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第15章 火の国ルシファーランド強制招待編
第400話 vs砂賊 その4(フレアハルトvs砂賊頭目)
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「さて、では我々も始めるとしようか。ところで、貴様……ローブで身体を隠しているが精霊だよな?」
フレアハルトが砂賊の頭目に話しかけた言葉が聞こえて驚いてしまった。
「え!? 精霊!? 精霊って野盗やってないはずじゃ……?」
――『精霊で森賊をやっている者は見たことがない』――
それは樹の国の大森林でトリニアさんが語った言葉だ。 (第314話参照)
トリニアさん曰く、精霊は魔力さえあれば食べなくても死なないから食うに困って野盗に身を落とす必要性が無い、だから森賊になった精霊は見たことがない、そう言っていたのに……
あれは樹の国限定の話だったのだろうか? 国が変わると精霊の事情も変わってくる?
しかし、ここは火の下位精霊が沢山飛び交うほど魔力が潤沢に漂っている地域。砂賊になる理由は無い。
あとは……博物館で見た『悪霊化』する現象くらいだけど、あれは自我を失うらしいから、あのローブの人物には当てはまらない。それに高位精霊はほとんど悪霊化することはないと書いてあった。 (第273話参照)
「よく……気付きましたね」
外套を脱ぎ捨てる精霊らしき男 (?)。
「貴様の魔力の波長には揺らぎがあるのでな。そういうヤツは大抵精霊だと思っておる。我が住む町にも何人か居るが、全員魔力に揺らぎがあるからな」
へぇ~、そうなんだ。フレアハルトほど魔力感知は鋭くないから揺らぎがあるなんて知らなかった。
「貴様の部下は全員我の部下にやられてしまったようだが、良いのか?」
「問題ありません。あなたがたの慈悲深さのお蔭で全員生きてるようですので。あなたたちを倒した後に回収して帰ります」
「勝てると良いがな!」
と言いながらローブの男に対して拳を放った。
話してる最中に攻撃とは、ちょっと汚い!
が、拳はバサァッ!という音を立てて、精霊らしき男の身体を貫く。
「……貴様、砂の精霊か。物理的な攻撃ではダメージを与えられないようだな。良いだろう、精霊にダメージを与える方法はアルトラから聞いておる」
その言葉と共に、左腕のみドラゴン化させ、ウロコを引き抜く。
あ、身体の一部変化とか出来たんだ。
ウロコ?
いや、何か長い! どんだけ長いウロコなの!?
引き抜いたウロコは恐らく一メートルを超える。それを殴って槍の形に成形。ここに簡単ながら頑強な竜燐で作られた槍が出来上がった。
「ほう、面白い武器の作り方ですね。興味深いです」
「初めてやったが中々上手く出来たものだな。拳で戦うのも良いが、貴様相手ではリーチは長い方が良さそうだ。これに魔力を込めれば、貴様にダメージを与えらえる武器になるのだろう? 我のウロコから出来た槍だ、魔力の伝導率は中々のものだぞ。さあやられる覚悟はできたか?」
一呼吸を入れ、槍を繰り出すフレアハルト。
しかし、突いた部分に先に穴が開き、フレアハルトの繰り出した槍は虚しく空を突くことに。
「確かにその武器なら私にもダメージを与えられますね。もっとも……『当たれば』、ですがね」
「なるほど、我の突きより早く身体を分解するとは、随分戦い慣れしているのだな、ならばこれならどうだ!」
“初めて作った”の言葉通り、槍の腕自体も素人同然。同じ素人である私の目から見てもかなり酷い。力任せに縦、横と何度も振り回す。しかし技術を補って余りあるその速度と力が物凄い!
槍が一振りされる度に砂の精霊が細切れになり、風圧で砂がどんどん散っていく。
が、少し経つと元通りの姿に。
振り回しても無駄と見るや、今度は槍による連続突き。今度も型のようなものはなく、ただ単純に何度も突くだけだが、動きが物凄く早く、砂の精霊の身体に無数の穴が開いていく。
しかし、それも全て自ら身体の形を変えて開けた穴に過ぎず、故にダメージは恐らくゼロ。
「当たらなければどうということは無いのですよ」
「なるほど、素晴らしい身体操作だ」
「お褒めいただき光栄にございます。では、そろそろこちらから行きますよ!」
砂の精霊は右手を半透明の剣に変化させ、フレアハルトの横をかなりのスピードで通り抜けた。
「痛っつ!」
何あれ!? あのヒトって砂の精霊じゃないの!? あの透明の剣は何!?
「この砂漠の砂は珪砂を多く含んだ砂です。私の能力で鋭いガラスのようになっています。切れ味はそれなりなので気を付けてくださいね」
斬られたフレアハルトの脇腹からは血が滲み出ている。
さっきは、オーガに金属製の剣で斬られてすら傷を付けられなかったフレアハルトの身体に傷を残した!
ガラスなんて本来なら脆いものなのに、砂の精霊の手にかかれば硬質で且つ鋭いガラスとなるらしい。
「傷を付けられたのは久しぶりだ、少しムカついたぞ」
「しかし、この鋭いガラスの剣をもってしても、かすり傷程度しか付けられないようですね。あなたが一体何の種族かは分かりませんが、岩石系の種族並みの硬度がありますね。では少し攻撃方法を変えましょう」
砂の精霊はそう言うと、今作ったガラスの剣をノコギリのような形に変化させる。
「何だそれは? ノコギリ……のような形に見えるが?」
なんでも屋で建築現場に行くことも多く、フレアハルトには見知った形なのだろう。
「何と言う綺麗なノコギリだ。持って帰りたいくらいだな」
「残念ですがこのガラスのノコギリは、私の手を離れるとただの珪砂に戻ってしまいます。何せ珪砂を集めて形にしているだけですので。さあ今度はこちらが聞く番です、斬られる覚悟はできましたか? 今度のは一味違いますよ?」
直後にガラスで出来たノコリギの刃が高速回転し始め、チェーンソーのような性質を帯びた。
「なに!?」
フレアハルトは即座に自身の左腕のウロコを盾のような形に変化させ、チェーンソーのように動き回るガラスを受け止める。
バリバリギャリギャリという、ガラスとウロコが衝突する音。
「ぬうぅ……」
フレアハルトのウロコの硬度も相当なものだが、硬度の高いガラスのチェーンソーは割れた後、即時再生を繰り返すことによりウロコの盾の方がどんどんダメージを受け、あっという間に亀裂が入り砕け落ちていく。
ウロコの盾が完全に壊される前に、フレアハルトが深く息を吸い込んだ。
その直後、前方へ向けて広範囲に炎が吐き出される!
「くっ!」
たまらずその場を後ずさった砂の精霊。
自身に少し燃え移ったが、砂を巻き上げて消火。
「炎を吐いた!? その人間のような見た目で炎を吐く種族なのですか? 一体何の種族なのですか?」
「さてな、それは戦ってれば分かるかもしれぬぞ? しかし恐ろしい攻撃だな、あと少し炎を吐くのが遅ければ左腕はここに無かったかもしれん」
あら? 何だか劣勢じゃない?
『我一人で十分だ』なんて豪語してたのに。
まあ、確かに砂や水のような不定形の敵は、対処がかなり難しい。しかも高位の精霊ともなればその難しさにも拍車がかかると言うもの。
「フレアハルト~! お手伝いいる~!」
大分距離が離れているため大声で問うてみたものの――
「いらん! そこで見ておれ! 槍が効かぬなら効くような槍にするだけだ!」
次の瞬間、フレアハルトの持っている槍が燃え出した。
そして、身体を捻って一回転した後、燃える槍を砂の精霊の胴体目がけて振り抜く!
「ぐああぁぁっ!」
槍は砂の精霊を胴体から上下に分断。見た目の状況はさっきと変わっておらずダメージが無いように見えるが、今回は砂の精霊のうめき声が聞こえた。
フレアハルトの魔力で槍に燈った炎により槍の攻撃範囲が広がり、少量ながら砂にも燃え移るようになったためダメージを与えられる構造に変化したのだと思われる。
「これなら貴様の身体を構成する細かい砂を燃やしてダメージを与えられるろう?」
二撃目、三撃目を喰らった後、たまらず砂塵に変化して距離を取る。
「くっ……こちらも痛みを感じたのは久しぶりですよ……そんな炎の槍など見られては、あなたに近付くのは危険だ。もう形振り構うのをやめます」
砂の精霊が砂漠に手を突くと、砂の鎖がフレアハルトを拘束した!
「こ、これは!?」
「あなたを拘束してから戦闘不能にします。なに、なるべく死なないようにしておきますからご安心を。もっともその硬度を破るのに少々痛みがあるかもしれませんが」
「ふん、こんな砂ごときで拘束できるものか」
砂の鎖を引き千切ろうと腕を動かしたところ、砂の鎖は鉄のような黒い鎖へと変化した。
「何だこれは!? う、動けぬ!!」
「先ほどは珪砂でしたが、今度は砂鉄を集めて鉄に近い硬度に変質させました。そう簡単には壊せません。さあ戦闘不能になってもらいます」
そして今度は、珪砂がドリルの形に変化する。世にも珍しい透明のドリル。
少し間を置いて、ギュイィィィンという音を立てながら回転し始めた。
「ちょ、ちょっとアリサ、レイア、あれは流石にピンチなんじゃないの!?」
あんなので腹を抉られたら、流石にフレアハルトでも風穴が開いてしまう!
「ねえ、二人とも!」
と周囲を見回したところ、既に私の隣には居ない!
前方を見るとフレアハルトへと駆け寄って行くのが見えた。
「二人とも近付くな! 下がれ! 我一人で十分だと言ったはずだ! そこで見ておれ!」
「し、しかし……」
ピンチを救いに行ったはずが、それを咎められ困惑する二人。
「強がりですか? 降参して私の部下を解放するならここで止めて拘束を解きますが」
「冗談を言うな。悪人に許しを請う性格は持ち合わせておらぬ。それに、まだ我は本気を出しておらんからな!」
「降参、するつもりはありませんか?」
「無いな、この程度の鎖なら破ってくれる! ぬああぁぁぁ!!」
「では、残念ですがドリルの餌食になってください」
回転するガラスのドリルがフレアハルトの腹部に到達する前に、先ほど同様に腹部にウロコの盾を作り出してガードするも、一点突破のドリルには簡単に砕かれてしまった。
そして腹部を抉り出した。
「ぐわぁぁぁぁっ!!」
「「フレハル様っ!!」」
「くっ……おのれ……貴様! 図に乗るなよ! もう我も優しくしてはおれんぞ! うおおおぉぉぉぉぉ!!」
咆哮と共にフレアハルトに魔力が集中していくのを感じる。
その様を見て何やらアリサとレイアがソワソワしだした。
「ね、ねえ……あ、あれヤバイよ……アリサ!」
「そうですね……」
なぜかやられているフレアハルトよりも別のことを心配する二人。
まだ拘束されているフレアハルトを放ったらかしにして急いでこちらへと戻って来た。
「ふ、二人とも何で帰って来たの!? フレアハルトは大丈夫なの!?」
「そのことなのですが、アルトラ様! 今すぐにここに居るもの全員を空間魔法で移動させてください! 安全を考え、ここから十キロ以上離れたところへ!」
「え? え? 何で急にそんなことを? どういうこと?」
「フレハル様かなり怒ってるから、きっとこの辺り一帯が焼け野原になっちゃうと思います! そのままここに居たらみんな焼け死んじゃいますよ!」
「焼け死ぬ!?」
私には何のことやら分からないが、この二人の様子を見ると緊急事態に直面しているらしい。
「さあ早く!」
「は、はい!」
訳も分からず言われるがままに【強制転移】で、この場にいる全員を十キロ離れたところへ強制的に空間転移させた。
フレアハルトが砂賊の頭目に話しかけた言葉が聞こえて驚いてしまった。
「え!? 精霊!? 精霊って野盗やってないはずじゃ……?」
――『精霊で森賊をやっている者は見たことがない』――
それは樹の国の大森林でトリニアさんが語った言葉だ。 (第314話参照)
トリニアさん曰く、精霊は魔力さえあれば食べなくても死なないから食うに困って野盗に身を落とす必要性が無い、だから森賊になった精霊は見たことがない、そう言っていたのに……
あれは樹の国限定の話だったのだろうか? 国が変わると精霊の事情も変わってくる?
しかし、ここは火の下位精霊が沢山飛び交うほど魔力が潤沢に漂っている地域。砂賊になる理由は無い。
あとは……博物館で見た『悪霊化』する現象くらいだけど、あれは自我を失うらしいから、あのローブの人物には当てはまらない。それに高位精霊はほとんど悪霊化することはないと書いてあった。 (第273話参照)
「よく……気付きましたね」
外套を脱ぎ捨てる精霊らしき男 (?)。
「貴様の魔力の波長には揺らぎがあるのでな。そういうヤツは大抵精霊だと思っておる。我が住む町にも何人か居るが、全員魔力に揺らぎがあるからな」
へぇ~、そうなんだ。フレアハルトほど魔力感知は鋭くないから揺らぎがあるなんて知らなかった。
「貴様の部下は全員我の部下にやられてしまったようだが、良いのか?」
「問題ありません。あなたがたの慈悲深さのお蔭で全員生きてるようですので。あなたたちを倒した後に回収して帰ります」
「勝てると良いがな!」
と言いながらローブの男に対して拳を放った。
話してる最中に攻撃とは、ちょっと汚い!
が、拳はバサァッ!という音を立てて、精霊らしき男の身体を貫く。
「……貴様、砂の精霊か。物理的な攻撃ではダメージを与えられないようだな。良いだろう、精霊にダメージを与える方法はアルトラから聞いておる」
その言葉と共に、左腕のみドラゴン化させ、ウロコを引き抜く。
あ、身体の一部変化とか出来たんだ。
ウロコ?
いや、何か長い! どんだけ長いウロコなの!?
引き抜いたウロコは恐らく一メートルを超える。それを殴って槍の形に成形。ここに簡単ながら頑強な竜燐で作られた槍が出来上がった。
「ほう、面白い武器の作り方ですね。興味深いです」
「初めてやったが中々上手く出来たものだな。拳で戦うのも良いが、貴様相手ではリーチは長い方が良さそうだ。これに魔力を込めれば、貴様にダメージを与えらえる武器になるのだろう? 我のウロコから出来た槍だ、魔力の伝導率は中々のものだぞ。さあやられる覚悟はできたか?」
一呼吸を入れ、槍を繰り出すフレアハルト。
しかし、突いた部分に先に穴が開き、フレアハルトの繰り出した槍は虚しく空を突くことに。
「確かにその武器なら私にもダメージを与えられますね。もっとも……『当たれば』、ですがね」
「なるほど、我の突きより早く身体を分解するとは、随分戦い慣れしているのだな、ならばこれならどうだ!」
“初めて作った”の言葉通り、槍の腕自体も素人同然。同じ素人である私の目から見てもかなり酷い。力任せに縦、横と何度も振り回す。しかし技術を補って余りあるその速度と力が物凄い!
槍が一振りされる度に砂の精霊が細切れになり、風圧で砂がどんどん散っていく。
が、少し経つと元通りの姿に。
振り回しても無駄と見るや、今度は槍による連続突き。今度も型のようなものはなく、ただ単純に何度も突くだけだが、動きが物凄く早く、砂の精霊の身体に無数の穴が開いていく。
しかし、それも全て自ら身体の形を変えて開けた穴に過ぎず、故にダメージは恐らくゼロ。
「当たらなければどうということは無いのですよ」
「なるほど、素晴らしい身体操作だ」
「お褒めいただき光栄にございます。では、そろそろこちらから行きますよ!」
砂の精霊は右手を半透明の剣に変化させ、フレアハルトの横をかなりのスピードで通り抜けた。
「痛っつ!」
何あれ!? あのヒトって砂の精霊じゃないの!? あの透明の剣は何!?
「この砂漠の砂は珪砂を多く含んだ砂です。私の能力で鋭いガラスのようになっています。切れ味はそれなりなので気を付けてくださいね」
斬られたフレアハルトの脇腹からは血が滲み出ている。
さっきは、オーガに金属製の剣で斬られてすら傷を付けられなかったフレアハルトの身体に傷を残した!
ガラスなんて本来なら脆いものなのに、砂の精霊の手にかかれば硬質で且つ鋭いガラスとなるらしい。
「傷を付けられたのは久しぶりだ、少しムカついたぞ」
「しかし、この鋭いガラスの剣をもってしても、かすり傷程度しか付けられないようですね。あなたが一体何の種族かは分かりませんが、岩石系の種族並みの硬度がありますね。では少し攻撃方法を変えましょう」
砂の精霊はそう言うと、今作ったガラスの剣をノコギリのような形に変化させる。
「何だそれは? ノコギリ……のような形に見えるが?」
なんでも屋で建築現場に行くことも多く、フレアハルトには見知った形なのだろう。
「何と言う綺麗なノコギリだ。持って帰りたいくらいだな」
「残念ですがこのガラスのノコギリは、私の手を離れるとただの珪砂に戻ってしまいます。何せ珪砂を集めて形にしているだけですので。さあ今度はこちらが聞く番です、斬られる覚悟はできましたか? 今度のは一味違いますよ?」
直後にガラスで出来たノコリギの刃が高速回転し始め、チェーンソーのような性質を帯びた。
「なに!?」
フレアハルトは即座に自身の左腕のウロコを盾のような形に変化させ、チェーンソーのように動き回るガラスを受け止める。
バリバリギャリギャリという、ガラスとウロコが衝突する音。
「ぬうぅ……」
フレアハルトのウロコの硬度も相当なものだが、硬度の高いガラスのチェーンソーは割れた後、即時再生を繰り返すことによりウロコの盾の方がどんどんダメージを受け、あっという間に亀裂が入り砕け落ちていく。
ウロコの盾が完全に壊される前に、フレアハルトが深く息を吸い込んだ。
その直後、前方へ向けて広範囲に炎が吐き出される!
「くっ!」
たまらずその場を後ずさった砂の精霊。
自身に少し燃え移ったが、砂を巻き上げて消火。
「炎を吐いた!? その人間のような見た目で炎を吐く種族なのですか? 一体何の種族なのですか?」
「さてな、それは戦ってれば分かるかもしれぬぞ? しかし恐ろしい攻撃だな、あと少し炎を吐くのが遅ければ左腕はここに無かったかもしれん」
あら? 何だか劣勢じゃない?
『我一人で十分だ』なんて豪語してたのに。
まあ、確かに砂や水のような不定形の敵は、対処がかなり難しい。しかも高位の精霊ともなればその難しさにも拍車がかかると言うもの。
「フレアハルト~! お手伝いいる~!」
大分距離が離れているため大声で問うてみたものの――
「いらん! そこで見ておれ! 槍が効かぬなら効くような槍にするだけだ!」
次の瞬間、フレアハルトの持っている槍が燃え出した。
そして、身体を捻って一回転した後、燃える槍を砂の精霊の胴体目がけて振り抜く!
「ぐああぁぁっ!」
槍は砂の精霊を胴体から上下に分断。見た目の状況はさっきと変わっておらずダメージが無いように見えるが、今回は砂の精霊のうめき声が聞こえた。
フレアハルトの魔力で槍に燈った炎により槍の攻撃範囲が広がり、少量ながら砂にも燃え移るようになったためダメージを与えられる構造に変化したのだと思われる。
「これなら貴様の身体を構成する細かい砂を燃やしてダメージを与えられるろう?」
二撃目、三撃目を喰らった後、たまらず砂塵に変化して距離を取る。
「くっ……こちらも痛みを感じたのは久しぶりですよ……そんな炎の槍など見られては、あなたに近付くのは危険だ。もう形振り構うのをやめます」
砂の精霊が砂漠に手を突くと、砂の鎖がフレアハルトを拘束した!
「こ、これは!?」
「あなたを拘束してから戦闘不能にします。なに、なるべく死なないようにしておきますからご安心を。もっともその硬度を破るのに少々痛みがあるかもしれませんが」
「ふん、こんな砂ごときで拘束できるものか」
砂の鎖を引き千切ろうと腕を動かしたところ、砂の鎖は鉄のような黒い鎖へと変化した。
「何だこれは!? う、動けぬ!!」
「先ほどは珪砂でしたが、今度は砂鉄を集めて鉄に近い硬度に変質させました。そう簡単には壊せません。さあ戦闘不能になってもらいます」
そして今度は、珪砂がドリルの形に変化する。世にも珍しい透明のドリル。
少し間を置いて、ギュイィィィンという音を立てながら回転し始めた。
「ちょ、ちょっとアリサ、レイア、あれは流石にピンチなんじゃないの!?」
あんなので腹を抉られたら、流石にフレアハルトでも風穴が開いてしまう!
「ねえ、二人とも!」
と周囲を見回したところ、既に私の隣には居ない!
前方を見るとフレアハルトへと駆け寄って行くのが見えた。
「二人とも近付くな! 下がれ! 我一人で十分だと言ったはずだ! そこで見ておれ!」
「し、しかし……」
ピンチを救いに行ったはずが、それを咎められ困惑する二人。
「強がりですか? 降参して私の部下を解放するならここで止めて拘束を解きますが」
「冗談を言うな。悪人に許しを請う性格は持ち合わせておらぬ。それに、まだ我は本気を出しておらんからな!」
「降参、するつもりはありませんか?」
「無いな、この程度の鎖なら破ってくれる! ぬああぁぁぁ!!」
「では、残念ですがドリルの餌食になってください」
回転するガラスのドリルがフレアハルトの腹部に到達する前に、先ほど同様に腹部にウロコの盾を作り出してガードするも、一点突破のドリルには簡単に砕かれてしまった。
そして腹部を抉り出した。
「ぐわぁぁぁぁっ!!」
「「フレハル様っ!!」」
「くっ……おのれ……貴様! 図に乗るなよ! もう我も優しくしてはおれんぞ! うおおおぉぉぉぉぉ!!」
咆哮と共にフレアハルトに魔力が集中していくのを感じる。
その様を見て何やらアリサとレイアがソワソワしだした。
「ね、ねえ……あ、あれヤバイよ……アリサ!」
「そうですね……」
なぜかやられているフレアハルトよりも別のことを心配する二人。
まだ拘束されているフレアハルトを放ったらかしにして急いでこちらへと戻って来た。
「ふ、二人とも何で帰って来たの!? フレアハルトは大丈夫なの!?」
「そのことなのですが、アルトラ様! 今すぐにここに居るもの全員を空間魔法で移動させてください! 安全を考え、ここから十キロ以上離れたところへ!」
「え? え? 何で急にそんなことを? どういうこと?」
「フレハル様かなり怒ってるから、きっとこの辺り一帯が焼け野原になっちゃうと思います! そのままここに居たらみんな焼け死んじゃいますよ!」
「焼け死ぬ!?」
私には何のことやら分からないが、この二人の様子を見ると緊急事態に直面しているらしい。
「さあ早く!」
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