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第16章 大使就任とアルトレリア健康計画編
第424話 カイベル補完計画 その2(体液編)
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「唾液を出す機能も搭載しておかないとね」
ナナトスの話では、歯科検診もあるようだから口の中に唾液が全く無いのでは不自然だ。
唾液を出す機能か……潤いの木のように水分を出し続けるように作れなくはないと思うけど……仮に唾液を調べた時に人体由来の成分とは別の成分が出てこられたら困る。
まあ考えてるだけでは仕方がないので、とりあえずカイベルの口内に唾液腺を組み込む、と同時に表から見えない食道部分に内臓の方へ流れて行かないように唾液を消し去る仕組みを組み込んだ。
「唾液はどう? ちゃんと機能してる?」
「成分ぼ分析じでびばじだが、ごればだだの水でずで」
何だって? 何言ってるか分からん。
と言うか口を開く度に凄い量の飛沫が飛ぶ……
何だコレ……どういう状態……?
「ごめん、聞き取れないから筆談でお願い」
紙に書いて見せられた。
┌────────────────┐
成分分析しましたが、ただの水です
└────────────────┘
「あ、そうなの?」
思えば、唾液の粘性がどんな成分で出来てるか知らない。
やっぱり成分について一切知らないからわずかなイメージもできないのかも。
それにしても、カイベルが少し口を開けただけで、ダバーッと滝のように流れ落ちるヨダレ……
これ、もし生身の人体だったら自分の唾液で溺れるほど出てる気がする……
成分が『水』と聞いても、カイベルの口から流れ落ちるのを見ると、綺麗とは言い難いな……
その光景に思わず眉根に力が入る。
直後にもう一度紙に書いて見せられた。
┌────────────────┐
ただの水ですよ?
└────────────────┘
カイベルがもう一度紙を寄越した理由を考えてみたところ、自身で眉をひそめてた自覚があるから、どうやらかなりしかめっ面になっていたらしい。
表情から察して不快感を取り去るようにもう一度紙を寄越したのだろう。
だって、口から流れてるのを目撃したら、『ただの水』だって言われても、ねぇ?
「ずぐにでぼ変換ぼぼ願いじまず。粘度が無いどで、ごのばばでずどじゃべる度に水が飛び散りまず」
「あああ、はいはいはい! 何言ってるか分からないから、一度唾液腺を閉じるわ!」
滝のようなヨダレが止まった。
「で、何て言ったの?」
「『すぐにでも変換をお願いします。粘度が無いので、このままですとしゃべる度に水が飛び散ります』と」
「あ、そう」
特に聞く必要も無いことだったか。
「唾液の成分って何で出来てるの?」
床に落ちた、ヨダレまがいの水を雑巾で拭きながら答えを返すカイベル。
「唾液の約九十九.五パーセントが水分、 残りの約〇.五パーセントが無機成分としてカルシウム、リン酸、ナトリウムなど、有機成分としてムチンや抗菌・免疫物質などが含まれています」
文系の私には聞いても何言ってるか分からんな……
よく聞くカルシウムですら、どんな物質か分からん。
「基本的なことを聞くようだけど、カルシウムって何?」
私の中でのイメージは骨とか歯とかを構成する主な成分で、牛乳とか魚とかで摂れる栄養素ってくらいだけど。
「原子番号二十番の元素で、元素記号は『Ca』です。原子量は四〇.〇八。…… (中略) ……建築関係でセメント・モルタルなどにも使われ、現在でも使用量の大部分をコンクリート製品が占めます。食品ではコンニャクや豆腐の凝固成分として使われ、その他の業種では乾燥剤、学校で使われるチョークや校庭などで使うライン引きにも使われます。…… (中略) ……人体の構成成分としてのカルシウムは、おもに骨や歯としてヒドロキシアパタイトという形で存在しています。…… (中略) ……」
「あ、ああ、もう良いわ、余計分からなくなりそう……」
でも聞くのと聞かないのでは創成魔法の完成度が違ってくるかもしれない。一応全部の要素の説明を聞かないと……
「じゃ、じゃあリン酸の説明をお願い」
「リンのオキソ酸の一種で、化学式『H3PO4』の無機酸で、オルトリン酸とも呼ばれています。…… (中略) ……」
その後、ナトリウム、
「原子番号十一の元素、およびその単体金属のことです。元素記号は『Na』。原子量二二.九九。…… (中略) ……」
ムチン、
「動物の上皮細胞などから分泌される粘性物質で、粘素と訳されることもあります。…… (中略) ……オクラ、山芋、モロヘイヤ、納豆などに多く含まれ…… (中略) ……」
免疫物質などについての『説明』という名の講義を受け、現在に至る。
「長いっっ!! 説明長いっ! もはや説明通り越して講義のレベルよ!? 覚えられないよ!!」
「ですが、アルトラ様が説明を求められたので……」
「そうだけども!」
でも、唾液の粘度の元がムチンという物質であるということは理解できた。
「これって人体由来の免疫物質を含めないと唾液にならないってことなのかな?」
「そうなりますね。それに付け加えて口内細菌などもありますが」
「ああ……そっか、唾液って唾液だけを構成する成分だけじゃないんだ……口内細菌か……じゃ、じゃあ一応その説明もしてもらえる……?」
乗り気ではない! 全く乗り気ではないが、誤魔化すためには聞いておかないといけない気がする!
「口内細菌には常在菌、日和見菌、悪玉菌とありますが、まずは有名な乳酸菌から…… (中略) ……」
そしてみっちり二時間説明され――
「はぁ……終わった?」
「はい。もっと詳しくお話するなら――」
「いや! いい、いい!! もう説明いらない!」
これ以上、私が理解できない説明は聞きたくない!
「これってさ、検査終わった後にちゃんと消し去れるかな……? 菌なんて肉眼で見えないし」
検査後にカイベルの口の中を清浄にしておかないと、ある時突然悪臭が出たりとかしそうだし……
「確かにそうですね……菌の数と言うと数千や数万どころではないですからね。下手をしたら数億とか数兆とかに増えるので、その数は私でも流石に対応し切れません。歯科検診されても恐らく唾液の菌まで調べられることは無いでしょうし、創成しない方が良いかもしれませんね」
「そうよね……じゃあ作るのは唾液もどきだけで良いか」
何よりも、カイベルをあまり汚くしたくない。本当なら唾液も作りたくなかったのだが……
「じゃあまあ今聞いた説明を元にとりあえず唾液を作ってみるよ。いつものように補助して、あなたの中で補完してもらえる?」
「分かりました」
さっきの説明を加味して、再びカイベルの唾液腺に創成魔法をかける。
「どう?」
「はい、補完も完了しました。問題無いかと思います。物凄く唾液です。匂いでも嗅いでみますか? 口内細菌まで作っていませんし、それほど悪い匂いではないと思いますが」
「い、いや、別に良いや……あなたが問題無いと言ってるなら……」
他人の唾液の匂い嗅ぐのは絵面的にも何か……嫌だ……
それにしても、口内はギリギリ外からも見える部分だから作るのが面倒くさい……成分まできちんと考えないとバレる可能性が高いし……と考えていたけど、簡易検査で唾液まで調べられることなんか無いか。警察の捜査じゃないんだから。
じゃあ、きっちり成分まで含めず、最悪水とムチン (粘液物質)だけで誤魔化すだけでも良かったかも。
まあ、とりあえず無事に疑似唾液腺の生成は完了したってところか。彼女の補助ありきの創成だから毎度毎度カイベル様様だ。
ちなみに、唾液のDNAは多分前世の私のものか、もしくはそれと似ているものではないかと思われる。カイベルの姿を見るとそういう風にしか連想できないから。
検査が終わったら唾液腺を除去の上、唾液を消し去る仕組みも解除する予定。そのままにしておくとカイベルが食べたものが唾液まみれで亜空間収納ポケットの中に入ってしまう。仮に自分の唾液だったとしても、流石に最初から唾液まみれの食べ物は食べたくないし、衛生的にもよろしくない。
「さて、次は血管か……」
カイベルの肌は、表面上には血管があるように見えるが、当然その下に血管は無い。カイベルの身体は言わばボディペイントで血管が走ってるように見せかけている状態。
血も流れてないから採血されるのは当然NG。
「血管を作るから人体の血管の流れが分かる画像を印刷してもらえる?」
画像を参考に血管を作り出そう……
……としたが、血管が身体のどこをどう走ってるか、画像にしたものを見せられたところ、無数の血管が集まって“人の形”を形成しているということを知った。
「うわっ! 気持ち悪っ!!」
思わず本音が口に出てしまった。集まった血管が大量のミミズが集まってるように見えてグロい画像を見ているかのようだ…
「人間の血管って、こんなにも“きちんと人間の形”に張り巡らされてるのね……」
そりゃ指をちょっと切っただけでも血が出るはずだ。
そんなことを考えて少しの時間現実逃避したが、改めてこの画像に目を落とすと絶望的な気持ちになった。
あまりにも細かすぎる……主要な動脈、静脈だけなら抽出してくれれば作れそうだが、毛細血管が比較にならないくらい多すぎる……こんなの身体中に張り巡らすイメージなんて私には無理だ……
そういえば聞いた話では、人間の血管、毛細血管から主要の血管まで全部繋げて一本にすると地球二周半、実に十万キロメートルにも及ぶらしい。何でその量が人間に収まってるのか不思議だ。
「こ、これは私の想像力では再現は無理かな……」
ああ……内臓、骨、唾液腺までは上手く行ったけど、血管の再現が困難過ぎて無理だ……
もうカイベルの正体は隠しきれない……
詰んだ……?
あ! そうだ!
「カ、カイベル、動脈と静脈さえ作れば、毛細血管はあなたの方で構築できる?」
骨の動きを補助し、内臓を補間し、唾液腺も整えてくれたくらいだから、主要な血管さえ作ってやれば毛細血管の構築くらいはできるかもしれない。
「構築は可能ではあります……ですが、内臓作る時にも言いましたが、そもそも今回は全身の血管を調べるような精密検査などやりませんし、毛細血管まで作る必要は全くと言って良いくらい無いかと」
「え?」
そうか! それもそうだ! 一生懸命イメージを構築しようとするあまり、『今回の簡易検査で検査されるはずがない』ということを失念していた!
内臓ほど大きいものならまだ『検査されるかもしれない』って思えるが、血管まで細かいものとなると、流石にそんなところまでの心配はしなくても良いのではないか?
私は『バレるかもしれない』という強迫観念に突き動かされていたのかも。
表面的に見ればカイベルはこれ以上無いほどの健康体、しかもそれは私がここに存在している限りは半永久的に続く。
別に悪いところがあるわけでもないのに、そこまで細かな精密検査をするはずがないんだ!
採血するって言ってたけど、今急いで全身に血管まで張り巡らせる必要は無いじゃあないか!
要は検査日の一日を誤魔化せれば良いだけなんだ!
「でも採血するってナナトスが言ってたし、それを誤魔化すことだけは考えとかないとね」
「採血は腕からしかされないと思いますし、当日だけ腕に血液を仕込むのはどうでしょうか?」
血を仕込むのか。確かに血管を再現するよりは現実的。
その方法が現状できる最適な方法かな。
しかし問題がある。
「でも新鮮じゃなければならないでしょ? いくら創成魔法で作るって言っても採った後全く固まらない血は不自然だし、この家出る時に仕込んだとしても、病院で検査する時には固まってしまうかも。そんな血じゃどう考えても怪しまれるでしょ? そんな固まった血じゃ採血すらできないだろうし」
と、口に出したが、『岩石に近い組成を持つ亜人とかはどんな血液なんだろう?』とフッと疑問に思った。まあ固まった血液なんて普通は流れて行かないよね。岩石に近かったとしてもそこは普通にサラサラな気がする。
「その程度の問題でしたら、私が体内で鮮度を保ちますのでご心配には及びません」
カイベルがそう言うならきっと問題無いんだろう。
「よし分かった、当日病院行く前に採血されるであろう腕の関節付近に血を仕込もう。よし! じゃあこれでカイベルの身体の問題はほぼ解決かな」
血管はカイベルが健康体である限り作る必要が無くなったし。
「ああ、それと当日は咽喉部分にある亜空間収納ポケットの入り口を閉じておいてください。歯科検診で口を開いた時に怪しまれるかもしれません」
「そうだね」
今回カイベルを修正して思ったけど、あまりにも他人に知られてはならない部分が多すぎる……
表面上は人間にしか見えないから、体内がここまで違っているとは思わなかった……
全部終わってから頭の中が落ち着いて来たのか、一つ疑問が浮かんだ。
ナナトスの話では、歯科検診もあるようだから口の中に唾液が全く無いのでは不自然だ。
唾液を出す機能か……潤いの木のように水分を出し続けるように作れなくはないと思うけど……仮に唾液を調べた時に人体由来の成分とは別の成分が出てこられたら困る。
まあ考えてるだけでは仕方がないので、とりあえずカイベルの口内に唾液腺を組み込む、と同時に表から見えない食道部分に内臓の方へ流れて行かないように唾液を消し去る仕組みを組み込んだ。
「唾液はどう? ちゃんと機能してる?」
「成分ぼ分析じでびばじだが、ごればだだの水でずで」
何だって? 何言ってるか分からん。
と言うか口を開く度に凄い量の飛沫が飛ぶ……
何だコレ……どういう状態……?
「ごめん、聞き取れないから筆談でお願い」
紙に書いて見せられた。
┌────────────────┐
成分分析しましたが、ただの水です
└────────────────┘
「あ、そうなの?」
思えば、唾液の粘性がどんな成分で出来てるか知らない。
やっぱり成分について一切知らないからわずかなイメージもできないのかも。
それにしても、カイベルが少し口を開けただけで、ダバーッと滝のように流れ落ちるヨダレ……
これ、もし生身の人体だったら自分の唾液で溺れるほど出てる気がする……
成分が『水』と聞いても、カイベルの口から流れ落ちるのを見ると、綺麗とは言い難いな……
その光景に思わず眉根に力が入る。
直後にもう一度紙に書いて見せられた。
┌────────────────┐
ただの水ですよ?
└────────────────┘
カイベルがもう一度紙を寄越した理由を考えてみたところ、自身で眉をひそめてた自覚があるから、どうやらかなりしかめっ面になっていたらしい。
表情から察して不快感を取り去るようにもう一度紙を寄越したのだろう。
だって、口から流れてるのを目撃したら、『ただの水』だって言われても、ねぇ?
「ずぐにでぼ変換ぼぼ願いじまず。粘度が無いどで、ごのばばでずどじゃべる度に水が飛び散りまず」
「あああ、はいはいはい! 何言ってるか分からないから、一度唾液腺を閉じるわ!」
滝のようなヨダレが止まった。
「で、何て言ったの?」
「『すぐにでも変換をお願いします。粘度が無いので、このままですとしゃべる度に水が飛び散ります』と」
「あ、そう」
特に聞く必要も無いことだったか。
「唾液の成分って何で出来てるの?」
床に落ちた、ヨダレまがいの水を雑巾で拭きながら答えを返すカイベル。
「唾液の約九十九.五パーセントが水分、 残りの約〇.五パーセントが無機成分としてカルシウム、リン酸、ナトリウムなど、有機成分としてムチンや抗菌・免疫物質などが含まれています」
文系の私には聞いても何言ってるか分からんな……
よく聞くカルシウムですら、どんな物質か分からん。
「基本的なことを聞くようだけど、カルシウムって何?」
私の中でのイメージは骨とか歯とかを構成する主な成分で、牛乳とか魚とかで摂れる栄養素ってくらいだけど。
「原子番号二十番の元素で、元素記号は『Ca』です。原子量は四〇.〇八。…… (中略) ……建築関係でセメント・モルタルなどにも使われ、現在でも使用量の大部分をコンクリート製品が占めます。食品ではコンニャクや豆腐の凝固成分として使われ、その他の業種では乾燥剤、学校で使われるチョークや校庭などで使うライン引きにも使われます。…… (中略) ……人体の構成成分としてのカルシウムは、おもに骨や歯としてヒドロキシアパタイトという形で存在しています。…… (中略) ……」
「あ、ああ、もう良いわ、余計分からなくなりそう……」
でも聞くのと聞かないのでは創成魔法の完成度が違ってくるかもしれない。一応全部の要素の説明を聞かないと……
「じゃ、じゃあリン酸の説明をお願い」
「リンのオキソ酸の一種で、化学式『H3PO4』の無機酸で、オルトリン酸とも呼ばれています。…… (中略) ……」
その後、ナトリウム、
「原子番号十一の元素、およびその単体金属のことです。元素記号は『Na』。原子量二二.九九。…… (中略) ……」
ムチン、
「動物の上皮細胞などから分泌される粘性物質で、粘素と訳されることもあります。…… (中略) ……オクラ、山芋、モロヘイヤ、納豆などに多く含まれ…… (中略) ……」
免疫物質などについての『説明』という名の講義を受け、現在に至る。
「長いっっ!! 説明長いっ! もはや説明通り越して講義のレベルよ!? 覚えられないよ!!」
「ですが、アルトラ様が説明を求められたので……」
「そうだけども!」
でも、唾液の粘度の元がムチンという物質であるということは理解できた。
「これって人体由来の免疫物質を含めないと唾液にならないってことなのかな?」
「そうなりますね。それに付け加えて口内細菌などもありますが」
「ああ……そっか、唾液って唾液だけを構成する成分だけじゃないんだ……口内細菌か……じゃ、じゃあ一応その説明もしてもらえる……?」
乗り気ではない! 全く乗り気ではないが、誤魔化すためには聞いておかないといけない気がする!
「口内細菌には常在菌、日和見菌、悪玉菌とありますが、まずは有名な乳酸菌から…… (中略) ……」
そしてみっちり二時間説明され――
「はぁ……終わった?」
「はい。もっと詳しくお話するなら――」
「いや! いい、いい!! もう説明いらない!」
これ以上、私が理解できない説明は聞きたくない!
「これってさ、検査終わった後にちゃんと消し去れるかな……? 菌なんて肉眼で見えないし」
検査後にカイベルの口の中を清浄にしておかないと、ある時突然悪臭が出たりとかしそうだし……
「確かにそうですね……菌の数と言うと数千や数万どころではないですからね。下手をしたら数億とか数兆とかに増えるので、その数は私でも流石に対応し切れません。歯科検診されても恐らく唾液の菌まで調べられることは無いでしょうし、創成しない方が良いかもしれませんね」
「そうよね……じゃあ作るのは唾液もどきだけで良いか」
何よりも、カイベルをあまり汚くしたくない。本当なら唾液も作りたくなかったのだが……
「じゃあまあ今聞いた説明を元にとりあえず唾液を作ってみるよ。いつものように補助して、あなたの中で補完してもらえる?」
「分かりました」
さっきの説明を加味して、再びカイベルの唾液腺に創成魔法をかける。
「どう?」
「はい、補完も完了しました。問題無いかと思います。物凄く唾液です。匂いでも嗅いでみますか? 口内細菌まで作っていませんし、それほど悪い匂いではないと思いますが」
「い、いや、別に良いや……あなたが問題無いと言ってるなら……」
他人の唾液の匂い嗅ぐのは絵面的にも何か……嫌だ……
それにしても、口内はギリギリ外からも見える部分だから作るのが面倒くさい……成分まできちんと考えないとバレる可能性が高いし……と考えていたけど、簡易検査で唾液まで調べられることなんか無いか。警察の捜査じゃないんだから。
じゃあ、きっちり成分まで含めず、最悪水とムチン (粘液物質)だけで誤魔化すだけでも良かったかも。
まあ、とりあえず無事に疑似唾液腺の生成は完了したってところか。彼女の補助ありきの創成だから毎度毎度カイベル様様だ。
ちなみに、唾液のDNAは多分前世の私のものか、もしくはそれと似ているものではないかと思われる。カイベルの姿を見るとそういう風にしか連想できないから。
検査が終わったら唾液腺を除去の上、唾液を消し去る仕組みも解除する予定。そのままにしておくとカイベルが食べたものが唾液まみれで亜空間収納ポケットの中に入ってしまう。仮に自分の唾液だったとしても、流石に最初から唾液まみれの食べ物は食べたくないし、衛生的にもよろしくない。
「さて、次は血管か……」
カイベルの肌は、表面上には血管があるように見えるが、当然その下に血管は無い。カイベルの身体は言わばボディペイントで血管が走ってるように見せかけている状態。
血も流れてないから採血されるのは当然NG。
「血管を作るから人体の血管の流れが分かる画像を印刷してもらえる?」
画像を参考に血管を作り出そう……
……としたが、血管が身体のどこをどう走ってるか、画像にしたものを見せられたところ、無数の血管が集まって“人の形”を形成しているということを知った。
「うわっ! 気持ち悪っ!!」
思わず本音が口に出てしまった。集まった血管が大量のミミズが集まってるように見えてグロい画像を見ているかのようだ…
「人間の血管って、こんなにも“きちんと人間の形”に張り巡らされてるのね……」
そりゃ指をちょっと切っただけでも血が出るはずだ。
そんなことを考えて少しの時間現実逃避したが、改めてこの画像に目を落とすと絶望的な気持ちになった。
あまりにも細かすぎる……主要な動脈、静脈だけなら抽出してくれれば作れそうだが、毛細血管が比較にならないくらい多すぎる……こんなの身体中に張り巡らすイメージなんて私には無理だ……
そういえば聞いた話では、人間の血管、毛細血管から主要の血管まで全部繋げて一本にすると地球二周半、実に十万キロメートルにも及ぶらしい。何でその量が人間に収まってるのか不思議だ。
「こ、これは私の想像力では再現は無理かな……」
ああ……内臓、骨、唾液腺までは上手く行ったけど、血管の再現が困難過ぎて無理だ……
もうカイベルの正体は隠しきれない……
詰んだ……?
あ! そうだ!
「カ、カイベル、動脈と静脈さえ作れば、毛細血管はあなたの方で構築できる?」
骨の動きを補助し、内臓を補間し、唾液腺も整えてくれたくらいだから、主要な血管さえ作ってやれば毛細血管の構築くらいはできるかもしれない。
「構築は可能ではあります……ですが、内臓作る時にも言いましたが、そもそも今回は全身の血管を調べるような精密検査などやりませんし、毛細血管まで作る必要は全くと言って良いくらい無いかと」
「え?」
そうか! それもそうだ! 一生懸命イメージを構築しようとするあまり、『今回の簡易検査で検査されるはずがない』ということを失念していた!
内臓ほど大きいものならまだ『検査されるかもしれない』って思えるが、血管まで細かいものとなると、流石にそんなところまでの心配はしなくても良いのではないか?
私は『バレるかもしれない』という強迫観念に突き動かされていたのかも。
表面的に見ればカイベルはこれ以上無いほどの健康体、しかもそれは私がここに存在している限りは半永久的に続く。
別に悪いところがあるわけでもないのに、そこまで細かな精密検査をするはずがないんだ!
採血するって言ってたけど、今急いで全身に血管まで張り巡らせる必要は無いじゃあないか!
要は検査日の一日を誤魔化せれば良いだけなんだ!
「でも採血するってナナトスが言ってたし、それを誤魔化すことだけは考えとかないとね」
「採血は腕からしかされないと思いますし、当日だけ腕に血液を仕込むのはどうでしょうか?」
血を仕込むのか。確かに血管を再現するよりは現実的。
その方法が現状できる最適な方法かな。
しかし問題がある。
「でも新鮮じゃなければならないでしょ? いくら創成魔法で作るって言っても採った後全く固まらない血は不自然だし、この家出る時に仕込んだとしても、病院で検査する時には固まってしまうかも。そんな血じゃどう考えても怪しまれるでしょ? そんな固まった血じゃ採血すらできないだろうし」
と、口に出したが、『岩石に近い組成を持つ亜人とかはどんな血液なんだろう?』とフッと疑問に思った。まあ固まった血液なんて普通は流れて行かないよね。岩石に近かったとしてもそこは普通にサラサラな気がする。
「その程度の問題でしたら、私が体内で鮮度を保ちますのでご心配には及びません」
カイベルがそう言うならきっと問題無いんだろう。
「よし分かった、当日病院行く前に採血されるであろう腕の関節付近に血を仕込もう。よし! じゃあこれでカイベルの身体の問題はほぼ解決かな」
血管はカイベルが健康体である限り作る必要が無くなったし。
「ああ、それと当日は咽喉部分にある亜空間収納ポケットの入り口を閉じておいてください。歯科検診で口を開いた時に怪しまれるかもしれません」
「そうだね」
今回カイベルを修正して思ったけど、あまりにも他人に知られてはならない部分が多すぎる……
表面上は人間にしか見えないから、体内がここまで違っているとは思わなかった……
全部終わってから頭の中が落ち着いて来たのか、一つ疑問が浮かんだ。
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