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第15章 火の国ルシファーランド強制招待編
第389話 港町イルエルフュール
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「やっと船も終わりか! 着いてみれば出航直後の気持ち悪さが懐かしく感じるな」
まだ三日前に出来事なのに……
「懐かしがらなくても、帰りにもう一度乗るよ」
と言った私の言葉に、前を歩いていたフレアハルトとレイアが目を丸くして勢い良く振り返った。
「ま、まあ、もう気持ち悪くなることはあるまい」
「もももう慣れましたからね! だ、大丈夫ですよ、きっと!」
「それはどうかな? 陸に上がったら船の感覚忘れるらしいし」
悪戯心が興じ、二人の不安を煽る。
「ままままた、あの気持ち悪いのを繰り返さないといけないのか……!?」
「も、もう私自分で飛んで帰ります!」
「冗談冗談、帰りは私のゲートが使えるから、もう乗ることはないよ」
心底安堵したような顔をする二人。
ここからは陸の上だから、特に心配することもないかな。
と、この時は考えていたのだが……
◇
船を降りる直前にサンドニオさんとレドナルドさんと合流。
「そのまま砂漠へ出るようかとも思いましたが、まだ船旅の疲れが癒えていないでしょうから今日のところはこの町で宿を取って明日出発と致しましょう」
「我々は元気だが、そのまま砂漠へ行っても良いぞ?」
「船降りたらスッキリしましたよね~」
船を降りて調子が戻って来たようだ。
「そうですか? では二時間ほどお待ちください。砂漠渡りの準備をしてまいります」
「あの……」
「はい? アルトラ殿、どう致しましたか?」
「もしかして砂漠を歩いて向かうとかではないですよね?」
「そうですが? 何か問題でも?」
砂漠を歩くの!? 何十キロもの道のりを!?
「ば、馬車とか無いんですか?」
「わたくしども程度の身分では……」
この国の王様、ホントに人を招く気があるのだろうか?
「じゃ、じゃあ私がお金を出しますから、砂漠を進む移動手段を何か借りられませんか?」
「大分お高いですよ?」
「それでも歩きたくないんです!」
砂まみれのところを徒歩で何十キロも進むなんてごめんだ!
「では、フラムキャメルという駱駝車があります。車と言いつつも、砂ゾリのような構造の車ですが幌もかけられておりますし、砂除けにもなります」
「じゃあ、それの手配をお願いします!」
「妖精はどう致しますか?」
「妖精? 妖精をどうするんですか?」
私の頭の中で駱駝車と妖精の単語が結び付かない。
突然『妖精をどうするか』と言われても何のことやら……
「砂漠は真っ暗ではありませんが、電灯の類は整備されておりませんから、光源となる妖精は必要かと思いまして」
ああ、駱駝車近辺を照らしてもらうために、光魔法を使える妖精を雇うかどうかって話か。
「それでしたら、私が光魔法を使えますから雇わなくても結構です」
「了解しました。では、借りられるよう手配してきますので。この町に泊まることになります。宿泊場所にご案内しますので、わたくしに付いてきてください」
サンドニオさんに付いて少し歩いた後――
「アルトラ……」
「どうかした?」
何だかフレアハルトの顔色が悪い。
いや、三人とも何だか口数が少ない。
「何か気持ち悪い……」
「じ、実は私もです」
「わたくしも少々……」
今度はアリサもか。
「きっと『陸酔い』したのでしょう。宿泊場所もすぐ近くですので、今日のところはじっくりお休みください」
◇
今日宿泊する宿まで案内してもらった。
「この宿に泊まります。ここの店主は親切丁寧ですので、困りごとがあればご相談ください。宿泊手続きはしておきましたので、ごゆるりとお過ごしください。わたくしどもは少々席を外させていただきます」
「あ、はい、お構いなく」
そう言ってサンドニオさんとレドナルドさんはどこかへ出かけて行った。
あの二人が去って少し疑問が起こった。
何だか手際が良過ぎる。
あの二人本当に奴隷なのだろうか?
奴隷と言うには色んなことを知りすぎている。奴隷に宿の手続きや馬車の用意ができるものなのか?
いやまあ、私も本物の奴隷を見たことがないから偏見でしかないのかもしれない。生前読んだ漫画の中には『うちの奴隷が陽気すぎる』なんていうどう見ても奴隷っぽい性格じゃない万能奴隷だっていたし。彼らがそうでないとは限らない。
が、一般的な奴隷のイメージは、ご主人様に付きっ切りで身の回りの世話をしたり、主人によっては虐げられたり、粗相をして地下牢で拷問を受けるというような印象が強い。勉学に時間を割けるほど待遇の良い奴隷なのだろうか?
彼らは受け答えはハッキリしているし、多少オドオドしているものの、それほど周囲を怖がっている様子も無い。オドオドしてるのだって演技って可能性も……
それに奴隷って、逃げないように主人が近くに居るのが普通なのではないのか? 約定魔法で隷属させられていて、逃げられないようになっている可能性はあるけど……
奴隷と言うのが本当のことか、もしくは演技か、口では奴隷と言っていて実は全然違う役職に就いている可能性もある。
いずれにせよ全面的に信用せずに少し注意しておいた方が良いかもしれない。アルトレリア出発時の彼らの話でちょっと同情方向に傾いてしまっているけど、そもそも警戒すべき火の国の亜人だし。
まあ、それは置いといて今はきちんと休息させてもらおう。
サンドニオさんが案内してくれた宿は、今まで行ったどの宿泊施設よりもしょぼ……質素な部屋だった。
部屋は薄暗く、蛍光灯が三つある程度。
ベッドは四つあるが、きちんと清掃されているとは思えない。港町だが砂漠近くということもあってか、砂埃が部屋の四隅に固まっていたりする。
船で首都へは近付いたが、まだまだ辺境という感じ。
「ベッド四つ……?」
全員同じ部屋なのか?
「フレハルもこの部屋に泊まるの?」
「何か問題あるか?」
「そりゃ――」
『大ありでしょ』と言いかけたところ、レイアに。
「特に問題無いですよ」
と先に言われてしまった。
………………まあ、フレハルなら別に良いか。着替えの時とかは少し部屋の外に出ていてもらえば。
「問題無いなら我は早々に寝させてもらう。海上ほどではないが、陸酔いがまだ治まらんからな……」
「あ、私も」
「わたくしも失礼します」
「あ、みんな、お風呂は?」
海風で身体がベタベタすると思うんだけど……
「気分悪いんで一旦寝たいです……」
「わたくしも……」
と言って、全員寝てしまった。
みんなお早い就寝で……
じゃあ私は少し町の散策でもして情報を集めようか。
◇
港町というだけあり、それなりに活気があるように見える。
電気設備も行き届いていて、樹の国の第一首都よりも電気が使われているように見受けられる。ただし、あちらは光を咲かせる花が植えられていた分、ここより光量が幾分か多かった。
町の気温は温暖。これも他の町同様、町に熱を供給するような魔術師やシステムがあるのだろう。
「そういえば、サンドニオさんが火の国にも水棲の半魚人が居るって言ってたな」
漁業に従事している者には水棲亜人が多いようだ。
しかし太陽の存在しない魔界にあっては、水棲亜人の活躍が漁業の要になりそうだ。
なにせ肺呼吸の陸棲亜人と比べると、海での活動は段違いに効率が良い。加えて、空気の無い水の中で死ぬ危険性が極めて低いと、大きなアドバンテージを持つ。
漁業については独壇場と言っても良さそうだ。
しかし、働いている彼らの表情を見ると、常に眉間にシワが寄りどこか不満げに働いている。
気になったので声をかけてみた。
「あの……」
「何だ?」
「なぜそんな不満げな表情で働いているんですか?」
こんなこと聞くのはきっと大きなお世話でしかないだろう。しかし、全員一様に渋い顔をしているのは嫌でも気になる。
「あんた外国人? フッ……町の市場を見てみれば俺たちの気持ちが分かるよ」
そう言い捨てると、その場から離れて行ってしまった。
◇
港の水棲亜人に促されて町に来てみた。
港同様それなりに賑わっているが、やっぱり何か雰囲気がおかしい。
何かに対する警戒感のようなものが住人から発せられている。
それに賑わいとは裏腹に住民と思われる人たちが着ている服は随分とみすぼらしい。
港町と言う割には、市場に並ぶ魚が少ないように思える。これが彼が言っていたことに繋がるのか?
逆に海から船で入ってくる外国人には金持ちそうな見た目の者が多いように見える。
「あの……」
「はい?」
「ここって港町なのに魚があまり釣れないんですか?」
「どうしてそう思うの?」
「海に近い町のはずなのに市場に卸されている魚が少ないと感じたので……」
「あんた外国人か? 魚の多くは王都へ運ばれるため、この町には少量しか出回らないんだよ。それだけじゃない、ここで水揚げされた物資はほとんどが王都へ流れるのさ。物資の流れも権力も王都へ一極集中してるんだ。だからこの町にはほとんどお金は落ちない。一部の既得権益者が儲かる程度だよ。そのくせ重税を課されている。お蔭で町にもあまり活気が無くなってきてしまって、こんな有様さ」
「おい、誰に聞かれるか分からんぞ。そのくらいにしておけ」
隣に居た仲間らしき人が制止する。
「この国も二十年余りで大分様変わりしてしまったよ。とは言えこの町は他の町に比べればまだマシな部類さ。忠告しておくよ、外国から来たんなら悪いことは言わないからさっさと別の国へ行った方が賢明だよ」
う~ん……これは予想以上に現ルシファー政権の評判は悪そうだ。
『水揚げされた物資は』って言ってたから、きっとあの金持ちそうな見た目の外国人が持ってきたものも王都へ流れるってことなのね。
火の国の国民が不満に思っているのはひしひしと伝わってくるけど、旅人の私に出来ることは何も無い。
このまま不満が大きくなれば、先日王都が陥落した氷の国同様反乱などが起こって王位は簒奪され、政権も変わることだろう。
私は私の目的を果たすため、早々に王都へ行って『火の国への移住』を断り、アルトレリアに帰ろう。
ひとしきり町を散策したら宿に戻り、お風呂に……入りたいと思ったが、水が少ない国らしく宿泊施設にはお風呂が存在せず……
今日のところは就寝。
まだ三日前に出来事なのに……
「懐かしがらなくても、帰りにもう一度乗るよ」
と言った私の言葉に、前を歩いていたフレアハルトとレイアが目を丸くして勢い良く振り返った。
「ま、まあ、もう気持ち悪くなることはあるまい」
「もももう慣れましたからね! だ、大丈夫ですよ、きっと!」
「それはどうかな? 陸に上がったら船の感覚忘れるらしいし」
悪戯心が興じ、二人の不安を煽る。
「ままままた、あの気持ち悪いのを繰り返さないといけないのか……!?」
「も、もう私自分で飛んで帰ります!」
「冗談冗談、帰りは私のゲートが使えるから、もう乗ることはないよ」
心底安堵したような顔をする二人。
ここからは陸の上だから、特に心配することもないかな。
と、この時は考えていたのだが……
◇
船を降りる直前にサンドニオさんとレドナルドさんと合流。
「そのまま砂漠へ出るようかとも思いましたが、まだ船旅の疲れが癒えていないでしょうから今日のところはこの町で宿を取って明日出発と致しましょう」
「我々は元気だが、そのまま砂漠へ行っても良いぞ?」
「船降りたらスッキリしましたよね~」
船を降りて調子が戻って来たようだ。
「そうですか? では二時間ほどお待ちください。砂漠渡りの準備をしてまいります」
「あの……」
「はい? アルトラ殿、どう致しましたか?」
「もしかして砂漠を歩いて向かうとかではないですよね?」
「そうですが? 何か問題でも?」
砂漠を歩くの!? 何十キロもの道のりを!?
「ば、馬車とか無いんですか?」
「わたくしども程度の身分では……」
この国の王様、ホントに人を招く気があるのだろうか?
「じゃ、じゃあ私がお金を出しますから、砂漠を進む移動手段を何か借りられませんか?」
「大分お高いですよ?」
「それでも歩きたくないんです!」
砂まみれのところを徒歩で何十キロも進むなんてごめんだ!
「では、フラムキャメルという駱駝車があります。車と言いつつも、砂ゾリのような構造の車ですが幌もかけられておりますし、砂除けにもなります」
「じゃあ、それの手配をお願いします!」
「妖精はどう致しますか?」
「妖精? 妖精をどうするんですか?」
私の頭の中で駱駝車と妖精の単語が結び付かない。
突然『妖精をどうするか』と言われても何のことやら……
「砂漠は真っ暗ではありませんが、電灯の類は整備されておりませんから、光源となる妖精は必要かと思いまして」
ああ、駱駝車近辺を照らしてもらうために、光魔法を使える妖精を雇うかどうかって話か。
「それでしたら、私が光魔法を使えますから雇わなくても結構です」
「了解しました。では、借りられるよう手配してきますので。この町に泊まることになります。宿泊場所にご案内しますので、わたくしに付いてきてください」
サンドニオさんに付いて少し歩いた後――
「アルトラ……」
「どうかした?」
何だかフレアハルトの顔色が悪い。
いや、三人とも何だか口数が少ない。
「何か気持ち悪い……」
「じ、実は私もです」
「わたくしも少々……」
今度はアリサもか。
「きっと『陸酔い』したのでしょう。宿泊場所もすぐ近くですので、今日のところはじっくりお休みください」
◇
今日宿泊する宿まで案内してもらった。
「この宿に泊まります。ここの店主は親切丁寧ですので、困りごとがあればご相談ください。宿泊手続きはしておきましたので、ごゆるりとお過ごしください。わたくしどもは少々席を外させていただきます」
「あ、はい、お構いなく」
そう言ってサンドニオさんとレドナルドさんはどこかへ出かけて行った。
あの二人が去って少し疑問が起こった。
何だか手際が良過ぎる。
あの二人本当に奴隷なのだろうか?
奴隷と言うには色んなことを知りすぎている。奴隷に宿の手続きや馬車の用意ができるものなのか?
いやまあ、私も本物の奴隷を見たことがないから偏見でしかないのかもしれない。生前読んだ漫画の中には『うちの奴隷が陽気すぎる』なんていうどう見ても奴隷っぽい性格じゃない万能奴隷だっていたし。彼らがそうでないとは限らない。
が、一般的な奴隷のイメージは、ご主人様に付きっ切りで身の回りの世話をしたり、主人によっては虐げられたり、粗相をして地下牢で拷問を受けるというような印象が強い。勉学に時間を割けるほど待遇の良い奴隷なのだろうか?
彼らは受け答えはハッキリしているし、多少オドオドしているものの、それほど周囲を怖がっている様子も無い。オドオドしてるのだって演技って可能性も……
それに奴隷って、逃げないように主人が近くに居るのが普通なのではないのか? 約定魔法で隷属させられていて、逃げられないようになっている可能性はあるけど……
奴隷と言うのが本当のことか、もしくは演技か、口では奴隷と言っていて実は全然違う役職に就いている可能性もある。
いずれにせよ全面的に信用せずに少し注意しておいた方が良いかもしれない。アルトレリア出発時の彼らの話でちょっと同情方向に傾いてしまっているけど、そもそも警戒すべき火の国の亜人だし。
まあ、それは置いといて今はきちんと休息させてもらおう。
サンドニオさんが案内してくれた宿は、今まで行ったどの宿泊施設よりもしょぼ……質素な部屋だった。
部屋は薄暗く、蛍光灯が三つある程度。
ベッドは四つあるが、きちんと清掃されているとは思えない。港町だが砂漠近くということもあってか、砂埃が部屋の四隅に固まっていたりする。
船で首都へは近付いたが、まだまだ辺境という感じ。
「ベッド四つ……?」
全員同じ部屋なのか?
「フレハルもこの部屋に泊まるの?」
「何か問題あるか?」
「そりゃ――」
『大ありでしょ』と言いかけたところ、レイアに。
「特に問題無いですよ」
と先に言われてしまった。
………………まあ、フレハルなら別に良いか。着替えの時とかは少し部屋の外に出ていてもらえば。
「問題無いなら我は早々に寝させてもらう。海上ほどではないが、陸酔いがまだ治まらんからな……」
「あ、私も」
「わたくしも失礼します」
「あ、みんな、お風呂は?」
海風で身体がベタベタすると思うんだけど……
「気分悪いんで一旦寝たいです……」
「わたくしも……」
と言って、全員寝てしまった。
みんなお早い就寝で……
じゃあ私は少し町の散策でもして情報を集めようか。
◇
港町というだけあり、それなりに活気があるように見える。
電気設備も行き届いていて、樹の国の第一首都よりも電気が使われているように見受けられる。ただし、あちらは光を咲かせる花が植えられていた分、ここより光量が幾分か多かった。
町の気温は温暖。これも他の町同様、町に熱を供給するような魔術師やシステムがあるのだろう。
「そういえば、サンドニオさんが火の国にも水棲の半魚人が居るって言ってたな」
漁業に従事している者には水棲亜人が多いようだ。
しかし太陽の存在しない魔界にあっては、水棲亜人の活躍が漁業の要になりそうだ。
なにせ肺呼吸の陸棲亜人と比べると、海での活動は段違いに効率が良い。加えて、空気の無い水の中で死ぬ危険性が極めて低いと、大きなアドバンテージを持つ。
漁業については独壇場と言っても良さそうだ。
しかし、働いている彼らの表情を見ると、常に眉間にシワが寄りどこか不満げに働いている。
気になったので声をかけてみた。
「あの……」
「何だ?」
「なぜそんな不満げな表情で働いているんですか?」
こんなこと聞くのはきっと大きなお世話でしかないだろう。しかし、全員一様に渋い顔をしているのは嫌でも気になる。
「あんた外国人? フッ……町の市場を見てみれば俺たちの気持ちが分かるよ」
そう言い捨てると、その場から離れて行ってしまった。
◇
港の水棲亜人に促されて町に来てみた。
港同様それなりに賑わっているが、やっぱり何か雰囲気がおかしい。
何かに対する警戒感のようなものが住人から発せられている。
それに賑わいとは裏腹に住民と思われる人たちが着ている服は随分とみすぼらしい。
港町と言う割には、市場に並ぶ魚が少ないように思える。これが彼が言っていたことに繋がるのか?
逆に海から船で入ってくる外国人には金持ちそうな見た目の者が多いように見える。
「あの……」
「はい?」
「ここって港町なのに魚があまり釣れないんですか?」
「どうしてそう思うの?」
「海に近い町のはずなのに市場に卸されている魚が少ないと感じたので……」
「あんた外国人か? 魚の多くは王都へ運ばれるため、この町には少量しか出回らないんだよ。それだけじゃない、ここで水揚げされた物資はほとんどが王都へ流れるのさ。物資の流れも権力も王都へ一極集中してるんだ。だからこの町にはほとんどお金は落ちない。一部の既得権益者が儲かる程度だよ。そのくせ重税を課されている。お蔭で町にもあまり活気が無くなってきてしまって、こんな有様さ」
「おい、誰に聞かれるか分からんぞ。そのくらいにしておけ」
隣に居た仲間らしき人が制止する。
「この国も二十年余りで大分様変わりしてしまったよ。とは言えこの町は他の町に比べればまだマシな部類さ。忠告しておくよ、外国から来たんなら悪いことは言わないからさっさと別の国へ行った方が賢明だよ」
う~ん……これは予想以上に現ルシファー政権の評判は悪そうだ。
『水揚げされた物資は』って言ってたから、きっとあの金持ちそうな見た目の外国人が持ってきたものも王都へ流れるってことなのね。
火の国の国民が不満に思っているのはひしひしと伝わってくるけど、旅人の私に出来ることは何も無い。
このまま不満が大きくなれば、先日王都が陥落した氷の国同様反乱などが起こって王位は簒奪され、政権も変わることだろう。
私は私の目的を果たすため、早々に王都へ行って『火の国への移住』を断り、アルトレリアに帰ろう。
ひとしきり町を散策したら宿に戻り、お風呂に……入りたいと思ったが、水が少ない国らしく宿泊施設にはお風呂が存在せず……
今日のところは就寝。
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