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第15章 火の国ルシファーランド強制招待編
第397話 vs砂賊 その1
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またしばらく進んだところ、今度は何やら言い争うような声が聞こえる。
言い争いが聞こえる上空には、妖精が作った周囲を照らす光の球が浮いており、すぐにそこが争いの場だと分かった。
「こんな砂漠の真ん中で争っておるのか……?」
「まだ町の手前ですが、砂賊に襲われたのかもしれませんね」
よく見ると、争いの中心に居るのは見覚えのある豪奢な駱駝車。
先に砂漠の宿を出発した、あの感じ悪い商人の車だ!
周囲の地面には護衛や隊商のメンバーらしきヒトが転がっている。
砂賊らしき相手は見たところ十五人から二十人の間くらい。
ここからだとまだよく見えないが、大きめの種族が多いように見受けられる。
「あれ? よく見たら商人の護衛みんなやられちゃってない?」
護衛たちのあの屈強そうな体は見掛け倒しだったのか?
宿では『この商人腹立つ!』、『ざまぁしたいわ』なんて悪いこと考えたけど、いざその場面を目にするととてもそのまま見捨てて先を急ごうという心情にはなれない。
転がってる護衛のヒトたちも死んでさえなければまだ回復してやれるんだけれど……
と、考えていたところそんな心情を打ち消すような声が聞こえた。
「おい! 通りかかったそこのお前たち! ワ、ワシを助けろ!」
例のナマズ髭の商人がこちらに向かって叫ぶ。
「ゲッ、あんなこと言われたら、今度はこっちがターゲットになるじゃない……」
まあ駱駝車の上に明かりを浮かべてる時点で、敵もこちらの接近には気付いてるだろうけど……
「金は出す! このワシをさっさと助けるんだ!」
…………前言撤回……いや、口には出してないから前考撤回かな?
助けられる側にも態度ってもんがあるわ。態度が腹立つ。
それにしても、アイツ、私たちが宿でトラブルになった相手だって気付いてない?
砂賊が商人のすぐそこまで迫る。
「うるさいおっさんだな、もう諦めて物資を全部寄越しなよ」
「ひぃぃ、だ、誰でも良い! は、早く助けてくれーー!」
立っている護衛はもう二人しかいない。
屈強な護衛六人を一人の脱落も無く倒してる辺り、さっきサンドニオさんが言ってた例の脅威度が高い方の砂賊かもしれない。
先ほどより近付いてみたら詳しいことまでは分からないが、容姿で大体の種族予想くらいはできそうだ。
額に二本のツノのある青いゴブリンらしき亜人が四人、チーターっぽいのと、ヒョウっぽいのと、毛の無い種類の猫らしき猫型の獣人が三人、ライオン面獣人が一人、カバ面獣人が一人、豚面のオークが一人、樹の国で戦ったオルガナ (※)ってオーガにソックリな容姿のヤツが二人、身長五メートルほどありそうな小巨人が一人、レドナルドさんにソックリな多分火トカゲ爬虫人族が一人。
ゴブリンらしき亜人以外は多少大きめな種族が多いみたいだ。この砂賊団のほとんどがフレアハルトより大きい。
カバの獣人なんて初めて見た。今までのどの創作物でも見たことないわ。砂漠なんかにいて干からびないかと、敵ながらちょっと心配になる。
それと……最後に奥に居るローブを纏った比較的小柄な人物。ゴブリンよりは大きいが、人間の平均身長くらいの大きさしかない。顔は……フードに隠れて見えないな。
砂賊団に大きめの種族が多い中、コイツが一番異様で気になる。
(※オルガナ:特に重要人物ではないのでスルーでOK。詳しく知りたい方は第323話参照)
「アルトラ、助けてやらんで良いのか? お主のことだから、あんなのが襲われてても首を突っ込むのだろう? どうせあの商人が終わったら次はこっちが狙われるぞ?」
「そうだね、助けてあげて。三人ともお願いできる?」
「うむ、任せておけ」
「わっかりましたー!」
「了解しました」
ドラゴン三人が出撃するなら、今回私の出番は無いだろ。
ただ、少し気になるのは砂賊の中に一人だけ、私にも分かるほど異様に魔力が高い者が居ること。多分この砂賊団の頭目なんだろうけど。
まあ、あの程度ならフレアハルトが何とかしてくれるでしょう。
「あの、我々はどうすれば……? 一緒に戦いますか?」
予想しなかったサンドニオさんの言葉に、
「た、戦えるんですか?」
大トカゲの時や盗賊鷹の時のあの狼狽えようを見ると、戦闘は苦手かと思っていたが。
「ま、まあ弾避け程度にはなると思いますが……」
それは戦力にならないのと同じかな。
「私たちはここで見物してれば良いんじゃないですかね? 三人が全部倒してくれますよ」
「相手は二十人近くいますよ!? 屈強な商人の護衛も倒されてますし、敵方には巨人までいます! あんなのに攻撃されたらひとたまりもないんじゃ……」
「大丈夫ですよ。彼ら三人は一騎当千ですから。それにサンドニオさんたちも正体を見ましたよね? レッドドラゴンに勝てる種族なんてそうそういません」
「それはそうですが…………ところで、アルトラ殿が戦っているところは一度も見ておりませんが、あなたは非戦闘員なのですか?」
と言う会話を隣で聞いていたレイアが一言。
「とんでもないですよ! 四人の中でアルトラ様が一番強いですから! そのヒトの近くにいるのが一番安全です!」
「ほ、本当ですか!?」
「ドラゴンより強い!?」
「ええ、まあ……彼ら・彼女らのように重い物持ったりできるわけではないですけど……」
「ではちょっと行って片付けてくる」
「お願いね」
◇
フレアハルトたちが砂賊たちに接近していく中、まず最初に反応を示したのは青いゴブリンだった。
「なんだぁ? てめぇらは? 砂賊とのいざこざにわざわざ首突っ込んでくるとは良い度胸だな!」
「我としては本意ではないのだが、そこの横柄な態度の商人を助けに来たのだ。襲われてる者を見て見ぬフリして進むことができない我が友の性格を汲んでな」
「おお! 貴様は昨日の小娘のお付きではないか! よく来てくれたな!」
商人は助太刀されたことに、一応の感謝をしているようではある。
「たった三人でか? 商人の護衛はそこらに転がってるのが見えないのか? 女二人連れで助太刀に来て、何とかなるとでも思ってんのかぁ?」
「思っておるとも、我一人でもお釣りが来るわ」
「ふざけんなよ!」
という声と共に、突然不意打ち気味に持っていた剣をフレアハルトの顔めがけて振り抜……こうとしたが、左手の人差し指と中指で挟んで易々と受け止めた。
「なぁっ!? う、動かねぇ!! 何だコイツの力は!? は、離せ!!」
「死にたくないやつはとっとと失せた方が身のためだぞ?」
「バカめ! 隙だらけだ! 胴体がガラ空きだぞ!」
フレアハルトが一人に関わっていたところ、別の方向から来たオーガ風の砂賊がフレハルトの胴体に向けて持っていた剣で一閃。
が……ガキンッという金属音に近い音を立てただけで、大きな傷は無さそう?
「か、硬ってぇ……よ、鎧か? いやそんな手ごたえじゃなかった、何だコイツの身体……」
「貴様……ちょっと痛かったではないか」
フレアハルトは少し不機嫌になりながら、おもむろにオーガに近付き、空いている右拳をオーガの胸辺りに向かって振り抜く。
その拳の衝撃によりオーガは勢い良く吹き飛ばされ、直線状にあった砂山を二つ四散させ、荒野の砂漠に転がって気絶した。
「いぃぃ!? 何なんだお前!? その力は!?」
「ああ、すまぬな、後ろから攻撃されてちょっと痛かったから加減するのを忘れておった。死んでなければ良いがな」
多くの砂賊が、吹き飛ばされたオーガの方向を見て唖然としている。
そんな中、彼ら砂賊とは別に、オーガが吹っ飛んだのを目の当たりにして驚いていた人物がもう一人居た。
私である。
「………………今まで戦ってる姿を直接見たことなかったけど、フレアハルトってあんなに強かったの? 私アイツがぶん回した尻尾喰らったけど、あそこまで綺麗に吹き飛ばなかったけど……」 (第42話参照)
もしかして私って本当に体重物凄く重いのかしら……?
いや、今まで重さで床を踏み抜いたりとかしたことはない。筋力強化魔法で防御も上がって衝撃も相殺していたと考えよう。この見た目でそんなに重いはずがない!
私はフレアハルトのことを相当侮った目で見ていたのかもしれない。今まで彼のマヌケな一面ばかり見ていたから……
それにしてもフレアハルトもウロコが相当硬いみたいね。並の亜人じゃ致命傷を与えるのは難しいかも。
「ふむ、体格の良い砂賊が多いようだな。逃がすとまた別の者を襲うかもしれんし、無抵抗の者は逃がしてやろうかと思ったがやはり全員叩きのめすか。まとめてかかって来ても良いぞ?」
しかし、今オーガが吹き飛ばされたのを目の当たりにしているため、たじろぐ砂賊の面々。
「フレハル様ぁ~、せっかく久々に暴れられると思ったのに、私たちの出番が無いじゃないですかぁ~」
「それもそうだな、では我はあの奥にいる頭目を倒すから、雑魚はお前たち二人に任せる」
私よりも魔力感知に長けているフレアハルトにも、当然頭目の異様さは分かっているらしい。
取り巻きはアリサとレイアに任せて、奥の頭目に狙いを付けた。
「よっしゃ、来~い!!」
「いつでもどうぞ」
アリサとレイアが臨戦態勢になる。
「お、男はお頭に任せて、女の方からやっちまえ!」
その掛け声とともに真っ先に動いたのは青いゴブリン四人。
素早い動きで二人の周囲を動いて撹乱し、持っていた剣でレイアを、アリサを斬り付けた。
しかし、レイア、アリサ共に腕のウロコを変形させて刃を防ぐ。
間髪入れずに、二人ともがカウンターで息の合った回し蹴りをお見舞い。
ゴブリン四人は二人ずつ遠くへ吹き飛ばされ、そのまま気絶。
あまりにも簡単に気絶させたように見えるが、この蹴りは五十メートルを跳躍できる剛脚から放たれた蹴りである。小鬼とも言えるような体型のゴブリンでは内臓破裂しててもおかしくない。
「ありゃ? ちょっとやり過ぎちゃったかな?」
「多少手加減したつもりでしたが、種族ごとにどの程度耐久力があるか分からないので加減が難しいですね」
「こんの女ぁ!!」
次に襲ってきた二人の猫型獣人の爪による攻撃を二人ともヒラリと躱し、アリサ、レイア共にそれぞれに向かって来た獣人の腕を掴む。
二人同時に示し合わせたかのように、そのまま獣人の片腕を持ってジャイアントスイングのように回転、勢いが付いたところを奥で機を窺っていた三人目の猫型獣人に向けて投げつけた!
「「「え? わああああ!!」」」
悲鳴と共に、三人の猫型獣人が勢い良く激突。三人ともそのままぐったりして動かなくなった。
「二人同時にジャイアントスイングするなんて……何て息の合ったコンビプレイ!」
二百年以上一緒に居ると、ここまで息が合うものなのね!
「この女ども……あの男に負けず劣らずやるようだな……」
「それなら俺たちが相手だ!」
満を持して登場の重量級獣人三人とオーガ、小巨人、火トカゲ爬虫人。
「どうやら警戒すべき相手のようなので、卑怯かもしれないが三対一ずつで行かせてもらうぞ!」
「どうぞ、お好きになさってください」
「何対何でも良いよっ!」
『アリサ vs ライオン獣人&オーク&ミドルジャイアント』、『レイア vs カバ獣人&オーガ&サラマンディア』の図式に。
三対一が『卑怯』などと考えるところを見ると、砂賊っぽい考え方じゃない気がする。樹の国で対峙した森賊はもっと残酷な考え方だったけど、これも地域ごとの考え方の違いってだけかしら?
獣人たちとオーガが大きいため、対比で二人が小さく見える。
大きさで言えば、どう見たって勝てそうもない。
特にライオン獣人とカバ獣人は咬合力が強い、いくら彼女らのウロコが強靭でも耐えられない可能性もある。
持っている武器もみんなそれ相応に大きい。ライオン獣人とオーガと火トカゲ爬虫人は大剣、オークは巨大な鎚、カバ獣人は大斧を持っている。
小巨人だけ素手のようだ。
「二人ともお手伝いは必要?」
一応助太刀が必要かどうか聞いてみた私の呼びかけに対し――
「問題ありません」
「必要ないで~す!」
――と、即座に返答された。
「あ、あの砂賊たち大きくて強そうですが、彼女らは本当に大丈夫なんですか……?」
サンドニオさんが心配そうな声で私に問いかける。
「彼女らが大丈夫だって言うからには大丈夫なんでしょう。ピンチになるまで見守りましょうか」
面子を見た限りには、ドラゴンより強そうなのはいないし、きっとピンチは訪れないだろう。
フレアハルトと砂賊の頭目の方をチラりと見ると、まだ戦おうとする様子は無い。双方共に自分の部下の行く末を見守っているように見える。
あのローブの頭目、相手を出し抜こうとする素振りを見せない辺り、盗賊団には珍しいタイプだ。
それとも……自身の部下が全員やられても私たちに勝てる自信があるということだろうか?
言い争いが聞こえる上空には、妖精が作った周囲を照らす光の球が浮いており、すぐにそこが争いの場だと分かった。
「こんな砂漠の真ん中で争っておるのか……?」
「まだ町の手前ですが、砂賊に襲われたのかもしれませんね」
よく見ると、争いの中心に居るのは見覚えのある豪奢な駱駝車。
先に砂漠の宿を出発した、あの感じ悪い商人の車だ!
周囲の地面には護衛や隊商のメンバーらしきヒトが転がっている。
砂賊らしき相手は見たところ十五人から二十人の間くらい。
ここからだとまだよく見えないが、大きめの種族が多いように見受けられる。
「あれ? よく見たら商人の護衛みんなやられちゃってない?」
護衛たちのあの屈強そうな体は見掛け倒しだったのか?
宿では『この商人腹立つ!』、『ざまぁしたいわ』なんて悪いこと考えたけど、いざその場面を目にするととてもそのまま見捨てて先を急ごうという心情にはなれない。
転がってる護衛のヒトたちも死んでさえなければまだ回復してやれるんだけれど……
と、考えていたところそんな心情を打ち消すような声が聞こえた。
「おい! 通りかかったそこのお前たち! ワ、ワシを助けろ!」
例のナマズ髭の商人がこちらに向かって叫ぶ。
「ゲッ、あんなこと言われたら、今度はこっちがターゲットになるじゃない……」
まあ駱駝車の上に明かりを浮かべてる時点で、敵もこちらの接近には気付いてるだろうけど……
「金は出す! このワシをさっさと助けるんだ!」
…………前言撤回……いや、口には出してないから前考撤回かな?
助けられる側にも態度ってもんがあるわ。態度が腹立つ。
それにしても、アイツ、私たちが宿でトラブルになった相手だって気付いてない?
砂賊が商人のすぐそこまで迫る。
「うるさいおっさんだな、もう諦めて物資を全部寄越しなよ」
「ひぃぃ、だ、誰でも良い! は、早く助けてくれーー!」
立っている護衛はもう二人しかいない。
屈強な護衛六人を一人の脱落も無く倒してる辺り、さっきサンドニオさんが言ってた例の脅威度が高い方の砂賊かもしれない。
先ほどより近付いてみたら詳しいことまでは分からないが、容姿で大体の種族予想くらいはできそうだ。
額に二本のツノのある青いゴブリンらしき亜人が四人、チーターっぽいのと、ヒョウっぽいのと、毛の無い種類の猫らしき猫型の獣人が三人、ライオン面獣人が一人、カバ面獣人が一人、豚面のオークが一人、樹の国で戦ったオルガナ (※)ってオーガにソックリな容姿のヤツが二人、身長五メートルほどありそうな小巨人が一人、レドナルドさんにソックリな多分火トカゲ爬虫人族が一人。
ゴブリンらしき亜人以外は多少大きめな種族が多いみたいだ。この砂賊団のほとんどがフレアハルトより大きい。
カバの獣人なんて初めて見た。今までのどの創作物でも見たことないわ。砂漠なんかにいて干からびないかと、敵ながらちょっと心配になる。
それと……最後に奥に居るローブを纏った比較的小柄な人物。ゴブリンよりは大きいが、人間の平均身長くらいの大きさしかない。顔は……フードに隠れて見えないな。
砂賊団に大きめの種族が多い中、コイツが一番異様で気になる。
(※オルガナ:特に重要人物ではないのでスルーでOK。詳しく知りたい方は第323話参照)
「アルトラ、助けてやらんで良いのか? お主のことだから、あんなのが襲われてても首を突っ込むのだろう? どうせあの商人が終わったら次はこっちが狙われるぞ?」
「そうだね、助けてあげて。三人ともお願いできる?」
「うむ、任せておけ」
「わっかりましたー!」
「了解しました」
ドラゴン三人が出撃するなら、今回私の出番は無いだろ。
ただ、少し気になるのは砂賊の中に一人だけ、私にも分かるほど異様に魔力が高い者が居ること。多分この砂賊団の頭目なんだろうけど。
まあ、あの程度ならフレアハルトが何とかしてくれるでしょう。
「あの、我々はどうすれば……? 一緒に戦いますか?」
予想しなかったサンドニオさんの言葉に、
「た、戦えるんですか?」
大トカゲの時や盗賊鷹の時のあの狼狽えようを見ると、戦闘は苦手かと思っていたが。
「ま、まあ弾避け程度にはなると思いますが……」
それは戦力にならないのと同じかな。
「私たちはここで見物してれば良いんじゃないですかね? 三人が全部倒してくれますよ」
「相手は二十人近くいますよ!? 屈強な商人の護衛も倒されてますし、敵方には巨人までいます! あんなのに攻撃されたらひとたまりもないんじゃ……」
「大丈夫ですよ。彼ら三人は一騎当千ですから。それにサンドニオさんたちも正体を見ましたよね? レッドドラゴンに勝てる種族なんてそうそういません」
「それはそうですが…………ところで、アルトラ殿が戦っているところは一度も見ておりませんが、あなたは非戦闘員なのですか?」
と言う会話を隣で聞いていたレイアが一言。
「とんでもないですよ! 四人の中でアルトラ様が一番強いですから! そのヒトの近くにいるのが一番安全です!」
「ほ、本当ですか!?」
「ドラゴンより強い!?」
「ええ、まあ……彼ら・彼女らのように重い物持ったりできるわけではないですけど……」
「ではちょっと行って片付けてくる」
「お願いね」
◇
フレアハルトたちが砂賊たちに接近していく中、まず最初に反応を示したのは青いゴブリンだった。
「なんだぁ? てめぇらは? 砂賊とのいざこざにわざわざ首突っ込んでくるとは良い度胸だな!」
「我としては本意ではないのだが、そこの横柄な態度の商人を助けに来たのだ。襲われてる者を見て見ぬフリして進むことができない我が友の性格を汲んでな」
「おお! 貴様は昨日の小娘のお付きではないか! よく来てくれたな!」
商人は助太刀されたことに、一応の感謝をしているようではある。
「たった三人でか? 商人の護衛はそこらに転がってるのが見えないのか? 女二人連れで助太刀に来て、何とかなるとでも思ってんのかぁ?」
「思っておるとも、我一人でもお釣りが来るわ」
「ふざけんなよ!」
という声と共に、突然不意打ち気味に持っていた剣をフレアハルトの顔めがけて振り抜……こうとしたが、左手の人差し指と中指で挟んで易々と受け止めた。
「なぁっ!? う、動かねぇ!! 何だコイツの力は!? は、離せ!!」
「死にたくないやつはとっとと失せた方が身のためだぞ?」
「バカめ! 隙だらけだ! 胴体がガラ空きだぞ!」
フレアハルトが一人に関わっていたところ、別の方向から来たオーガ風の砂賊がフレハルトの胴体に向けて持っていた剣で一閃。
が……ガキンッという金属音に近い音を立てただけで、大きな傷は無さそう?
「か、硬ってぇ……よ、鎧か? いやそんな手ごたえじゃなかった、何だコイツの身体……」
「貴様……ちょっと痛かったではないか」
フレアハルトは少し不機嫌になりながら、おもむろにオーガに近付き、空いている右拳をオーガの胸辺りに向かって振り抜く。
その拳の衝撃によりオーガは勢い良く吹き飛ばされ、直線状にあった砂山を二つ四散させ、荒野の砂漠に転がって気絶した。
「いぃぃ!? 何なんだお前!? その力は!?」
「ああ、すまぬな、後ろから攻撃されてちょっと痛かったから加減するのを忘れておった。死んでなければ良いがな」
多くの砂賊が、吹き飛ばされたオーガの方向を見て唖然としている。
そんな中、彼ら砂賊とは別に、オーガが吹っ飛んだのを目の当たりにして驚いていた人物がもう一人居た。
私である。
「………………今まで戦ってる姿を直接見たことなかったけど、フレアハルトってあんなに強かったの? 私アイツがぶん回した尻尾喰らったけど、あそこまで綺麗に吹き飛ばなかったけど……」 (第42話参照)
もしかして私って本当に体重物凄く重いのかしら……?
いや、今まで重さで床を踏み抜いたりとかしたことはない。筋力強化魔法で防御も上がって衝撃も相殺していたと考えよう。この見た目でそんなに重いはずがない!
私はフレアハルトのことを相当侮った目で見ていたのかもしれない。今まで彼のマヌケな一面ばかり見ていたから……
それにしてもフレアハルトもウロコが相当硬いみたいね。並の亜人じゃ致命傷を与えるのは難しいかも。
「ふむ、体格の良い砂賊が多いようだな。逃がすとまた別の者を襲うかもしれんし、無抵抗の者は逃がしてやろうかと思ったがやはり全員叩きのめすか。まとめてかかって来ても良いぞ?」
しかし、今オーガが吹き飛ばされたのを目の当たりにしているため、たじろぐ砂賊の面々。
「フレハル様ぁ~、せっかく久々に暴れられると思ったのに、私たちの出番が無いじゃないですかぁ~」
「それもそうだな、では我はあの奥にいる頭目を倒すから、雑魚はお前たち二人に任せる」
私よりも魔力感知に長けているフレアハルトにも、当然頭目の異様さは分かっているらしい。
取り巻きはアリサとレイアに任せて、奥の頭目に狙いを付けた。
「よっしゃ、来~い!!」
「いつでもどうぞ」
アリサとレイアが臨戦態勢になる。
「お、男はお頭に任せて、女の方からやっちまえ!」
その掛け声とともに真っ先に動いたのは青いゴブリン四人。
素早い動きで二人の周囲を動いて撹乱し、持っていた剣でレイアを、アリサを斬り付けた。
しかし、レイア、アリサ共に腕のウロコを変形させて刃を防ぐ。
間髪入れずに、二人ともがカウンターで息の合った回し蹴りをお見舞い。
ゴブリン四人は二人ずつ遠くへ吹き飛ばされ、そのまま気絶。
あまりにも簡単に気絶させたように見えるが、この蹴りは五十メートルを跳躍できる剛脚から放たれた蹴りである。小鬼とも言えるような体型のゴブリンでは内臓破裂しててもおかしくない。
「ありゃ? ちょっとやり過ぎちゃったかな?」
「多少手加減したつもりでしたが、種族ごとにどの程度耐久力があるか分からないので加減が難しいですね」
「こんの女ぁ!!」
次に襲ってきた二人の猫型獣人の爪による攻撃を二人ともヒラリと躱し、アリサ、レイア共にそれぞれに向かって来た獣人の腕を掴む。
二人同時に示し合わせたかのように、そのまま獣人の片腕を持ってジャイアントスイングのように回転、勢いが付いたところを奥で機を窺っていた三人目の猫型獣人に向けて投げつけた!
「「「え? わああああ!!」」」
悲鳴と共に、三人の猫型獣人が勢い良く激突。三人ともそのままぐったりして動かなくなった。
「二人同時にジャイアントスイングするなんて……何て息の合ったコンビプレイ!」
二百年以上一緒に居ると、ここまで息が合うものなのね!
「この女ども……あの男に負けず劣らずやるようだな……」
「それなら俺たちが相手だ!」
満を持して登場の重量級獣人三人とオーガ、小巨人、火トカゲ爬虫人。
「どうやら警戒すべき相手のようなので、卑怯かもしれないが三対一ずつで行かせてもらうぞ!」
「どうぞ、お好きになさってください」
「何対何でも良いよっ!」
『アリサ vs ライオン獣人&オーク&ミドルジャイアント』、『レイア vs カバ獣人&オーガ&サラマンディア』の図式に。
三対一が『卑怯』などと考えるところを見ると、砂賊っぽい考え方じゃない気がする。樹の国で対峙した森賊はもっと残酷な考え方だったけど、これも地域ごとの考え方の違いってだけかしら?
獣人たちとオーガが大きいため、対比で二人が小さく見える。
大きさで言えば、どう見たって勝てそうもない。
特にライオン獣人とカバ獣人は咬合力が強い、いくら彼女らのウロコが強靭でも耐えられない可能性もある。
持っている武器もみんなそれ相応に大きい。ライオン獣人とオーガと火トカゲ爬虫人は大剣、オークは巨大な鎚、カバ獣人は大斧を持っている。
小巨人だけ素手のようだ。
「二人ともお手伝いは必要?」
一応助太刀が必要かどうか聞いてみた私の呼びかけに対し――
「問題ありません」
「必要ないで~す!」
――と、即座に返答された。
「あ、あの砂賊たち大きくて強そうですが、彼女らは本当に大丈夫なんですか……?」
サンドニオさんが心配そうな声で私に問いかける。
「彼女らが大丈夫だって言うからには大丈夫なんでしょう。ピンチになるまで見守りましょうか」
面子を見た限りには、ドラゴンより強そうなのはいないし、きっとピンチは訪れないだろう。
フレアハルトと砂賊の頭目の方をチラりと見ると、まだ戦おうとする様子は無い。双方共に自分の部下の行く末を見守っているように見える。
あのローブの頭目、相手を出し抜こうとする素振りを見せない辺り、盗賊団には珍しいタイプだ。
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