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第16章 大使就任とアルトレリア健康計画編

第436話 アルトラの身体に異変!? その4(カイベルのハイパースペック その3)

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「じゃあ私の合図で始めるよ? 二人とも準備は良いかい? ダイエット開始!!」

 クリューの掛け声の刹那、左胸に何か当たった衝撃があった。

「…………え? 水?」

 寸分狂わず、心臓の位置に水のレーザーが当たっていた。あまりに一瞬のことで呆けて動けなかった私のジャージの前面をおびただしく濡らしていく。水はそのまま私の胴体の横を伝って後ろへ流れ、背面でも多くの雫が『ボタボタボタッ!』と地面へ落ちる。
 水のレーザーの命中した場所から発射位置までを辿ると、カイベルの右手付近から出ていた……

「う……嘘でしょ……?」

 以前似たような水魔法を喰らったことがあるけど、あれは極細で見えなかったのに対し、こっちはきちんと見えているのに発射した速度が速すぎたのか、当たるまで気付けなかった。

 直後にクリューの掛け声が飛ぶ。

「アルトラ~! 一回ヒットだよ!」

 開始一秒もしないうちに一食分が消えた……
 もう『一発も当たらない完全勝利』は無くなった……完全勝利どころか、私の方がカイベルの能力をに見誤っていた……主人の威厳は大崩落だ……
 しかし、今はそんなこと考えるよりカイベルの攻撃だ。開始直後で距離が離れていることもあり油断していたとは言え、全く見えなかった……
 ああ……カイベルの料理一食分! 一食分がぁぁ……

「さあ、十五分間必死に相殺していただかないと、アルトラ様が次に私の料理を食べられるのが一ヶ月も二ヶ月も先になってしまいますよ?」

 ピッ

「うわおぉぉおっ!?」

 次の水のレーザーは辛うじて胴体は避けたが、腕に当たった。

 私が作った自動人形オート・マトンだから、私より大分弱めの設定で作ったはずなのに、何この正確さは!
 ど、どこが“私より大分弱めに作った”なの!?
 この子ホントに私が作ったの!?
 “私の能力より大分弱めに作った”なんて随分随分ずいぃ~~ぶん下に見ていたわ……よくよく考えれば彼女の知識や思考能力を併せれば弱いはずがないのだ!
 搭載している思考回路?人工知能?が私とカイベルでは段違いだから、私より弱い設定でも、最適に的確に攻撃を当てられるんだ!
 改めて考えると、何で私からこんな凄い子が生まれたか分からない! トンビが鷹を生んでるどころか、飛べない鶏がワシを産んでる! 奇跡的な産物だ!
 と、考えるのは後にして、とりあえず何とか攻撃喰らわないようにしないと!
 心臓 (胴体)を狙ってくるなら、身体の前で腕をクロスすれば……

 なんて考えて、その通りにしたら――

 バシャッ

 心臓を狙うのを避けて、眉間を撃ち抜かれた……
 正確に急所を狙ってくるわ……

「アルトラ! 二回目のヒットだよ!」

 うぅ……また一食分が……
 でも顔に水が当たったお蔭でちょっと頭がスッキリした!
 次はこうは行かない!

 と、気合は入ったものの、現実は――
 水のレーザーなら水のバリアを張れば良いんじゃないかと思い、前面に水のバリアを展開したところ、今度は水のレーザーで加速させた氷の針のようなものがバリアを貫通して身体に当たって砕け散った。パリンッと音まで聞こえるほどの勢いで……

「アルトラ! 三ヒット目だよ!」

 なんだコレ……? どゆこと……?
 バリア張っても対処できないって……

 堪らずストップをかける。

「ちょ、ちょちょ、ちょっとタンマ!」
「どうかしましたか?」
「その水のレーザー、速すぎて対応し切れない。もうちょっと遅いのでお願いします……」

 思わず会話の端が卑屈になる。
 そして私の懇願を聞いていたクリューが横から口を挟んで来た。

「見苦しいよアルトラ……」
「良いのです! 見栄えなんかより一食のカイベルの料理なのです!」
「そこまで開き直られると、いっそ清々しいね!」
「ですが……もしも本当の敵と対峙してこの速度の攻撃をされた時に対処し切れませんが……と言うか、一度似たような攻撃を喰らってますよね? あの時あのブルーソーンの水Lvが11ならアルトラ様は真っ二つとは行かずとも大怪我を負っていましたよ?」 (第325話参照)
「そ、そうだけど……」

 もしもLv11でそんな攻撃されたら、多分どうやっても対処できないと思う……私の防御を完全に無効化する者がいるかどうかは分からないが、そんな攻撃がもし存在するならいずれにせよ即死だ。
 主人としては情けない話だけど、カイベルが放つ水のレーザー、本当にほとんど見えない……特殊な魔法障壁を持っている私のような者以外が喰らったら、多分貫通するくらい細くて速い。

「今私はここに何しに来てるの? ダイエットに来てるのよ? 太ったこの体型であんな速度の攻撃を避けられるはずがないわ! 主目的を履き違えないようにしてほしいの! そういうのの対処はもっと痩せてからでも良いんじゃない?」

 プライドをかなぐり捨ててもっともらしく言ったが、要は『攻撃の手を緩めてほしい』と言っていることに他ならない!

「…………分かりました。では、少し遅くしますが、正面以外からも攻撃するというのはどうでしょう?」

 え……? それってむしろ手数が増えるから考えなきゃいけないことも増えるんじゃ……?
 藪をつついちゃったような気が……

「さあ、再開しましょう。【シャドウ・ニードル】」

 私の影から棘が発生し、私を襲う!
 でもさっきの水のレーザーに比べたらかなり遅い。手に光魔法を纏って薙ぎ払う。

「アルトラ! 四ヒットだよ!」

 えっ!? 何で!?

 と思ったのも束の間、背中と脇腹に沢山刺さってたあたってた……
 背中も脇腹も胴体のうちだからまたカイベルの料理が一回分消滅……
 どうやら一本目を薙ぎ払った直後に刺さったあたったから認識が遅れたらしい。
 背中側の闇が刺さった部分が破れてるわ……

「カイベル、何本も刺さったけど、これ全部カウントするのかい? 五本くらい刺さってたけど」

 い、一度に五食分消し飛ぶなんて冗談じゃない!

「そこはクリュー様の判断にお任せします」
「じゃあ五回ヒットに――」

 それを聞いた私は、両手を合わせて必死にクリューに媚びる。

「ク、クリュー、お……おねがぁい……」

 今までに出したことがない猫なで声で懇願する。
 自分で言ってて何だか気持ち悪い。言ってみたら顔が熱くなってきたが、一気に五食分消し飛ぶよりは恥ずかしい方がまだマシだ!

「…………まあ……私もカイベルの料理を頂いているから、食べる機会が減るのが悲しいのは分かるよ。可哀想だし、一回としてカウントしてあげようか……」

 良かったぁ~……

 直後に自分の両頬を叩いて恥ずかしさ顔の熱さを消し飛ばす。

「カイベル……ちょっと正確過ぎる。もう二段階くらい正確さを下げてくれない? 次にあなたの料理を食べられるのが本当に一ヶ月後になりかねない……」
「…………わかりました。ですがこれ以上攻撃性能を下げるとアルトラ様のためになりませんので、性能を操作するのはこれで最後です」
「ありがとうカイベル!」

 よし、速度も下げた、正確さも下げた。これならかなり避けやすくなったはず!

「では、再開します。【フレイム・スフィア】」

 直線的な炎の大玉。これならこちらからも炎の玉を放てば相殺できる。

「【|炎の球フレイム・スフィア》】」

 同じくらいの大きさの炎の玉で相殺した。
 と、思ったら、その相殺した炎の玉の陰に隠れて一直線に大量の小さい火の玉が!

「うわっ! こんなに大量に!?」

 ドドドドドドドドドドオォォォン!

 小さい火の玉だったため、私の周りが煙だらけに。

「ゴホ、ゴホッ!」

「アルトラ! え~と今のは何回ヒットしたんだろ……火の玉が十発連射されてたから、多分十回ヒットしてるよ!」

 こ……今度は絡め手?
 こんなこともしてくるのか……
 こ、これはホントに必死に相殺しないと、一ヶ月後どころか、一年先になってしまうかもしれない。

 幸いなことにジャージは濡れていたため、燃えずに済んだ。
 その後――

「【ファイア・レイン】」

 カイベルが炎の雨を降り注がせれば――

「【氷の壁アイス・ウォール】」

 ――私はそれを氷の壁で防ぐ。
 すると次はその壁を貫くように――

「【ダイヤモンド・アロー】」

 ――ダイヤの硬度の矢が連射される。
 氷の壁にグサグサ刺さる!

「ひえぇぇ……」

 ダイヤモンドとは言え、カイベルの魔法で私の身体に傷は付かないから、素手で矢を打ち落とす。
 が、流石に数が多過ぎて対応し切れないので、上空へジャンプして逃げた。
 それを追うように――

「【ウィンドカッター・クロス】」

 ――今度は上空に飛んだ私目掛けて、十字に重ねられた風の刃が迫る!

 風だから見えにくいけど……これ喰らっても一発分なのかしら?
 そのまま喰らってもバレない気はするけど……

 チラッとクリューの方を見ると、こちらを凝視している。
 それに『ウィンド“カッター”』なのだから、そのまま喰らったら多分服も切れる。
 何もしないで喰らったらやる気ないと見なされて一発分加算されるかもしれないからきちんと対応することにする。

「【空気の壁エア・スクリーン】」

 竜巻みたいな複雑な風の動きじゃないから空気の壁を作って風の刃を分解して受け流した。
 その後風の刃を乱射してきたから、こちらも風の刃の乱射で相殺。

 あ、カイベルは空飛べないんだから、上空にずっといれば攻撃も避けやすいんじゃない?
 十五分経つまで空に居よう。

 と、相変わらず怠けようとする私が顔を覗かせる。
 ズルいことを考えた直後――

「【サンダーボルト】」

 ゴゴォォオン!!

「キャァッ!」

 稲光と共に轟音。
 上空に居た私は受け流すこともできず雷が直撃! 衝撃で地面に叩きつけられてしまった。

 流石カイベル……その場に合った的確に嫌らしい攻撃をしてくるわ……

「アルトラ、十四ヒットだよ!」

 もうそんなに!?
 四日と二食分が無くなった……

 その後、氷のミサイルの乱発を炎のミサイルで相殺、竜巻を同じく竜巻をぶつけて打ち消す、上空から降り注ぐ無数の溶岩弾を筋力強化と大きめの魔力を込めた素手の乱打で叩き壊す、水魔法で呼び起こした大波を広範囲に炎を放って蒸発させる、光の矢の連発を闇の盾で防ぐなど、様々な魔法のぶつけ合い。
 そして地獄の猛ダイエットの十五分が終わり、熱空間の中はそこかしこが穴だらけの状態に……
 その結果――

   ◇

「スポーツウェアがぴったりになりましたね」
「掴める腹も無くなったな」
「よく頑張ったね、アルトラ、えらいえらい」
「『スポーツウェアがぴったり』にって言うけど、特訓の所為でもうボロボロだけどね……」

 あちこち焦げ跡やら切り裂き跡やら土埃の跡でもはやボロ雑巾のようだ……長袖長ズボンだったはずのジャージは片腕はもはやノースリーブ同然だし、膝より下はビリビリでつんつるてんだし、お腹の部分はちょっと破れてるしで、原型を留めていない。
 とは言え、何とか元通りの体型に戻ることができた。

「それでクリュー、最終的なヒット数は?」
「私が数えた限りは二十一発だね。一日三食と考えればちょうど一週間分だ。でも、かなり甘めにカウントしたから多分この数倍喰らってるよ」

 数倍……
 甘めに判定してくれて助かった……

 しかし、今後カイベルの戦闘力について考えを改める必要があるようだ。
 多少魔力を弱めに作ったのは事実だけど、どう低く見積もっても私より弱いなんてことはあり得ない。私に『通常の攻撃でダメージを受けない』という特性が無ければ、最初の一分間で地面に転がっていたかもしれない。
 間違いなくアルトレリアの主戦力の一人……いや、もしかしたらアルトレリア最強かもしれない。いや、最強はクリューかもしれないけど、二大巨頭にはなるかも。

   ◇

 ダイエットから帰宅後――

「おぉ! アルトラ! すっごい痩せたナ! やっぱりその方が可愛いゾ!」
『やっぱりあなたはその体型じゃなきゃ!』
「ふ、二人ともありがと……」

 リディアとネッココに称賛されるも、『一週間カイベルのご飯抜き』のことを考えると、手放しで喜ぶ気にはなれない。

「それに喜ベ! 今日は大好物のハンバーグだゾ!」
『私もハンバーグ好きだわ! この煮汁美味しいのよ!』
「そ、そうね……」
「美味しそうですね」

 リディア、ネッココ、クリューは歓喜しているが、私は……一週間食べられないのよね……カイベルはこういうとこの決定は絶対に覆さないから。
 それにしてもネッココってハンバーグの煮汁だけ食べる飲むのね……
 と言うか、クリューはいつの間にかうちに来て当然のようにご飯を食べるようになってるけど、どうなってるの?

「どうしタ? 何か元気無いけド……」
『痩せたんだからもっと元気出しなさい!』
「そ、そうだね」

 食卓に料理が並べられるも……

「あれ? アルトラの分は無いのカ?」
「私、今日から一週間自炊だから……」

 リディアとネッココに経緯を説明。

「ふ~ん、だから元気無いんだナ。まあ今後は太らないように気を付けとけヨ! ア~ン……モグモグモグ」
『ふ~ん、まあ太ってたんだから自業自得よね! ズズズッ』
「ふ~ん、大変だね~ アム……モグモグモグ」

 ネッココからは多少辛辣な言葉を浴びせられ、クリューが他人事のようにリディアに同調する。
 クリューは一緒に行って状況を知ってるでしょうが!

 まあ一日苦労したが、何とか体型も元通りになり、通常の生活を送れるようになった。
 一日で元の体型に戻ったからか、身体が随分軽く感じる。

「…………ちなみにカイベル、正確には私にあなたの攻撃は何回ヒットしたの?」
「百二十一発ですね」

 ってことは、もし正確に判定されてたら四十日と一食分のカイベルのご飯が消滅してたことになるのか。
 あの時『カイベルが自分で判定する』って言ってたのを拒否して正解だった……あれを受け入れていたら四十日分と一食分、一ヶ月以上自炊しなければならなかった。

 でも……ああ……一週間カイベルのご飯が食べられないのね……
 それだけで痩せてしまいそうだ。
 それに……

「うぅ……今後は節制か……今までみたいに大量に食べるわけにはいかなくなったかな……トホホ……」
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