全員が頷く。
「では、早速ジャイアントアントの対策会議に入ります。カゼハナの事態は急を要しています。迅速に決めねばなりませんので、こちらである程度の担当していただきたい場所を考えておきました」
担当場所が書かれた紙を配られた。
ほぼ殴り書きに近い。急いで作成したのが窺える。多分私がレッドドラゴンたちを呼びに行ってる間に、粗方考えておいたものだろう。
予想通り、首都であるボレアースの守りはカゼハナと比べて段違いに薄い。精鋭は全部隊カゼハナへ投入される予定のようだ。魔王相当の敵相手にするには紙のような耐久度と言っても過言ではない。
カイベルの意見は大部分無視された形に。
「アスタロト……いえ、アスタロト殿、この配られた紙では首都の守りが薄いように思いますが、大丈夫なんですか?」
呼び捨てが本人希望のしゃべり方だったとしても、流石にこういう場では敬語にしておいた方が良いよね。相手は風の国の魔王代理だし。
「現状、何も起こっていないボレアースに配備は難しく、精鋭を置くことは出来かねます……やはり司令官として個人の言うことだけを鵜呑みにはできませんので……」
うぅ……残念だが、これが普通のことか……アリが国を盗りにくるなんて夢物語の話だろうし。
私はカイベルの性質を良く知っているから百パーセント信じられるが、“私が信頼を置く”と話したために一応意見は聞いてくれたものの、アスタロトやティナリスから見れば“いちメイドの謳う妄言”に近いのかもしれない。
「一番の激戦地であるカゼハナは主に我々風の国が担当します。それにプラスして、雷の国、樹の国の精鋭をお借りしたく思います。その他精鋭から外れる者はカゼハナ周辺に点在しているジャイアントアントの巣の掃討をお願いします」
ほとんどの戦力をカゼハナの巣穴とその周辺にある巣穴の殲滅に集中させる算段のようだ。
三ヶ国の担当はある程度決められているようだが、配られた紙にはレッドドラゴンについての記述が無い。
「はい!」
「ベルゼ……アルトラ殿どうぞ」
「この担当の中にレッドドラゴンが入ってませんが……?」
「「「レッドドラゴン!?」」」
「樹の国以外からドラゴンが来ているのですか!?」
三ヶ国から驚きの声が上がる。
「はい、火を扱うスペシャリストの集団ということで、ジャイアントアント掃討には大きく貢献していただけるものと思っております」
やっぱりどこの国でもドラゴンは強力な戦力という認識らしい。
私が知ってる樹の国のドラゴンって言ったら……デスキラービーの時の第一部隊隊長のウォライトさんくらいかな。 (主に【EX】第349.3話参照)
私から見て左側に険しい顔して座ってる。
「フレアハルト殿とフレイムハルト殿は特別お強いとのことなのでカゼハナの主要な巣穴をお願いします。ここを殲滅すればかなりの戦力を削ぐことができるので、よろしくお願いします」
「了解した」
「分かりました」
「それ以外に十五人ほどをカゼハナ周辺に点在する巣穴の掃討に配したいと思います。雷の国と樹の国と合同で、カゼハナ周辺の巣穴の掃討にご参加いただくよう伝えておいてください」
「分かりました、そう伝えておきます」
と、一応了承の返事をしたものの、やはりボレアースへの配備が少な過ぎて懸念が大きすぎる。
『女帝がカゼハナに居る』という前提ならこの作戦で良いのだが……カイベルが言うからには、女帝は必ずボレアースに現れるはず。
さてどうやってボレアースの防衛網を強化する方向へ誘導しようか……
「ベルゼビュート様、アリサ殿とレイア殿にはベルゼビュート様の担当していただくボレアースをお願いします。残り五人のレッドドラゴンの方々はボレアースに配備したいと思います」
「分かりました」
さっき兵の配備は難しいと言われたが、レッドドラゴンはきちんと配備してくれるらしい。
レッドドラゴン族の中で突出して強いのがレッドドラゴン・ロードであるフレアハルトとフレイムハルトさんの二人。そして、アリサとレイアはそれに次ぐ能力を持っているため私と共にボレアースへ。
私の考えではこちらにフレアハルトたちを配置してもらいたかったが、アスタロトはカゼハナに女帝が居るとの判断のため、こういう構成になったのだろう。
ところが、この配備の説明を聞いた出席者から疑問の声が上がる。
「ボレアースにもレッドドラゴンを配備?」
「今激戦地はカゼハナですよ? なぜ全てのレッドドラゴンをカゼハナへ投入せず、三分の一近くをボレアースに配備するのですか?」
「現在ジャイアントアントが大発生しているカゼハナと首都のボレアースは千キロほど離れてるのに、今首都の防衛は全く関係無いではありませんか!」
ごもっとも……
現状だけを見れば、まだ何も起こってないボレアースに配備するのは全く意味が分からない。
アスタロトの顔を見たところ、既にカイベルの意見を耳に入れているため、周りの真っ当な意見にかなり困っているようだ。表情にも出ている。
「レッドドラゴンのボレアース配備はアスタロト殿の独断ですか?」
この中で一番発言力がありそうなマルクさんが問いただす。
「はい、私の独断です」
「どういった理由があるのですか?」
「まだ不確定な情報ですが、ボレアースにジャイアントアントが発生すると予想されます」
「不確定なのに予想されるのですか? それはあなたの意見ですか?」
「いえ……」
「では誰からの情報ですか?」
「私です」
「アルトラ殿ですか。…………なるほど、あなたの意見と言うことはまた何かお考えがあるわけですね? その根拠となるものはなんですか?」
一応、デスキラービーの女帝を見つけて駆除したという実績があるため、一考に値すると判断されたようだ。
まあ……あの時は勝手な行動だったために怒られてしまったが…… (第351話参照)
「私の専属メイドが分析した結果、ボレアースが狙われているという話になりました」
「一介のメイドの? そのメイドは戦場の経験や軍略の経験がおありなのですか?」
「いえ……ただ、よく当たる占い師より当たると思っています」
自分で言ってて分かる。この意見は大分苦しい……
私の予想通り、周囲からもこの予想に対する反論意見が上がる。
「よく当たると言っても……」
「戦略をメイドの意見で左右されたくはありませんね」
「専門家でもない個人の意見を聞くには危険過ぎます!」
私とあまり関りの無かった雷の国勢はもちろん否定的。ラッセルさんも黙っているものの難色を示している。
「いくらデスキラービー駆除で貢献してもらったアルトラ殿の意見と言ってもなぁ……」
「強力戦力のレッドドラゴンを、何も起こっていないボレアースに配備するのは宝の持ち腐れですな」
それどころかデスキラービー駆除で関わりのあった樹の国ですら懐疑的な見方だ。
「ベルゼビュート様、申し訳ありませんが擁護はし切れません……せめてヴァントウで湧くと聞かされた第三のはぐれジャイアントアントの情報が入って来ているのならまだ正当性があるのですが……」
カイベルの言っていた、風の国属国アーヴェルムのヴァントウという地域で湧いたと言う第三のはぐれジャイアントアントのことだが、その情報はいまだ入って来ていない。
まさかカイベルの言ったことが外れた? それとも中々連絡が出来ないほど急激な激戦に発展してしまったか?
何にしても納得させられる材料が無いから引き下がるしかない。
「いや、真っ当な意見だと思う。混乱させてごめんね」
「しかし、私も気になりますので、私の動かせる私兵を配備します」
以上の出席者の意見からアスタロトがその後少し粘ってくれたものの、レッドドラゴンの配備は七人から三人に減らされることに……
ところがこの直後に思わぬヒトが味方に。
「みなさん、ちょっとお待ちください」
声を上げたのは樹の国側として出席していたフリアマギアさん。
「アスタロト殿、アルトラ殿の言ってるメイドというのはカイベルさんのことですよね?」
「そうですが……」
「私はアルトラルサンズに派遣されて日は浅いですが、カイベル殿には私も一目置いています。彼女が全く無意味なことを言うとは思えません」
この言葉にまたしても周りが騒然とする。
「一介のメイドが言ったことに樹の国の参謀が注目してるのか?」
「どんな有能なメイドなのですか!?」
「フリアマギア殿もこんな荒唐無稽な配備に賛同するのですか!?」
否定的な言葉が挙がるものの、フリアマギアさんは話を続ける。
「彼女がボレアースに注目したのなら、レッドドラゴンの配備も減らすべきではないと考えます」
「しかしフリアマギア殿、ボレアースではまだ何も起こってないのですよ!?」
周りから直接否定的な意見がぶつけられるものの――
「カイベル殿にはカイベル殿なりのお考えがあるのでしょう。彼女は先を予測して回答することが多い方なので、ボレアースに何かが起こると考えているのでしょう。ですので、私の意見もボレアースにそれなりの戦力を配備するべきだと考えます!」
おっ? 少し風向きが変わった?
「先を予測して回答する? それは後々当たっていたりするのですか?」
「私の知り得る限りは彼女が予測したことは外れたことがありません………………いや、そういえば一度だけ外れたことがあります。彼女の言うことはよく当たっていたのでお遊びで天気を何日間当てられるか聞いたところ、二週間後の天気までを完璧に当ててましたが、三週間後の天気は当たることはありませんでした」
「あなたが派遣されてから、外したのがたった一度……?」
それを聞いてまたも騒然とする。
フリアマギアさんの話を聞いて思った。
『これって私だけじゃなく、カイベルも彼女のマーク対象なんじゃないか?』と……
私がのらりくらりフリアマギアさんの追及を躱すのと同じく、私が知らないところでカイベルにも彼女による詰問が及んでいたのかもしれない。
まあカイベルがボロを出すことはないだろうから、放っておいても良いか。
「フリアマギア殿の今の話を聞いてどう思われたでしょうか? 参考のため多数決を採りたいと思います。ボレアースにレッドドラゴンを配備するべきだと考えた方」
アスタロトを除いた、会議に出席する者たち十七人に対し、七人が挙手をする。
手を上げてくれたのは、フリアマギアさん、樹の国代表マルクさん、雷の国統括ラッセルさん、風の国代表ティナリス。
そして、私とフレアハルトとフレイムハルトさん。この二人はいまいち状況が分からないようで、私に追従したようだが。
「では配備するべきではないという方」
十人が挙手。
「では配備は必要最低限ということになりますな」
「しかし、マルク殿やラッセル殿も配備に賛成なのですか?」
出席者の質問にマルクさんとラッセルさんが答える。
「デスキラービー駆除の時にも経験しましたが、アルトラ殿の言動は少々気になりますので」
「私も同じ意見です。サンダラバードの空間魔法災害の時に気になる言動をしていたので」
(『第5章 雷の国エレアースモの異常事態編 』参照)
アスタロトが出席者を一通り見回した後――
「分かりました。結果を鑑みて七人配備というわけにはいきませんが、三人から五人に変更します」
「そんな、独断で増員させるのですか!?」
「はい。挙手の結果は『配備はしない』という意見が多かったのですが、樹の国の代表と参謀、雷の国の統括、風の国の代表が賛成となると無視できる意見ではありませんので」
「しかし現状はカゼハナを優先しなければならないのでは?」
「もしこれによって被害が拡大した場合には、全てが終わった後に私を罰してもらって構いません」
アスタロトの『罰してもらって構わない』、この一言で反論意見も収束。
「それでは担当していただく場所は以上です。よろしくお願いします」
緊急会議を締めくくられた。
会議の結果、三ヶ国のほぼ全戦力がカゼハナとその周辺の巣穴の制圧に分担されることになった。
レッドドラゴンの配備が七人から三人に減らされるところだったが、三人から五人に増員してもらえた。
ただ、ボレアース防衛が、レッドドラゴン五人に加えて、アスタロトの私兵二十人、風の国の準精鋭以下の騎士を五十人と精鋭には達していない一般騎士が四百人ほど配備されることになった。
ボレアース配備はほぼ私の独断に近いため、樹の国、雷の国の協力は得られず……
女帝の能力がどの程度か分からないが、魔王相当の敵を相手にしなければならないと考えると、この程度の人数じゃどう考えても戦力が足りているとは思えない……すぐさま全滅もあり得る……
一応カイベルから対策を聞いてはいるけど、どうしたもんか……
そして、カイベルから第三のはぐれジャイアンアント発生現場と聞かされているヴァントウについては、この会議では全く触れられず。このことは後々響いてくるのではないかと懸念している。
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