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第16章 大使就任とアルトレリア健康計画編

第432話 何だかみんな疲れてる?

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「そうだ! 健康診断の話に戻るんですけど、最近何だか疲れやすいんですよね……前はこんなこと無かったんですけど……」
「え!? リナさんもですか!? 我々もアルトレリアに来てから何だか疲れやすいなと話していたんですよ」
「ダム建設組のみなさんもですか……」

 と、ヘルヘヴンのジョンさんとリナさんに同調する。

「俺っちは全くそんなの無いッスね」
「僕たちも無いですよね?」
「無いね~」
「我も無いな。アリサは?」
「いえ、わたくしも特に疲れることはありませんが……」
「もしかして精密検査が必要な病気なんでしょうか?」
「例えば、この土地に生命力を吸い取るような何らかの魔法物質があるとか?」
「そんなのあったら、ずっと昔から住んでる僕たちが真っ先に死んでますよ!」

 と言うのはカンナー。

「確かに……それもそうですね……ナナトスくんもカンナーくんも、エルフィーレさんもどう見たって健康体にしか見えませんし……」

 どうやらトロル族とレッドドラゴン族以外はみんな疲れやすいらしい。

「ニックエディーくんはどうですか?」
「僕も特に疲れてはいません」

 やっぱりレッド、グリーンとか関係無くトロル族自体が丈夫なのかも。

「アスク先生にも聞いてみたところ『あなたもですか? 何だかトロル族とレッドドラゴン族以外の多くの方が疲れを訴えるんですよ。かく言う私もここに来てから何だか疲れやすくて……』と仰ってました」
「お医者さんであるアスク先生当人が疲れやすいって……先生ですら分からないってヤバイ病気なんじゃないんですか……?」
「トロル族とレッドドラゴン族以外って言うことは、地域的なものなんでしょうか? 彼らにとってみればここは地元ですし、環境の慣れとか」

 みんなの話を聞いて思った。
 これ多分“夏バテ”なんじゃないかな……と。
 全員に聞いてみようか。

「皆さん、ここに来て暑いと思ったことありますか?」

 と質問したところ、ジョンさんが大きく同意する。

「暑いですよね! ここ凄く暑いです! 雷の国では温度を調整しないと寒くなるので、常に適温に保たれてるんですよ!」
「リナさんのところは?」
「水の国もそうですよ。一年中ずっと同じような気温です。ここに来て寒くなったり暑くなったり、その気温差には驚いてしまいましたし! もう一年アルトレリアで生活してますけど、気温差には未だに慣れません」

 ああ……夏バテ疑惑が更に強くなった……
 魔界では太陽が存在しないため気温が大きく変化するところが無いという話。 (第233話参照)
 だから、多分誰もこの症状を知らない、いや、今まで存在しなかったのだろう。
 多くの地域が魔術師によってそこで生活するヒトたちにとって適温に保たれているから、冬の気候と夏の気候で気温差が二十度も三十度もあるこの地域の気候に、きっとまだ適応できてないのだ。

「私、その症状の対処法知ってるかもしれません」

「「「本当ですかアルトラ様アルトラ殿!?」」」

「多分、熱中症って症状だと思います。私の故郷では夏に発生するから夏バテって言われてますね」

 『夏』と聞いて怪訝けげんそうに少し眉をひそめるヒトが数人。多分去年の夏以降にアルトレリアに来たメンバーだろう。

「『夏』というと何のことでしたっけ?」

 と質問したのはジョンさん。

「今のこのアルトレリアの暑い季節のことです」
「『季節』というのは何でしたっけ?」

 季節? 季節って何て説明すれば良いんだ? 地球では当然のことだったから説明が難しいな……

「え~と……特定の気候の時期……かな? 例えば、今現在のこの暑い気候の時期を私の故郷では『夏』と呼称していました」
「それで“夏”バテですか。それで対処法とは?」
「水分と適度な塩分、十分な栄養を摂れば良いだけです。あと規則正しい生活と十分な睡眠」
「それだけ……ですか?」
「そう、それだけ。ただ、酷くなると脱水症状っていう深刻な症状に進行するので注意してください。特に水と適度な塩分摂取は重要。それだけで大分改善すると思います。ああ、それと身体を冷やし過ぎない。暑いからってかき氷ばかり食べてたらダメですよ?」
「そんなことで改善できるんですね」

 シーラさんがこの話に得心する言動を見せたが、考えてみれば水の精霊が亜人と同じ対処法で良くなるとは限らない。一応訂正しておいた方が良さそうだ。

「しかし、精霊種が同じ対処法で改善するかどうかは分かりません。亜人の肉体とは違って、精霊は受肉体なのでもしかしたら対処法が間違っていることもあり得ます」
「そ、そうなんですか……私も何だか疲れやすいので解消できればと思ったのですが……」
「ただ、水や栄養を摂るのは大抵どの生物でも必須だと思うので、あながち間違っているとも思いません。これに加えて精霊は魔力を糧とするとのことなので、魔力補給も一つの要点かもしれません」

 “大抵”と付けたのは、魔界にはレッドドラゴン族など、水分を必要としない生物がいることが判明しているためだ。

「試してみます」
「夏バテの原因も分かりますか?」
「多分この土地の変動する気候が主因でしょうね。以前魔界では気温があまり変わらないって聞きましたけど、アルトレリアはちょっと特殊な状態になってしまって、それに当てはまらない土地になってしまったようですから」

 主に私の所為でね……

 もちろん創成魔法を使えば過ごし易い温度に調整するのは可能だろう。
 しかし、暑いとは言え、まだまだ死者が出るような気温ではないからそれならこのまま自然にしておいた方が良いのではないかと考えた。
 そしてもし他の国同様に気温調整をして適温を保とうとする者が現れた場合は止めることはしない。ヒトは快適を求めるものだから。そういうヒトが出てくるのは良いことだと思う。
 でも私が突然いなくなった時のことも考え、今後は私からの手出しはなるべくせず、魔法で気温調整するにしてもしないにしても、この国のヒトたちに自主的にお願いしたいと思っている。

「何でトロル族やレッドドラゴン族は大丈夫なんですか?」
「彼らは元々熱いところで生活していたから暑さには強いんだと思います。同様に火の精霊とかもきっと夏バテにはかからないでしょう」
「まあ、我らはこの程度では暑いとは思わんがな」
「でもフレハルさんたちは、逆に冬の時期は私たちより余程寒そうにしてて不便そうでしたね」

 エルフィーレがその時の感想を述べる。あの時期のフレアハルトたちは服を重ね着し過ぎて丸い体型になっていたから、きっと彼女の服飾店の大お得意様だったのだろう。 (第206話などを参照)

「そういえば、以前まえは真夏でも寒い寒い言ってたのに、最近は大丈夫なんスね」
「まあな。詳細は言えんが、寒さに少しだけ強くなったからな」

 フレアハルトらレッドドラゴン族には寒さに強くしたことを一族以外の誰にも言わないように口止めしてある。

「だから暑さに強いトロル族やレッドドラゴン族には疲れやすいヒトがいないってわけですか」
「そうだと思います。もし似たような症状を訴えてるヒトがいたら対処法を教えておいてもらえますか? それで改善するかもしれませんし」

「「「わかりました」」」

「じゃあアスク先生にも教えておいた方が良いですね。気温差でそういう症状があると」
「偶然ここに来ましたけど、みなさんの話を聞けて正解でした。私自身も『夏バテ』とかいう症状が出ていたようなので。さて、様々な種族のお話を聞けて有意義な時間が過ごせました。私たちは仕事に戻るので失礼しますね」

 シーラさん、ダム建設組の三人が去って行った。

「じゃあ私もそろそろ失礼するね」

 話が収束したところで、その場を後にした。
 この町で初めての検診で、もう少し混乱があるかと思ったけど、特に問題は無さそうだ。と言うか、改めて考えてももはや栄養失調にはなり得ないし、トロル族のみんなは丈夫過ぎて、今後病気的な心配は全くしなくて良いかもしれない。
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