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第16章 大使就任とアルトレリア健康計画編
第418話 信任式に向けた準備
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七月二十七日。
アルトラルサンズが他国と正式に同盟が結ばれるまで残り五日――
今日は五大国へ送り出す大使たちへ、ささやかながら壮行会を執り行い食事の場を設けた。
壮行会冒頭――
「みんなに先日手渡した信任状については、相手国側の信任状奉呈式にて相手国の国家元首に確実に渡してください。折って持ち運ぶなんてもってのほかですよ!」
クリスティンには水の国に宛てた信任状、
ヴォーレイには雷の国に宛てた信任状、
サクラノには樹の国に宛てた信任状、
ヴィクスターには土の国に宛てた信任状、
バーバライアには風の国に宛てた信任状が渡っている。
(クリスティン以外の各国に赴任する大使については第296話参照)
「クリスティン、ヴォーレイ、サクラノ、ヴィクスター、バーバライア、大使としての任がんばってください。またその補佐の方々もよろしくお願いしますね」
「「「「「はい!!」」」」」
役所職員総出で五人とその補佐を見送る。
その後立食会へと移行。
クリスティンは水の国へ大使として赴任するため、この壮行会が実質最後のお役所仕事だ。
「この町からいなくなるのは寂しく思うわ……」
「私もです……でも外国を見てみたかったってのは、アルトラ様がここへ来てから出来た私の夢ですから。向こうでしっかりお役目を務めてきますよ!」
「よろしくお願いね」
この後、大使たち五人とその補佐は、五大国側の厚意により迎えに来た各国の空間魔術師によって、それぞれの国へと旅立って行った。
◇
七月三十日。
信任式まで残り二日――
昨日大使を送り出したのとは入れ替わりに、五大国各国大使がアルトレリアを来訪。
顔合わせと挨拶の後、順次大使館及び大使公邸、その住居へ案内する。
各国大使とその補佐二名ずつ、更に職員二十名前後が赴任して来た。一気にアルトレリアの人数が百人ほど増えた形だ。
各国の大使として赴任したのは――
水の国大使は、『アーノルド・ネック・レインナート』。ネックというケンタウロスに似た人馬の姿をしている水の精霊で、見た目には髪は金髪、肌の色はペールオレンジで人馬にしか見えないが、水の精霊らしくある程度姿を変えられると聞いている。 (第373話参照)
今日は四本脚で挨拶された。正式な場では四本脚、普段使いは二本脚と使い分けてるそうだ。
雷の国大使は、『エミリー・ヘルヘヴン・レイニー・ホワイト』。以前私の案内に付いてくれたトールズ騎士団の女性騎士。 (※)
ちなみに名前の後ろの『ホワイト』は、本来黒い羽を持って生まれるヘルヘヴン族が白い羽で生まれた者にのみ付けられる誉れ高い称号のようなものだとか。
(※案内に付いた:『第5章 雷の国エレアースモの異常事態編』、『第11章 雷の国エレアースモ探訪編』参照)
樹の国大使は、『トレシア・ドリアード・ツリアース』。樹の国魔王代理を務めているトライアさんの四番目の妹。
のほほん長女に、しっかり次女、三女、四女、おっとり五女らしい。
五番目の妹トロモアさんと、私の魔力によって樹人から進化したドリアード族のリリーアが補佐に就いている。
風の国大使は、『アンドリュー・イーリス・カルタート』。風の国の騎士団団長のティナリスの補佐をしていた優秀な男性騎士。イーリスという鳥人らしく、楽器が得意な種族とか。以前視察に来た時に一度だけ顔を会わせている。
視察の時はティナリスの陰に控えていてどんな人物か分からなかったが、今回もあまりしゃべらない。どうやら話すのはあまり得意な方ではないらしい。寡黙な楽士? 水の国大使のアーノルドさんとは気が合いそうだ。 (第373話参照)
土の国大使は、『ルビアン・カーバンクル・ロックフィールド』。以前視察団を派遣してきた時にはいなかったため、今回が初対面。
比較的小柄な可愛らしい宝石の精霊。受肉体とする宝石には種類があるらしく、彼女はルビーを受肉体とした精霊だそうだ。
背の高さは私と同じか少し大きい程度。額に赤い宝石が付いている以外は人間と大して変わらない見た目をしている。しかし、全身がツヤツヤ光って見えて、究極の美肌という感じ。ただ、宝石の精霊とあって肌質は石のように硬いそうだ。
…………土の国は大使とは対照的に補佐官がゴツい……デミゴーレムと言われる、岩の組成を持つ精霊種。曰く、魔道人形のゴーレムに見た目が似ていたため、デミという名が付けられたとか。実際は土の精霊ノームの一種らしい。
今回は顔合わせと簡単な挨拶だけで別れた。
◇
七月二十九日。
信任式まで残り三日――
アルトレリアには、国営の会館やイベントホールなどはまだ正式に作ってあるわけではないが、信任式に向けて少し堅めなイベントができる部屋と多少大きめの部屋を多目的室として新しく役所の近くに作ったらしい。
信任式はその新しくできた部屋で催される。
現在、その新しく建設された場所へ歩を進めている最中。
「リーヴァント、多目的室なんていつから作ってたの?」
表の通りからは外れるから作っているのに気付かなかった。ただでさえ最近樹の国に火の国にと忙しかったのも気付かなかった一因だろう。
「何かしら多目的に使える場所が必要かと思いまして、会議室とは別に少し前から作り始めていました。ここ最近急ピッチで建設して、何とか信任式には間に合ったようです」
「それはご苦労様です」
道中聞いていた多目的室に着いた。
結構広めに作られた多目的室……と言うより、『多目的ホール』と言った方が相応しい気がする。体育館としても使えそうなほど広さがある。
そして少し離れた場所にこことは別の比較的小さい多目的室。
どちらの建物もトイレがきちんと作られていて、簡易的な給湯室からちゃんとした調理室まであり、会食などのイベントも可能。
今の時期アルトレリアは暑いはずなのに、この中は涼しい。冷暖房まで完備されてるらしい。エネルギー源は魔力動力式発電機。併せて火と氷の魔力を帯びた魔石で補助して消費電力を抑えてるとか。この辺りの技術的な話は私にはわからん。
奥には舞台まで作られていて、演劇などの催し物もできそうだ。舞台袖には控室や化粧室まである。多目的ホールの方は上を見るとアルトレリアではまだ見たことないような照明器具も……
「凄い! 誰、これ作ろうって言ったの!?」
「はい、町に移住されているドワーフ、人魚、エルフ、ヘルヘヴン、ソリッドノーム、ガーゴイルの方々との情報交換の会合を開いてみたところ、今後他国との交流が増えますからこういった多目的で使える部屋を作った方が良いんじゃないかとアドバイスを貰いまして。いっそ役所の外側に二棟建ててしまおうかと」
なるほど、外国勢の意見を取り入れたわけね。
「運動するのにも耐えうるので、体を動かす催しも可能です。バスケットボール?だとかバレーボール?だとか言うボールも使えるように耐久性も考えられています」
火の国の豪邸ではボール自体が存在しているのは確認しているが、ボール競技もちゃんと存在しているのね。
これでバスケットゴールとか、バレーネットでもあればスポーツ大会の開催も可能ってわけか。
「しかし……残念ながら砲丸投げ?とかいう競技のボールには耐えられないと思います。聞いた話では金属のボールを投げるんですよね?」
「だ、大丈夫……普通は屋内施設で砲丸投げの球に耐えられるような耐久性は求めないから……」
それは日本にある体育館でも耐えられないと思うわ……そんなの体育館で投げたら、管理してる人にブチギレられるどころか器物破損で損害賠償まで払わないといけなくなる……
「バスケもバレーもこの町にまだ無いのによく知ってるね」
「建設してる最中にアクアリヴィア出身組の方々に教えていただきました。アクアリヴィアやエレアースモではスポーツ団体がいくつかあるそうですよ」
「他の国には無いの?」
「風の国出身の方はまだいないので話が聞けませんでしたが、土の国のことはダム建設で雷の国から来ていただいているガーゴイル族のヘンリーさんが出身だそうで話が聞けました。曰くまだ正式な球技団体は存在しないのだとか。樹の国は木の実をボールに見立てて遊ぶことはあるようですが、土、風同様に存在しないようです。スポーツとして嗜んでいる国は二ヵ国だけのようですね」
やっぱり文化的な面ではこの二ヵ国が群を抜いてるかな。
この二ヵ国の歴代女王の性質が他の国とは違って破壊寄りの性質じゃなかったからかもしれない。土の国の王の性質は『怠惰』だから発展も緩慢だろうし。
「ただ……アルトレリアに移住された方の中で本格的にプレイしていた経験者がトーマスさんとリナさんの二人しかおらず、この町で普及するのはまだ先になるかと」
経験者二人じゃ教えるのも無理があるか。
それにしても人魚族なのに陸上競技経験があるって、中々不思議な感じがするわ。
「ドワーフさんたちは同じアクアリヴィア出身組なのにやったりしなかったの?」
「フィンツさん曰く『俺たちが学生時代の頃はスポーツなんてもんが無かったからルールすら知らん』だそうです」
「アクアリヴィアにスポーツ団体があるなら見に行ったりとかしないのかな?」
「『足を運ぶほどの興味は無い』だとか」
「あ、そう……」
各競技は地球でスポーツとして確立されたのはここ百年そこそこだから、亡者から伝わったなら魔界での歴史は多分早くてもは七十年や八十年くらいと考えられる。
彼ら、長く生きてるから学生時分にはまだスポーツとして確立されてなかったのかもしれないな。
ドワーフさんたちが知らないのもおかしい話ではないか。
各競技の起源まで遡れば、ルール無用だった頃のが伝わってる可能性はあるけど、それはまだスポーツとは呼べないものだし。
逆にもしかしたら魔界側から地球へ伝わったものもあるかもしれないけど、古代に悪魔が伝えたものなんて現在のスポーツと見比べると全く違うものが多いだろう。まあ人間に競技を伝えた悪魔が居たかどうかは定かではないけど……
「ま、何にしてもこういう発展は望ましいわ。まとめてくれてありがとう、リーヴァント! じゃあ、引き続き信任式の準備よろしくお願いね」
「了解しました」
ただ、優先順位で言うなら、スポーツ関連の事柄は後回しかな。
次は学校と図書館を何とかしたい。
病院も建てたいところだけど……トロル族は病気しないから後回しで良いか。
………………いや、そういえば以前ドワーフさんたちが食中毒になって困ったことあったっけな…… (第375話から第378話参照)
じゃあこっちも進めないといけないか。誰かこの町でお医者さんやってくれるヒトがいると良いんだけど。
そして着々と信任式に向けて準備が進められる。
◇
七月三十一日。信任式前日――
「今日は明日のためのリハーサルを行います」
本番に向けてリハーサルのため、多目的室を訪れていた。
多目的室ではみんな忙しく信任式に向けて準備を進めている。
「これはどこに置くんだっけ?」
「企画書によると、ここじゃない?」
「カーペット引かないと、おーい、三人手伝ってくれ!」
「この布はどこにやるの?」
「それは扉幕だね。入口全部に設置して」
う~ん……私個人は日本の信任式のようなシンプルな形が好みだったんだけど、だんだんと派手な装飾になっていってるな……
「椅子と机はどこに置くの?」
「あ、あっちあっち」
「国旗も立てて!」
実は国旗も作らなければならなかった。
国が興るってのはそういうことなんだろう。
国旗は太陽をモチーフにした。濃紺地に白色の丸と下に向けた放射状の光のグラデーション。『天から日が差している』というイメージの旗。
最初は白い丸の外側に日暈 (※)と呼ばれる光のリングを描いた旗にしようかと思ったが、カイベル曰く「日暈は天気が下り坂になるサインです」と言われて今の形になった。
(※日暈:ハロとも言うそうです)
「なあ、樹の国の大使 (仮)の方々が、『テレビカメラが来る』って言ってたけど、テレビカメラって何だ?」
「さあ? カメラとは違うものなのかな?」
「多少大きいものらしいぞ?」
「じゃあスペースは広めに取っておいた方が良いかもな」
などという会話の後、床に色テープで『テレビカメラ』とカタカナで記されたスペースが設けられた。
ちなみにこの色テープは各国にも存在するもので、今使われているものはこの町で生産されたもの。
「みんないそいそと動いてるけど、こんなところでリハーサルやるの?」
「まあ、準備もしなければならないので仕方ないかと、それともぶっつけ本番で行きますか?」
「それは不安じゃない?」
と言うわけでリーヴァントと副リーダーたちを大使たちに見立ててリハーサルを行なった。
アルトラルサンズが他国と正式に同盟が結ばれるまで残り五日――
今日は五大国へ送り出す大使たちへ、ささやかながら壮行会を執り行い食事の場を設けた。
壮行会冒頭――
「みんなに先日手渡した信任状については、相手国側の信任状奉呈式にて相手国の国家元首に確実に渡してください。折って持ち運ぶなんてもってのほかですよ!」
クリスティンには水の国に宛てた信任状、
ヴォーレイには雷の国に宛てた信任状、
サクラノには樹の国に宛てた信任状、
ヴィクスターには土の国に宛てた信任状、
バーバライアには風の国に宛てた信任状が渡っている。
(クリスティン以外の各国に赴任する大使については第296話参照)
「クリスティン、ヴォーレイ、サクラノ、ヴィクスター、バーバライア、大使としての任がんばってください。またその補佐の方々もよろしくお願いしますね」
「「「「「はい!!」」」」」
役所職員総出で五人とその補佐を見送る。
その後立食会へと移行。
クリスティンは水の国へ大使として赴任するため、この壮行会が実質最後のお役所仕事だ。
「この町からいなくなるのは寂しく思うわ……」
「私もです……でも外国を見てみたかったってのは、アルトラ様がここへ来てから出来た私の夢ですから。向こうでしっかりお役目を務めてきますよ!」
「よろしくお願いね」
この後、大使たち五人とその補佐は、五大国側の厚意により迎えに来た各国の空間魔術師によって、それぞれの国へと旅立って行った。
◇
七月三十日。
信任式まで残り二日――
昨日大使を送り出したのとは入れ替わりに、五大国各国大使がアルトレリアを来訪。
顔合わせと挨拶の後、順次大使館及び大使公邸、その住居へ案内する。
各国大使とその補佐二名ずつ、更に職員二十名前後が赴任して来た。一気にアルトレリアの人数が百人ほど増えた形だ。
各国の大使として赴任したのは――
水の国大使は、『アーノルド・ネック・レインナート』。ネックというケンタウロスに似た人馬の姿をしている水の精霊で、見た目には髪は金髪、肌の色はペールオレンジで人馬にしか見えないが、水の精霊らしくある程度姿を変えられると聞いている。 (第373話参照)
今日は四本脚で挨拶された。正式な場では四本脚、普段使いは二本脚と使い分けてるそうだ。
雷の国大使は、『エミリー・ヘルヘヴン・レイニー・ホワイト』。以前私の案内に付いてくれたトールズ騎士団の女性騎士。 (※)
ちなみに名前の後ろの『ホワイト』は、本来黒い羽を持って生まれるヘルヘヴン族が白い羽で生まれた者にのみ付けられる誉れ高い称号のようなものだとか。
(※案内に付いた:『第5章 雷の国エレアースモの異常事態編』、『第11章 雷の国エレアースモ探訪編』参照)
樹の国大使は、『トレシア・ドリアード・ツリアース』。樹の国魔王代理を務めているトライアさんの四番目の妹。
のほほん長女に、しっかり次女、三女、四女、おっとり五女らしい。
五番目の妹トロモアさんと、私の魔力によって樹人から進化したドリアード族のリリーアが補佐に就いている。
風の国大使は、『アンドリュー・イーリス・カルタート』。風の国の騎士団団長のティナリスの補佐をしていた優秀な男性騎士。イーリスという鳥人らしく、楽器が得意な種族とか。以前視察に来た時に一度だけ顔を会わせている。
視察の時はティナリスの陰に控えていてどんな人物か分からなかったが、今回もあまりしゃべらない。どうやら話すのはあまり得意な方ではないらしい。寡黙な楽士? 水の国大使のアーノルドさんとは気が合いそうだ。 (第373話参照)
土の国大使は、『ルビアン・カーバンクル・ロックフィールド』。以前視察団を派遣してきた時にはいなかったため、今回が初対面。
比較的小柄な可愛らしい宝石の精霊。受肉体とする宝石には種類があるらしく、彼女はルビーを受肉体とした精霊だそうだ。
背の高さは私と同じか少し大きい程度。額に赤い宝石が付いている以外は人間と大して変わらない見た目をしている。しかし、全身がツヤツヤ光って見えて、究極の美肌という感じ。ただ、宝石の精霊とあって肌質は石のように硬いそうだ。
…………土の国は大使とは対照的に補佐官がゴツい……デミゴーレムと言われる、岩の組成を持つ精霊種。曰く、魔道人形のゴーレムに見た目が似ていたため、デミという名が付けられたとか。実際は土の精霊ノームの一種らしい。
今回は顔合わせと簡単な挨拶だけで別れた。
◇
七月二十九日。
信任式まで残り三日――
アルトレリアには、国営の会館やイベントホールなどはまだ正式に作ってあるわけではないが、信任式に向けて少し堅めなイベントができる部屋と多少大きめの部屋を多目的室として新しく役所の近くに作ったらしい。
信任式はその新しくできた部屋で催される。
現在、その新しく建設された場所へ歩を進めている最中。
「リーヴァント、多目的室なんていつから作ってたの?」
表の通りからは外れるから作っているのに気付かなかった。ただでさえ最近樹の国に火の国にと忙しかったのも気付かなかった一因だろう。
「何かしら多目的に使える場所が必要かと思いまして、会議室とは別に少し前から作り始めていました。ここ最近急ピッチで建設して、何とか信任式には間に合ったようです」
「それはご苦労様です」
道中聞いていた多目的室に着いた。
結構広めに作られた多目的室……と言うより、『多目的ホール』と言った方が相応しい気がする。体育館としても使えそうなほど広さがある。
そして少し離れた場所にこことは別の比較的小さい多目的室。
どちらの建物もトイレがきちんと作られていて、簡易的な給湯室からちゃんとした調理室まであり、会食などのイベントも可能。
今の時期アルトレリアは暑いはずなのに、この中は涼しい。冷暖房まで完備されてるらしい。エネルギー源は魔力動力式発電機。併せて火と氷の魔力を帯びた魔石で補助して消費電力を抑えてるとか。この辺りの技術的な話は私にはわからん。
奥には舞台まで作られていて、演劇などの催し物もできそうだ。舞台袖には控室や化粧室まである。多目的ホールの方は上を見るとアルトレリアではまだ見たことないような照明器具も……
「凄い! 誰、これ作ろうって言ったの!?」
「はい、町に移住されているドワーフ、人魚、エルフ、ヘルヘヴン、ソリッドノーム、ガーゴイルの方々との情報交換の会合を開いてみたところ、今後他国との交流が増えますからこういった多目的で使える部屋を作った方が良いんじゃないかとアドバイスを貰いまして。いっそ役所の外側に二棟建ててしまおうかと」
なるほど、外国勢の意見を取り入れたわけね。
「運動するのにも耐えうるので、体を動かす催しも可能です。バスケットボール?だとかバレーボール?だとか言うボールも使えるように耐久性も考えられています」
火の国の豪邸ではボール自体が存在しているのは確認しているが、ボール競技もちゃんと存在しているのね。
これでバスケットゴールとか、バレーネットでもあればスポーツ大会の開催も可能ってわけか。
「しかし……残念ながら砲丸投げ?とかいう競技のボールには耐えられないと思います。聞いた話では金属のボールを投げるんですよね?」
「だ、大丈夫……普通は屋内施設で砲丸投げの球に耐えられるような耐久性は求めないから……」
それは日本にある体育館でも耐えられないと思うわ……そんなの体育館で投げたら、管理してる人にブチギレられるどころか器物破損で損害賠償まで払わないといけなくなる……
「バスケもバレーもこの町にまだ無いのによく知ってるね」
「建設してる最中にアクアリヴィア出身組の方々に教えていただきました。アクアリヴィアやエレアースモではスポーツ団体がいくつかあるそうですよ」
「他の国には無いの?」
「風の国出身の方はまだいないので話が聞けませんでしたが、土の国のことはダム建設で雷の国から来ていただいているガーゴイル族のヘンリーさんが出身だそうで話が聞けました。曰くまだ正式な球技団体は存在しないのだとか。樹の国は木の実をボールに見立てて遊ぶことはあるようですが、土、風同様に存在しないようです。スポーツとして嗜んでいる国は二ヵ国だけのようですね」
やっぱり文化的な面ではこの二ヵ国が群を抜いてるかな。
この二ヵ国の歴代女王の性質が他の国とは違って破壊寄りの性質じゃなかったからかもしれない。土の国の王の性質は『怠惰』だから発展も緩慢だろうし。
「ただ……アルトレリアに移住された方の中で本格的にプレイしていた経験者がトーマスさんとリナさんの二人しかおらず、この町で普及するのはまだ先になるかと」
経験者二人じゃ教えるのも無理があるか。
それにしても人魚族なのに陸上競技経験があるって、中々不思議な感じがするわ。
「ドワーフさんたちは同じアクアリヴィア出身組なのにやったりしなかったの?」
「フィンツさん曰く『俺たちが学生時代の頃はスポーツなんてもんが無かったからルールすら知らん』だそうです」
「アクアリヴィアにスポーツ団体があるなら見に行ったりとかしないのかな?」
「『足を運ぶほどの興味は無い』だとか」
「あ、そう……」
各競技は地球でスポーツとして確立されたのはここ百年そこそこだから、亡者から伝わったなら魔界での歴史は多分早くてもは七十年や八十年くらいと考えられる。
彼ら、長く生きてるから学生時分にはまだスポーツとして確立されてなかったのかもしれないな。
ドワーフさんたちが知らないのもおかしい話ではないか。
各競技の起源まで遡れば、ルール無用だった頃のが伝わってる可能性はあるけど、それはまだスポーツとは呼べないものだし。
逆にもしかしたら魔界側から地球へ伝わったものもあるかもしれないけど、古代に悪魔が伝えたものなんて現在のスポーツと見比べると全く違うものが多いだろう。まあ人間に競技を伝えた悪魔が居たかどうかは定かではないけど……
「ま、何にしてもこういう発展は望ましいわ。まとめてくれてありがとう、リーヴァント! じゃあ、引き続き信任式の準備よろしくお願いね」
「了解しました」
ただ、優先順位で言うなら、スポーツ関連の事柄は後回しかな。
次は学校と図書館を何とかしたい。
病院も建てたいところだけど……トロル族は病気しないから後回しで良いか。
………………いや、そういえば以前ドワーフさんたちが食中毒になって困ったことあったっけな…… (第375話から第378話参照)
じゃあこっちも進めないといけないか。誰かこの町でお医者さんやってくれるヒトがいると良いんだけど。
そして着々と信任式に向けて準備が進められる。
◇
七月三十一日。信任式前日――
「今日は明日のためのリハーサルを行います」
本番に向けてリハーサルのため、多目的室を訪れていた。
多目的室ではみんな忙しく信任式に向けて準備を進めている。
「これはどこに置くんだっけ?」
「企画書によると、ここじゃない?」
「カーペット引かないと、おーい、三人手伝ってくれ!」
「この布はどこにやるの?」
「それは扉幕だね。入口全部に設置して」
う~ん……私個人は日本の信任式のようなシンプルな形が好みだったんだけど、だんだんと派手な装飾になっていってるな……
「椅子と机はどこに置くの?」
「あ、あっちあっち」
「国旗も立てて!」
実は国旗も作らなければならなかった。
国が興るってのはそういうことなんだろう。
国旗は太陽をモチーフにした。濃紺地に白色の丸と下に向けた放射状の光のグラデーション。『天から日が差している』というイメージの旗。
最初は白い丸の外側に日暈 (※)と呼ばれる光のリングを描いた旗にしようかと思ったが、カイベル曰く「日暈は天気が下り坂になるサインです」と言われて今の形になった。
(※日暈:ハロとも言うそうです)
「なあ、樹の国の大使 (仮)の方々が、『テレビカメラが来る』って言ってたけど、テレビカメラって何だ?」
「さあ? カメラとは違うものなのかな?」
「多少大きいものらしいぞ?」
「じゃあスペースは広めに取っておいた方が良いかもな」
などという会話の後、床に色テープで『テレビカメラ』とカタカナで記されたスペースが設けられた。
ちなみにこの色テープは各国にも存在するもので、今使われているものはこの町で生産されたもの。
「みんないそいそと動いてるけど、こんなところでリハーサルやるの?」
「まあ、準備もしなければならないので仕方ないかと、それともぶっつけ本番で行きますか?」
「それは不安じゃない?」
と言うわけでリーヴァントと副リーダーたちを大使たちに見立ててリハーサルを行なった。
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