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第15章 火の国ルシファーランド強制招待編

第395話 巨大トカゲの集団に追いかけられた!

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「フレアハルト、そろそろ出発するから起きて」
「んあ? もう出発か?」
「じゃあ出発するけど、みんな準備は良い?」
「OKで~す!」
「大丈夫だと思います」

 ああ……お風呂のある宿よ、さよなら……
 砂まみれになって、次はいつ身体を洗えるか……

   ◇

 少し進み、温暖地帯を越えて、火山地帯に差し掛かった。

「ここより先は砂漠にある火山地帯の近くなので、少しの間高温になります」
「おお、暖かくなったな! な! アルトラ!」

 フレアハルトは嬉しそうだが……

「暖かいと言うよりは、私には暑く感じるんだけど……」

 私の熱感知限界三十六度以上はあるらしい。
 久々の猛暑日並みの暑さ。フレアハルトの頼みを聞きに火山に行って以来だから四ヶ月振りくらいか。 (第281話参照)

「正気かアルトラ? 火山内部で活動できるお主がこの程度で暑いなどと……」
「あなたには分からない感覚だろうけど、私には普通に暑いのよ、ここ……」

 砂漠で乾燥しているからか大量に汗をかくというわけではないが、じんわり滲む程度には暑さを感じる。

「この辺りは溶岩地帯が近くにあるため高温になります。また、この辺りから危険な動物や狂暴な動物が出現するようになるのでご注意ください。それなりの大きさがあるので逃げてやり過ごすのが賢明です。幸いにも駱駝らくだ車ですので挟み撃ちされない限りは逃げられるでしょう」

 今、とんでもないフラグ立てたような気がする……
 それなりに大きい生物か……
 ドラゴン形態のフレアハルトくらいあるのかな? (※)
   (※フレアハルトの体高:五メートルくらい)

 しばらくの間、岩と砂ばかりの殺風景な景色が続く。

「退屈だな……何かトラブルが起きんものだろうか」
「わざわざトラブルを呼び込むようなこと言わないでよ!」

 フラグ立てるな!

 その直後に外を見ていたサンドニオさんの声が!

「ああ! 出ました! サンドリザードです!」

 ほらぁ~! フレアハルトが余計なフラグ立てるからモンスター来ちゃったじゃない!

「う、迂回して逃げてください」
「はい!!」

 サンドニオさんとサンチョさんのやり取り。
 フラムキャメルの速度なら逃げ切れるかと思われたが……

「旦那ぁ! 前方にファイアリザードがいます!」
「挟み撃ちされた!?」
「あわわわ……よりによってファイアリザードまで……あれは旅人を焼き殺して食べる獰猛なトカゲなんですよ!」

 焼き殺して食べるか……もし地球に居たら相当危ない生物ね。
 前後挟まれた。
 でもこのリザードたちそんなに大きくないぞ? せいぜい体高三メートルってところだ。
 いや! 多分私の感覚がマヒしてる可能性の方が高いな。レッドドラゴンやブルードラゴンを相手にしてたから小さく見えてしまうのか。
 地球のコモドドラゴンですら噛まれたらヤバいって話だから、これだけ大きければ一般人からしたら十二分に脅威だ。

「どどど、どうしましょう!? と、とりあえず真横へ逃げてください」
「了解しました!」

 フラムキャメルに命令を送り、急旋回して脱出……したかに思えたが……

「う、後ろ、どんどん増えていきますよ!」

 後ろを付いてくる巨体のリザードたちの数がどんどん増える。

 トカゲってこんなに集団で行動してるもんなの?

「まさかいつの間にか巣に迷い込んでいたのか!?」

 あっという間に駱駝らくだ車の周りを三メートルもの巨体を持つリザード十数体に囲まれてしまった。

「あ、あわわわわ……ど、どうしましょう? こんな大群、我々ではとても太刀打ちできません」

 震えているサンドニオさん、サンチョさんをよそに、

「どれ、我が蹴散らしてくるわ」

 と、フレアハルトが名乗りを上げる。

「お、お一人で行かれるのですか!?」
「あの程度、我一人で問題無い」
「あの巨大なリザードの大群をお一人で!?」
「ああ、ちゃっちゃと片付けてくるからちょっと待っておれ」

 その様を見て、少し嫌な予感がしたためフレアハルトを呼び止める。

「いや、待ってもしかして力づくで片付ける気?」
「何か問題があるか?」

 ドラゴンが力づくで解決するって言ったら……フレアハルトにぶっ飛ばされたあの大トカゲリザードたちの体液がそこら中に撒き散らされて大惨事になるイメージが頭をよぎった。

「ま、待って、汚れたくない!」

 せっかく昨日お風呂入ったのに!

「? 汚れる? 何を言っておるのだ?」

 フレアハルトには『なぜ汚れるか』、その先の想像が出来てないらしい。

「ど、どなたでも良いので、何とかできるならお願いします!! ジリジリ近付かれております!! 今すぐにでも火を噴かれて、駱駝らくだ車ごと焼かれてしまうかもしれません!!」
「アリサ、レイア、ぶっ飛ばす以外で解決できない?」

 出来なければ私の出番だが……

「お任せください」
「わっかりました~!」

 彼女らが駱駝らくだ車を飛び降りて、車体を挟むように前後に立ちそれぞれリザードたちに向き合うと、目からサンドグラスを外す。
 するとリザードたちに流れる空気が一変、恐怖したように身体を委縮させ、数秒硬直した後、リザードの軍勢全体がゆっくり数歩後ずさりし、その直後に蜘蛛の子を散らすように急いで砂に潜って逃げて行った。

「リ、リザードたちが逃げて行く……」
「な、何をしたんですか?」
「サンドグラスを外してただ睨んだだけですよ。それと同時に少し魔力を放ってこの辺り一帯を脅かしたので、しばらくは近寄って来ないと思います」
「お、お二方は人型の亜人ではないのですか!?」
「いえ、わたくしどもはレッドドラゴン族ですので」

「「ド、ドラゴンの一種族!? あわわわわわ……」」

 ドラゴン族と聞いて慌てふためくサンドニオさんとサンチョさん。対照的に冷静なのはレドナルドさん。

「あ、怖がらなくて大丈夫ですよ。あなた方に危害を加えることはありませんので」
「ももも、もしかしてあなた方四人全員がドラゴンで?」
「男性の方はわたくしたちの主で、レッドドラゴン族の王子です」
「“元”だがな」

「「「おおおお王子っ!?」」」

 今度はレドナルドさん含め、三人全員が驚いた。
 どうやらさっきは冷静だったわけではなく、反応が遅れただけらしい。

「そそ、そのような方をわたくしどもが連れ歩いてしまってよろしいのですか!?」
「構わぬ。今はアルトラの護衛だからな。それに“元”王子だから今は王子ではない」
「ドドド、ドラゴンの方々を部下のように扱うなど、ア、アルトラ殿はどういった方なのですか?」
「アルトラ様は………………え~と……あの、今更ながらアルトラ様って何の種族なのですか?」

 急なアリサからの質問。そういえば役所の名簿には書いたけど、直接彼女らに名乗ったこと無かった気がするな……

「一応『人間』って名乗ってるけど……」
「お主が人間!? ハッハッハ、そんなわけないだろ!」
「そうですよ! 人間 (の亡者)なんて柔らか過ぎてひと踏みで潰れますよ! アルトラ様が人間なんて、無い無い!」

 フレアハルトとレイアから間髪入れずにツッコミ。

「役所の名簿見てきたら? ちゃんと『人間』って書いてあるから」
「それは自己申告で書いたものであろう!」
「まあ実際の話、自分でも何の種族なのか分からないのよね。私は元々人間だから、自分では人間だと思ってるけど、周りから見るとどう考えても人間なわけないし」

 オルシンジテンのステータス照会には『天使 (?)』って表示されてたけど、これを教えるとややこしくなりそうだから言わないし、今後も誰にも言うつもりは無い。 (第7話参照)

「天使だったりしてな」

 う……もう何度も天使の輪を出してるところを見られてるから、普通にバレてるわ……
 空飛ぼうとすると羽と天使の輪がセットで出現するから空を飛ぶ以上は隠せないし……それにどうせ魔王には消してる状態でも見えてるから意味が無い。
 でも、私が自身のことを『天使』だと認めるか認めないかでは雲泥の差がある……はず!

 ここからレッドドラゴンたちの間で少し議論が始まってしまう。

「しかし、アルトラ様には黒い羽もありますが……? 天使に黒い羽があるという話はわたくしどもレッドドラゴンに伝わる昔話の中には存在しません。天使は“頭上に光の輪、背中に白い羽を携えた光人”と伝わっています」
「だがそんな伝承など、書物の存在しない我らの歴史文化の中のこと。天使に黒い羽があるかどうかの説得力に欠けるのではないか? 昔話も数千年の間で歪んで伝わっておるかもしれんし。ではお前たちは何だと思うのだ?」
「ヘルヘヴン族かなぁ? ダム建設でアルトレリアに来てくれたジョンさんに特徴が似てない?」
「しかしジョンの頭上に輪っかは無いぞ? それにアルトラの黒い羽は隠し羽で、よく使うのは白い羽の方であろう?」
「それもそうですよね……」
「はいはい! この話はここまで! 私は誰が何と言おうと人間を名乗るから、そんなことはどうでも良いよ」

 パンパンと二拍手して強制的に話題を閉じる。
 私自身にすら天使かどうか不確定なのに議論する余地も無い。時間の無駄だ。
 それに、私のことを狙っていて、つ私より強いルシファーのような存在や、天使になぜか異様に固執していた先代サタナエル (※)のような存在がいるから、おいそれと『天使』とは自称できない。そういった人物に対して、『希少種である』という余計な付加価値を提示してしまうことになりかねず、そういった付加価値が多くなれば多くなるほど狙われる可能性が高くなってしまう。
 下手したら私のことを手中に収めるためにアルトレリアの町ごと人質に取られる可能性だってある。
 現に今ルシファーに狙われてるから、正式に断りを入れるためにここまで旅をして来てるわけだし。
   (※先代サタナエル:アルトラの知る七大国会談で顔を会わせたサタナエルはこの時点で内乱により既に落命しているので、『先代』という呼称になっています。詳しくは第382話参照)

「い、いずれにしても皆様は、あの巨大なリザードよりお強いということですか?」
「そのように考えていただいて差し支えありません」
「み、味方だと言うなら、それは心強い!」
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