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第13章 樹の国ユグドマンモン探検偏

第360話 樹の国魔王との謁見

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 謁見の日当日――

 九時にトリニアさんが迎えに来た。

「アルトラ様、お迎えに上がりました」
「はい、よろしくお願いします」
「アルトラ様~、俺っちたちはどうすれば良いんスか?」
「昨日のジゼルさんにお願いして、自由に行動して良いよ。観光してくるのも良いし、生態調査行くのも良い。ただ、マンイーターみたいな危ないヤツには注意してね」
「了解ッス」
「ああ、でも夕方の十八時頃、遅くても十九時には旅館に居てね、心配になるから。あと、迷ってここの亜人ひとたちに迷惑かけないようにしてね」
「……それは俺が手綱引いておくから大丈夫……」
「散々な言い様ッスね……」
「……お前は目を離すと行動が読めないから……」

   ◇

 トリニアさんに迎えの馬車まで案内されると――

「おぉ!?」

 迎えに来た馬車は、なんと天馬ペガサス

「トリニアさん! ペガサスの身体って馬車が引けるように出来てないんじゃないんですか!?」
「この馬車はペガサス用に特注された代物で、天馬車と名付けられてます。物凄く軽い作りをしている上、風魔法で更に浮力を付与してあるのです。エルフの技術 (紋章術)により作られた魔道具の一種です。普段は王様とその関係者しか使えない一品ですよ!」

 おぉ! 私のためにそんなの用意してくれたのか! 凄いVIP待遇だ!

 ペガサスの天馬車で王城へと向かう。
 馬車に乗って空から見る街並みは、普段自分で飛ぶのとはまた赴きが違う。
 ただ、前情報通りやはり馬車を引くための馬力が弱いのか、大分低空飛行ではある。

 マモンさんの住む王城のほとんどはユグドラシルの中にあり、木のうろ (※)のようになっている部分から入るらしい。
 更に王城の敷地はユグドラシルのふもとから根っこの終わる下部辺りまでで、それより上には観測所が設けられているだけで亜人ひとが住むところは無いそうだ。ああ、本来は木の下部に対して『ふもと』とは正確な言い回しとは言えないが、この樹ユグドラシルが山並みに高いことからふもとと表現した。
   (※木のうろ:木にある空洞になった部分)

「ユグドラシルの中を掘って王城にしたんですか?」

 ユグドラシルの周囲に、木を掘り出して作ったと思われる道が螺旋状に整備されている。馬車が通っても滑らないようにご丁寧にデコボコに形成しされている。

「いえ、ユグドラシルに樹魔法を使って、外部から木を同化させただけです。本体のユグドラシルには傷一つ付けていません」

 あ、そうなのか。じゃあさっきの『王城のほとんどはユグドラシルの中にあり』ってところは訂正。
 実際のところは、樹魔法で別の木をユグドラシルにくっ付けて王城の土台を作り出しているらしい。

 二角獣バイコーンの馬車で王城に行くには、螺旋状の道を走らなければならないため、登城する時間短縮のためにペガサスの天馬車を用意してくれたようだ。

   ◇

 ユグドラシルに着くと、巨大な木のうろのあるところで下車。
 うろと言いつつも、実際はドーム状になっていて、地面はほぼ平行に整えられている。
 私の頭上に木の内側が見えているという特殊性と木の中に城が建設されているという珍しさから、必要以上にキョロキョロと見回してしまう。

「この木のうろの奥が王城になっております」

 トリニアさんに付いて入城。
 今回は知り合いでも何でもないし、きちんと謁見の間のようなところでの対面かと思われたが……
 『疑似太陽』については秘密裏に事を運ばなければならないということで、今回の謁見も謁見の間のような広い場所ではなく、城内にある応接間での謁見となった。

 七大国会談ですら会うことが無かった王様である。
 どのような見た目なのかもさておき、こちらは全く知らない状態で会わなければならないのを考えると緊張してきた。
 応接間に通され、部屋で少し待つと白髪で中老 (※)ほどの男性が、若い女性に車いすを押されてやってきた。
   (※中老:五十代くらい)

「本日はご足労いただきありがとうございます。樹の国の王・マモンと申します。ゴホッゴホッ……病気故に、このような状態で失礼致します」
「いえ……お構いなく」
「ああ、他人に感染うつるタイプの病気ではないので、ご安心を」

 樹の国魔王マモンさんは事前情報で木の精霊と聞いていた通り、頭に花が咲いている。しかし、しおれていて元気が無い。病気に罹っている所為もあるのか、ほぼ枯れかけと言っても良い。こんなこと思うのは悪いことかもしれないが、あまり残りの命は長くないかもしれない。

「こちらは妻のエウリリスです」
「アルトラ様、エウリリスと申します。以後お見知りおきを」
「え?」

 驚きを思わず口に出してしまった。

「あ! 失礼しました!」
「驚かれたのは私と妻の関係でしょう? 私は木の精霊、対して妻はエルフですからな」
「え、ええまあ。異種族でも恋愛が成り立つのかなと少し驚いてしまいまして……」
「元々我ら精霊は子を残せるように出来ていませんので、彼女も了承の上で私の妻になってくれました。中には自身の分体を生み出して次世代に据えようと考える精霊もおりますが、私にはそこまでの力はありません」

 精霊って子を残せないのか……元々生物的な生態をしてるわけではないから、子孫を残せないってことなのかな?
 あ、こんなこと考えてる場合じゃない! きちんと挨拶しないと!

「あ、申し遅れました! 改めまして、お初にお目にかかります、新興国アルトラルサンズの国主アルトラ・ヒューム・地野チノと申します」

 ドレスのスカートを両手で軽くたくし上げて右足を後ろに下げ、少し身体を屈めて頭を下げる。

「どうぞお座りください」

 ソファに座らせてもらった。

「ゴホッ……まずはお招きしたにも関わらず、迎えを出すことができず申し訳ありません」

 この“迎え”ってのは多分“空間魔術師の迎え”って意味で言ってるんだろう。

「いえいえ! わたくしの方も森を歩く都合がありましたので。それに森を歩くのは結構楽しかったですし」
「ほう、それはそれは。ご都合の方は片付きましたか?」
「はい、それは問題無く」
「それで、今回お越しいただいた理由ですが……」
「『疑似太陽』のことだと聞いています」
「はい、このトリニアたちドリアード姉妹からの報告で、あなたの作った『疑似太陽』がとても心地の良い光と伝え聞いています。国民への周知も昨日までの間に済んでおりますので、アルトラ殿の方に不都合が無ければすぐにでも作っていただければと思います」
「それで、どの規模の太陽をお望みなのでしょうか?」
「ゴホッゴホッ……規模とは?」
「例えば、第一首都ユグドグラン内を照らすものなのか、ユグドの大森林全体を照らすものなのか、照らす範囲の規模です。ユグドグランだけに限るなら明るいことは明るいのですが、樹の国の属国や大森林に住まう者はほぼ恩恵を受けられません。またユグドグランだけに限りますと疑似太陽との距離がかなり近くなってしまうため、日が陰る時間はより強く影が出来ます。光を咲かせる花ライトブルームとの兼ね合いにもなりますが、日が落ちる直前は今よりも暗く感じるようになる可能性もあります。対して大森林全体を照らす場合は、木々で光が遮られて薄暗くはなりますが、大森林全体が恩恵を受けることができます」
「ほう、なるほど。規模の問題があるのですね。それはもちろん……樹の国全体を照らすものにしていただきたい」
「え!? ユグドの大森林だけでなく!?」
「ええ、首都だけを照らすより、恩恵を受けられる者が少しでも多い方が良い。もちろん可能であれば……ですが」

 そっか、樹の国って何も大森林の範囲だけが樹の国ってわけじゃないんだ。森林以外にも国土がある以上、森林の外側にだって住んでる亜人ひとたちがいるんだ。そこまで気が回ってなかった。
 そして『自分たちだけが良ければ良い』とは考えず、国全体を考えている。まさに賢王だ。とても『強欲グリード』の大罪とは思えない考え方。
 もしかしたら、『国民全部が自分のもの』。だから国民の利益になるようにと考えているのかもしれない。これも『強欲』のうちってことかな。まあこれは私の考え方だから、本人がそう思ってるかどうかは分からないけど……

「分かりました。では目星を付けて、国全体を照らせるような場所に設置したいと思います。トリニアさん、ちょっと手伝っていただけますか?」
「? わたくしにできることがあるのですか?」
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