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第15章 火の国ルシファーランド強制招待編
第413話 分析されたルシファーの自動発動スキルについて
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ゲートで転移してきたのは雷の国のアスモデウスの下だった。
「アスモ!」
転移してきて早々、躊躇せずにアスモに抱き着く。
「……【完全なる魅了】の発動を感じたからそろそろ来ると思ってた……ちょっと待って、今解除してあげる……」
スゥーと頭の中がクリアになる。頭のぽわぽわが無くなった。
「……あれ? どうなってるの? 火の国からゲートでエレアースモに来た記憶があるのに……」
“意思を持ってここにやって来た”という実感がまるで湧かない。
「アスモ、何で私はここに来たの?」
「……私がかけた【完全なる魅了】が発動した……」
「私に?」
「……そう……特定条件下でのみ発動するように仕込んでおいた……」
「“特定条件下”って?」
「……『ベルゼが精神攻撃により肉体の主導権、または、思考の主導権を握られた時』という条件……」
「いつそんなことしてたの!?」
「……巨大サンダラバードを捕えて、その後に私の能力の説明をしている際、触れた時にこんなことが起こることを危惧して仕掛けておいた……」 (第130話参照)
「何でそんなことを?」
「……七つの大罪には私以外にも精神攻撃を使うやつがいるから、ベルゼをそいつに取り込まれないため……だから精神攻撃にかかったことを条件として発動するように仕込んでおいた……ごめんね、黙ってて……」
あの時急に体が勝手に跪いていて、何が起こったのかわからなかった……
ルシファーのアレか。アレは精神攻撃だったのか……
「……前代のルシファーは今ほど傲慢ではなかったから、他国に対して目に見えた害が無かったけど、今のルシファーにベルゼを取られると他の国が危険に晒される可能性が高いと考えてのこと……」
「うん……でも結果的には助かったよ……ありがとう。何だかわからないけど、強制的に従わせられるような攻撃を受けてたみたいだから」
「……それはルシファー自身が『畏怖』と呼んでいる自動発動の能力……七つの大罪所持者以外は、ルシファーに畏怖し絶対服従させられ、彼の意のままに操られる……」
「何で私は大丈夫だったの?」
「……この『畏怖』の効果には条件があって、対象が他の大罪所持者の配下だった場合、その大罪の所持者との魔力の繋がりが邪魔をして、術がかかりにくくなる……と分析されてる……完全にかからなくなるわけではないみたいだけど……」
「分析?」
「……そう、通常自分の能力を他人に明かすことはないから、推測するしかない……長い歴史の中で分析や推測されてて、私の国ではそういう能力じゃないかと云われている……だから『畏怖』よりも上位の精神攻撃である『完全なる魅了』を発動させることで、ベルゼを一時的に私の支配下に置いて、『畏怖』の能力を打ち消したの……」
私に触れた時にかけてたって言うけど……発動されるまで気付かない能力なのか。いや、ある意味発動されても気付かない能力か。
「もし、私が特定条件下で発動する術をかけてなかったら、ベルゼはそのまま行方不明になって、アルトレリアには戻れず、火の国でルシファーの命じるままの操り人形のような生活だったかもしれない……自力解除した例もあるから自力で目が覚める可能性はゼロではなかったけど……近くに術者がいる場合、自力で目覚める可能性は限りなくゼロに近い……」
そ……そんなに危険な状態だったのか……
アスモが先手を打ってくれてて良かった……
「……それともう一つ推測されてて、自動発動でも歴代のルシファーで『畏怖』を発動しない王も居たことがある。ここから推測されているのは、王の態度なんじゃないかって……」
「態度?」
「……私の持つ『色欲』の大罪もその態度次第で『魅了』の威力が上がる……積極的に誘惑するような態度を起こしてた女王の時は、周りもやっぱり盲目的に誘惑される度合いが強かった……あと、熱狂的に男性が多く魅了される時代や、女性が多く魅了される時代もあった……と歴史の教科書には載っている……」
「男性と女性で何か違いってあったの?」
「……男性が多く魅了された時代は勢力を拡大しようと隣国や属国との争いが多い……武器や兵器、建築関係が発達する傾向にある……対して女性の時はそういうのは鳴りを潜めて、料理やファッション関係が発達することが多かったけど、陰謀とか謀殺は男性が魅了されてた時より多かった……男女半々くらいが一番安定して良い時代の傾向が多いみたい……」
「へぇ~」
歴代アスモデウスって女王しかいないって聞いたけど、女性が熱狂的に魅了される時代もあったのね……
「……私は前代や前々代ほど大罪との相性が良くないってことと、大罪の力も弱まってきているから、軽微に魅了されるだけに留まってるけど……もし私との相性が良かった場合は、私の人気は今の比じゃないと思う……」
「な、なるほど……」
軽くモテ自慢に聞こえるが……
「……余談だけど……女王になった者はその後に子を残した者はいない……」
「なんで!?」
「……『色欲』を受け継いだ瞬間から男性に興味が無くなるみたい……ちなみに私も男性に好意を向けることはあるけど、恋愛対象としては全く興味が湧かない……歴代アスモデウスも戦略としてしか男性を誘惑しないし、誘惑しておいて身体を許すことは無かった……魔王だから例え襲われても返り討ちにできるしね……」
「じゃ、じゃあアスモは結婚してるの?」
「……してない……多分私は子を残せないと思う……」
サラッと衝撃的な話を聞いてしまった……
まさかアスモが子供を残せないなんて……
「……話を戻すけど……私が『色欲』の大罪を架されているのと同じように、ルシファーが『傲慢』の大罪を架されているのを考えると、王が相手に対して尊大な態度を取った時に自動的に発動する能力なんじゃないかって思う。今代のルシファーは歴史上でも大罪との相性がかなり良いとされている……つまり、常に相手を見下してるような状態だから、常に『畏怖』を発動している状態なんじゃないかってこと……」
「なるほど。王様が常に絶対服従の能力を発動しっ放しじゃ会話が成り立たないものね。歴代のルシファーは『畏怖』が切れてる時もあったから、国の運営はある程度正常に出来てたってわけか。でも今代は話し合いにすらならず、一方的にルシファーからの命令が下るだけだから国が疲弊してきてるってわけね」
「……分析による憶測でしかないけど、そう考えるのが妥当……」
あれ? でも七大国会談でルシファーに跪いてる人物は一人もいなかったような……?
この憶測って矛盾してない?
「ちょっと矛盾に気付いたんだけど、何で七大国会談の時には誰一人跪く者がいなかったの?」
「……私が近くに居たから、精神攻撃の打ち消し合いが起こっていたと考えるのが妥当……これも双方共にそういう感覚でいるだけで、長い歴史の中で『そうなのではないか?』と曖昧ながら会談の場でも知られるようになったけど、みんな確証を持っているわけじゃない……」
そうか、どっちも手の内を明かすわけじゃないから、今まで起こったことの結果で『恐らく打ち消し合いがおこっていた』と予測するしかないんだ。
そう考えると矛盾はしなくなる。
「……私の感覚でしかないけど私の持つ自動発動の『魅了』とルシファーの『畏怖』の能力が同格と見ている……だから打ち消し合いが起こるんじゃないかと思う……これについても確証は無い……」
そっか、自動発動の精神攻撃同士だから、会談の場だけ中和されてたってことかな?
「……そういった特性があるから、代々のアスモデウスとルシファーは七大国会談で片方だけ出席・欠席することを許されない……どちらかしかいない場合は、相手の精神攻撃で七つの大罪以外と関わりの薄い者や配下であってもある一定の精神攻撃に強い者以外を掌握できるから議題の進行が不可能になる……」
周囲を巻き込んで自分の味方にしてしまうって……凄い能力だ……
「……また歴史の話になってしまうけど、一度片方が欠席したまま開かれた会談があって、魔王は傍らに控える参謀に言動を誘導されて、魔界を混乱の渦に陥れたという話がある……それ以来もしアスモデウスかルシファーの片方が欠席する場合は、もう片方にも開催運営の方から欠席するよう要請されるようになった……」
七大国会談ってそんなバチバチの場だったんだ……
比較的穏やかに終わったかのように見えて、水面下では魔力のぶつかり合いが起こってたのね……
あっ……!
「だから中立地帯の取り決めをするための臨時会談時には、ベレトさんを代理に立てて参加を見送ったの?」 (第291話から第293話参照)
「……そう……私だけが場に出席すると、打ち消し合いが起こらないから魔王以外を魅了してしまう可能性がある……魔王代理が多かったあの場では、私が出席したら取り決めの話が進められなくなっていたかもしれない……」
「あ、でも七大国会談でルシファーは先に出て行ってしまったのに『魅了』にかからなかったけど、それは?」 (第232話参照)
「……自動発動の精神攻撃の魔力は少しの時間その場に残るから、部屋から出て行った程度では打ち消し合いは終わらない。魔力が収まるには日を跨ぐくらいの時間が必要……あの場に私だけが一日居れば魅了された者は出たかも……」
なるほど。以前カイベルに聞いた魔力の残滓同士が打ち消し合うみたいなもんか。
「精神攻撃で操られたヒトが元に戻るにもそれくらいの時間が必要なの?」
「……元に戻るのはもっと早い……体質と精神攻撃を浴びていた時間にも依るけど……長くても三、四時間、もっと効きやすいヒトでも六時間もあれば効果が消えると思う……発動者本人がその場に居なければ効果が切れるのは割と早い……」
それならフレアハルトたちも時間を置けば大丈夫か。
しかし……どこへ空間転移させたのかが、ちょっと気がかりだけど……まあ彼らならどこへ転移させられてても死ぬことはないでしょう。
「じゃあ欠席要請を了承しなかった場合は? 要請を無視して独断で乗り込んでくる可能性だってあるでしょ?」
「……その場合は精神攻撃に強い衛士が入場を妨げて国への速やかな帰還を促される……」
「精神攻撃に強い衛士なんてのがいるの?」
「……ヘルヘヴン族、特に黒天使よりも白天使の方が精神攻撃に強い者が多い……天使のような見た目通り、祖先に天使がいると伝説で伝わっているから、本当にそうなのかもしれない……ただ、精神攻撃に強い性質を持つとは言え、多くの者は魔王の精神攻撃に抗えないから、精神攻撃に強い者の中でも極々稀に生まれる更に強い者が衛士として選出される……今世界の頂の衛士として就任しているヒトたちには私の『魅了』が一切効かない……」
一切効かない……!?
ステータス盛り盛りの私ですらアスモを前にすると好き好き感情が出てしまうのに……
「……まあ……【完全なる魅了】には抗えないと思うけど……あと、ヘルヘヴン族以外でも時折精神攻撃に強い耐性を持つ者が生まれることがある……最近の火の国では跪かないだけで処刑されるって話聞いたことない……?」
「あ、あるある! レヴィがそんなようなこと言ってた!」
サンドニオさんも同じようなこと言ってたし。
「……私の憶測も入ってるけど、それは精神攻撃で服従させられないから反乱分子にならないうちに殺してしまうんじゃないかと思う……」
なるほど、理にかなってはいる。暴君気質の者なら命を何とも思わずにその手段が採れそうだ。目の前に居た自分の衛兵すら斬り殺す今代のルシファーなら、そんな命令簡単に下せるかもしれない。
しかし、反政府組織が生まれているのを考えると、この方法で反乱分子を生まないようにする方法は失敗していると言える。
「話をちょっと戻すけど、衛士の制止を振り切って強行突入したらどうするの?」
「……魔王が衛士に手を上げれば世界の頂の誓約に違反することになる……魂を取り上げられ、別の者が次の魔王になるから攻撃してまで会談参加を強行しようとするバカはいない……」 (第236.5話 説明回1参照)
「ああ、そっか。命まで取られたら元も子もないものね……でも、【完全なる魅了】に抗えないって言うなら魅了すれば会談場に入れてしまうんじゃないの?」
「……【完全なる魅了】は、自動発動の魅了とは違って、私の意思が込められてるから衛士への攻撃と判断されて、誓約に違反することになる……と思う……今言ったルールは、私が魔王になってからはその場面に遭遇したことがないから、これも確証は無いけど……」
各七大国が興って九千年くらい経ってるって話だし、もうこういうルールは浸透し切ってるからアスモもその場面に遭うことはないのだろう。
流石に自分の命を賭けてまで、試そうなどと思う者はいないだろう。
「なるほど~、上手く誓約されてるってわけね」
そういう理由なら、あの場の秩序が保たれてるのも納得いくわ。
「あれ? でも能力を秘密にするなら、何でアスモは秘密にしてないの?」
「……魅了や畏怖は一般的とは言わないまでも、ある程度は知られている……それにかかったヒトの様子から即座に判断できるものだから、秘密にしておくことができない……【完全なる魅了】は知られてないけど巨大サンダラバードの時はあなたを信用して明かした……だから他言無用でお願い……」
「わ、わかったわ」
そこまで信用してくれたのなら全力で隠すしかない。
「アスモ!」
転移してきて早々、躊躇せずにアスモに抱き着く。
「……【完全なる魅了】の発動を感じたからそろそろ来ると思ってた……ちょっと待って、今解除してあげる……」
スゥーと頭の中がクリアになる。頭のぽわぽわが無くなった。
「……あれ? どうなってるの? 火の国からゲートでエレアースモに来た記憶があるのに……」
“意思を持ってここにやって来た”という実感がまるで湧かない。
「アスモ、何で私はここに来たの?」
「……私がかけた【完全なる魅了】が発動した……」
「私に?」
「……そう……特定条件下でのみ発動するように仕込んでおいた……」
「“特定条件下”って?」
「……『ベルゼが精神攻撃により肉体の主導権、または、思考の主導権を握られた時』という条件……」
「いつそんなことしてたの!?」
「……巨大サンダラバードを捕えて、その後に私の能力の説明をしている際、触れた時にこんなことが起こることを危惧して仕掛けておいた……」 (第130話参照)
「何でそんなことを?」
「……七つの大罪には私以外にも精神攻撃を使うやつがいるから、ベルゼをそいつに取り込まれないため……だから精神攻撃にかかったことを条件として発動するように仕込んでおいた……ごめんね、黙ってて……」
あの時急に体が勝手に跪いていて、何が起こったのかわからなかった……
ルシファーのアレか。アレは精神攻撃だったのか……
「……前代のルシファーは今ほど傲慢ではなかったから、他国に対して目に見えた害が無かったけど、今のルシファーにベルゼを取られると他の国が危険に晒される可能性が高いと考えてのこと……」
「うん……でも結果的には助かったよ……ありがとう。何だかわからないけど、強制的に従わせられるような攻撃を受けてたみたいだから」
「……それはルシファー自身が『畏怖』と呼んでいる自動発動の能力……七つの大罪所持者以外は、ルシファーに畏怖し絶対服従させられ、彼の意のままに操られる……」
「何で私は大丈夫だったの?」
「……この『畏怖』の効果には条件があって、対象が他の大罪所持者の配下だった場合、その大罪の所持者との魔力の繋がりが邪魔をして、術がかかりにくくなる……と分析されてる……完全にかからなくなるわけではないみたいだけど……」
「分析?」
「……そう、通常自分の能力を他人に明かすことはないから、推測するしかない……長い歴史の中で分析や推測されてて、私の国ではそういう能力じゃないかと云われている……だから『畏怖』よりも上位の精神攻撃である『完全なる魅了』を発動させることで、ベルゼを一時的に私の支配下に置いて、『畏怖』の能力を打ち消したの……」
私に触れた時にかけてたって言うけど……発動されるまで気付かない能力なのか。いや、ある意味発動されても気付かない能力か。
「もし、私が特定条件下で発動する術をかけてなかったら、ベルゼはそのまま行方不明になって、アルトレリアには戻れず、火の国でルシファーの命じるままの操り人形のような生活だったかもしれない……自力解除した例もあるから自力で目が覚める可能性はゼロではなかったけど……近くに術者がいる場合、自力で目覚める可能性は限りなくゼロに近い……」
そ……そんなに危険な状態だったのか……
アスモが先手を打ってくれてて良かった……
「……それともう一つ推測されてて、自動発動でも歴代のルシファーで『畏怖』を発動しない王も居たことがある。ここから推測されているのは、王の態度なんじゃないかって……」
「態度?」
「……私の持つ『色欲』の大罪もその態度次第で『魅了』の威力が上がる……積極的に誘惑するような態度を起こしてた女王の時は、周りもやっぱり盲目的に誘惑される度合いが強かった……あと、熱狂的に男性が多く魅了される時代や、女性が多く魅了される時代もあった……と歴史の教科書には載っている……」
「男性と女性で何か違いってあったの?」
「……男性が多く魅了された時代は勢力を拡大しようと隣国や属国との争いが多い……武器や兵器、建築関係が発達する傾向にある……対して女性の時はそういうのは鳴りを潜めて、料理やファッション関係が発達することが多かったけど、陰謀とか謀殺は男性が魅了されてた時より多かった……男女半々くらいが一番安定して良い時代の傾向が多いみたい……」
「へぇ~」
歴代アスモデウスって女王しかいないって聞いたけど、女性が熱狂的に魅了される時代もあったのね……
「……私は前代や前々代ほど大罪との相性が良くないってことと、大罪の力も弱まってきているから、軽微に魅了されるだけに留まってるけど……もし私との相性が良かった場合は、私の人気は今の比じゃないと思う……」
「な、なるほど……」
軽くモテ自慢に聞こえるが……
「……余談だけど……女王になった者はその後に子を残した者はいない……」
「なんで!?」
「……『色欲』を受け継いだ瞬間から男性に興味が無くなるみたい……ちなみに私も男性に好意を向けることはあるけど、恋愛対象としては全く興味が湧かない……歴代アスモデウスも戦略としてしか男性を誘惑しないし、誘惑しておいて身体を許すことは無かった……魔王だから例え襲われても返り討ちにできるしね……」
「じゃ、じゃあアスモは結婚してるの?」
「……してない……多分私は子を残せないと思う……」
サラッと衝撃的な話を聞いてしまった……
まさかアスモが子供を残せないなんて……
「……話を戻すけど……私が『色欲』の大罪を架されているのと同じように、ルシファーが『傲慢』の大罪を架されているのを考えると、王が相手に対して尊大な態度を取った時に自動的に発動する能力なんじゃないかって思う。今代のルシファーは歴史上でも大罪との相性がかなり良いとされている……つまり、常に相手を見下してるような状態だから、常に『畏怖』を発動している状態なんじゃないかってこと……」
「なるほど。王様が常に絶対服従の能力を発動しっ放しじゃ会話が成り立たないものね。歴代のルシファーは『畏怖』が切れてる時もあったから、国の運営はある程度正常に出来てたってわけか。でも今代は話し合いにすらならず、一方的にルシファーからの命令が下るだけだから国が疲弊してきてるってわけね」
「……分析による憶測でしかないけど、そう考えるのが妥当……」
あれ? でも七大国会談でルシファーに跪いてる人物は一人もいなかったような……?
この憶測って矛盾してない?
「ちょっと矛盾に気付いたんだけど、何で七大国会談の時には誰一人跪く者がいなかったの?」
「……私が近くに居たから、精神攻撃の打ち消し合いが起こっていたと考えるのが妥当……これも双方共にそういう感覚でいるだけで、長い歴史の中で『そうなのではないか?』と曖昧ながら会談の場でも知られるようになったけど、みんな確証を持っているわけじゃない……」
そうか、どっちも手の内を明かすわけじゃないから、今まで起こったことの結果で『恐らく打ち消し合いがおこっていた』と予測するしかないんだ。
そう考えると矛盾はしなくなる。
「……私の感覚でしかないけど私の持つ自動発動の『魅了』とルシファーの『畏怖』の能力が同格と見ている……だから打ち消し合いが起こるんじゃないかと思う……これについても確証は無い……」
そっか、自動発動の精神攻撃同士だから、会談の場だけ中和されてたってことかな?
「……そういった特性があるから、代々のアスモデウスとルシファーは七大国会談で片方だけ出席・欠席することを許されない……どちらかしかいない場合は、相手の精神攻撃で七つの大罪以外と関わりの薄い者や配下であってもある一定の精神攻撃に強い者以外を掌握できるから議題の進行が不可能になる……」
周囲を巻き込んで自分の味方にしてしまうって……凄い能力だ……
「……また歴史の話になってしまうけど、一度片方が欠席したまま開かれた会談があって、魔王は傍らに控える参謀に言動を誘導されて、魔界を混乱の渦に陥れたという話がある……それ以来もしアスモデウスかルシファーの片方が欠席する場合は、もう片方にも開催運営の方から欠席するよう要請されるようになった……」
七大国会談ってそんなバチバチの場だったんだ……
比較的穏やかに終わったかのように見えて、水面下では魔力のぶつかり合いが起こってたのね……
あっ……!
「だから中立地帯の取り決めをするための臨時会談時には、ベレトさんを代理に立てて参加を見送ったの?」 (第291話から第293話参照)
「……そう……私だけが場に出席すると、打ち消し合いが起こらないから魔王以外を魅了してしまう可能性がある……魔王代理が多かったあの場では、私が出席したら取り決めの話が進められなくなっていたかもしれない……」
「あ、でも七大国会談でルシファーは先に出て行ってしまったのに『魅了』にかからなかったけど、それは?」 (第232話参照)
「……自動発動の精神攻撃の魔力は少しの時間その場に残るから、部屋から出て行った程度では打ち消し合いは終わらない。魔力が収まるには日を跨ぐくらいの時間が必要……あの場に私だけが一日居れば魅了された者は出たかも……」
なるほど。以前カイベルに聞いた魔力の残滓同士が打ち消し合うみたいなもんか。
「精神攻撃で操られたヒトが元に戻るにもそれくらいの時間が必要なの?」
「……元に戻るのはもっと早い……体質と精神攻撃を浴びていた時間にも依るけど……長くても三、四時間、もっと効きやすいヒトでも六時間もあれば効果が消えると思う……発動者本人がその場に居なければ効果が切れるのは割と早い……」
それならフレアハルトたちも時間を置けば大丈夫か。
しかし……どこへ空間転移させたのかが、ちょっと気がかりだけど……まあ彼らならどこへ転移させられてても死ぬことはないでしょう。
「じゃあ欠席要請を了承しなかった場合は? 要請を無視して独断で乗り込んでくる可能性だってあるでしょ?」
「……その場合は精神攻撃に強い衛士が入場を妨げて国への速やかな帰還を促される……」
「精神攻撃に強い衛士なんてのがいるの?」
「……ヘルヘヴン族、特に黒天使よりも白天使の方が精神攻撃に強い者が多い……天使のような見た目通り、祖先に天使がいると伝説で伝わっているから、本当にそうなのかもしれない……ただ、精神攻撃に強い性質を持つとは言え、多くの者は魔王の精神攻撃に抗えないから、精神攻撃に強い者の中でも極々稀に生まれる更に強い者が衛士として選出される……今世界の頂の衛士として就任しているヒトたちには私の『魅了』が一切効かない……」
一切効かない……!?
ステータス盛り盛りの私ですらアスモを前にすると好き好き感情が出てしまうのに……
「……まあ……【完全なる魅了】には抗えないと思うけど……あと、ヘルヘヴン族以外でも時折精神攻撃に強い耐性を持つ者が生まれることがある……最近の火の国では跪かないだけで処刑されるって話聞いたことない……?」
「あ、あるある! レヴィがそんなようなこと言ってた!」
サンドニオさんも同じようなこと言ってたし。
「……私の憶測も入ってるけど、それは精神攻撃で服従させられないから反乱分子にならないうちに殺してしまうんじゃないかと思う……」
なるほど、理にかなってはいる。暴君気質の者なら命を何とも思わずにその手段が採れそうだ。目の前に居た自分の衛兵すら斬り殺す今代のルシファーなら、そんな命令簡単に下せるかもしれない。
しかし、反政府組織が生まれているのを考えると、この方法で反乱分子を生まないようにする方法は失敗していると言える。
「話をちょっと戻すけど、衛士の制止を振り切って強行突入したらどうするの?」
「……魔王が衛士に手を上げれば世界の頂の誓約に違反することになる……魂を取り上げられ、別の者が次の魔王になるから攻撃してまで会談参加を強行しようとするバカはいない……」 (第236.5話 説明回1参照)
「ああ、そっか。命まで取られたら元も子もないものね……でも、【完全なる魅了】に抗えないって言うなら魅了すれば会談場に入れてしまうんじゃないの?」
「……【完全なる魅了】は、自動発動の魅了とは違って、私の意思が込められてるから衛士への攻撃と判断されて、誓約に違反することになる……と思う……今言ったルールは、私が魔王になってからはその場面に遭遇したことがないから、これも確証は無いけど……」
各七大国が興って九千年くらい経ってるって話だし、もうこういうルールは浸透し切ってるからアスモもその場面に遭うことはないのだろう。
流石に自分の命を賭けてまで、試そうなどと思う者はいないだろう。
「なるほど~、上手く誓約されてるってわけね」
そういう理由なら、あの場の秩序が保たれてるのも納得いくわ。
「あれ? でも能力を秘密にするなら、何でアスモは秘密にしてないの?」
「……魅了や畏怖は一般的とは言わないまでも、ある程度は知られている……それにかかったヒトの様子から即座に判断できるものだから、秘密にしておくことができない……【完全なる魅了】は知られてないけど巨大サンダラバードの時はあなたを信用して明かした……だから他言無用でお願い……」
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