417 / 548
第15章 火の国ルシファーランド強制招待編
第407話 それは親子丼……なのか?
しおりを挟む
デザートソリドを出発して五時間ほど進み、みんなにも疲れの色が見えてきたので、砂漠でキャンプを張ることに。
生憎と昨日のように宿が近くにあるわけではないため、土魔法で簡易的な家を作る。樹の国でやったのと同じ方式で、翌日には壊してここを離れることにする。 (第310話参照)
「じゃあ今日のご飯は私が作ろうかな。また丼物にでもしましょうか、作る手間は少ないし」
「また丼物か」
「何言ってんですかー! フレハル様丼物好きで役所の食堂でもよく食べてるじゃないですか!」
「私もよく丼物食べてるのを見かけるよ」
米を輸入し、現地で作れるようにもなって、アルトレリアでもご飯が普通に食べられるようになったため、既に丼物が広く知れ渡っている。
一品だけでガッツリお腹に来るものが食べられるということで、労働者に人気のメニューだ。
アルトレリアは元々は何も無い土地だったために、現在プチ建設ラッシュ。
そのため、フレアハルトが『何でも屋』と銘打っていても肉体労働の依頼が思いのほか多いらしい。“労働者に人気のメニュー”ということで、フレアハルトが食堂で丼物を食べてるのをよく見かける。嫌いなはずがない。
「まあそうだが……二日続けてと言うのもな……」
肉食ってればご機嫌なヤツがよう言うわ。
「わたくしたちは米をあまり食べない地域出身ですので、口にすることもなかった丼物は大歓迎ですよ。それで今日はどんなものを作っていただけるのですか?」
と、サンドニオさん。
火の国は雨も少なく荒涼としているため麦を主に食べる。寒い地域と丁度良い地域と暑い地域があるため、それぞれの場所で適した麦が作られている。
「ウサギは鶏肉に近い味って言われてるので、デザートラビットの肉と鳥の卵と玉ねぎを使って親子丼でも作ろうかと思います」
「ちょっと待てアルトラ! 親子丼? ウサギと卵の親子丼か? それは果たして親子と言えるのか……?」
変なところをツッコんでくるな……
「じゃあウサギと卵の他人丼ってことで」
「それは何か他人行儀過ぎて好かんな」
お前は私にどうしろと……?
私としては親子だろうが他人だろうが美味しければどちらでも良い。
「他人行儀だろうが親子だろうが、義理の親子だろうが全部同じどんぶり料理だよ!」
フレアハルトを後目に、ご飯の支度に入る。
アリサが調理を手伝ってくれるらしい。
◇
メインメニューは親子丼で決まり。
ウサギの肉は切り分けてもらっているから、あとはそれ用のタレを作って玉ねぎと一緒に似て、卵で閉じるだけの簡単なお仕事だ。
副菜はアリサが作ってくれた。
乾燥地帯で出来たアグニイモ。所謂ジャガイモのような食感なのだが、乾燥に滅法強い。
その名前から首都アグニシュで作られたのかと思いきや、名前を借りてるだけらしく、火の国内の地方で生まれたイモだとか。
これと、市場で買ったサンドリザードの肉でポテトサラダを作ってくれた。サンドリザードの肉はベーコンとして吊るしてあったものを購入したもの。
なお、ポテトサラダと言えばマヨネーズで和えたものが定番だが、マヨネーズはまだアルトレリアでは開発されておらず、亜空間収納ポケット内にも無いため、塩と胡椒で味付けした粉吹きイモにベーコンが乗った簡素なもの。 (胡椒については第265話、第374話参照)
スープは私が作る。
「それは何ですか? 石のように見えますけど……」
「石? 貝はまだ見たことない? まあ私にもよく分からないけど、何かの貝だね。私がよく知ってるものに似てたから買ってきた」
「貝……と言うのですか? 初めて見ました」
アサリに似た貝。これでアサリの味噌汁を作ろうかと思う。ちなみに元々首都に持って行く予定で港町イルエルフュールで水揚げされたものだが、デザートソリドに来た商人が強奪されてマーケットに流された商品らしい。つまりは盗品。
醤油や味噌は、アルトレリアでも作られるようになってきたため、ストックしてある。出来たスープは『アサリ (モドキ)の味噌汁』
そしてデザートは――
「それは何ですか? スイカみたいに見えますけど……」
「何か珍しくてフレアハルトがどうしても買って行くって言うから買ってきたものなんだけど……」
その果物の色は緑と黒のシマシマ。球体というところまではスイカと共通しているのだが、全く違う特徴が一つ。
それは……『全体にトゲがある』ということ。トゲの長さは十五から二十センチ程度。
この地にもトゲの無いスイカは存在するらしく、見たまんまそのままに魔界文字で『トゲスイカ』と書かれていた。アルトレリアでは見たことがないということで、フレアハルトがどうしても買えとうるさかった。
「ど、どうやって食べるのですか?」
「いやまあ、これ自体そんなに硬くないから普通に包丁が入るよ」
「トゲの部分はどうするのですか? 切る時かなり邪魔だと思いますけど……捨てますか?」
「いや、露店で聞いた話では、この部分に糖分が沢山あって美味しいとか」
「普通、果物は外側の皮は美味しくないですよね?」
「このスイカの場合、成長する時に内側の糖分を外へと押し出そうとするらしくてね、それでこのトゲ部分に糖分が溜まるんだってさ」
「しかし、それだと中心部分は甘くないということですか?」
「このスイカ程度のトゲの長さなら大丈夫って言われたよ。これ以上トゲ部分が長くなると中心部分の栄養や水分、糖分が著しく少なくなって美味しくなくなるらしい。一番美味しい目安は二十センチくらいだとか。それ以上になると三十センチなら中心部分は甘さが少ないがトゲは甘くなり、四十以上ともなるとトゲの方も乾燥が進んで折れやすくなるうえに美味しくなくなるんだってさ」
「へぇ~、そうなのですね」
「ただ、持って帰る分にはかなり邪魔になるとかで、持ち帰る前にトゲは全部その場で切ってもらうんだってさ。だからあまり日持ちはしないらしい。私の場合は亜空間収納ポケットの能力があるからそのままトゲ付きのまま貰って来た」
「なるほど……」
◇
ご飯時――
「お待たせ」
作った料理を並べる。
「これが他人丼か……普通に親子丼だな。他人感は無いな」
そりゃ見た目はそんな変わらんやろ……
「では――」
「「「いただきます!」」」
「サンドニオさん、五日目ですけどそろそろ首都は近いんですか?」
「明日には首都アグニシュに着くかと思います」
「やっとこの砂漠渡りも終わるんですね……」
今回は樹の国とは違って自身で歩いてない分、楽ではあったけど駱駝車に乗っていた時間は大分退屈だった……ほとんどの移動を寝て過ごしたようなものだ。
砂を被らなくて良い生活になるのは良いのだが、到着したとて、その後に王様に移住の断りをしないといけないという大仕事が待っているが……
「アグニシュはどんなところなんですか?」
「気候が温暖で騒がしいところですよ。石造りの建物が多く、街は賑わいがあります。河の上流に位置するので流量も多く、砂漠にある街としては緑も多いです」
「へぇ~、それは生活し易そうな街ですね」
ここに来るまでに通過した町を見てるとね……
「国中の物品が流れてくるので、首都で手に入らないものはほぼ無いですね」
そう聞くと、地方が搾取されてるように聞こえる……
サンドニオさんから情報を得ながら食事していると、バリバリと噛み砕く音が聞こえて来た。しかも複数人から。
「…………凄い音がするけど、みんな何食べてるの?」
「貝とかいうものの味噌汁だが?」
見回すと、フレアハルト、アリサ、レイアが貝殻ごとバリバリと食べている。
「…………三人とも、その味噌汁、そうやって食べるもんじゃないからね? 貝殻は外して中の身だけ食べるのよ?」
「何? そうなのか? 食べられるからそういうものなのかと思っておった」
「わたくしもそのまま食べるのかと……」
「アルトラ様、先に言っといてくださいよ~」
「いや、まさか貝殻ごと食べるとは思わなかったから……レイアは知ってるかと思ったけど? 海行ってるし」
「貝なんてここへ来て食べられるものだと初めて知りましたよ~! アルトレリア近海にも岩にくっ付いてたりしたのは見ましたけど、動いてないので食べるものだと思わなくて。これからは貝も捕ってきますね!」
そういえば、海鮮売ってた店でも貝はまだ見たことなかったような…… (第281話参照)
「ああ、その際は貝ごとバリバリ食べるものではないとトロルのみんなに教えてあげて。多分彼らも“貝殻ごと食べられる側”だから」
しかし、貝殻まで食べるのは想定してなかった……
常識外過ぎる……流石はレッドドラゴン。
「ま、まあ食べられるならそのまま食べるのも良いと思うよ。何らかの栄養になるかもしれないし」
私は貝殻を外して身だけ食べる。
「貝殻は残すのか?」
「え? まあ通常食べるところではないしね」
「ヒトには野菜食え食え言っておいて、自分は残すのか? きちんと食べなさい!」
何だその口調は。まさか私の真似をしてるのか?
「この貝殻はお茶の出涸らしとかコーヒー豆の出涸らしと同じで普通は食べないものだよ。あなたも出涸らしは食べないでしょ? それに、私の顎はあなたたちみたいに強靭じゃないから硬すぎて物理的に食べられないのよ」
食べたところで破片などで怪我はしないだろうけど、私の顎の力では咬合力が足りなくて噛み砕けない。
まあ……筋力強化魔法を使えば無理に食べることは可能だろうけど……
「じゃあ我にくれ。食感が気に入った」
「ああ、まあ気に入ったならどうぞ……」
身だけ抜いた貝殻をフレアハルトに譲る。
あとで燃やして灰にしてから砂漠に廃棄しようとしてたから、食べてくれるなら手間が省けた。
「他人丼は見事に調和しておって、他人とは思えなかったな。美味かったぞ。義理の親子丼と呼ぼう」
ウサギと鳥の異種族で義親子の契りが結ばれちゃったよ。
名前に納得行かない様子をグチグチと語っていたが、結局フレアハルトはご機嫌にたいらげていた。
「ああ、まあ勝手に呼んで。多分アルトレリアでメニューになることはないと思うけど」
アルトレリアにも、二角ウサギというのが生息しているから可能性はゼロではないが。
「さて、デザートだが……このスイカの隣に置いてあるトゲは何だ?」
「そのスイカに付いてたトゲを切ったものだけど……そのままトゲ付いたままにしておくとバランス悪くて皿に乗らないから」
「なぜこのトゲ捨てぬのだ? 邪魔であろう?」
あれ~? さっきトゲスイカ買った時に私と一緒に居たよね? 店主さんの説明聞いてなかったのか? ホントに話を聞いてないなこの男は。
さっきアリサに説明したのと同じことを説明しようとしたところ、レドナルドさんが先に説明してくれた。
「いえ、フレアハルト殿、そのトゲが美味しいんですよ」
「ほう、そうか」
一口かじって――
「美味い! 中心部分より美味いぞ!」
トゲ部分の皮は、外側に引っ張られる関係上薄くなっており、少し厚みのあるキュウリの皮程度にまで薄くなっている。トゲ部分がギッシリスイカで埋まっているため、食べ方としてはキュウリのようにかじりついて食べられる。果肉だけを食べたい場合はお好みで皮を剥がせば良い。
「ホントだ! 美味しい!」
凄く甘い上に水分もちゃんとあってジューシー。
これは持って帰って育てたいところね。
このスイカは種まで特徴的だった。コンペイトウのようなトゲトゲした形の黒い種が切り分けたスイカに各一つずつくらい。種の量は普通のスイカに比べるとかなり少ないらしい。
全員デザートまでいただき、今日のところは簡易家にて就寝。
生憎と昨日のように宿が近くにあるわけではないため、土魔法で簡易的な家を作る。樹の国でやったのと同じ方式で、翌日には壊してここを離れることにする。 (第310話参照)
「じゃあ今日のご飯は私が作ろうかな。また丼物にでもしましょうか、作る手間は少ないし」
「また丼物か」
「何言ってんですかー! フレハル様丼物好きで役所の食堂でもよく食べてるじゃないですか!」
「私もよく丼物食べてるのを見かけるよ」
米を輸入し、現地で作れるようにもなって、アルトレリアでもご飯が普通に食べられるようになったため、既に丼物が広く知れ渡っている。
一品だけでガッツリお腹に来るものが食べられるということで、労働者に人気のメニューだ。
アルトレリアは元々は何も無い土地だったために、現在プチ建設ラッシュ。
そのため、フレアハルトが『何でも屋』と銘打っていても肉体労働の依頼が思いのほか多いらしい。“労働者に人気のメニュー”ということで、フレアハルトが食堂で丼物を食べてるのをよく見かける。嫌いなはずがない。
「まあそうだが……二日続けてと言うのもな……」
肉食ってればご機嫌なヤツがよう言うわ。
「わたくしたちは米をあまり食べない地域出身ですので、口にすることもなかった丼物は大歓迎ですよ。それで今日はどんなものを作っていただけるのですか?」
と、サンドニオさん。
火の国は雨も少なく荒涼としているため麦を主に食べる。寒い地域と丁度良い地域と暑い地域があるため、それぞれの場所で適した麦が作られている。
「ウサギは鶏肉に近い味って言われてるので、デザートラビットの肉と鳥の卵と玉ねぎを使って親子丼でも作ろうかと思います」
「ちょっと待てアルトラ! 親子丼? ウサギと卵の親子丼か? それは果たして親子と言えるのか……?」
変なところをツッコんでくるな……
「じゃあウサギと卵の他人丼ってことで」
「それは何か他人行儀過ぎて好かんな」
お前は私にどうしろと……?
私としては親子だろうが他人だろうが美味しければどちらでも良い。
「他人行儀だろうが親子だろうが、義理の親子だろうが全部同じどんぶり料理だよ!」
フレアハルトを後目に、ご飯の支度に入る。
アリサが調理を手伝ってくれるらしい。
◇
メインメニューは親子丼で決まり。
ウサギの肉は切り分けてもらっているから、あとはそれ用のタレを作って玉ねぎと一緒に似て、卵で閉じるだけの簡単なお仕事だ。
副菜はアリサが作ってくれた。
乾燥地帯で出来たアグニイモ。所謂ジャガイモのような食感なのだが、乾燥に滅法強い。
その名前から首都アグニシュで作られたのかと思いきや、名前を借りてるだけらしく、火の国内の地方で生まれたイモだとか。
これと、市場で買ったサンドリザードの肉でポテトサラダを作ってくれた。サンドリザードの肉はベーコンとして吊るしてあったものを購入したもの。
なお、ポテトサラダと言えばマヨネーズで和えたものが定番だが、マヨネーズはまだアルトレリアでは開発されておらず、亜空間収納ポケット内にも無いため、塩と胡椒で味付けした粉吹きイモにベーコンが乗った簡素なもの。 (胡椒については第265話、第374話参照)
スープは私が作る。
「それは何ですか? 石のように見えますけど……」
「石? 貝はまだ見たことない? まあ私にもよく分からないけど、何かの貝だね。私がよく知ってるものに似てたから買ってきた」
「貝……と言うのですか? 初めて見ました」
アサリに似た貝。これでアサリの味噌汁を作ろうかと思う。ちなみに元々首都に持って行く予定で港町イルエルフュールで水揚げされたものだが、デザートソリドに来た商人が強奪されてマーケットに流された商品らしい。つまりは盗品。
醤油や味噌は、アルトレリアでも作られるようになってきたため、ストックしてある。出来たスープは『アサリ (モドキ)の味噌汁』
そしてデザートは――
「それは何ですか? スイカみたいに見えますけど……」
「何か珍しくてフレアハルトがどうしても買って行くって言うから買ってきたものなんだけど……」
その果物の色は緑と黒のシマシマ。球体というところまではスイカと共通しているのだが、全く違う特徴が一つ。
それは……『全体にトゲがある』ということ。トゲの長さは十五から二十センチ程度。
この地にもトゲの無いスイカは存在するらしく、見たまんまそのままに魔界文字で『トゲスイカ』と書かれていた。アルトレリアでは見たことがないということで、フレアハルトがどうしても買えとうるさかった。
「ど、どうやって食べるのですか?」
「いやまあ、これ自体そんなに硬くないから普通に包丁が入るよ」
「トゲの部分はどうするのですか? 切る時かなり邪魔だと思いますけど……捨てますか?」
「いや、露店で聞いた話では、この部分に糖分が沢山あって美味しいとか」
「普通、果物は外側の皮は美味しくないですよね?」
「このスイカの場合、成長する時に内側の糖分を外へと押し出そうとするらしくてね、それでこのトゲ部分に糖分が溜まるんだってさ」
「しかし、それだと中心部分は甘くないということですか?」
「このスイカ程度のトゲの長さなら大丈夫って言われたよ。これ以上トゲ部分が長くなると中心部分の栄養や水分、糖分が著しく少なくなって美味しくなくなるらしい。一番美味しい目安は二十センチくらいだとか。それ以上になると三十センチなら中心部分は甘さが少ないがトゲは甘くなり、四十以上ともなるとトゲの方も乾燥が進んで折れやすくなるうえに美味しくなくなるんだってさ」
「へぇ~、そうなのですね」
「ただ、持って帰る分にはかなり邪魔になるとかで、持ち帰る前にトゲは全部その場で切ってもらうんだってさ。だからあまり日持ちはしないらしい。私の場合は亜空間収納ポケットの能力があるからそのままトゲ付きのまま貰って来た」
「なるほど……」
◇
ご飯時――
「お待たせ」
作った料理を並べる。
「これが他人丼か……普通に親子丼だな。他人感は無いな」
そりゃ見た目はそんな変わらんやろ……
「では――」
「「「いただきます!」」」
「サンドニオさん、五日目ですけどそろそろ首都は近いんですか?」
「明日には首都アグニシュに着くかと思います」
「やっとこの砂漠渡りも終わるんですね……」
今回は樹の国とは違って自身で歩いてない分、楽ではあったけど駱駝車に乗っていた時間は大分退屈だった……ほとんどの移動を寝て過ごしたようなものだ。
砂を被らなくて良い生活になるのは良いのだが、到着したとて、その後に王様に移住の断りをしないといけないという大仕事が待っているが……
「アグニシュはどんなところなんですか?」
「気候が温暖で騒がしいところですよ。石造りの建物が多く、街は賑わいがあります。河の上流に位置するので流量も多く、砂漠にある街としては緑も多いです」
「へぇ~、それは生活し易そうな街ですね」
ここに来るまでに通過した町を見てるとね……
「国中の物品が流れてくるので、首都で手に入らないものはほぼ無いですね」
そう聞くと、地方が搾取されてるように聞こえる……
サンドニオさんから情報を得ながら食事していると、バリバリと噛み砕く音が聞こえて来た。しかも複数人から。
「…………凄い音がするけど、みんな何食べてるの?」
「貝とかいうものの味噌汁だが?」
見回すと、フレアハルト、アリサ、レイアが貝殻ごとバリバリと食べている。
「…………三人とも、その味噌汁、そうやって食べるもんじゃないからね? 貝殻は外して中の身だけ食べるのよ?」
「何? そうなのか? 食べられるからそういうものなのかと思っておった」
「わたくしもそのまま食べるのかと……」
「アルトラ様、先に言っといてくださいよ~」
「いや、まさか貝殻ごと食べるとは思わなかったから……レイアは知ってるかと思ったけど? 海行ってるし」
「貝なんてここへ来て食べられるものだと初めて知りましたよ~! アルトレリア近海にも岩にくっ付いてたりしたのは見ましたけど、動いてないので食べるものだと思わなくて。これからは貝も捕ってきますね!」
そういえば、海鮮売ってた店でも貝はまだ見たことなかったような…… (第281話参照)
「ああ、その際は貝ごとバリバリ食べるものではないとトロルのみんなに教えてあげて。多分彼らも“貝殻ごと食べられる側”だから」
しかし、貝殻まで食べるのは想定してなかった……
常識外過ぎる……流石はレッドドラゴン。
「ま、まあ食べられるならそのまま食べるのも良いと思うよ。何らかの栄養になるかもしれないし」
私は貝殻を外して身だけ食べる。
「貝殻は残すのか?」
「え? まあ通常食べるところではないしね」
「ヒトには野菜食え食え言っておいて、自分は残すのか? きちんと食べなさい!」
何だその口調は。まさか私の真似をしてるのか?
「この貝殻はお茶の出涸らしとかコーヒー豆の出涸らしと同じで普通は食べないものだよ。あなたも出涸らしは食べないでしょ? それに、私の顎はあなたたちみたいに強靭じゃないから硬すぎて物理的に食べられないのよ」
食べたところで破片などで怪我はしないだろうけど、私の顎の力では咬合力が足りなくて噛み砕けない。
まあ……筋力強化魔法を使えば無理に食べることは可能だろうけど……
「じゃあ我にくれ。食感が気に入った」
「ああ、まあ気に入ったならどうぞ……」
身だけ抜いた貝殻をフレアハルトに譲る。
あとで燃やして灰にしてから砂漠に廃棄しようとしてたから、食べてくれるなら手間が省けた。
「他人丼は見事に調和しておって、他人とは思えなかったな。美味かったぞ。義理の親子丼と呼ぼう」
ウサギと鳥の異種族で義親子の契りが結ばれちゃったよ。
名前に納得行かない様子をグチグチと語っていたが、結局フレアハルトはご機嫌にたいらげていた。
「ああ、まあ勝手に呼んで。多分アルトレリアでメニューになることはないと思うけど」
アルトレリアにも、二角ウサギというのが生息しているから可能性はゼロではないが。
「さて、デザートだが……このスイカの隣に置いてあるトゲは何だ?」
「そのスイカに付いてたトゲを切ったものだけど……そのままトゲ付いたままにしておくとバランス悪くて皿に乗らないから」
「なぜこのトゲ捨てぬのだ? 邪魔であろう?」
あれ~? さっきトゲスイカ買った時に私と一緒に居たよね? 店主さんの説明聞いてなかったのか? ホントに話を聞いてないなこの男は。
さっきアリサに説明したのと同じことを説明しようとしたところ、レドナルドさんが先に説明してくれた。
「いえ、フレアハルト殿、そのトゲが美味しいんですよ」
「ほう、そうか」
一口かじって――
「美味い! 中心部分より美味いぞ!」
トゲ部分の皮は、外側に引っ張られる関係上薄くなっており、少し厚みのあるキュウリの皮程度にまで薄くなっている。トゲ部分がギッシリスイカで埋まっているため、食べ方としてはキュウリのようにかじりついて食べられる。果肉だけを食べたい場合はお好みで皮を剥がせば良い。
「ホントだ! 美味しい!」
凄く甘い上に水分もちゃんとあってジューシー。
これは持って帰って育てたいところね。
このスイカは種まで特徴的だった。コンペイトウのようなトゲトゲした形の黒い種が切り分けたスイカに各一つずつくらい。種の量は普通のスイカに比べるとかなり少ないらしい。
全員デザートまでいただき、今日のところは簡易家にて就寝。
1
お気に入りに追加
65
あなたにおすすめの小説

私はいけにえ
七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」
ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。
私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。
****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

私は、忠告を致しましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。
ロマーヌ様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?

ここは貴方の国ではありませんよ
水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。
厄介ごとが多いですね。
裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。
※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。
西東友一
ファンタジー
えっ、彼との結婚がダメ?
なぜです、お父様?
彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。
「じゃあ、家を出ていきます」

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw
かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます!
って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑)
フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。

【完結】聖女ディアの処刑
大盛★無料
ファンタジー
平民のディアは、聖女の力を持っていた。
枯れた草木を蘇らせ、結界を張って魔獣を防ぎ、人々の病や傷を癒し、教会で朝から晩まで働いていた。
「怪我をしても、鍛錬しなくても、きちんと作物を育てなくても大丈夫。あの平民の聖女がなんとかしてくれる」
聖女に助けてもらうのが当たり前になり、みんな感謝を忘れていく。「ありがとう」の一言さえもらえないのに、無垢で心優しいディアは奇跡を起こし続ける。
そんななか、イルミテラという公爵令嬢に、聖女の印が現れた。
ディアは偽物と糾弾され、国民の前で処刑されることになるのだが――
※ざまあちょっぴり!←ちょっぴりじゃなくなってきました(;´・ω・)
※サクッとかる~くお楽しみくださいませ!(*´ω`*)←ちょっと重くなってきました(;´・ω・)
★追記
※残酷なシーンがちょっぴりありますが、週刊少年ジャンプレベルなので特に年齢制限は設けておりません。
※乳児が地面に落っこちる、運河の氾濫など災害の描写が数行あります。ご留意くださいませ。
※ちょこちょこ書き直しています。セリフをカッコ良くしたり、状況を補足したりする程度なので、本筋には大きく影響なくお楽しみ頂けると思います。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

聖女は聞いてしまった
夕景あき
ファンタジー
「道具に心は不要だ」
父である国王に、そう言われて育った聖女。
彼女の周囲には、彼女を心を持つ人間として扱う人は、ほとんどいなくなっていた。
聖女自身も、自分の心の動きを無視して、聖女という治癒道具になりきり何も考えず、言われた事をただやり、ただ生きているだけの日々を過ごしていた。
そんな日々が10年過ぎた後、勇者と賢者と魔法使いと共に聖女は魔王討伐の旅に出ることになる。
旅の中で心をとり戻し、勇者に恋をする聖女。
しかし、勇者の本音を聞いてしまった聖女は絶望するのだった·····。
ネガティブ思考系聖女の恋愛ストーリー!
※ハッピーエンドなので、安心してお読みください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる