400 / 487
第15章 火の国ルシファーランド強制招待編
第390話 砂漠渡りの準備
しおりを挟む
翌日――
「砂漠を進みますので、それ用の外套を用意させていただきました」
「アルトラ、外套とは何だ?」
「服の上に着るフード付きのコートみたいな……雨風を凌ぐような服装ってところかな。フードが無いものもあるけど」
「ああ、冬にエルフィーレの店で売っておったアレか。何で砂漠を歩くのにそんなものが必要なのだ?」
「え~と、日差し……は、ここには無いか」
地球の砂漠では日差しから守るのにはかなり有効だと思うが、ここには日差しが無いから詳しくは分からないな。現地人のサンドニオさんに聞いた方が早い。
「なぜ外套が必要か説明していただけますか?」
「強い風で砂が飛んで来るため、砂嵐などで怪我を負わないためです。この外套は耐火性、耐寒性にも優れております。今から行く砂漠は火山地帯が多いため熱にも強い外套は必須なのです。それと目を守るためのサンドグラスもどうぞ。火山地帯が多い関係上、砂にはガラス質の砂が混じっています。目に入ると視力の低下や失明の恐れもありますので」
「……火山地帯の砂? だとしたらそんなもの……火山内部に住んでる我らには必要無いと思うが……」
とフレアハルトが小声で私につぶやく。
「……う~ん……火山の内部と砂漠の火山地帯は一緒にしない方が良いかもね。目は大事よ?」
『外套』とゴーグルのようなメガネ『サンドグラス』を受け取った。
「砂漠は寒いところが多く、場所によっては寒暖の差が激しいので、防寒具もどうぞ。外套の下に着ておいてください。火山地帯を通る時や王都に近くなれば比較的温暖になりますが、それまでは必要かと思います」
厚めの服や手袋を渡された。
「火の国なのに寒いのか? 聞いておらんぞ?」
「ああ、そういえばこれ聞いた時あなた船酔いで寝てたからね」
「火の国と言うくらいなのだから国中燃え盛っておるのではないのか? 我らにとって過ごし易い土地かと思っていたのだが……」
アリサと同じ勘違いをしている。
私も同じように思ってたからそう思うのも無理も無い。何せ水の国は水資源が豊かな国、雷の国は雷が雨のように落ちる国、樹の国は大森林のある自然豊かな国と、特徴がそのまま国の名前になってたから、火の国が燃えていると思っていてもおかしくはない。
いや、そんなことはこの際どうでも良いか。それよりも昨日頼んでおいたことが重要だ。
「ところで、砂漠を渡るための駱駝車は用意していただけましたか?」
「はい、昨日ギリギリ一台だけ借りて確保しておくことができました。では参りましょう」
◇
用意された駱駝車は、本来車輪のある部分がソリ状になっており、砂地を進むのに適した構造をしている。それ以外の部分は馬車とあまり変わりない。
車内には長椅子があり、椅子に座った状態で移動できる。
駱駝車のボディには耐火性のコーティングが施され火山地帯に近付き過ぎたことによる自然発火を抑える工夫がされ、幌も火に強い素材で編まれている。
とは言え、近付き過ぎれば燃えてしまうので火山地帯にはなるべく近寄らないように移動するらしい。
「ほう、これが駱駝車か。アルトレリアを走ってる馬車とはタイヤの形状が違うのだな」
「引いてるのも馬じゃないですね~。馬より不細工です」
「そうですか? まつ毛が沢山あって可愛らしいですよ?」
牽引してくれるのは、二頭のフラムキャメルという体毛の赤いラクダ。その名の通り熱に強く、火山地帯を歩くのに適した身体構造をしているらしい。足は大きく、接地面積も広いため砂に沈みにくく、砂地を歩くにも適している。身体自体も熱に強いが、赤色の体毛は火が点かない特徴があるとか。
この体毛で服を編んだら防火性の服が作れそうだ。もしかして、さっき渡された外套にはこれが編みこまれてるとか?
「あ、このラクダって生物、脚が四本しかありませんよ!?」 (※)
「いや、脚が六本ある馬の方が珍しいから」
「そういえば! 外国からアルトレリアに来る隊商が連れてる馬って四本脚ばかりでしたね!」
(※脚四本:アルトレリアの馬は脚が六本あります)
乗り物を用意されて浮かれていたが、そういえばこれのレンタル料金がどれくらいか聞いてなかった。
「駱駝車のレンタル代金はおいくらですか?」
「王都までですと二十万フラムいただきます」
「二十万……」
え~と……二十万フラムは現在のレートでは十六万六千ウォルちょっと……カイベルによるとウォルが日本円と同等くらいの価値らしいから十六万円?
高っかっ! 駱駝車のレンタル料の相場がいくらなのかなんてわからないけど、流石に二十万は取りすぎでしょ!
足元見られてる?
「サンドニオさん!! べ、別のところで頼みましょう。流石に高過ぎる!」
「確かに高いですね……これほどするとは……先に値段を聞いておくべきでしたね……」
「どうするんだい? 断っても良いぞ? まあ断って別のところを探しても、次に借りられるのは三日先になるか一週間先になるか、どうなるかね~」
ニヘヘとした店主のほくそ笑み。
完っ全に足元見られてる!
別のところにしようと提案したものの、周囲を見ると王都へ向かおうとする恰幅の良い商人ばかり。
「うぅ……」
確かにここで断ったら、彼らに取られてしまうかもしれない。せっかくギリギリ一台だけ借りられたサンドニオさんの努力も無駄にしてしまう。
断ったら何日もここに滞在しなければならない可能性があるのか……こんな砂まみれで質素な宿に……
最悪、歩いて砂漠を渡らないといけないかもしれない。
それに早いとここんな招待自体を終わらせてしまいたいし……
「も、もう少し安くなりませんか?」
もう多少高いのは仕方ないとして、値下げ交渉してみることにした。
「十万フラムでお願いします!」
「提示額の二分の一!? あんた良い度胸してるね。それは安すぎでしょ、十八万」
「じゃあ十三万」
「十五万、これ以上は下げられない」
ちょっと交渉しただけで五万も下がるなんて、相当足元見られてるようだ……
「も、もう少し、十二万で」
「いいや! 十五万だ! これ以上粘るようなら別の者に――」
「ちょ、ちょっと待ってください! わかりました! 十五万で貸してください!」
値下げ交渉したことなんて数えるほどしかない私には苦手な分野だ。
何かの漫画には、店主に「帰ってくれ」と言われてからが本番って書いてあった気がする。そう考えると私のやり方はまだまだ甘々の甘ちゃんなのだろう。
とは言え、値下げ交渉の結果、五万フラム負けてもらえ、十五万フラムで貸してもらえることになった。
発電施設への支払いもあるし、余裕のある経済状況とは言えないのに……こんな、『移住を断りに行くためだけの旅』で十五万フラム = 十二万五千ウォル = 二十五万イェンも使うなんて……
アルトレリアに売っている、大分良さめの電化製品が買える値段をレンタル代金として支払うハメになるとは……
不満しかないが、砂漠を進む以上必要な経費と割り切ろう。
「今回御者を務めさせていただきます、サンチョと申します」
「はい、サンチョさんよろしくお願いします」
◇
無事に駱駝車を借りられ、一度宿に戻り、水と食料を詰め込む。
「ん? 生肉?」
砂漠に行くのに生肉?
「腐らないんですか?」
「いいえ? 砂漠は寒いのでほとんど痛みません。火山地帯に長く居れば傷むかもしれませんが、ほとんどはすぐに通過しますので」
あ、そうか、ここの砂漠って寒いんだっけ。
氷点下とか言ってたから、暖かいところから冷凍庫へ持って行くようなもんか。そりゃ腐らんわ。
「それと我々はある程度の腐肉でも大丈夫なので、傷んだものを我々が、比較的新鮮なものをアルトラ殿やフレアハルト殿が食べていただければ大丈夫ですので。しかしこの旅で腐るところまで傷むようなことは無いので生で持って行っても大丈夫だと思います」
この人たちも腐肉は大丈夫なのね。
ってことは、このパーティー傷みもの食べられない人いないんじゃないかしら?
私は猛毒でも平気だし、フレアハルトたちも食中毒程度なら全く問題ないらしいし。それなら特に問題は無いか。
「これで何日分なんですか?」
「二日分ほどです」
「二日分?」
確かアルトレリアを出発時に一週間ほどかかるって聞いた気がするけど……
海路で三日、砂漠で二日じゃ、あと二日分足りない気が……
「砂漠を渡るのにどれくらいかかるんですか?」
「何もトラブルが無ければ三日から四日というところです」
何だか“トラブルはあるかもしれない”って言ってるように聞こえるな……
「三日から四日では食料足りないのでは?」
まあ、足りなくても食材は亜空間収納ポケットに沢山入ってるから問題無いとは思うけど……わざわざ“足りてない分”が用意されたのが気になる。
「途中に町がありますので、そこで調達していきます」
なるほど、そこまでが二日ほどってわけか。
この港町イルエルフュールが“マシな部類”という話を市場で聞いたから、もしかしたら今から向かう町は治安がかなり悪いのかもしれない。
だから『何もトラブルが無ければ』ってことなのかも。
「荷物の詰め込みも終わりましたし、それでは出発致しましょう」
「砂漠を進みますので、それ用の外套を用意させていただきました」
「アルトラ、外套とは何だ?」
「服の上に着るフード付きのコートみたいな……雨風を凌ぐような服装ってところかな。フードが無いものもあるけど」
「ああ、冬にエルフィーレの店で売っておったアレか。何で砂漠を歩くのにそんなものが必要なのだ?」
「え~と、日差し……は、ここには無いか」
地球の砂漠では日差しから守るのにはかなり有効だと思うが、ここには日差しが無いから詳しくは分からないな。現地人のサンドニオさんに聞いた方が早い。
「なぜ外套が必要か説明していただけますか?」
「強い風で砂が飛んで来るため、砂嵐などで怪我を負わないためです。この外套は耐火性、耐寒性にも優れております。今から行く砂漠は火山地帯が多いため熱にも強い外套は必須なのです。それと目を守るためのサンドグラスもどうぞ。火山地帯が多い関係上、砂にはガラス質の砂が混じっています。目に入ると視力の低下や失明の恐れもありますので」
「……火山地帯の砂? だとしたらそんなもの……火山内部に住んでる我らには必要無いと思うが……」
とフレアハルトが小声で私につぶやく。
「……う~ん……火山の内部と砂漠の火山地帯は一緒にしない方が良いかもね。目は大事よ?」
『外套』とゴーグルのようなメガネ『サンドグラス』を受け取った。
「砂漠は寒いところが多く、場所によっては寒暖の差が激しいので、防寒具もどうぞ。外套の下に着ておいてください。火山地帯を通る時や王都に近くなれば比較的温暖になりますが、それまでは必要かと思います」
厚めの服や手袋を渡された。
「火の国なのに寒いのか? 聞いておらんぞ?」
「ああ、そういえばこれ聞いた時あなた船酔いで寝てたからね」
「火の国と言うくらいなのだから国中燃え盛っておるのではないのか? 我らにとって過ごし易い土地かと思っていたのだが……」
アリサと同じ勘違いをしている。
私も同じように思ってたからそう思うのも無理も無い。何せ水の国は水資源が豊かな国、雷の国は雷が雨のように落ちる国、樹の国は大森林のある自然豊かな国と、特徴がそのまま国の名前になってたから、火の国が燃えていると思っていてもおかしくはない。
いや、そんなことはこの際どうでも良いか。それよりも昨日頼んでおいたことが重要だ。
「ところで、砂漠を渡るための駱駝車は用意していただけましたか?」
「はい、昨日ギリギリ一台だけ借りて確保しておくことができました。では参りましょう」
◇
用意された駱駝車は、本来車輪のある部分がソリ状になっており、砂地を進むのに適した構造をしている。それ以外の部分は馬車とあまり変わりない。
車内には長椅子があり、椅子に座った状態で移動できる。
駱駝車のボディには耐火性のコーティングが施され火山地帯に近付き過ぎたことによる自然発火を抑える工夫がされ、幌も火に強い素材で編まれている。
とは言え、近付き過ぎれば燃えてしまうので火山地帯にはなるべく近寄らないように移動するらしい。
「ほう、これが駱駝車か。アルトレリアを走ってる馬車とはタイヤの形状が違うのだな」
「引いてるのも馬じゃないですね~。馬より不細工です」
「そうですか? まつ毛が沢山あって可愛らしいですよ?」
牽引してくれるのは、二頭のフラムキャメルという体毛の赤いラクダ。その名の通り熱に強く、火山地帯を歩くのに適した身体構造をしているらしい。足は大きく、接地面積も広いため砂に沈みにくく、砂地を歩くにも適している。身体自体も熱に強いが、赤色の体毛は火が点かない特徴があるとか。
この体毛で服を編んだら防火性の服が作れそうだ。もしかして、さっき渡された外套にはこれが編みこまれてるとか?
「あ、このラクダって生物、脚が四本しかありませんよ!?」 (※)
「いや、脚が六本ある馬の方が珍しいから」
「そういえば! 外国からアルトレリアに来る隊商が連れてる馬って四本脚ばかりでしたね!」
(※脚四本:アルトレリアの馬は脚が六本あります)
乗り物を用意されて浮かれていたが、そういえばこれのレンタル料金がどれくらいか聞いてなかった。
「駱駝車のレンタル代金はおいくらですか?」
「王都までですと二十万フラムいただきます」
「二十万……」
え~と……二十万フラムは現在のレートでは十六万六千ウォルちょっと……カイベルによるとウォルが日本円と同等くらいの価値らしいから十六万円?
高っかっ! 駱駝車のレンタル料の相場がいくらなのかなんてわからないけど、流石に二十万は取りすぎでしょ!
足元見られてる?
「サンドニオさん!! べ、別のところで頼みましょう。流石に高過ぎる!」
「確かに高いですね……これほどするとは……先に値段を聞いておくべきでしたね……」
「どうするんだい? 断っても良いぞ? まあ断って別のところを探しても、次に借りられるのは三日先になるか一週間先になるか、どうなるかね~」
ニヘヘとした店主のほくそ笑み。
完っ全に足元見られてる!
別のところにしようと提案したものの、周囲を見ると王都へ向かおうとする恰幅の良い商人ばかり。
「うぅ……」
確かにここで断ったら、彼らに取られてしまうかもしれない。せっかくギリギリ一台だけ借りられたサンドニオさんの努力も無駄にしてしまう。
断ったら何日もここに滞在しなければならない可能性があるのか……こんな砂まみれで質素な宿に……
最悪、歩いて砂漠を渡らないといけないかもしれない。
それに早いとここんな招待自体を終わらせてしまいたいし……
「も、もう少し安くなりませんか?」
もう多少高いのは仕方ないとして、値下げ交渉してみることにした。
「十万フラムでお願いします!」
「提示額の二分の一!? あんた良い度胸してるね。それは安すぎでしょ、十八万」
「じゃあ十三万」
「十五万、これ以上は下げられない」
ちょっと交渉しただけで五万も下がるなんて、相当足元見られてるようだ……
「も、もう少し、十二万で」
「いいや! 十五万だ! これ以上粘るようなら別の者に――」
「ちょ、ちょっと待ってください! わかりました! 十五万で貸してください!」
値下げ交渉したことなんて数えるほどしかない私には苦手な分野だ。
何かの漫画には、店主に「帰ってくれ」と言われてからが本番って書いてあった気がする。そう考えると私のやり方はまだまだ甘々の甘ちゃんなのだろう。
とは言え、値下げ交渉の結果、五万フラム負けてもらえ、十五万フラムで貸してもらえることになった。
発電施設への支払いもあるし、余裕のある経済状況とは言えないのに……こんな、『移住を断りに行くためだけの旅』で十五万フラム = 十二万五千ウォル = 二十五万イェンも使うなんて……
アルトレリアに売っている、大分良さめの電化製品が買える値段をレンタル代金として支払うハメになるとは……
不満しかないが、砂漠を進む以上必要な経費と割り切ろう。
「今回御者を務めさせていただきます、サンチョと申します」
「はい、サンチョさんよろしくお願いします」
◇
無事に駱駝車を借りられ、一度宿に戻り、水と食料を詰め込む。
「ん? 生肉?」
砂漠に行くのに生肉?
「腐らないんですか?」
「いいえ? 砂漠は寒いのでほとんど痛みません。火山地帯に長く居れば傷むかもしれませんが、ほとんどはすぐに通過しますので」
あ、そうか、ここの砂漠って寒いんだっけ。
氷点下とか言ってたから、暖かいところから冷凍庫へ持って行くようなもんか。そりゃ腐らんわ。
「それと我々はある程度の腐肉でも大丈夫なので、傷んだものを我々が、比較的新鮮なものをアルトラ殿やフレアハルト殿が食べていただければ大丈夫ですので。しかしこの旅で腐るところまで傷むようなことは無いので生で持って行っても大丈夫だと思います」
この人たちも腐肉は大丈夫なのね。
ってことは、このパーティー傷みもの食べられない人いないんじゃないかしら?
私は猛毒でも平気だし、フレアハルトたちも食中毒程度なら全く問題ないらしいし。それなら特に問題は無いか。
「これで何日分なんですか?」
「二日分ほどです」
「二日分?」
確かアルトレリアを出発時に一週間ほどかかるって聞いた気がするけど……
海路で三日、砂漠で二日じゃ、あと二日分足りない気が……
「砂漠を渡るのにどれくらいかかるんですか?」
「何もトラブルが無ければ三日から四日というところです」
何だか“トラブルはあるかもしれない”って言ってるように聞こえるな……
「三日から四日では食料足りないのでは?」
まあ、足りなくても食材は亜空間収納ポケットに沢山入ってるから問題無いとは思うけど……わざわざ“足りてない分”が用意されたのが気になる。
「途中に町がありますので、そこで調達していきます」
なるほど、そこまでが二日ほどってわけか。
この港町イルエルフュールが“マシな部類”という話を市場で聞いたから、もしかしたら今から向かう町は治安がかなり悪いのかもしれない。
だから『何もトラブルが無ければ』ってことなのかも。
「荷物の詰め込みも終わりましたし、それでは出発致しましょう」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
63
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる