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第16章 大使就任とアルトレリア健康計画編

第426話 身体検査とフリアマギアの詰問

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 私たちの診察日当日――
 現在、リディア、ネッココ、カイベルと共に、検査着で診察室前の廊下に待機している。

「あ、アルトラ様こんにちわ~。他のみなさんも~。あ、お子さんですか~?」
「ち、違いますよ、居候ですよ。ハハ……」
「二人とも子供さんなのに? まさか……誘拐ですか~?」
「いや、ホントにただの居候ですから!」

 でも、ネッココは自分で付いて来たからまだしも、リディアは私が連れて来たから誘拐に当たるのだろうか? 海洋生物だから分からない。まあアルトレリアに連れてくる時にずっと隣に居た騎士のリナさんが何も言わなかったし、多分問題無いだろう。

「そうですか~、それは安心しました~。じゃあまずは身体測定ですよ~」

 看護師ネムさんの間延びした声が響く。
 簡単な検査なため、流れ作業的に行われるらしい。
 まさに学校で行われている身体検査のよう。

「あれ?」

 初日にいなかったフリアマギアさんと役所で何度か見たことがある女性のトロルが何人かいる。

「フリアマギアさんは何でここに?」
「手が足りないので手伝ってほしいとアスク先生に依頼されましてね、一応医療も少しかじってるので」
「はぁ……なるほど」

 しかし、このヒトが何の打算も無しに手伝いするとは思えないが……

「それで、本当は何が目的なんですか?」
「いやだなぁ、いつもそうってわけじゃないですよ。でもそう言ってくれるんなら血液検査し終わったトロルの血を貰えませんか?」
「いや、ダメに決まってるでしょ、コンプライアンスとか、医療廃棄の問題とか、感染症の可能性だってあるし」
「既にこの町にそんな法律が作られてるんですか!?」
「まだ無いですけど……無くてもダメです。血液は色々と危ないので」

 多分アルトラルサンズで法律も倫理規範もまだ整ってないと考えて、許可貰えるかもと思ったんだな。
 医療廃棄についてそこまで詳しくは知らないけど、血液が扱いを間違えるとかなりヤバイものだということくらいは知っている。だから法律が整ってないからと言って、おいそれと「良いですよ」と言うわけにはいかない。

「アハハ……ですよね~……」
「まあ……ロクトスとナナトス二人の分なら、彼らは一旦了承してますし、今回も本人たちが了承するなら好きにしてください。他は絶対ダメです」

 このヒトの場合、「絶対に」って強く言っておかないと勝手にやる可能性あるからなぁ……
 『トロルの血の誓約』に違反しなければ良いとでも考えてそうだ。 (第353話参照)

「分かりました! 二人に許可取ります!」

 やれやれ……

「あなたたちもお手伝い?」

 女性のトロルたちに話しかける。

「はい、二人では回らないということで、アスク先生に役所伝いにお手伝いをお願いされました」

 先生か……もうアスク“先生”で定着してるみたいだ。
 きっとネムさんが「先生、先生」言うからそこから覚えたんだろう。

「では身長を測りますのでここへお立ちください」

 身長計に乗って背筋を伸ばす。

「百四十二.二センチです」

 おお! カイベルの言ってた通り、ホントに三センチ伸びてるよ! これは前世の身長に追いつく日も遠くないかも!

「順に行きますね、リディアちゃん百十五.五センチ、ネッココちゃん五十一.七センチ、カイベルさん百六十二.二センチです」

 次は体重計に乗る。

「四十九キロですね」

 ん? あれ~? 何か予想してた体重より少し重い気が……人間の身体とは違うし筋肉量が多いのかな?

「また順番に行きます。リディアちゃん五十.六キロ、ネッココちゃん五.二キロ、カイベルさん五十二.二キロ」

 リディアは随分重いな。私より三十センチくらい小さいのに私より重いなんて。リディアも筋肉多いから? 本来の姿なら触手が十本もあるし、イカの触手って筋肉凄いって聞くし。

「ネッココちゃんは随分軽いですね」

 体重を担当していたフリアマギアさんに突っ込まれる。

「まあご存じの通り植物なので」

 もうアルトレリアに住む者にとって、ネッココが植物なのは周知の事実。主に『固形物あげちゃいけない』こととか。

「良い機会なのでずっと聞きたかったことをお聞きします。あの姿はどういうことですか?」

 フリアマギアさんからまた面倒くさそうな質問が……

「ど、どうとは?」
「ネッココちゃんの魔力の質は精霊のものではないので樹人ではありませんよね? しかし人型を模してて外見上はどう見ても小人の亜人に見えます。私は都市シティーエルフではありますが、樹の国にずっと住んでて、色々実験もしましたのである程度は植物に詳しいと自負しています。でも、亜人のような容姿の植物ってまだ見たことないんですよね。なのでずばりお聞きします、彼女は何で亜人のような容姿をしているんですか!?」

 また答えにくい質問……正直に答えるか。

「魔道具を装着してそういう風に見せてます」

 この程度の魔道具は多分作られてるだろう。以前樹の国で縮小して拘束する魔道具を見たことがあるし、変異系統の魔法は樹の国ではありふれているはず。 (第326話参照)
 と、高をくくっていたのだが……

「ほうほう、姿そのものを変える魔道具が? そこまで高度なものは我々の研究機関でもまだ研究段階ですが?」

 うわぁ……また私何かやっちゃいました……?

「先日ようやく魔法によって身体を縮小する魔道具が開発され、実験的にブルーソーン拘束に投入されました」 (第326話参照)

 あ、あれって実験段階だったのか……私はあれが現在の樹の国での当然の技術力かと思ってた……だから姿変えるくらいは開発されてるんじゃないかと……
 な、何か言い訳しないと……

「発掘! そう! 古代遺跡で発掘された魔道具の一つなんです!」

 いつも通りの逃げ口上こうじょう、『古代遺跡』。

「ほうほう、なるほど。それではもう一つお聞きします、第二壁付近に居るルガイアトータスのアースさん (第370話参照)。彼も性質の違う魔道具付けてますよね? この町にしゃべる亀がいるって話を部下が持ってきたので会いに行って来たんですが、彼が付けてる身体に似つかわしくない不自然な腕輪、あれは彼の身体を小さくするものらしいですね?」
「そ、そうらしいですね……」
「調べさせてもらったところ我々の開発した拡縮系統の魔道具と性質が似ている魔法が付与されていることが分かりました」
「へ、へぇ~、そうなんですね」
「しかし、拡縮系の魔道具作りに成功したのは我々の国でもつい最近です。樹の国の研究機関で作られた新技術ですので当然ながらどこにも知られていないはず」
「で、でも必ずしも他の国で作られていないとは言えないんじゃないですか?」
「確かに、私が知らないだけで作られている可能性はあります。しかし、アースさんが付けてることが問題なんです。アースさんに腕輪について聞いてみたところ『アル……なんとかって亜人から貰っただけで分からないよ』の一点張り。『アルなんとか』って恐らくアルトラ殿ですよね? なぜ彼が似たような性質の魔道具を付けているのでしょう? アルトラ殿は超技術を持ったどこかの国とツテがあるのですか?」

 誰にも言うなって言ったのに……聞いてなかったのかアース!
 と言うか私の名前また忘れられてるし!

「そ……そこまで言ってしまってるならバラします。それも古代遺跡で発掘されたものを私が譲りました……」
「なるほど! 流石古代の技術! 我々の遥か先を行ってるだけありますね!」

 言い訳と嘘とで心が苦しくなってきた……

「しかし……ルガイアアトータス用の腕輪って限定的過ぎませんか?」

 ギクッ!

「元々のアースさんの大きさがどれくらいかは分かりませんが、甲羅を調べたところ推定で恐らく二千年以上は生きてることが分かりました。あの年齢のルガイアアトータスは私もここに来て初めて見ましたよ」
「甲羅で年齢が分かるんですか?」
「知りませんか? 亀の甲羅は年輪のように成長していくので甲羅を調べることである程度年齢が分かるんです。二千年も生きてると大分削れてしまっているところもありますが、何とかおおよその年数は特定しました」
「へ、へぇ~、そうなんですか」
「あの年齢ですと大きさは推定二十メートル前後になり、重さも推定七百から八百トン程度になると推定できます。しかし、彼は三メートル程度の大きさしかないので、恐らくあの魔道具により七十から八十パーセント程度縮小されてるのではないか、と推察しました」
「な、なるほど」

 凄い……ほぼほぼ当たってる……

「ということは、彼の付けてる腕輪の大きさは縮小前の段階では恐らく二メートル以上はあるのではないかと。そんな巨大な腕輪、作る意味がありますか?」

 ギクギクッ!

「こ、古代遺跡付近に巨人が住んでて、普通サイズの亜人に生活様式を合わせるために作られた……とか……?」
「確かに、そういう可能性は無いことはないです。しかし、それなら現在の世界でもそういった魔道具が普及していてもおかしくはないと思います。巨人族は住む場所を確保するのが困難ですので、そんな縮小系の魔道具があれば欲しがる者は数多いでしょう。仮に縮小系の技術が廃れていたとしても、かつて存在したのならこの中立地帯以外のどこかの遺跡からそれに似た魔道具が出土してもおかしくないと思うのですが……」

 うぅ……的を射ている……

「また、腕輪とは別の疑問があって……この町の誰に聞いても古代遺跡の話が聞けないんですが……そんなのホントにあるんですか? アルトラ殿以外に誰か発掘に同行してるんですよね? 普通は発掘調査を一人でやることなんてありませんし」

 ギクギクギクッ!

「こ、国家機密なので……みんな黙ってるんですよ……く、詳しいことは話せません……」
「………………そうでしょうか? これは私の憶測なんですけど、もしかして魔道具も疑似太陽のようにアルトラ殿が作ってるのでは?」

 ギクギクギクギクッ!
 核心突いて来たぁぁ!!

「ままま、まさかぁ……あんな高度な魔道具作れるわけないじゃないですか……そんなものまで自分で作れるんなら、わざわざドワーフさんにモノ作り頼んだりしませんて」
「確かにそうです……そこが腑に落ちないんですよね……もし仮にアルトラ殿が作ってるなら、なぜドワーフの方々にそれより技術的に劣るモノ作りを依頼するのか……機械にしても雑貨にしても、その程度なら自分で作れば良いはずなのに……」

 お? ちょっとだけ追及の手が緩んだ?

「ご、ご納得いただけましたか……?」
「……う~ん…………」

 少し納得はしたが私への疑惑を払拭するには至らないようだ。
 だが、私の創成魔法を行使する上での弱点である『細かい部分を想像できないと作れない』という部分が結果的に功を奏した形になったみたいだ。
 でも、もうこれ以上追及されるとボロが出てしまいそうだ……早いとこ古代遺跡の実物を作り出して、嘘を真実ホントに変えないと!
 そ、それにしてもこの話をどうやって終息させれば良いんだ……話題をすり替えても、そそくさとこの場を離れても、どちらにしても疑われそうだし……

 しかし、そこへ救いの手が!

「フリアマギアさん、話し過ぎですよ!」
「後ろ詰まってるので早くアルトラ様たちを次へ送ってください! このお手伝いにもお給金出てるんですから!」
「ああ……はいはい……ではアルトラ殿、またお話しましょう」

 役所勤務の女性職員たちによって解放された。

 ホッ……
 役所の女性職員、グッジョブ!
 彼女らの一言で今日のところは追及の手は止まった。
 でも、今後フリアマギアさんに再び詰め寄られたら隠し通せる自信が無いわ……
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