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第16章 大使就任とアルトレリア健康計画編
第438話 ヘパイトスさんを巻き込もう!
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事務所の応接間に通され、すぐにヒルデガルトさんがコーヒーを二つ持って来てくれた。
「お気遣いありがとうございます」
「それで今日はどうした? 突然来たからには何か頼みがあって来たんじゃないのか?」
「はい、深度計って作れますか?」
「震度計? 揺れを感知するやつか?」
「いえ、そっちじゃなくて深く潜る方の……」
「ああ、深い方の深度か。出来ないことはないと思うが、なぜだ?」
「最近町作りに着手してましてね」
「町作り? トロル村のことか? 今は確かアルトレリアって名前になったんだったな。今更何言ってるんだ? お前さんが町作りしてるのなんて疾に知ってるが……」
「私がある程度色々作れるのはご存じですよね?」
「そうだな……まあ太陽や水を噴き出す木、一歩で別の場所へ移動できるドアを作ったって言われれば、お前さんがワシらが作れないようなものを作れるのくらいは分かるよ」 (第81話参照)
目をつぶってうんうんと、わずかに頷く。
ところが次の瞬間突然険しい顔になった。
「……ところでな、それ、もしかして不特定多数のヤツらに言ってないよな?」
険しい顔で聞いてきたが、怒っているというよりは心配しているような雰囲気。
「う……あ、あの頃は私の考えも大分迂闊だったので、ヘパイトスさんには話してしまいましたけど、今は隠すようにしてます。それによって狙われるのもごめんですから」
「そりゃ良かった。お前さんは孫の命の恩人だからな。それによってトラブルが起こるのではと心配していたんだ」
「大丈夫ですよ」
本当は絶賛トラブル抱え中だけど心配させてるようだから黙っておこう。
「それで、町作りに話を戻しますけど、そういう訳で私が作った魔道具のことを誤魔化すのに『古代遺跡』で発掘されたってことにしてたんですが、それを言い過ぎまして……『本当にあるのか?』と勘繰られ始めたので……」
「『古代遺跡』から発掘されたことにしていた? それと『町作り』に一体何の関係が……?」
しばらく顎に手をあて、一点を見つめて考え出した。
……
…………
………………
「…………………………あ! まさか……お前さん本当に古代遺跡を作り始めたのか!? そりゃ凄い! 町作りってそのことか! 面白いこと始めたじゃないか!!」
く、食いつきが良いな……
「作り始めたと言っても現段階はまだ穴掘ってるだけなんですけど、それでどの程度掘ったか地下深度を測れるモノが要るなと思ったので」
「自分で作れば良いじゃないか」
「私の特性覚えてませんか? 自分が理解できてないものは作るのが難しいって。機械みたいに沢山の細かいパーツで構成されてたり、複雑な仕組みのものは細部まで考えが及ばなくて作れないんですよ」
「そういえばそんなこと言ってたな。しかしその理屈だと、太陽や水を噴き出す木は理解出来てるってことか?」
「いえ、あれは『魔法的な物質』とか『不可思議な現象』という抽象的な考え方で作ってるので成り立ってるんですよ。例えば水を噴き出す木の場合、『水が流れ出る』+『木』という感じにイメージが組み合わさってます。水を噴き出すところは見たことあるのでイメージできますし、木もその辺に生えてるのでイメージしやすいと」
「ワシには理解し難いがお前さんの頭の中では繋がってるんだな」
「はい。でも機械の場合は細かい部品が複雑に組み合わさって作用しますよね? ギアが一つ噛み合ってないだけで、それがどんなに小さなパーツだったとしても動かなくなるじゃないですか? そういった具体的な構造を理解できてない私では再現が難しいんですよ」
「なるほど。“連動している”ってところが理解できないから、機械関係はお前さんには作り出せないってことなのか」
「そういうことです」
「で、事情を知ってるワシのところに頼みに来たってわけか」
ヘパイトスさんはまた少し考え……
「良いぞ、作ってやるよ。だが、そんな面白いことワシにも一枚噛ませろ! 古代文明の機構部分はワシが担ってやるよ」
「ホントですか!? 相談に来た甲斐がありましたよ! で、でも古代遺跡の作成者の名前は明かせませんよ? あくまで“古代の遺跡”が“今発掘された”って体を装わなければならないので」
「ワシを誰だと思ってるんだ? 知名度なんてもう必要無いくらい知れ渡ってるよ」
すっげぇドヤ顔でニカっと笑った。
そ、そうか。気軽に頼みに来てしまったけど、考えてみればこのヒト、ドワーフの中でもかなり名の知れた名匠だった。
名匠ならそんなドヤ顔も許されるわ。
「じゃあ丁度良かった! 『ドワーフの古代遺跡』ってことにしたかったんで! ヘパイトスさんが手伝ってくれるなら本当にドワーフの遺跡になりますね!」
「こ、古代か……ワシ、古代?」
「“ドワーフの”って付けるところに躊躇しなくて済みます!」
「ま、まあワシが手伝えば本当のことになるしな。古代は嘘だが」
「頃合いを見て、『あれは実は私が……』なんて可能性もありますけど、多分終生黙ってることになるでしょう。何せ“古代”遺跡ですから」
「まあ、その辺りの公表するかしないかなんてのはお前さんが勝手にやれば良いさ。公表したい時にはすれば良い」
「ありがとうございます!」
これで一応『私主導で』という許可は貰えた。
ただ……やはりこれも聞いておくべきだろう。
「ここからちょっと大真面目な話をします」
「何だ改まって」
「世界中に嘘を吐くことになりますが、大丈夫ですか?」
「…………まあ、誤魔化す方法はいくらでもあるんだろ? 例えば発掘年代を誤魔化す方法とか」
「え、ええまあ……」
「それにお前さんがこの計画の主導権を握ってるってことは、バレた時の全責任も被るつもりでいたんだろ?」
そこまで気付いてたか。私の都合で手伝ってもらうのだから、最大限ヘパイトスさんに被害が及ばないようにするつもりでいる。何せこの偽装自体が、私の創成魔法を隠すためのものだから。
「お前さんがそこまで覚悟してるなら問題無いよ。仮にワシが加担したとバレたとしても、それによってお前さんを咎めることもしない。自分で決めたことで他人を責めるのはワシの流儀に反するからな」
「そうですか、そこまで覚悟していただいてるなら何も言うことはありません。でも敢えて言うなら、こんなバカな考えに賛同してくれてありがとうございます」
「まあ、既に引くに引けないところに来てるだろ?」
「う……はい……現時点で複数の大国を騙してる状態です……」
「大国を騙してる!? そんな答えまでは予想してなかった……一体どんな嘘を吐いたんだ?」
臨時会談でのやり取りを話した。 (第293話参照)
「なるほどな。やむを得ず吐いた嘘とは言え、巨大な嘘を吐いてしまったな」
「はい……今はちょっと、いや大分反省しています……魔界に来て最初から能力を隠してればここまで大ごとにはならなかったでしょうし……魔法使えるようになってちょっとはしゃぎ過ぎました……」
それと、あの頃は魔界には地獄近辺だけしか存在してないと思っていた。まさか魔王なんて巨大な存在がいるとは露ほども思っていなかった時分だ。
「確かに、潤いの木やゼロ距離ドアなんてどう考えても今の技術で作れんし。それはもう“古代の叡智”か“神々の遺産”くらいに考えないと説明が付かん。『古代遺跡で発掘された』くらい大きく嘘を吐かないと成り立たないかもしれないな。何せ魔界にとってオーバースペックな魔道具や植物が突然現れたわけだしな」
「お、仰る通りで……」
「だが、嘘を吐き通す能力があるなら吐き通すのも一つの手ではあるな。毒を食らわば皿までだ」
「……そうでしょうか? でもバレた時には……?」
「もしバレた時には洗いざらい吐いて、テーマパークにでも作り替えてしまえば良い。『発掘されたように装ってました。皆様、楽しんでいただけましたでしょうか?』ってな感じでな。他人を楽しませるために作ったものを咎める者もそんなにはいないだろう。何せこれによる被害は“古代遺跡が発掘されたのが嘘だった”ってところだけだからな。魔道具が存在してることは事実なんだから」
「そんな簡単なことですか?」
「そんな簡単なことさ。ヒトの噂なんて七十五日もあれば忘れられる。悪意を持って作られたのではないなら、大抵は好意的に解釈してくれるもんだ」
頼もしいな、このヒト……
「まっ、その後に各国がお前さんを巡って争奪戦が始まるか、お前さんが過労死するほどの魔道具の注文が殺到するか、それとも別の要素で忙しくなるか、いずれにせよお前さんの生活環境が大きく変動する未来が待ってるのは間違い無いだろうから、バレなきゃバレないのが一番良いがな」
「ア、アハハ……」
やっぱりバレた場合は、私の周りの環境が変わると予想できるわけね。
「ところで、ワシの他にお前さんの特殊な事情を知ってる者はいるのか?」
「深い事情まで知っているのはリナさんとカイベルとクリュー、それとレヴィアタンです。それほど詳しくなければ旧トロル村のみんなはほとんどが」
「レヴィアタンって……うちの国の女王様か!? どういう経緯で!?」
「それは流石に言えません」
創成魔法奪われたことがあるからなんて言えないわ……
「それほど詳しくなければ村だった時の大多数が知ってるって……知ってる人数多くないか? それでよく他国にバレないもんだ」
「いえ……お恥ずかしながら結構怪しまれてます……」
「そうだろうな」
「ですが、私の仕業と確認できなければ、それは確定ではありませんから!」
そう、限りなくクロでも確定さえされなければ、まだクロではないのだ!
「……うん……まあお前さんの事情だから別にそこは良いが……カイベルってのは、お前さんのメイドの? 随分信頼してるんだな」
「そうですね。カイベルは私には勿体ないほどの忠臣です」
彼女が居なければ、私もリディアもネッココも餓死してしまうんじゃないかってくらい、胃袋掴まれてるし。
「リナさんってのは、確かここに一緒に来たウォルタ家のお嬢さんだな。そっちはどういう経緯で?」
「ヘパイトスさんと同じく成り行きです」
「そういえば相談に来た時に同席してたんだったな」 (第80話参照)
「あの頃の私はガードがユルユルだったので……」
今思えば迂闊過ぎたなと思うが、ヘパイトスさんやリナさんが他言しない人物だったから助かっている……
「あの時確かクラーケンの子供も同席してたよな? そいつは知らんのか?」
「いえ、リディアも一部分だけは知ってます。それももう一年一緒に住んでて、知られたらまずい事情って分かっているようなので彼女が無闇に吹聴することはありません」
家でアニメを見ることのような、町民にすら知られたらまずいことも知ってるしね…… (第289話参照)
同じくネッココも。
「なるほど。クリューってのは誰だ?」
「ヘパイトスさんがアルトレリアを離れた後に町に加わった人物です」
「何でそんな途中から加わったヤツがお前さんの事情を知ってるんだ?」
「特殊な事情と言うヤツです」
「お前さん秘密多いな~」
「すみません、こっちに関しては彼の許可を得ないと言えないことなので……」
「ってことは、そのクリューってヤツにも秘密があるってわけだな」
う~ん……鋭い……
「それで、お前さんの能力がバレそうになってる相手ってのは誰だ?」
「樹の国のフリアマギアってヒトなんですけど……」
「ああ、エルフのお嬢さんだな。ワシより少し身長が高いくらいのメガネの大分変人だろ? ああ、今はもうお嬢さんなんて年じゃないか」
「知ってるんですか? と言うか年齢までご存じで?」
「う~ん、まあ何度か顔を合わせてるよ。ワシも若い頃は色んなところに行ってたからな。年齢はワシが樹の国に行ってた時はまだ二十歳そこそこだったと思うが……多分百歳くらいになるんじゃないかな?」
「百歳!? まだ少女のようですけど……」
「エルフは長命種の中でも若い期間が長いからな。三百歳超えたくらいから急激に老け込む。寿命はワシらより少し長い三百五十から四百歳くらいだったかな。それまではワシらドワーフの五十から六十歳くらいの見た目を保ち続ける」
え~と、ドワーフの五十から六十歳って言うと、四十一歳のヤポーニャさんより二十くらい上か。ヤポーニャさんの見た目が十五歳くらいに見えるから………………え~と……人間で言うとだいたい二十歳くらいの見た目が長いってことかな?
種族ごとに当てはめて計算しないといけないからややこしいわ……
「しかしバレそうなのはフリアマギア嬢か……」
……
…………
………………
また少し考え込んだ。
「黙ってどうかしましたか?」
「それ、こちら側に引き込んでしまえば良いんじゃないか?」
「えっ!? だ、大丈夫なんですか!?」
「探求心の強い変人だが、吹聴して回るような人物ではないと思っている。多分お前さんが思ってるより、ずっと口は堅いと思うぞ?」
本人曰く、『ルールの中で好き勝手やってるだけ』とか言ってたな。言い換えればルールを架してしまえば吹聴する可能性は限りなく低くなるってこと……なのか?
確かに口が堅い人物であれば、一人に教えたところでそれ以上広まらないかもしれないけど……
臨時会談で参加しなかった火、氷の国、それと女王様が事情を知ってる水を除いた四大国を騙してる状態だから、有能なヒトがこちら側になってくれるのは頼もしくはあるが……
それでも知っている者が一人増えるというのはリスクは上がる。普段は口が堅くても何かの拍子にポロッと口にしてしまう可能性は無い話ではない。かと言って私の都合一つで約定魔法で縛るものでもないし。
それに、ヘパイトスさんとは違って、フリアマギアさんは樹の国から派遣されてアルトレリアに来ている。国の上層部と直接繋がりがあるから、引き入れるにはやはりリスクが高い。多分日本で言うところの公務員みたいなものだろうし上からの命令には逆らえないかもしれない。
現状はルシファーの件も片付いたとは言えないし、今以上に厄介事を増やしたくはない。
……
…………
………………
「いえ、やはり現状私の秘密を知るヒトが増えるのは好ましくありません。もし引き入れるにしてももっと時期を見てからの方が良いでしょう」
「そうか、お前さんがそう言うなら仕方ないな」
「この話はここで一旦終わりにしておきましょう。じゃあ、深度計はお願いできるんですね?」
「ああ、一週間後に取りに来てくれ。それまでに作っておく」
「わかりました。お願いします」
じゃあ私は穴を掘り過ぎてしまわないように一週間後まで穴掘りを休むか。
「お気遣いありがとうございます」
「それで今日はどうした? 突然来たからには何か頼みがあって来たんじゃないのか?」
「はい、深度計って作れますか?」
「震度計? 揺れを感知するやつか?」
「いえ、そっちじゃなくて深く潜る方の……」
「ああ、深い方の深度か。出来ないことはないと思うが、なぜだ?」
「最近町作りに着手してましてね」
「町作り? トロル村のことか? 今は確かアルトレリアって名前になったんだったな。今更何言ってるんだ? お前さんが町作りしてるのなんて疾に知ってるが……」
「私がある程度色々作れるのはご存じですよね?」
「そうだな……まあ太陽や水を噴き出す木、一歩で別の場所へ移動できるドアを作ったって言われれば、お前さんがワシらが作れないようなものを作れるのくらいは分かるよ」 (第81話参照)
目をつぶってうんうんと、わずかに頷く。
ところが次の瞬間突然険しい顔になった。
「……ところでな、それ、もしかして不特定多数のヤツらに言ってないよな?」
険しい顔で聞いてきたが、怒っているというよりは心配しているような雰囲気。
「う……あ、あの頃は私の考えも大分迂闊だったので、ヘパイトスさんには話してしまいましたけど、今は隠すようにしてます。それによって狙われるのもごめんですから」
「そりゃ良かった。お前さんは孫の命の恩人だからな。それによってトラブルが起こるのではと心配していたんだ」
「大丈夫ですよ」
本当は絶賛トラブル抱え中だけど心配させてるようだから黙っておこう。
「それで、町作りに話を戻しますけど、そういう訳で私が作った魔道具のことを誤魔化すのに『古代遺跡』で発掘されたってことにしてたんですが、それを言い過ぎまして……『本当にあるのか?』と勘繰られ始めたので……」
「『古代遺跡』から発掘されたことにしていた? それと『町作り』に一体何の関係が……?」
しばらく顎に手をあて、一点を見つめて考え出した。
……
…………
………………
「…………………………あ! まさか……お前さん本当に古代遺跡を作り始めたのか!? そりゃ凄い! 町作りってそのことか! 面白いこと始めたじゃないか!!」
く、食いつきが良いな……
「作り始めたと言っても現段階はまだ穴掘ってるだけなんですけど、それでどの程度掘ったか地下深度を測れるモノが要るなと思ったので」
「自分で作れば良いじゃないか」
「私の特性覚えてませんか? 自分が理解できてないものは作るのが難しいって。機械みたいに沢山の細かいパーツで構成されてたり、複雑な仕組みのものは細部まで考えが及ばなくて作れないんですよ」
「そういえばそんなこと言ってたな。しかしその理屈だと、太陽や水を噴き出す木は理解出来てるってことか?」
「いえ、あれは『魔法的な物質』とか『不可思議な現象』という抽象的な考え方で作ってるので成り立ってるんですよ。例えば水を噴き出す木の場合、『水が流れ出る』+『木』という感じにイメージが組み合わさってます。水を噴き出すところは見たことあるのでイメージできますし、木もその辺に生えてるのでイメージしやすいと」
「ワシには理解し難いがお前さんの頭の中では繋がってるんだな」
「はい。でも機械の場合は細かい部品が複雑に組み合わさって作用しますよね? ギアが一つ噛み合ってないだけで、それがどんなに小さなパーツだったとしても動かなくなるじゃないですか? そういった具体的な構造を理解できてない私では再現が難しいんですよ」
「なるほど。“連動している”ってところが理解できないから、機械関係はお前さんには作り出せないってことなのか」
「そういうことです」
「で、事情を知ってるワシのところに頼みに来たってわけか」
ヘパイトスさんはまた少し考え……
「良いぞ、作ってやるよ。だが、そんな面白いことワシにも一枚噛ませろ! 古代文明の機構部分はワシが担ってやるよ」
「ホントですか!? 相談に来た甲斐がありましたよ! で、でも古代遺跡の作成者の名前は明かせませんよ? あくまで“古代の遺跡”が“今発掘された”って体を装わなければならないので」
「ワシを誰だと思ってるんだ? 知名度なんてもう必要無いくらい知れ渡ってるよ」
すっげぇドヤ顔でニカっと笑った。
そ、そうか。気軽に頼みに来てしまったけど、考えてみればこのヒト、ドワーフの中でもかなり名の知れた名匠だった。
名匠ならそんなドヤ顔も許されるわ。
「じゃあ丁度良かった! 『ドワーフの古代遺跡』ってことにしたかったんで! ヘパイトスさんが手伝ってくれるなら本当にドワーフの遺跡になりますね!」
「こ、古代か……ワシ、古代?」
「“ドワーフの”って付けるところに躊躇しなくて済みます!」
「ま、まあワシが手伝えば本当のことになるしな。古代は嘘だが」
「頃合いを見て、『あれは実は私が……』なんて可能性もありますけど、多分終生黙ってることになるでしょう。何せ“古代”遺跡ですから」
「まあ、その辺りの公表するかしないかなんてのはお前さんが勝手にやれば良いさ。公表したい時にはすれば良い」
「ありがとうございます!」
これで一応『私主導で』という許可は貰えた。
ただ……やはりこれも聞いておくべきだろう。
「ここからちょっと大真面目な話をします」
「何だ改まって」
「世界中に嘘を吐くことになりますが、大丈夫ですか?」
「…………まあ、誤魔化す方法はいくらでもあるんだろ? 例えば発掘年代を誤魔化す方法とか」
「え、ええまあ……」
「それにお前さんがこの計画の主導権を握ってるってことは、バレた時の全責任も被るつもりでいたんだろ?」
そこまで気付いてたか。私の都合で手伝ってもらうのだから、最大限ヘパイトスさんに被害が及ばないようにするつもりでいる。何せこの偽装自体が、私の創成魔法を隠すためのものだから。
「お前さんがそこまで覚悟してるなら問題無いよ。仮にワシが加担したとバレたとしても、それによってお前さんを咎めることもしない。自分で決めたことで他人を責めるのはワシの流儀に反するからな」
「そうですか、そこまで覚悟していただいてるなら何も言うことはありません。でも敢えて言うなら、こんなバカな考えに賛同してくれてありがとうございます」
「まあ、既に引くに引けないところに来てるだろ?」
「う……はい……現時点で複数の大国を騙してる状態です……」
「大国を騙してる!? そんな答えまでは予想してなかった……一体どんな嘘を吐いたんだ?」
臨時会談でのやり取りを話した。 (第293話参照)
「なるほどな。やむを得ず吐いた嘘とは言え、巨大な嘘を吐いてしまったな」
「はい……今はちょっと、いや大分反省しています……魔界に来て最初から能力を隠してればここまで大ごとにはならなかったでしょうし……魔法使えるようになってちょっとはしゃぎ過ぎました……」
それと、あの頃は魔界には地獄近辺だけしか存在してないと思っていた。まさか魔王なんて巨大な存在がいるとは露ほども思っていなかった時分だ。
「確かに、潤いの木やゼロ距離ドアなんてどう考えても今の技術で作れんし。それはもう“古代の叡智”か“神々の遺産”くらいに考えないと説明が付かん。『古代遺跡で発掘された』くらい大きく嘘を吐かないと成り立たないかもしれないな。何せ魔界にとってオーバースペックな魔道具や植物が突然現れたわけだしな」
「お、仰る通りで……」
「だが、嘘を吐き通す能力があるなら吐き通すのも一つの手ではあるな。毒を食らわば皿までだ」
「……そうでしょうか? でもバレた時には……?」
「もしバレた時には洗いざらい吐いて、テーマパークにでも作り替えてしまえば良い。『発掘されたように装ってました。皆様、楽しんでいただけましたでしょうか?』ってな感じでな。他人を楽しませるために作ったものを咎める者もそんなにはいないだろう。何せこれによる被害は“古代遺跡が発掘されたのが嘘だった”ってところだけだからな。魔道具が存在してることは事実なんだから」
「そんな簡単なことですか?」
「そんな簡単なことさ。ヒトの噂なんて七十五日もあれば忘れられる。悪意を持って作られたのではないなら、大抵は好意的に解釈してくれるもんだ」
頼もしいな、このヒト……
「まっ、その後に各国がお前さんを巡って争奪戦が始まるか、お前さんが過労死するほどの魔道具の注文が殺到するか、それとも別の要素で忙しくなるか、いずれにせよお前さんの生活環境が大きく変動する未来が待ってるのは間違い無いだろうから、バレなきゃバレないのが一番良いがな」
「ア、アハハ……」
やっぱりバレた場合は、私の周りの環境が変わると予想できるわけね。
「ところで、ワシの他にお前さんの特殊な事情を知ってる者はいるのか?」
「深い事情まで知っているのはリナさんとカイベルとクリュー、それとレヴィアタンです。それほど詳しくなければ旧トロル村のみんなはほとんどが」
「レヴィアタンって……うちの国の女王様か!? どういう経緯で!?」
「それは流石に言えません」
創成魔法奪われたことがあるからなんて言えないわ……
「それほど詳しくなければ村だった時の大多数が知ってるって……知ってる人数多くないか? それでよく他国にバレないもんだ」
「いえ……お恥ずかしながら結構怪しまれてます……」
「そうだろうな」
「ですが、私の仕業と確認できなければ、それは確定ではありませんから!」
そう、限りなくクロでも確定さえされなければ、まだクロではないのだ!
「……うん……まあお前さんの事情だから別にそこは良いが……カイベルってのは、お前さんのメイドの? 随分信頼してるんだな」
「そうですね。カイベルは私には勿体ないほどの忠臣です」
彼女が居なければ、私もリディアもネッココも餓死してしまうんじゃないかってくらい、胃袋掴まれてるし。
「リナさんってのは、確かここに一緒に来たウォルタ家のお嬢さんだな。そっちはどういう経緯で?」
「ヘパイトスさんと同じく成り行きです」
「そういえば相談に来た時に同席してたんだったな」 (第80話参照)
「あの頃の私はガードがユルユルだったので……」
今思えば迂闊過ぎたなと思うが、ヘパイトスさんやリナさんが他言しない人物だったから助かっている……
「あの時確かクラーケンの子供も同席してたよな? そいつは知らんのか?」
「いえ、リディアも一部分だけは知ってます。それももう一年一緒に住んでて、知られたらまずい事情って分かっているようなので彼女が無闇に吹聴することはありません」
家でアニメを見ることのような、町民にすら知られたらまずいことも知ってるしね…… (第289話参照)
同じくネッココも。
「なるほど。クリューってのは誰だ?」
「ヘパイトスさんがアルトレリアを離れた後に町に加わった人物です」
「何でそんな途中から加わったヤツがお前さんの事情を知ってるんだ?」
「特殊な事情と言うヤツです」
「お前さん秘密多いな~」
「すみません、こっちに関しては彼の許可を得ないと言えないことなので……」
「ってことは、そのクリューってヤツにも秘密があるってわけだな」
う~ん……鋭い……
「それで、お前さんの能力がバレそうになってる相手ってのは誰だ?」
「樹の国のフリアマギアってヒトなんですけど……」
「ああ、エルフのお嬢さんだな。ワシより少し身長が高いくらいのメガネの大分変人だろ? ああ、今はもうお嬢さんなんて年じゃないか」
「知ってるんですか? と言うか年齢までご存じで?」
「う~ん、まあ何度か顔を合わせてるよ。ワシも若い頃は色んなところに行ってたからな。年齢はワシが樹の国に行ってた時はまだ二十歳そこそこだったと思うが……多分百歳くらいになるんじゃないかな?」
「百歳!? まだ少女のようですけど……」
「エルフは長命種の中でも若い期間が長いからな。三百歳超えたくらいから急激に老け込む。寿命はワシらより少し長い三百五十から四百歳くらいだったかな。それまではワシらドワーフの五十から六十歳くらいの見た目を保ち続ける」
え~と、ドワーフの五十から六十歳って言うと、四十一歳のヤポーニャさんより二十くらい上か。ヤポーニャさんの見た目が十五歳くらいに見えるから………………え~と……人間で言うとだいたい二十歳くらいの見た目が長いってことかな?
種族ごとに当てはめて計算しないといけないからややこしいわ……
「しかしバレそうなのはフリアマギア嬢か……」
……
…………
………………
また少し考え込んだ。
「黙ってどうかしましたか?」
「それ、こちら側に引き込んでしまえば良いんじゃないか?」
「えっ!? だ、大丈夫なんですか!?」
「探求心の強い変人だが、吹聴して回るような人物ではないと思っている。多分お前さんが思ってるより、ずっと口は堅いと思うぞ?」
本人曰く、『ルールの中で好き勝手やってるだけ』とか言ってたな。言い換えればルールを架してしまえば吹聴する可能性は限りなく低くなるってこと……なのか?
確かに口が堅い人物であれば、一人に教えたところでそれ以上広まらないかもしれないけど……
臨時会談で参加しなかった火、氷の国、それと女王様が事情を知ってる水を除いた四大国を騙してる状態だから、有能なヒトがこちら側になってくれるのは頼もしくはあるが……
それでも知っている者が一人増えるというのはリスクは上がる。普段は口が堅くても何かの拍子にポロッと口にしてしまう可能性は無い話ではない。かと言って私の都合一つで約定魔法で縛るものでもないし。
それに、ヘパイトスさんとは違って、フリアマギアさんは樹の国から派遣されてアルトレリアに来ている。国の上層部と直接繋がりがあるから、引き入れるにはやはりリスクが高い。多分日本で言うところの公務員みたいなものだろうし上からの命令には逆らえないかもしれない。
現状はルシファーの件も片付いたとは言えないし、今以上に厄介事を増やしたくはない。
……
…………
………………
「いえ、やはり現状私の秘密を知るヒトが増えるのは好ましくありません。もし引き入れるにしてももっと時期を見てからの方が良いでしょう」
「そうか、お前さんがそう言うなら仕方ないな」
「この話はここで一旦終わりにしておきましょう。じゃあ、深度計はお願いできるんですね?」
「ああ、一週間後に取りに来てくれ。それまでに作っておく」
「わかりました。お願いします」
じゃあ私は穴を掘り過ぎてしまわないように一週間後まで穴掘りを休むか。
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最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
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しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
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