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第14章 アルトラルサンズ本格始動編

第372話 各国の大使館建設始動 その2(土の国の様相)

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 ヒュプノベルフェに入国してみると、中々に泥臭い国だということが分かった。
 鉱石や金属、魔石の発掘、石油などの燃料産業で成り立っている国のため、首都を外れるとあちらこちらで発掘作業が行われている。

 雨が少ない土地のようで、作物や食品関係は専ら輸入に頼っているようだ。
 生活水とかは、水量が少ないものの周囲の川から供給しているらしい。この地で宿泊してもお風呂は入れそうもない。せいぜいシャワーを浴びられれば御の字という程度か。
 道路は石畳で作られ、家々はほとんど石造り。かなり堅牢な造りでちょっとやそっとでは壊れそうも無い。木があまり生えていないためか木の家はほとんど見られない。
 明かりは魔石による魔力動力式回路で電気が作られているらしくかなり明るい。また、蓄光する鉱石があるらしく、それらを樹の国の光を咲かせる花ライトブルームのように町中に設置されているため、樹の国の第一首都ユグドグランよりは明るいといった感じ。
 熱については、各国同様そういう熱を生産する職業があるらしい。住居地域を外れると大分寒い。
 同様に水を生産する職業もあるにはあるそうだが、そもそもこの地に住む者の水属性への適正が低いため、各家庭でお風呂に入れるような水量は確保できないみたいだ。銭湯に似た共同浴場は街中にあった。

 木や植物は少ない所為か、荒涼としていて時折砂煙が舞う。
 首都近辺はきちんとした家が多いが、街から少し外れるとすぐに採掘現場に当たる。掘り出した採掘現場に簡易家を建てて住んでいる者も多く、首都は休日に帰るベッドタウンのようになっているようだ。
 他の街ではきちんとした宝飾店などでしか見なかった宝石が露店で売られていたりする。露店で売られている物はそれ相応に安く売られている。
 キラキラ光って綺麗ではあるが、それが高級品なのか粗悪品なのかは私が一目見た程度では見分けが付かない。極端な話、高級店で売られているものが粗悪品であっても、私には見分けが付かないということ。
 もっとも……高級品をこんな路上で売るわけがないからきっと安物なんだろう。この地では宝石が沢山出土するらしいから、多分模造品イミテーションということはないと思う。
 こんな光景は他の国ではあまり見られないということで、重要な観光資源になっているようだ。

 ちなみに、第一首都テアラースの周囲に展開されているこの第二首都ルガイアは、俗称で『外周』と呼ばれている。これはヴェルフェゴールの休眠能力が届かず、眠ってしまう中心から外れた外側だからという理由でそんな俗称になったとか。
 更に、外側と休眠範囲では技術的な遅れはほぼ無い。これは眠りから覚めた直後から物凄い早さで外周の技術に追いつくためだそうだ。起きている間の一週間で三ヶ月分の働きができるとか。
 更に余談だが、この『外周』はその時代の王様によって広がりもするし縮まりもするらしい。それと言うのも継承した王様と『怠惰スロウス』の大罪の相性によって、休眠範囲が変化するからだそうだ。
 堕天初期の頃のヴェルフェゴールの休眠範囲はとんでもなく広く、国土の四分の三ほどの者たちが眠りに就いてたとか。 (カイベル談)
 ここ最近の代替わりでは平均を百キロほどとして、それと前後するような範囲に落ち着いているとのこと。

 ドワーフの出身国ということで、機械技術に長けたドワーフが多数住んでおり、今まで訪れた国では見たことがなかった重機の類もこの国の採掘現場では活躍している。ちなみに機械工場で使う水については、水の精霊をどこかしらから招致し、国で重用しているとか。伝統的に水の精霊の招致は行われているらしい。ちなみに土の国では希少種。雨が降った時などに受肉し易いので、見かけたらすぐさまスカウトするとか。水を生産する職業も彼ら・彼女らが担っていることが多い。その分水を扱う職業は高給取り。

 住んでいる種族は、有名どころではドワーフに次いで、ノームやガーゴイル、ゴルゴーンのような土や石に関連する精霊や魔人、亜人が多く住む。宝石の精霊であるカーバンクル族もここに多く済む。額に宝石が埋まっており、常に光の粉のようなものを放ってキラキラしていた。
 ノーム族にはアイアンノームという稀少種族が居るという話だったが、それもここで初めて見た。それどころか聞いた話ではジュエルノームとかいう超稀少種もいるらしい。お目にかかってみたいがあまりにも珍しいため滅多に見られないそうだ。

「さて第二首都ルガイアを見て回ってみたけど、特徴はこんなところかな。長居するわけにもいかないから最後に規制線とやらを見てから帰ろう」

   ◆

 そういうわけで規制線のある場所を訪れた。
 規制線のある場所は言われた通り、一目でそれと認識できた。
 広範囲に光のカーテン……地球で例えるならオーロラに近いような形をした光の壁が見える。
 間違って入らないようにと、大袈裟に魔道具で境界を設けてあるらしい。

「この先に第一首都テアラースがあるわけね。それにしても――」

 規制線の先にある街並みは異様だった。
 亜人たちはもちろんのこと、動物、虫、この街では数少ない草花樹木に至るまで生物の身体が金属のように鈍色にびいろに輝いている。

「――何なのこれ……こんな状態でホントに眠ってるの……?」

 呼吸は? 生命活動は? 心臓はちゃんと動いてるの? 石化状態と似たような状態なのかしら?

 何でこんな現象が起こってるのか地元の誰かに聞いてみるのが一番早い。

「ちょっとすみません!」

 近くに居たこの街の住人にこの現象について訊ねてみたところ、『怠惰スロウス』の大罪の能力は、『ただ眠るだけ』というわけではなく、身体が金属質のナニカに覆われ、外部からの攻撃が一切効かなくなるらしい。
 太古の昔、当時の土の国魔王ヴェルフェゴールが眠っている間に、この地を滅ぼして自分の領土に組み込もうとした魔王が居たらしいが、休眠状態になっている魔王ヴェルフェゴールと、その影響を受けている民衆・その他の生物には一切攻撃が通じず諦めたという逸話があるとか。
 これらもレヴィから聞いていたが、まさかこんな状態で眠りに就いているとは…… (第116話参照)

 石像ならぬ金属像のようなものが、見える範囲だけでも複数人見受けられる。
 井戸端会議をしている奥様方、笑顔で走り回っている子供、散歩中の老紳士など、日常生活のまま固まってしまっているらしい。
 ただ、ヴェルフェゴールが入眠する時間が予測されているのか、洗濯物を外に干していたり、料理の最中だったりと、長期間放置していたらまずいという行動をしている者はいない。料理なんかしてる最中に固まったら火事になっちゃうかもしれないしね。
 家とか壁とか、そういった無生物的なものや、植物の本体から離れてしまった一部分 (枯れ木の枝や葉など)は“死んでいる”とみなされているのか、効果が影響しないらしく金属質に変化してはいない。“生きているもの”だけが対象みたいだ。

 中には休眠範囲に居たいという者もいるため物理的な壁ではなく、すり抜けられる光の壁で区切られているらしい。そのため休眠開始に間に合わなかった者たちの石像ならぬ金属像が効果範囲ギリギリのところに数体固まって居たりする。効果範囲に入った瞬間に金属化するらしい。

「ところで、目覚めたら一週間元気になるって聞きましたけど……ここにいる虫とか元気になられたら五月蝿くてたまんないんじゃないですか?」
「そこは大丈夫だよ。その“元気になる効果”は亜人以上の高等生物にしか効果が無いからね。虫たちにまで適用されていたら、きっと恐ろしい繁殖力になるだろうね。その辺りはきちんと考えられた能力ってことなのかな?」

 きちんと考えられた能力? 能力ってそんな都合良く変質できるものなんだろうか?
 大分都合の良い能力みたいだから後でその疑問をカイベルにぶつけてみることにしよう。

 ヒュプノベルフェの特徴的な部分を一通り見終わったため、アルトレリアへと帰還。
 各国からの返答を待つことになった。

   ◆

 大罪『怠惰スロウス』について。
 カイベルに聞いてみたところ、ヴェルフェゴールが魔界に堕天してきた初期の頃は全生物が対象だったらしく、虫は繁殖し放題、木や草も恐ろしい勢いで繁殖。動物に至っては狂暴化し、ある部分ではバクテリアとか菌とか微生物とかそういったものまで繁殖・活性化し過ぎて土壌の環境が悪化、毒の沼のような場所がそこかしこに出現したらしい。
 その当時は『怠惰スロウス』の眠りから目覚めたばかりの亜人たちの中の戦士に当たる者たちが凄い早さでそれらの駆除や討伐を、毒の沼化した土壌は焼尽処理を行ない、周囲の土と混ぜて正常化していたとか。
 長い年月をかけて能力が変質・調整されていき、今の形に落ち着いたそうだ。また、長い年月継承し続けられて、大罪の影響力が弱まったことも能力が変質した一因にもなっているらしい。
 つまり、今ヒュプノベルフェに生きている人々は、その虫や菌が繁殖しまくる地獄のような過去を知らない幸せな亜人ひとたちなのだろう。
 当時の王様と国民たちの苦労を思うと同情を禁じ得ない。
 もっとも、その頃はまだ多くの魔人が暴れていた群雄割拠の時代。法も秩序も無く国のていも成していなかったから、広範囲の者が眠り、そして目覚めた時に短い期間パワーアップする現象をヴェルフェゴールの能力の仕業だったとみんなが知るのはかなり時代がくだってからになるそうだが……


   ◇


 ――というのが二週間前の出来事。
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