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第15章 火の国ルシファーランド強制招待編

第416話 無意識に空間転移させたフレアハルトたちは?

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 役所へ火の国から帰ったことを報告に来た。
 リーヴァントが応対してくれる。

「お帰りなさいアルトラ様、それで火の国ではどういった御用だったのでしょうか?」
「移住しないかと誘われた」

 実際のところは『命令された』が正しいが。

「移住ですか!? それでどうされたのですか?」
「当然断って来たよ。ただ、それによって国同士の関係は今後悪くなるかもしれない」
「ど、どの程度の影響があるものなんでしょうか?」
「関係が悪い国なんてのはどこの世界にもあるもんだから、それほど気にしなくても良いと思う」

 一週間後に五大国との国交が結ばれれば、何かしようっていうのも難しくなるだろうしね……

 直後、リーヴァントの視線が初めて私の折れたツノに向いた。

「そ、そのツノはどうされたのですか……? まさか断ったために斬られたとか……?」
「いや、これはどこかに引っ掛けたみたいで、その時に折れちゃった」

 リーヴァントの予想はドンピシャで当たっているが、『国同士の関係が悪くなるかも』と言った手前、いたずらに恐怖心を煽らない方が良いだろうと考え、誤魔化すことにした。

「現在のところ火の国との交流は無いに等しいから楽観視してても問題無いかも」
「だと良いのですが……」

 そうだ! フレアハルトたちはあの後どうなったんだろう。

「ところでフレアハルトたちは帰って来た?」
「はい、突然広場にゲートが出現して三人が現れました」
「そう、ちゃんと帰って来たのね。それなら良かった」

 無意識に空間転移させたから、やっぱりこの町の広場に転移させてたか。
 帰って来るのに時間がかかるようなところへ飛ばしてなくて良かった。

「しかし、その後がちょっと様子がおかしくて……ひざまずいたまましばらく動かず、理由を聞いても「動けぬのだ……」としゃべった後、その理由を聞いても黙って何も言わないので、どうしたものかと思っていたら……ナナトスくんがどこかから箱を持って来てひざまずいている彼ら三人の前に置き、その上に乗って腰に手を当て――」

『ハッハッハ! 俺っちに平伏するッス!』

「――などとふざけ始めまして……」

 つまり……ナナトスが偉そうにポーズを決めてる前でフレアハルトたち三人が頭を下げてる状態だったってわけか。はたから見たらナナトスに対してフレアハルトたちがひざまずいているように見えるかも。
 これはフレアハルトにとっては屈辱……もしかしたら動けない間「ぐぬぬ……」とか言ってたかもしれないな。

「その後少し時間が経って、動けるようになったらしくお三方がナナトスくんに無言で近付いて、脳天にチョップと左右からの平手打ちを一発ずつ、計三発喰らわせ、ナナトスくんはタンコブ作って両頬を腫らしていました」

 恐らくナナトス相手に頭を下げてるような錯覚を起こしてちょっとムッとしたから、怒りで『畏怖フィアー』の効果が切れるのが早まったってところじゃないかしら。
 フフッ、想像すると少し笑えてくる。
 でも、ようやく日常が戻って来たって感じだ。

「そう、何はともあれ動けるようになって安心したわ」
「あれも火の国の王の誘いを断った結果ですか?」
「いや……あれは火の国の王を目にした時点で自然とああなるらしいよ。私も彼の前ではひざまずいてた。そういう能力」
「そんな能力があるのですか!?」
「あのまま能力が解けなければ、私はここには戻って来れなかったかもね」
「そんなお方の誘いを断ってきて大丈夫なのでしょうか……?」
「だからと言って私がここを突然行方不明になったかのようにいなくなるのは嫌でしょ?」
「それはそうですが……」
「まあ、もし狙われるなら私だろうから、あなたたちは心配しなくても良いよ」
「しかし、それではアルトラ様にもしものことがあることも……」
「それはもう私の危機管理が出来ていなかったことだから仕方ない。この旧トロル村を訪れた時からもう少し考えて力を使っておけばルシファーにターゲットにされることも無かったかもしれないね……」

 魔法を使えるようになったことにはしゃいで疑似太陽なんて作ってしまったのが悪かったかもしれないが、そんなことを考えてももはや後の祭りだ……
 でも、真っ暗な土地で生活するのはやっぱり気が滅入ってしまうから、疑似太陽を作ったのは正解だったと思いたい。
 あと……幸いだったのは色んなヒトに喜ばれてるってとこかな。

「もし私に何かあった時にはこの町の舵取りをよろしくお願いね。まあこの町の内政はほぼあなたがやってくれてるし、いなくなっても問題無いと思うけど」
「アルトラ様にどうかなるとは考えていないので、お応えできかねます……」
「拒否されても、私がいなくなれば次に先導しなければならないのはあなたなの!」
「…………わかりました……一応……了解しておきます……」

 何とか納得させたものの、その不安そうな表情は取れることはなかった。

 その後、色んなヒトに折れたツノのことについて尋ねられるも、「どこで折れたか分からない」を貫き通した。
 アルトレリアの住民たちには、『金属に値するほど硬い身体』というところまでは知られてはいないものの、私の身体が頑丈なのはよく知っている。
 そのため、翌日アルトレリアで発行している新聞記事で『アルトラ氏のツノ折れる!』という見出しと共に少し大きめなニュースにまでなる事態に……
 まあこの程度の話題は、ツノが再生すれば収まるでしょう。

   ◇

 リーヴァントが戻って来たと言っていたフレアハルトたちの家に行ってみる。

 コンコンコン

「あ、アルトラ様いらっしゃ~い!」

 玄関で応対してくれたのは珍しくレイア。

「あれ!? ツノが一本無い!? まさかルシファーに!?」
「折られちゃったみたいだね……でも町のみんなには『どこで折れたか分からない』ってことにしてあるから話合わせてもらえる? 一国の主に折られたなんて話になったら大騒ぎになってしまうかもしれないから」
「分かりました!」

 フレアハルトとレイアにも口裏合わせるように話しておかないと。

「無事帰って来れたみたいで、安心したわ」
「お蔭様で命を落とさずに済みましたよ。アルトラ様の護衛でついて行ったのに、恐怖でガタガタ震えて何もお守りすることができませんでしたから……」

 いつも明るいレイアが少々沈み気味の表情……

「あれはああいう能力だから、あまり気にしないで。相手の心に恐怖心を植え付ける能力らしい」
「そうなんですか?」

 『もし戦ってたら確実に死んでいた』なんて話はしない方が良いだろう。無闇に不安を煽らないようにした方が良い。

「アリサは?」
「中で家事してます。それより問題なのが……」
「フレアハルトだね……」

 理由は多分ステラーシアさんだろう。
 私も中学生自分は恋に焦がれることがあった。もちろん奥手の私は告白などせず、いつの間にか相手に恋人がいて失恋してたけども……
 その点で言えばきちんと告白したフレアハルトは偉い。

「帰って来て以来ボーッとしてることが多くて。たまに何か口ずさむんですけど……今日は帰って来て早々に何でも屋で土木関係の仕事を依頼されたんですけど体調が優れないって言って断ったんですよ」

 アルトレリアで生活してきて今まで一度も無かった展開だわ。
 体調が悪いって……随分と精神的ダメージが大きいようだ。

「じゃあちょっと会ってから帰るよ」

 廊下で掃除しているアリサと鉢合わせ。

「あ、アルトラ様いらっしゃいませ…………!? アルトラ様……ツノはどうされたのですか!?」

 アリサにも説明と口裏合わせをお願いする。

「了解しました」
「じゃあ、ちょっとお邪魔するね」

 二階のフレアハルトの部屋へ。
 部屋に入ると、部屋の中央で体育座りで窓の方を向いて黄昏たそがれている (※)のが目に入った。
   (※黄昏たそがれている:俗に、物思いに耽っている状態のこと。うわの空)

「フレアハルト、無事戻って来て安心したわ」
「ああ……アルトラか……戻って来たのだな……何か用か……?」

 何と言うやる気のない受け答え……
 表情も死んだ魚の目のように覇気が無い。
 そして片方だけになった私のツノも目に入ってないらしい。

「元気無いな、もっと元気出しなよ! まだフラレたわけじゃないんだからさ!」

 彼女の様子を考えるとあのままアプローチしてもフラレていた可能性は高いだろう。若干フレアハルトの圧に引き気味だったし。
 何て頭の中では考えてはいてもこれは言わない方が良いだろう。更に傷を深くしてしまう。

「会えぬのならフラレたも同然であろう……火の国とは決定的に溝が出来てしまったしな……」

 う……これは私が悪いのだが、だからと言ってルシファーに迎合はできなかったし……

「それに……彼女は大丈夫であろうか? 我らと関わってしまったばかりに酷いことになってないか心配だ……」

 これは私も同意見だ。何も無いことを祈る。

「ま、まだそのうち何らかの形で会えるかもしれないしさ! 元気出しなよ!」
「例えば?」
「た、例えば~? ど、どこかでバッタリ会ったりとか……」

 あるわけがない。
 ここで生活しているからには、火の国の彼女とすれ違う可能性など限り無くゼロに等しい。

「…………フッ……」

 何か鼻で笑われた……
 『コイツバカだな、火の国首都アグニシュまで歩いて何日かかったと思ってるんだ』なんてことを思われたのかもしれない。だが、まあ元気が出るならそれでも良い!

「そのうち何らかの形で火の国との関係が改善されることがあるかもしれないし」

 こっちの可能性もほぼあり得ないだろうけど……

「それにそんな元気無い姿をステラーシアさんに見られたら、彼女どう思うかな? 『覇気が無い男性なんて好きになれません』なんて言われるかもよ?」
「………………ふぅ……そうだな……確かにこのまま落ち込んでいるのは好ましくないかもしれぬ……だが、今日のところは放っておいてくれ……」
「わかった。じゃあ私はこれで帰るね」

 発破はかけた、落ち込む感情というものもそれほど長続きするものではないから、多分明日、そうでなくても数日のうちには元通りになってるだろう。
 落ち込み続けるというのも中々難しいものだし。

 私の周りも普段と変わらない日常を取り戻し、大使着任の日も徐々に近付く。
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