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第15章 火の国ルシファーランド強制招待編
第391話 火の国砂漠の実態
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船の中で『砂漠が寒い』と言っていたその理由は、砂漠に出てみたらすぐに分かった。
魔界には太陽が無いため、地球で言うところの夜の砂漠の側面しかない。その所為で気温が低いとマイナスにまで下がるらしい。
「さ、寒いな……」
「息が白いよ!」
「水や寒さに多少強くはなりましたが、わたくしたちには少々厳しい寒さですね……」
「ホントだ、肌寒い」
冷気感知限界で二十度までしか感じられない私には、ここの気温が氷点下かどうかは分からないが、この肌寒さを考えると冷気感知限界以下になっているのは確かだ。 (冷気感知限界については第7話参照)
「これで肌寒い!? お主どうかしてるぞ? 雪が降るくらい寒いぞ……」
「あなたには分からない感覚だろうけど、私には割と快適なのよ、ここ」
「って言うか、降ってますよ!! 雪がチラついてます!!」
「これのどこが火の国なのだ! 寒さの国ではないか!」
確かに……火の国と聞いていたが、大分イメージと違うな……これだとむしろ氷の国とか砂の国とかのイメージでしかない。
「この辺りは遮蔽物が無く、粒子の細かい砂が多いため、常に放熱され氷点下を下回ることがほとんどなのです。毛布は駱駝車に備え付けですので、どうぞ」
「私はいらないから三人が使って」
私は外套だけ十分。これを羽織ってるだけでも暑いくらいなので毛布をレッドドラゴン三人に譲る。
砂漠へ出発に際して、早速真っ暗な空に光魔法で光源を浮かべる。これで外敵からの不意の襲撃にも対応できるだろう。
光を浮かべると、逆に狙われやすくなるのではないかと思うが、暗闇で進む方が危険度が高いらしい。
砂漠にいるモンスターは、暗闇でも平然と襲ってくるため、光のある環境に慣れた亜人は暗闇で進む方がリスクが高い。
光があることにより砂賊には狙われ易くなるが、反面周囲を明るく照らすことによって警戒もし易くなるため、暗闇を進むか光を点けて進むかの二択を迫られれば、光を選択した方が幾分か安全らしい。
狙われ易くなる意味でも、護衛を雇っての通商は常識。
お金に余裕があるなら、それに加えて水魔法や光魔法の熟達した魔術師を雇えば、本体とはかなり離れたところに幻影魔法で本体のビジョンを映し出して撹乱したり、水魔法や光魔法で光の屈折率を変えて駱駝車ごと隠したりして工夫し、砂賊に悟られないように進む隊商もあるらしい。
砂漠を進んでいる最中に突然『ボウッ!』という音と共に遠くで赤い光が立ち昇った。
「うわ! なに!?」
突然の赤い光に驚いたところ、砂漠のところどころで火柱のような現象が起こっている。
「地面から噴き出すガスが発火して、明かりを灯してくれます。そのため、電気は無くとも見えないほど真っ暗というわけではありません」
と言い終わった直後に火柱が消えて、私の浮かべた光源以外は真っ暗に。
「………………もっとも……規則性のあるものではないので、時折真っ暗になりますが……その場合は少しその場で待機して再点火されるのを待つのが良いでしょう。数秒から数十秒もすれば、次の明かりが灯りますから」
「発火する原理が分からないんですけど……?」
こんな氷点下の場所でどこに火種があるんだ?
「火山地帯の多い我が国には火の下位精霊が好んで住みます。彼らは引火物を好むためガスが噴出した瞬間に火を灯そうとする性質があるのです。それと同時に沢山の火の下位精霊が火柱の魔力に反応して付近を飛び交うので、その場は更に明るく照らされます」
あ~、この可燃物を好む火の下位精霊の性質は以前ピラミッドに行った時に聞いてるわ。 (第358話参照)
地球でそんな現象はあり得ないから、考えることすらできなかった! これは案外凄い特徴なのかもしれない!
「なるほど~、その可燃性ガスって、私たちが今居る真下から出てくることはないんですか?」
「安全地帯として道が確保されているため、基本的に我々の通行する場所の真下から出てくることはありません。が……時折想定外の場所から出てきて焼け死ぬ者があります……まあそんなのは非常に稀な出来事ですがね」
それは結構危ないんじゃないの?
「こんなにガスが噴出するんじゃ、住んでる人たちは大変なんじゃないんですか?」
「歴代ルシファー様の御力により、溶岩の流れを操って首都がある場所、人々が多く住んでいる場所は火山地帯ではなくなっております。そのため周囲の地熱やガスを利用して、豊かな生活ができるようになっているのです」
火の魔王って言うくらいだから、溶岩操作まで可能ってことなのか。自然環境まで変えてしまえる魔王って……凄いな。
「もっとも……現在は首都へ一極集中してしまって、豊かと言って良いかどうか疑問ですが……」
「え?」
「いえ、少々口が過ぎました。もう少し進むと火山地帯が多くなるため、ガスが途切れることなく常に明かりが灯された状態になります。さあ首都へは川に沿って向かいますよ!」
◇
少し進むと風が強くなってきた。
そしてすぐに風は砂嵐に変貌。
「さささ、寒い!! な、何とかならんのか!? 駱駝車の入口が風でめくれ上がってるぞ!」
「こんなの凍っちゃいますよぉ!!」
その時、フレアハルトから緊急事態が伝えらえれる。
「おい! 風で幌が裂けたぞ!?」
「外に居る御者の方は大丈夫なのでしょうか?」
「これは危険ですね、一旦岩陰に隠れてやり過ごしましょう」
サンドニオさんがそう言うと、外で御者をやっているサンチョさんに声をかける。
「サンチョさん! あの岩陰で砂嵐が止むまで休みましょう」
「了解しました!」
岩陰は多数の岩に囲まれていて、砂嵐をやり過ごすには都合が良かった。
「少々早いですが、砂嵐を避けつつ食事と致しましょう」
「火はどこに起こすんですか? 見たところ枯れ木とかそういったものも周りには無さそうですし。着火自体は火魔法で何とかなりますが、それを着火する素材がありません。樹魔法を使っても枯れ木を作るのは難しいですし……」
創成魔法ならそんなの関係無しに枯れ木自体を創れるが、彼らの素性がよくわからない現在に至っては、まだ使わずにおきたい。
「問題ありません。砂漠の外から砂嵐が折れた木の枝や幹を運んできますので、砂に埋もれているだけでそこら中に散らばっています。集めてきますので少々お待ちください」
「あ、集めてきますのでって、この砂嵐の中を行くんですか!? ガラス状の砂も舞っているのでは危険なのでは?」
「いえ、砂の中を潜って行きます」
「え?」
サンドニオさんがそう言うと、少し離れた場所まで歩き――
砂山に飛び込んだ!?
「ちょっ、何やってるんですか!? 大丈夫ですか!?」
声をかけるも返事は無し。
「え? まさかもう居なくなってる?」
突然目の前から消えたサンドニオさんに少しの間呆気に取られていると、後ろで見ていたレドナルドさんが状況を説明してくれた。
「サンドニオら砂漠の半魚人族は砂の中を泳ぐ種族なのです。しばらくすれば枯れ木を持って戻ってくると思います」
「砂の中を泳ぐ種族!?」
「ええ、あっという間に十メートル、二十メートル進んでいますから」
砂の中を泳ぐなんて創作上だけの話かと思ってたけど、砂を泳ぐ生物っているんだ。
◇
ものの十分もした頃――
バサッと砂がかき分けられ、サンドニオさんが帰還。
「お待たせしました。枯れ木を集めてまいりました」
手際よく木を山の形に寄せ、そこにレドナルドさんが炎を吐きかけてたき火にする。
「火は用意できましたが、料理は不得手でして……丸焼きでよろしいですか?」
「「「「丸焼き!?」」」」
「まさか、生肉を焼くだけとは言わぬよな?」
「ええまあ、その通りですが……我々は料理人ではないので串で刺して焼くくらいしかできません」
鉄製の串を駱駝車内に用意してあったらしく、それらを取り出す。
「味付けは?」
「塩ですが……何か問題が?」
「焼いて塩振りかけるだけなのか!? 我はもう少し美味いものが食べたい」
「私も塩だけってのはちょっとねぇ~……」
フレアハルトもレイアも舌肥えたな~。
贅沢言うなよ、とは思いつつ、私も肉を直火で焼いて塩振っただけのものはちょっとな……アレが何の生肉かも分からんし……
丸焼きを料理と言うなら、私が作った方がまだマシだ。ここはまた私の出番か?
「ではわたくしが調理しましょう。アルトラ様、調味料と調理器具をお持ちですよね?」
と、思ったらアリサがやってくれるらしい。
それにしても何でアリサが私が調味料や調理器具を持ってること知ってるんだろう……持ってるのを知ってるのはロクトスとナナトス、あとメイフィーくらいだと思うんだけど……まあ……ナナトスが知ってる時点で彼の周りには伝わっているかもしれない。
まさか私が色んなものストックしていること、町でも結構知れ渡っているのか?
「フレアハルト様、丼物でよろしいですか?」
「ああ、頼む」
「丼物とは何ですか?」
サンドニオさんに問われ、
「どんぶりという器にご飯をよそって、その上に具を乗せる食べ方ですよ。現在のアルトレリアでは普通に食べられています」
「ほ~、なるほど、ご飯食文化ならではですね。ここはパン食文化なのでそういう発想には思い至りませんでした」
◇
少しして、例の生肉を薄くスライスして焼いたもの、ひき肉にして煮てそぼろにしたもの、肉を角切りにして焼いたものを乗せた三色丼が出て来た。
“三色”と言いつつも。どんぶりに乗ってる色は全部茶色だが……
「見事に肉ばっかり……」
「申し訳ありません、フレアハルト様が野菜をお召し上がりにならないので……」
「なっ! ここでそれを言うな! またアルトラが野菜を食べさせようとしてくるではないか!」 (第59話参照)
「フレハル様偏食ですからね~」
「ふ~ん……アルトレリアに帰ったら、あなたの家に野菜詰め合わせのプレゼントが届くから楽しみにしててね」
「うっ……いらぬ、突き返してやるわ!」
「サンチョさんもいかがですか?」
アリサが砂嵐で裂けた幌を修繕していたサンチョさんにも料理を勧める。
「あ、ありがたいです」
「ところでこの肉って何の肉なんですか?」
「デザートオストリッチという砂漠の生物を捕って生活する大きな鳥です。性格は体格の割には大人しく、地熱のある火山地帯付近に卵を産み、地熱で孵化します。卵も大きいので食料不足時の味方なんですよ。現在はこの国の色んな地域で飼育されています」
「へぇ~」
オストリッチって言うと……ダチョウかな?
しかし、今さり気なく『食料不足』という単語が……やっぱり国があまり上手くいってないんだな。
軽い談話を交えながら食事を済ませた頃には砂嵐の勢いは弱くなり――
「さて、食事も済ませましたし、砂嵐も弱くなったのでそろそろ出発致しましょう」
魔界には太陽が無いため、地球で言うところの夜の砂漠の側面しかない。その所為で気温が低いとマイナスにまで下がるらしい。
「さ、寒いな……」
「息が白いよ!」
「水や寒さに多少強くはなりましたが、わたくしたちには少々厳しい寒さですね……」
「ホントだ、肌寒い」
冷気感知限界で二十度までしか感じられない私には、ここの気温が氷点下かどうかは分からないが、この肌寒さを考えると冷気感知限界以下になっているのは確かだ。 (冷気感知限界については第7話参照)
「これで肌寒い!? お主どうかしてるぞ? 雪が降るくらい寒いぞ……」
「あなたには分からない感覚だろうけど、私には割と快適なのよ、ここ」
「って言うか、降ってますよ!! 雪がチラついてます!!」
「これのどこが火の国なのだ! 寒さの国ではないか!」
確かに……火の国と聞いていたが、大分イメージと違うな……これだとむしろ氷の国とか砂の国とかのイメージでしかない。
「この辺りは遮蔽物が無く、粒子の細かい砂が多いため、常に放熱され氷点下を下回ることがほとんどなのです。毛布は駱駝車に備え付けですので、どうぞ」
「私はいらないから三人が使って」
私は外套だけ十分。これを羽織ってるだけでも暑いくらいなので毛布をレッドドラゴン三人に譲る。
砂漠へ出発に際して、早速真っ暗な空に光魔法で光源を浮かべる。これで外敵からの不意の襲撃にも対応できるだろう。
光を浮かべると、逆に狙われやすくなるのではないかと思うが、暗闇で進む方が危険度が高いらしい。
砂漠にいるモンスターは、暗闇でも平然と襲ってくるため、光のある環境に慣れた亜人は暗闇で進む方がリスクが高い。
光があることにより砂賊には狙われ易くなるが、反面周囲を明るく照らすことによって警戒もし易くなるため、暗闇を進むか光を点けて進むかの二択を迫られれば、光を選択した方が幾分か安全らしい。
狙われ易くなる意味でも、護衛を雇っての通商は常識。
お金に余裕があるなら、それに加えて水魔法や光魔法の熟達した魔術師を雇えば、本体とはかなり離れたところに幻影魔法で本体のビジョンを映し出して撹乱したり、水魔法や光魔法で光の屈折率を変えて駱駝車ごと隠したりして工夫し、砂賊に悟られないように進む隊商もあるらしい。
砂漠を進んでいる最中に突然『ボウッ!』という音と共に遠くで赤い光が立ち昇った。
「うわ! なに!?」
突然の赤い光に驚いたところ、砂漠のところどころで火柱のような現象が起こっている。
「地面から噴き出すガスが発火して、明かりを灯してくれます。そのため、電気は無くとも見えないほど真っ暗というわけではありません」
と言い終わった直後に火柱が消えて、私の浮かべた光源以外は真っ暗に。
「………………もっとも……規則性のあるものではないので、時折真っ暗になりますが……その場合は少しその場で待機して再点火されるのを待つのが良いでしょう。数秒から数十秒もすれば、次の明かりが灯りますから」
「発火する原理が分からないんですけど……?」
こんな氷点下の場所でどこに火種があるんだ?
「火山地帯の多い我が国には火の下位精霊が好んで住みます。彼らは引火物を好むためガスが噴出した瞬間に火を灯そうとする性質があるのです。それと同時に沢山の火の下位精霊が火柱の魔力に反応して付近を飛び交うので、その場は更に明るく照らされます」
あ~、この可燃物を好む火の下位精霊の性質は以前ピラミッドに行った時に聞いてるわ。 (第358話参照)
地球でそんな現象はあり得ないから、考えることすらできなかった! これは案外凄い特徴なのかもしれない!
「なるほど~、その可燃性ガスって、私たちが今居る真下から出てくることはないんですか?」
「安全地帯として道が確保されているため、基本的に我々の通行する場所の真下から出てくることはありません。が……時折想定外の場所から出てきて焼け死ぬ者があります……まあそんなのは非常に稀な出来事ですがね」
それは結構危ないんじゃないの?
「こんなにガスが噴出するんじゃ、住んでる人たちは大変なんじゃないんですか?」
「歴代ルシファー様の御力により、溶岩の流れを操って首都がある場所、人々が多く住んでいる場所は火山地帯ではなくなっております。そのため周囲の地熱やガスを利用して、豊かな生活ができるようになっているのです」
火の魔王って言うくらいだから、溶岩操作まで可能ってことなのか。自然環境まで変えてしまえる魔王って……凄いな。
「もっとも……現在は首都へ一極集中してしまって、豊かと言って良いかどうか疑問ですが……」
「え?」
「いえ、少々口が過ぎました。もう少し進むと火山地帯が多くなるため、ガスが途切れることなく常に明かりが灯された状態になります。さあ首都へは川に沿って向かいますよ!」
◇
少し進むと風が強くなってきた。
そしてすぐに風は砂嵐に変貌。
「さささ、寒い!! な、何とかならんのか!? 駱駝車の入口が風でめくれ上がってるぞ!」
「こんなの凍っちゃいますよぉ!!」
その時、フレアハルトから緊急事態が伝えらえれる。
「おい! 風で幌が裂けたぞ!?」
「外に居る御者の方は大丈夫なのでしょうか?」
「これは危険ですね、一旦岩陰に隠れてやり過ごしましょう」
サンドニオさんがそう言うと、外で御者をやっているサンチョさんに声をかける。
「サンチョさん! あの岩陰で砂嵐が止むまで休みましょう」
「了解しました!」
岩陰は多数の岩に囲まれていて、砂嵐をやり過ごすには都合が良かった。
「少々早いですが、砂嵐を避けつつ食事と致しましょう」
「火はどこに起こすんですか? 見たところ枯れ木とかそういったものも周りには無さそうですし。着火自体は火魔法で何とかなりますが、それを着火する素材がありません。樹魔法を使っても枯れ木を作るのは難しいですし……」
創成魔法ならそんなの関係無しに枯れ木自体を創れるが、彼らの素性がよくわからない現在に至っては、まだ使わずにおきたい。
「問題ありません。砂漠の外から砂嵐が折れた木の枝や幹を運んできますので、砂に埋もれているだけでそこら中に散らばっています。集めてきますので少々お待ちください」
「あ、集めてきますのでって、この砂嵐の中を行くんですか!? ガラス状の砂も舞っているのでは危険なのでは?」
「いえ、砂の中を潜って行きます」
「え?」
サンドニオさんがそう言うと、少し離れた場所まで歩き――
砂山に飛び込んだ!?
「ちょっ、何やってるんですか!? 大丈夫ですか!?」
声をかけるも返事は無し。
「え? まさかもう居なくなってる?」
突然目の前から消えたサンドニオさんに少しの間呆気に取られていると、後ろで見ていたレドナルドさんが状況を説明してくれた。
「サンドニオら砂漠の半魚人族は砂の中を泳ぐ種族なのです。しばらくすれば枯れ木を持って戻ってくると思います」
「砂の中を泳ぐ種族!?」
「ええ、あっという間に十メートル、二十メートル進んでいますから」
砂の中を泳ぐなんて創作上だけの話かと思ってたけど、砂を泳ぐ生物っているんだ。
◇
ものの十分もした頃――
バサッと砂がかき分けられ、サンドニオさんが帰還。
「お待たせしました。枯れ木を集めてまいりました」
手際よく木を山の形に寄せ、そこにレドナルドさんが炎を吐きかけてたき火にする。
「火は用意できましたが、料理は不得手でして……丸焼きでよろしいですか?」
「「「「丸焼き!?」」」」
「まさか、生肉を焼くだけとは言わぬよな?」
「ええまあ、その通りですが……我々は料理人ではないので串で刺して焼くくらいしかできません」
鉄製の串を駱駝車内に用意してあったらしく、それらを取り出す。
「味付けは?」
「塩ですが……何か問題が?」
「焼いて塩振りかけるだけなのか!? 我はもう少し美味いものが食べたい」
「私も塩だけってのはちょっとねぇ~……」
フレアハルトもレイアも舌肥えたな~。
贅沢言うなよ、とは思いつつ、私も肉を直火で焼いて塩振っただけのものはちょっとな……アレが何の生肉かも分からんし……
丸焼きを料理と言うなら、私が作った方がまだマシだ。ここはまた私の出番か?
「ではわたくしが調理しましょう。アルトラ様、調味料と調理器具をお持ちですよね?」
と、思ったらアリサがやってくれるらしい。
それにしても何でアリサが私が調味料や調理器具を持ってること知ってるんだろう……持ってるのを知ってるのはロクトスとナナトス、あとメイフィーくらいだと思うんだけど……まあ……ナナトスが知ってる時点で彼の周りには伝わっているかもしれない。
まさか私が色んなものストックしていること、町でも結構知れ渡っているのか?
「フレアハルト様、丼物でよろしいですか?」
「ああ、頼む」
「丼物とは何ですか?」
サンドニオさんに問われ、
「どんぶりという器にご飯をよそって、その上に具を乗せる食べ方ですよ。現在のアルトレリアでは普通に食べられています」
「ほ~、なるほど、ご飯食文化ならではですね。ここはパン食文化なのでそういう発想には思い至りませんでした」
◇
少しして、例の生肉を薄くスライスして焼いたもの、ひき肉にして煮てそぼろにしたもの、肉を角切りにして焼いたものを乗せた三色丼が出て来た。
“三色”と言いつつも。どんぶりに乗ってる色は全部茶色だが……
「見事に肉ばっかり……」
「申し訳ありません、フレアハルト様が野菜をお召し上がりにならないので……」
「なっ! ここでそれを言うな! またアルトラが野菜を食べさせようとしてくるではないか!」 (第59話参照)
「フレハル様偏食ですからね~」
「ふ~ん……アルトレリアに帰ったら、あなたの家に野菜詰め合わせのプレゼントが届くから楽しみにしててね」
「うっ……いらぬ、突き返してやるわ!」
「サンチョさんもいかがですか?」
アリサが砂嵐で裂けた幌を修繕していたサンチョさんにも料理を勧める。
「あ、ありがたいです」
「ところでこの肉って何の肉なんですか?」
「デザートオストリッチという砂漠の生物を捕って生活する大きな鳥です。性格は体格の割には大人しく、地熱のある火山地帯付近に卵を産み、地熱で孵化します。卵も大きいので食料不足時の味方なんですよ。現在はこの国の色んな地域で飼育されています」
「へぇ~」
オストリッチって言うと……ダチョウかな?
しかし、今さり気なく『食料不足』という単語が……やっぱり国があまり上手くいってないんだな。
軽い談話を交えながら食事を済ませた頃には砂嵐の勢いは弱くなり――
「さて、食事も済ませましたし、砂嵐も弱くなったのでそろそろ出発致しましょう」
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