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第15章 火の国ルシファーランド強制招待編

第414話 アルトラのツノと激怒のルシファー

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「…………何か頭痛いな……」

 エレアースモに来てから、左の側頭部付近がズキズキする。頭痛を感じたのなんて人間だった頃以来だ。頭が痛い原因なんて思い当たらない。
 痛む場所に手を当てたところ、そこは頭ではなく左側に生えてるツノだった。

「あれ? ツノが折れてる……まさかさっきの炎の斬撃で?」

 よくよく折れた部分をなぞってみると、少しデコボコして溶けてるらしいことが感触として分かった。
 私のツノって、ちゃんと痛覚とかあるのね……人間だった頃はこんなの頭に無かったから頭の外に痛みを感じる器官があるってのは不思議だわ。結局のところツノと繋がってる頭の方が痛むんだけど……
 それにしても――

「完全に避けたと思ってたのに……」

 私の身体に傷を付けられる者なんてそれほど多くはない。
 火で溶けたような断面であることを考えてもさっきのルシファーの炎の斬撃以外考えられない。

「まあ仕方ないか、むしろこの程度で最強の魔王から逃げ帰って来れたのは幸運だ。もっと広範囲の炎を使われていたらアウトだった。ルシファーに“城の中”という理性が働いた結果だろう」

 ただ……頭がぽわぽわしていたとは言え、今思えば随分と挑発的な言葉を残して空間転移してきてしまったような気がする……あの一言がいたずらにルシファーのプライドを煽ってしまったかも……
 もしかしたら今後も狙われる可能性が高いかもしれない……ルシファー自身が私の前に現れることは、恐らく無いだろうけど、差し向けられる刺客には注意しないと。

 あと……心配なのはサンドニオさんとレドナルドさん。
 旅立つ時、最初に彼らに移住を断ると宣言していたとは言え、彼らの顔に泥を塗る結果になったことには変わりない。
 移住しないと答えただけで、あれだけの憤慨を見せたルシファーだ。もしかしたら私を連れて来た彼らにもそのとがが及んでいるかもしれない。何も無ければ良いのだけど……
 それと、ステラーシアさんか。彼女はルシファーからの信頼厚いようだったからそれほど酷いことにはなっていないとは思うが……少し心配だ。

「何はともあれ各国との正式な繋がりが出来るまであと一週間ほど。繋がりが出来てしまえば、おいそれとアルトレリアにちょっかいを出すことはできなくなる、はず!」

 私個人に直接ちょっかいかけてくるだけならまだしも、アルトレリアにまで及ぶのは私の望むところではない。

 その後、アスモに丁重にお礼を伝え、ゲートにて約一週間ぶりにアルトレリアへと帰還。
 ルシファーの目の前で『強制転移フォースド・ゲート』で強制的に転移させたフレアハルトら三人については、無意識に転移させたためどこへ行ったか分からない。
 無意識だということは恐らくアルトレリアに帰還しているとは思うが……

 色んな方面で多大な不安を残すことになってしまったな……


   ◆


 アルトラがゲートで去ってすぐ、火の国ルシファーランドの謁見の間での出来事――

「クソッ!! あの女ァッ!! このルシファーを怒らせたな……!!」

 自分の能力が効かなかったと思い込んだルシファーはプライドを傷つけられ、激怒していた。
 その直後、怒りの矛先は謁見の間を警護していた衛兵たちに向けられることになる。

「…………貴様ら」

 静かに謁見の間に残っていた衛兵を威圧する。

「「「ハッ!」」」

 その発せられた一言に、全員身体が強張るも、ルシファーに対して敬礼のポーズを取る。

「アルトラを捕らえろと言ったはずだが? なぜ捕えられなかった?」

「「「………………」」」

「なぜ捕らえられなかったかと聞いている!!」

 ルシファーの威圧感に言葉が出ない中、一人の衛兵が恐怖心に圧し潰されそうなところを辛うじて口を開く。

「……おおお、お言葉ですが……」
「どうした……? 何か言い訳することがあるか……?」

 激昂直後、すぐにトーンを落とし、静かな声で威圧。その緩急のある怒りに不気味さすら感じる衛兵たち。
 衛兵が恐怖を感じながらも更に絞り出すように言葉を続ける。

「く、空間転移魔法で移動されては……わ、我々ではどうしようも……」
「…………そうか……それもそうだな……空間魔法で移動されては貴様らではどうにもならんか――」

 その言葉を受け衛兵全体に少しの安堵感が立ち込めるが、次の言葉で再び恐怖に凍り付く。

「――だが任務を遂行できぬ無能はいらぬ。アルトラを捕えられなかったここにいる者は全員死刑だ……」

「「「え!?」」」

 ルシファーは再び剣を握り――

「ヒッ!」
「うわぁ!! 助け……ギャッ!!」
「お許しをっ!! グアァッ!!」

 ――衛兵たちの懇願虚しく、ルシファーはその場で一回転し、炎の斬撃でその場に居た衛兵全員を着ている鎧ごと真っ二つにし一瞬で消し炭にする。

「ふんっ! おい! 誰か居るか!」

 その声で、謁見の間外に居た衛兵が部屋に入る。

「どうかいたしましたかルシファー様……これは!? また部下をこんなに犠牲にしたのですか!」
「……アルドリックか……他の者はおらんのか?」

 ルシファーはアルドリックと呼んだ男を見て、眉をひそめ、すぐに見下したような薄ら笑いを浮かべる。
 このアルドリックは、近年で唯一ルシファーに対して苦言を呈していた男だった。

「ルシファー様! いや、レオナリオン! いい加減にしろ! 一体何人の部下を殺すつもりだ!」
「俺が魔王になる前の名で呼ぶのはもはや貴様くらいだな……昔からの友人のよしみだから『畏怖フィアー』にかからなくても生かしておいたし、そんな発言も今までは大目に見てやっていたが――」

 薄ら笑いを浮かべていた表情は急激に冷酷さを帯びた真顔へと変化し、アルドリックに対して威圧感を増大させて言葉を続ける。

「――図に乗るなよ? 俺が魔王になる前からの友とは言え、貴様は俺の部下で俺は魔王だ! 最近の貴様は小言が多くなってきた……主のやることにいちいち口を出すな!」
「小言だと!? お前はこの惨状を小言で済ますのか!? ここに何人倒れていると思ってるんだ! 今まで一体何人気まぐれで殺した!? 昔のお前はヒトの話に耳を傾ける男だった! ここ数年のお前はおかしいぞ!? 明らかに理性的に考えられなくなって残虐性に拍車がかかっている! 心をどこへ置いて来てしまったんだ!!」

 その発言に苛立ちを覚えたルシファーは右手に炎の塊を出す。

「五月蠅いヤツだ……今の俺は機嫌がすこぶる悪い……それ以上口答えするならここで消しても良いぞ? 旧知の仲とは言え、『畏怖フィアー』にかからぬ貴様は俺の弱点になり得る。今までは『友』という関係から温情で生かしておいたが、今後俺の害にしかならぬのならいらぬ」

 燃える右手をアルドリックに向け照準を定めた。

「……くっ……わ、わかった……もう口出ししない……」
「ふんっ! 分かったなら下がれ! おい、他に誰かいないのか!?」
「はいはい、ここにおりますぞ!」
「オースか、周りに転がってる役立たずどもを片付けておけ。それから謁見の間に代わりの衛兵を就けろ」
「かしこまってござる!」
「ああ、それから、アルトラをここへ連れて帰って来た奴隷二人も探し出して処刑しておけ。一週間近く一緒に行動したのにあの女を懐柔することもできなかった無能はいらん」
「アルトラのお世話係を任せたステラーシアはどう致しますか?」
「アレにはまだまだ利用価値がある。咎めずともい」
「アルトラのために用意させたメイドたちはいかが致しましょうか?」
「捨て置け、最早利用価値は無い。屋敷の清掃員を五人ほど残してあとは全員叩き出せ」

 そして自分の能力が通じなかったアルトラに疑問を感じる。

「……それにしても……なぜアルトラに俺の能力が通じなかった……? やつを操って地獄を開放するのに使えば好都合と思い、七大国会談では放置したが……まさか……先手を打たれていたのか? こんなことが出来る者は……アスモデウス……ヤツか……俺の『畏怖フィアー』に対抗し合えるのはヤツくらいだからな。フンッ、まあ良い、次に会った時に支配下に置けば済むだけのこと。ん?」

 そこでルシファーが下を向くと、アルトラが空間転移前に立っていた場所付近に黒いカケラが落ちていることに気付く。 

「何だこれは? この残存している魔力……アルトラヤツの身体の一部か? 見たところツノの破片のようだが……フッ、フハハハハ!! これは面白い物を残してくれたな! 『傲慢プライド』の大罪であるこの俺自身のプライドを傷つけたのだ、今後平穏無事に暮らせると思うなよ?」

 アルトラが移住を断ったことによって、一方的にルシファーの怒りを買う結果となってしまった。
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