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第15章 火の国ルシファーランド強制招待編
第401話 vs砂賊 その5(フレアハルトの爆発力)
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駱駝車を含めて、フレアハルトと砂の精霊以外の全員を十キロ離れた地点へ強制的に転移してきた。
「どういうことか説明してもらえる?」
「少々お待ちください。皆様!! 今すぐ岩陰に隠れてください!! ラクダも連れて岩陰に避難させてください!! 今すぐです!!」
急ぎ、この場にいる全員を岩陰に隠れさせるアリサ。
「何だと言うのだ! こんなどこか分からぬところへ連れてきて」
相変わらず悪態を付く商人。
「商人様、死にたくなければ言う通りにしてください。今から吹き飛ばされそうなほど強い風が発生します」
「はぁ? 何を言っておるのだ貴様」
「私たちの言う通りにしないと死んじゃうかもしれないけど、死にたいなら別に隠れなくても良いよ~?」
レイアは商人が死のうがどうなろうがどうでも良いという態度。
「早く言う通りにしてください! 本当に死にますよ!?」
対して、アリサは思いやりの心で強い語気と共に商人を睨みつける。
「う、うむ……わ、わかった……」
悪態を付いていた商人もその迫真の態度に気圧されたのか、岩陰に避難した。
「それで、改めてどういうことか教えてもらえる?」
その時、空間魔法で逃げてくる前に私たちが居た辺りから、フレアハルトの魔力の増大を感じた。
「この魔力の増大って……?」
「はい、今フレアハルト様がドラゴン形態に戻ったところです。まずはわたくしたちが今居た方向の上空をご覧ください」
そちらを見ると空に黒い影が見える。十キロも離れているとぼやけた薄っすら見える黒い点にしか見えないが、どことなくドラゴンのシルエットっぽい。
「まさかあの空にいる黒い点がフレアハルト?」
「はい」
その言葉の直後、私たちが居た辺りが光のドームに包まれた。
「何あの光!?」
「皆様!! 身を低くして伏せてください!!」
この場にいる全員に聞こえるように大声を張り上げるアリサ。
訳も分からず姿勢を低くした私たちのところへ、少し遅れてドゴゴゴゴココココォォォォ!!!という爆発音が届く。
「これは何の音!?」
「まだ終わりではありません。あ! 身を低くするよりもアルトラ様にバリアを張っていただければ――」
「そ、そういうことは早く言って!!」
急いで私たちと駱駝車、商人の隊商、捕まえた砂賊たちを囲むようにバリアで包む。
バリアを張った直後、地面が波打つほどの衝撃波と突風、そして無数の砂と岩石の礫がこの場を襲う。
「うわぁぁぁぁ!!」
「きゃああぁぁぁ!!」
「な、何なんだこの風はぁ!?」
バリアを張っても衝撃波による振動と地鳴りはそのまま伝わってくる。そのさまに商人と隊商メンバーたちは恐怖した声を上げる。
バリア外にある砂漠の砂が風で吹き飛ばされ、砂山が削られてどんどん低くなって消えていく。
風が止んだ頃には砂山がいくつも無くなって、平らな砂漠に……ところどころ岩肌まで見える。
バリアを張らなければどこかへ吹き飛ばされていたか、岩石の礫を喰らって怪我をしていたかもしれない。
これって……もしこの周辺に別の隊商が居たら……吹き飛ばされているかもしれない。あまり被害が無いことを祈る。
それはそうと――
「どどど、どういうこと!? フレアハルトは一体何をしたの!? 早く説明して!!」
アリサに急ぎ説明を促すと。
「まず何があったかから申しますと、フレアハルト様がご自身の最強の魔法【インフェルノ・ブレス】を放ちました」
「あのドーム状に光ったのがそう? あれが私が以前相殺したフレアハルトの魔法?」 (第42話参照)
「はい。その後に吹いた突風は、爆発によって生じた衝撃波です」
十キロも離れてるのに!?
あんなに強かったのか……あの時大地に落とさなくて良かった…… (第42話参照)
いや、それよりもこの二人が教えてくれなければあの場に居た全員消滅してたわ……
フレアハルトのブレスは私もダメージを受けるから、私も無事では済まなかっただろうし。
「何であんな状況に……?」
「フレアハルト様は、痛みに弱く元来怒りっぽい性格なのです」
「アルトラ様に出会ってからは大分丸くなったよね~」
「痛みに弱く怒りっぽい? まあ怒りっぽいのは何となく知ってるけど、あんなに硬いウロコで守られてるのに痛みに弱いの?」
「硬いウロコに守られているからこそ痛みに弱いのです。普段痛みなどとは無縁な生活をしているため、相手が強者だった場合、怪我をすることがあります。するとフレアハルト様は激昂してああいった行動に出ることが稀にあるのです」
「あ、だからさっき『ちょっと痛かった』程度でも不機嫌になったわけね」
そういえば、私と初めて会った時も怒らせてアレを使われたんだっけ。
「あなたたちはどうやって今までアレから逃れてたの?」
「私たちは飛べますし、キレそうな兆候があった時には空へ逃げてましたよ。熱にだって耐性がありますからから、直接【インフェルノ・ブレス】を喰らわなければ熱風くらいなら何ともないので」
「フレアハルト様がお怒りになられるほど強い方はそうそうおりませんので、そう何度もあることではありません。二百年お仕えしていますが、両手の指にで足りるくらいしかありませんし」
アルトレリアで目立った問題行動も無いし、普段は比較的無害だと思ってたのに、トンデモナイ爆弾抱えてた~~!!
「あ! アルトラ様~、何だか物凄い不安そうな表情になりましたけど、大丈夫ですよ? フレハル様がブチギレするのは敵とみなした相手だけですから。アルトレリアの住人相手に爆発することは無いですよ」
「ホ、ホントに? アルトレリアがある日突然焼け野原になることは無い?」
「無い無い」
「ありません」
この二人が『それは無い』と断言するならひとまず安心、かな?
「いや、でも今回あなたたちが教えてくれなかったら全員無事じゃなかったんだから、もし今後またアレを使うほどの緊急事態があると……」
「…………それは確かに……そうですね……」
「アルトラ様からフレハル様に言うのが一番良いんじゃないですか? 『周りに誰もいない時に限って使うように』とか、『もうちょっと冷静になって周りを見ろ』みたいな感じで。私たちが言うより言うこと聞きそうですし」
そんなんで大丈夫だろうか? やっぱりちょっと不安だ……
これについての解決法はやはり自身に自覚してもらう他無い。苦言を呈することになってしまうが、やはり言っておいた方が良いだろう。
「では、そろそろフレアハルト様も頭が冷えた頃だと思いますので、先ほどの地点まで帰りましょう………………いえ、お待ちください」
「近くに何か移動して来たね……」
言われてみれば、何か魔力の塊のようなものが移動して来た感覚があった。
直後に目の前の砂が盛り上がり、人型を成した。
「あなたは!?」
「フレハル様と戦ってた砂の精霊じゃん!」
数分前まで十キロ先でフレアハルトと戦闘していた砂の精霊が目の前に出現。
「いやはや、彼のあの炎にはビックリしました。砂鉄を集めて鉄製の盾を作ってガードしたのですが、一瞬で溶かされてしまったので急いで退避しました。ここへ移動して来なければ、今頃は砂漠の塵と消えていたでしょう」
「どうやってここへ移動して来たの? まだあの場所が光って何分も経っていないはずだけど……」
空間魔法の類?
いや、トリニアさんからは『精霊は生まれ持った自身の持つ属性以外は後天的に発現することは無い』と聞いている。
つまり、どんなに早く移動してきたとしても、空間魔法を使った可能性は皆無ということ。
「我ら砂の精霊には俗に言う『砂地転移法』というものがありまして、砂の中なら一瞬で何キロも移動できるのです」
砂地転移法? 何だかトライアさんたち木の精霊が使う植物転移法に似た名前ね。精霊は一瞬で移動できる移動術を持ってるのが普通なのかしら?
「それで、フレアハルトから逃げて来たのに、何でわざわざ私たちの前に現れたの?」
「いえ、部下たちを返してもらおうと思いましてね」
「フレアハルト様がこの場に居なければ取り返せるとでも思いましたか?」
「レッドドラゴンより強い者はそうそういないでしょう」
「舐められたもんだね。私たちもレッドドラゴンだよ?」
「おや、やはりそうでしたか。しかし彼ほどの脅威は感じませんね。すみませんがお二人を拘束して、部下は連れ帰らせてもらいます」
「この少量の砂でフレハル様と同じような拘束をするの? 量が少なさ過ぎて難しいと思うよ?」
確かに……さっきの突風で、私がバリアを張った範囲以外には砂が少なく、足元の砂の層はかなり薄い。一部では岩肌が見えているところさえある。
「ご心配には及びません」
砂の精霊が右手を掲げると岩と岩の隙間から大量の砂が噴出。
砂の鎖でアリサとレイアを拘束する。
「あっ、しまった! なにこの砂、物凄く重い!」
「なぜこれほど大量の砂が!?」
「地下にはあなた方が思うよりずっと大量の砂が埋蔵されているんですよ。さて、あなた方がドラゴンに戻る前に仲間たちを回収させてもらいます」
砂の精霊が周囲の砂を操り、砂賊たちを包み込もうとする。
「確かにわたくしたちは動けませんが、一つ誤算がありますよ?」
「ここにはフレハル様より強いヒトがいるからね!」
私はレイアのその言葉と同時に砂の精霊に対し、とある液体を浴びせかける。
「うっ! これは!? 何だこの粘性のある液体は!? 身体を砂に分解できない!!」
「私の能力の一つ、『樹液』だよ」
樹の国でマンイーターからコピーした能力。 (第320話参照)
あの時は強酸性の樹液しか出せないかと思ってたけど、私の意思である程度変化させられるらしい。今回は粘性のある樹液に変質させて浴びせかけた。
「くっ……」
「上手い具合に拘束させられたわ。砂に分解する能力は捕まえるのが厄介だからね」
砂に粘性の樹液が絡みついてしまい、身体を砂に変えることができなくなったらしい。
「これは……かなり分が悪いようですね。ドラゴンのお二人さえ拘束しておけば安全だと思いましたが……遠くで見ていたあなたが一番強かったわけですね。仕方ありません、今回は部下を置いて退散させていただきます」
「粘液に捕まって動けない状態で何言ってんの?」
粘液が染み込んで完全に動けないかと思いきや、染み込んでない足元の部分から砂がこぼれ落ち、砂漠の砂と合流。
粘液にまみれた砂の身体を捨てて、砂漠の砂で新しい身体を構築する。
「え!? 粘液が染み込んで動けないんじゃ……?」
「どういうことですか、アルトラ様?」
「今見てたけど、足元の粘液がかかってないところから脱皮するように精霊の本体が出てったみたいだね。やるんなら足元含めて完全に粘液まみれにするべきだったわ」
詰めが甘かった。自由になってしまったと言うことは、砂塵になって簡単に逃げられる。
「では、私は一旦退散しますが、部下は後々引き取りにいきますので、丁重に扱ってください。まああなた方は慈悲深いようなのでそこは心配していません。それではまた」
その言葉を残し、砂の精霊は砂塵に巻かれてこの場から消えた。
アリサとレイアを拘束していた砂の鎖は、砂の精霊がこの場から消えた瞬間に効力を失いその場に崩れ落ちる。
部下を残して逃げたか。後で引き取りに来るって、今度は別の砂賊を連れてくるってことかしら? しばらくは警戒しておいた方が良いかも。
しかし、部下を大事にしているような言動を取る辺り、樹の国で対峙したブルーソーンのような冷酷さや極悪さは感じられない。 (第323話から第325話参照)
もっとも、一般市民である隊商を襲って金品強奪しているし、私たちを殺す気で襲いに来ているから、やっていることは他の盗賊団や強盗団と似たり寄ったりではあるが……
砂の精霊は逃げてしまったし、現時点ではこの場に居ても何か状況が変わることは無いでしょう。
「さて、逃げられちゃったらどうしよもないし、フレアハルトの居る所へ戻りましょうか」
「どういうことか説明してもらえる?」
「少々お待ちください。皆様!! 今すぐ岩陰に隠れてください!! ラクダも連れて岩陰に避難させてください!! 今すぐです!!」
急ぎ、この場にいる全員を岩陰に隠れさせるアリサ。
「何だと言うのだ! こんなどこか分からぬところへ連れてきて」
相変わらず悪態を付く商人。
「商人様、死にたくなければ言う通りにしてください。今から吹き飛ばされそうなほど強い風が発生します」
「はぁ? 何を言っておるのだ貴様」
「私たちの言う通りにしないと死んじゃうかもしれないけど、死にたいなら別に隠れなくても良いよ~?」
レイアは商人が死のうがどうなろうがどうでも良いという態度。
「早く言う通りにしてください! 本当に死にますよ!?」
対して、アリサは思いやりの心で強い語気と共に商人を睨みつける。
「う、うむ……わ、わかった……」
悪態を付いていた商人もその迫真の態度に気圧されたのか、岩陰に避難した。
「それで、改めてどういうことか教えてもらえる?」
その時、空間魔法で逃げてくる前に私たちが居た辺りから、フレアハルトの魔力の増大を感じた。
「この魔力の増大って……?」
「はい、今フレアハルト様がドラゴン形態に戻ったところです。まずはわたくしたちが今居た方向の上空をご覧ください」
そちらを見ると空に黒い影が見える。十キロも離れているとぼやけた薄っすら見える黒い点にしか見えないが、どことなくドラゴンのシルエットっぽい。
「まさかあの空にいる黒い点がフレアハルト?」
「はい」
その言葉の直後、私たちが居た辺りが光のドームに包まれた。
「何あの光!?」
「皆様!! 身を低くして伏せてください!!」
この場にいる全員に聞こえるように大声を張り上げるアリサ。
訳も分からず姿勢を低くした私たちのところへ、少し遅れてドゴゴゴゴココココォォォォ!!!という爆発音が届く。
「これは何の音!?」
「まだ終わりではありません。あ! 身を低くするよりもアルトラ様にバリアを張っていただければ――」
「そ、そういうことは早く言って!!」
急いで私たちと駱駝車、商人の隊商、捕まえた砂賊たちを囲むようにバリアで包む。
バリアを張った直後、地面が波打つほどの衝撃波と突風、そして無数の砂と岩石の礫がこの場を襲う。
「うわぁぁぁぁ!!」
「きゃああぁぁぁ!!」
「な、何なんだこの風はぁ!?」
バリアを張っても衝撃波による振動と地鳴りはそのまま伝わってくる。そのさまに商人と隊商メンバーたちは恐怖した声を上げる。
バリア外にある砂漠の砂が風で吹き飛ばされ、砂山が削られてどんどん低くなって消えていく。
風が止んだ頃には砂山がいくつも無くなって、平らな砂漠に……ところどころ岩肌まで見える。
バリアを張らなければどこかへ吹き飛ばされていたか、岩石の礫を喰らって怪我をしていたかもしれない。
これって……もしこの周辺に別の隊商が居たら……吹き飛ばされているかもしれない。あまり被害が無いことを祈る。
それはそうと――
「どどど、どういうこと!? フレアハルトは一体何をしたの!? 早く説明して!!」
アリサに急ぎ説明を促すと。
「まず何があったかから申しますと、フレアハルト様がご自身の最強の魔法【インフェルノ・ブレス】を放ちました」
「あのドーム状に光ったのがそう? あれが私が以前相殺したフレアハルトの魔法?」 (第42話参照)
「はい。その後に吹いた突風は、爆発によって生じた衝撃波です」
十キロも離れてるのに!?
あんなに強かったのか……あの時大地に落とさなくて良かった…… (第42話参照)
いや、それよりもこの二人が教えてくれなければあの場に居た全員消滅してたわ……
フレアハルトのブレスは私もダメージを受けるから、私も無事では済まなかっただろうし。
「何であんな状況に……?」
「フレアハルト様は、痛みに弱く元来怒りっぽい性格なのです」
「アルトラ様に出会ってからは大分丸くなったよね~」
「痛みに弱く怒りっぽい? まあ怒りっぽいのは何となく知ってるけど、あんなに硬いウロコで守られてるのに痛みに弱いの?」
「硬いウロコに守られているからこそ痛みに弱いのです。普段痛みなどとは無縁な生活をしているため、相手が強者だった場合、怪我をすることがあります。するとフレアハルト様は激昂してああいった行動に出ることが稀にあるのです」
「あ、だからさっき『ちょっと痛かった』程度でも不機嫌になったわけね」
そういえば、私と初めて会った時も怒らせてアレを使われたんだっけ。
「あなたたちはどうやって今までアレから逃れてたの?」
「私たちは飛べますし、キレそうな兆候があった時には空へ逃げてましたよ。熱にだって耐性がありますからから、直接【インフェルノ・ブレス】を喰らわなければ熱風くらいなら何ともないので」
「フレアハルト様がお怒りになられるほど強い方はそうそうおりませんので、そう何度もあることではありません。二百年お仕えしていますが、両手の指にで足りるくらいしかありませんし」
アルトレリアで目立った問題行動も無いし、普段は比較的無害だと思ってたのに、トンデモナイ爆弾抱えてた~~!!
「あ! アルトラ様~、何だか物凄い不安そうな表情になりましたけど、大丈夫ですよ? フレハル様がブチギレするのは敵とみなした相手だけですから。アルトレリアの住人相手に爆発することは無いですよ」
「ホ、ホントに? アルトレリアがある日突然焼け野原になることは無い?」
「無い無い」
「ありません」
この二人が『それは無い』と断言するならひとまず安心、かな?
「いや、でも今回あなたたちが教えてくれなかったら全員無事じゃなかったんだから、もし今後またアレを使うほどの緊急事態があると……」
「…………それは確かに……そうですね……」
「アルトラ様からフレハル様に言うのが一番良いんじゃないですか? 『周りに誰もいない時に限って使うように』とか、『もうちょっと冷静になって周りを見ろ』みたいな感じで。私たちが言うより言うこと聞きそうですし」
そんなんで大丈夫だろうか? やっぱりちょっと不安だ……
これについての解決法はやはり自身に自覚してもらう他無い。苦言を呈することになってしまうが、やはり言っておいた方が良いだろう。
「では、そろそろフレアハルト様も頭が冷えた頃だと思いますので、先ほどの地点まで帰りましょう………………いえ、お待ちください」
「近くに何か移動して来たね……」
言われてみれば、何か魔力の塊のようなものが移動して来た感覚があった。
直後に目の前の砂が盛り上がり、人型を成した。
「あなたは!?」
「フレハル様と戦ってた砂の精霊じゃん!」
数分前まで十キロ先でフレアハルトと戦闘していた砂の精霊が目の前に出現。
「いやはや、彼のあの炎にはビックリしました。砂鉄を集めて鉄製の盾を作ってガードしたのですが、一瞬で溶かされてしまったので急いで退避しました。ここへ移動して来なければ、今頃は砂漠の塵と消えていたでしょう」
「どうやってここへ移動して来たの? まだあの場所が光って何分も経っていないはずだけど……」
空間魔法の類?
いや、トリニアさんからは『精霊は生まれ持った自身の持つ属性以外は後天的に発現することは無い』と聞いている。
つまり、どんなに早く移動してきたとしても、空間魔法を使った可能性は皆無ということ。
「我ら砂の精霊には俗に言う『砂地転移法』というものがありまして、砂の中なら一瞬で何キロも移動できるのです」
砂地転移法? 何だかトライアさんたち木の精霊が使う植物転移法に似た名前ね。精霊は一瞬で移動できる移動術を持ってるのが普通なのかしら?
「それで、フレアハルトから逃げて来たのに、何でわざわざ私たちの前に現れたの?」
「いえ、部下たちを返してもらおうと思いましてね」
「フレアハルト様がこの場に居なければ取り返せるとでも思いましたか?」
「レッドドラゴンより強い者はそうそういないでしょう」
「舐められたもんだね。私たちもレッドドラゴンだよ?」
「おや、やはりそうでしたか。しかし彼ほどの脅威は感じませんね。すみませんがお二人を拘束して、部下は連れ帰らせてもらいます」
「この少量の砂でフレハル様と同じような拘束をするの? 量が少なさ過ぎて難しいと思うよ?」
確かに……さっきの突風で、私がバリアを張った範囲以外には砂が少なく、足元の砂の層はかなり薄い。一部では岩肌が見えているところさえある。
「ご心配には及びません」
砂の精霊が右手を掲げると岩と岩の隙間から大量の砂が噴出。
砂の鎖でアリサとレイアを拘束する。
「あっ、しまった! なにこの砂、物凄く重い!」
「なぜこれほど大量の砂が!?」
「地下にはあなた方が思うよりずっと大量の砂が埋蔵されているんですよ。さて、あなた方がドラゴンに戻る前に仲間たちを回収させてもらいます」
砂の精霊が周囲の砂を操り、砂賊たちを包み込もうとする。
「確かにわたくしたちは動けませんが、一つ誤算がありますよ?」
「ここにはフレハル様より強いヒトがいるからね!」
私はレイアのその言葉と同時に砂の精霊に対し、とある液体を浴びせかける。
「うっ! これは!? 何だこの粘性のある液体は!? 身体を砂に分解できない!!」
「私の能力の一つ、『樹液』だよ」
樹の国でマンイーターからコピーした能力。 (第320話参照)
あの時は強酸性の樹液しか出せないかと思ってたけど、私の意思である程度変化させられるらしい。今回は粘性のある樹液に変質させて浴びせかけた。
「くっ……」
「上手い具合に拘束させられたわ。砂に分解する能力は捕まえるのが厄介だからね」
砂に粘性の樹液が絡みついてしまい、身体を砂に変えることができなくなったらしい。
「これは……かなり分が悪いようですね。ドラゴンのお二人さえ拘束しておけば安全だと思いましたが……遠くで見ていたあなたが一番強かったわけですね。仕方ありません、今回は部下を置いて退散させていただきます」
「粘液に捕まって動けない状態で何言ってんの?」
粘液が染み込んで完全に動けないかと思いきや、染み込んでない足元の部分から砂がこぼれ落ち、砂漠の砂と合流。
粘液にまみれた砂の身体を捨てて、砂漠の砂で新しい身体を構築する。
「え!? 粘液が染み込んで動けないんじゃ……?」
「どういうことですか、アルトラ様?」
「今見てたけど、足元の粘液がかかってないところから脱皮するように精霊の本体が出てったみたいだね。やるんなら足元含めて完全に粘液まみれにするべきだったわ」
詰めが甘かった。自由になってしまったと言うことは、砂塵になって簡単に逃げられる。
「では、私は一旦退散しますが、部下は後々引き取りにいきますので、丁重に扱ってください。まああなた方は慈悲深いようなのでそこは心配していません。それではまた」
その言葉を残し、砂の精霊は砂塵に巻かれてこの場から消えた。
アリサとレイアを拘束していた砂の鎖は、砂の精霊がこの場から消えた瞬間に効力を失いその場に崩れ落ちる。
部下を残して逃げたか。後で引き取りに来るって、今度は別の砂賊を連れてくるってことかしら? しばらくは警戒しておいた方が良いかも。
しかし、部下を大事にしているような言動を取る辺り、樹の国で対峙したブルーソーンのような冷酷さや極悪さは感じられない。 (第323話から第325話参照)
もっとも、一般市民である隊商を襲って金品強奪しているし、私たちを殺す気で襲いに来ているから、やっていることは他の盗賊団や強盗団と似たり寄ったりではあるが……
砂の精霊は逃げてしまったし、現時点ではこの場に居ても何か状況が変わることは無いでしょう。
「さて、逃げられちゃったらどうしよもないし、フレアハルトの居る所へ戻りましょうか」
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