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第15章 火の国ルシファーランド強制招待編

第394話 お風呂タイムと次の町の情報

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「おー! 露天風呂だ!」
「私、露天風呂なんて初めてです!」
「わたくしたちが入るお風呂は、賃貸物件のこじんまりとした一室ですからね……」

 賃貸物件のお風呂はそれほど大きくはないだろうなぁ……
 と言うより、まだアルトレリアでお風呂が整備されてる家はそれほど多くない。

 などと考えながら脱衣所でお風呂に入る準備をしていたところ、外套がいとうと防寒具だけ脱いでそのまま風呂場へ行こうとする二人。

「ちょ、アリサ、レイア、服のまま入るの?」

 服着たまま脱衣所からお風呂へ行こうとしていたため、咄嗟に二人を呼び止めた。

「え? 外套がいとうと防寒具は脱ぎましたよ?」
「私にはまだ服着てるように見えるんだけど、それは?」
「アルトラ様には一度見せてるじゃないですか! これ、私たちの竜鱗ウロコで服を模してるものですよ。だから、今は実質全裸と一緒です」 (第46話参照)

 あ~、そういえばそうだった。私の闇のドレスと同じく自前か。

「でも他のお客さんが白い目で見てるから、竜鱗りゅうりんの服も消そうか。それにそのままだと湯舟から出た後の流れ落ちるお湯が大量になるから身体拭くのも大変かもよ?」

 私は既に闇のドレスを消してタオルを巻いている。

「「………………それもそうですね」」

 ふぅ……この二人と一緒にお風呂入るのは初めてだけど、今までレッドドラゴン族以外の他人と入る機会は無かったのかしら?
 それにしても……

「あなたたち堂々としてるわねー、隠そうともしないなんて」
「そうですか?」
「まあ同族がいない場では、あまり隠す意味が無いと考えてましたからね。そもそも他種族の前で人型に変身したのはアルトラ様と出会ったあの時が初めてでしたから」

 そういえば初めて私の目の前で人型になった時にも私の前で堂々と裸体晒してたっけ。 (第46話参照)
 などと考えていたところ、二人が湯舟の方に向かって歩いて行く。

「ちょちょちょっと、アリサ、レイア、どこ行くの?」
「どこって湯舟に……」
「まず身体洗わなきゃ」
「え? うちでは湯舟に入ってから身体をこすったりしてますけど?」
「『洗う』という行為は湯舟に入ることを指してるのではないのですか?」
「いつも身体洗わないで入ってるの!?」

 二人とも首を傾げる。

「そもそもお風呂の習慣が無かったので、どんなことがお風呂の常識なのかも……わたくしたち以外の他人と入るのも今日が初めてですし……」
「うちの家のお風呂ではただ入ってただ出てくるって感じでしたけど?」

 それだと湯舟は汚れまみれだったんじゃないかしら……? この二人何でも屋の仕事で泥だらけになることも多いだろうし……

「あ、でも泥とか浴びて凄く汚くなった時はちゃんと落としてから入ってましたよ!」

 水使う習慣が無かったから、汚れを落とす程度のことはするけど、『石鹸使って洗う』って発想が無かったのか……
 砂漠歩いても、砂埃程度の付着なら見た目にはそれほど汚れてるように見えないからそのまま湯舟に直行しようとしたわけね……

「じゃあ良い機会だから、洗い場で身体を洗うことを覚えて! 砂を付けたまま湯舟なんか入ったら他のヒトにも迷惑になっちゃうから。見た目には汚れてるように見えなくても、まず洗い場で綺麗にしてから湯舟に浸かるのが常識だから!」
「へぇ~」
「一般的にはそれが常識なのですね」

 ってことはフレアハルトも洗わないで入ってる可能性濃厚だな……後でこの二人から説明しておいてもらわないと。
 一頻ひとしきり湯舟に入る前のルールを教え、身体を洗った後は湯舟に入って落ち着く。

「「「はぁ~~~」」」

「サッパリしますね~」
「水に入れるようになって一番良かったことですね」

 湯舟でゆったりしていたところ、男湯の方から「ぎゃぁあッ!!」と言う短い絶叫が聞こえて来た。

「なに!?」
「男湯で何かあったんですかね?」
「後でフレアハルト様に聞いてみたらいかがでしょうか?」

 後でフレアハルトに聞いたところ、例の感じの悪い商人に遭遇してしまい、再び絡まれてイライラしたため、火魔法と土魔法で湯舟の商人の座っている一部分の温度を一瞬だけ急激に上げて熱湯をお見舞いした時に発した絶叫だったらしい。
 本人曰く、少しだけ溜飲が下がったと話していた。

 お風呂後は、サンドニオさんが取ってくれた女子部屋と男子部屋の片側の部屋で持ち込んだ食材を調理して食事。火の魔石が設えられたキッチンで、魔力を流すとガスコンロのようなことが出来た。鍋も備え付けがあったのでそれを使わせてもらう。
 その後はそれぞれの部屋に分かれて就寝。
 取ってもらった部屋は、港町イルエルフュールの宿と比べると綺麗に掃除が行き届いていて、砂埃も無く快適に眠れた。


   ◇


 翌日――

「おはようございます」

 出発の準備をしているサンドニオさん、レドナルドさん、サンチョさんに挨拶する。

「「「おはようございます」」」

 三人と一緒の部屋だったはずのフレアハルトの姿が見えない。

「あれ? フレハル様は?」
「フレアハルト様はご一緒ではないのですか?」
駱駝らくだ車内で寝てますよ」

 車内を覗いてみると、出発の手伝いもせずに、でかい図体で中を占領して……

「我々に付き合って早起きでしたので、今しばし寝かせておこうかと」

 全員同時にチェックアウトしないと面倒だから、眠くてもチェックアウトせざるを得なかったんだろう。

「次の町って何て町なんですか?」
「デザートソリドという、四方五キロ程度を高い壁に囲まれた小さな町です。元々は要塞として使われ、その後は町として発展しました」
「じゃあ、そこでも一泊するんですね?」
「いえ、ここは物資を調達次第、なるべく早くに出発します」
「せっかく砂漠の中で行き着いた町なのにすぐに発つんですか?」
「はい、この町で宿を取るよりも、少し町から離れた砂漠で野宿する方がいくらか安全なのです」
「ど、どういうことですか!?」
「近年、治安の悪化が著しく、滞在が長引くと犯罪に巻き込まれる可能性が高いですから。元々は砂漠にあった堅牢で安全面にも配慮された町だったのですが、このご時世になってその堅牢さが逆にあだとなり、悪人を中に入れにくいが、外にも出しにくいという犯罪の多い町に変貌してしまいました。宿に泊まっていて襲われたという話も聞いたことがあります」

 マジ……?
 何でそんな物騒なことに……

「町中には軍人や兵士がいるので、悪行を放置しているというわけではないですが、地元の名士と悪徳商人との癒着が酷く奴隷ビジネスも横行しています。現在あの町で働いている者の多くは、地元の名士に買われた奴隷と言っても差し支えありません。金持ちと管理者、奴隷で二極化しているような状態です。その所為で逃げた奴隷が野盗化するなど、酷い有様で……腕利きの護衛を沢山雇えるようなお金持ちでなければ滞在はあまりお勧めできません。兵士も賄賂で買収されることが多く、あまりアテにすることはできない状態です。町の外周辺は軍人や兵士の影響が及ばず、最も危険なので、町へ寄らずに済むのなら避けるのが無難でしょうね」

 よく見るとこの宿にも奴隷商のものらしき駱駝らくだ車が停泊していた。
 ほろの隙間から薄っすらと檻の一部らしき鉄格子のようなものが見える。

 私は奴隷制度というものは好きではない。と言うより人権の面で言うなら確実に間違っていると思っている。
 しかし、この世界で『奴隷なんて人道的に間違っている』、『奴隷にだって人権があるはず』なんて現在の地球の思想を持ち込もうとしたところで彼らを解放したりすることはできないだろうし、逆に私の方が危険分子としてマークされる可能性がある。
 この世界にはこの世界の、この国にはこの国のルールがあるため、ここで私が奴隷を数人助けたところで何かが変わるわけではないし、ルールを破れば私の方が犯罪者になってしまう。
 奴隷制度がおかしいことと言う認識が広まれば、自然とそういった制度も無くなっていくことだろう。それは国が変わる他無い。
 ちょっと可哀そうではあるが、残念ながらよそ者の私には何もできることはない。もちろん、奴隷の中に知り合いがいるなら絶対に助けるが……

「このルートって商人も利用するルートなんですよね? せっかく運んだ物資が奪われちゃうじゃないですか」
「はい、ですから護衛や荷物番を何人も付けるか、少し遠回りでも別のルートを選択します。ちなみに――」

 サンドニオさんがとある方向を指さす。

「――昨日アルトラ殿につっかかってきた商人の駱駝らくだ車はアレのようです。出入りするのを見ておりました」

 そちらを見ると――

「でかっ!!」

 フラムキャメル六頭で引く駱駝らくだ車が一台。私の借りたものの三倍ほどの大きさがありそうだ。
 その脇に二頭のラクダが引くサブの駱駝らくだ車が二台。
 最後に最も外側を固める二台。
 計五台の駱駝らくだ車を十四頭のラクダが引っ張る。

「この国ではあのように護衛を雇って通商を行うのが常識です。最も外側にある二台は護衛を乗せて進むためのものでしょう。砂漠渡りのための食料や物資もあの大きさの駱駝らくだ車なら沢山詰め込めますから、多少遠回りしても大丈夫でしょうね」

 見たところ隊商の人数と護衛の人数はそれぞれ八から十数人程度。
 護衛はいずれも体格が良く、屈強な見た目。軽装ながら鎧を着こんで武器も携帯している。リザードマン系が多いようだ。
 対して隊商メンバーはそれほど戦い慣れてるようには見えない。獣人が多い感じ。服装がみすぼらしいのを見ると彼らももしかしたら奴隷なのかもしれない。
 護衛ありきの通商ってわけか。

 サンドニオさんが言うように、他を見回しても護衛を雇っている隊商ばかり。
 引いている駱駝らくだ車の数も複数に上り、車体も大きい。
 うちのが一番小さいくらいだ。

「十人もの護衛が付いていれば、首都へ行くのには申し分無いでしょう。ただ……砂賊の脅威度も千差万別で、あまり危険でない集団は町で雇った護衛で十分ですが、中には脅威度が高い集団もおりまして、それに遭遇してしまった場合は物資を諦める他ないですね。命まで取られるのは抵抗した時くらいですから」
「脅威度?」
「ええ、被害に遭った者の情報を元に作られたものですが、中には軍ですら手を焼く砂賊の集団があるとか」

 おいおい……砂賊ってそんなに沢山集団があるのか?
 物凄く治安が悪い国になってるじゃないか!

「へ、へぇ~……脅威度の高いのに遭遇しないのを祈るばかりですね……」

 どれくらい危険なんだろう? 樹の国で遭遇したブルーソーン強盗団くらいだろうか? (第322話から第326話参照)
 もしドラゴンとか強い種族が頭目やってればかなり脅威度が高いと思うけど。

「ところで話変わりますけど、あの大きさの駱駝らくだ車を借りたらいくらくらいなんですか?」
「さ、さあ? わたくしもこの駱駝らくだ車をお借りした時に高いなぁと思ったくらいなので何とも言えません……」

 ってことは、完全な私の推測になるけど、五十万フラムとか? いや頑丈そうだし百万を超えるかも。
 そう考えると十五万って破格の安さに感じる……
 これにプラスして護衛まで雇うとなったら、数百万にも及ぶかも。
 あの時断って別を探そうとしたら駱駝らくだ車での移動は絶望的だったかもな……値切りにも応じてもらえたし断らなくて正解だった……

 出発も目前に迫った時、豪奢な駱駝らくだ車から昨日の嫌味な商人が――

「くそっ……昨日の風呂で起こった熱湯で、背中がまだヒリヒリするわい……」

 ――と、腰の辺りを擦りながら出て来た。
 きっとあれがフレアハルトが起こした熱湯によるダメージだろう。商人本人はただのお湯のトラブルとしか思ってなさそうだけど。

「おい! お前たち! そろそろ出発するぞ! 支度は終わっておるか?」

 商人が隊商メンバーに向かって号令をかける。

「ゲッ、あの商人たちも今から出発か、じゃあ少し時間を遅らせよう……」

 商人から見えないように身を隠そうとしたところ――

「ムッ、何だ昨日の小娘か」

 見つかってしまった……
 再び関わることになってしまうとは……

「ど、どうも」
「昨日も貴様のツレと顔を合わせて気分が悪いわ。きちんと言い聞かせておけと言っただろ。ワシらは先に行くから貴様らは後からゆっくり来るが良い! ワシの目の前をチラチラ動かれると目障りだ」

 ハイハイもちろん、そうさせてもらいますよ。これ以上嫌味のシャワーを浴びたくありませんから。
 と心の中で愚痴る。

 少しして商人たちは出発。沢山の妖精たちが駱駝らくだ車の周りを照らしながら先を行く。
 私たちは少し時間を置いてから出発することに。

「物資の量を見たところあの商人たちは、デザートソリドに寄らずにそのまま王都を目指すようですね」

 それならもう顔も合わせずに済みそうか。
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