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第15章 火の国ルシファーランド強制招待編
第392話 砂漠の宿
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休憩後、しばらく進むと――
「お? 何だか暖かくなったな」
「ホントだ。さっきは肌寒いくらいだったけど、ここは快適だわ」
「ここは寒冷砂漠と火山地帯の中間の温暖地帯と言ったところです。この地帯は寒くもなく、熱くもなく、溶岩も砂嵐も吹きにくいため最も安全な地帯となります。近くに中継地点となる宿がありますので、今日はそこで休むことに致しましょう」
「まだ出発して一日目なのに、もう“最も安全な”地帯なんですか?」
「はい、この国はこういったポイントがまばらに点在するので、この先にも似たような気候の場所がありますよ。今目指している砂漠の町は次の温暖地帯にあります」
つまり、寒冷砂漠→温暖地帯→火山地帯→温暖地帯→寒冷砂漠みたいな感じに交互に、そういう場所を通過するってわけか。
不思議な場所ね。
「ただ、勘違いされないでほしいのはこの“最も安全な地帯”が我々旅人にとって安全な地帯という意味ではないということです。溶岩や凍結の恐れが無い“生物にとって最も安全な地帯”という意味です」
それって……
「つまり、“安全地帯”と謳っていながら、強盗のような悪いヤツらが普通に闊歩しているってことですか?」
「はい、我々の地域では砂の盗賊団、略して砂賊と呼ばれています。盗賊団とは言っても強盗が主ですのでほとんど強盗団と言って差し支えないでしょう。やはり強盗団も生物ですので、気候が会った場所の方が活動しやすいため、溶岩地帯や寒冷地体よりも多く存在しています」
「今から泊まる宿は大丈夫なんですか?」
「そこは一応国の重要拠点の一つですので、軍隊が常駐して警備しています。この宿を潰されてしまうと流通経路が一つ滞って損害が起きますので」
なるほど。まあ安全とは言え、警戒しておくに越したことはないか。現状の私にとってこの地はどこに居ても仮想敵地には違いないわけだし。
「ところで……アルトラ殿はその……大丈夫なのですか? 護衛がたった三人と言うのは……十人や二十人に襲撃されたらと思うと、わたくしどもも少々不安に思っているのですが……今更ですが、イルエルフュールで護衛の依頼をした方がよろしかったのでは?」
「大丈夫だと思いますよ。私が知る限り、彼ら三人は戦力なら世界でも上位クラスだと考えています。彼らに勝てる者なんてそうそういません」
「この方々そんなにお強いのですか!?」
一発の魔法で大地に大穴開けられるようなフレアハルトのような生物はそんなにはいないだろう。
それに……私自身も強盗団の討伐経験はあるし、属性Lv11を持つドラゴンロード級が二人も三人もいなければ多分大丈夫でしょう。 (第322話から326話参照)
フレアハルトより確実に強いと考えられるのは私が知り得る限りだと……現存する六人の魔王と、あと先日倒したデスキラービーの親衛蜂くらいかな。 (第349話参照)
他にも対等に戦えそうなのは何人か思い浮かぶけど、決定的にフレアハルトより強そうなのは私が知り得る限りでは魔王と親衛蜂くらい。
それとクリューとカイベルだけど、この二人は戦闘力を発揮する場面を見たことがないからまだよく分からない。が、フレアハルトと同等かそれ以上に強いのではないかという予感はしている。特にクリューはほぼ間違い無く私より上。
「ほほう! お主が我らを褒めるのなど珍しいな! そこまで買ってくれておるとは!」
「私たち、そんなに強いんですかぁ~?」
まんざらでもないフレアハルトとレイア。
「まあね。事実、強いのは認めてるよ」
たまに出るトラブルに手はかかるけど……
◇
そしてまたしばらく砂漠を進み、今日泊まる宿に着いた。
「宿って言うくらいだから木材とかを建築資材として使われてる宿を想像したけど……」
見上げるほどの大岩の中部分がくり抜かれた宿。
くり抜かれた中に宿泊スペースが設けられているらしい。
岩の中に部屋が多数作られ、電気設備も通っていて、外側からは一室一室が煌々と輝いて見える。
窓はガラス張りだが、ハメ殺しになっているため開くことはない。砂漠だから砂が入らないように開かないようにしてあるのかもしれない。
宿泊施設前には、ここまで砂漠を越えて来た多数の駱駝車が停泊している。隊商が多いようで、王都へ運ぶ物品や物資が積まれている。
興味本位でちょっと駱駝車内を覗くような素振りをしたところ、その駱駝車の護衛らしきヒトに鋭い眼光で睨まれた。
「ア、アハハ、すみません……」
その場はそそくさと退散し、サンドニオさんに訊ねる。
「商人たちの隊商と同じ場所に停泊するんですか?」
「そうですね。駱駝車が停泊できる場所も決められておりますので」
「駱駝車内の荷物はどうしますか?」
「盗まれて困りそうな貴重品はありません。食料くらいしか積んでませんので、これをそのまま持って宿泊します」
「駱駝車はそのままここに置いておくということですか? ラクダごと盗まれたりとかしませんか?」
『砂賊が居る』という話を聞いてしまったため、ラクダごと盗まれてしまうかもしれないと頭をよぎる。軍関係が警備してるとは言え、気付かずにこっそり持ってかれる可能性だってある。
こんな砂漠のど真ん中まで来て道中の足が無くなってしまうことは絶対に避けたい。
「そこは私とサンチョさんがラクダ番として残りますのでご安心を」
と、レドナルドさんがラクダ番を買って出てくれる。
「しかし、そうするとレドナルドさんたちが休めないじゃないですか」
「途中でわたくしと交代しますので、ご心配には及びません」
サンドニオさんが交代するとは言うものの……「そうですか? ではお言葉に甘えて」と言う気にはなれない。
他の隊商は屈強な護衛が何人もで番をしている中で、そんなところで一人ないし二人で番をさせないといけないというのは、少々気が咎める。
空間魔法で駱駝車のある範囲を隔絶させてしまえば触ることすらできなくなるけど……よし!
「…………要は外から誰かが手出し出来なければ良いわけですよね?」
「それはそうですが……何をされるおつもりですか?」
「空間魔法でラクダと駱駝車を閉じ込めておきます」
「空間魔法で? そんなことが出来るのですか?」
「はい、駱駝車周囲の空間を隔絶させ、侵入できないように壁を作ります」
駱駝車を囲うように見えない壁を作り出した。
「何も変わってないように見えるのですが……」
「近付いてみたら分かりますよ」
「「「おぉ!?」」」
サンドニオさん、レドナルドさん、サンチョさんが近付いてみて驚く。
「これ以上先へ進めない!?」
「これが空間魔法の壁というものなのですか!?」
三人がパントマイムのような形に手を動かして、見えない壁があることを確かめる。
「はい、これで私以上の魔力を持つ者、もしくは同等かそれ以上の空間魔術師でなければこの駱駝車に手出しできません」
「空間魔法は移動にのみ使うものとの認識でしたが……こういう使い方もあるのですね。この見えない壁を作り出すのは中々難しそうですが……」
「空気はどうなっているのですか? 中のラクダは窒息しませんか?」
「窒息しないような魔法の組み方をしているので大丈夫です。しかし、このまま駱駝車に近寄れないのでは少し不便かもしれないので、このパーティーのメンバーだけは侵入できるように施しておきます。みなさんお手を」
「手を?」
「何をするんですか?」
六人全員に手をかざしてもらい、それぞれから少しずつ魔力を拝借。
それを今作った空間魔法の壁に創成魔法を使って混ぜ込む。
「これで私たち七人だけは駱駝車の中に入れるようになりました」
「今近寄ることすらできなかったのに?」
「はい、近付いてみてください」
「おぉ、駱駝車までちゃんとたどり着ける……」
「何をしたんですか?」
「みなさんの魔力と空間魔法の壁を同調させました」
「アルトラ殿、これは余程特殊な技術なのでは? これほど特殊な効果の魔法はあまりお目にかかったことがありませんが……」
「…………この場限りのこととして黙っておいてもらえると助かります」
バレたところでそこまで気にするほどの能力じゃないが、一応の口止めをしておく。
「それでは、駱駝車盗難の憂いも無くなりましたし、本日はこの宿にて宿泊すると致しましょう」
「お? 何だか暖かくなったな」
「ホントだ。さっきは肌寒いくらいだったけど、ここは快適だわ」
「ここは寒冷砂漠と火山地帯の中間の温暖地帯と言ったところです。この地帯は寒くもなく、熱くもなく、溶岩も砂嵐も吹きにくいため最も安全な地帯となります。近くに中継地点となる宿がありますので、今日はそこで休むことに致しましょう」
「まだ出発して一日目なのに、もう“最も安全な”地帯なんですか?」
「はい、この国はこういったポイントがまばらに点在するので、この先にも似たような気候の場所がありますよ。今目指している砂漠の町は次の温暖地帯にあります」
つまり、寒冷砂漠→温暖地帯→火山地帯→温暖地帯→寒冷砂漠みたいな感じに交互に、そういう場所を通過するってわけか。
不思議な場所ね。
「ただ、勘違いされないでほしいのはこの“最も安全な地帯”が我々旅人にとって安全な地帯という意味ではないということです。溶岩や凍結の恐れが無い“生物にとって最も安全な地帯”という意味です」
それって……
「つまり、“安全地帯”と謳っていながら、強盗のような悪いヤツらが普通に闊歩しているってことですか?」
「はい、我々の地域では砂の盗賊団、略して砂賊と呼ばれています。盗賊団とは言っても強盗が主ですのでほとんど強盗団と言って差し支えないでしょう。やはり強盗団も生物ですので、気候が会った場所の方が活動しやすいため、溶岩地帯や寒冷地体よりも多く存在しています」
「今から泊まる宿は大丈夫なんですか?」
「そこは一応国の重要拠点の一つですので、軍隊が常駐して警備しています。この宿を潰されてしまうと流通経路が一つ滞って損害が起きますので」
なるほど。まあ安全とは言え、警戒しておくに越したことはないか。現状の私にとってこの地はどこに居ても仮想敵地には違いないわけだし。
「ところで……アルトラ殿はその……大丈夫なのですか? 護衛がたった三人と言うのは……十人や二十人に襲撃されたらと思うと、わたくしどもも少々不安に思っているのですが……今更ですが、イルエルフュールで護衛の依頼をした方がよろしかったのでは?」
「大丈夫だと思いますよ。私が知る限り、彼ら三人は戦力なら世界でも上位クラスだと考えています。彼らに勝てる者なんてそうそういません」
「この方々そんなにお強いのですか!?」
一発の魔法で大地に大穴開けられるようなフレアハルトのような生物はそんなにはいないだろう。
それに……私自身も強盗団の討伐経験はあるし、属性Lv11を持つドラゴンロード級が二人も三人もいなければ多分大丈夫でしょう。 (第322話から326話参照)
フレアハルトより確実に強いと考えられるのは私が知り得る限りだと……現存する六人の魔王と、あと先日倒したデスキラービーの親衛蜂くらいかな。 (第349話参照)
他にも対等に戦えそうなのは何人か思い浮かぶけど、決定的にフレアハルトより強そうなのは私が知り得る限りでは魔王と親衛蜂くらい。
それとクリューとカイベルだけど、この二人は戦闘力を発揮する場面を見たことがないからまだよく分からない。が、フレアハルトと同等かそれ以上に強いのではないかという予感はしている。特にクリューはほぼ間違い無く私より上。
「ほほう! お主が我らを褒めるのなど珍しいな! そこまで買ってくれておるとは!」
「私たち、そんなに強いんですかぁ~?」
まんざらでもないフレアハルトとレイア。
「まあね。事実、強いのは認めてるよ」
たまに出るトラブルに手はかかるけど……
◇
そしてまたしばらく砂漠を進み、今日泊まる宿に着いた。
「宿って言うくらいだから木材とかを建築資材として使われてる宿を想像したけど……」
見上げるほどの大岩の中部分がくり抜かれた宿。
くり抜かれた中に宿泊スペースが設けられているらしい。
岩の中に部屋が多数作られ、電気設備も通っていて、外側からは一室一室が煌々と輝いて見える。
窓はガラス張りだが、ハメ殺しになっているため開くことはない。砂漠だから砂が入らないように開かないようにしてあるのかもしれない。
宿泊施設前には、ここまで砂漠を越えて来た多数の駱駝車が停泊している。隊商が多いようで、王都へ運ぶ物品や物資が積まれている。
興味本位でちょっと駱駝車内を覗くような素振りをしたところ、その駱駝車の護衛らしきヒトに鋭い眼光で睨まれた。
「ア、アハハ、すみません……」
その場はそそくさと退散し、サンドニオさんに訊ねる。
「商人たちの隊商と同じ場所に停泊するんですか?」
「そうですね。駱駝車が停泊できる場所も決められておりますので」
「駱駝車内の荷物はどうしますか?」
「盗まれて困りそうな貴重品はありません。食料くらいしか積んでませんので、これをそのまま持って宿泊します」
「駱駝車はそのままここに置いておくということですか? ラクダごと盗まれたりとかしませんか?」
『砂賊が居る』という話を聞いてしまったため、ラクダごと盗まれてしまうかもしれないと頭をよぎる。軍関係が警備してるとは言え、気付かずにこっそり持ってかれる可能性だってある。
こんな砂漠のど真ん中まで来て道中の足が無くなってしまうことは絶対に避けたい。
「そこは私とサンチョさんがラクダ番として残りますのでご安心を」
と、レドナルドさんがラクダ番を買って出てくれる。
「しかし、そうするとレドナルドさんたちが休めないじゃないですか」
「途中でわたくしと交代しますので、ご心配には及びません」
サンドニオさんが交代するとは言うものの……「そうですか? ではお言葉に甘えて」と言う気にはなれない。
他の隊商は屈強な護衛が何人もで番をしている中で、そんなところで一人ないし二人で番をさせないといけないというのは、少々気が咎める。
空間魔法で駱駝車のある範囲を隔絶させてしまえば触ることすらできなくなるけど……よし!
「…………要は外から誰かが手出し出来なければ良いわけですよね?」
「それはそうですが……何をされるおつもりですか?」
「空間魔法でラクダと駱駝車を閉じ込めておきます」
「空間魔法で? そんなことが出来るのですか?」
「はい、駱駝車周囲の空間を隔絶させ、侵入できないように壁を作ります」
駱駝車を囲うように見えない壁を作り出した。
「何も変わってないように見えるのですが……」
「近付いてみたら分かりますよ」
「「「おぉ!?」」」
サンドニオさん、レドナルドさん、サンチョさんが近付いてみて驚く。
「これ以上先へ進めない!?」
「これが空間魔法の壁というものなのですか!?」
三人がパントマイムのような形に手を動かして、見えない壁があることを確かめる。
「はい、これで私以上の魔力を持つ者、もしくは同等かそれ以上の空間魔術師でなければこの駱駝車に手出しできません」
「空間魔法は移動にのみ使うものとの認識でしたが……こういう使い方もあるのですね。この見えない壁を作り出すのは中々難しそうですが……」
「空気はどうなっているのですか? 中のラクダは窒息しませんか?」
「窒息しないような魔法の組み方をしているので大丈夫です。しかし、このまま駱駝車に近寄れないのでは少し不便かもしれないので、このパーティーのメンバーだけは侵入できるように施しておきます。みなさんお手を」
「手を?」
「何をするんですか?」
六人全員に手をかざしてもらい、それぞれから少しずつ魔力を拝借。
それを今作った空間魔法の壁に創成魔法を使って混ぜ込む。
「これで私たち七人だけは駱駝車の中に入れるようになりました」
「今近寄ることすらできなかったのに?」
「はい、近付いてみてください」
「おぉ、駱駝車までちゃんとたどり着ける……」
「何をしたんですか?」
「みなさんの魔力と空間魔法の壁を同調させました」
「アルトラ殿、これは余程特殊な技術なのでは? これほど特殊な効果の魔法はあまりお目にかかったことがありませんが……」
「…………この場限りのこととして黙っておいてもらえると助かります」
バレたところでそこまで気にするほどの能力じゃないが、一応の口止めをしておく。
「それでは、駱駝車盗難の憂いも無くなりましたし、本日はこの宿にて宿泊すると致しましょう」
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