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第15章 火の国ルシファーランド強制招待編

第386話 海路を往く

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 火の国の端っこにある属国の町から船で、首都アグニシュの海の玄関の港町イルエルフュールへ向かっている。
 魔界の海は真っ暗闇だが、船に周囲を広範囲に照らす装置が付いており、船の周囲だけに限ればそれなりに明るい。
 ただ、海の水は光が反射してしまって、黒く見え、地球でイメージするような青い海とはとても呼べない。真っ暗な海に人工の光が反射している、そんな感じ。
 一定距離毎に船の航路上の目印にしてあるのか、海底に光源が置かれているようで、そのポイントに近付くと多少海が青く明るくなる。その上を航行している間は海が透き通って、魚たちが泳いでいるのも見え、とても綺麗に映る。

 そんな暗い海を航行している現在――

「……う~……気持ち悪い……」
「……気持ち悪いですぅ……」

 フレアハルトとレイアの二人は、船べりでうずくまって海の魚たちに餌を撒いている。 (※)
   (※魚たちに餌を撒く:アレな意味なので、分かる人だけ分かれば良いです/笑)

「数時間前には『船に乗るのは初めてだ! 楽しみだな!』なんてはしゃいでいたのに。レイアも『海ならしょっちゅう行ってるんで任せてください』って」
「……こんなに辛いものとは思っておらんかった……陸に居る時と全然違う……うぷっ……」
「……船に長時間乗るのと近海で漁をするのがこんなに違うなんて思わなかったんですよぉ……」
「まだロクに揺れてもいないのに……もし時化しけってきたら揺れも激しくなるからもっと大変よ?」
「嘘ですよね~!? 今ですら気持ち悪いのに!! ……うっ……」
「出発前、景気付けに肉をたらふく食ったのがマズかったか……うっ……」

「「オロロロロ……」」

 アリサが二人の背中をさすっている。

「アリサ! 何でお前は大丈夫なのだ!?」
「さ、さあ? なぜでしょう? わたくしも船に乗るのは初めてですし、分かりません」
「ズルイ! ズルイよ、アリサ!」
「そ……そう言われましても……」
「アルトラは何で大丈夫なのだ!?」
「さあ? まあきっと丈夫に出来てるんでしょう」

 人間時代なら普通に船酔いしてたところだけど、この身体に転生して良かったわ~。

「あとどれくらいかかるのぉ~?」
「順調に進めば丸々三日って言ってたよ」

「「三日っ!!?」」

「三日もこの状態を味わわないといけないんですか!?」
「もうダメだ! 降ろしてくれ! 我は降りる!」
「もう海へ出て四時間経ってるし、無理だよ……そのうち治まるって」
「本当に治まるのだろうな!? 二百年生きてきてこんな気持ち悪い感覚は味わったことがないのだぞ!?」

 そりゃまあ火山に長年引きこもってたら、乗り物に乗ることもなかっただろうしね……

「これが乗り物酔いってやつだから。慣れればそのうち落ち着くよ」
「そういえばサンドニオさんとレドナルドさんはどこへ行かれたのでしょうか?」

 二人の背中をさすりながらアリサが訊ねる。

「うん……船に乗った直後から姿が見えないから探してみたんだけど……何か船倉で働いてたんだよね……」
「どういうことでしょう? お二人もお客様ではないのですか?」
「そうなんだけど…………二人に聞いた話じゃ路銀が少ないから働いて船に乗せてもらってるとか」
「アルトラ様を招待するために火の国から使いで来た方々なのですよね? 国からの支給は無いのでしょうか? わたくしたちですら何らかの調査に出る時には金銀を多少持たせられましたが……」
「それも聞いたよ。でも微々たる額しか貰えてないそうだよ。つくづく変な国だなと思った。何だか気の毒になってきちゃったよ……最初火の国に行くのをあんなに拒絶したのも何だか悪かったなって……もうちょっと突っ込んで話を聞いたら、彼ら奴隷の身分らしくて旅費は碌に貰えてないとか」

 奴隷の身分なんて、魔界に来てから初めて見た。

「お二人が度々おっしゃっていた『わたくしども程度の身分では……』と言うのもそういうことなのですね。もしや……わたくしたちの旅費も彼らが道中働いた中から……?」
「この船代は経費になっているそうだけど、船を降りた後は基本的に徒歩だからほとんど経費には無いって。節約するために働いてるのかもしれない。乗船直後に何も言わずに消えたのも、ちょっとでも私たちに気を使わせないようにしたのかもね」
「ア、アルトラ様は正式に招待されているのですよね!? 他国の者を招待しておきながら、自分で来いということですか!?」
「うん、まあ招待と言う名の脅迫だったけどね……私が招待を受けないと彼ら殺されちゃうらしいから……」
「そんな話だったのですか!? 奴隷の身分だから招待に失敗したら即処分されるということでしょうか……?」

 ぐったりしながら聞いていたフレアハルトもそれには反応を示した。

「う……リーヴァントが……我らに護衛として同行してくれと頼んできたのも分かる気がするな……うぷっ……」

 と言うフレアハルトだが、今の状態の彼らが護衛として機能するとは思えないが……

「まあ……そういうわけで、今回は結構不便な旅になると思うけどよろしくね」

 とは言ったが、今まで便利だった旅があったかどうかを思い返す。
 そして小さく独り言をつぶやく。

「……今まで便利だった旅なんて無かったわ……私にとっては今回も平常運転だ……」

   ◇

 多めに吐いた後、二人ともぐったりして船室のベッドに横たわっている。
 船室は男女別部屋に分けてもらおうと思ったが、フレアハルトがこんな状態で、二人の看病はアリサが請け負ってくれると言うので、私が一人部屋へ移動することにした。

「ふぅ、何もやることが無いのも退屈ね」

 ゲートで我が家に戻ろうか。
 なんて考えたが、船の上にきちんと戻って来れるかどうか分からないので考えを改めた。
 今ここで我が家に戻って、再度船に転移した時に、そこに船は無く海上に出現してドボンなんて可能性だってあるし。
「ご飯時まで少し寝るか。ここのところ何もせずにゆっくりしたこともなかったし」

   ◇

 少し時間が経って――

「さて、二人は少しは良くなったかしら」

 自室を出て、三人に部屋に行くと――
 まだまだ何も治まってはおらず。

「アリサ、ご飯食べに行きましょうか。港に着く前に火の国の情報を入れておきたいから、火の国の二人も誘おうと思うんだけど」

 何せ今から敵地に乗り込むようなもんだし。

「しかしまだお二人が……」
「私とアリサは夕飯行ってくるけど、二人はどうする?」

 まあこの状態を見ると聞くまでもないが……

「………………いらぬ……食ったらまた吐く……」
「………………動くだけで吐きそう……いってらっしゃい……」

 船室のベッドで微動だにせず重くなった口を開く二人。

「じゃあアリサ、ご飯行ってきましょうか」
「し、しかしお二人を置いて行って、本当によろしいのでしょうか?」
「…………い、気にせず行って来い……もう吐くものも無いからしばらく大丈夫だ……」
「フレアハルトもああ言ってるし、食べられる時に食べておいた方が良いよ。船で移動の三日間二人の看病かもしれないし」
「三日間寝たきりなど冗談じゃないぞ! うっ……」

 フレアハルトが私の言葉に反応して飛び起きたが、すぐに吐き気を催してうずくまった。

「…………ほら……いつ不測の事態が起こるとも限らないしね」
「は、はい……ではフレアハルト様、行ってまいりますね」
「…………ああ……」

   ◇

 船倉に行き、サンドニオさんとレドナルドさんに声をかける。

「お二人さん、夕ご飯に行きませんか? 火の国について話も聞きたいですし」
「しかしまだ仕事が……」
「行って来て良いぞ。働いてもらってるとは言え、一応お客さんだからな」

 船員さんの言葉に甘え二人を連れ出す。
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