建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~

ヒロノF

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第17章 風の国ストムバアル『暴食』の大罪騒乱編

第447話 風の国ストムバアルへ

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「フレアハルト!」
「来たか! お主の言うように二十人見繕ったぞ」

 そこにはずらりと男女問わず選出されたレッドドラゴンの面々が。

「あれ? フレイムハルトさんも行ってくれるんですか?」

 レッドドラゴン族の次期族長がいる!

「我と同じ王族だ。他の者より抜きん出ている。重要戦力であろう?」
「でも次期族長でしょ? 危険に晒すのはまずいんじゃない?」
「世界的危機だろう? なればいずれこの地にも影響が及ぶかもしれん。ここで頑張って殲滅を手伝ってもらわねばな」

 良いのかな……

「アルトラ殿! 大丈夫です! 立派に務めを果たしてみせましょう!」

 本人の気合は十分のようだ。

「それにフレイムハルトに何かあっても、まだ下の弟フラムハルトがいる。その下には二人妹がいるしな」
「あ、兄上ぇ……それはないです……」
「冗談だ」

 フレアハルトからの扱いがちょっと酷いが、戦力になってくれるならありがたい!

「分かりました、フレイムハルトさんお願いします。それと族長さん!」
「何かな?」
「ジャイアントアントはアルトレリアにまで足を延ばしてくる可能性があります。この地を見張っていてもらえますか? もし緊急事態の時は助けていただきたいのです」
「分かりました。あなたは我々の主同然ですからな。今ちょうどアルトレリアに行っているリースヴュールとルルヤフラムに見張らせましょう」

 あ、あの二人そういえばダムの建設現場で働いてくれてるんだっけ。 (第364話から第365話参照)

「ちょっと火山の外までゲートを開いてもらえますかな?」
「あ、はい」

 言われるままにゲートを開く。
 すると、族長さんはそのまま首だけゲートに突っ込んで超音波で二人に指令を出した。少しするとそれに対する返事が返って来る。

「これで二人にも伝わったでしょう。すみませぬな、火山内部からでは超音波は外に届かないので」
「いえ……」

 ビックリしたぁ……突然首だけ突っ込むもんだから何事かと……
 つまりは……火山の外までいちいち出歩くのが面倒だったわけね……

「町に何か異変があった時にこちらに伝えるように指令を出しました。異変があった時には我々が出動しましょう」
「ありがとうございます!! では二十人の勇士をお借りします!」

   ◇

 ゲートで我が家に帰って来るとアスタロトたちは庭で既に待機していた。

「ベルゼビュート様! その方々が助っ人ですか?」
「強いヒトを二十人見繕ってもらった。火のスペシャリストたちよ!」
「何の種族なのですか?」
「レッドドラゴン」
「レッドドラゴン!? 全員が!? ドラゴンがこんなにも!?」
「凄い! レッドドラゴン二十人なんて、大戦力ですよ!」
「ドラゴンを駆除に駆り出したりとかしないの? ドラゴンなら身体も大きいしアリ退治も捗りそうだけど?」
「しませんよ! ドラゴンはあまり人里に降りて来ませんから、亜人や魔人と関わろうとするドラゴンは稀です。――」

 あ~、だからどこ行ってもあまりドラゴンには会わないのか。

「――ましてやドラゴンの団体を従えるなど、私たちのような魔人であっても困難ですから。我々がドラゴンの団体を従えようとすれば少なくない犠牲が出ます」
「そんなに!? ドラゴンってそこまで気難しい種族なの?」
「自分たちの力に誇りを持っていますから、魔人や亜人などヒトに従う者は稀ですよ」

 そういえばフレアハルトの最初の頃もそんな性格だったっけ。亜人のこと毛嫌いしてたし。 (第41話から第42話参照)
 じゃあ、樹の国の守護志士やってるウォライトさんって稀なタイプだったのね。 (第340話、【EX】第349.3話を参照)
 フレアハルト曰く、火の国のステラーシアさんもドラゴンらしいけど、アルトレリア外で出会ったのはこの二人くらいだしな。あと悪者が一人と。

「魔王ほどの能力を持っていれば力づくで従えることも可能かもしれませんが、その後の関係を考えるとおいそれとそんな行動は起こせません。無理にでも従わせるようなことをすれば、下手をすると復讐で町ごと破壊されかねませんから」

 そ、そんな大ごとだったのか……
 私の場合はたまたま最初に出会ったのが王子フレアハルトで、本拠地に乗り込んだ時にはフレアハルトの私への理解が進んでいて味方になってもらえたから、少数を相手にするだけで済んだ。だから族長さん相手に力を見せることができ、結果的に認めてもらえたのかもしれない。 (第100話から第104話参照)
 実際、レッドドラゴン・ロード二、三人に同時に【インフェルノ・ブレス】を吐かれれば、私の魔法障壁をもってしても跡形もないと思うし。

「ところでベルゼビュート様は火の国と交流があるのですか? 七大国会談ではあまり良好な関係が築けるようには思えませんでしたが……」
「いいえ? 何で火の国なの?」

 良好な関係どころか、今最悪な状態だけど……

「レッドドラゴンと言えば火の国のドラゴンなのでは?」
「え? そうなの? このヒトたちはうちの近所に住んでるんだけど……フレアハルト、火の国出身なの?」
「いや、知らんが……」
「それについてはわたくしがお話します」

 アリサが話し始めた。

「赤龍峰に住むレッドドラゴンは、太古の昔に火の国から分かれた、亜人たちで言うところの分家のようなものです。もう数百年の昔に火の国の火山を追われ、火の魔力が潤沢であった赤龍峰に勝手に住み着きました。なので、本家に当たる火の国の者たちとはほぼ交流も関係も無いと言ってもよろしいかと思います」

 分家と言うよりは、勢力争いに敗れた王族って感じかしら?

「へぇ~、何で王族のフレアハルトが知らないの?」
「我々には書物の文化がありません。口伝でしか伝わっていないので、聞いたことがないか、話されたものを聞いていなかったかのどちらかでしょう」
「フレイムハルト、お主は知っておったか?」
「兄上……幼体の頃におとぎ話のようにお話しされませんでしたか?」
「そうだったか? きっと寝付きの良い子だったのだろう」

 ああ……弟さんの様子からするとフレアハルトの勉強不足っぽいな。相変わらずの聞いてなさを発揮。
 こう言ってはなんだけど、フレアハルトが族長候補外れたのはレッドドラゴン族にとってはむしろ僥倖ぎょうこうだったのでは?
 頭の回転はそれなりなのに興味無い話はほとんど聞いてないのよね、コイツ……
 と、思ったら何か目が泳いでる。何か嘘を言ってる目だ。この男の嘘は手に取るように分かる。ババ抜きの時もジョーカーがどこにあるかすぐに分かったし。 (第59話参照)
 フレイムハルトさんがいるから『知らない』と嘘吐いてるのかも。王族フレイムハルトさんの手前、ちょっとでも頭良く見せると戻って来いとでも言われると思ってるのかも。
 余程族長やりたくないんだな……フレアハルトには性格的に窮屈だったのかもしれない。まあ、黙っててやるか。

 アスタロトが口を挟む。

「あの……ベルゼビュート様、こちらから話を振っておいてなんですが、そろそろよろしいでしょうか?」

 そうだ! 今緊急事態なんだっけ!

「はい、それじゃあ行きましょう」
「アスタロト様、五分ほどお時間をください」
「どうしたのカイベル?」
「こちらへ」

 何だ?

「女帝蟻の対策を話しておきます。女帝は――」

 カイベルから女帝の攻略方法を聞かされた。

「――全て上手く行くとは限りませんが、魔王相当の敵を相手にするには知っておいた方が良いかと思います」
「うん、ありがとう。助かるよ!」
「よろしいですか?」
「うん、行きましょうか。じゃあカイベル、今回も二人のお世話お願いね」
「了解しました。いってらっしゃいませ」

 イルリースさんが【強制転移フォースド・ゲート】を使って全員を風の国へ転移させた。

   ◇

 そして風の国首都・ボレアースの城の前――

「ベルゼビュート様、ようこそ我が国へ。挨拶は手短になってしまいますが、ご容赦を」
「うん、そんな事態じゃないことは分かってるから大丈夫。それにしても結構明るいのね。今まで訪れた国の中で一、二を争うくらい明るいかも」

 アルトレリアと違って太陽が無いから暗いのかと思っていたが。

「我が国は光の精霊が多く住むため、光魔法による恩恵が受けられているのです」

 上空を見回すと光の球体がいくつか浮かんでいる。あれを作ってくれてるのがここに住む光の精霊ってわけか。

「また、隣が雷の国エレアースモですので電気関係もそれなりに発達しています。年中強い風にさらされているので風力発電で電気を起こすのにも事欠きませんしね」

 なるほど。この国には二種類の光源となるものがあるわけか。

「では私に付いて来てください」

 私+レッドドラゴン、ティナリス、イルリースさんの二十数人がアスタロトの後ろをゾロゾロと付いて入城。
 歩き出す前に少し遠くを見てみたところ、この城はかなり高いところに建っているらしい。城下町が小さく見えるくらい高度がある。
 キノコ岩の上に建っているらしいから、遠景で見たかったところだけど、今はそれどころじゃない。ジャイアントアントの件が解決したら後で個人的に見に行ってみよう。
 ただ、歩く間に情報だけでも教えてもらおうかな。

「ティナリス、この城って通称:キノコ岩の上に建ってるのよね?」
「そうですね」
「何でキノコ岩なんかに建てたの? 何だか安定感とかそういうの考えると危なくない?」
「元々はキノコの形なんかしてなかったみたいですよ?」
「どういうこと?」
「元々はちゃんとした台地だったそうですけど長い年月の風化によってこうなったそうです。この土地は下から吹き付ける風が凄いので、徐々に徐々に岩の柔らかい部分が風化によって削られて、硬くて強い岩の芯の部分が残った結果、キノコみたいな形になったとか」
「へぇ~、なるほど。そういうことでキノコみたいな岩の上に町があるってわけね。でもキノコの傘の部分だけ硬いってのもおかしくない?」
「それは多分まだ削ってる最中なんじゃないですかね? あと数百年か数千年かしたら、キノコの傘部分も無くなってるかもしれません。キノコに分かれる前に、岩の上に建ってた建物は台地がキノコに分化していった過程で裂けて崩壊してしまったんじゃないかとか歴史家が言ってますし。まあ年に一回くらい土魔法で補強してるので、この光景はそうそう簡単いに変わることはないと思いますよ。キノコ岩と言えば風の国ストムバアルの名物でもありますし」
「へぇ~、そうなんだ」

 キノコ型の土地の成り立ちには歴史があるようだ。

   ◇

 そうこう話ながら歩いていると、目的の場所に着いたらしい。
 そこは大広間。私たち以外にも集められた兵士らしき姿が。

「皆様、お待たせ致しました」

 アスタロトの言葉に、集められた兵士たちの視線がこちらに集まる。
 その中に見知った顔が。

「あれ? マルクさんじゃないですか!」
「アルトラ殿! あなたも援軍要請されたのですか」

 デスキラービー討伐の時の総司令官、樹の国の守護志士であり大佐階級のマルクさん。 (第334話から第352話参照)
 こんなところで顔を会わせるとは!

「そっちにはアランドラ隊長も!」
「アルトラ殿! お元気そうで何よりです」
「よく見るとデスキラービーの時の面々が多いですね!」

 樹の国から来たヒトたちは見知った顔が多い。あの時の隊長格は全員居る。 (第340話、【EX】第349.3話、【EX】第349.7話を参照)
 第五部隊所属中にお世話になったアランドラ隊長が話し始める。

「まあ、風の国は樹の国の隣ですから。必然的に協力要請で顔なじみになることが多いんですよ」
「ここに居るヒトで全部ですか? ルシガン副隊長はいないようですけど」
「ここ居るのは隊長格だけで、部下たちは街で待機中です」

 他にも知ってるヒトがいるかと周囲を見回していると、フレアハルトが先に誰かに気付いた。

「ん? おいアルトラ、フリアマギアがおるぞ?」
「ホントだ! フリアマギアさん! 何でここにいるんですか!?」
「あ、アルトラ殿も協力要請されたんですね。何でって私も樹の国の戦闘要員なんで召集受けたんですよ。今回も三大凶虫ですし」

 そうか、アルトレリアに派遣されてる最中だから召集されてないかと思ってたけど、私とは別口で召集されてたのか。
 そう言えばいつも我が家へ続くドア付近に居るのに、今日は見かけなかった気がする。
 他にも見知った顔が。

「あら? ラッセルさんじゃないですか!」

 雷の国魔王アスモの親衛隊の一人。何で彼女の親衛隊が駆り出されてるか分からないが、きっと腕が立つからだろう。 (第118話から第121話辺りを参照)

「あ、アルトラ様、お久しぶりです」
「他のみなさんはいないんですか?」
「我々は本来はアスモデウス様の護衛ですので、護衛の中でここへ来ているのは私だけです。側近全員をこちらへ寄越すわけにはいきませんから。私は統括役兼回復要員として派遣されています」
「なるほど」

 その他、雷の国からの援軍は名前は知らないが見知った顔もちらほら。

「お主は顔が広いな」
「まあ色んな国行ったからね」

「では、申し訳ありませんが全員は入れないので、隊長格の方々三から五人ほどを選出して入室ください。今からジャイアントアントの対策会議を始めます」

 ゾロゾロと会議室へ入室していく各国から集められた面々。

「じゃあ、私と……え~と――」

 状況考えるとフレアハルトを連れてくのが正しいんだろうけど……
 ちゃんと話を聞いててくれるアリサが良いかな。

「――アリサとフレイムハルトさんで行ってくるからあなたたちは待機してて」
「待て! なぜ団長である我を差し置いてアリサなのだ?」
「あなたちゃんと話聞いてられる?」
「安心しろ、TPOは弁えておる」

 だったら普段から話聞いててよ……

「分かったよ。じゃあアリサに代わってフレアハルト、行きましょうか」

 フレアハルトが付いて来てくれたレッドドラゴンたちに向けて言う。

「ああお前たち、くれぐれも争いごとは起こすなよ」
「そんなこと言わなくたって大丈夫じゃないの?」
「我らは我ら以外の種族との接触がほとんど無いから、一応言っておく必要があると思ってな。我とお主が初めて会った時は排他的であったであろう?」

 そういえばそうだった。
 確かに、このヒトたちは一部の者以外は外界との交流が無い。何せ火山内部だけで衣食住困らないから。アルトレリアとすら交流が無いんだ!

「王子~、我々も別に争いごと好きってわけじゃないですよ」
「分かっておる、大人しく待っていてくれ。アリサ、レイア監督を頼むぞ」

「「はい」」

 私たち三人は会議室へ向かった。
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