上 下
450 / 533
第17章 風の国ストムバアル『暴食』の大罪騒乱編

第440話 七つの大罪『暴食』の所在が判明?

しおりを挟む
 アルトレリアが五大国と国交が結ばれてからふた月あまり。
 アルトラ邸にて――

 コンコンコン

「アルトラ様~、風の国の大使館からご連絡です~」

 この声はマリリアか。

 ガチャ

「はい、連絡ってどんな用事?」
「それが……魔王代理の方がアルトレリアを訪れるそうです」
「そう、わかったよ。それで何日後に?」
「と言うか……もう来てます」

 ん? 聞き間違えたか?

「誰が来てるって?」
「アスタロトと名乗る魔王代理の方が直接……」

 え!? アスタロト!?
 もう来てる!? 風の国の魔王代理が!?
 大使館の連絡と同時に来るって、早過ぎない? 空間魔法っていう移動手段があるから、魔界ではこれが普通なのかしら?
 いや、でも魔王代理が大使館へ連絡と同時に来るってことは、相当緊急の用事ってことなのかもしれない。

「分かった、じゃあ登庁するよ」
「いえ、こちらに来たいとのことです」

 ああ……ってことはまだあまり知られたくない話ってわけか……

「分かった。こちらへ通してもらえる?」
「了解しました」

   ◇

「お久しぶりでございます、ベルゼビュート様」
「ヤッホー! お久しぶりですベルゼビュート様ぁ」

 ティナリスも一緒か。
 何なんだ、突然魔王代理と騎士団のトップが一緒に訪ねてくるなんて……
 嫌な予感しかしない。

「イルリースさん、最近度々会いますね」

 今回も彼女が運搬役。もしかしてアルトレリア専門になってるのかしら? それとも風の国って空間魔術師不足で彼女しかいないとか?

「そうですね。ですが前回アスク先生とネム先生を送って来た時とは違って今回は緊急のお話ですので」 (第422話参照)

 やっぱり緊急なのね。
 でも風の国とアルトラルサンズに接点はまだアスク先生とネムさんくらいしか無いのに、一体どんな話が?
 まあとりあえず話を聞いてみましょうか。

「それでアスタロト殿、なぜ私に会いに来たんですか? 私はもう『暴食グラトニー』の大罪の宿主じゃありませんし、風の国とは無関係だと思うんですけど……?」
「どうか呼び捨てでお呼びください」
「でも……あなたは風の国の魔王代理ですし……」
「呼び捨てで!」

 何でそこまでこだわるんだ?
 まさか、これも私を女王に据えようという計画の一環? (第235話参照)

「わ、わかりました……いや、わかったよ。それでなぜ私に会いに?」
「まさにその大罪のことでお話に参りました。実は最近我が国のとある場所に『暴食グラトニー』の能力に酷似した能力を持つ者が現れたとの報告を受けました」
「あ、そうなの!? やっと見つかったのね。じゃあそのヒトが次の王様になるってことかな?」

 ようやく行方不明だった大罪の一つが見つかったのか。
 これでアスタロトも、私を女王にするのを諦めてくれるだろう。

「いえ……残念なことに、その者はヒトではないようでして……」
「ヒトではない? 亜人でも魔人でも精霊でもないってこと? 七つの大罪ってヒト以外も宿主にするの?」
「我々も知らなかったことです。国が興って九千年余り、そんなことは前代未聞でしたので。もっとも……大罪ごとに性質が違うのであり得ないことではないのですが」
「性質?」
「例えば、歴史上の継承者を照らし合わせるとレヴィアタン殿の『嫉妬エンヴィー』とアスモデウス殿の宿す『色欲ラスト』の大罪は女性しか宿主の対象にせず、ルシファー殿の宿す『傲慢プライド』は男性しか宿主の対象にしないとされています」
「えっ!? 大罪自体に性格があるの!?」

 大罪を受け継いだ時に、そのヒトと大罪との相性次第で性格が変わるのかと思ってた。大罪自体にも好き嫌いがあるのか。
 そういえば、エミリーさんがアスモの宿す『色欲ラスト』は光魔法が嫌いだから白天使ホワイト・ヘルヘヴンは継承の対象にしないって言ってたな。 (第125話参照)

「そのように大罪によって性質に違いがありますが、歴史上ヒト以外を宿主にした例がありませんでしたので、ヒト以外を宿主に選ぶというところに思い至りませんでした」
「なるほど。それで、その発見された場所と宿主にされた生物は何なの?」
「場所は樹の国との国境の国、風の国の属国ヴィントル。所謂いわゆる戦時下で言うなれば『緩衝地帯』といった国です。宿主となった者は、どうやら『ジャイアントアント』という蟻のようなのです」
「蟻!?」

 ジャイアントアントって、何か聞き覚えあるぞ?
 確か……博物館に展示されてた巨大昆虫だ! (第271話参照)

「それって三大凶虫ってやつよね!?」
「はい、その通りです」

 デスキラービーに続いて、第二の三大凶虫を相手にしなきゃいけないってことか……

「ティナリス、あなた大変ね。ハチに続いて次はアリって……」
「まあ私も国に従事する兵士ですから仕方ないですよ」
「話を戻してよろしいでしょうか?」
「あ、はい、どうぞ」
「接敵した調査兵の話では、どうやらそのジャイアントアントの女王とみられる個体が『暴食グラトニー』の大罪の宿主となっているようなのです」

 女王蟻……
 何か聞いた覚えがあるぞこんな展開。
 とある漫画に食った相手の能力をストックして、次世代の子供に遺伝させる『キマイラアント』っていうアリの敵がいた。その名の通り複数の生物が融合している『キマイラ』から名付けられたアリ。
 レヴィに聞いた話によると、『暴食グラトニー』の大罪としての権能は『喰べた相手の能力を得る』と『喰べた対象に変身できる』って能力だったはず。
 ってことは……

「もしかして、その女王蟻の子供がアリ以外の見た目をしてるとか? 例えば亜人みたいな容姿だったり。もしくはアリに何か混じってるとか、例えばクモの特徴を持ってたり、それら別の生物の能力を使えるとか?」
「いえ、今のところそう言った異様な姿の働きアリの報告はありません」
「あ、そうなの?」

 それを聞いて大分安心した。
 子供にまで遺伝するような能力かと思ったが、大罪の影響があるのは宿主となった一代限りなのね。
 もし女王蟻の子供にまで他生物の特徴が遺伝するようなら、デスキラービー以上の大惨事に発展していただろうことは想像にかたくない。
 でも、まだ報告に上がってないだけで、別の能力を持ってるヤツがいる可能性は十分にある。

「しかし仰る通り、特に問題なのは女王蟻でして、生還した調査兵の話によると亜人のような姿に変身するところを目撃したとのこと。それどころかアリの女王にも関わらず、鳥のような羽が生えたり、皮膚がウロコのようになったり、背中が亀の甲羅のようになったりするそうです。また、片言ながら人語をしゃべったりするという話まで出てきています」
「それってやっぱり……」
「『暴食グラトニー』を宿しているからと見て間違いないでしょう。様々な生物に変身する生物など、他に見たことがありませんから」

 女王蟻については、ホントに『キマイラアント』みたいだな……これが『暴食グラトニー』の大罪の能力か。
 と言うか、亜人の姿を取るってことは、誰か一人以上は食われてる亜人がいるってことよね?
 それは、通常のアリのように死体を食ったのか、生きてる亜人を食ったのかまではわからないけど……

 やっぱりヒト以外が『暴食グラトニー』を得ると、その力をフルに使おうとするのね……
 ここに来て表面化してきたってことは、前々世の私が死んでからおよそ二十七年間地下に潜んでたってことなのかな?
 ってことは、もしかしたら密かに物凄い多種類の生物を食べてる可能性があるんじゃないの?
 しかも変身能力をフルに使ってるってことは、それらの生物の能力も会得しているわけで……ヒトではないだけで魔王の力を得た生物に対して、魔王の力を失っている私が勝てる相手なのかしら?

「もしかして最近風の国で発見されたっていうジャイアントアントの集団がそれ?」
「ご存じでしたか。既に接敵しており、現在も働きアリの集団との交戦状態が続いています」
「昨日ちょうどラジオで聞いてたところ。確か……ジャイアントアントってかなり大きかったよね?」
「体高二メートル、体長三メートルというところでしょうか」
「改めて聞いても大きいわ……」

 しかも普通にその辺に生息するアリの生態と同様、これが一体だけではなく集団で存在しているというところに戦慄を覚える……
 生まれる数は流石に普通のアリほど多くは無いでしょうけど……これがもし普通のアリと遜色無いほどの生産数を誇るなら、もうとっくの昔に魔界はアリの一大帝国になっているはずだし。

「ご存じかもしれませんが、その身体の大きさから、ジャイアントアントは全世界的に見つけ次第駆除する対象になっています。ですが……今回はなぜか長年発見されずにどんどん個体数を増やしたケースのようで、地上に現れた時には既にかなりの大勢力になっていたようです」

 きっと『暴食グラトニー』の効果で知恵を得た女王の指示ね。戦力が整うまでしばらく潜伏するように命令してたってところか。

「大勢力って……今はどれくらいの被害に?」
「今回最初にジャイアントアントが発見された属国ヴィントルのカゼハナという町は、報告された時点で既に壊滅された後だったようです」
「町が壊滅!? じゃあ住民は!?」
「……ほぼ見つからなかったと報告を受けています。数人から十数人程度が近隣の町で保護されたようですが、全員恐慌状態で事情を聴くにもままならず……辛うじてアリにやられたということだけ。他の住民は恐らくアリに……」
「そう……」
「更に、その近隣の町にも巣穴を拡張をしていたらしく、既に働きアリによる被害が出ています。また、別の報告によるとヴィントル西部で集団で移動している姿が目撃されたとの報告も」

 これって放っておいたらあっという間に世界中がアリに蹂躙されるんじゃ……
 デスキラービーの親衛蜂ばりにヤバイ案件かもしれない……

「それと、他生物の能力を持つというわけではありませんが、女王蟻の魔力の影響を受けているのか、これまでのアリとは違う性質のアリも登場してきています」
「それって……今までのアリにはない能力を持ってたりするってこと?」
「はい。中には水の中に潜る個体や、飛行する個体まで出てきたようで……」
「アリが?」

 潜水するアリなんて聞いたことないな……雨上がりとかに水たまりで水面上をもがいてるのはよく見たことがあるけど。
 飛行する個体は、そんな巨体で上手く飛べるのか? もし鳥のように飛べるなら、あっという間に被害範囲が拡大することになる。

「今までのアリで駆除にここまで苦戦することはありませんでした。わたくしどもは他生物の能力とは思っていませんでしたが、もしかしたらこれが?」
「そこまでは分からない……デスキラービーの時も今までに無い能力を持つ個体が出現してたから、もしかしたらそれに類似するケースかも」

 まさかデスキラービーと同じで、巣が大きくなれば大きくなるほど強力になる性質なのか?
 ハチとアリって確か同じ『ハチ目』だったはず。
 それに付け加えて、『三大凶虫』と言われてるくらいだから、デスキラービーと同じような性質を持っててもおかしくはない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

私は、忠告を致しましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。  ロマーヌ様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ?

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

傍観している方が面白いのになぁ。

志位斗 茂家波
ファンタジー
「エデワール・ミッシャ令嬢!貴方にはさまざな罪があり、この場での婚約破棄と国外追放を言い渡す!」 とある夜会の中で引き起こされた婚約破棄。 その彼らの様子はまるで…… 「茶番というか、喜劇ですね兄さま」 「うん、周囲が皆呆れたような目で見ているからな」  思わず漏らしたその感想は、周囲も一致しているようであった。 これは、そんな馬鹿馬鹿しい婚約破棄現場での、傍観者的な立場で見ていた者たちの語りである。 「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹でもあります。

処理中です...