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第16章 大使就任とアルトレリア健康計画編
第420話 晩餐会
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晩餐会が開催され、国家元首である私は開催の挨拶をすることに。
「ご列席の皆さま、このたびは、信任状奉呈式にご参列をいただき、誠にありがとうございます。皆さまが各五大国を代表し遠路はるばるこのアルトラルサンズにお越し下さったこと、厚く御礼申し上げます。また、この機会に本日の晩餐会を催すことができましたことを大変光栄に存じます。
我が国はまだまだ出来たばかりの新興国でありますが、古来より禁忌の地と呼ばれていた中立地帯を、このアルトレリアの皆の努力により徐々に発展をさせることができ、こうして五大国の皆様との関係を築くに至りました。
そして今後は交流・流通を強化させ、より一層の発展とより強い結びつきを見せることと確信しております。――
(中略)
――ご静聴いただきありがとうございました。それでは、乾杯の音頭を取らせていただきます。皆さまグラスをお持ちください」
会場を見回し、出席者がグラスを手に持ったのを確認する。
「アルトラルサンズと五大国の更なる発展とご健勝を祈念し、更に五大国同士の友好親善を願って、杯を挙げたいと思います。乾杯!」
・
・
・
面倒で憂鬱だった晩餐会開催の挨拶。
ハァ……これで私の役割の八割は終わった。
今回晩餐会に招待した人々は、各五大国からアルトラルサンズへ赴任してきてくれた総勢百十一人。日本のように国交のある国が二百近くに及ぶということも無いため、大使だけでなく赴任して来てくれた全員を晩餐会に招待することにした。
そしてアルトラルサンズ側から列席しているのは私とリーヴァント夫妻、大使として水の国へ赴任したクリスティンを除いた副リーダーの四人。
と言うか何気にリーヴァントの奥さんとは初対面だ。リーヴァントが私に次ぐ国の重役ってことと、初めてのアルトラルサンズが直面した重要な場ということで、今回リーヴァントの同伴ということで初めて公式的な場に出て来たらしい。
向こうから挨拶された。
「アルトラ様、お初にお目にかかります。リーヴァントの妻セレナミリアでございます。主人が常日頃からお世話になっております」
「あ、はい、こちらこそ多大なお世話になっております。初めましてよろしくお願いします」
双方でお辞儀。
「ところでアルトラ様! お会いした時には是非とも言っておかねばならないと思っていましたが!」
「は、はい!」
淑やかだったのが突然強い語調に……
「少し主人を働かせ過ぎです!」
この奥さん、大人しくてお淑やかと聞いていたが、大分印象が違うな……
初めての公式的な場にしてはかなり肝が据わっているように見える。
「やっぱりそう思います? 私もそう言ってるんですけど……彼、自分で出来ることは全部自分でやってしまうので……」
チラっとリーヴァントの方を見る。
別の国のヒトとの雑談に興じているようだ。
思えば、去年のクリスマスの深夜、彼の家に侵入した時も深夜にも関わらずまだ明かりを点けて何かの作業をしているのを目撃している。 (第202話参照)
そのままにしておくと寝る間を惜しんで業務するかもしれない。
「やっぱり! アルトラ様もそう思われていたんですね! 何とかしてもらえませんか? このまま行くとドワーフの方々のように過労で倒れかねません」
彼ら過労じゃないんだけどな……情報がアップデートされてない…… (第376話参照)
「あ、あの方々は過労ではなく食べ物が原因でしたね。でもきちんと言っておいてください。私では聞いてくださらないので」
と思ったら、ちゃんとアップデートされてた。
「分かりました、私から強制的に休みの日を作るように言っておきます」
リーヴァントの休める時間が増えるように副リーダー選んだはずなのに、彼らがやってくれるようになったら、自分が出来る仕事を広げたのか……
何のために副リーダー選んだんだよ…… (第157話参照)
「そういえば、最近この町に行商人の方々が増えましたよね? 主人がこの間また変わったものを買ってきましてね――」
曰く、通貨制度が出来てから変なものをコレクションする癖が増大したとか。最初は珍しいと喜んでいた奥さんも珍しいものを見ると買うリーヴァントを少し心配になってきたらしい。
それにしてもよくしゃべった。お淑やかで引きこもりだったんじゃないのか? キャンフィールドが言ってたことと違うな……
実際目にした彼女は、言葉遣いは丁寧だが『奥様』と言うよりは『肝っ玉母さん』。キャンフィールドにはそう見えてるのか?
「それではアルトラ様、ごきげんよう」
少しの雑談に興じて、リーヴァント夫人と別れた。
◇
「アルトラ殿!」
「あ、あなたは……え~と……」
このヒトは風の国大使補佐官の……え~と、誰だ!? 赴任して来たばかりだから名前が出てこない!
「ジェームズです」
そうだ! 寡黙な大使アンドリューさんの補佐に就いてる『ジェームズ・ズー・ブラックウィング』。ズーという黒い怪鳥の変異種で人型になれるようになった高位存在。真の姿はティナリスほどではないがかなり巨大な黒い鳥と聞いている。第一印象は真の姿に似合わずおしゃべり好きで取っつきやすい。
二人とも騎士団員出身のため、災害などの有事の際にはそういった方面の指示もできる。
アンドリューさんが外交官なのに寡黙なのはどうなの? とは思うが、彼が隣に居ることで成り立っているようなところがある。状況判断のアンドリュー、交渉のジェームズってところだろう。
アンドリューさんがジェームズさんを引き連れて……逆か、ジェームズさんがアンドリューさんを引っ張って来た。
「アンドリューさん、ジェームズさん、いかがいたしましたか?」
「こういう場でなんですが、医師派遣の件、いかがいたしましょうか?」
そういえば風の国魔王代理のアスタロトのご厚意で医師を派遣してもらえることになったんだっけ。
「願っても無いです」
「ではすぐに派遣を手配しても構いませんか?」
「ええ、お願いします」
「では二週間ほど後に」
また彼らと少し雑談。
「ああ、そうそう教師の方についても一人移住しても良いという者がいたので併せてご報告しておきます」
しばらく話したら別れる。
どうやら二週間後に常駐してくれる医師が来てくれるらしい。
◇
後ろから声をかけられた。
「アルトラ殿、お初にお目にかかります!」
「あ、はい、どうも」
う~ん……誰だろう? 見たこともない。
見た目は人間ソックリ。
「わたくし、タナカリュウイチと申します」
「タナカ!? 日本人!?」
初めて日本人に会った!
「はい、元日本人で元亡者です。今は土の国の国家機関で職員をやっています。あなたが元日本人と聞いていたので、こうして話してみたく思いお声がけしたのですが……」
上から下までジロジロ見て――
「アルトラ殿、あなたはホントに元日本人ですか? 金髪に碧眼って、どう見ても外国の方に見えますが……」
「生前は元々この身体ではなく、死んでからこの身体になったので……」
「…………どういうことですか?」
タナカさんに掻い摘んで説明した。
「生前と姿が違う!? そんなことがあり得るんですか!?」
「わ、私も何が何だか分からないので……その説明は出来かねますが……」
「不思議ですね~……ところで、アルトラ殿はどの時代に亡くなった人なのですか?」
「二〇二一年です」
「つい最近ですね。じゃあこれ分かるかな~? 実は気になってる漫画の結末を見る前に刑務所内で病死してしまいましてね、その結末を知っていたら教えてもらいたいんですよ!」
「私が知ってれば良いんですが……」
「ドラゴンボーノレという漫画なんですけど、そのフリザー様が第二形態に変身したところで読めなくなってしまったんですよ!」
おお……これはバッチリ読んでたから答えられる!
今三十代前半くらいに見えるけど、随分昔に亡くなったんだな。生きてれば六十代くらいか?
「その後第三形態に変身して、最終形態になります」
「えっ!? 三回も変身するんですか!?」
『変身をあと2回もオレは残している…』とはかなり有名なセリフだ。リアルタイムに読んでいなかったが、当時読んでた少年たちはきっと『あと2回も!?』とワクワクし、戦慄したことだろう。
その後、フリザー様の結末を滔々と語り、漫画の話に花が咲いた。
「いやぁ~、楽しい話でした。できることならこの目で直接漫画を読みたいところですが、今はもう叶いませんからね……」
「また地球へ転生すれば見られるかもしれませんよ?」
『私なら見せてあげられますよ』と言いたいところだったが無用な疑いをかけられるわけにもいかないため思い留まった。
ここで疑問が一つ湧いた。ただ、これはかなりプライベートに踏み込むから聞いても良いことなのかどうか……
でも興味がある!
「タ、タナカさんは、元亡者ってことは地獄に居たんですか?」
「はい、実際の年数で一年ほど入獄しておりました」
ってことは元犯罪者か、ああ魔界に居る時点でみんな元犯罪者か。
浄化されてるならまあ……罪は清算されたと見るべきか。今、地球への転生待ちってことかな?
でも地獄の刑期がたった一年なの?
「突っ込んでお聞きしても?」
「どうぞ」
「何をして地獄へ堕とされたんですか?」
「やくざから借金してしまいましてね、その返済額が度を越していて……それで追われた末に相手を誤って殺してしまいました」
不可抗力の殺人か……可哀想とは言えないが、気の毒な罪だ。
多分彼の生きてた年代では『ヤミ金』という言葉は無いだろうが、その走りと言ったところかな?
「ちなみに殺した相手は?」
「彼も地獄に居ましたよ。私より何年も先に地獄に行ったと思いますが、私よりずっと刑期が長いようです。見かけただけで直接対面することはありませんでしたが」
「はぁ、なるほど」
ってことはそいつはいくつも罪を重ねてるってことなんだな。
「まあもう三十年近く経ちますし、すでに地獄を保釈されてるかもしれませんね」
殺人以上の罪を犯しててたった三十年?
「あなたはやむを得なかったとは言え一人の殺人、でも相手はあなたより長いんですよね? ってことは二人以上殺してる可能性があるということになりますよね?」
「そうですね」
「三十年って短すぎませんか?」
「実時間で考えると確かに短いかもしれません。が、地獄の中の時間の感覚は外とは違ってますので三十年は決して短くはないと思います。長くても十年くらいで終わる者がほとんどですので」
十年だとぉ? 人殺しておいて十年って……
それよりも気になるのが――
「地獄の中は時間の感覚が違う?」
「はい、外の時間で一日が地獄内では五百年に相当します」
「ごっ……五百年!? 一日が!?」
「はい。入ってた私自身は何年経過してたのか分かりませんでしたが、そう聞いています」
長っ!? 途方もない時間だ……
「タナカさんは刑期一年ってことは……」
「はい、十八万二千五百年入獄しておりました」
「十八万っ!?」
途方もないどころではない……
「よ、よく自我を保っていられますね……」
「一年、五年、十年と経過していくうちに思考能力も無くなって行き、二十年も経過した頃は苦しみしかありませんでしたよ、ハハハ……自我が戻って来たのは刑期が終わって保釈されてからです」
なるほど、確かに自我保ってたらそんな苦しみ耐えられないかもしれない。
「こちらからも質問良いですか? アルトラ殿はどんな罪を?」
「さ、さあ? 分からないんです」
「分からない? 『言えない』じゃなくて『分からない』んですか?」
「はい」
「閻魔の審判で罪状を聞いているはずですが……」
「私、閻魔の審判受けてないので……」
「どういうことですか!?」
「さ、さあ? それすらも分からないんで……多分生前と姿形が違うのが関係してると思うんですけど、現時点では全く……」
「地獄を出られたのはいつ頃なんですか?」
「私、地獄にも行ってないので……」
「魔界に堕とされたのに地獄に入ってない!? 私、気付いたら地獄に居ましたけど!?」
「私は堕とされた当初から頭がはっきりしていたので地獄に“自分の意思”で行きませんでした」
「そんなことが可能なんですか!? 地獄には意識無い状態で入獄してくるのが普通ですよ!?」
「普通はできないことだと聞きました」
それを言った後に何かに気付いたように私の側頭部辺りを見る。
「…………あっ、その髪の毛の黒いもの、髪飾りかと思ってましたがツノですか?」
「はい」
「生まれ変わりというやつですかね? 悪魔に生まれ変わったとか? だから地獄行きも免除された?」
「あ、悪魔でもないんですけどね……」
「どういうことですか?」
「それはまた教える機会があった時にでも」
「…………そうですか……不思議な方ですね……」
その後少しの雑談。
「今日は楽しいお話ができました。ここに赴任することになりましたし、またお話しましょう、では」
頭を下げてタナカさんは去って行った。
◇
楽しい話の余韻も束の間、やはりネガティブな話も聞こえてしまう。
「やはり田舎ですな」
「五大国中で比較的自然の多い我が国でも、ここまで田舎ではないですがね」
「田舎臭い服装でしたな」
「家もこじんまりしてましたぞ?」
「「「ハハハハハ」」」
どうやら樹の国の大使館職員のようだ……
近くで聞いていたルークが私に話しかけてきた。
「注意しておきますか?」
「いや、別に良いよ。放っておいても害になることは無いだろうし、まだこの国は貶められるほどの価値は無いからね。彼らの言い分をバネにもっと発展させてやろうよ!」
「そうですね!」
新興国でお金が潤沢にあるわけでもないから、田舎だとバカにされるのはむしろ当然のことだ。重要なのはここからいかに発展していくか。
が、それを聞いていたらしい樹の国大使トレシアさんが口を出した。
「あなたたち!」
「「あ、トレシア様……」」
「ぐちぐち言ってないで、発展をお手伝いするのがわたくしたちの役目でしょう?」
「しかし他国ですので……」
「他国なら尚更誠実に業務を行うのが当然だと思いますが? 現地に居ながらその国を貶めるような発言は慎んでください」
「も、申し訳ありません……以後気を付けます……」
こちらとしては各国に気を遣わなければならないかなり弱い立場のため、自国の職員をきちんと叱ってもらえてありがたい。
その後、教師派遣の話が風の国以外からも話題になり、図書館の本を寄贈の話があり、発電施設の進捗の話があり、より美味しい作物の作り方の話になりと、様々な話をし無事晩餐会の幕は閉じた。
「ご列席の皆さま、このたびは、信任状奉呈式にご参列をいただき、誠にありがとうございます。皆さまが各五大国を代表し遠路はるばるこのアルトラルサンズにお越し下さったこと、厚く御礼申し上げます。また、この機会に本日の晩餐会を催すことができましたことを大変光栄に存じます。
我が国はまだまだ出来たばかりの新興国でありますが、古来より禁忌の地と呼ばれていた中立地帯を、このアルトレリアの皆の努力により徐々に発展をさせることができ、こうして五大国の皆様との関係を築くに至りました。
そして今後は交流・流通を強化させ、より一層の発展とより強い結びつきを見せることと確信しております。――
(中略)
――ご静聴いただきありがとうございました。それでは、乾杯の音頭を取らせていただきます。皆さまグラスをお持ちください」
会場を見回し、出席者がグラスを手に持ったのを確認する。
「アルトラルサンズと五大国の更なる発展とご健勝を祈念し、更に五大国同士の友好親善を願って、杯を挙げたいと思います。乾杯!」
・
・
・
面倒で憂鬱だった晩餐会開催の挨拶。
ハァ……これで私の役割の八割は終わった。
今回晩餐会に招待した人々は、各五大国からアルトラルサンズへ赴任してきてくれた総勢百十一人。日本のように国交のある国が二百近くに及ぶということも無いため、大使だけでなく赴任して来てくれた全員を晩餐会に招待することにした。
そしてアルトラルサンズ側から列席しているのは私とリーヴァント夫妻、大使として水の国へ赴任したクリスティンを除いた副リーダーの四人。
と言うか何気にリーヴァントの奥さんとは初対面だ。リーヴァントが私に次ぐ国の重役ってことと、初めてのアルトラルサンズが直面した重要な場ということで、今回リーヴァントの同伴ということで初めて公式的な場に出て来たらしい。
向こうから挨拶された。
「アルトラ様、お初にお目にかかります。リーヴァントの妻セレナミリアでございます。主人が常日頃からお世話になっております」
「あ、はい、こちらこそ多大なお世話になっております。初めましてよろしくお願いします」
双方でお辞儀。
「ところでアルトラ様! お会いした時には是非とも言っておかねばならないと思っていましたが!」
「は、はい!」
淑やかだったのが突然強い語調に……
「少し主人を働かせ過ぎです!」
この奥さん、大人しくてお淑やかと聞いていたが、大分印象が違うな……
初めての公式的な場にしてはかなり肝が据わっているように見える。
「やっぱりそう思います? 私もそう言ってるんですけど……彼、自分で出来ることは全部自分でやってしまうので……」
チラっとリーヴァントの方を見る。
別の国のヒトとの雑談に興じているようだ。
思えば、去年のクリスマスの深夜、彼の家に侵入した時も深夜にも関わらずまだ明かりを点けて何かの作業をしているのを目撃している。 (第202話参照)
そのままにしておくと寝る間を惜しんで業務するかもしれない。
「やっぱり! アルトラ様もそう思われていたんですね! 何とかしてもらえませんか? このまま行くとドワーフの方々のように過労で倒れかねません」
彼ら過労じゃないんだけどな……情報がアップデートされてない…… (第376話参照)
「あ、あの方々は過労ではなく食べ物が原因でしたね。でもきちんと言っておいてください。私では聞いてくださらないので」
と思ったら、ちゃんとアップデートされてた。
「分かりました、私から強制的に休みの日を作るように言っておきます」
リーヴァントの休める時間が増えるように副リーダー選んだはずなのに、彼らがやってくれるようになったら、自分が出来る仕事を広げたのか……
何のために副リーダー選んだんだよ…… (第157話参照)
「そういえば、最近この町に行商人の方々が増えましたよね? 主人がこの間また変わったものを買ってきましてね――」
曰く、通貨制度が出来てから変なものをコレクションする癖が増大したとか。最初は珍しいと喜んでいた奥さんも珍しいものを見ると買うリーヴァントを少し心配になってきたらしい。
それにしてもよくしゃべった。お淑やかで引きこもりだったんじゃないのか? キャンフィールドが言ってたことと違うな……
実際目にした彼女は、言葉遣いは丁寧だが『奥様』と言うよりは『肝っ玉母さん』。キャンフィールドにはそう見えてるのか?
「それではアルトラ様、ごきげんよう」
少しの雑談に興じて、リーヴァント夫人と別れた。
◇
「アルトラ殿!」
「あ、あなたは……え~と……」
このヒトは風の国大使補佐官の……え~と、誰だ!? 赴任して来たばかりだから名前が出てこない!
「ジェームズです」
そうだ! 寡黙な大使アンドリューさんの補佐に就いてる『ジェームズ・ズー・ブラックウィング』。ズーという黒い怪鳥の変異種で人型になれるようになった高位存在。真の姿はティナリスほどではないがかなり巨大な黒い鳥と聞いている。第一印象は真の姿に似合わずおしゃべり好きで取っつきやすい。
二人とも騎士団員出身のため、災害などの有事の際にはそういった方面の指示もできる。
アンドリューさんが外交官なのに寡黙なのはどうなの? とは思うが、彼が隣に居ることで成り立っているようなところがある。状況判断のアンドリュー、交渉のジェームズってところだろう。
アンドリューさんがジェームズさんを引き連れて……逆か、ジェームズさんがアンドリューさんを引っ張って来た。
「アンドリューさん、ジェームズさん、いかがいたしましたか?」
「こういう場でなんですが、医師派遣の件、いかがいたしましょうか?」
そういえば風の国魔王代理のアスタロトのご厚意で医師を派遣してもらえることになったんだっけ。
「願っても無いです」
「ではすぐに派遣を手配しても構いませんか?」
「ええ、お願いします」
「では二週間ほど後に」
また彼らと少し雑談。
「ああ、そうそう教師の方についても一人移住しても良いという者がいたので併せてご報告しておきます」
しばらく話したら別れる。
どうやら二週間後に常駐してくれる医師が来てくれるらしい。
◇
後ろから声をかけられた。
「アルトラ殿、お初にお目にかかります!」
「あ、はい、どうも」
う~ん……誰だろう? 見たこともない。
見た目は人間ソックリ。
「わたくし、タナカリュウイチと申します」
「タナカ!? 日本人!?」
初めて日本人に会った!
「はい、元日本人で元亡者です。今は土の国の国家機関で職員をやっています。あなたが元日本人と聞いていたので、こうして話してみたく思いお声がけしたのですが……」
上から下までジロジロ見て――
「アルトラ殿、あなたはホントに元日本人ですか? 金髪に碧眼って、どう見ても外国の方に見えますが……」
「生前は元々この身体ではなく、死んでからこの身体になったので……」
「…………どういうことですか?」
タナカさんに掻い摘んで説明した。
「生前と姿が違う!? そんなことがあり得るんですか!?」
「わ、私も何が何だか分からないので……その説明は出来かねますが……」
「不思議ですね~……ところで、アルトラ殿はどの時代に亡くなった人なのですか?」
「二〇二一年です」
「つい最近ですね。じゃあこれ分かるかな~? 実は気になってる漫画の結末を見る前に刑務所内で病死してしまいましてね、その結末を知っていたら教えてもらいたいんですよ!」
「私が知ってれば良いんですが……」
「ドラゴンボーノレという漫画なんですけど、そのフリザー様が第二形態に変身したところで読めなくなってしまったんですよ!」
おお……これはバッチリ読んでたから答えられる!
今三十代前半くらいに見えるけど、随分昔に亡くなったんだな。生きてれば六十代くらいか?
「その後第三形態に変身して、最終形態になります」
「えっ!? 三回も変身するんですか!?」
『変身をあと2回もオレは残している…』とはかなり有名なセリフだ。リアルタイムに読んでいなかったが、当時読んでた少年たちはきっと『あと2回も!?』とワクワクし、戦慄したことだろう。
その後、フリザー様の結末を滔々と語り、漫画の話に花が咲いた。
「いやぁ~、楽しい話でした。できることならこの目で直接漫画を読みたいところですが、今はもう叶いませんからね……」
「また地球へ転生すれば見られるかもしれませんよ?」
『私なら見せてあげられますよ』と言いたいところだったが無用な疑いをかけられるわけにもいかないため思い留まった。
ここで疑問が一つ湧いた。ただ、これはかなりプライベートに踏み込むから聞いても良いことなのかどうか……
でも興味がある!
「タ、タナカさんは、元亡者ってことは地獄に居たんですか?」
「はい、実際の年数で一年ほど入獄しておりました」
ってことは元犯罪者か、ああ魔界に居る時点でみんな元犯罪者か。
浄化されてるならまあ……罪は清算されたと見るべきか。今、地球への転生待ちってことかな?
でも地獄の刑期がたった一年なの?
「突っ込んでお聞きしても?」
「どうぞ」
「何をして地獄へ堕とされたんですか?」
「やくざから借金してしまいましてね、その返済額が度を越していて……それで追われた末に相手を誤って殺してしまいました」
不可抗力の殺人か……可哀想とは言えないが、気の毒な罪だ。
多分彼の生きてた年代では『ヤミ金』という言葉は無いだろうが、その走りと言ったところかな?
「ちなみに殺した相手は?」
「彼も地獄に居ましたよ。私より何年も先に地獄に行ったと思いますが、私よりずっと刑期が長いようです。見かけただけで直接対面することはありませんでしたが」
「はぁ、なるほど」
ってことはそいつはいくつも罪を重ねてるってことなんだな。
「まあもう三十年近く経ちますし、すでに地獄を保釈されてるかもしれませんね」
殺人以上の罪を犯しててたった三十年?
「あなたはやむを得なかったとは言え一人の殺人、でも相手はあなたより長いんですよね? ってことは二人以上殺してる可能性があるということになりますよね?」
「そうですね」
「三十年って短すぎませんか?」
「実時間で考えると確かに短いかもしれません。が、地獄の中の時間の感覚は外とは違ってますので三十年は決して短くはないと思います。長くても十年くらいで終わる者がほとんどですので」
十年だとぉ? 人殺しておいて十年って……
それよりも気になるのが――
「地獄の中は時間の感覚が違う?」
「はい、外の時間で一日が地獄内では五百年に相当します」
「ごっ……五百年!? 一日が!?」
「はい。入ってた私自身は何年経過してたのか分かりませんでしたが、そう聞いています」
長っ!? 途方もない時間だ……
「タナカさんは刑期一年ってことは……」
「はい、十八万二千五百年入獄しておりました」
「十八万っ!?」
途方もないどころではない……
「よ、よく自我を保っていられますね……」
「一年、五年、十年と経過していくうちに思考能力も無くなって行き、二十年も経過した頃は苦しみしかありませんでしたよ、ハハハ……自我が戻って来たのは刑期が終わって保釈されてからです」
なるほど、確かに自我保ってたらそんな苦しみ耐えられないかもしれない。
「こちらからも質問良いですか? アルトラ殿はどんな罪を?」
「さ、さあ? 分からないんです」
「分からない? 『言えない』じゃなくて『分からない』んですか?」
「はい」
「閻魔の審判で罪状を聞いているはずですが……」
「私、閻魔の審判受けてないので……」
「どういうことですか!?」
「さ、さあ? それすらも分からないんで……多分生前と姿形が違うのが関係してると思うんですけど、現時点では全く……」
「地獄を出られたのはいつ頃なんですか?」
「私、地獄にも行ってないので……」
「魔界に堕とされたのに地獄に入ってない!? 私、気付いたら地獄に居ましたけど!?」
「私は堕とされた当初から頭がはっきりしていたので地獄に“自分の意思”で行きませんでした」
「そんなことが可能なんですか!? 地獄には意識無い状態で入獄してくるのが普通ですよ!?」
「普通はできないことだと聞きました」
それを言った後に何かに気付いたように私の側頭部辺りを見る。
「…………あっ、その髪の毛の黒いもの、髪飾りかと思ってましたがツノですか?」
「はい」
「生まれ変わりというやつですかね? 悪魔に生まれ変わったとか? だから地獄行きも免除された?」
「あ、悪魔でもないんですけどね……」
「どういうことですか?」
「それはまた教える機会があった時にでも」
「…………そうですか……不思議な方ですね……」
その後少しの雑談。
「今日は楽しいお話ができました。ここに赴任することになりましたし、またお話しましょう、では」
頭を下げてタナカさんは去って行った。
◇
楽しい話の余韻も束の間、やはりネガティブな話も聞こえてしまう。
「やはり田舎ですな」
「五大国中で比較的自然の多い我が国でも、ここまで田舎ではないですがね」
「田舎臭い服装でしたな」
「家もこじんまりしてましたぞ?」
「「「ハハハハハ」」」
どうやら樹の国の大使館職員のようだ……
近くで聞いていたルークが私に話しかけてきた。
「注意しておきますか?」
「いや、別に良いよ。放っておいても害になることは無いだろうし、まだこの国は貶められるほどの価値は無いからね。彼らの言い分をバネにもっと発展させてやろうよ!」
「そうですね!」
新興国でお金が潤沢にあるわけでもないから、田舎だとバカにされるのはむしろ当然のことだ。重要なのはここからいかに発展していくか。
が、それを聞いていたらしい樹の国大使トレシアさんが口を出した。
「あなたたち!」
「「あ、トレシア様……」」
「ぐちぐち言ってないで、発展をお手伝いするのがわたくしたちの役目でしょう?」
「しかし他国ですので……」
「他国なら尚更誠実に業務を行うのが当然だと思いますが? 現地に居ながらその国を貶めるような発言は慎んでください」
「も、申し訳ありません……以後気を付けます……」
こちらとしては各国に気を遣わなければならないかなり弱い立場のため、自国の職員をきちんと叱ってもらえてありがたい。
その後、教師派遣の話が風の国以外からも話題になり、図書館の本を寄贈の話があり、発電施設の進捗の話があり、より美味しい作物の作り方の話になりと、様々な話をし無事晩餐会の幕は閉じた。
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